ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
その主役級キャラが主役じゃない話がなんと5話続きます……。
外伝なので各キャラ目線にしてみたかったというのはあるんですが。
原作では特に語られない6年前のとある一日。
本作では随分大事な日になりました。
前述のとおり、アルやライザ視点ではありません。原作ではまだCVすらなかったという。
この辺から本編と少々ズレが生じますが、作者の頭の限界と見て頂けると幸いです。
今回もよろしくお願いします。
「いや、遠慮させてもらう。他所でやったらどうだ?」
「いえっ、他所では既に……って、まぁたダメかあ。これは思っていたより遥かに手強いぞ……」
若手の商人仲間から聞いた風の噂。半分ホラのようなお話。
――この国の果て、どこぞの国の名残だけ残る南のド辺境に不思議な島があるらしい。
地図にそんなものは載っていない。精々湖っぽい地形があるくらい。この辺更新されてないし。
治安のお話もあれば、外した時に犠牲にする時間とお金も少なくない。普通ならスルー一択だ。
だけど……何故かその話を改めて聞いた時の私には感じるものがあった。
若手の間ですら眉唾物の話だったけど、本当なんだとしたらそこで商売をやっている競合者は少ない可能性が十分にあった。
ならば早いうちに利権を得れば一儲けできる! ――そう思ってたんだけどなあ。
「まさかここまで排他的とはね……こんな辺境に実際に有人島があった事には驚いたけど」
♢♢♢
クーケン島。今まで全く聞いた事がなかった島だ。地図にもない土地が本当にあったとは。
陸路でひたすら南に下りに下って、途中の町で聞き込みをしても名前は出て来なくって。
この島から最も近い場所に位置する陸地の町で、ようやく島の実在を確認できた。
それでもまあ不思議な事に、島の内情に関する情報が得られない。
調べた限りそこの島の住人が来る事は滅多になければ、そことの繋がりがあると思われる数少ない行商人も島に関する話をしない様子。
現に数人それっぽい行商人に探りをいれたけど、「知らない」の一言でバッサリ。
つまりは緘口令を敷いてるくさいねえ。
島と行商する代わりに、島に関する情報を外部に漏らさない契約を結んでいる可能性。
一体何が眠っているやら……金のニオイがする。
とはいってもそこからクーケン島に向かうにはかなり危険な森林地帯を迂回して、街道を更に南に下り、最終的には舟で渡らなきゃいけない。
これだけ制限がかかっているなら、舟に乗れる人間もチェックされてるって感じ?
よくまあそんな土地があったもんだ。王城より入るのきついんじゃない?
でも、全ての人間を排除していたら行商人の出入りもない。
何かしらの理由で入り込む方法は存在するはずなのだ。
つまり、手っ取り早い方法は――
「……その娘は?」
「私の引継ぎです。今後はこの娘に私が運んでいた分をやらせる話で連れて来ました。無論約束はお守り致します」
「名は?」
「ロミィ・フォーゲルです。よろしくお願いします」
「じゃあ後は任せましたよ」
賄賂、という言い方は人聞きが悪い。
相手を見て、軽く話して、その人の人となりを把握するのは私の得意技であり最大の武器だ。
だから気の弱そうな人を見つけて販路を買わせてもらった。これまでの稼ぎが飛んだけど。
案の定というか分かりきっていたけど、内容に関しては「秘匿」に塗れた契約だった。
でもお金のニオイがするんだもん。大枚をはたく価値はあるはずだ。
と思っていたら。
「この娘を他に知っている者は?」
「いいや?」
「知らねえな。新人の他所もんだろ? どうみても若え」
「話も聞かねえです。この近辺を生業にしている娘ってのは」
マジか……。
入れるには入れそうだけど、周りの行商人にまで素性確認が入るとは思わなかった。
ここで何かしら話を作っても、既に意味はないなぁ。
「17です。行商を始めて1年は経っていますし、王都での仕事経験もあります」
「……権利は持っているようだし、代わりに入るというなら許可はする。契約を遵守し、後は役割に責任を持て」
これで普段クーケン島に関わっている行商人との繋がりがない事は、島民どころか行商人の間にすら知れ渡る事になったわよね。
閉鎖的な環境でこれは極めて不利だ。行商人同士で徒党を結ばれているような状況だったら、どうあがいてもこちらに客が回ってこないなんて状況すらあり得る。
私は破産に近づき、自身の販路権を他の行商人に格安で売る羽目になる。高すぎる勉強代だ。
オマケに今持ってきているものは、競合のリスクを下げるために変わり種が大半なんだよなあ。
――見た事も聞いた事もない小娘が、奇妙なものを持ってきている。
そんなレッテルを貼られようものなら島での商売は不可能。下手すりゃ出禁だ。
なんとしても生活を維持する程度の稼ぎは出さないといけない。
そんな、上陸前から不安に満ちた行商は。
もっとキツイ形で私に降りかかる事になった。
心の底からの、本心からの「拒絶」。その一言に集約される。こんな事ある?
軽く商品を眺められるのが偶然、顔を見られるのが稀、言葉を聞けるのが奇跡。
そんな扱い。
私は……ロミィ・フォーゲルなんて行商人はこの島に存在しない。そんな気分。
ごくたまに表情を確認できた島民から見えてきた心の声は、「とっとと出ていけ」という実にストレートな表現で私の心に突き刺さっていった。
勿論行商ってものが甘くない事は頭でも分かってるし、実際これまでに体験もしてきている。
新規開拓が難しいのはどの業界でも同じ事。競合者がいるなら尚更のお話。
だから私もそれなりの戦いを潜りぬいてきたつもりだ。その人の内心を正確に掴めるようになったのは、生き抜く上で身につけた私の信じる武器だ。
そして。今までどんな場所であっても、拒絶されるにしても。
僅かな時間だったとしても……「考慮」はされていたのだ。
見た事ない顔だから。若造だから。女だから。売っている物が気に入らないから。
お客さんの考えはそれぞれだ。各々の考えのもとに売買を断られるのは仕方がないし、当然な事。
「考慮」の機会すら与えられない。私が行く場所から人が消えていく。そういう
そこまで私は受け入れがたい存在なんだろうか。そんなに顔も悪くないでしょ?
お金目当てでここに来た事を咎められているとか? 商売人だよ? 島に命を捧げるべきなの?
島民全員がこの考えに染まっているとでも? 人口何人の島か分かんないけどさ。
だって私から離れていくんだもん。数えようがないよ。
人通りは淀み、新しい人の流れは生じず。私は自発的に誰かと話す事すら許されない。
これまで目に映った全ての人から負の感情が漂い、真っ黒な声が頭に鳴り響く。
私の武器が、私の心を無慈悲に抉っていく。自分で研いだ牙だ、加減もなければ防御もできない。
♢♢♢
「流石にキッツいなあ…………」
滅多に弱音は吐かない性格のはずだったんだけど、昼にすらなっていない上陸からたかが数時間でそんな言葉を口にしてしまった自分に興ざめだ。私はそんなに弱かったのか。
何かしらの方法で流れを変えるしかない。
今日は警戒され過ぎているから、どこかで作戦を立てる……事が出来るといいなあ。
間違いなく目ぇ付けられてるよねえ。島の警備的な存在に。
こっちは今日中にある程度稼がないと、宿屋に泊る路銀すら怪しいんですよ。
野宿すら認められないってんなら、人の流れを阻害する行商を夜も一人で延々と開いていろと?
ダメだなあ。悪い方向に考えがループする。
「………………これは」
「…………!」
そんな事を考えていた……そのせいで。頭を伏せていたせいで。
私の露店の前に誰かが立っている事に気付かなかった。商売人にあるまじき行為だ。
気を張り直せ。これがきっかけになるかもしれないんだから。
「いらっしゃいま……」
その相手の姿を見て――私の心は一気に照らされた気分になった。
イケメンだ。
男性、金髪金目、結構体格がいい。年齢は私と同じくらいの優し気な青少年、多分10代後半。
雰囲気からしてこれまで見てきた島民とは完全に別の存在。純粋な島出身者じゃない?
まったく冒険者がいないわけでもないだろうけど、服装を見る限りは住民だよね?
右手を顎に当て、商品を確認されているその男性の表情から感じられるのは、見て取れる心の声は、純粋な「興味」と「期待」の感情。
――私に「関心」を向けてくれている。
「見せてもらっても構いませんか?」
「あっはい! どうぞお好きなだけ手に取られてください! ちょっと変わり種が多いかと思いますけれど」
「そうですね、初めて見る物が殆どです。普段からこういった品物の仕入れをご専門に?」
「それはですね……」
本来自分の仕入れルートを話すなんて事はあり得ない。
だけど、私に興味を向けてくれたという事実に心は大はしゃぎだ。
黒い感情を一切感じない。まるで新しい興味を発見をした少年の様な明るい気配。
どこまでも外の人間に排他的とみられるこの島で、まさかこんな人に出会えるとは思わなかった。
加えてこの青年、地頭の良さが半端じゃない。頭の回転の速さは今までに見た事が無いレベル。
相当に奇をてらった物もあるのに、数秒で推論を立てて私に問いを投げてくる。
こんな辺境の島だ、閉鎖的な環境は文化が独特で発展途上な事も少なくない。
にも関わらず、知らない概念なんだろう内容以外は独力で正解に辿りつく知識と思考の柔軟性。
そして感銘を受けた反応をしてくれる。商売人としてこれほど嬉しい事はない。
「そちらの本は?」
「こちらですか? これもマニアックなんですけど、「錬金術」に関する書籍になります。今回は持ってきていませんけれど、他の学術書や百科事典とかも仕入れは可能ですよ?」
「……幾らになりますか?」
「1900コールです。えっと……試し読みして頂いても大丈夫ですけど?」
「そうですか? では少し失礼しますね」
なんとなく、今までよりも彼の心がときめいているように見えた。
書籍としてはかなり高い、まさか興味を持たれるとは思わなかった「錬金術」の本。
他の国では
なぜなら――錬金術が絡んだ利権は莫大な金を生む。
一般人にとっての石ころも、錬金術が絡めば金の生る木。物資の流通バランスすら狂う。
他の地方ではライセンス制だから大きな問題にならないらしいけど、法整備のないこの国においては一部が突出し過ぎているのだ。知られていないだけで高級品の大半に錬金術が絡んでいる。
そんな技術だから、それに関する書籍なんて表に流通するはずもない。
これは他国の錬金術の入門書を訳した代物で偶々入手しただけだった。原理は一緒らしい。
ただ私も一度眺めて見たものの、ほぼ理解できなかった。入門するにも敷居が高すぎる世界。
タイトルは「リンケージ理論の基礎」。普通なら5秒で読む気が失せるそんな本を。
パラパラパラパラ……
はやっ!!
これで読めているの!? 速読にも程がある。チラ見レベルだ。
でも目は捲られるページを追っている。間違いなく内容を確認している。
瞬間完全記憶能力というスキルがあるとは聞いた事があるけど、この人はそのスキル持ち?
そしてパタンと本を閉じて。
「買わせてもらいます」
笑顔でそう答えられた。恐らく既に中身を記憶しているだろうに、買う意味はほぼ無いだろうに。
1900コールもあれば数日は中級宿でも宿泊が可能なほどの額。それをわざわざ払ってくれる。
「ありがとうございます!」
「いえこちらこそ、興味深い品物をありがとうございます。他の……百科事典とかも仕入れが可能との事でしたけど?」
「はい! 図鑑とかだと鉱石学、植生学、魔物関連とかであれば比較的早くご用意できるかと。錬金術を含めた学術書関連となると……少しお時間を頂く事になると思います」
「じゃあ手に入る範囲で問題ないですから、それらを予約させてもらっても? こちらは前金という事で」
そう口にされてカバンから取り出されたのは。ええぇ……。
「10000コールは優にありませんか……?」
「13000コールくらいはあると思います……あぁそうか。これを持ち運びされるのは大変ですよね、申し訳ない。こちらで代替は可能ですか?」
いえ、まあ、確かに持ち歩きは少し大変でしょうけれども。
これをサラッと出せる資産持ち。というか、カバンに入れて持ち歩く額じゃありませんよ?
同じくらいの年齢だよね? それでこの金額を軽々と出せる? どこかの資産家の跡継ぎなの?
そして代わりに差し出されたのが。
「ごっ、ゴールドコイン…………?」
片手で数えられる回数くらいしか扱った事ないんだけど?
大きな金額を取り扱う貴族や大商会、銀行といった分野でのみ流通している特殊な金貨。
何故か魔物も好んで食べるらしいけど……その理由は今も謎。
それが10枚、私の手のひらに載っている。
今のレートは確認しないとだけど、少なく見ても20000コールは超えていたはず。
つまり20万オーバー。桁が一つ増えた。去年一年間の売り上げの7割は軽く達成できる額。
そんな大金を……初めて出会って数分しか経っていない得体のしれない他所者の小娘に?
流石に怖くなってくる。
「よ、よろしいのですか? こんな大金を」
「え? ええ、勿論。お仕事への対価なんですし。こちらからお願いするものの仕入れなんですから、別途経費が要りますよね?」
いや、そこはそうですけど……信用問題のお話とか。こちらに疑いを持たれないので?
これは前金なんだから贋金を使う意味もない。本当に必要だから渡されているだけなのよね?
売り手側の私がこんな事を考えているのがおかしい。詐欺師か私は。
「貴女の
これ……口説かれてる? わけ、じゃないよね? 多分言葉通りだよね? 天然?
相変わらず心には黒い物も下心も見えない。こんな事を考えている私の方が余程真っ黒だ。
イカン、このスマイルには墜とされるぞ……いや、墜とされてもいいのでは?
抵抗する理由がないわよね? 玉の輿うんぬんを別にしても今後こんな男性に出会えるか?
「私を貰って下さい」と口にしそうな気にすらなって来る。貰ってもらえるかは分かんないけど。
考えろ。冗談抜きにここで一歩を踏み込むべきなのでは? 私の幸せはここにあった?
「アル君、ここに居たのか」
そんな思考を一瞬で回して、口に出そうかというタイミングで女性の声が横から入って来た。
アブねえ、自分を商品として売り出すところだった……悪い意味じゃないけどさ。
この女性は衛兵、冒険者……いや兵士、でもない。まさか騎士? 気配がかなり鋭利だ。
こんな辺境に騎士がいるの? この見た目の若さで騎士なら相当な叩き上げという事になる。
「アガーテさん、おかえりなさい。もう護り手の方々への顔出しは済まされたので?」
「ああ、君と比べて軟弱極まりないな。休暇の間に若手共の性根を叩き直さねばならなさそうだ……買い物中だったかい? 初めて拝見するお顔だと思うが、ここ最近の御仁かな?」
という事は、この人は島の衛兵の出身なのか。しかも立場は結構上と見える。
道理で雰囲気が違う。余程の覚悟がないとこの島から騎士になるべく外へ出る事はないだろう。
おっと、ご挨拶しないと。
「ロミィ・フォーゲルと申します。クーケン島で商いをさせていただくのは今日が初めてでして」
「名乗らずに失礼した。アガーテ・ハーマン、ロテスヴァッサ王国王都下級憲兵騎士でこの島の衛兵長一族の者だ。しかし今日が初めて……あいつらの話に挙がっていた記憶がないな」
まさかの王都憲兵騎士とは。下級とはいえかなりの特権持ちじゃない。
「昨晩販路を引き継ぐ事になりまして。ですので事前通達はされていないものと思います」
「……だとすると、今日は長老会の息のかかった連中が商いの中心のようだから苦労されただろう。ブルネン家側であったらなら幾分マシだっただろうが……」
派閥があったのか。という事は、たまたま販路を買った商人が敵対派閥だった可能性もある。
不運だったのもありそうだ。それでもここまでってのは中々ないだろうけれど。
「アガーテさんもいかがですか? 中々珍しい品をお取扱いになっているんですよ」
「アル君がそういうなら相当なんだろうな。せっかくだし私も拝見させてもらうとしよう」
「はい! ご自由にご覧ください……貴方も衛兵の方なんですか?」
騎士となった衛兵長一族の娘と親しいこちらの青年アル君さん。恐らく島の内情にも詳しい。
そして多分――ハーマンさんと比較にならないくらい強い。まるで超巨大な大木の様な気配。
「あぁすみません、こちらも名乗りもせず。この島で道具屋を営んでいるアルフォンス・エルリックと申します。僕は島外出身者でして、正式な護り手ではないんです」
「今や関係ない話だ、そもそも君は私の弟分だろう? それとさっき聞いてきたぞ、街道遺跡に住み着いた翼竜8体を単騎で1分とかからず始末したと。護り手見習いどころか歴代ぶっちぎりのエースだよ、上級騎士ですらそんな手練れが何人いるやら。アル君も騎士にならないか? 多分あっという間に私の上司になれる。まあその時は私と違って辞められなくなりそうだがな」
「あははは……いやあ、僕の本分は道具屋ですし……」
街道の翼竜って……ウィンドフェザー? こっちはビクビクしなから避けてきたのに。
私達行商人が遭遇したら真っ先に逃げるし、兵士であっても一対多で散らせつつの戦いが基本。
錬金術の道具で武装しているならともかく、一般兵なら十分に脅威と言える。
そんな魔物を単騎で8体同時に、1分かからず? 竜相手でも余裕を持てる実力じゃない?
そんな人が、本業が道具屋? この閉鎖的な島の「外」出身なのにトップの一人と仲がいい?
一体どうなってるのよ……。
♢♢♢
「漂着……ですか? この汽水湖形状のクーケン島に?」
「ああ。私もエドワード先生以来十数年ぶりと聞いた。それより前は具体的に知らないから相当に珍しい事ではあるんだ」
「そこまでの経緯も分からなければ、僕自身のそれ以前の記憶も飛び飛びなものでして。こうして今、ここで元気にやっていられるのは奇跡だと思いますよ」
現在、港付近のバー。クーケン島では数少ない食事処らしい。
これも何かの縁との事でお昼をご一緒させてもらう事になった。ありがたい事だ。
というか、すごいぞここのバー。
レバーを引くだけで中の飲み物が出てくるとか、結構な技術じゃない?
バルブを使った蛇口ってのが王都に普及したのが割と最近くらいなのに。
島外の人だとは感じていたけど、まさか漂着者だったとは思わなかった。
しかも記憶喪失、自分の年齢を知らないらしい。
にもかかわらず、あの頭の回転の速さだ。
もし記憶が十全だったならば地方単位の技術的ブレイクスルーを引き起こしかねないだろう。
金の虹彩ってのは私も初めて見る。一体どこの国にそんな有能な人達が住んでいるのやら。
「しかしフォーゲルさんもよくこの島の事を知っていたね? ここの生まれである私が言うのもなんだが、世間にはあまり知られていない島だろう?」
「そうですね、私も風の噂で聞いた程度だったんです。ですけれどこちらの地方まで行商に来た際に実在を伺いまして。今後の販路をどうされようか考えられている方がいらっしゃいましましたので、穴を開けてはいけないと思って急遽私が引き継がせてもらう事にしたんです」
すみません。ハナからここが目的でした。
考えられていた方では無く気が弱そうな人を選んで販路を買いました。
今思えばあの人、別派閥の連中と商いをしなきゃいけない今日を憂いていたのかもしれないな。
「そういえばアル君、彼女にはアレを訊いてみたのかい?」
「いえ、まだですね。買った品物に意識が向きすぎていて忘れていましたよ」
「何か私にご相談が?」
貴方様であればいくらでも受け付けますが。嫁のご要望ですか?
「「アメストリス」、という単語、或いは国名に聞き覚えはありませんか?」
アメストリス……聞いた事はないはずだ。聞いた感じは姓名かな?
国名の可能性が高いようだけど……少なくともこの大陸に今ある国には存在しない。
どちらにせよ当てはまる情報はないか。
「ごめんなさい。聞いた事はないと思います」
「いえ、時間を頂いてありがとうございます。ですがやはり行商の方々もご存じないとなると」
「国名や町の名という線は薄そう、あるいは遥か遠くの土地なのかもな。人物名の可能性の方が高いのかもしれない。私も兵士仲間に訊いてみた事はあるんだが収穫無しだったし」
「エルリックさん自身、それが何か完全には御存じでない、と?」
「ええ。漂着した直後でも自身の名以外で覚えていた数少ない単語でして、恐らく地名です。言語圏からするにこの周辺に関わる言葉なんだと思っているんですけれど」
そうだろうか? 記憶を失くされていて知らないからなのかもしれない。
この国で用いられている言葉はこの大陸に限らない。比較的公用性の高い言語だ。
人物名となると流石に限界があるけれど、土地の名というなら別大陸の可能性はありえる。
彼の為だ、時間を割く意義は十二分にあるわね。
「よければ行商のついでにでも聞いてみますよ? この島にいらっしゃるよりは情報も集めやすいと思いますし、既にエルリックさんには
「ちょっと待て。アル君、
「えっ? 僕の為にまたこの島に来て頂く事ですけれど?」
「……
「う~ん……まあ
「
今まで「フォーゲルさん」呼びだったのが、一気に名前の呼び捨てになった!?
「何の試験ですか!?」
「勿論我が弟分に相応しい
どんどん話が飛躍する! 私が騎士を倒すって何!? 情報網とかならまだしも!
あと射止められたのはエルリックさんじゃなくて私の方です! 笑顔で指をポキポキ鳴らすな!
「ちょぉっとお待ちください! 予約というのは本のご購入のお話です! 次に島に来た際に商品を買って頂けるというご予約ですよ!」
「ではアル君程度は眼中にないと言うのか!!」
ええいめんどくさいぞこの義姉! どっちがいいんだ!
「エルリックさんが素晴らしい方なのは私も重々に承知していますけど、仮にハーマンさんを義姉とお呼びするにしてもちゃんと手順は踏みますって! それに私はまだ17ですから、これだけ優秀な方の支えになるには未熟過ぎます!」
ああもう何でこんな事を彼の前で口にしなきゃいけないのよ! 1時間前の雰囲気を返して!?
「なっ……17? 17だと……?」
「フォーゲルさん、17歳だったんですか。その歳で既に行商をされているなんてすごいですね」
「いえ、行商自体は16になる寸前くらいから始めているんですけれど……ハーマンさん?」
今度は突然鎮火して、「17、17? これが普通の17歳?」とかブツブツ言いだした。
そして。
「その外見で……アタシより年上なのか……?」
「へっ?」
ちょっと待て。たしかに私17だよ? 身長は152センチですけど。この外見は普通じゃない?
ハーマンさん170近くあるよね? 完全に見上げる形だし。20歳くらいじゃなかったの?
一人称が安定してませんよ? なんだか感じる気配が悩める少女のソレになってますが。
「アタシは……年上を義妹扱いする事になるのか?」
「いや、アガーテさんは16なんですから妹分も何もないじゃないですか。そのままでいいと思いますけど」
ええええぇ!? ハーマンさん16歳!? 大人び過ぎてない!? 身長5センチ下さい!
16で王都憲兵騎士とかどんな訓練したらそうなんの!? やる気がエグすぎません!?
エルリックさんがその弟分って事は推定15歳前後なの!? 年下!? 18くらいだと思ってたのに。
それでいてハーマンさんより多分遥かに強い上に、この知識量とかもうフィクションの域だ。
ヤバいぞこの島、色んな意味で独特過ぎる。
という事で、6年前編はある意味外伝の立役者であるロミィのお話です。
彼女がいるだけで話の広がりが全く違うんですね。
初期プロットからは考えられない流れになっています。
アガーテが元騎士なのは原作設定ですが、憲兵騎士とかは適当です。
弟の為ならばお姉ちゃんは頑張れてしまうのです。大人びているのは8割ライザのせい。
次は同日午後、ロミィと彼女達との出会いです。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。