ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
女性陣の方が圧倒的に話を描きやすい。ボオスだけは何故か別なんですが。
評価を付けて頂きありがとうございます。とても励みになります。
外伝も後半になりましたが、引き続きお付き合い頂ければ嬉しいです。
今回もよろしくお願いします。
「はぁ……はぁ……」
「どっちに行った?」
「すみ、ま、せん、ボオス、さん、見失い、まし、た……ぜえっ……ぜえっ……」
「……お前はもう少し体力を付けろ、ランバー。そんな様子ではこの先父さんの補佐を任せられない」
「すっ、すみま、せん……」
タイミングが悪かったなあ。
最近はずっと書庫で読んでいたから、気分転換だと思って外で読もうとした初日にボオスに見つかるなんて。今はライザもレントもいないし、ここでつかまったら本を取られかねない。
僕もライザに連れ回されているせいで昔に比べたらそれなりに体力は付いたはずのに、ここまで追ってこれるなんて。ボオスってあんな体力あったかな。
「ちっ、あいつもいつまで付き合っているんだか……他にやるべき事は山のようにあるんだ、こんな事にこれ以上時間は割けん。打ち切って戻るぞ。タオなら早朝の仕事の時でも話は出来る」
「はっ、はい」
うええ、仕事中にグチグチ言ってくるのはカンベンしてほしいなあ。
まあその時は今みたいな感じにはならないだろうけどさ、仕事中なんだから。
それにしても……そんなにやっちゃダメなことなのかなぁ、「古代文字の解読」って。
たしかに島の誰も興味を持っていないみたいだし、読めなくても生活には何の問題も無いんだから無駄って言われちゃったらそうかもしれないけどさ。
気になるじゃないか。
何で僕の家の地下にだけ、そんな読めない文字だけで書かれた本が大量にあるのか。
昔から本を読むのは好きだ。
別にライザみたいに新しい何かを知るって意味じゃなくてもいい。文字を読むのが好きなのかもしれない。学び舎で教えてもらうのも楽しいと思ってるし。ライザの宿題の代筆は別だけど。
フレッサさんやロミィさんが時折仕入れてくれる本なんかはホントに楽しみにしてるんだ。
今までに読んだことがない、想像もしてなかったような内容を見られるってワクワクする。
そんな性格で、家に大量の本があるって言うのに――それが読めない。
それを読めるようになりたいって思うのは普通じゃないのかな? まあ父さんも母さんも、それ以前の僕の先祖も興味がなかったみたいだけどさ。
捨ててはいけないと昔から言われているらしいから、捨てられずにはいる。
だけどその理由を誰も知らない。不思議な事だと思うんだけどなあ。
どういうわけか、島の中にいくつか点在している石碑に書かれた文字と同じような。
だから、かつてこの辺りに存在したっていう「クリント王国」の文字だとは思ってるけど……分かるのはそこまで。
何とか読もうとして文字を書き出してはいるものの、そこから先には全く進めていない。
お金はかかるだろうけど、ロミィさん辺りにクリント王国に関係してそうな本を探してもらうしかないのかな? 聞いた限りでは見たことないって言ってたけど。
「……あん? タオじゃない。珍しいわね、こんなところで本を抱えてるなんて。買い物帰り?」
「!?……なんだライザか。さっきまでボオスとランバーに追われてたんだよ、本なんか読む時間があったら仕事しろってね」
「…………あのバカ。後でアイツんちに考えたばっかの魔法をぶっ放してくるわ」
「ダメだって。カールさんとミオさんに迷惑がかかるし、ライザは理論がサッパリなんでしょ? 下手するとライザの目がくらむよ。多分明日小言をもらって、それで終わりだと思うから」
「タオはあきらめが早すぎんのよ、もっとガツンと言ってやるべきだと思うわ……まああたしも解読の楽しさってのは全然わかんないけどさ」
なんでライザが僕の近くにいるのが自然になったのか、きっかけが思い出せない。
どう考えても僕とは性格が合わないのに、不思議と居心地は悪くない。何かを調べようとするところが合ってるからなのかなあ。
レントは今の学び舎の最年長ってのもあると思うけど、ライザに関しては不思議の一言だ。
――あの時のことがなかったら、今のライザはどうなっていたんだろう。
「それで……ライザはボーデン地区で買い物かい?」
「まさか。アルさんの所よ!」
「まさか」ってわざわざ言う?
「また? 入り浸り過ぎじゃない? 下手したら家にいる時間より長いんじゃあ……」
「そんなことないわよ!……多分」
ライザですら適当な完全否定ができないってなると、あやしそうだね。
ただまあ、あそこにいることの楽しさってのは僕にもあるからわからなくもない。
アルさんに関わるものの大半は新発見だ。
アルさんが作るものもそうだし、話す内容もそうだし、考え方もそう。
アルさん本人が外の人なんだから当然と言えばそうなんだけど……ライザやレントにすら理解されない解読の楽しさを、アルさんは共感してくれている。
それも社交辞令じゃなくて本当に興味を持っているみたいで。
「タオもこれから用事は無いんでしょ? 付き合いなさいよ、タオもアルさんに解読の話とかしたりするって聞いたし。お菓子置いてくれてあるの!」
「まあそれはそうなんだけどさ。でもアルさんだって仕事があるんじゃ――」
「アルさんが「大丈夫だよ」っていつも自分で言ってるんだから大丈夫よ! ちゃんとルールは守ってるんだし。さあ行くわよ!」
それはアルさんが僕らより大人だからの回答だと思うんだよなあ……。
ライザがアルさんの所に居れば、それだけライザが何かをやらかす事が減るんだから。
♢♢♢
バァン!
「アルさんこんにちはー!!」
「もっと静かに開けなよ……お邪魔します」
旧市街の一角。元は染物屋だった建物、いつの間にか看板がかかった「エルリック工房」。
たしか……5年か、アガーテさんが島を出た頃。あの時から1年経ったくらいだったもんね。
今は工房という名の通り、店内で商品の販売も行われている――以前は修理がメインだった。
ウチも搾乳器を直してもらったっけ。綺麗に丈夫になっただけじゃなくて何故か軽くなっていたけど。
「やあライザ、タオ。いらっしゃい。タオは何か注文かい?」
「いえ、いつも通りです」
「アルさん! この前のアレ、食べていい!?」
「ああうん、作業場の――」
「知ってる! いただきまーす!!」
店主の話くらい聞きなよ……。
それを笑って過ごせるアルさんがすごいと思う。これは島の外の大人の人でもダメだと思うんだ。
「相変わらず元気だね、ライザは。タオは……何かあった感じかい? ボオス君?」
「バレバレですね。ライザに遭う前はボオスに追いかけまわされていて」
「彼は仕事や掟に厳しいからね。謎の「クリント王国」に関わらないって掟のお話なのか、タオは仕事に集中してほしいというのか。どっちが優先なのかは分からないけれど」
「多分どっちもだと思いますよ」
後は個人的な理由――僕が「タオ・モンガルテン」であり、「あの時の関係者」だから。
「アルさんはどう思いますか? そもそもアルさん的に「掟」って普通の事になりますか?」
記憶は失くしていると聞いているけど、何もかも忘れたわけではないらしい。
自分の名前だとかちょっとした単語だとか、そして大体の常識……というより考え方? も。
アルさんは島の外の人だ、なら外の常識的にはどうなんだろう。
「「掟」という形では無かったかもしれないね。だけど社会で生きる以上は規則に縛られるものだよ。皆が足並みを揃えないと、せっかく築き上げた物がバラバラになってしまうから」
「クーケン島の掟も、そのくらいのものって事ですか?」
「う~ん……個人的な感覚でしかないけれど、厳しい部類には入るのかな? 自由に出入りが出来ないというのは窮屈なところもあるし、理由が分からないものも多いし。とはいえ、それで島は平和に過ごせているんだから間違いでもないんだとは思っているよ。それに掟を厳格に守られているのなら、僕は今頃ここに居ないわけだしね」
ちょっと度は過ぎてるかもだけど、おかしい程度でもないってくらいなのかな。
アルさんの取り扱いについては確かにそうだけど。エドワード先生もなんだっけ?
血が濃くなるとダメって何かで聞いた事はあるし、僕が知っている人でも島の外出身って人は何人かいる。絶対的な決まりではないって事なんだろう。
ブルネン家は島の外で商いをしているって聞くし、行商人の人達は当然島の外から来る。
ずいぶんと勝手な解釈って思うけど、そうじゃないとやってられないのは古老たちも分かってるんだろうね。
「タオもライザみたいに、掟から外れた事をやってみたい感じかい? 解読の事だよね?」
「「掟だからイヤ」みたいな考えじゃないですよ。ただ……なんでダメなんだろうって思うんです。みんな「クリント王国」って言葉は知ってるんだから、ある意味勉強したわけですよね? でもその先に進む事は掟破りだなんて。それに僕の家の本は捨てちゃダメって、ブルネン家や古老たちですら認めてるんですし」
出所が分からないっていう点では最たるものじゃないのかな、ウチの本って。
まだアレがクリント王国の物って決まったわけじゃないけど、島の遺跡がクリント王国の物って言われていて、多分同じ文字で書かれているんだから。
「そうだねえ……タオは研究者に向いているのかもね。僕個人としてはその感覚を思うがままに伸ばしてほしいと思うよ」
「……「けんきゅうしゃ」、ですか?」
聞いたことがない言葉だ。職業みたいだけど。
「「
「文字を調べる仕事があるんですか? 「こうこがく」って初めて聞きますけど」
「古代を考え学ぶ者と書いて「考古学者」だよ。タオはあの文字を昔あったクリント王国の文字だと考えているんだろう? それは古代に存在した文化を考える事に他ならないから」
そんな仕事があるんだ。何かを調べることが稼ぎに繋がるだなんて。
もしそういう仕事に就けそうってわかったら、母さんたちやボオスも納得してくれるのかな。
「カールさんの「かがくしゃ」って言うのは?」
「カールさんは実際には「農学者」……まあ
ライザのお父さん、カールさんはよく「麦が喜ぶことはなにか」を考えてるんだっけ。ライザがぼやいてたなあ。
ライザの家の他にもヴァッサ麦を育てている所はある。だけどライザの所のが一番美味しいらしいし、量も沢山とれるんだとか。それはカールさんのお仕事のたまものなのかな。
そういえば。
「アルさんは、今みたいな状況じゃなかったらやりたかった事とかあるんですか?」
今のアルさんが島で道具屋をしてるのは、島に助けられた恩返しが始まり。
手先が器用だから道具屋をしようって。そういう経緯だったはず。
だけど多方面に才能を持つアルさんだ、流れ着いたのがこの島じゃなかったら他の事をやっていたんじゃないか。そもそも漂流していなかったら、今頃何をしていたのか。
「そうだねえ……考古学ってわけじゃないだろうけど、僕も調べ物をするのは好きだから研究者にはなろうとしたかもね。タオがやっている事も面白いと思うし」
これは以前から聞いていた話だ。アルさんも古代文字の解読が面白そうとは言ってくれている。
ってことは、ライザやレントと違って古代文字解読の仲間が出来るかも……?
「なら……アルさんも読まれてみますか?」
結局島の誰にも面白さを理解されていない僕の趣味。
「面白さが分からない」と一度も口にしたことがないのはアルさんとロミィさんだけ。
ひょっとしたら、アルさんも古代文字解読仲間になってくれるかもしれない。
「……いいのかい? 大切な本だろう?」
「確かにそうですけど、今の僕じゃ宝の持ち腐れかもしれませんし。一人でやるにも行き詰っていたところなので。アルさんが良ければ、アルさんの意見も頂きたいんです」
ただでさえ忙しいアルさんだ、積極的に取り組んでくださいとは言えない。
暇つぶしにでも読んでもらって、思った事を教えてもらえるだけでもだいぶ違う。
「……そういう事なら、読ませてもらう事にしようかな。どういった本があるのか分からないけど、何冊か貸してもらえるかい?」
「……!! 勿論ですよ、明日にでも持ってきますね!」
これでアルさんも、というか古代文字解読の仲間が増えた。
何かが進むといいんだけどなあ。
「タオ、アンタもこれ食べないの? あたしが全部食べちゃうわよ?」
店の奥から口の周りの食べかすを指で拭り終えたんだろうライザが来た。
仮にここにアルさんが居なかったら、そのままなんだろうな。
「いや、それはアルさんのなんだから……ちょっとは自重しなよ。というか、たまにはお返ししたらどうなの?」
「うっ……久々に言い返せないタオの正論が来たわ」
「あはは。そんなこと気にしてもらわなくても大丈夫だよ。ライザ達用に置いてあるところもあるから。ちなみにレント用もあるよ」
「さっすがアルさん! 話がわかるぅ!」
まったく、アルさんがこんな風に甘やかすからライザが余計に遠慮しなくなるんですよ。
でも……この工房に居る間はライザも割とおとなしいんだよなあ。
やっぱり、本当にすごい人の前ではライザのガキ大将も鳴りを潜めるのかな。
♢♢♢
「これはまた……不思議な内容だ」
島に関する調査は行き詰まっていた。
調べようにも取っ掛かりがないから。仮定があまりに多く含まれてしまって精度が低くなる。
だからこそ、誰も内容を知らないような物に手を出さざるを得なくなった。
タオから家にあるという古代文字の本を初めて借りて数日。
口に出たのはそんな感想だった。
仮にタオがこの文字を読む事が出来たとして、それでも内容を理解出来ただろうか。
――乱丁な説明書。
理解が間違っていないならそういう中身だ。
マルコーさんや兄さんが書き残していた研究の暗号とは方向性が違う。
多分だけど暗号化されているわけじゃない。本来の読み手以外が見る事を前提にしていない。
何かを知っている事が大前提になっていて、どうしてもわからない場合の裏マニュアル。
そんなレベルの印象を受ける。となると、今度は蔵書の数に説明が付かなくなるけれど。
不思議なのは、ここまで読んで「何を対象にしたものなのか」が全く分からない事。
可能性がありそうなのは、今までこの世界で見た事がない「工業機械」に関するもの。
ただ原理原則、考え方、目的などが全て省かれているせいで理解のしようがない。
そういう意味ではこれも暗号なんだろう。タオの家にあるらしい他の本と掛け合わせるとか。
方向性としてあり得そうなのは
内容に色々思う所はあるけれど、一番の謎は「何故タオの家にこれがあるのか」。
家の方々もご存じないらしい。確かにこれは不思議だ、今の所結びつく線がない。
考えられるのは……城から抹消されていた情報を記した書籍関連、あれがタオの家の地下に移送・集積されていて、封鎖されていたのを知らずに上から家を建てたとか。
この島にもクリント王国の遺跡は存在するんだから出入りは当然あったはずだし、地下に保管されていたのなら現代まで綺麗に残存していた事にも説明は付けられる。
それでも結局、何故クーケン島に移動させる必要があったのか分からないけれど。戦争対策?
この島の正体も仮定の域を出ない。ロミィさんから頂いている情報を含めても、似たような例は見た事がないのだから。
そして……どちらかというと今はこっちの方が重要。
古城に在った石碑や書籍で読めていなかった内容、その一部にようやく理解が及んだ。
「フィルフサ」――これは魔物の名称だ。見た事がある魔物なのかそうでないのか。
竜は「喚ばれる」存在。竜使いは喚んだ竜を使役する職だったんだろう。
この周辺の地名に関しても呼び名が判明した。
街道は「中央ライム平原」、悪魔の野は「ライムウィックの丘」、塔への道は「リーゼ峡谷」。
つまり、あの塔はやはりクリント王国関連の代物って事だ。
でも分かるのはそこまでの事。具体的な内容どころか、「塔」自体に関する記述も見つからない。
そして「門」なる謎の存在。フィルフサは門から来るとされていた。
これが巣か何かの比喩なのか、あるいは本当に門なのかはわからない。場所に関する記述なし。
それなりにこの周辺は見て回ったつもりだけれど見つけられていない。
既に失われているのか、あるいはまだ辿りつけていない塔にあるものなのか。
これが後者だったとしたならば……僕の世界に繋がる何かがあるのかもしれない。
タオも冒険に出るまでは原作通りの性格なので、味付けのしようがありません。
せめてクラウディアが居れば……。
次回はアルの視点に戻ります。こちらも来週に投稿予定です。
本編にて、実はもう一人アルに関する過去話を口にしたキャラのエピソードです。
次も楽しんで頂けたら嬉しいです。