ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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ロミィ編2話目。同日午後です。
ロミィ編はライザのアトリエ感がありますね。やっぱりこのくらいわちゃわちゃしたい。
そしてここから長い付き合いになる彼女との初エンカになります。

キャラ紹介など色々込みになりますが、とうとう100万文字を越えてしまいました。
皆様のお時間をどれだけ頂いてきたやら。一回通し読みでザックリ30時間だそうです。
ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます。

今回もよろしくお願いします。


132. 6年前②   義姉として友人として

「私の背を切り取っていってくれ……」

 

「出来るものならそうしたいですって。アガーテちゃんも無いもの? ねだりしないでください」

 

「騎士の活動には背がある方が何かと都合がいい気がしますが?」

 

「アル君、世の中には治安より優先すべき事もあるんだ。まあ君がその身長になってくれたお陰でかなり気は楽なんだがな」

 

 

 

お昼の出来事でそれなりに打ち解けて。

私はハーマンさんを「アガーテちゃん」、エルリックさんは「アルフォンスさん」と呼ぶ事になった。アガーテちゃんはもうそのまま「ロミィ」、アルフォンスさんは「ロミィさん」となった。

 

なかなか年上だと思っていた人を「ちゃん」付けするのには躊躇いがあったけど、「頼むから私を年下扱いしてくれ」とかいう謎の懇願に押し負ける事になってしまった。

身長は本当に欲しいですよ? アルフォンスさんの今の身長が170ちょいだろうから、将来は180くらいまで伸びるはず。バランスが良い身長差は15センチくらいなんですよ?

 

クーケン島の南区域を歩く。

かつてはここが中心街だったらしいけれど、建物の風化や浸水が進んだ結果、商業域は島中央部のボーデン地区に移管されたとの事。

とはいえ、かつての中心街には違いないから建造物はそれなりに多い。

 

意外と人口が多いのか? 北の方は見ていないけどそれなりの密度だぞ?

これだけの人数に対してあれだけの行商人じゃ賄えない。島なんだから漁業は当然として、他に主食となる物を自給できているのか。土地に限度があるのになかなかの生産力ね。

 

現在はアルフォンスさんのお店に向かって移動している途中。

取り扱われている商品を実際に拝見した上で、それに見合った品物を仕入れてくるつもりだ。

あれだけの大金をポンと出せるくらいだし、相当な大店なんでしょうね。

 

 

カランカラーン カランカラーン

 

 

「うん? 鐘の音?」

 

少々中途半端な時間な気が?

 

「ああ、学び舎が終わった音だ。そこに……見えるか? 15歳まではそこで昼を過ごす子がそれなりにいるんだ。朝は各家の仕事をする感じだな」

 

こんなへき地の島でもキチンと学校をやっているとは。割とその辺はしっかりしてるらしい。

15歳までなら基礎教育くらいか。だけどアガーテちゃんは16で騎士になっているわけで。

 

「アガーテちゃんは違ったって事ですか? 最初から学び舎には?」

 

「私も12歳までは通っていたが他にも役目があったしな。護り手としての質を高める為に騎士を志して3年前……13の時に島を出たんだ。まあ20になる頃には戻ってくるつもりだ――問題児が島に解き放たれるからな」

 

「ライザに合わせる必要は無いのでは? あの子も落ち着いてきたと思いますけど」

 

「甘い、甘過ぎるぞアル君。レントやタオはいいが、ライザがガキ大将でなくなるのは恐らく君の前だけだ。母さんからの手紙と君からの手紙で内容が全く違う。レントを魔法で吹っ飛ばしたり、タオにハニーアントを食べさせようとしたり、ボオスに至っては相変わらずのうにの雨だと聞く。放っておくと、あの子はいつか島を沈ませかねないぞ」

 

なかなかにぶっ飛んだ少年がいるのね……うにを投げつけてくると来たか。

閉鎖的な島だからルールも厳しくて、子供達もみんなそれに則っているものだと思っていたけど、この島ですら例外はしっかり存在するらしい。

 

魔法まで使えるとなると、将来は血気盛んな青年になりそうだ。

腕前が分からないけど魔導士部隊に志願するとか考えるといいんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドド……!!!

 

 

 

 

 

 

「うぅん!?」

 

「ロミィ! ちょっと失礼するぞ!」

 

「ああぁぁぁああるさぁぁぁぁあああああーーーーーーん!!!!!」

 

 

ドォウゥーン!! ズザザザザザザザザアアァァァーー

 

 

「アルフォンスさん!?」

 

視界の外――学び舎があった方向から何かが飛んできた! イノシシ!? この島に!?

アルフォンスさんが吹っ飛ばされ……ずに受け止めてるわ。すごい、流石の体幹だ。

 

って、アルフォンスさんにしがみ付いているあの子は……。

 

「こんにちは、ライザ。今日も元気いっぱいだね」

 

「うん! アルさんはむかえに来てくれたの!? 今日はどんなお仕事!?」

 

「行商の方にお仕事をお願いする事になってね。お話の為に店に向かっていたところだったんだ」

 

どう聞いても高い声。茶色のミディアムヘアに白のアリスバンド。ノースリーブのワンピース。

快活そうなのはすぐに分かるけど、結構可愛らしい子だぞ? マジ?

 

「ガキ大将って……女の子だったの?」

 

「アレは人じゃない。半分以上野生の獣だ。アル君の前でだけ見た目相応になる。まったく」

 

私を抱えてくれているアガーテちゃんの評価が辛辣だ。相当色んな目に遭わされたご様子。

まああの感じが手加減なしに他の人に向いたら文字通り骨が折れそうね。

 

しかし――アルフォンスさんの前でだけ(メス)になる? 気になるワードなんですが。

 

「うおっ!? アガーテ(ねえ)が帰って来てる!?」

 

「おかえり、アガーテさん。今年はもどって来るって話だったね」

 

そして二人の少年。赤髪の筋肉質な子と金髪のインドア系の子。10歳くらいか。

この子達がさっき話に出てたレント君とタオ君かな。

 

「ああ。ただいまだ、二人とも。シンシアさんに迷惑をかけていないか? タオはまた眼鏡が分厚くなったんじゃないか?」

 

「俺たちじゃなくてライザに言ってくれよ」

 

「ホントだよ、僕たちからもんだい行動は起こさないさ。メガネはまあ、さいきんは前より家の本を読むのにこってるから。それで……そのかかえてる女の人は?」

 

「うん? ああ、すまんロミィ。今日から新しく島に来られた行商の方だ」

 

こちらの少年達は普通に会話が成立するらしい。降ろしてもらってっと。

 

「ロミィ・フォーゲルです。よろしくね、レント君にタオ君」

 

「よろしくです。新しい行商人さんなんてひさしぶりですね」

 

「俺よりチビなのに行商人なのか。こんな子供みてえなナリで旅なんざできんのか? 荷物でひっくり返りそうだぜ」

 

イラァ……。

それは何かい? 私は背と身体に起伏がないから大人には見えないと、そう申されるのかい?

 

ちょっと、オハナシしよっか。

 

 

ガシィッ!

 

 

「うおっ!? 早え!?」

 

「ロミィ?」

 

「ごめんね、アガーテちゃん。今のうちに矯正しておかないと後で苦労すると思うからさ」

 

この島に来て半日も経ってないけど、島の外とどう違うか教えておこう。

こんな事を口にする存在に敬称は不要だよね?

 

「レント、あのね? 私の歳で私くらいの背の人は沢山いるの。私くらいの胸の人も沢山いるの。私くらいの身体で行商している人はどれだけでもいるの。この島の人が全体的に大きいだけなの。見た目で歳は判断しちゃいけないの。子供と大人の違いは身体じゃないの。心の持ちようなの。次同じような事を言ったらその赤髪(むし)るから。おーけー?

 

「おっ……おーけー……背がちいせえから剣なんざ背負えねえだろうなって思っただけだったんだが……」

 

「ザムエルさんの剣をきじゅんにしたら、大体の人がムリだって」

 

「さっきの私達に対する教訓でもあるな。その辺はまったくなんだが……島民の体格は普通なんじゃないのか? こんな身長の私が言うのは説得力がないかもしれないが」

 

「全然普通じゃないです。全体的に発育が良いです。ここに生まれればよかったのかな……」

 

貴女も十分デカいんですよ。ないものねだりをしても仕方がない、これもさっきの教訓だわ。

さてあっちは。

 

「アガーテ姉ちゃんはいつ帰って来たの? 今からアルさんとお昼ごはん?」

 

「帰って来たのはライザ達の学び舎が始まった直後くらいだな。昼食は港で食べてきたんだ……アル君の「お兄さん」呼びを止めたのか? 意外だな」

 

「うん! あたしもおねーさんになったし! それに――」

 

いつの間にかアルフォンスさんに肩車されているライザちゃん。

今の光景を見ている限りアルフォンスさんのお兄さんポジは当然として、ライザちゃんが正しくお姉さんになるのはもう少し先の事になりそうだ。

 

 

 

「――アルさんがお兄ちゃんだと、あたしはアルさんのおよめさんになれないんだよね?」

 

「「は?」」

 

この娘から危険な臭いがプンプンする。ガキ大将とかどうでもいいレベルに。

 

 

 

「それは……どういう意味だ?」

 

「アルさんからそう聞いたよ?」

 

「いえ、近縁での婚姻は遺伝的に問題がある事を伝えようとしただけだったんですが……」

 

成程、今の一文で何が原因かは分かった。

アルフォンスさん、相当な説明下手だ。かなりの研究者気質なんだ。

素人や子供に説明できないタイプ。この子が近親交配疾患だとか分かるわけないじゃない。

 

とはいえ、この子が相当アルフォンスさんに懐いている事には変わりない。むむむ。

 

「アガーテ姉ちゃんはアルさんのお姉ちゃんなんだから、アルさんのおよめさんになれないんだよね? だったらあたしがなるもん!」

 

「いやね、ライザ? アガーテさんの「お姉ちゃん」はライザにとっての「お姉ちゃん」と同じ意味で、婚姻関係が結べないってわけとは」

 

「アル君ストップだ。君とライザの頭の構造が違い過ぎて、ライザが更に酷くなる可能性がある。こっちにいる間に私から説明をするから、アル君からの説明は控えてくれ」

 

「協力するわ、アガーテちゃん。この子は止めないといけない」

 

これはこの子の義理の姉二人体制を取って、アルフォンスさんへの影響を最小限に食い止めないといけない。

 

見た感じ、この子も結構な身体になる。特に胸と太もも、ちっくしょう。

それでいてこの性格が維持されたら、それはもはや兵器の一種だ。私じゃ太刀打ちできない。

 

なんとかなりそうな今のうちに教育(洗脳)しないと。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「こちらが……?」

 

「ええ、僕の店です。元々は染物屋さんだった建物をお借りしています」

 

「看板くらい掛けたらいいんじゃないか? パットさんが閉めた時のままじゃないか」

 

「まあお客さんは島の方だけですし。取引の相手は大半がモリッツさんとカールさん、それと護り手の方々です。行商の方々へは僕から出向きますからここが店だと分かる必要性が特別ないものでして」

 

学び舎のすぐそばにあった比較的大きな建物――「エルリック工房」。

だけど、そこが何の建物なのかを示すものはない。見た目はただの倉庫にすら思える。

かなりの大店だと思ってたのにまさかの状態だ。

 

そしてお店の中は。

 

「……なかなか独特なものを取り扱われているんですね?」

 

「普通の物を販売してしまうと行商の方々と競合してしまいますから。見た限りで周りの方が取り扱われていないものを専門にしています」

 

「買おうにも何の為の物か分からない品が多いな。島に炭窯を作ったのかい?」

 

「いえ、煙が出てしまいますから炭焼きは対岸でやっています。材料の運搬的にもその方が都合がいいですから。炭の為じゃなくて木酢液(もくさくえき)が目的だったんですけどね」

 

食料、日用雑貨、装備、アイテム――いわゆる「一般的」なものが一つもない。

行商人である私でようやくか、専門に仕事をしている人を対象にしている道具が多い。

 

大体が工作系の道具だ。絡繰り関係の修理とかに使う専門道具。

たしか……これは「ボルト」を回すための物だっけ。釘が一般的だろう田舎での需要は少なそう。

つまりは自分で使われている物の余りの可能性が高い。

 

仮に島民がここに足を運んだとしても使い道がない。そんな物ばかりだ。

この巨大な鎧なんて誰が使う事を前提にしているの? これは特に異質だ。彼の趣味かな?

 

こっちの炭は分からなくもない。料理や湯沸かしとか、冬には暖炉を使う事もあるだろうし。

セキネツ鉱よりも取り扱いやすいから安全だろう。にしても、何というか見た目が……。

 

「手に取らせてもらってもいいですか?」

 

「ええ、勿論。よろしければ外の商人の方からの評価を頂ければ」

 

断りを得て、その炭に触れる。

 

――綺麗すぎる。表面が灰になって焼け落ちた感じがほぼない。

 

勉強途中だけど、炭ってのは木材中の燃焼しやすい物を予め燃やして除去する事で燃料としての寿命を延ばし、煙を減らすための加工を施した状態。当然一度は火を入れている事になる。

だからこそ表面には燃えた跡が少なからず残っていて、ボロボロになってしまうはず。

 

だけどこの炭は、燃やしたんじゃなくて完全に蒸し焼きにしたかのような。ただ黒くなっただけ。

 

もう一つ手に取らせてもらって、軽く打ち合わせてみる。

 

 

キンッキンッ

 

 

もはや金属のような音。焼き締まり方がよく、炭の密度が高い証拠。まるで石炭だ。

よほど大型の窯で作られた熱を回して蒸し焼きにするか、極めて高度な木材配置のもとに火を回して歩留を確保しているか。原木の材質もあるだろうけど、どちらにせよかなりの高等技術。

 

これが木酢液のついで? どう考えても逆だと思うんだけど。

 

「いかがですか?」

 

「……なかなか上質ですね。薪に使うのが勿体ないんじゃないかと思うくらいには」

 

実際は「なかなか」なんてものじゃない。「相当な」シロモノだ。

だけど島民は恐らくその価値を知らない――だからこそ、こんな安値にも疑問を持たない。

 

それにさっきアルフォンスさんが言った、「行商人とダブらないように」という話。

 

行商人が主に取り扱っているのは「買われる前提の物」。

つまり存在や価値が一般的に周知されて、その必要性も理解されているもの。当然のお話だ。

そうでないものを()()()で取り扱えるという事は、全く知識がない状態からこれらを生み出せる頭があるか、或いは島とは全く別の文化の知識を保有している事に他ならない。

 

そして、こんなこじんまりとした個人経営。

仕入れどころか原料調達すら自分で行い、個人でこれだけの数と種類を製造できる知識と技術を保有し、だけどまるで販売する気がないかのようなラインナップ。

コストとマージンがムチャクチャ。腕はあって手間もかけて、まるで儲けようとしていない。

 

 

 

ロテスヴァッサ王国の出身でないのはほぼ確実。そこは大した話じゃない。

――本当に記憶喪失なの? 自称発明家達を鼻で笑える領域だ。

だけどこれじゃあ稼げない。生活はともかく私に前金で払って頂いたゴールドコイン10枚や14900コールの話が結びつかない。お得意様はいるみたいだけど限度があるはず。

何かしらで外貨を稼がれているというのが自然な流れではあるけれど……。

 

まさか……自分の身体を売ってるなんて事ないですよね!? それなら借金してでも私が買いますから!

 

 

 

「私には何が何だかわからないが、一般的な武器や農具くらいは置いてもいいと思うぞ。ロミィはどう思う?」

 

「……例えばですけど、せっかくこれだけ上質な炭があるんですから浄水や脱臭用に販売するとかされたらいいのでは? 炭自体は比較的出回る品ですけど、それを加工したニッチな物は数が少ないと思いますから」

 

「うーん、浄水は必要なさそうですけど……脱臭ってのはいいかもしれないですね。ボオス君に相談してみようかな」

 

炭が浄水や脱臭に使える事に疑問を持たない――やっぱり化学知識持ちだ。経歴は飛んでしまっているんだろうけれど、元は相当な工業都市の生まれの可能性が高いかな。目星を付けよう。

さて新情報だ。

 

「その「ボオス」さんという方が島内の販売を管理されているんですか?」

 

「そういうわけでもないんだけどね。「ボオス・ブルネン」、この島の水持ちで顔役でもある「モリッツ・ブルネン」氏の息子だ。歳は私の4つ下でレントと同い年になる。まあいつかはブルネン家を継ぐ事になるだろう」

 

「彼から「便利過ぎるものは島民を怠けさせるから」って事で、都度チェックをしてもらっているんですよ。ここにあるのは「俺でも意味が分かりませんから、多分売れませんよ」と言われたものが大半です」

 

じゃあやっぱり売る気ないじゃないですか! この人商人向きじゃないぞ!?

 

しかしなるほど。これだけの高度な技術の品物が際限なしに生み出されて島に広がったら、間違いなくそれまでの島の文化は衰退するわね。その点ではボオス少年の考えは正しいと言える。

人間、新たな力を手に入れるとそれを振りかざしたくなるのが世の常。

今の島の文化が良い物だと私は口にできないけれど、そういう考え方も大事かも。

 

それにしても……これは取引をさせてもらうにもジャンルが難しいぞ?

一般的なものは他の行商人と一緒になってしまうし、マニアックな道具なら恐らく彼が自力で作れてしまう。そういうのは本来望まれているモノではない気がする。

 

アルフォンスさんが求められたのは学術書と百科事典だった――この島の外に()()ないもの。

それをゴールドコイン10枚を支払ってでも手に入れたいと考えられている。私は貴重な存在と。

つまり……外の知識? 情報か?

 

「それじゃあ……ご予約頂いたものは勿論ですけど、ちょっと運ぶのが難しいようなガラス製品とかを持ってきましょうか。それなら他の行商人達もそこまで取り扱ってないでしょうし。しっかり「紙」に包んで持ってきますから」

 

「――そうですね。割れてしまうと大変ですから、「緩衝材」も詰めてもらえると助かります」

 

「承知しました」

 

確定だ。アルフォンスさんが求めているのは「島の外の情報」だ。

錬金術や百科事典の本を求められたという事は、外の常識を知りたいという事。

今の彼の常識の基礎は島民からの物だけど、自分の中にも別の常識があるんだ。

それと実際に出回っている本とを比較するなり、頭に入れる事を望んでいる。

 

時事情報なんてもっと入手しずらいだろうし、この島だと検閲対象になる可能性もゼロじゃない。ならば情報を記した「緩衝材」を大量に詰めておくとしよう。バックナンバーも入手しないといけないわね。腕が鳴るわ。

 

 

 

「ところでライザはここに来ないのかい? あの子なら家に帰ってから即こちらにとんぼ返りしてきそうなものだが」

 

「仕事中に来られるのは流石に危険なので。「耳キンキン事件」があって以来そこのカーテンが閉めてある時は、僕がいると分かっていても入ってきませんよ。ライザは賢いですから」

 

「なかなか強かね……よかったら私が札を作りましょうか? その方が表向きにも分かりやすいでしょうし。看板も描きますよ、露店で慣れていますから」

 

ゴールドコイン10枚は貰い過ぎというのもある。今後の話を含めても、それに足りうる仕事をこなしきれるのはかなり先になりそうだ。

 

「……それではお願いしていいですか? 僕はそういったデザイン関係が不得手でして」

 

「承りました。それじゃあ適当な木材と染料を頂きますね」

 

「アル君がデザインすると無駄を一切そぎ落としたものになりそうだな」

 

同感ね。機能性重視で個人的センスの影響が皆無になりそう。

 

アルフォンスさんが店の奥に資材を取りに行かれている間に、軽く店内を見まわして。

やはり大半は工作道具。炭など数少ない一般向け商品は、緊急時の島内に供給するための物なんだろうという事に行き着いた。よくまあ個人の工作でこれだけ作ったものね。

 

何か感じる違和感。匂いというか気配というか。

此処が店舗兼住居だと思う……んだけど、生活感が一切しない?

炭がある事とか油や金属臭の影響もあるんだろうけど、気のせいかな。

 

そんな中、少し違った品物が。分かりにくく置いてあるあたり販売品じゃなさそうだ。

 

「これは……石標本?」

 

「本来は「掟破り」だからあまり大きな声では言えないが、彼は対岸をそれなりに見て回っているらしい。この黄色いのは……ごくたまに行商人が持ってくる事もあったか? 何の石なのか分からないが」

 

この近辺にゴルディナイトの産出地があるの? 確か化学や錬金術分野で結構珍重される品だ。

これだけでもそれなりの価値があるけれど……この場ではそれ以外のシロモノの方が上回る。

 

見た目はただの色のついた石ころ。その正体は紅玉、蒼玉、翠玉などの原石。

 

彼の資金の源はこれか。価値を知っている人ならば原石のままでも、正しく加工されたものなら知らない人にもそれこそ凄まじい価値が生まれる。手先の器用さは当然として相当な計算力も必要らしいけれど、彼なら何の問題もないでしょうね。

 

宝石って錬金術の材料としても使い道があるんだっけ。

装飾品とは全く違う方面ではあるらしいけれど、高値で取引されるものには違いない。

 

つまり……この辺りは錬金術に有用な素材が豊富なの?

そういえばここに来る途中に火山の麓に棄てられた城があった。例のクリント王国関係か。

なら、彼らがこの辺りを治めていた理由は――

 

「お待たせしました。よろしくお願いします」

 

「はーい。今回の取引を記念して、サービスさせてもらいますね」

 

アルフォンスさんが資材を持ってきてくれた――頭を切り替えよう。

看板は店の顔だ、アルフォンスさんの顔に泥を塗るわけにはいかない。

とはいえ、本人のイメージを崩さないようにっと。

 

「君が言うような落ち着きを、あの子が誰の前でも持てると助かるんだけどな……」

 

「ライザの行動原理は未知への探究心から来ていますからね。カールさん達にとっては大変でしょうけれど、あの子が「したい事」っていうのは農業とは別の場所にあるんでしょう。逆にその欲を満たせれば大人しいと思いますよ?」

 

「アル君は知識の宝庫だからな。流石のライザでもお腹いっぱいになるわけか」

 

フォントは硬めでシンプルに、読みやすい方が良いかな。華やかさは不要っと。

サイズは大きめにとって――

 

「そうでなくても落ち着いてきたとは思いますけどね。添い寝はアガーテさんのお話を出したら引き下がりましたし、お風呂は……逡巡はしたみたいでしたけど一人で入りましたから」

 

「あん?」

 

思わず声が出てしまった――風呂とな?

 

「引き下がったという事は……話自体はあったのか?」

 

「ここに来て寝るわけじゃなくて、道端で遇った時の日向ぼっこのお誘いでしたけどね。裏拳に関しては「むぅ」という感じでしたよ。お風呂の方は……真冬に水路に飛び込んだようで。いくらなんでもまずそうでしたから」

 

「なんでそんな真似をしたんだ!?」

 

「「溺れる事より寒い事の方がヤバいと思えば泳げると思った」だそうです。現にそれで泳げているのがすごいんですけど……」

 

「荒療治にも程がある。まあそれに関しては私からあまり口煩く言えないんだが……」

 

まああの感じの子だ、寝相も中々なのは想像がつく。

けど一緒の風呂は引き下がった……ガキ大将の本能より恥ずかしさが勝ったわね? あの娘。

やっぱり危険だ、将来最大の壁になりそうな気配しかしない。

 

さて文字数を考えると――

 

 

 

「まあ君が無事ならいい。()()()()()ライザだと本当にシャレにならないからな」

 

「ちょっと待てや」

 

 

 

まさかの衝撃発言がアガーテちゃんから出た――「私と違って」だと?

アガーテちゃんはキョトン顔、アルフォンスさんは事の重大さを理解している。

もう私の想像が合っているかどうかの確認は不要だ、一番の問題点から聞こう。

 

「最後に一緒に入ったの、何年前ですか?」

 

「な、なんのことd「私が島を出るまでの話だ、3年前まではよく一緒に入っていたものだった。弟分なんだから何の問題もないだろう? 流石に今は少し狭くなるかもな」ああぁ……」

 

んなわけないでしょうが! アルフォンス君が本当に年下だといつ決まったの! しかも義理!

もう時効でしょうけど情緒の大問題ですよ! 13とか土地によっちゃ成人だっつの!

アンタ浴槽が広かったらまだ一緒に入る気か!

 

「アル君! 貴方は理解していたっぽいよね!? 言わなかったの!?」

 

「いえっ何度かお話は出させてもらって……」

 

「待てロミィ。君が私より年上とはいえ、アル君を弟扱いするのは私を倒してからだ」

 

「やかましい! ならいくらでも倒してあげるからそこに直りなさい! アル君も! 看板を掲げる前に私の常識を掲げてやるわ!」

 

せっかく出来た島の友人とも言うべき人達の常識がこれであってたまるもんですか!

なんてけしからん! ライザちゃんより先にまずはアガーテちゃんを止めてやる!




アルの勘違いは5年を経て無事に矯正されました。
ついでにロミィからアガーテとアルへの敬意が失われました。

ライザは11、レントは12、タオは9歳です。どんな立ち絵なんでしょうね?
この頃の事を本作開始時のライザはほぼ覚えていません。
仮に覚えていたら、おしとやかなライザが見れたかもしれません。

次は6年前の最終話、同日夕方。
ロミィと関わりのあるもう一人の人物との出会いです。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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