ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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仕方がない事なんですが、ハガレンクロス感が最近薄っすい……。

外伝の外伝、妄想90%のお話です。3だと明かされてたりします?
本話はとある人物の視点で3つの時間軸を行き来します。

今回もよろしくお願いします。


137. 2年前?   戦士の一休み

Uri(燃えよ).」

 

 

ボン! ボン! ボン!

 

ギャウ!

 

 

Gelida(凍てつけ).」

 

 

ピシィッ!

 

 

Ventus(切り裂け).」

 

 

ビュオゥ! パリィィン!!

 

 

「……これで最後か」

 

今の波が始まってから数年は経過した? 日数など分かりもしないけど。

取り敢えず、今の巣から出せる分の戦力を吐ききったらしい。

 

「休もう。最近無駄な思考が多すぎる」

 

ただひたすらにフィルフサを殺すだけだったはずなのに。

今回の波から妙に考える事が増えた。

 

目に付いたフィルフサは例外なく殺す。それ以外は一旦止まる。

精々その程度の識別でこの数百年を生きてきたはず。

 

なのに、今のように「こんな感じに生きてきた」なんて事を再認識する思考回路が戻っている。

何かの予兆なの?

 

何にしたって、考える事が増えるとそれだけで脳への負担が増す。反応が遅れる懸念あり。

人間らしくなったといえるかもしれないけれど、現状では不便な機能といえる。

フィルフサを殺し尽くすなんて夢のまた夢だ。

 

休めば思考も止まる。

今の所、次の波の気配は感じない。しばらくは押し寄せてくる事もないだろう。

久々に拠点に戻って纏まった休みを取るとしよう。

 

 

 

「ここが水源地……ね」

 

水の一滴も存在しないのに、どこがどう水源地なのか。

とは言え、彼らがここを去って以来雨も一度も降っていないはずだけど、汚染されつつも植物達は生き延びている。土壌の水分は比較的残っているのかもしれない。

 

かつてはもっといい風が吹いていた気がする。今やただの空気の淀み。

命を育む水を失った結果、ここまで世界が変貌するとは誰も思わなかっただろう。

持って行ったのは彼らだと聞いているけれど、恐らく彼らもそこまで深く考えていない。

 

そうだと願いたい。

 

「駄目だ、余計に頭が回る。何の変化があったのかな」

 

何かあったか? それらしい予兆なんて。そういえば空腹も何となく感じる? 厄介な。

今回の波の始まりからだ。その頃にあった事と言えば――

 

「……彼らの世界に何か紛れ込んだ、だったか」

 

ここに居る私ですら感じ取れた、特異な気配のナニカ。恐らく彼らの世界側に降り立っている。

だけどそれ以降感じられたものは特にない。あちらの世界に大きく影響を及ぼしているようなものではないのだろう。

 

仮に影響を及ぼすようなものだったとして、感覚的なノイズにはなったかもしれないけれど。

私を人らしく戻すような作用があるはずもない。原理が不明だ。

 

「あちらはどうなっているのかな。(管区長)は流石に死んでいるか。子孫を残せていると良いけど」

 

フィルフサの大侵攻が始まって、彼らは全て撤退した。

探してはいないけれど、当時はこの周辺に開いている「門」があったのだろう。

最後の最後で彼らは門を閉じ、この地には水を失った大地とフィルフサだけが残った。

 

あれだけ多種多様な「錬金術」と呼ばれる技術の道具があるのだから、滅んではいまい。

以前より更に国を大きくしているのかもしれない。大量に資源を持って行ったのだから。

 

不思議な感覚だ。懐かしいという思考なんて。

 

「久々に見てこようか」

 

彼らとの関わりを示すものはここのすぐそばだ。今は波が終わった直後でフィルフサ達も居ない。

特別気を張る必要もないだろう。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「我々はクリント王国から参った者です」

 

「……クリント、王国?」

 

 

 

どこからか、おかしな連中がやって来た。

そんな話が奏波氏族から流れてきて、グリムドルの近くにも干渉する可能性が高い事から代表として私も派遣される事になった。長老仕事して?

 

若いな。全員子供の様な魂の年齢だけど、私達と比べて肉体の劣化がかなり早い様子。

これでは生きられても精々100年程度だろう。代わりに精神は老成していると言えるだろうか。

 

見た目は私達に近い。が、脆弱。吹けば消し飛びそうなほどに。

だけど……装備は一級品だね。どういう原理か分からないけれど、かなり強力なエレメントが宿っているから干渉阻害性能は高そう。

身体の弱さを補うために、道具を作って身を守る事を選んだのだろうか。

 

で、ポーカーフェイスだからという適当な理由で私を代表にするのは止めて欲しいんだけど?

 

 

 

「ここには国も王も存在しない。我らはこのオーリムに住まいしオーレンの民。私はグリムドルの霊祈氏族、キロ・シャイナス。要件を伺う」

 

「友好を。そして知恵を学ばせていただきたい」

 

「知恵?」

 

「恥ずかしながら、我々の土地では戦が絶えませぬ。各国が利権を争い、犠牲になるのは罪なき民。一つの戦が終わっても、必ず次の火種が燻り始める。我らの歴史は戦争の歴史でございます。故に、これを止める知恵を得たいのです。ヒトという種に課せられた呪いともいうべき流れを止める為の」

 

精神的に未熟故に焦りが生まれる。安心と余裕が欲しい。だから征服したがるといった感じか。

そんな思考が積み重なって、国という大きな単位で戦いを繰り返しているのだろう。

 

私達のように自分達の氏族の縄張りだけでは生活を維持できないのか、或いは人口の大小に左右されて他者の土地に踏み入らざるを得ないのか、それともただの強欲か。

 

オーレン族は実力主義。弱ければ飢えて死ぬか魔物に殺されて死ぬか。

わざわざ弱者を守るなんて発想はない。発想する必要がそもそもないのだから。

だが彼らはそうでもないらしい――守れるものは守ると。

 

 

 

彼ら「クリント王国」の者達の取り扱いは、当然ながら揉めた。

少なくとも数千年、私達の生活は大きく変化していない。そんな中、突然現れた異物。

まるで海の向こうにいるフィルフサ達が、突然こちらに侵攻してきたかのような状況。

 

彼らは侵入者、排除すべきであるという白牙氏族。

自分達の縄張りを荒らさない限りは興味がないという緑羽氏族。

ある程度は手を貸してもいいのではないかという私達霊祈氏族。

この地の調和が乱れぬ限りでは滞在を許すという奏波氏族。

 

露出趣味の面子は放って置くとして、多数決なら許容の方向であった。

何より、ここに来た彼らも私達に近い「使命」を持っていた事が大きかった。

 

――自国の民を救う為。理不尽な命のやり取りを世界から失くす為。

 

彼らという種が生まれてから連綿と続いてきたという戦を失くす事を使命としているときた。

排除思考である白牙氏族でも、そこには思う所があるらしい。

 

 

 

最終的に私達は彼らを受け入れる事に決めた。

脆弱な身体である彼らでも、比較的生活しやすいであろう生活圏を持つ私達霊祈氏族が一旦の受け手となった。

 

そこから彼らとの交流が始まった。意外と悪いものではなかった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

それで、この友好共生碑を建てたんだっけ。

あの時の青年は出世したらしく、じきにあまり来なくなってしまった。管理主体と言ったか。

何度か再会した時は随分嬉しそうだった。本当に民を救えそうだと。

 

「懐かしい」

 

思い出せるものだね。本当に懐かしい。

あの頃はよかった――そう、あの頃までは。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「水が……消えた、だって?」

 

「ええ。彼らが何かの道具を使ってから、聖地の水は湧き出る事を止めてしまいました……聖地の怒りに触れたとも、『渦巻く白と輝く青』に盗られたとも言われているけれど」

 

強大な魔物が出現したとの事で、遠征に出向いて討伐して帰還した直後。

自然の力、成長といった事に最も敏感な緑羽氏族の族長の娘から聞かされた、そんな話。

 

本当に聖地の水は失われていた。精々一旦塞き止めた程度だと思っていた。まさか根こそぎとは。

人というのは本当に多種多様らしい。それは一国という枠組みの中ですら例外ではないと。

 

最初にここを訪れた彼らのように、真に自国の民の為、争いを失くす為に心から動いている者達もいるのだろう。

しかしいつからか、ここには欲に目が眩んだ者達によって遣わされた、ただ命令に従わなければ殺されるのだろう奴隷達で溢れていた。

 

木々は切り倒され、岩石は砕かれ、大地は掘られて持ち出され、精霊達は住処を失っていく。

加速度的にその影響は大きくなり、彼らは加減を知らなくなっていた。

 

一番の転換点は「錬金術」といったか。命を形作る生命の樹の概念を事物に持ち込み、魔力を以て制御し、要素のみを引き継いで別のカタチに作り直す魔法の亜種。神の真似事。

大地を揺るがす巨大な鎚、暴風を呼ぶ旗、そして人工的な奇跡の再現――自然を捻じ曲げる力。

 

調和の(ことわり)から大きく外れた、本来ならば多大な自制を要するもの。

そんな力を欲に塗れた存在が手にすればどうなるか。結果は語るまでもない。目の前の通りだ。

 

 

 

今この場に居る者達を皆殺しにするのは簡単だ。私一人で数分とかからない。

だけど……なら、私達は何のために彼らを一度は受け入れた?

 

無為に失われる命を、救う為ではなかったのか。

 

 

 

「ここまで、じゃの」

 

基本的に大らかで平和志向な大長老が冷たい口調でそう告げた――これは決定事項だ。

もう私でも庇う事はできない。そんな域にまで来てしまったのだから。

 

「今すぐ殺すか?」

 

「いや。後詰めが来るだけじゃし、そうなればここも戦場となろう。我らは死せずとも精霊達が傷つく。彼らを向こうへ送り、あの「門」とやらを破壊する。まずは彼らをあちらへ帰せ。霊祈氏族の皆は大精霊様にお伺いを、破壊という手段が正しいか否かをな。それまでは精霊術で封じよ。あの錬金術とやらに物理的な封鎖は根本的解決にならんじゃろうて」

 

「……承知しました」

 

せめて手荒な手段でなくてよかった。そう思った。

 

 

 

このやり取りが、せめてあと数日早ければよかったのに。

 

 

 

「フィルフサの大群が来た!!」

 

寝耳に水の話。私達の居住域は彼らと海を挟んでいる。

フィルフサ達は水を避けるのではなかったのか。

 

「どこを渡って来たというのだ!?」

 

「枯れた海だ! 聖地の水を盗られたせいか、奴らでも進める道が出来ちまってる! もう既にとんでもない数がこっちに向かってきてる!」

 

フィルフサ達の強みは数と指示系統、そして繁殖力。

各々の役割に淡々と従い、そこに疑いも恐れもなく、ただ遂行する。

荒れ果てた地でも繁殖出来るほどの生命力の強さ。こちらに上陸されれば侵蝕は不可避だろう。

 

私達は皆内地に居を構えている。故に海の状況を知らなかった。

水は流転する。山から大地へ、大地から川へ、川から海へ、海から空へ。そして空から山へ。

 

世界に満ちる水の量は常に同じ――ならば一か所でも「出口」を盗られたらどうなるか。

 

「俺が行く!」

 

「私も向かいます」

 

「権限を委譲する。わらわはここに壁を張ろう。急ぎ手を打たねば取り返しがつかん事になる」

 

「宜しくお願い致します。急ごう、Curre(全力で) Maxima(駆けよ)!」

 

戦闘が専門と言える白牙氏族と、命の機微を感じ取れる緑羽氏族と、彼らの接触者である私。

その場の判断を許された存在三名で急ぎ現地に赴く。可能な限り全力で。

伝令の内容だけでは規模が分からない。かなりの数である事は違いないけれど。

 

一騎当千の白牙氏族とて、万や億の数を当てられたら飲み込まれてしまう。

彼らと私達だけで何とかできる規模であると願いたい。

 

 

 

そんな願いは、あっさりと砕かれた。

 

 

 

「……大海嘯(だいかいしょう)か」

 

「海の向こうで、一体どれほどの数を生みだしたのだろうね」

 

「命が……消えていく……」

 

見渡す限り、フィルフサ。

まだ幾分かは残っていただろう海水に仲間を沈めて道を作り、その上を進軍してきている。

恐らく豊富な海洋資源を使って増殖したんだろう。だとしても、まさかこれほどまでとは。

 

そしてその侵攻勢力が一か所だけ伸びている。あそこは――

 

「ちっ! アイツら、自分達で誘き寄せてんのが分かんねえのか!」

 

クリント王国の、奴隷達。慣れない剣を使って戦っている。僅かな抵抗にしかならない。

そのずっと後方、大石塔から遠距離攻撃を行う魔術士と錬金術士達。火力は中々。

故にそこへフィルフサ達の関心が向いている。「排除せよ」と集団の思考が揃ってしまう。

だから止めるどころか引き込む形になっている。

 

もう上陸は避けられない。

 

「分かるはずがない。彼らは若いし怖がりだ。何よりここは彼らにとって資源が豊富、増長した思考で相手を待つ事なんてしないよ。無謀にも勝つつもりらしいね」

 

「懇切丁寧に説明ありがとよ! ……召喚か、フェイタルドライブでどうにかできるか? 巫女」

 

「召喚じゃ規模が不足するからフェイタルドライブかな……貴方達にも撤退の時間がいるね。壁の構築状況が分からない今ここで私がアレを放ったら、同胞への被害も甚大になる。壁の強化を全力で行うか、出来る限り内地へ避難を。刻限が来たら海だった大地ごと吹き飛ばす」

 

「他に手段がありませんか……貴女だけでやれそうなの? 噂は聞き及んでいますけれど」

 

「現状なら最低一回は。でも自然が失われてきたら次はないかもしれない。精霊達も拠り所を失ってしまう。少なくとも暫く私は役立たずになるからそのつもりでお願い」

 

どういうわけか、他の同胞達と比べて異常に出力の強いこの身体。

本来なら命を賭して放つ規模の魔法も、私であれば気絶程度で済む。

 

後は皆に任せるしかない。実力主義なはずの私達が助け合いだなんて、世の中分からないものだ。

 

「……継承者、ディザイアスの名に懸けて。同胞の命を守り抜く事を此処に誓う」

 

「紡ぎ手、グロースの名に懸けて。オーリムの命を繋ぐ事を此処に誓います」

 

「聖地の巫女、シャイナスが告げる。一刻の後、この身は大罪人となる事を。そしてその咎を忘れる事なく、この身が滅ぶまで背負う事を此処に誓う……頼んだよ」

 

 

ダッ!!

 

 

一刻の間にどの程度までウィンドルに集められるか。或いは散る事が出来るか。

私にはどうする事も出来ない。ただ巫女らしく祈るのみ。

 

「さて――Musca(飛翔せよ).」

 

どの程度効果があるかは分からないけれど、彼らのせめてもの道標となる事を。

 

 

 

「撤退しなさい。この場は引き継ぐから」

 

「あっあなたは、此方の!?」

 

「貴方達は命令されるがままに来ただけなのでしょう? あそこにいる彼らが許可せずとも、最初に貴方達の国と誓いを結んだ私が許す。帰りなさい。そして戻ってこないように」

 

「どうなさるつもりですか!? この状況では……っ!」

 

よくまあこの脆弱な身体で戦線を維持していたものだ。奴隷だろうから訓練もまともに受けていないだろうに。特に目立っているのは4人か、上手い具合にバランスが取れていたのかもしれない。

 

「一刻の後、フィルフサごとこの一帯を文字通り吹き飛ばす。急ぎ帰って管区長に伝えなさい――「水で壁を築くように」と」

 

「アンタはどうする気だ!?」

 

「ここは元より我らの地、ならばその地を守るだけ。死にはしないよ、これでも丈夫な身体でね」

 

こういう声のトーンは久しぶりだ。力を借りられる準備は出来ているらしい。

さあ、早く。

 

「……すまない」

 

「もう少し真っ当な場面でその言葉を聞きたかったものだよ――Curre(駆けよ). Ignis Hastam(炎の槍よ) !」

 

私が魔法を放つと同時に、彼らは踵を返して走り出した。

そう、それでいい。安全地帯から手を出してくる連中たちを気にする必要は無い。

今の貴方達なら彼らの追撃も振り切れる。急ぎ戻って主に伝えなさい。

 

そして、貴方達の命を繋ぎなさい。

 

 

 

ᛁᚾᚠᛖᚱᚾᚢᛋ ᚱᛖᛉ ᛞᚨᛗᚾᚨᛏᛁᛟ(神炎の断罪) !」

 

 

カッ!

 

ドオォォォォォォン!!!

 

 

「……強さや耐久性はともかくジリ貧にも程がある。1パーセントでも削れたのかな」

 

火で燃やし尽くしても、風で切り刻んでも、凍らせて粉砕しても、雷で焼き殺しても。

減った分以上のフィルフサが延々と補充される。話に聞いた「女王種」に既に侵入されているか。

 

今日この日、この世界の縮図は変わるのだろう。

でもただで明け渡すつもりはない。私達の意地を見るといい。

 

いつのまにやら、後方で陣地を築いていた彼らも撤退した様子。

正直彼らについては少し巻き添えをくって欲しい気持ちもあったんだけれど。

まあいい。誰よりもフィルフサの恐怖を知った者として精々足掻くといいよ。

 

時間だ。

 

 

 

ᛖᛉᛁᛏᛁᚢᛗ ᛁᚾᚲᚨᚱᚾᚨᛏᛁᛟ(果てより来たるは) ᛖᛉ ᚨᛒᚣᛋᛋᛟ(破壊の権化).」

 

 

キィィィィィィィィィィィィン

 

 

感情の発露は十分。今の私に溢れている感情は何なのだろう。

この地を汚された怒りか、こんな状況を招いてしまった自分に対する懺悔か、この先の未来に掛ける希望か。

 

何でもいい。私の中の存在が、この言葉を聞いてくれるのなら。

 

ᚾᛟᚾ ᛖᛋᛏ ᛗᛁᛋᛖᚱᛁᚲᛟᚱᛞᛁᚨᛖ(汝に与える慈悲は無し).」

 

 

グォングォングォングォングォングォングォングォングォングォングォングォン!!! 

 

 

 

この詠唱を終えた時、私は世界に大きな傷を残す大罪人となる。

だけど、そこまで悲観していないのは他の同胞達とも異なる様子の精神故か。

この役にうってつけの存在だったと言えそうだ。罪の重みで自壊する事も無いだろう。

 

ᛈᛖᚱᛁᛒᛁᛏ(永久に去ね).」

 

さあ、共に終わろう。

 

 

 

ᚺᛁᚲ ᛗᚢᚾᛞᚢᛋ(現世の) ᚠᛁᚾᛁᛋ ᛋᛏᛖᛚᛚᚨ(極夜星) !!!」

 

 

 

遥か遠くの空から、空気を切り裂き熱せられ、地上を破壊する為だけの力を呼んだ。

これでこの一帯は見渡す限り荒野となるだろう。

 

願わくば、この行動で一人でも多くの人が生き残れますように――

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「覚えているものだね。咎を背負った事を忘れたつもりはないけれど、ここまで詳細に記憶しているとは思ってなかった」

 

あの結果、かつて海があった北の大石塔の先は一面の荒野になった。

だけどフィルフサは一時的に数を減らしただけ。クリント王国は完全撤退。

そして私達オーレン族は……私と同じく他所で戦っている戦士たちが居るのか、戦って命を落としたか、住処を散らしただけで済んだのか。私以外の生き残りがどれほどいるのか。

他の誰にも会えていないから想像するしかない。

 

その後に私が目覚めた時から既に数百年は経っているだろうけれど。

自然の在り方が徐々に赤く黒く紫に染まり始めた以外、その光景は大して変わっていない。

ウィンドルに行こうにも、そこまでの間にどれだけのフィルフサを殺す必要があるだろう。

その間は聖地の守りを放棄する事になる。ここを棄てるつもりは欠片もない。

私は聖地の巫女なのだから。奴らの餌場にしてなるものか。

 

結果、私は今もここに居る。

どこか諦めつつも僅かな希望に縋り、いつかは何かが変わる事を願って。

 

石碑に触れる。あの頃は、私達が誰かの命を救う立場になるなんて考えもしていなかった。

彼らは、彼らの子孫は、命を繋いだのだろうか。居たとしても会う事は無いだろうけれど。

 

こうして数百年ぶりに思い出した記憶も、次の波の対処中には霞の彼方に消えるだろう。

それでいい。今の私に必要なのは咎を背負った事実と、ここを守ると決めた心だけ。

 

あえて望むなら――願わくはあの決断で、一人でも多くの命を救えている事を。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「とか考えてたんだよねえ」

 

同胞はこういう時間を何と言っていたか……なんたらタイム?

まあいいや、無駄に頭が回るタイミングなんだね。大体は実感できたよ。

 

ちょっと昔を振り返ってみたら、なんとまあ暗ーい思考回路ですこと。

当時の状況を考えたら当然というか仕方がない事なんだけどさ。

ヨルムンガンドの思考シリアス過ぎない? よくあそこまで私を曲げたものだよ。

 

まさかとは思うけど、あの時の奴隷の四人があの子達の祖先だったりしないよね?

何となく面影がないわけでもないけど、いくら何でも縁が続きすぎているか。

 

 

 

さて……あの頃の私が今の私の姿を見たらどんな反応をするだろうね? 笑うしかない。

あれから精々四年? こんな光景を予想できるわけがないよ。取り敢えず殴られそうだ。

 

「すぅー……すぅー……」

 

可愛い寝顔だ。これがフィルフサどころか5000万人の命と私達の世界を救った英雄とは。

世界を歪めるほどの力を持った存在も、見方を変えればこの世に生まれてたかが30余年。

普通とは言えないかなり波乱万丈な人生を歩んだ、それでも一人の青年に違いない。

私も私で中々の経験をしていたのは認めていいと思うけれどね……。

 

 

 

で、そんな事はさておき――いつになったらこちらに手を出す気になったの? ねえ?

ライザには「手を出されたら」とか言ったけどさ? いざ一緒に生活をして、寝食も共にして、今に至るまでそんな気配が欠片もないのはすっごい惨めで、もはや屈辱的なレベルなんだけど。

今でこそ杞憂の話になったけれど、ほんの少し前まで世界でただ一人の相方だったんだよ?

大精霊様の力があるとはいえ、一応生物の欲は戻ったんだよね? 私が真に対象外とかないよね?

 

生き残られていた大長老もそうだし、再会したあの時(緑羽氏族)の彼女とかリラのお母さんとかさ。

そういう新しい関係にばかり目を向けて、ちっともこちらに目を向けようとしてくれない。

 

髪型とか服装とか変えたりしているのに。大事な装備(セラーフィムハウル)すら外したのに。意味に気付けよバカ。

 

お陰でこちらはこの半年間ストレスフル。解消しようにも本人が筋金入りのボケ(朴念仁)アホ(女泣かせ)

鎧時代の方が興味持ってたんじゃないの? メイと付き合い始めてから仙人になったと?

ヒドイよ。傍に置いてこんなフェロモンプンプンさせながらも単なる仲間の取り扱いだなんて。

こっちの精神は下手すると貴方より若いんだよ? しかも数百年分溜まりに溜まってさあ。

 

とは言え……拒絶されるのは怖い。彼が全身全霊でこれを拒んできたとしたら?

私は彼の傍にいられなくなる。あの時からの虚無の日々よりキツイ自信がある。

私もビビりだなあ……。

 

だからコソッと失礼する事にした。彼女達の事もあるから一線は越えない。自制が大変。

勿体ない気しかしないけど、流石にそこは引くべきだよね。

既にアカン領域な自覚はあるけれど、彼の意思を無視にここは絶対越えちゃいけない。

そんな事したものなら刺されそう。誰にとは言わないけれど。メイは許してくれるよね?

 

元よりこの身は大罪人。これ以上罪を重ねようが大して……シンシアやクラウディアに知られたら人格改変の洗脳レベルの指導が入りそうだね。今更だけどヤバいかもしれない。

 

真の私の精神は本当に賑やかだね、以前なら何の感慨も持たず実行したでしょうに。

 

さてと、休憩終わり……まだ目覚めるまで時間はあるかな。

もう二、三回くらいいけるよね? 数えてないけど無限に体力あるんだし。

 

では。

 

 

 

「…………アルが悪いんだよ……?」




なお解消できたどころか余計に酷くなった模様。

なんというか本当にすみません。
今回はちょっとくらいシリアスーとか考えていたのに、作者がもちませんでした。
本作の彼女はこんなのですから。

次から1年前。やっとです……。
本作における「ライザのアトリエ」という物語が始まるきっかけを描いていきます。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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