ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
ハガレンとクロスオーバーするなら、やっぱり最後はこの日ですね。
今回もよろしくお願いします。
「う~~ん……うんっ! 今日もよく晴れそうだ!」
朝5時。
起きる時間は以前と全く変わってない。特に苦じゃないしね。
お店を開いた前後はバタバタした事もあったけど、今は下準備ってものを学んだのだ。
何かあったとしても多少は余裕が取れるようにってね。
「おはよう。お父さん、お母さん」
「おはようライザ。今日もいい朝だね」
「おはよう。昨日はどうのと言っていたけど、行く時間はいつも通りでいいのかい?」
「うん。その為に昨日は遅くまで準備してたんだしね。あっ、コーヒーはあたしがやるよ」
最近、やっとコーヒーの苦みの良さとやらがあたしにも分かるようになったらしい。
というのも……大量のお菓子の試食の後に飲む物がエルツ糖入りだと結構ヘビーなのだ。
口の中をリセットする為にも、ブラックのままで飲むのに慣れてきていたりする。
紅茶も味と香りを覚えようと思うと、必然的にストレートになっちゃうしね。
「ご近所の人達はなんか言ってた?」
「バジーリアさんからお話を聞いていたとの事だよ。特に普段とやる事は変わらないけど、クーケンフルーツを栽培している家は販売をするかもしれないね」
「ヤギミルクはこの時期お客さんに持ち帰ってもらうのが難しいからねえ。騒がしくなるのは港からライザが居る旧市街方面にかけてだろうさ。いつも通りさね」
「まあ
望郷岬を見にくる観光の人くらいはいるかもしれないけど、わざわざラーゼン地区にまで来る人はそこまでいないよね。
というか、アレってそもそも爆弾の一種だし……。
コンコン
「ん? 誰かな? あたしが出るよ」
こんな時間だし島の人だろうけど、お客人は珍しい。
「は~い」
「あっライザ。僕だよ」
「タオ?」
扉越しに聞こえたのは……聞き覚えは無くなったけど、よく知ってる青年の声だった。
「おはよう。どうしたの?」
「おはよう。ごめんよ、約束も無しに。昨日カールさん達に挨拶出来てなかったからさ……パティを連れていると緊張させちゃうかなって思って」
ああ、そーゆーこと。
お父さん達は気にしないと思うけど、逆にパティさんが気を遣っちゃうかもね。
「ライザ、僕達にお客さんかい?」
「まあそうかな? ――誰だか分かる?」
「お久しぶりです。カールさん、ミオさん」
大きくなったタオを見て。
「タオじゃないか。 随分大きくなったねえ、見た目も声も男らしくなったもんだよ」
「久しぶりだね、タオ。王都では元気にやっているのかい?」
「はい、色々と充実していますよ。お2人ともお元気そうで何よりです」
すぐに分かった――あたしより長い事見てきてるんだもんね。これが親ってもんか。
「今日はライザのお店を手伝う約束をしていまして。どうせなら一緒に向かおうかと」
「おや、そうだったのかい? それはお世話になるね」
「ライザに何を捻じ込まれたんだい?」
「ヒドイよお母さん……昨日クラウディアがタオ達にご馳走したから、その代わりに今日手伝ってくれるって言ってもらったの」
相変わらず何かしらあたしが付き合わせたような扱いだ……まあ事実だけど。
「手伝ってもらうのは助かるけど……パティさんは大丈夫なの?」
「後で話をしに行くけど、パティも四六時中僕が傍に居たら疲れちゃうさ。でも場合によってはお店に居させてもらってもいいかな?」
いやあ……タオ、それは勘違いだと思うよ。パティさんはもっと頑張って。
「2階なら構わないよ。まあ詳しい事は実際に聞いてからにしよっか……うん?」
あれは……。
「ようライザ、タオ。おはようさん――このくらいの時間に通る気がしてたぜ」
レントだ。剣を背負ってないと違和感あるわね。
「おはよう」
「おはようレント。あんた昨日ザムエルさんにはちゃんと会ったの?」
「一応な。大した話をしたわけでもねえけど……リラさんにかち合っちまった時はちと焦ったぜ」
うん? なんか焦る要素あったっけ?
そもそも……。
「リラさんってザムエルさんの事知ってんの?」
「おう、2年前の時にな。ただ……その時は親父がバカの一つ覚えみたいにちょっかいかけて、リラさんに関節技を
「それは……ちょっと胃が縮む思いがするね」
確かにあたし達には不可能な事をやらかしてるもんね――リラちゃんて。
まあ仲が悪いってわけじゃないみたいだし、そこら辺はいいか。
「それで……レントも今日手伝ってくれるって事だけど、クリフォードさんはどうするの?」
「それなら問題ねえさ。よりにもよって親父と意気投合しちまってよ、ライザの家の裏の浜で魚釣りでもするんだと思うぜ。客として店に顔出すとは聞いたけどな」
どっちも世界を回ってる者同士、話が合ったのかもね。
それじゃあ一先ずの懸念事項は解消かな。
「……んじゃまあ」
「久しぶりに」
「3人で行くとしようぜ――あの工房によ」
レントもタオもあたしも。
あのひと夏からそれなりに成長したはずだ。
それでもこうやって、あの頃と同じ様にこの道を歩いていけるのは。
――あたし達が頑張った成果って言えるのかもね。
「レント君、タオ君、おはよう。2人とも今日はよろしくね。パティさんもおはようございます」
「おう、よろしくな。力仕事ならなんでも回してくれて構わねえぜ」
「おはようクラウディア。あんまり考えずに手伝うなんて言っちゃったけど……ライザ達の都合を考えてなかったね、ごめんよ。出来そうな事なら何でも任せてもらっていいから」
「おはようございます……ご迷惑かとは思うのですが、よろしければ私にも手伝わせてもらえないでしょうか? アルバイトの、それもバレンツ商会の直営店舗での機会なんて滅多に得られないと思いまして……」
今は午前8時。
寝ぼけ眼で髪も結っていないパティさんにあたしが遭遇する事になった。
タオが行かなくてよかったよ――パティさんが再起不能になってたかもしれない。
で、今日の事を話した結果……アルバイトって言うの? 短期のお仕事手伝いをパティさんもしたいって事でお店に来る事になった。貴族さんってこういう事をする機会が中々ないらしい。
という事だったので、パティさんの支度の間にあたしがクラウディアへ話をしておいて。
今、改めて工房に来たのである。
「大丈夫ですよ。お2人には基本的に食器や調理器具を洗ってもらうお仕事をお願いしようと思います。スタッフを1人付けるので、指示を受けて動いてもらえれば」
「了解だよ」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
「俺はなんかする事あるか?」
「レント君にはバックヤードの改造をお願いしたいんだよ。結構体力仕事になりそうだから。ジェナさんにお話をしてあるから手順を聞いてね」
「……なんか、すっげえ緊張すんぜ」
8つも年下なのにね……すっごい分かるわ、その気持ち。
さてと。
「じゃあ、あたしも作業場に入るね」
「うん。ボオス君ももう来てくれているから」
――は?
「で、なんであんたがここに?」
「
「実際に確認して問題なかった。フロアに男が2人居る分には店長もいいって」
作業場にいたのはボオスとエルマー。
既にエルマーの面接を終えた後らしい――あたしの意向は? 別にいいんだけどさ……。
観光案内所ねえ。普段アガーテ姉さん達が担っていた役割が、今日はこの店になると。
――マジでそんなにお客さん来んの?
「モリッツさんとランバーは大丈夫なの?」
「あの2人はそれぞれやる事がある。客としてここに来るかもしれんが気にする必要はない。寧ろクラウディアに媚を売っておけと言われているからな……にしても、あのランバーのレント化は何なんだ? 思わず本人に聞くのを躊躇ったんだが」
「言いそうだね、モリッツさんなら。流石商人だわ……ランバーについては、あんたがリラさんに頼んだ事を実直に守ってるだけだと思うわよ? アイツも大概マジメよね」
「あの時の
まあそういう事なら問題ない。お願いするとしましょうか。
「オーナー、今日の……貴方は昨日の」
セリさんがあたしに何か御用だったみたいで……ボオスと目が合ったらしい。
「今日の臨時フロア……バイト? ですよ。セリさん」
「こき使っていいって」
「俺はそんな扱いなのか……オーレン族の方ですね。ボオス・ブルネンです。貴女のご同胞、キロ・シャイナスさんには大変お世話になりました」
うわあ、ボオスがきちんと挨拶してる――正しい筈なんだけど気持ち悪い。
「コナードルの緑羽氏族、セリ・グロースです。貴方も私達を知っているんですね。ブルネン家というと、島の顔役の……」
「そうですよ、モリッツさんの息子です。でも今日は見習い以下なんで毒見でも何でもさせていいですよ?」
「そうなんですか? ――では炸裂カズラと赤い悪魔を口に入れた時のリポートでも」
「おい待て! なんだその聞いただけでヤバそうな名前の代物は。これは冗談……ではないのか? 本気なのか? オーレン族というのは基本俺達とズレているのか?」
何を今更。キロさんとリラさんで十分学ぶ機会はあったでしょうに。
あたしどころかクラウディアさえ既に実験体として経験済みだよ――2日間鼻が利かなくなった。
時刻は午前9時50分――開店まで10分。
そこには。
「これ……マジか」
ボオスの予想していた地獄絵図が広がっていた。
パッと目に映る人の数だけでも全島民の人口を超えてそうな気がする。
ひしめき合うってこういう事を言うのかな? ――これのどこが「旧」市街だ。
大侵攻なんて目じゃないでしょコレ? どうやってこれだけの人を島に運んできたのかなあ。
流石にこれだけの人数が一か所に留まり続けるわけないし、ラーゼン地区にも人が行きそうだ。
「想定よりちょっと多いね、臨時便を指示しておいて正解だったよ。今日は忙しくなりそう!」
「これで
「島の歴史上最も人の多い日になりそうですね、腕が鳴ります。お父さんにもしっかり働いてもらう事にしましょう」
「沢山の人を笑顔に出来るんだからねえ。島の主婦代表として気張ろうじゃないか」
「せっかくなので……私もフロアに出てアンケートを取らせてもらっても? これだけサンプリングできる機会はそうないでしょうし」
「質問する客層は散らして。偏ると意味がなくなる。俺も話を聞いておくから……あとその裾はとっとと戻して。じゃないと立たせない――
「アレは世間のマナーを知って頂いただけだよ? エルマー君」
「こりゃあロミィさんの客寄せは要らないねえ……私もフロアで誘導主体かな、通訳も要るだろうし。クレープのメニューを列に回して先に注文取っとけばいい?」
現在エルリック菓子工房の朝礼の真っ最中なんだけど……皆落ち着き過ぎじゃない?
幹部面々はもとより、商会のスタッフさんも気合十分だ。文字通り戦いに赴く気分。
セリさんは
まあ、そのムチムチ太ももをこれだけの人に見せつけていくのはちょっとね……。
つうか……この店でも氷像が誕生していたの? クラウディア、その微笑みは少し怖いよ!?
アンペルさんとリラさんは後ほどお客さんとして合流の後、大食いチャレンジの予定である。
厨房が回り切ればいいんだけど……。
こんなに人が居て……この島沈まないよね? わりと冗談抜きで。
タオにお願いして出力いじっときゃ良かった――頑張れ、賢者の石。
「……僕らがやらかした事が、まさかこんな状況に繋がるだなんて」
「重く考えるなタオ。俺達はいいように使われただけだ」
「王都の新店舗開店がこんな感じですね。よくここまで皆さんいらっしゃったと思いますけど」
「それなりに世界を見て回ったつもりだったんだが……一番おかしいのは
バイトの面々は比較的あたし寄りっぽい――つまりあたしはバイト相当だと?
「それじゃあ――ライザ、お願いできるかな?」
お、了解。
一応朝礼と終礼の締めは毎日あたしがやっているのだ。せめてものケジメだね。
「えっと、まあ外を見たまんまですが今日はとっても沢山のお客さまがいらっしゃると思います。だけど……やる事はいつもとおんなじです。手を抜かない事、真摯に対応する事、分からない事はすぐに確認する事、連携は密に。特に今日は店長の手が空かないので、時間がいつもより取りにくくなって大変かと思いますけど皆で協力して一日を乗り切りましょう! 臨時バイトの方も4人入ってますが……男3人は使い潰してOKです」
「おい」
「この人遣いの荒さ、まさにライザって感じだぜ」
「ホントにね。まあこの事態を招いた1人だし、頑張るとするよ」
「私もよろしくお願い致します」
幸い素直だ。まあ、エルリックの名を汚さないよう頑張ってもらうとしましょう。
「それでは今日の「感謝祭」……本日も一日、よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!!!』
初日の光景を再現するとは思ってもみませんでした。
それではクラウディアのキャンペーンによる祝日営業「感謝祭」開始です。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。