ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
今回もよろしくお願いします。
「…………うん?」
何かがこちらに入って来た、様な気が?
そうだったとしてもかなり遠い。少なくともこの周辺という事は無いだろう。
この世界ではない可能性が高い。おそらく「門」の向こう側、彼らの世界か?
なんにしても、今更こちらに関わる事は無いだろう。
せめてこれ以上こちらを侵す存在でない事を願いたい。
さて休憩は終わりにしよう。次の波の気配。
作業に戻ろう。
――なんだか、お腹空いたな。
♢♢♢
「ひょーちゃくしゃ?」
「ああライザ、降りて来ていたのかい。大丈夫だよ、ライザが関わる事は無いだろうさ」
「エドワード先生以来だね。今回の人も危険な存在でなければいいんだが」
おかーさんとおとーさんが、なんだかむずかしそうなおはなしをしてる。
たぶん「そとの人」のことかな?
ずっとちいさいときから、あんまりちかづかないようにっていわれてる。
こういうのはボオスのほうがよくしってる。あそぶときにきいてみよう。
もうすぐくるだろうし。
コンコン
「失礼します。ボオスです」
「きた!」
「遊ぶ約束をしていたんだったね。あまり危ない所に行かないようにね」
「いつも申し訳ないね、ボオス。おてんばだから大変だろう?」
「だからこそですよ。ライザの世話はオレかレントくらいしか出来ないですから。ブルネン家の男としてとうぜんのせきむです。アガーテやシンシア先生も今は大変なじきですし」
「ぶるねんけのせきむ!」
「はいはい。ライザがわかるようになるのは、もう少し大きくなってからだな」
「シンシアもそろそろだろうね。その後も暫くは大変だろうから、年長組には頑張ってもらえて嬉しい限りだよ」
いっしょにあそぶ4にんぐみで、いちばんのおにいちゃん。
このしまのえらい人のこ? よくしらないけどそういういえらしい。
ひょっとしたら、ボオスはもうしってるのかな?
「ボオスはひょーちゃくしゃのおはなしってきいてるの?」
「もうライザも聞いたのか。昨日顔は見てきたよ。タオに似た金色のかみで、エドワード先生が言うには目も金色らしい。生きてるのがふしぎなくらいガリガリでおどろいた」
「タオよりも?」
「タオよりもだ。オレたちより年上みたいだったけど……うでも足も、枝みたいに細い」
タオよりガリガリで、えだみたいなてあしなのに、あたしよりねんちょーさん。
あたまにうかべられないなぁ……。
「まあしばらくは動けないだろうから、ライザが会う事はないさ。アガーテのところにはしばらく行かないようにな」
「なんで?」
「アガーテの家でめんどうをみてるからだよ。あのじょうたいじゃ、島の外に行ったら死んじゃいそうだから。掟は守らないといけないけど、死なせちゃいけないとオレも思うし」
ボオスはよくしってるみたいだ。これも「ぶるねんけのせきむ」?
アガーテおねえちゃんのいえにいるんだ。まもりてってたいへんだね。
むずかしいおはなしがおおいけど、びょーきなのかな。
「そとの人にはかかわらない」。ずっとそういわれているけど。
その人げんきになるといいね!
♢♢♢
「…………んぅ」
なんだ?
身体の感じが明らかにおかしい。なんなんだ、この気持ち悪い感じは。
目の前に広がる光景は……これは天井か。寝ていたのだから不思議ではないけれど。
若干景色がいつもより鮮明に見える。いきなり視力が回復したかのような。
ここ数年見続けてきた天井とは明らかに違う。土製の天井?
それにあの電灯はなんだ? 白熱の灯りじゃない、どうにも違う何かに見える。
「…………ぅん? あっ起きた!!! お父さんお母さん! 目が覚めたよ!!!」
傍にいたらしい女の子の声が、耳から頭の中を貫通していった。
だけど不思議と「五月蠅い」とかは感じない。混乱しているせいかな。
見た事がない子……だよね? 一瞬後ろ姿を見ただけだけど10歳と少しくらいかな?
昔のメイよりずっと背は高いみたいだけど、感じられる雰囲気は近い。
とにかく害意がある子ではないらしい。それだけでも少し安心できる。
誘拐されたわけではなさそうだけど、ここがシンだとも思えない。
状況を確認しないと……?
首が……身体が起こせない? 拘束された感じはしていないのに。
力が入らないのか? 何かが引っ掛かってでもいるの……え?
(……そんな馬鹿な)
なんだよ、この腕は。指は。ボロボロの爪は。
まるで真理から助け出された時の様な、皮と骨だけの腕。
僅かに見る事が出来た足も、まるで人体模型かのように骨がクッキリ浮き出ていた。
オマケに声も声になっていない。かすれてしまっている。
声の出し方は知っているけど声帯が思ったように動かない。そのくらい鈍っている。
でも喉の違和感はない。どうなってるっていうんだよ。
「目が覚めたか」
大人の男性。さっきの女の子も後ろ隣に居る。という事はこの子の父親――ここの家主の方。
幸い言語は同じ。ここはアメストリスやシンから離れた場所ではないって事か。
「俺が言ってる事、分かるか?」
「あ……い」
「はい」と言ったつもりなのに、母音だけが精一杯らしい。
なんにしても言葉が通じるのは大きい。意思疎通は出来そうだ。
「俺はフェイズ・ハーマン、ここの家主でこの娘の父親だ。自分の名前……言えるか?」
「……あ、ぅ、おん……す、えす」
名前の発声すらできない。これは真理から救出された時より遥かにヒドイ状況だ。
もう少し喉の力を溜めればいけるか。ゆっくり音を形作れば。
「…………あ……る、でう」
いけた。
「アル、だな? 喋るのはまだ難しそうだから、こっちから一方的に話をするぞ。可能そうなら頷いてくれ。出来る範囲で構わない」
ありがたい。こちらの状況を汲んでくれている。とにかく一回、ゆっくり頷く。
この様子だと誘拐されたというのはなさそうだ。何かしらで遭難したかのような。
でも、いつ、どうやって。
「ここはクーケン島って島だ。ロテスヴァッサ王国の南部地方にあるエリプス湖上のな。アル、君は昨日の昼に島に漂着したんだ。十数年ぶりだな、こんな事は」
???
言葉は通じているのに知らない単語のオンパレードだ。
「ロテスヴァッサ王国」? 「クーケン島」? 「エリプス湖」?
どれもまったく、知識にかすりもしない。国の名前くらいは知っていそうなものなのに。
アエルゴと同じ王制みたいだけど、自ら「王国」を名乗るなんて珍しい。
しかも湖に浮かんだ島というなら、眠りについてからその湖に投げ込まれた事になる。
僕が寝たのは普通に夜。ここに漂着したのが昨日の昼。
今が何時なのか分からないけど、少なくとも寝てから24時間は経過しているらしい。
その間の記憶が全くない。なにより何でこんな身体になっているんだ?
24時間どころじゃないのか? 水分だけ点滴で与えられて栄養失調で餓死寸前……ひと月は経っている?
だとして、そんな事に何の意味があるんだ。
「俺はこの島の護り手……衛兵とでも言えば分かるか? そのトップをやってる。しばらくはうちで面倒を見てやるから心配するな」
「…………あ、い、あ」
「ああ大丈夫だ、頷いてくれればいい。取り敢えず君が世話しやすそうな少年なのは分かったからな。身体、起こしても大丈夫そうか?」
衛兵のトップだったのか。発見されてここに担ぎ込まれた感じかな。
なんにしてもありがたい。敵対者ではないとも認識してくれている。これは大きい。
身体は……自力では無理か。痛みはないけど違和感だらけ、力が入らない。
何も感じない。
今はお願いするしかない。頷こう。
「よし、力は抜いててくれていい。アガーテ、水差し持ってきてくれるか? ストローもな」
「分かった」
フェイズさんが僕の上体を背中から支えて起こしてくれる。
掛けられていたタオルが滑り落ちて、自分でも上体を見られるようになった。
あばら骨が浮いて、腹部がくぼんで、枝の様な腕の関節だけが不自然に膨れている。
さっきから視界に自分の前髪が映ってうっとおしいから、髪も多分伸びている。
完全にあの頃の僕の様な状態だ。漂流していたというなら皮膚にもダメージが入っているかと思ったけど、幸いそんな事はないらしい。漂流自体は短時間だったのか?
そして不思議な事に、触れられても身体が痺れる感じはしない。感覚がマヒしているのかな。
少年呼びという事は、見た目にも成人の身長には見えないという事だろう。
どうやって僕の身体は縮んだ? 点滴だとかは関係ない。そんな人為的な方法じゃない。
……まさか、僕は人体錬成をされたのか?
「持って来たよ」
女の子――アガーテさんが水とコップ、それに……麦の茎? を持ってきてくれた。
いやまあストローには違いないけど、本来の意味の
つまり……プラスチックの資源が不足しているのか? 化石燃料が乏しいのかもしれない。
でもコップは見た感じガラス製。熱源の確保には問題がないらしい。
「飲めそうか?」
喉の渇きは感じないけど……飲んでおいた方が良いだろう。
喉が潤えば多少は声が出しやすくなるだろうから。
考えたい事は山のようにあるけれど、今分かっている要素では多分答えに辿りつけない。
頷いて、コップを支えてもらって、ストローを咥えて、水を喉に流し込む。
おいしい水だ。湖の水をろ過しているのか? 湧き水っぽい感じだけど。
「あり……が、とう……ご、ざい……ま、す」
「おう。今エレナ……うちの女房が医者を呼びに行ってる。すぐに来ると思うから診てもらってくれ。俺は島の連中にアルが目覚めた事を知らせてくる。アガーテ、見ててやってくれるか?」
「うん。いってらっしゃい」
医者も呼んでもらっているのか、本当にありがたい。電話は引かれていないらしい。
僕がここに来た事自体は偶然の産物みたいだ。文字通り遭難した感じなのかな。
個人で島全体に周知できる程度って事は、それほど大きな島ではない。
湖にある島という時点で限度があるんだけれど、多分小さい部類だろう。
修行をさせられたヨック島よりはずっと大きいだろうけれど。
フェイズさんが出ていかれて、部屋には僕とアガーテさんが残された。
ちょっと気まずいけど、彼女はもっと気まずいだろう。
全く知らない男の様子を見なければいけないのだから。
「お水、もっと飲む?」
と思ったけど、意外と表情は明るい。気に掛けてくれたのか話しかけてくれた。
年下の女の子に何をさせているんだ、僕は。
「いま、は……だい、じょ、ふ、でう」
「そう? 欲しかったら「水」って言ってくれればいいから。ここでは心配しなくていいわ」
顔を見た感じの年齢のわりに、雰囲気と口調は比較的大人びている。慣れている感じだ。
衛兵……護り手といったか。その家の娘さんだからこういった感じに育つのかもしれない。
「アタシは12歳。あなたは?」
12、かぁ。僕らにとって丁度あの頃。
そう考えると、やっぱりこの子は大人びていると言えそうだ。
当時の僕らに誰かの世話が出来たとは思えない。
さて質問に答えようにも……僕は今何歳扱いなんだ?
仮に記憶がある時の年齢なら20歳だけど、どうみても20歳の身体には見えない。
アガーテさんがこうして比較的気安く話しかけてくれているのは、僕が年上に見えないからって事もあるだろう。
少なくとも10歳以降14歳以前でこんな身体の状態にあったはずだけど、実際いつ頃なのか、それ以前にここに至るまでの経緯が完全に不明だ。適当な事を答えるわけにはいかない。
「……わかあ、ない、えす」
「……そっか」
これで記憶喪失扱いか。間違ってはいないはずなんだけど。
接し方は見た目の年齢になる。なんだか騙している様で悪い。
「ボオスやライザ達よりは年上、だけど多分アタシよりは年下……10歳くらい? じゃあ、ここに居る間はアタシがお姉ちゃんだね! これで弟分もできたかぁ」
……これはどうしようかなぁ。精神年齢20歳の男に、12歳の姉……。
という事で、外伝は前々日譚的なお話。
主にライザ以外の人物の視点で描かれます。故のボツ扱いでした。
アルがこの世界に来てからの10年を真面目に考えたらどうだったか、そういうテーマです。
原作にはほぼ描写がありませんのでオリ設定万歳状態です。
当時のライザは7歳、ボオスは8歳。こんな感じだったんじゃないのかなと。
ライザ達の世話を見ているだけあって、アガーテは聖人です。
大体こんな感じの雰囲気で本作第1話に向かって行きます。盛り上がる場所がない。
別作と同時連載なのでデイリー投稿ではなくかなり不定期になりますが、
おおよそプロットは書いてありますのでエタらせずにいけると思います。
次も10年前のお話になります。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。