ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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本編含め、ここまで130話を超える中でもトップクラスに難産だった本話。
何故なら彼には本作オリ要素がほぼ無いから。
難産だったのに中身も特別盛り上がらない大変な書き手泣かせです。

新しく評価を付けて頂きありがとうございます。大変励みになります!
前述のような状態ですが、より楽しんで頂けるような作品にしていけたらと思います。

誤字報告ありがとうございました。「グ」ラウディアってなんやねん……。
他、見直しをたまたま行っていたところ、なぜか文章がダブっている箇所がありました。
前回も同じようなことがあった(47話)もので、変な部分をお見かけになった際は
宜しければ教えていただけますと幸いです。

今回もよろしくお願いします。


134. 5年前    兄貴分の強さたるもの

「……釣れねえな」

 

やっぱある程度は沖に出ねえとダメだよなあ。

そのために漁師のおっちゃんたちは舟出してんだし、こっちまで魚を寄せようにも撒き餌がねえ。

他にもやり方があったりすんのか?

 

ライザのやつに話したら逆に魚を追っ払いそうだし、タオだと答え返してくれるまで数カ月かかりそうだ。加えてあのクソ野郎……あいつに頼むくらいなら飢え死にをえらぶぜ。

 

つっても、ある程度は自分で食いもん取らねえと。

手伝いの報酬ってのは別に使い道があるからな。金は貯めとかねえといつか困る。

バーバラばあちゃんやシンシアさん、ミオさんにばっか世話になれねえし。

 

「他の釣り場に変えるか」

 

南の旧市街がボウズなら、逆側にでも行ってみっか。ライザの家の裏でも釣れることがあるしな。

 

 

 

「やあレント、釣果はどうだい?」

 

 

 

あん? この声は……。

 

「アルさんすか、ちわっす。今日は朝からボウズっすね」

 

「昨日雨が降ったしね。水面が濁ってしまって、かなり潜っちゃっているのかもしれないよ」

 

 

 

いきなりライザに引きずられて、この人と初めて顔を合わせてからもう4年だっけか。

あん時はぶつかったら身体がバラバラになるんじゃないかって思ってたくらいだったけど、一体何をどうしたらこんなガタイになるんだか。

ひょっとしなくても、クソ親父並みの腕っぷしかもしんねえ。

鉄をぶっ叩いてたあのでけえハンマーなんざ、今のオレでも数回でキツそうだもんな。

 

初めのうちはオレたちと同じ、ライザの被害者なんだと思ってたけど。

そのライザを満足させられるうえに、正直オレにとってもおもしれえ話をしてくれる。

 

 

 

なにより……この人は島の連中と違ってオレの夢を全く笑わず、バカにもしなかった。

元が外の人って事はあるかもしんねえけど、けっこう嬉しかったんだよなあ。

 

 

 

「雨が降ると潜っちまうんすか?」

 

「水が濁ると魚にとっても息はしにくいし、湖の水より雨の方が冷たいだろうからね。クーケン島の周りの魚は寒がりだから」

 

で、マジで色んな事に詳しい。吹っ飛んでるらしい記憶が残ってたらどうなってたんだか。

外の事を知ってると、このくらいが普通なんだろか。

 

……普段はライザが聞きまくっててワリイ気がしてたからオレから聞かないようにしてたけど、今ならちっとは知恵借りれっかね。

 

「アルさんならどうするとかってあるっすか?」

 

「それは今日みたいな場合かい? それとも竿や仕掛けからって事かな」

 

やっぱ考え方からして違えな……仕掛けからいじくれんのかよ。

手先が器用なのはオレもよく知ってっけど、自分の仕事の依頼はした事はねえ。手伝い分だけだ。

依頼するにしても金持ってねえし、アドバイスをもらえるくらいかな。

 

「そもそも釣りってもんから聞いていいっすか? 実はそこからしてあんま分かってねえんで」

 

「了解だよ。今日はここじゃ釣りにくいだろうから、ライザの家の裏手に行こうか」

 

「……時間、いいんすか?」

 

「勿論。せっかくだから僕もしっかり仕掛けを作っておこうと思うし」

 

なんか時間を貰っちまった感があるけど、次にライザが暴れた時に抑える事で返すか。

まあ……アルさん関わってくると、あいつも妙にしおらしくなるんだが。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「釣りっていうのは、いわば魚との戦いなんだ」

 

「魚との……戦い?」

 

「あっちもこっちも命懸けだからね。魚側は勿論だし、釣れなかったらレントもお腹が空いてしまうだろう?」

 

ライザの家の裏手まで来て、アルさんが話をし始めてくれたのはそんな事から。

ちなみにライザはミオさんからの説教中だったみてえだ。外まで声がまる聞こえ過ぎる……。

 

にしても。わりとおもしれえ例え話するな、この人。戦い、か。

 

「どう戦うんすか? ソーンフィッシュとかなら力比べっぽそうっすけど」

 

「化かし合いだね」

 

「化かし合い?」

 

まさかの腹芸? やべえな、戦いっつったって完全に不得意側の話になってきた。

 

「いかに針に食いつかせるかだから、針が餌に見えれば食いつきやすくなるだろう? レントも竿を揺らしたりしているのはそういう事だよね?」

 

「まあ、たしかに。やっぱ針に生きのいいミミズを付けるって事っすか?」

 

「それもあるね。けど道具屋的には……こんなのもあったりするんだ」

 

そう言って、アルさんがぶら下げてたカバンから出してきたのは……いつ持って来たんだ?

で、こいつは――

 

サルディン(イワシ)?」

 

「の、オモチャ的なものだよ。木を削って作ったものさ」

 

いや、間近で見ても本物に見えんすけど? 化かされてるってレベルじゃねえ……。

 

「サルディンはセリヨル(ブリ)とかの大型の魚にとってもご馳走だからね。これを本物のサルディンに見せるのさ。疑似餌(ルアー)釣りってやつかな」

 

木で出来たサルディンには釣り針も一緒に付いてる。

デケえ魚がこれを咥えたら、そのまま針も食っちまうわけか。

 

「これだけでも針だけを湖に入れるよりはマシにはなるよ。でもまあ、せっかくだから他にも色々足しちゃうわけだけど。ボオス君には内緒にしてね」

 

「頼まれなくても言わねえっすよ。むしろこっちからお願いしたいくらいです」

 

今までもそうだったけど、アルさんはこの辺オレたち寄りなんだよな。

外の人って事はあるだろうけど、ほとんど掟どうこうって言った事がねえ。

つうか、色々新しいもん作ってる時点で間違いなく掟破りの先頭なんだよな。

 

ライザみてえに考え無しじゃねえから、あの掟バカ野郎もちったあ黙る。

こういう感じの兄貴の貫禄ってもんをオレも欲しいもんだ。

 

「ふふ、じゃあ僕らだけの秘密って事で。特にこんな竿はね」

 

いつの間にかアルさんが持っていた竿の糸の先には、サルディンの玩具と、重りと……ありゃなんだ? ずいぶん目立つ色をしてっけど。

 

「それは?」

 

「浮きだよ、糸が何処にあるかの目印だね。何処にあるか分からなくなるから――特にこんな風に遠いと、ねっ!!」

 

 

ビュォン!!

 

 

「うおっ!?」

 

めっちゃ飛んだ!? 30メートルくらいは投げれてるよな? うめえ。

竿ってあんなにしなって折れねえもんなのか? あの節……竹? この辺に生えてたか?

手元についてる糸巻も今まで見たことがねえ。色々隠し持ってんな、この人。

 

で、あんだけ遠くまでアレを投げると。

 

「目印ってそういう事っすか。魚が食った時もアレで分かると」

 

「ここからは魚との戦いだよ。いかにサルディンっぽく出来るかだね」

 

「サルディンの気持ちになる?」

 

「いや、それはライザ的な発想かな……元気に泳ぐサルディンの動きを真似る感じだよ」

 

マジか、オレがライザ的な考えをしちまうなんて……。

いけねえな、このままじゃタオがストレスで死んじまう。

 

そのままアルさんは竿を上下左右に揺らしつつ、でも大きくは動かさず、待ち続けた。

そして。

 

 

――ピクッ ピクッ

 

 

「……来た!?」

 

「焦りは厳禁だよ! 完全に食いつくまで待って……よっ!!」

 

 

ブンッ!

 

 

下から突かれてたみたいな浮きが完全に沈んだ瞬間に、アルさんが合わせた。

掛かった!

 

「さあ! 今日のお昼の為にも頑張らないと!!」

 

頑張る必要もねえくらいぐいぐい引いてねえっすか? 糸の方が心配になる。

どうみても魚が力負けしてる風に見えるんだが……。

 

 

 

1分にも満たないアルさんと魚の一方的な攻防の後。

 

「結構な大物っすね。お見事っす」

 

「ありがとう。籠で泳がせておいて、後で捌いて一緒に頂くとしようか」

 

80cmオーバーのセリヨル。かなりいいサイズだな。

こんなの一年に一回かかるかどうか。居る所には居るもんだ。

 

「じゃあ次はレントの竿にも仕掛けをしようか。僕みたいに疑似餌にするかい?」

 

「他にもあるんすか?」

 

「そうだね……小魚を狙うならハリスとか、疑似餌に近いけど毛鉤(けばり)なんてのもあるよ。レントの釣り方に一番合うのを試してみるのがいいんじゃないかな」

 

結構色々あるもんなんだな。

だけどまあ、狙うならやっぱ。

 

「大物狙いっすね」

 

「あはは、そう来ると思ったよ。じゃあ僕の竿をレントに渡しておくよ。僕はハリスで釣ってみるから、サルディン狙いかな」

 

「ありがとうございます」

 

目の前であんなデケえの釣られたんじゃ、負けてらんねえよな!

 

 

 

竿を垂らして食いつくのを待ちつつ……。

 

こうやってそれなりに話はさせてもらってっけど、大体はライザのやつに付き合う形でしかアルさんと会う事ってねえんだよな。

ライザみたいに延々と質問するとか「お仕事見てていいですか!?」とかを、オレから言う事はなかった。タオはたまに相談的な事を話してたみてえだけど。

 

ライザがいない間は普通に仕事をされてるから忙しいだろうし、実は護り手をやってるって噂も聞く。それも島内の見回りじゃなくて行商人の護衛――外での活動の方が多いって話。

想像元はロミィ姉だ。あの人が頼りにする場面ってこたあ、一番は島との行き来って事になる。

 

つまりこの人、相当強えはずなんだよな。見た目からしてそうだけど。

 

だけど自分からそういった事は話さない。それどころか自分に関する事を自分から話してんのも見た事がねえ。大体ライザからの質問に答える形で「こんな事も出来る」みたいな話を聞くくらい。

 

島に来る以前の事を飛び飛びでしか覚えてねえらしいってのはあるんだろうけど、せっかくそんな力があるんならもっと使っていいんじゃねえのか?

そうすれば、リハビリしてたって時期に大人たちから嫌がらせされる事もなかったと思うんだが。

 

「……なあアルさん」

 

「なんだい?」

 

口にしちまった。ならまあ聞いてみっか。

 

「強さって、何だと思います?」

 

「色々あるから「コレ」って言うのは難しいかもね。僕が大切にしている事でいいかな?」

 

「ウィッス」

 

「――守りたいと思っているものを守るための心の力、かな」

 

哲学みてえな答えが返ってきた。

筋力とか頭の良さとか口のうまさとか、そういうのを考えてたんだが……守る心の強さ?

 

「例えばだけど、レントはあの塔に行く事を目指しているよね?」

 

アルさんが指さした方向には――晴れた空の先、日の光を反射している謎の塔。

昨日の雨で空気がきれいになってるし、ここは島から塔に一番近い場所。よく見えらあ。

 

強くなりてえと思い続けてるオレが、大人たちから「わけが分からん」って言われて、なら誰もやってねえ事をやってやるって思った事から目指し始めたあの塔。クソ親父すらあそこについては知らねえって話だしな。

位置的には、掟にある「悪魔の野」の向こう側。つまり悪魔の野を突破する事と同じだ。

 

「あそこに行くためには、何が必要だと思う?」

 

こっち(島の中)あっち(島の外)の違い。あっちに行くなって言われる一番の理由だよな。

 

「まず……対岸側には居るっていう「魔物」を倒せるだけの力はいるっすよね」

 

「そうだね、だからレントは自分を鍛えている。だけどそれ以前に魔物の知識も持っておいた方が良いだろうし、相応の装備もいるし、掟破りが目的じゃないなら舟を借りれる信用も必要。それ以外にも、いざ行こうとしたら色んな障害が出てくると思う」

 

この人にそういう話をされると、イヤに具体的に思えてくる。

 

確かにオレはまだ魔物を見た事がねえし、行商人が通ってくる街道沿いの魔物と同じかどうかも分かんねえ。まともな武器もなければ、ライザの事は関係なしに今のオレじゃあ舟を借りられねえし、その金もねえ。なんかこれだけでも先が遠く見えてくるぜ。

 

「だけど、それでもそこに行き着こうとする心。それが強さ、かな?」

 

「あー……そういうやつですか。諦めねえ、と」

 

「うん。この魚釣りも同じで、最初から釣れないと思って糸を垂らさなかったら絶対に釣れない。レントもあそこを目指す事を考えなければ、多分行こうとも思わないだろうさ。色んな壁はあるだろうけれど、それでも乗り越えようとする事が強さなんじゃないかな」

 

「……ちなみになんすけど、アルさんの「守りたいもの」ってなんなんすか?」

 

「今は「クーケン島」だね。僕をお世話してくれたアガーテさんの不在の間は、僕がそれを出来る限り引き継ごうと思っている所はあるし。お世話になった皆さんへの御礼もあるから。まあ僕の場合は護り手の方々とは別方面からのアプローチだけど」

 

「護り手もやってるんじゃねえんすか?」

 

「僕は見習いだよ、本業は道具屋さ。人手が足りない時に手伝っているくらいだから、いつも危険に身を置いている人達とは同列に出来ないよ。アガーテさんが戻り次第見習いも引退予定だし」

 

ホントかよ……どうみてもアガーテ姉やフェイズのおやっさんより腕力ありそうなんだが。

ただまあ、修理はともかくアルさんが剣とかの武器を持ってんのは見た事ねえんだよなあ。

 

魔物を殴る蹴るで倒してんのか? まさかな。

 

「とまあ、僕にとってはそんな所だよ。勿論レントの「武勇」ってのも、武力と名声って力だと言えると思うし……ライザに付き合い続けているのも僕に近いものがあるんじゃないかい?」

 

「ただの腐れ縁っすよ。歳は近いし、親も同世代で昔から世話になってますし、放置するとタオがボロボロになっちまいそうだし、オレも今以上にうにが飛んできそうっすし。大丈夫だとは思うっすけど、ジェナとかがライザの真似をし始めたらピーターさんが放心しちまいますよ」

 

「あはは、確かにライザ並みに元気な子が何人もいると大変そうかもね。だけどもしそうなったとして、見て見ぬふりをするつもりはないでしょう?」

 

「まあ……今のライザをある程度止められんのは、同年代ではオレだけっすから」

 

「それも立派にレントの強さだよ」

 

ライザに付き合い続ける事も強さ、ねえ……。

正直微妙な強さって思うけど、まあアルさんしか代わりはいねえんだよな――あのバカ野郎め。

そういや。

 

「「今は」って事でしたけど、クーケン島が無かったら別のもんになるんすか?」

 

「そうなるね。ひっくるめると「傷ついて欲しくない人達を守る」って事なのかな?」

 

「結構欲張りっすね」

 

「ホントだね、だけど出来る限りでやろうと思っているよ。それが僕なりの強さだから」

 

この辺は絶対折れねえんだよなあ、この人。

相当無茶そうな注文だったとしても、全部やり通してるって話だ。長年のぐち話だったって聞くバジーリアおばさんの悩みがなくなったってのはアルさんがらみって噂だし。

 

自分を折らねえ強さ、か。

 

 

 

「…………あっ、レント!! 引いてる引いてる!!」

 

「えっ? ……うおっ!? 負けてたまっかよ!!」

 

ふんっ!! …………大物だぞこりゃ!! ソーンフィッシュ(イバラカジキマグロ)か!? ぜってえバラさねえぞ!

 

 

 

「ちょっとレント! なにアンタがアルさんの時間盗ってんのよ!!」

 

 

 

一番聞きたくねえ場面で遠くから耳に響いてきた声――ミオさんもうちょっとお願いしますよ!!

 

「冗談だろ!? こんなタイミングで!?」

 

「やあライザ、手伝ってくれないかい? 結構な大物だよ!」

 

「まっかせてください!! たとえレントが湖に引きずり込まれようと魚は捕まえてくるんで!」

 

「おかしいだろそのたとえ話! 普通に手伝え! つうかお前が湖で泳ぐのはまだやめとけ!」

 

右からアルさんが、左からライザが竿を持つ。

やっぱがっしりしてんな、アルさんの腕。これも強くなろうとした努力のたまものってか。

オレよりずっと細かったあの身体からこうなってんだ。オレもなる事は出来るって事だよな。

んじゃまあ、間近で見れる目標にさせてもらおっかね!!




という事でレント編でした。
どのくらい難産だったかというと、これを保留して先に5話以上書けたくらいです。
しかも新情報がない……。

次は勿論タオの視点です。同じく難産でした。
同じような冗長ペースでリズムが悪いので、隔週ではなく来週投稿の予定です。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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