ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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前日譚があるんですから……後日譚があってもいいですよね?

という事で本作最後のお話、後日譚開始です。お待たせ致しました。
前話の後書きの書き方が悪くて申し訳ないです。

元ネタ無しの完全オリジナルなので不安が拭えない……。
本話は本章の説明が含まれますので長め(多分過去最長)になります。


既に原作が終わった後の話なのでお祭り状態です。
ひと夏の冒険の後のひと騒ぎをお楽しみください。

今回もよろしくお願いします。


後日譚 虹色の夏のさなか ~あの冒険の日の約束を~
117. 819日目① 「祝日」なる祭りに備えよ


クーケン島っていう、なんてことない島の、

ラーゼンボーデンっていう、なんてことない村。

そこで、結構すごいと自認するあたしは暮らしている。

 

……なんてことない日々を守ろう、と奮闘しながら。

 

あたしは、ライザリン・シュタウト――通称はライザ。

なんてことない農家の娘で――錬金術士。

 

そんなあたしは、今日も今日とて『アトリエ』での出会いで得たものと、

錬金術で学んだことを、胸に抱く。

 

この、退屈でなんてことない光景に秘められた、

どこにでもある痛快で素晴らしい一日を、また始める。

 

青くて深い夏の空を、遥かに遠く、仰ぎ見なが……

 

 

 

 

 

 

「――イザ、 エルツ糖の在庫ってあと何袋あるかな?」

 

ふおっ!? えと、え~っと……まだもう少し?」

 

「5袋です、店長。今朝のペースのままなら……ああ、そうだったんでした。失礼を」

 

「明日は島外じゃ祝いの日らしいからねえ。ここも感謝祭というなら多めの見積もりさね」

 

「何にしてもストックは必要です。早めにオーナーに準備して頂きましょう」

 

「ストック以外にもスペースの配置とか、何個かプランを詰めておかないと」

 

「そうですね、見積もりは……ライザ、今日中に30袋分は作ってくれるかな? ジェナさんはピーターさんに広告の確認を。バジーリアさんは一先ずいつも通り滅菌に入ってください。セリさんは後で開発案をお願いします。アガーテさん達にも来ていただいて議論しましょう。プランについてはエルマー君の言う通りだね、いくつか立ててはあるけれど同時運用は……」

 

「承知しました。遅れているようならしばいてきます」

 

「他の乳製品類のストックも改めて見ておこうか。他所からもかき集めなきゃかもだしねえ」

 

「分かりました。明日も快晴の風の気配ですから、祝日なのを考えると……」

 

「いつもより多いのは間違いない。学び舎の椅子とか使えるよう母さんにもう一度確認しとく」

 

「戦争ってやつだね……せっせと調合しましょうか」

 

 

 

ここはロテスヴァッサ王国、クーケン島。ラーゼンボーデンって村にある旧市街。

その一角に建つ建物――「エルリック菓子工房」。

 

 

 

そこがあたし、ライザリン・シュタウトの仕事場だ。

 

 

 

あの冒険が終わった際に諳んじてたセリフを思い出してる場合じゃないね、しっかりしなきゃ。

 

一応、というかここのオーナーはあたしなんだから。

 

 

 

 

 

 

ひと夏の冒険、あれから季節はめぐり――二巡目の夏がやってきていた。

 

 

 

あの夏はそのまま農家の娘に戻って、家事もやるようになって。

杖は適当なのを作って護り手にも参加した。島周辺でシーカーは戦力過剰もいいとこだ。

島の中では戦闘経験がある方だったし、島を守れてるって実感もあったしね。

 

一緒に活動してたのは勿論アガーテ姉さんと……なんとランバーだ。

律儀に身体を鍛え続けてたらしい――そのうちレントみたいなのにならないわよね?

 

それから、学び舎でシンシアさんと一緒に子供達のお世話もしたりだ。

少しは変わったクーケン島だけど……相変わらず古臭い習慣も残ってたりするからね。

その辺を必要な事だけ噛み砕いて、色んな事を勉強して体験しようってお話をしてる。

子供達が変わっていってそのまま大人になってくれれば――クーケン島も変わるはずだ。

 

収穫期が過ぎた後は農業をしつつ、アトリエにも足を運び始めた。

だけど……あたしが調合出来て、島の皆に必要そうな物って雑貨くらいしかなかったりする。

 

アイテム類は強力過ぎるんだもん。爆弾だの万能薬だの売るわけにはいかないしね。

簡単な便利グッズ――まあ農作業道具とか肥料とか紙とかエサとか保存食とか、そんな感じ。

元々この工房でやってた事にちょっと色を付けるくらいで営業だ。

 

島の日常を守るのに……魔物対策や賢者の石なんて必要ないんだから。

 

時たま中枢にも足を向けて問題ないかは確認してる。

はっきりとは分かんないけど、錬金術的に大丈夫かくらいは分かるからね。

数字だけは読み方を教えてもらったけど、未だにカンスト(表示不能)から数字が変わった事はない。

 

勿論対岸の拠点の掃除もだ――あっちもあっちでやっている事はあるからね。

設備は当時のままだから、それなりに色々と効率よく出来るのである。

 

 

 

そんなわけで殆ど島に居て……大体1年半くらい? 結構真面目な生活を続けて。

年が明けた大寒の最中、事態は急変した。

 

――クラウディアがクーケン島に帰って来たのだ。しかもたった1人で。

 

「ちゃんと約束、果たしに来たよ!!」

 

「寒くないのは分かったけどちゃんと防寒着は着ようよ!?」

 

前より大人っぽい服装にはなってたけど――どう見てもペラペラだよ! この季節に肩出し!?

半袖なんだから冬服じゃないよね!? スカートのスリットも()っか!

もうクラウディア自身が冬と化してんじゃない……?

 

 

 

取り敢えずアトリエでココアを出して、色々とおしゃべりをして。

顔も身体も髪型も大人びたクラウディアが満面の笑みで――2枚の紙を見せてくれた。

 

片方は、バレンツ商会とクーケン島との交易担当をクラウディアに任命するって辞令。

実際にはこっち方面全域の商会関連の行商を取り仕切る事になってる、とのお話。

あれから滅茶苦茶勉強したらしくって、経営とか社交とか駆け引きとかを身に着けたらしい。

 

つまり、ルベルトさんが折れたんだね……頭を抱えるルベルトさんの姿が目に浮かぶなあ。

 

で、もう1枚の方は。

 

「ええっと……菓子製造調理資格免許証?」

 

「うん! この国でお菓子を作ったり販売したりするのに必要なんだよ?」

 

以前のように子供が細々と作って販売するくらいならともかく、バレンツ商会の名の下に正式にお店を開こうとすると「免許」なる物が必要になるらしい。

筆記だの実技だの試験をやって国に認められれば貰える――宮廷錬金術士みたいなもんかな?

以前タオが受けた学園の試験のお菓子とか営業版みたいなもんだよね。

 

これがパティシエ関係の物って事は分かる。

――つまりは。

 

 

 

「お店やろう! ライザ!」

 

 

 

という事だ。

 

 

 

なんでも王都にいた時は勉強しながらお菓子屋さんで働いて、更に腕に磨きをかけたらしい。

そっちのお店でも結構な立場に居たらしいけど、独立って形で辞めて。

元々クラウディアが声をかけて一緒に仕事してた人達とクーケン島でお店を開くつもりだって。

 

ただ……作って販売する為の許可証があっても、場所の確保とかは当然必要だ。

この島の場合なら最低でもモリッツさんに話を通す必要もあるもんね。

 

島に1人で来たのはその為の会合と……勿論再会もあるけどあたしにも話があったから。

 

なにせ店舗を開く予定の場所は「エルリック工房」――つまりはあたしのアトリエなのだ。

クラウディアの使ってた調理器具も残ってるし配置も分かってる。使い勝手もいいもんね。

 

一応あたしは登記の書類を持ってるから、実質ここの所有者って事になる。

クラウディアが開くお店に反対するなんて事はありゃしない。ノータイムで確定だね。

 

 

 

ついでに……クラウディアがモリッツさんの所に向かう前にあたしも服装をチェックされた。

上から防寒着を着てはいたけど――中身はあの夏の頃と変わんなかった。何故バレたし。

 

実の話、上下ともかなりパッツンパッツンだったりはした。特に下側は裂けかけてたもんね。

……太ったわけじゃないよ!? 単に成長しただけだからね!?

 

――そんな状態を見られちゃったから。

 

「ダメだよライザ! ライザももう大人なんだよ!? ならそれに相応しい服にしなきゃ! とにかくサイズだけでも合わそう?」

 

と、何故かクラウディアが持ってきていた服に着替える事になった。サイズぴったり……。

一応背とかもちょっと伸びたんだけどなあ。クラウディアも同じくらい背が伸びてるから?

布地面積が増えたから夏は暑そう、なんて思ったけど口にしたらお説教されそうだ。

ただ……これもどっちかって言うと夏服の気がするのは間違いかな?

 

まあ、あたしもあの夏から髪を伸ばして……今じゃ背中の真ん中くらいまで長さがあるんだし。

イメチェンにもよかったよね。

 

 

 

あたしも一緒にモリッツさんに話を付けがてら、以前お世話になった人達にも声をかけていった。

――あの夏のお菓子屋さんを改めて開くから、働いてくれるつもりはないかって。

 

その話に最初に乗ったのがジェナ、バジーリアさん、たまにロミィさん。そしてなんとエルマー。

 

お菓子屋さんって男の人が入りづらいらしいからエルマーの参加は万々歳だった。

加えてジェナのお父さんのピーターさんが、娘の手によってタダ働き同然で広告担当となった。

ジェナが「アレにお給金は不要です」って――クラウディアさえ気圧されたっていうね……。

 

勿論あたしとクラウディアは止めたんだよ? だけど……ピーターさん自身「ネタが尽きない!」という事と、娘に構ってもらえるって事でそうなってしまった――それでいいんですか?

後は更に王都から連れてくる人を合わせて、夏からお店を営業する事となったわけだ。

 

 

 

とはいえ、ここは辺鄙な土地だから外からお客さんが来るか心配だったんだ。

クーケン島に来る観光の人の数が目に見えて変わったなんて事はないし、なにせ都会から遠い。

でもクラウディアは「大丈夫だよ!」の一点張り。何処からその自信が来るのかな?

 

 

 

――その自信の正体を知ったのは、もうちょっと後の事になった。

 

 

 

開店準備を進める啓蟄(けいちつ)の頃。とある手紙がなんとボオスから届いたのである。

手紙の内容は――クーケン島に大量の観光客が行くかもしれないって事。

 

その原因はボオスとタオで、黒幕は……恐らくクラウディアだ。

 

 

何でそんな事になったかというと。

 

 

王都で「歌姫」って呼ばれてる人の歌のお祭りが少し前にあったらしい。

とっても人気のある人らしくて沢山の人が集まったそうだ。

 

普通に歌で盛り上がってる分には……島には関係ない話だったんだ。

問題は「アンコール」っていう本来は歌わないらしい特別な最後の曲。

大層盛り上がったらしい。楽しそうで何よりだよね。

 

ただ……聴いていた人達曰く「何処かにモデルがあるんじゃ?」という噂が流れていたらしい。

これが何処かを予想するのが王都で流行ったんだとか。

 

で、世間の流行を知らないボオスとタオがその「虹色の夏」という曲の歌詞を聞いて……。

 

「屋根裏の部屋……退屈を(うれ)いた日々……夏。まるでライザだな」

 

「そうだね。じゃあこれってクーケン島の話なのかな?」

 

という話を学園でポロッと漏らしてしまったらしい。

周りの人達に問い詰められた2人は吐かざるを得なくなり――そこから話が一気に広がったのだ。

 

そして時を同じくして。

バレンツ商会がクーケン島に新しくお店を開く事を王都で宣伝してたらしい……。

更にあたしは気付いてなかったんだけど、いつの間にかクーケン島への定期便が就航してて。

……護り手を続けてたら流石にあたしも知ってただろうに。

 

 

 

――何もかもタイミング良すぎるよね?

 

 

 

加えてその歌姫さんとクラウディアは知り合いって――確定じゃんか!

クラウディアには「何の事かな?」って若干黒い笑顔ではぐらかされたけどさ!

 

ボオスの手紙を読んだ限りじゃ、その歌姫さんにあたしも会ってるはずらしい。

まあ……屋根裏部屋の話に元ネタがあるならあたしの部屋の可能性は高いよね。

 

だけど……あたしはそんな人と会ってないはずなんだよなあ。

結構話が弾んだと言えば――クーケン島に来る旅行者としては珍しいタイプの人がいたね。

どこか不思議な雰囲気を持っていた女性。望郷岬で出会って島の案内とかをして。

あたしと結構ウマが合ってすぐに仲良くなって、あたしの部屋とかを見せたりしたのはあった。

 

でも、その歌姫さんと名前は違ったよ? 確か……。

 

 

 

まあとにかく。この一連の仕込みでクーケン島の知名度は跳ね上がってしまい。

モリッツさんは勿論許可を出して、あたしもOKを出す。

 

ただ店舗自体はあたしが所有者であって、クラウディアもオーナーになる事を固辞したから――あたしがオーナーのまま、クラウディアが店長兼パティシエールを務める形で話が進んだのである。

ついでにここがバレンツ商会のクーケン島周辺の拠点にもなってる感じだね。

――あれ? いつの間にかあたしもバレンツ商会の人間になってない?

 

で、実際にお店を切り盛りするスタッフさん達が王都から来て。

島の老人共、特に古老がゴネるかと思ったんだけど……とある理由であっさり解決しちゃった。

 

その理由は、そのスタッフさんの中になんとオーレン族がいた事。

 

2年前、とあるオーレン族の女性を孫のように可愛がっていた古老。

だから似た雰囲気があるそのスタッフさんの存在に二つ返事で許可が出た。あのジジイめ。

 

そのスタッフさん――セリさん曰く「王都に居た際に店長にゆうか……誘われて」との事。

クラウディアがオーレン族やオーリムを知ってた事も信用するに値したらしい。

 

とは言っても――クラウディア、ちょおっとやり過ぎじゃない? 誘拐って……。

 

 

 

 

 

 

というわけであたしの懸念は杞憂と消えて。

準備と根回しがしっかりされたお菓子屋さん「エルリック菓子工房」は夏の初めのオープンからしっかりと売り上げを伸ばしている……3日であたしのアトリエの総利益を超えたんじゃない?

 

クラウディア曰く、ここの設備は王都に引けを取らないらしい。流石は魔改造の代物だ。

その辺の初期投資はかなり削られ、後は人件費と材料費を何とかすれば結構な利益なんだって。

 

人件費の削減はあたしの錬金術を使って輸送費だの加工費だの保存費だのなんだのも併せて絞りに絞って達成し、実家の農場で仕入れ値とかを浮かせてる感じだね。

 

一方でクラウディアは文字通り死ぬほど働いてる……めっちゃ生き生きとしてるからいいけどさ。

交易も担当してるんだよね? ――いつ寝てんのかな? エリキシル剤が必要にならないか心配だ。

 

 

 

他の主なメンバーはと言うと。

 

しっかり者のジェナは管理関係担当。数字に強くて品質とか在庫とか客層とかしっかり見てる。

ついでにピーターさんを動かして広告やメニュー表とかも作ったりしてる感じだ。

クラウディアの経理の補助もしながら次をどうするか考えてる――ハイスペック過ぎ。

 

バジーリアさんは家の酪農の事もあるから半常駐って感じだね。メンバーで唯一の主婦だから料理経験は豊富で、加えて島の味を良く知ってるから島好みの味に調整する為のアドバイザーも兼任。

井戸端会議で評判も確認してくれてる感じだね。こういう情報は調べても分かんないもんだ。

 

セリさんは開発担当。なんでも植物にムッチャクチャ明るいらしくて、クラウディアすら知らないような果物や野菜の使い方を知ってるから色んな可能性を試してる感じだね。

ただ、あまりにも使う食材がマニアックだとあたしが採取してくるのがちょいと大変……。

 

ロミィさんは行商を続けてるから非常勤。だけどこっちにいる時はお菓子を賄いにするって条件でフロアとかをやってくれてるし、島外の評判を教えてくれたり行商の際にピーターさんが作ったチラシを各地で配ったりもしてくれてる。大助かりだ。

 

そしてエルマー。まだ12歳だけど唯一の地元男性フロアスタッフとして仕事をしてくれている。

学び舎では昔のレント達を思い出す兄貴分みたいな感じだ。ちょっと寡黙気味かもだけどね。

1人でも男が居ればそれなりに男性のお客さんも入りやすくなるし、子供の感覚で「このくらい甘い方がいい」とか「こっちの方が目に付く」とかの助言は結構重要なのだ。

 

 

 

この辺がオープニングスタッフ――幹部級だ。他にもスタッフさんは勿論いるけどね。

 

本来の店主がいない今、店の敷地を拡張するのは不可能だからそこまで店も大きいわけじゃない――いや、それが当たり前なんだけどさ? あたしも感覚がおかしくなってるね。

 

それでも毎日しっかり客入りはあって、クラウディアとジェナの見積もりの下にほぼ過不足なしで売り切っての営業を続けられている。

 

 

 

 

 

 

で、問題となりそうな明日の祝日を迎えようとしているのだ。

 

お店としても明日は「感謝祭」という事でいつもよりちょっとお安く、新しい商品もって感じに。

ちょこちょこ詰めてきてはいたけど、明日の本番に向けて最後の洗い出しって感じだね。

 

ただ……何に対する感謝なのか分かんないんだよね。

クラウディアは「ライザにだよ!」って――あたしに感謝して商品安くしていいの?

 

島では関係ないけれど国としては祝いの日。つまりお仕事や学業がお休みの日であり、更に学業関係はこの日を起点に長期休暇に入るらしい。

つまり、子供連れの家族の方とかも王都のウワサを元に定期船に乗って島に来るわけだ。

 

 

 

「でも……流石にどのくらいの方々がいらっしゃるかはキチンと見積もりが付かないね」

 

「クラウディアでも?」

 

「キャンペ……王都でのお話の広まり方が予想よりかなり早いから。あっちにいた時もこんな状態は経験がないからね。今日を半日営業にしておいて正解だったよ」

 

言い直す必要ないって。もうバレバレだから。

 

「ショーケースは普段使いしていない分も全て開放するとして――家族連れの方の傾向が分からないですね。店内で食べられる方と持ち帰りの方の比率も……エルマー、どう思う?」

 

「値が張るのは観光するのに合わない。手頃の小さくて食べやすい系がメイン――でも見映えがいいやつ、かな。アスラ・ドーナツは駄目。この店らしさがないし王都の人には珍しくもない」

 

「そうだねえ、一見さんが多いなら見た目のインパクトと価格勝負になるだろうさ。理想的な稼ぎは難しいだろうから薄利多売気味の構成になるんじゃないかい?」

 

「手の付けやすさは大事ですね。ですから比較的原料を同じ物で済むような商品でスペースを取って、補充が利くようにすればいいのでは――在庫切れだけは絶対に避けないといけませんし。果物のストックを見つつデコレーションを変更する形なら、少しは臨機応変に出来るかと」

 

皆しっかり考えてる……話に付いていけないなんて言えないけどね。

ジェナとエルマーは何歳だったっけ? 幼馴染の子供同士の会話じゃないよ?

 

「ライザはどう思うかな?」

 

大体皆に言われちゃってるけど――そういえば。

 

「島の観光だっていうなら……持ち運びがし易い物が良いんじゃないかな。映えを考えるなら――ケース分はスタッフさんにほぼ振って、手間だけどクラウディアが久々にクレープをやるとか?」

 

「クレープ……確かに暫くやっていなかったね。1日私が拘束されちゃうけどそれもアリかな?」

 

「なるほど、その手が……ケース分についてはマニュアル化もほぼしてありますから品質もそこまでブレないかと。あまり採りたくない手ですけど抜き打ちでの確認もしましょう」

 

ジェナ……貴女ホントに何歳だっけ? 12歳頃のあたしが如何に遊び惚けてたかよく分かる。

 

それは置いといて……クレープは焼くのが難しいから、事前準備が可能かつクラウディアの時間を取れる時に限ってた。でも今回はそっちを優先にしてもいいと思うんだ。

目の前でお菓子が出来てくのってワクワクするしね!

 

バーの店長さんに氷菓子(アイス)の話もしとかないとかな――あの味はあそこでしか出せない。

前にクラウディアと一緒に頂いた時から更に改良が加えられ、遂に店長さん自身も納得できるものとなった逸品。今のクラウディアでさえ再現不可能な代物で頭を抱えてるっていうね。

 

クレープをするならアレは必須、だからその時はお願いして買い取らせてもらってる感じだ。

とは言え……祝日ならあっちの都合もあるんだから、クライトレヘルン(超氷爆弾)を渡して生産量自体を増やしてもらう感じにしないと迷惑かかっちゃうね。頼みついでに渡しに行こう。

 

「……うん、そうだね。明日の私はクレープ専門でやろうか。ホールケーキ系とコストが高めの物はスペースを絞って、積み方やデコレーションを変える形の物を多めに。後は持ち運びしやすい小さめのメニューを主体に準備をしましょう。後でリストを渡します」

 

「エルツ糖以外で必要そうなものはある?」

 

この話をしながらもあたしは調合中だ――最近はそれなりに効率もよくなってきた。

作業場は会議室も兼ねてるからね。話を聞きながらでもあたしは作業が出来るのだ。

 

「原料系の小麦粉や乳製品系のストックは……大丈夫だね。レヘルン(氷爆弾)はこの間入れ直してもらったし……調合品よりは果物類とかかな。特にクーケンフルーツは絶対欲しいからね」

 

「クーケンフルーツならカールやミオに話をしておくよ。ライザのお手製とは別に要るだろう?」

 

「クレープをするのであればトッピングの種類を持ちたいですから、全体的にストックしておきたいところですね。ライザさんに私が同行する形であちらに向かいましょうか」

 

調合じゃなくて採取系か。どうあがいても時間がかかっちゃう――投擲されるわけにもいかない。

 

クーケンフルーツはうちの農場でも作ってるからいいとして……試験的に作ってる他の果物とかは対岸の拠点の畑まで行かないと。クーケン島で栽培すんのはかなり難しいんだよね。

場所が島の外である以上、採取に向かう時は戦闘が出来るあたしかクラウディアの同行が必須だ。

クラウディアの時間を取るわけにはいかないから必然的にあたしかな。ジェナを連れて……。

 

 

バァン!

 

 

「はぁ~~い! ろーみぃさんで~すよ~!」

 

勢いよく作業場の扉が開いたかと思えば――明日の救いの手が!

 

「ロミィさん、おかえりなさい。明日の祝日はこちらで?」

 

「そのつもり~。行商していても買ってくれる観光の人は少ないし、多分ここの手も足りなくなるじゃん? こっちに帰って来るまでの間にも喧伝的な事はしてきたよん」

 

「流石はロミィさん! 先読みの深さはアラs」

 

あ゛ぁ?

 

「イエナンデモアリマセンスバラシイセンケンノメイデスッ!」

 

「なんでライザはこう、ヤブをつつくの?」

 

「ライザさんだからだよ」

 

「私達にとっては皆ほんの子供に過ぎないのですけれど……」

 

大蛇さんに見られた時より息が詰まったかもしれない。

なんかこう、ポッと出ちゃうんだよ。エルマーもそのうち分かるよ。ジェナは見捨てないで?

そしてオーレン族と一緒にしないでください。

 

「まったく……ロミィさん以外にも使い物になりそうなのを連れて来てあげたのに」

 

「えっ?」

 

「うちの商会の者ですか?」

 

「違う違う。でも――ライザとクラウディアちゃんにとっては使い勝手がいいんじゃない?」

 

そう言って、ロミィさんが横にずれると……。

 

 

 

「――久しぶりだな、ライザ。相変わらずやかましい様だ」

 

 

 

この減らず口は。

 

「――ボオス!?」

 

「ボオス君、お久しぶり。3カ月振りくらいだったかな?」

 

「ああ。クラウディアに仕込みをやらされた時だったからな」

 

「何の事かな?」

 

「笑顔に黒さが滲み出ているぞ。まったく……」

 

同じ王都にいた時期もあって、クラウディアとボオスの親交も進んだらしい。

キャンペーンという名の仕込みの被害者だもんね。

で、ボオスが来たって事は――もう一人後ろにいるのは!

 

 

 

「――やあライザ! 元気だった? 随分髪を伸ばしたんだね」

 

 

 

…………?

 

黄色い髪に眼鏡の青年。ここまではまだいい。

どう見てもあたしより高い背、比較的サッパリな髪型、アウトドア系の服、若々しい男性の声。

あたしの知ってる人物と、一致しない――うん。

 

「――誰?」

 

「ちょっ!? 何言ってるんだよ!! 僕だよ僕! 忘れちゃったの!?」

 

「ここで働いている間に頭が腐ったのか?」

 

「ううん。これは多分元々だと思うかな……」

 

いや分かってるよ! 現実を受け止めんのに時間かかったの!

クラウディアは何のフォローにもなってないから! 寧ろ抉ってるよ!?

 

「いつの間にそんなに背が伸びたのよ――タオ。声まで変わっちゃって」

 

「ああ、ちゃんと分かってたんだ……島を出てから程なくだよ。よく歩くようになったからかもね。声はまあ、僕も17だし。クラウディアも久しぶりだね」

 

「うん。お久しぶりだよ」

 

「ボオスは2年経ってもちっとも変わってないじゃん。タオが変わり過ぎなんだよ」

 

「俺はもう20だぞ? 今更そんなに変わってたまるか。ロミィ(三十路前)を見てみろ」

 

そんなに湖に沈められたい? ボオスちゃぁん?

 

ロミィさんからの圧がヤバい。

……うん? まだもう一人後ろにいる?

 

「あの……私はここに入っても大丈夫なんでしょうか?」

 

「ああ、ゴメンよ――もう一人連れて来たんだけどいいかな?」

 

タオがその子を促す……うん、この子は絶対に見た事が無い。

 

 

 

2年前のタオくらいに小柄な女の子だ。ラビットツインにブルーグレイの髪と瞳の色。

ショート丈の黒いノースリーブワンピースにピンクのアウター。

クラウディアとは方向性が違うけど、間違いなく都会の服装ってのは分かるね。

 

 

 

「貴女は……アーベルハイム家の御息女の」

 

「はい、パトリツィア・アーベルハイムと申します。こうして顔を合わせてお話しするのは初めてですね、クラウディア・バレンツ商会常務」

 

クラウディアは知ってるらしい。タオが連れて来たんだし、やっぱり王都の人だよね?

 

「クラウディアのお知り合いなの?」

 

「うん、王都貴族の方だよ。パトリツィアさんのお父様とは何度かお話の機会があって、タオ君もその時に紹介したんだよ」

 

「お邪魔致します……貴女がライザリン・シュタウトさん、でよろしいですか?」

 

「あっはい。ライザでいいですよ? 皆そう呼びますから」

 

「私もパティで結構です。タオさんからお話はよく伺っています――とても元気な方だとか」

 

余計な事を喋ってないでしょうね?

 

「王都でも有名な資産家の方ですよ。騎士もされていたはずです」

 

「……ジェナかい!? 大きくなったねえ。詳しいんだね、今は僕が家庭教師をしているんだよ」

 

「へえ、タオが家庭教師かい。勉強していた甲斐があったもんだねえ」

 

「バジーリアさんもお久しぶりです。そうですね、お陰で今は助かってますし……やあエルマーも。シンシアさんはお元気かい?」

 

「久しぶり、タオ……俺ももうじき身長伸びるかな」

 

「身体を動かしていればエルマーもそのうち伸びる。学び舎に籠っているわけではないだろう?」

 

確かタオは特別待遇とやらを受けられてるんだっけ。学園の中でも頭がいい部類なわけだ。

でも……。

 

 

 

「――家庭教師? タオの彼女じゃなくって?」

 

「わ、わ、わぁ、わたわたわたわたしがっ! たおっさんのっ……か、かっ、かのっじょ、なんて、おそれおおいですっ!!!

 

「パティ、大丈夫かい?」

 

 

 

成程、確かに彼女ではないらしい。

――タオ! 気付いてやんなさいよ、分かりやすすぎでしょうが!! 沸騰してるじゃん!!!

 

「パティはずっと勉強ばかりだし、王都に居たままじゃ息も詰まるかと思って誘ったんだよ」

 

「はっはひっ! この度は、ありがとうございましゅっ!」

 

「見ていると馬鹿馬鹿しく思えてこないか?」

 

「同感だわ。珍しく気が合うわね」

 

「パティさんには色々と立場があるから……」

 

貴族の人に会うのは初めてだけど、クラウディアがそういうんだから大変なんだろうなあ。

 

「……店長、オーナー。そろそろ明日の準備を」

 

「あっそうですね、ごめんなさいセリさん。それでは各自、業務に戻りましょう」

 

「ジェナも一旦こっち側での仕事をお願いするね」

 

「「「「はい」」」」

 

いけないいけない。一応ここのツートップが全体の仕事を止める原因になっちゃ問題だ。

 

「……オーナー?」

 

「何よ?」

 

「いや、ライザがオーナーをやってるのは知っていたけど、ホントにやってるんだって僕も思ったよ。ここを継いだのは聞いていたけどさ」

 

「経営の「け」の字も知らんライザだぞ? クラウディアが過労で倒れなきゃいいが」

 

ぐぬぬ、そこは否定できない……。

 

「ロミィさんはどうしよっか?」

 

「明日はクレープをする予定なので、その際の売り子をお願いしてもいいですか?」

 

「おっ! 久々じゃぁん、盛り上がりそうだね。ピーターさんがチラシ作ってるんでしょ? クレープやりますって書いてこよっか。バーのおっちゃんにも話するんだよね?」

 

「ありがとうロミィさん! あっアイテム渡しといてもらっていい?」

 

「あの氷ね。代わりに明日の賄いは私も沢山食べさせてもらうからね~。んじゃまた後で!」

 

飄々としてるけど――やっぱり頼りになるなあ。

ロミィさんの反応を見た限りクレープをやるのは良い判断みたいだ。

 

「それじゃあライザ、また後で。採取をよろしくね」

 

「あっうん。採ってきたやつはいつも通りレヘルン箱に閉まってジェナに伝えればいいね?」

 

「うん。私はクレープの支度を指示しに行ってくるね」

 

クラウディアも作業場を去り。

 

残ったのは――あたし、タオ、ボオス、パティさんだ。

 

 

 

「……おいライザ。あのセリという店員は……?」

 

「お察しの通りオーレン族の人よ。クラウディアが王都で拉致ったんだって」

 

この前(キャンペーン)の事もそうだけど……随分とアグレッシブになったね、クラウディア」

 

「あの若さであれだけのやり手の方なんて、そうはいません。私達の間でも有名ですよ」

 

どの方面で有名なんだろう? ――商会面か仕掛け人か氷のフルート奏者か。

 

「あの2人の事は?」

 

「顔見知りじゃないみたいね。氏族も違うらしいし」

 

「ええっと……白牙(はくが)氏族でも霊祈(れいき)氏族でもなくって?」

 

緑羽(りょくば)氏族だって。バニラの葉の名付けでケンカした人達がいたでしょ? ……あータオはあの場に居なかったんだったっけ。「太ももムチムチのオーレン族」で分かる?」

 

「あの方も……なんというか、漂わせている雰囲気と露出度合いがミスマッチ過ぎて」

 

そう。多分ルベルトさんやパミラさんに聞いた「太ももムッチムチの人」がセリさんだ。

――オーレン族はスタイルがいい人しかいないのか? なんと羨ましいことか。

 

一応()()()からは変えてもらってるけど……それだと風を感じられないらしくってやっぱり風通しがよさげな感じに改造されてしまっている。お陰でフロアに立てるタイミングを選ぶはめに……。

 

「さてと、あたしも仕事に戻るわ――対岸に採取に行かなきゃだし。でさ、あんた達とパティさんはどうする? 手が空いてんなら手伝ってくれると助かるんだけど」

 

「先に父さんに報告を……と思ったが、それをするともう戻って来れんな」

 

「僕はパティに島を案内するつもりだったけど――どうする、パティ?」

 

「その……対岸での採取、というのは?」

 

そっか、それを説明しないと。船で来たんだもんね。

 

「ここから北に行くと対岸の陸地があるんだけど、その東の森の中にあたし達が使ってた拠点――まあ隠れ家みたいなもんがあってね。そこで果物とかを育ててるの」

 

「へええ、あそこの畑を? 懐かしいね」

 

「以前伺った冒険のお話……ですか。よろしければ私もそちらに伺っても?」

 

「うん! 助かるよ。手が多ければ多いほど運べるから」

 

「仕方がない。あの名を汚すわけにもいかんしな」

 

「……そうね。だから名前を変えなかったんだし」

 

この店のオーナーはあたしだけど――「エルリック」の名を外す予定は全くない。

あたしが目指して、追いついて、並んで、支えたいと思う存在。

忘れるなんて事は絶対にないけど……より鮮明に、そしてあたし自身を引き締める為だ。

 

「じゃあ籠とか持ってくるから港から対岸に向かいましょ。男二人は舟漕ぎよろしく」

 

「いきなり人遣いが荒いね。まあ体力は付いたからいいけど」

 

「当たり前だ、ライザだぞ? 自分から漕ぐなんて言い出したら病を疑う」

 

「取り敢えずライザさんのお人柄は分かりました……本当に元気な方ですね」

 

今の溜めは何だったのかな、パティさん?




あれからおよそ二年後の世界、時系列的にはライザ1.7くらいでしょうか?

ライザの髪はロング(とある人物を真似て)、衣装はライザ3の服装です。
これは原作からの分岐をイメージしていますが、実は作者の脳内で描けていません。
クラウディアは3より2の衣装のつもりですね。

何故クラウディアがライザの服を準備出来たかというと、「クラウディアだから」です。

ここからはライザ達もほぼ全て漢字解禁になります。ボオスも「クラウディア」呼びです。


では2の新キャラ、パティも引き連れて対岸へ収穫に向かいます。
作者が2を未プレイなので口調などが安定しない(特にセリ)かと思いますがお許しを。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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