ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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本作最終回です。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
彼女達の冒険の果ての景色を是非ご覧ください。

それでは最後までよろしくお願いします。


123. 約束の日③ みんな、おかえり!

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「ふおっ!?」

 

いきなりオーガヘッドから雷が!? なんか目とか口の部分から吹き出て来たよ!

 

なに? 何? 何事!?

 

2年ぶりに見た――錬成反応っぽかったけど、あっちで何かあった!?

 

「こりゃ何事だ!?」

 

「分かんないけど今のって!?」

 

「アルさんの……錬成? なのかな?」

 

「……あちらで何かがあったか」

 

「待て、耳を澄ませてみろ。気配が」

 

「これは……鎧の胴体部からか?」

 

ボオスが口にした通り、胴体部から何かの音が……。

 

 

 

 

 

 

――ゴンッ!!

 

 

 

 

 

 

『――痛っ! 後頭部を打った……狭いし真っ暗で――なんか生暖かい? 状況は分かる?』

 

『ひぅっ……貴方がとんでもないところに頭をツッコんでいるのは分かるよ――後で処刑するね? 血印経由なら……胴体部? これって開口部はなかったっけ?』

 

『胴体部分は外せるようになっているけど、内側からじゃ難しいかな。穴を開けようにも位置が……僕は一体どうなっているんだ?』

 

『……あっあまり喋らないでくれない? 息も止めてっ……色々、ムズムズするんだよ』

 

『また理不尽な……』

 

 

 

とっても聞き覚えのある……どこか中性的で安心できる、今までに何度も助けられた声と。

なんとなく飄々としてて、とんでもない存在を身体の中に飼ってた食いしん坊さんの声が。

 

胴体の……この金具かな?

 

 

 

 

 

 

バチン! ガシャッ!!

 

 

「「うおああっ!?」」

 

 

ベシャア!

 

 

 

 

 

 

鎧の中――鎖帷子って言うんだっけ?

そこから人が……多分2人とリュックが2つ、こぼれ出るように転がり落ちてきた!

 

このリュックは……なんかすっごい見覚えがある。あたしが作ったもの?

加えて片方のリュックにはアクセサリーのように、不思議な黒色をした大きなリングが。

 

出てきたうちの1人は……仰向けっぽいけど、もう1人に上から押し潰されてる。

 

その、もう1人は……うつ伏せのバンザイ状態。

麦わら帽に、白のサマードレス? あたしが知ってる人の服装じゃない。

でも帽子から伸びている髪らしきもの……その銀の色には見覚えがある。

 

その麦わら帽子の頭が横を向いて。

 

 

 

「――あ、ライザだ。随分髪を伸ばしたんだね」

 

「キロさん!?」

 

 

 

案の定だ! なんかすっごい夏っぽさを感じるようになってるけど!

 

「キロなのか!?」

 

「ん? おお、ボオスもいる。お久しぶりー。ちょっと精悍になったかな?」

 

「……キロさん、そろそろどいてもらえない? 息がしにくいんだけど」

 

「これだけのスケベをやらかしておいてそんな事言う? このまま窒息しちゃえばいいんだよ……目を瞑って出来るだけ頭と背中を浮かせて。よっこいしょ」

 

キロさんが匍匐前進みたいにズルズルと前へ。

なんと仰向けの人物は、サマードレスのスカート部に頭を突っ込んでいたらしい。

 

出てきたのは――

 

 

 

「「「「アルさん!!」」」」

 

「やあライザ、大人びたね。皆も元気そうで何よりだよ」

 

ずっと待ってた人だ! 全然変わってない! 登場の仕方はかなりヒドイと思うけど!

 

 

 

「は~上手く行ったね……だから言ったじゃない。ちゃんと鎧は残してくれているって」

 

「そうだね、今回はキロさんが正解だ。これで限定的にだけど行き来も出来る、と」

 

アルさんとキロさんが立ち上がった。あの夏、最後に門の向こうへ消えた時以来だ。

 

 

 

アルさんはホントに変わってない――2年経ったんだよね? 時間が止まってる?

 

一方で……キロさんはすごく快活な感じになってるね。麦わら帽子にポニーテールにサマードレスって。黒っぽかった2年前と一転して全体的に白くなってる。

前髪も分けてて顔がしっかりと見えるよ。ザ・真夏の少女って感じだ。

 

――これはエルマーがヤバい。あたしにも刺さるレベルだし。

 

 

 

「アルさんキロさん、お久しぶりっす!」

 

「お元気そうで何よりですよ!」

 

「レントとタ……貴方、タオなの? 随分とまあ、私の背を抜いて声も低くなっちゃって」

 

「タオだけじゃないさ。皆大人になっているよ」

 

「ご無沙汰しています、アルさん、キロさん。アルさんには先程の出来事について少しお伺いしたいんですが――今からお赤飯の準備をした方がいいですか?」

 

「そうだな……エルリックさん、早速ですが先程の状況を説明して頂きたく。キロと一体何を? 公衆の面前では自重して頂きたい」

 

「さっきの僕はどういう状態だったんだい……?」

 

うおっ!? 冷気は漏れ出てないけど、はち切れそうな何かがクラウディアの中に!?

ボオスは青筋浮かべんの待ちなさいって! こればっかりはあたしも擁護が難しいけどさ!

で、なんでアルさんはさっきの状況を全く理解してないの!?

 

「まあ待ってやれ。アルはそういう人間ではないし、問うた所で大した回答を得られやしない。見た結果が全てだ。2人とも、久しぶりだな」

 

「我々は痕跡だけ追っていたような状況だったからな。健勝そうでなによりだ」

 

「……胃が。魔力と気配に胃が痛い。こっちの嬢ちゃんの中身は竜なんて比じゃなくない……?」

 

「一体何がなにやらなんですが……何故鎧から突然人が? またダイナマイトボディの追加……私ってそういう?

 

パティさんとクリフォードさんは当然ながら置いてけぼりになってるね――説明しなきゃ。

クリフォードさんの胃がヤバそうだけど……クラウディアもリラさんの説明に納得しちゃってるみたいだし大丈夫だよね? とりあえず鎮火しよう? ボオスもOK?

 

「えっとですね。ご紹介すると――こっちの男性がアルフォンス・エルリックさんでこの工房の本当のオーナー。女性の方はキロ・シャイナスさんで2年前の冒険で一番鍵になった人です」

 

「エルリックさん……という事は世界一かもしれない道具屋さん、ですか?」

 

「そう言う事だよパティ。僕達はアルさんにとてもお世話になっているのさ」

 

「世界一だなんてとんでもないよ、出来る事をやっていただけなんだから。それに工房はもうライザの物さ……君はタオの彼女さんかな?」

 

「……っか、かっか……」

 

あ~あ~またパティさんが壊れちゃったよ……タオがとっとと首を縦にふりゃいいのに。

アルさんも、なんで他人の事になるとすぐにそっち方向にも思考が回るのかな?

 

「はぁ……キロは俺の命の恩人で、この島のアイドル的存在だ。取り扱いに注意してくれ」

 

「私ってアイドルだったの!?」

 

「なんだか……ボオス君の説明がおかしくなっているかな?」

 

クラウディアも元に戻ったらしい。そしてボオスの説明は間違っちゃいない――危険物だ。

 

「言われずとも手なんざ出さないし出せないじゃん……この2人、ヤバさの比がおかしくない? 感じる気配の凄みがダンチなんだけど? これが同じ人間?」

 

「以前に比べたら私は大分マシになったはずなのだけど……どの辺りがヤバそうなのか詳しく伺おうかな、新入りさん? ――まずは一戦交えようか」

 

「来て早々ケンカを売るんじゃないよ。僕らがおかしい部類なのは君自身言っていた事でしょ? ……どうも申し訳ない。ここ最近ちょっとイライラ気味なものでして」

 

キロさんは……大蛇さんはもう居ないんだよね? 以前と似たような気配がしてますよ?

 

「ライザ、クラウディア。そろそろ片付けが…………キロ、おねえさん?」

 

あっエルマー。一瞬で気付く辺り流石だ――これはいかん。

 

「ん? おっ……エルマーかな? 大きくなったね! 元気にしていた?」

 

その瞬間にキロさんが放ったにぱーっとした笑顔は眩しすぎて。

 

――エルマーが沸騰を通り越して焼き付いて真っ白な灰になった。

 

成程、これはエルマーも壊れるよ……。

 

 

 

 

 

 

「それでは……これで終礼を終わります。今日も一日お疲れさまでした!」

 

『お疲れさまでした!!』

 

あの後エルマーを再起動させて、一旦あたしとクラウディアは業務に戻って。

明日の方針を告げてから今日のお仕事を締めたところだ。

――明日は今日よりマシだと思いたい。嬉しい悲鳴を通り越しちゃうよ……。

 

その終礼の前にキロさんのお腹から怨嗟の叫びと聞き間違う空腹音が聞こえたから、クラウディアがささっと10枚くらいパンケーキを焼いてキロさんの前に。ついでにもう一つあたしも仕込み。

胃袋の大きさは2年前と変わってないらしい――つまり毒草生活だった?

 

クリフォードさんは……ザムエルさんと一緒に夜釣りを楽しむらしく工房から退店(脱出)

 

というわけで、今ここにいるのは2年前のメンバーにパティさんとセリさん。

レントにアガーテ姉さんも呼んできてもらって13人だ。

ジェナとバジーリアさんとは少し挨拶して……エルマーは逃走した。いきなり過ぎたらしい。

 

 

 

そして……この状況だ。

 

 

 

「ア゛ル゛く゛ん゛い゛い゛お゛と゛こ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!」

 

「はい、ただいまですロミィさん……お気持ちは分かりましたからお顔を拭きましょう?」

 

「アルニウムの補充が最優先だよ!! すぅーーーーはぁーーーー……」

 

「ロミィ。気持ちは……少しは分からなくもないがその辺にしておけ。アル君の身体からミシミシ音が鳴っている」

 

姉さん、少しは分かっちゃうの……?

あたしは無自覚にソレを補充していたのか――絶対言えないね。

 

「ロミィはアル成分が切れかけていたんだね……アルニウムってホントにありそう。さてと――クラウディア、他にも何かあるかな? お代はアル持ちで切れ端とかでいいから」

 

「今一つ作っていますからちょっと待っていて下さい。アルさんのお好きな物を伺っていたので、お戻りになった時には最初に作ろうってライザと約束していたんです」

 

「そのために王玉(リンゴ)を育ててたんだもんね! あとキロさんは自重って言葉を知ってます?」

 

「そういう理由だったのか。あの畑で随分なシロモノを栽培していると思ったが」

 

これは以前聞いてたから……絶対にこれで迎えようってクラウディアと話してたんだ。

お店には出してないけど、どこぞにいるらしい有名な錬金術士さんに負けてない自信はある。

 

「この女性の……胃の構造は一体? タオさんのお師匠様達もそうでしたけど、あれだけ食べても全くお腹が出てすら……」

 

「気にしちゃダメだよパティ。オオイタチマザーが丸呑みされる光景を受け止められるかい?」

 

「タオ、いくら私達でも丸呑みはムリだ。顎が開かない。せめて三分割してくれ。それと胃は鍛えられる。精進する事だ」

 

「お前さんは指摘するべき点が違う事に気付いてくれんかね? こっち側に引き込むんじゃない」

 

「この方が店長の言っていた霊祈氏族の……確かに私達(オーレン族)のイメージがおかしくなりそうですね」

 

「俺も竜の尻尾くらいは食えるようになったんだけどな……まだまだだぜ」

 

「レントあんた、鍛えようとする方向性がおかしいわよ? セリさんは安心してください――もう手遅れ(貴女も大概)ですから」

 

ああ、こんな感じだった――ううん、過去形にする必要はないね。

こんな感じだ!!

 

 

 

 

 

 

「それで……アルさん達はあちら側でどういう感じだったんですか?」

 

「最初の内は当時と同じ方法で浄化を進めていたんだけど……ライザが侵蝕の特性を塗り潰してくれただろう? だから自然の代謝で汚染自体も徐々に薄くなってきていたみたいでね。そうなってくるとフィルフサもある意味被害者だから、あれらを元の住処に誘導するなんて事をしていたよ」

 

「後は……私が数百年無駄に孤軍奮闘してた事も分かったね。生き残っている村があったんだよ」

 

「何!? そんな場所が!?」

 

常闇経由で侵蝕の特性を受け継いでいたフィルフサだけど、今のフィルフサにその特性はない。

あたし達がオーリムに行った時点で、膨大なエネルギーを持つ太陽は既に侵蝕を打ち消してた。

だから大地も自浄作用で徐々に回復してきてるって事かな――自然ってやっぱりすごい。

 

オーレン族の生き残りについては……リラさんがビックリしてるくらいだし、奇跡ものだよね。

 

「ウィンドルだよ。あそこって中州だからフィルフサから逃れていたみたいで……大長老もいるでしょ? 周辺のフィルフサは駆逐されていたみたいだよ。早く見て回っておけばよかった」

 

「大長老さんはタオのハンマーみたいなのを武器にされている小柄な方だったんだけど……いやあ驚いたよ、強いのなんのって。こっちの事を話したらすごく興味を持たれていたから、いつかいらっしゃるかもしれないね。ライザから貰った麦の種はそのウィンドルで育ててもらっているよ」

 

「……まさか、私が昼間に見たあのオーレン族が?」

 

「アンペル、憶測は止めておけ。そうホイホイとオーリムから行き来する事はあの方でも出来まい。しかし……そうか、生き残っておられたのだな」

 

カラ様(大長老)なら……今日いらしていましたよ? 嬉々としてパフェを食べていらっしゃいましたが。それにしても、こちらの作物がオーリムで育つようになったんですね。喜ばしい事です」

 

「……いつかウィンドルの皆には胃薬を差し入れなければ。アンペル、調合を頼む」

 

「あの人凄かったね~一口でパフェの半分は無くなってくんだもん。ロミィさんより小柄なのに」

 

キロさん達を超えるハチャメチャ枠の長老さんみたいだ。あっちの人も大変らしい。

今日お客さんとして来てたのか、全然知らなかったよ。あの人混みじゃ仕方がないけど。

セリさんはそのくらい業務中に教えてくれてもよかったんですよ?

 

「それとね……リラ、これを預かってきたよ」

 

「ん? これはなんだ? ――手紙か何かか?」

 

「見れば分かるって」

 

リラさんがキロさんから何か紙を手渡された――そこまでは良かった。

 

 

 

紙を開いた瞬間……リラさんの魔力が跳ね上がる。

 

 

 

「ブレイズッ!!!」

 

 

ボウッ!ピシィッ!!

 

 

「リラさん、ここでは火気厳禁でお願いします」

 

 

パリィィィィイイイン

 

 

巨大な火の手が上がった手紙かなにかは――燃える前に一瞬でクラウディアに炎ごと凍らされ。

地面に落下して粉砕された。微笑みにノーモーションでこの精度の魔法ですよ……。

 

その、粉砕されるまでの僅かな間に、あたしは内容を知った――知っちゃった。

言語は同じなんだね。そして書いてあったのは一言だけ。

 

 

 

『孫は?』

 

 

 

である。これはまあまた……。

 

「はぁ……はぁ……すまんクラウディア。これは何か? 生き残って、いたと?」

 

「うん。散り散りにはなっていたけどって事だね」

 

「……アンペル、次に門を見つけたらオーリムに入るぞ。胃薬など不要だ――殴り込みをかける」

 

「そんな物騒な理由で「はいそうですか」と返事をしたくないのだが……?」

 

「そうだよね〜、せっかくの再会になりそうなのにさ」

 

「君、確か笑いながらさっきのやつ書いてもらっていたよね?」

 

随分な伝え方をさせるもんですね……。

でも――という事は。

 

「それではリラさんとキロさんの故郷に関して、喫緊の課題は解決されたという事ですか?」

 

「ん、そう言う事だよアガーテ。それであっちにも四季が戻ってきてね、夏になったのもよく分かったからアルにコレ(服と帽子)を作らせて、こっちの夏気分を向こうで満喫したりしていたよ」

 

「で、約束の日の話があったから戻ってこようとしたんだけど……前の門の封鎖は結構前だったし周辺にも門は無し。キロさんは「この服装に黒い首輪なんてあり得る?」って事で装備を外しちゃったもんだから移動速度が下がってね。臨時に持っていた手段として聖域に残っていた鎧と工房の鎧をキロさんの血印で繋いで、錬成と魔法を組み合わせて小さな門を作ったような形で飛んだんだよ――胴体部に錬成される事を考えておくべきだったなあ」

 

「……まさか、あんな真似をされるなんてね。いつかメイとウィンリィに言いつけてやる」

 

「エルリックさんでなければ両の眼を潰していた」

 

「ボオス……あんたキロさんが関わると過激すぎない? 何気にアルさん達が凄い事やってるのをスルーしそうだよ」

 

「さっきの一連の流れもスルーされそうなのはここでは普通なんですか……?」

 

ボオスはキロさんが関わるとかなりおかしくなる。理由は勿論知ってるけどさ。

それとパティさん、割と普通です。

 

 

 

アルさん達も凄い手段を作ったもんだね。簡単ではないみたいだけど……なんだっけ?

 

精神は紐みたいなもんで、ここの鎧の血印はキロさんが描いたものだからキロさんとアルさんの精神が混在したようなもんが残ってて。

更に初めてオーリムに行った時に作ったフィルフサ素材の鎧もこっちと同じような状態になったから、そこにパスみたいなのが出来て? そこから人体錬成みたいな?

 

机上はともかく実行しようと思えないわ――リバウンド怖すぎだし。

まあ、本人達が世界そのものみたいな力を持ってるしなあ……。

 

 

 

「……店長、そろそろよさそうな時間です」

 

「ありがとうセリさん。それじゃあ皆さんは少し待っていてください」

 

「あたしがやろっか?」

 

「こっちに持ってくるから、ライザは切り分けをお願いできるかな?」

 

「は~い」

 

「何を作ってくれているんだい? すごくいい香りがしているけれど」

 

「すぐに分かりますよ――そういえば、キロさん」

 

「ん?」

 

今のうちに聞いておこう――別れの前々日に話した事を。

耳打ちする。

 

 

 

「アルさんと……どうなったんですか?」

 

これは絶対に確認しておかなきゃいけない。今後の戦略に大きく関わる。

そう問いかけたお相手は……口を引き結んで、気まずそうに半目の視線をあたしからズラす。

 

しかもなんか……汗?

 

 

 

あたしの女の勘が理由を悟った――おい。

 

 

 

……キロさん?

 

「うひっ……いや、うん、まあ……その、ヨルムンガンドが身体から抜けて、加えて光の力を身近に受け続けていたから私も色々と感情や感覚が戻ってね? 数百年分がドバァッと来てたし大長老とかとも仲良くなっていくし、一方で何時まで経ってもあっちは手を出してくる気配が欠片もしないしで……イラッとしてムカッとして……ムラッとして…………コソッと。ああっと、でも一線はまだ」

 

今晩じっくりお話を伺いますね? ……クラウディアと一緒に。勿論ロミィさんも呼びましょう。シンシアさんにも来ていただきます? ――情操教育の一環として

 

「……今日が私の命日にならない? トラウマ化は不可避っぽいね、正直に話したのに……」

 

そこは大丈夫だと思いますよ……クラウディアはその辺大人の対応ですから。

とは言え、クラウディアはあたしが関わるとボオス(ヤベエ)状態になる。ちょっとマズいかもしれない。

ロミィさんは想像が付かない――最低でもどこかに爪を立てられる事は覚悟してください。

シンシアさんはこの辺をどう捉えるかだけど……息子の想い人だよ? 半日正座コースじゃない?

 

 

 

――なにが「襲われたら~」だよ!! しかもコレ、アルさんに内緒にしてるんだよね!?

普通ならアルさんが気付かないわけがない……つまり、また加護使用レベルの強制睡眠?

こんなヒッドイ加護の使い方、大精霊さん達も絶対考えてないよ!

やるならせめて堂々とやってくださいよ! 後ろめたい自覚満々じゃないですか!!

 

これはボオスとエルマーには言えないなあ……墓まで持っていこう。

命日にはならないでしょうけど、生涯記憶に残る日にはなるんじゃないですか?

 

 

 

とは言え、あたしにとって……悪いばかりの話じゃないね。

しっかりチャンスはあるって事だ。2人には頑張ってもらおう。

 

 

 

「お待たせしました。ライザ、いいかな?」

 

お、来た来た。さっきの話の続きは夜に取っておこう。

 

「了解。後は任せてね」

 

「これは……アップルパイ、かい?」

 

「そうです! ……確かアルさんの思い出の味、なんですよね?」

 

「――覚えていてくれたんだね。うん、ありがとう。大好物さ」

 

「……そっか。ヒューズさんの奥さんとウィンリィが作っていた……」

 

数少ない――アルさんが食べたいと口にしていたもの。

アルさんにとっては色々と節目の味だってお話だったもんね。

これだけはクラウディアと同レベルに作れるよう、あたしも必死に練習をしたのだ。

 

今後は……この味がアルさんにとっての「アップルパイ」になるようにしなきゃ。

 

「すっごい良い香りです! これがお店に出ていないなんて勿体ないですよ!」

 

「今日の日の為に封印していて。でも……これで解禁かな? どうかなクラウディア」

 

「うん! しっかりとレシピは作ってあるから、私が作る分くらいから店頭に出そうか」

 

「時たま賄いで作ってて、お店に出してなかったのはこういうわけだったんだね~。納得」

 

「そういえば……ここって今どうなっているの?」

 

あ、そうか。キロさん達には説明してなかったね。

 

「今ここは……「エルリック菓子工房」になってます!!!」

 

「――案の定だったよ。一文字も欠けてすらない」

 

「……僕の名前が残っているのかい?」

 

「いや、普通じゃねえっすか? 俺達島の人間には当たり前っつうか」

 

「ここが「エルリック」じゃないのは違和感があるよね。それでそのスタッフが」

 

「まさかの……ライザがオーナーだそうです。クラウディアは店長だそうで……クラウディア、本当に身体は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だよボオス君! 私が好きでやっているんだから」

 

つまり疲れてるのは事実ですと……経営の勉強なぁ、アレは心が折れそうだよ。人心掌握とか。

ボオスのわりと真面目な心配に反抗できない……。

さ、切り分けて切り分けてっと。

 

「……それは、暗に身体は大丈夫ではないという事ではないのかね? ゴールドハートをもう何本か置いていった方がよさそうだな、元々ここへの返礼品のつもりだったのだが」

 

「今まで散々世話になっているのだしな。私もいつか妖精の秘薬を差し入れよう。アレは気分が落ち着く――素材はあちらのやつらにかき集めさせればいい」

 

「……ライザさん」

 

「パティさん、それ以上は言わないで。あたしもよく分かってるから……」

 

オーナーの座をクラウディアに何とか渡すか、戻ってきたアルさんに返したいところだけど……説得が出来なさそうなんですよ。どうしたもんかな。

 

 

 

「そうなんだね――じゃあ僕も手伝おうか。今急いでオーリムに戻る必要は無いし……少し終礼のお話を聞いた限り、かなり繁盛しているんだよね? この店舗スペースじゃ小さいだろうから――地下とかも作れるよ? 勿論オーナーと店長が良ければだけど」

 

 

 

おっ!? なんという大チャンス!! これはオーナー権限フル活用だ!!!

 

「やはり君の仕業だったんだな? どう見ても広くなっていると不思議に思っていたが」

 

「アガーテ、ここが不思議な工房と化しているのは全部この男のせいだよ。まあ……確かに急いであっちでする用事は無いし、ライザとクラウディアがいいなら私もフロアスタッフに復帰するよ」

 

「はい採用です! 早速この後からお願いしますね!! 急いで明日の計画を直さないと!!!」

 

あたしより先に店長(クラウディア)からゴーサインが出た。

フロアマスターと……バリスタやら調理器具管理やら大道具やら纏めて担当できる人が復帰だ。

固定客が戻ってきそうだね――古老とか。お父さん達もコーヒーを飲みに来るかな?

 

「――嬉々としている。成程、これは心配なさそうだ……いや、逆に心配すべきなのか?」

 

「監督モードのクラウディアだからな。俺達の出る幕じゃねえよ」

 

「大変だったよね、アレ。働くってのはああいう事なんだって初めて経験したよ」

 

「バレンツ商会の面接が思っていたより随分と雑い……お店の拡張ってなんなんですか?」

 

明日もお店に来てくれたらわかりますよパティさん。ここはそういう場所なんですから。

さて。

 

「あたしも勿論オーケーですよ……というか、アルさんは家主に戻ってくださいよ? 預かっていたオーナーのお役目もお返ししていいですし」

 

「いや? 僕は「エルリック工房」の店主ではあったけど、「エルリック菓子工房」にはノータッチだからね。2人が中心になって築いてきたお店を乗っ取るような真似は出来ないさ。ちゃんと下積みをさせてもらうよ。寝泊りはここでさせてもらえると嬉しいけど」

 

言質はとった。オーナーはあたしのままだ。

 

「言いましたね? 解雇なんて絶対しませんし、辞職したら今度は付いていきますからね? あ、ちなみにアルさんとキロさんは約束の時間に遅れましたからペナルティですよ? まずは今晩の時間をまるまる貰いますから。キロさんは……エルマーも居ますし、まずは学び舎へシンシアさんに挨拶しに行きましょうか」

 

「それは全然構わないけれど……なんだか気迫が? 獲物として見られている気分がする」

 

「アル……大人しくお縄についてもらっていい? 今のライザからはまず逃げられない――先に謝っておくよ、頑張って。私も……全く別の方向でだろうけど頑張るから……」

 

「その説明も全然要領を得ないんだけど? すっごい不安になってきた……」

 

「これはロミィさんもここへの正式就職をガチで検討しないといけないなあ」

 

「アル君の手が以前よりも空くようなら、こちらの活動も手伝ってもらえると嬉しい。ウチの両親にも顔を出してやってくれ」

 

「同郷の方が増えるのは嬉しいですね。あちらの様子も聞きたいですし……オーナー、これで皆さんの分が行き渡ります」

 

「ありがとうセリさん」

 

 

 

アルさんを手伝うつもりで始めた錬金術から……今の時点じゃまだまだ支え(助け)られる側だけれど。

ホントの意味はまた別の話にするつもりだ――その話はここから始まるんだから。

 

 

 

 

 

 

まずは理解してもらおう……あたしを。

そしてあたしも理解しよう――この秘密だらけの錬金術師さんを。

 

これからじっくりたっぷりとね! この人相手にはド直球だと学んだのだ!

 

 

 

 

 

 

さってと!

 

「えっと……行き渡ったかな? それじゃあ食べる前にあたしから――言ってなかった事を」

 

これは――全員揃った時に言うって決めてたから!

 

 

 

 

 

 

「みんな、おかえりなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーケン島っていう、わりと世間に知られるようになった島の、

旧市街なんて呼ばれてる、わりと沢山の人が観光に来る場所。

そこで……以前は色々やらかしてきたあたしは働いている。

 

島を守って、多くの人を笑顔にしよう、と奮闘しながら。

 

あたしは、ライザリン・シュタウト――通称はライザ。

わりと色々やってる農家の娘で――錬金術士で、菓子工房のオーナー。

 

そんなあたしは、今日も今日とて『不思議な工房』での

出会いで得たものと、あのひと夏の冒険で得た事を胸に抱く。

この、随分と賑やかになった光景に秘められた、

ここにしかない痛快で素晴らしい一日を、また始める。

 

虹色に輝く夏の空は、

約束の日から新しく始まる絶好の営業日和だ!




これにて本作は完結です。

最後にあとがきと、後日譚を含めた登場人物紹介を投稿致しておりますので
宜しければそちらもご覧いただければと思います。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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