ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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新年あけましておめでとうございます。
今年も本作を宜しくお願い致します。

全てはここから始まった的な。ようやく解禁です。
が、ライザ達やキロの存在がないとアルのワンマンなんですよねえ……。

訂正報告ありがとうございました。
適用を非常に悩んだのですが、そのままにさせてもらっています。ご了承ください。
新しく評価も頂きましてありがとうございました。

今回もよろしくお願いします。


128. 9年前②   エルリック工房のはじまり

「今の自分に誇れる姿になってこい。騎士になったかどうかは気にするな」

 

「たまには手紙を送って頂戴ね。やっぱり心配になるから」

 

「勿論だよ、父さん、母さん。ちゃんと騎士になって来るし、季節ごとに手紙を出すくらいは出来ると思うから。行商の人にも話はしてあるからさ」

 

乾季に入ってひと月ほど経過した頃。

アガーテさんが騎士となるべく、この国の王都「アスラ・アム・バート」に旅立たれる日が来た。

やはりかなり遠いようで、対岸に渡って隣町まで陸路で移動し、そこから大型船で王都近郊へ移動するらしい。結構な長旅だろう。

 

そんなイベントではあるけれど、この島においては盛大な祝いの門出といかない様子。

まあ掟に反する行為ではあるから仕方がないと言えそうだ。

 

見送りに来たのはフェイズさん、エレナさんご両親。エルマー君を抱いたシンシアさん。護り手の方の数人。僕――漸く杖無しでも汗がなんとかなる域まで来た。

 

そしてライザ達三人組だ。正直不思議な組み合わせだと思う。

 

中身がガキ大将で常にアクセル全開のライザ。ここ最近で喋る時間が死ぬ程増えた。

ヤンチャな雰囲気ではあるけれど根が真っすぐで、実はブレーキ役なレント君。

インドア系で二人と正反対そうに見えて、それでも一緒に過ごせている潤滑油なタオ君。

上手い具合にバランスが取れている――ボオス君は取りまとめ(ハンドル)役だったんだろうか。

 

アガーテさんの予想通り、初めて会った翌日にライザが2人を連れてきての対面となった。

それ以来学び舎で顔を見せに来てくれる事も多い。

 

その中で、こんなやり取りがあった。

 

 

 

「ねえアルお兄ちゃん」

 

「どうしたの、ライザリンちゃん」

 

「ライザ!」

 

「うん?」

 

「ライザリンちゃんじゃなくてライザ!!」

 

「ライザちゃん、で、いいのかな?」

 

「ライザちゃんじゃなくて、ラ・イ・ザ!!! あたしのお兄ちゃんなんだもん!!!」

 

「えぇっと……ライザ?」

 

「うん!!!」

 

 

 

という事で、僕も彼女を「ライザ」と呼ぶ事になった。なかなかに押しが強い……。

クーケン島の住人相手に名の呼び捨てをするのは初めての事だ。

 

「がんばってきてね」

 

「アルお兄ちゃんはあたしがもらうね!」

 

「戻ってきたらぶったおしてやんぜ!!」

 

一番まともな見送りの言葉が、一番年少の6歳のタオ君なのはどうかと思うんだ。

レント君はまあ、性格的に分からなくもないけど。

ライザの「僕は貰う」ってなに?

 

「……アル君」

 

当のアガーテさんからお呼びがかかった。見送りの挨拶はもう済ませたんだけど……?

 

「父さんと母さんの事、改めてよろしくお願いするね」

 

「僕はお世話になりっぱなしの身ですけれどね。ですが、改めて承知しました」

 

本当に言葉通りだ。これまで何一つ御礼が出来ていない。

御礼をしていくのはここからになる。だから、しっかり頷く。

 

「それと――ライザの事は()()()()だと思う様に」

 

それで終わり、かと思っていたのに……。

 

 

 

「人じゃなくて動物。半分近く野生の獣よ。まともに人の言う事を聞くだなんて思わない様に。適当に餌を与えておけば勝手に食べてるから。察知の為にカウベルを付けておくのもいいかも。連れ回される時はリードを付けて。ミオさんかシンシアさんの名前を出したら多少は大人しくなるわ。一緒に寝てあげようとか思っちゃダメ。裏拳と膝蹴りが飛んでくるから。ついでに手に歯形が付くから。お風呂もダメ。せっかく丈夫になった腕や肩が脱臼しちゃうから。アル君のアル君を蹴られるかも。うにを投げられたら投げ返していいわ、ライザだから。嫌だと思ったら大げさな反応で伝えるのよ? そういう人の感情を覚えさせる事もアレに必要な調教だから。改善しないようならすぐ手紙を頂戴。何時だろうと戻って来てこっちで叩き直すわ。いい?」

 

 

 

想像を遥かに超える長さの言伝が一息で来た――流石に酷くないですか? 調教って。

 

聞いていた通り、たしかにマシンガン並みに物凄く質問をしてくる子ではある。

だけど脈絡がない質問はしない。きちんと理由に基づいて質問をしてきて、納得ないし理解出来た質問は二度として来ない。或いは話が発展する。極めて飲み込みが早いのだ。

 

ボオス君のように自学をするタイプではない。この子は聡明というより天才型だ。

シュタウト家が大成しているのは、この子の様な人物が時折生まれているのかもしれない。

ご両親であるカールさんとミオさんとは顔を合わせたくらいだけど、思考力はカールさん、性格はミオさん的な感じなんだろう。まあミオさんは仕事熱心派だから、自由なのはカールさん側かな?

 

まあ……少々やんちゃが過ぎる点は否定出来ない。

アクセル全開を越えて、暇つぶしに人体錬成を始めそうな勢いが常に発揮されているから。

 

僕がライザから得られるものも多かった。

そしてこの子と接していると、いかに自分が説明下手なのかを自覚する。

専門用語を使った大人向けの説明なら問題ないけれど、何かに形容して子供向けに説明するのは極めて下手だと判明した。

 

「人ってどうやって生まれたのかな?」と質問されて、取り敢えず真核生物共通の受精卵の細胞分裂の話からしようとして……後にシンシアさんの正座説教90分コースを受けたのは記憶に新しい。

まだリハビリ中だったのに容赦がなかったね。ここに来てから一番ダメージを受けた気がする。

ライザは「あたしも卵から生まれたんだ!?」と勘違いしかけた。どうするべきだったんだろう。

 

説教は受けたけど答えは出ない。この辺りは改善しないと、またいつかへこむ事になりそうだ。

 

 

 

「分かりました」

 

「戻ってくる頃にはお互い大きくなっちゃってるだろうけど……私はアル君の姉で、アル君は私の弟だから。それも忘れないでね」

 

「ええ。いつまでもアガーテさんは僕の大切な女性(家族)ですよ」

 

「…………これは別方向にも不安だなぁ」

 

実年齢的にはこっちが上だろうけど、この一年彼女には散々お世話になった。

アガーテさんがクーケン島における僕の「姉」というのは間違いない。

ならば姉の守ろうとしているものを、不在の間は出来る範囲で守ろうと、そう思っている。

 

 

 

そうしてアガーテさんは旅立たれていった。

騎士になるための養成機関があるわけじゃない。そういうのは貴族向けだそうだ。

だから兵士からの叩き上げになる。でもアガーテさんなら大丈夫だろう。

 

さてと。

 

「アルお兄ちゃん! 今からいい!?」

 

「ゴメンね。今日は大事な用事があるんだよ」

 

「ええーーっ!? なんで!? あたしより大事なの!?」

 

僕にとって一大転機になるだろう日、だからね。なんか勘違いされそうな表現は止めておくれ?

 

「しかし……本気なのか? アルフォンス。まだ身の回りの世話全てを一人でこなすのは相当きついだろう。ウチから通う形でもいいんじゃないか?」

 

「痛み入ります。ですがどうにも甘え癖が出てしまうようですので」

 

「貴方が私達に甘えた事ってあったかしら? 寧ろアガーテに付き合ってもらっている感じすらしていたけれど……」

 

気付いていたのなら止めてください。お風呂とか抱き枕とか人間背もたれとか、心に悪い。

普通の精神性だったら性癖曲がっていると思いますよ?

 

「引っ越しすんのか?」

 

「うん、パットさんの染物屋さんにね。あそこをお借りして僕も働こうと思っているんだ」

 

「いいなあ。オレも早くデカくなりてえ」

 

早く自立したいらしいレント君だから、すぐにその方向に結びついたらしい。

 

 

 

ハーマン家や学び舎がある旧市街に、数年前にお店を畳まれたパットさんの染物屋の工房が空物件として残っている。

このクーケン島内では比較的大きな建物で、空間も自由に取れるから使い勝手が良い。

 

アガーテさんには内緒だったけど、このタイミングで僕もハーマン家を出るつもりでいた。

勿論フェイズさん達への恩返しはしていく。だけど僕に関して試さなければならない事や、この世界で確認しないといけない事が山ほどあるのだから。

 

 

 

「なんのおしごとをされるんですか? そめものやじゃないんですよね?」

 

「最初は修理専門の道具屋さんかな。モリッツさんからいくつかお話をもらっていてね。お金も頂いているから、まずはそこから始めようと思うよ。これもリハビリになるから」

 

「そうこをかりたの!? 新しいあそび場にできる!?」

 

「ライザ、そんなに退屈なら宿題を3倍くらいに増やしましょうか?」

 

「やだぁ!!」

 

シンシアさんから恐怖の象徴を示されて、ライザは勢いよく逃走した。

こりゃ仕事の事も一人暮らしの事も聞いてないね。

この島内で最もライザを制御可能なのがシンシアさんだろう。流石は教育者だ。

 

「ライザのしゅくだいがふえると、ぼくがやる分もふえるのでやめてください」

 

「あらあら、それは控えないといけないわね」

 

そしてその宿題はタオ君が代行しているらしい……2つ下だよね? 苦労人だ。

 

「器用とは聞いていたが、そんな事も出来たのか?」

 

「色々試してみないといけませんけど、まずは手を付けてみようかと。砥ぎもしようと思っていますから、護り手の仕事道具にご相談があればお話しを頂ければ」

 

「分かったよ。錆びちまったらいざって時に使えないからな」

 

「いつかオレの剣もといでくれよな!」

 

「勿論。格安で引き受けるよ」

 

ハーマン家を通して護り手の方々とは普通にお話しできるようになった。

護り手の活動にはクーケン島に来る数少ない行商人達の護衛も含まれる。

つまり正しく武器としての剣を使う機会がゼロではない。こっちの需要も生まれるだろう。

レント君が将来持つ剣……父親は傭兵だと聞いたけれど、その方が剣士なんだろうか。

 

「まあ独立には反対しないが、偶にはこっちにも顔を出せ。さもないと早々アガーテに戻って来てもらう事になるからな、飯くらいは食いに来い」

 

「……承知しました」

 

これ以上大きくなったアガーテさんと風呂に入ったら常識が完全に破損する。気をつけないと。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「これがここの鍵だ。権利関係はモリッツに聞いてくれ」

 

「はい。ありがとうございました、パットさん」

 

「ここも使われないよりは喜ぶだろう。ではな」

 

こうして、クーケン島における僕の第二の生活がスタートした。

生活用品は最低限だけハーマン家から頂く事にした――何も頂かなくても生活が出来てしまう以上、無しだと逆に不思議がられる事もあるだろう。この辺りも確認していく事になるわけだけど。

暫くは食事もして、夜は横になって、生活リズムが安定次第今の体質の詳細を調べる事になるか。

 

お借りした建物は元は染物屋。故に布を広げるためのスペースとかは確保されているけど、修理や道具製作の工房として使えるような設備はない……ならば作るまで。

 

 

 

仕事をしなければ、独立しなければというのは本心で間違いない。

だけどフェイズさんの言って下さったようにここまで急ぐ必要があったのかというと、そんな事はない。僕の都合によるものだ。

 

あの家で最も長く同じ時を過ごしたアガーテさんが去られた後ではあるけれど、三大欲求などが存在しないと思われる僕の体質がバレる可能性がある。

 

現在最も気を張らなければならない存在はライザだ。あの子、相当に勘も良い。

喋り続けでも水分を摂らないとか、リハビリの負荷に対する回復の早さとか、彼女を膝枕していた間に僕が一度も身じろぎをしなかったとか、うたた寝の振りをしたつもりで呼吸のリズムが変わらないとか。

 

日常(当たり前)に疑問を持ててしまう才能。僕が迂闊だったというだけではあるのだけど。

 

加えてライザには魔法の才能があるらしい。ミオさんの血なのかな。

魔法の知識が欠如している僕は、この世界の住人が常識的に取るリアクションが分からない。記憶喪失の一言で片付けてもいいかもしれないけど、エピソード記憶は無くても意味記憶はある程度存在している事になっている。

 

魔法が一般的な概念であるなら、当然この世界の一般常識として知っていなければ不自然。

ライザだとその違和感に気付きかねない。何せ僕はまだ一度も魔法を見た事がないのだ。

使い手は少ないのかな? ミオさんは魔法使いのようだけれど、使われているのを見た事がない。

純粋に驚けばいいのか、褒めればいいのか、助言すればいいのか。対策を練らないと。

 

 

 

モリッツさんから頂いたお仕事は、まずは小舟の修理。

漁業が主な産業の一つであるこの島ではかなり重要な仕事と言えるだろう。

その仕事に手を付けるためにも。

 

「さて……やるか」

 

島に来て1年少々。漸くその機会がやって来た。

二階は二部屋。一部屋は居住用、もう一部屋を物置兼実験室的な扱いにする事になる。

とにかく外から見える事も音が聞こえる事もない、窓のない部屋を使わないといけない。

 

扉の鍵を閉め、荷物から取り出すのはゼッテルと黒鉛。

そこに描いていくのは、鉄と木を「理解」するため、「分解」するため、「再構築」するための図式。今でもしっかりと覚えている。

 

 

 

「錬成陣」――僕の本分たる「錬金術師」の象徴と言えるもの。

 

 

 

この世界で錬成陣を使った化学変化(錬金術)が可能かどうかは分からない。

地殻変動はあるだろうけれど、自然法則には違う点があるのだ。

機能しないだけなら御の字だけれど、失敗して最初からリバウンドを起こしたら笑えない。

 

本当なら最初に作りたいものが二つあったけど、それは後にしよう。

 

素材は砥ぎの練習用としていくつか頂いてきた、長年護り手に使われていた古い錆びた剣。

刀身は銑鉄。強度を見るにかなり炭素含有量が多く、脆い。加えて合金というよりも不純物が大量に入ってしまっている状況。護り手の武器は全体的に鋳込み直しをすべきかもしれない。

グリップはミズナラ。こちらではアイヒェと呼ばれるらしい――偶に単語の違いがあるね。

木工品として使用可能な丈夫な木材ではあるけれど、硬いが故に加工が甘く力を入れづらい。

 

そんな剣をゼッテルに描いた錬成陣の上に置く。陣の端に両手で触れる。

こんな身体と精神になっても、なんとなく緊張はするらしい。

 

そして。

 

 

バチッ!!!

 

 

視覚、聴覚よし。五体よし……五感よし。

リバウンドは起きていない。

 

そしてゼッテルの上にあるのは、先ほどまで錆びた剣()()()真新しいノミと余った塊(スラグ)

 

「錬金術は使える……つまり真理の扉を僕は持っているし、この星の人達も扉を持っている可能性があるのか。錬金術師がいる可能性もゼロじゃないと」

 

記憶やガワだけをコピーされた存在ではないらしい。

取り敢えず僕が「アルフォンス・エルリック」である事は間違いないみたいだ。

 

錬金術が使えるのは大きい。これで大体の事はどうにかできる。

さて、今度はもう一つの方の確認だ。

 

先ほどと似たような錬成陣を描く。でもその考えは、錬金術とは少々異なる理論に基づく。

そして同じように錆びた剣を置く。陣に触れる。

 

――結果は予想がついている。

 

 

シーーン……

 

 

「やっぱり……錬丹術は使えないか」

 

この島で目覚めてから早い段階で感じていた違和感。「気の流れ(龍脈)」を感じない。

 

これについては僕の理解が不足している可能性も十分ある。錬丹術も最初はそうだった。

あっちと違ってこちらには「エレメント」と「魔力」という別の要素が存在する。

これに関する理解が不足している結果、機能していないとするなら。調査しないとだね。

 

取り敢えずこれは後回し、今後の課題だ。最後のチェックを行おう。

 

今までと違って陣を描く下準備は必要ない。「この身体の存在」自体が下準備だ。

あとは――循環の円を成すのみ。

 

 

パンッ!!

 

 

上手くいってくれ……!

 

 

ドッ!

バチッ!!

 

 

「……いけた。つまり、()()()の身体でもある、と」

 

二本目の錆びた剣は金槌(ハンマー)になった。これで大体の物は錬金術無しで作れるだろう。

 

手合わせ錬成が成功した。

つまりは一度、僕の身体は兄さんの人体錬成の通行料として支払われ、マーテルさんの血を浴びて真理に関する記憶を取り戻した経験があり……一番若くてもその後の存在だという事だ。

記憶は二十歳になるまで連続して記憶されている。普通に考えればこの時点からの存在。

だけど実際には肉体だけ若返っている。それもあの頃を再現したかのように正確に。

 

これは人体錬成でも実現できるものじゃない。本当に時を巻き戻したかのような。

今はヒントが足りない。これから集めていかなければならないね。現状、大切なのは別の事だ。

 

 

 

去年、僕がこの島で初めて目覚めたのは「14歳の時以降の身体」だと確定した。

――アガーテさん、本当に申し訳ありません。身体もやっぱり年上でした。しかも2つ以上。

 

 

 

これバレた時は尋問待ったなしだよね!? 15と13はどう考えてもダメでしょ!!

もしウィンリィが相手だったら、鎧の体だろうと原形を留めないくらい殴られてる気がする。

 

これをお話しする日が来たら誠心誠意謝ろう……今のおかしな精神でも心からそう思える。

ライザにも気をつけないといけない。流石にそっち方面は大丈夫だとは思うけど、彼女とは今後距離感が相当近くなる予感がある。

 

「さて……仕事に取り掛からないと。ここからだ」

 

まずは小舟の浸水修理から。それが上手くいったらブルネン家所有の船の補修も予定に組み込まれている。まずは工法を検討しよう。

 

その後は護り手の方々の剣の作成。剣が銑鉄で出来ているなら、農機具も銑鉄製である可能性が高い。剣以上に衝撃頻度が高いんだから欠けだらけだろう。行商人の方々が持ち込まれるものの品質調査をして、逸脱しない範囲で良品への加工を検討しようかな。

 

炭素含有量の調整は当然として、クロムやニッケル系金属が見つかったらステンレス化するものいいかもしれない。不純物からも何かしら錬成出来るだろう。合金がないなら……シンに伝わっている折り返し鍛錬はやり過ぎかな? 精々焼き入れまで。この島の周辺だけでも知らない素材が多いから確認しないといけないや。

 

その辺を一通りやった後に、僕の象徴と、兄さんの象徴を作るとしよう。

あちらに関する事がこの世界にないか、帰る手段がないかを探し続けるシンボルとして。

 

これは都度ボオス君に相談しないといけないね。際限なくやってしまいそうだ。

さて、港に向かおう。現物確認はものづくりの基本だ。

錬金術を使わない木材の修理……兄さんとの屋根修理勝負がこんなところで役立つなんて。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「くぎを使わずに、しゅうりが可能なんですか?」

 

「うん。ちょっと手間はかかるけど、釘が抜けたり錆びたりする心配は無いし耐久性も十分だと思う。新しく金属を買う必要もないからいいかと思って相談させてもらったんだけど、どうかな?」

 

この人の頭の中は、一体どうなっているんだ?

 

 

 

アルフォンス・エルリック。

去年この島にひょうちゃくした、金髪金目のよそ者。

 

ひょうちゃくした時は、生きているのが不思議なほどの身体だった。

人間、あの状態でも生きていられるんだとおどろいたものだ。

 

性格はおんこう。そしてかなりしんぼう強い。

ハーマン家では基本じゅうじゅんだったと聞いている。全く手間がかからないと。

 

そして……新しい行商人のほぼ全てがかいたくをあきらめるこの島において、精神的にくじけた様子を一度も見た事がない。オレ達への対応もていねいだ。心が強いといえる。

古老に対するアガーテの抜剣さわぎはあったが、それが無くても平静を保っていただろう。

 

つまり歳は間違いなくオレより上、どころかアガーテより上の可能性もある。

それでいてあの身体だったという事は、いずこの地の戦乱の果てに流されてきたというところだろうか。やはり外は恐ろしいな、記憶というのも飛ぶのかもしれない。

 

 

 

まあその辺りはいい。きょうぐうに同情する点があるというだけの話。

問題なのは発想力だ――島民とは全く別世界の、はるか高みに位置しているとしか思えない。

 

 

 

父さんがたまたま目にする事になった、障がい者向きであるらしい杖。

島外で売られていると聞く魔法用の杖とは違って、単なる枝の組み合わせで作られただけ。

にもかかわらず、かなり強度が高い。オレどころか父さんが使ってすらたわみもしない。

形自体はかんそなのに、たしかに身体を支えるのに適したものだった。身体をてこにするとは。

 

ただの枝が組み方としばり方一つで、あそこまで変わるものだとは思わなかった。

けんちく工法の応用だろうが、子供でも簡単に作る事ができる。が、島にはなかった。

そういうものをあっさりと頭に思い浮かべられる……元々の考え方が違うのか、何かしら記憶が残っているのか。

 

そして、先ほど説明された舟のしゅうり方法。一例が目の前にある。

 

「栓打ち」なる工法。木のだんめんを加工して組み合わせるだけでなく、木のくさびで固定する。

今しがた説明を受けた通り、たしかに材料費はかからない。くぎが錆びたり抜けたりもない。

 

ほぞ接ぎの一種ではあるんだろうが、ネックになるのはその手間だ。

父さんがこの技術を知っていたとしても提案はしなかっただろう。

 

住居のけんちくですら、ここまで複雑なだんめん加工をしているのは見た事も聞いた事もない。

たかが小舟いっせきのしゅうりに使う技術とは思えない。とてもなめらかな接合部。

そしてゆるむ気配も全くしない。くぎを使ったしゅうりよりはるかに丈夫だろう。こんなものが。

 

恐るべきは、これが単なる木材とハンマーとノミと尺だけで再現可能だという事。

つまりは島の「掟」を守った上での技術。魔法と違い、やり方を学べば誰でも話の上では出来る。

ただ、硬いアイヒェをここまで細かく正確に彫るのは簡単じゃないはずだ。計算力も必要だろう。

つまりは「相当努力しなければ使えない」シロモノではあるという事。

 

――こちらの意図を汲んでいる。あんいに楽になる物を持ち込むなという島の方針を。

 

この人がハーマン家から独立して作り出したものは、他にもいくつかある。

が、しょせんは子供の作ったもの。「おもちゃだろう」、「使えるものか」。

そういう先入観と掟の下、中身を理解せずにはんだんを下す――こちらが誘導しているように。

 

が、その中身を理解してしまうと……けいかいするオレですら関心を示してしまう。

外からの要素を組み込む事もなく、考え方一つでここまでの物を作れるのかと。

 

 

 

この人が「水」の秘密を知っているはずがない。そもそも高台の上に来る事がまだ体力的に不可能だろう。秘密をあばこうとする意図はないと考えるのが自然。

島外出身者で有能な人物はオレも知っている。エドワード先生には世話になった。

今の所はこの人もその枠に収まる存在だろう。危険ではなく、単純に優れた人材。

 

この人は……エルリックさんは、この島の中での役割を、「為すべき事」を定められた。

「道具屋」として島民の生活の下支えになると。

 

あのバカ共とはずいぶんな違いだ。爪のあかをせんじて飲ませたい。

 

とはいえ……けいかいは続けないといけない。何がきっかけで秘密が表ざたになるか、島民がおびやかされる事態にならないか分かったものではない。芯が強いが故にあきらめなさそうだしな。

父さんは受け入れる方針らしいが、わりと思い込みの強い父さんだ。ブレーキ役はいるだろう。

 

しばらくは通う事になるか。ついでにライザの大バカにもくぎをささねば。




という事でアガーテの旅立ち、アルの独立でした。まだ看板はありません。
本編ではあまり触れる事がなかったアガーテですが、アルの姉ポジとして書くとかなり楽しいです。
騎士となるべく島を離れていなかったらどうなっていた事やら。

説明下手は10年経っても結局治りませんでした。根っからの研究者ですから。

今後の9年間の内、ボオスのストレスの2割くらいがアルのせいです。可哀想に……。

次は1年経過して、新しい一歩を踏み出します。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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