ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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外伝15話目。残り一年です。
この話数で終わる予定だったのに何をしているのか。

ここからは原作のスタートに関わる話です。説明多め。
本作本編と結構な齟齬が生じてます。ご了承ください。

今回もよろしくお願いします。


138. 1年前①   かみ合い始める物語

「とまあ、ざっくり纏めると「不可能じゃないけれど、細心の注意ができる商会に限定」って所でしょうか。先方にお願いする事が多くなりますし」

 

「ご苦労だった、フォーゲル。相手はこちらでも名を知っている所になるな。金の成る木だ、どこの商会だろうと食いつくだろうが……地面ごと苗を奪われでもしたら目も当てられん」

 

「モリッツ! 貴様、島の宝たるクーケンフルーツを余所者に取り扱わせようなどと! 気でも狂ったか!」

 

「黙ってろ、爺。昔のように細々と生きていたならいざ知らず、マシになりつつ徐々に少子化が進んで労働力も減っているこの島だぞ? 外の人間を入れなければ、金が入って来なければ、生産力のない島など即刻滅ぶ――孫世代にクーケンフルーツだけを食わせるつもりか? カールやアルフォンスの知恵で生活維持の目途が立っているからこそ、こうして時間を掛けて手段を選べている現実を理解しろ。それとも何だ? 貴様ら老人共が島の財政を回すと?」

 

「父さん。それ以上は止そう、ここはそういう場じゃない。エルリックさん、カールさん、伺ったお話ではたとえ土ごと運ばれたとしても栽培は難しいとの事でしたが?」

 

「同じ品質を維持するのは難しいと思うよ。気候天候の変化には強いけど、土壌の変化には極端に敏感だからね。数世代だけなら実も生るかもしれないけれど、どんどん大味になると思う。但し輸出先での品種改良技術や農業知見が想定より高かった場合は何ともかな」

 

「で、以前話したけどロミィさんが知ってる限りでは大丈夫だよ? 王都で農業は落ち目の分野で担い手が居ないし、二人の推論が真実ならヴァッサ麦を除いた他の作物を全滅させる覚悟になるから。長い事その周辺の田畑が使えないなんて極大リスクは正気なら踏まない。余程隔離しない限り水を通して農業地帯にいっぺんに広がるからね」

 

「一度死んでしまった土を生き返らせるのはとても難しい事だ。丸ごと取り除いて入れ替えたとしても、その地に土達が落ち着くには何年もかかる。相当な自信か、無謀でもしない限り大規模な栽培には行きつかないだろう。何よりこの子の感性は独特、下手に構われる事を嫌う点でも他の子達とは勝手が違うからね。プランターで一世代だけ栽培するのは不可能じゃないだろうが……」

 

 

 

旧市街、クーケン島の仮役場。

重要なお話はブルネン邸でする事が多いこの島だけど、トレッペの高台を都度上るのは結構大変だ。古老様みたいなご高齢の方々なんて特に。

という事で、本来は住宅や借家として管理しているこの建物で会議している。

 

主題は「クーケンフルーツの特産品化について」。今後の島の財政に大きく関わる内容。

 

5年前にロミィさんが初めてクーケン島にいらっしゃってから、徐々に動き始めたこの企画。

始めた当初は……とてもじゃないけど島から出せるような状況じゃなかった。

 

この島なら「何もせずとも育つ」のに、外の土地では「何をやっても育たない」。

そして持ち運びが極めて難しい。生魚のように足が早い上に、クーケン島の様な塩分交じりの空気に晒されていないとすぐに柔らかくなってきてしまう。

よくぞまあここまで「島から出す事を許さない」作物がこの地に生まれたものだ。

 

その輸出を実現するため、ロミィさんに様々な方法でクーケンフルーツの運搬を試して頂いた。

そこから判明した課題点に僕とカールさんが対策を考え、徐々にクーケンフルーツの品質を向上させると共に運搬についても技術確立を進めていった。

勿論使える手段はこちらに存在している知見技術のみ。ロミィさんが仕入れてくれた農業に関する本の知識をベースに、クーケン島の謎の特性と僕とカールさんの考えでアレンジしたもの。

 

その結果、なんとかロミィさん個人の取り扱いでなら王都まで運搬する事が可能になった。

あちらでは「リュコの実」と呼ばれる、生産地不明の知る人ぞ知る不思議な果物という扱い。

相当に高値で取引されているらしい。だからこそロミィさんも続けて下さっているんだろうけど。

 

それもそのはず、ロミィさんから何人もの手を経てようやく市場に出回っているらしい品だ。

関わっている人数が増えるだけ末端価格は高くなる。希少品なら尚更だ。

そしてごくごく少量だけのロミィさん直売に近い良品は凄まじい値が付くとの事。

 

今まで王都に存在しなかった、「野菜なのに飲む果物」という独特の味わい。

貴族層を中心に隠れたブームとなっているらしい。

 

それを大規模――つまり外部の商会を誘致して取引を行うというのが今回の計画だ。

とは言え大店過ぎると乗っ取られかねないし、零細商会では販路を維持できない。

ある程度の規模はあって、かつ信用できる商会にのみ話が流れるようにする必要がある。

島の機密性を維持するという特大の爆弾を抱えてもらわなければならないものね。

 

 

 

といったお話を、島の代表者的な皆さんと色々やらかした僕でしている所だ。

いい加減最初の修理屋に戻るべきかもしれない。最近線引きが分からなくなってきている。

もうアガーテさんもお戻りになった事だし、僕が島にいる必要性もどれだけあるか。

 

 

 

「それで……これがロミィなりにリストアップした「信用できる商会」か。何処も似たり寄ったりなのか?」

 

「その辺はボオスも勉強して欲しいんだけどねぇ? 規模とか資本がはっきりしているとか、暫くの経営の先行きに不安が無いってのは当然として、沿革や方針は結構違うわよ。保守的なのか革新的なのか、老舗なのか新興なのか、取り扱いのジャンルとか。視野は狭めない方が良いと思ったからソートは広めに見てる。だけどまあ、現実的に取り扱いをお願いするっていうなら」

 

「革新的、新興、比較的多種な取り扱い、だな。特産トマトの出回りは無いと聞くし、仕方がない話だがウチは表向きヴァッサ麦とヤギ関連しか扱っていない零細に近い規模。老舗だと間違いなく足元を見てくるだろう、なんせ金になる話だからな。そもそもデカい組織だと情報統制も出来ん。この中で俺が知っている所だと……「バレンツ商会」があるな。いつも一人娘を連れていると聞くあそこか」

 

「まぁた超敏腕なところで。ルベルト・バレンツさんが興して一代で今の規模まで成長した叩き上げ。誠実な資本故にかなりの理詰め派で、中途半端な契約は不可能だしお誘いも警戒される。相当しっかり構えてないといけないですよ。娘さん……クラウディアちゃんか、ライザと同い年の。あの子も大きくなったんだろなあ」

 

こうして色々説明してくれているロミィさんは、今や島の外の事に関する情報のブレーン的立場だ。僕も材料関係について相談させてもらう事が多い。

逆にこちら側も非行商人としての立場、と言っていいのかな……僕も商売人のはずなのに。

まあそんな視点から、仕入れ元の辿り方やどういった分野に転用可能かの相談を受けている。

そんな関係を続けている。最近はちょっと子供っぽくなった? 今は昔の雰囲気だけれど。

 

どういうわけかボオス君の家庭教師的な立場も担われているらしく、「強行軍」と称してかなりの大荷物を背負った状態で高台の階段を上り下りさせたり、島の中で自給自足のキャンプをさせたり……随分なスパルタですね?

アガーテさんと並んでライザの義姉的な役割もされている。万能だよなあ。

 

「俺も商人だ、そこは重々承知している。ここにこぎつけるまで5年かけて、最後の最後で詰めの甘い事はしたくない。カール、お前の農場以外のヴァッサ麦についてどう考える? ウチの商会以外でも卸せると思うか?」

 

「僕の麦達より灌漑設備導入や土壌改善を行った時期が数年遅くなっていますから、品質にはズレが生じるでしょう。量に余裕はありますが、出す事になったとして現段階で取り扱いは分けるべきかと。純粋に僕の所から出す量を増やすか、先方が他の麦達をどう見るかになると思います」

 

「そこは一度、俺も一緒に確認させてください」

 

「承知したよ。この後予定を決めようか」

 

「アルフォンスは何かあるか?」

 

麦と会話すらできると言われるカールさんだ。そちらに関わる事はないかな。

となると。

 

「来年の交易を前提とするならば、今年の作り方には改良を加えない方が良いでしょう。品質の基準が分からなくなります。将来的に出荷量を増やす見込みがあるのであれば、運び方とどの程度密植が可能かを改めて検討してみようと思います」

 

「頼んだ――で、どうする爺。アルフォンスとエドワード医師の湿布に世話になっておきながら、まだグチグチ抜かすか? 望むなら島の財政に関する帳簿を全部家に届けてやってもいいぞ? 俺の小言を聞く必要もなくなる。全ての矢面に立つ気があるならな」

 

「……フン。何時か痛い目を見るぞ、モリッツ。お前もこの島でなければ生きていけん。「掟」はこの島で生きる為の(すべ)なのだからな」

 

「なら島の中だけで全てを完結させられる現実的な手を一つでもあげて欲しいもんだ。結局口だけか――ではこれで解散としよう。各自、為すべき事をな」

 

こっちに来てからずっとそうだけど、相変わらずこの二人は仲が悪い。

考え方が凡そ真逆だから仕方がないんだけれど。

 

さて、僕に関しては喫緊の課題はない。しばらくは個人的に動けるか――

 

 

 

「アーール君!!」

 

 

 

と思ったらロミィさんが来られた。解放感なのか上機嫌だ。

 

「この後ちょっと時間もらっていい?」

 

「時間自体は大丈夫ですけど、どうされましたか?」

 

「デートのお誘いに決まってるじゃん! ライザがいない場所でこうしてアル君と話が出来るのがこんなつまんない会議だけなんて悲しすぎるし!」

 

島の転換点だろうこの会議を「つまらない」と言い切れるのが凄い。

 

「ははは……まあ多分、この建物を出るまでの間だけになりそうですけどね」

 

「はぁ……ホントそれよ。最近は工房の外でもベタベタと、しかも予想以上に発育しおってからに。カールさぁん、なんとかならないんですか?」

 

「ライザに土達への関心を持ってくれないかという話は、僕とミオが一番望んでいる事だよ。アルフォンス君の話への興味が尽きないという事は「新しい物好き」なんだろうね。こちらでも何か別の事を始めれば、あの子の目も向かせられるんだろうか」

 

「別の厄介事に繋がりそうなので控えて頂けると。カールさんの前で申し上げるのもなんですが、ライザへの対応はこちらで引き続き取らせてもらいます」

 

「ミオの拳骨が飛来すると余計に意固地になりそうだからね。親として情けない限りだけれど、ほどほどに頼むよボオス」

 

 

 

ここの所、一緒に過ごす時間が長いのはライザがぶっちぎりだ。

とはいえ、理由は分からなくもない。

 

早い話、ライザは「クーケン島」向きの性格をしていない突然変異の存在だ。

錬金術というものを知って、それに対する興味を止める事が出来なかった僕達に近い。

僕と兄さんが「錬金術に触れるな」と言われて飲み込めただろうか? 多分無理だよね。

 

ライザの場合はもっと広く、色々な経験が出来る場所での生活が向いているんだろう。

もしロミィさんがライザを外に連れ出していく様な事になったら、あの子は大化けすると思う。

最近はレントとタオがそれぞれ鍛錬と解読に時間を割く事が多くなったせいで、余計にチャレンジしてみる事のレパートリーが増えた結果、ボオス君の愚痴がちょっと増え始めている。

 

数少ない明確な興味の一つが「魔法」だけど、簡単な魔法はともかく実践的なものは理論の理解が必要。勉強が長続きしていない様子だ。

 

そもそも島には魔法に関する教科書もなければ、何とか使える杖も入門用に近いだろうグレード。

触りはともかく、まともに修めるにも環境が整えられない。ミオさんに教えを乞おうにも、その前に農作業が待っている。

農業用ハンマーで魔法を使えるらしいタオは例外だよね。彼は秀才だし。

 

熱しやすく冷めやすいが故に、ひたすら燃料を投入できる僕の所に来る頻度が多くなってしまっているんだろう。そのお陰か、誰かが被害を被るような出来事自体は減っている節もあるらしいんだけど……。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「アルさん! お話終わりましたか!?」

 

「うわあ御めかししてやがった……」

 

「やあライザ。そういう格好は久しぶりだね、よく似合ってるよ。この夏はそういう服装にするのかな? ここでの話は終わったところだけど?」

 

建物の外に出た途端に元気な声――彼女も大きくなったよなあ。

最近の動きやすそうな格好(キャミソールとホットパンツ)とは違って今日はスカートだ。元はミオさんの余所行き服なんだっけ。

なにか良い事があったのかな?

 

「アル君が褒めちゃダメだって……私が盗った分の時間を野生の勘で補填に来たか」

 

「えへへ……いえ、たまにはこういうのも着てみようかなって。今からもうお仕事ですか?」

 

「フフン、アル君は今からロミィさんと()()()()()を過ごすのだよ」

 

()()()()()()()良い?」

 

「アンタ自分が言ってる事分かってないのよね!? とんでもない意味に捉えられかねないんだけど! 間違っても他の人に言うんじゃないわよ!?」

 

「そんな変なこと言ったかな……?」

 

僕も分からない。何だろう? 別の意味? まあ僕は聞いていいみたいだしいいか。

 

「仕事ではあるけれど、ロミィさんと個別の打ち合わせだよ。ちょっと時間がかかるかもね」

 

「えぇ~……こんな天気のいい日くらい息抜きすればいいのに。ロミィさんもアルさんに仕事の話ばっか持ってくるんじゃなくてさぁ」

 

「誰のせいで今そういう流れにしたと思ってんのよ……こりゃ振り切るのは無理そうか。アル君、夕方に時間取れる? 改めて顔出すようにするから」

 

「僕は大丈夫ですよ。すみません」

 

「代わりと言ってはなんだけど、そのじゃじゃ馬の手綱をしっかり握っておいてね」

 

「あたし、ヤギ扱いから馬扱いに進化したの!?」

 

「褒めとらんわい!」

 

天真爛漫ではあるんだけど行儀はよくて、突然行動し始める事が多いけれど常識には従っていて。

ガキ大将な部分は残りつつも、僕にはいつのまにやら完全に敬語を使うようになった。

 

 

 

ライザリン・シュタウト――通称「ライザ」。僕がこの世界で出会った人で最も不思議な少女。

 

 

 

最初の頃はどこかウィンリィやニーナに重ねていたところがあったけれど、知れば知るほど違う面が見えてくる。

正義感は間違いなく強い。思い込みは割と強い。好奇心が強い。悩むより挑戦。退屈を嫌う。単なる規律を嫌う。幅広い才能を持つ。クーケン島民と思えないコミュ力の高さ。

 

全体的には明るくヤンチャ気味な少女と括れそうではあるけれど、どこか真逆な面が垣間見える。

 

その境界は「理由・経緯を理解できるか否か」。つまりは極めて理性的とも見てとれる。

物事を理解できた瞬間、彼女がそれまで持っていた常識(本能)を即座に捻じ曲げて新ルールに従えるという凄まじい才能がある。これは極めて難しい事だと個人的には思っている。

 

人間誰しも自分なりの線引きが存在して、ライザはこの傾向が強い。簡単には自分を曲げない。

にも関わらず、必要性を理解した時のライザはこれの引き直しがすぐに可能なのだ。

 

「掟」は理解できないから、島の常識であっても守れない。彼女に「何となく」は通用しない。

「工房のルール」は怪我の危険性を身を以て知っているから、彼女の強い好奇心を曲げてでも従ってくれているのである。工房でトラブルを起こした事はほぼ無いし、起こしてもすぐに謝れる。

もしライザが掟の由来や必要性を完全に理解した場合、他の誰よりも掟に従うんじゃないかな。

 

僕達が等価交換の法則の絶対性を捨てるのにどれだけ時間がかかったか。

僕が錬丹術の考えを受け入れ、理解するにも最初はメイと衝突したっけ。懐かしいなあ。

ライザのこれは兄さんの「錬金術より大切なものがある」という意識に匹敵しそうな気さえ。

 

なまじ様々な事が出来てしまうがために、その凄さに気付かない。理解が出来ない。

だけど彼女が自らの真の才能を理解した時は、とても大きな事を平然と成し遂げそうな気がする。

 

 

 

さてと。

 

「時間が出来たね。ライザは僕を連れていきたいところがあったのかい?」

 

「いえ、そういうわけじゃなかったんですけど……アルさんとお話するのは楽しいですから。工房でもいいですし、どっか適当にぶらぶらするのもいいかなーと。あ、農作業をしなさいってのは流石にカンベン願います……」

 

「あははは。せっかくお出掛けの恰好をしてくれているんだから、仕事だったり工房でっていうのは勿体ないかな。しょっちゅう会ってはいるけど、気ままに外を出歩く事は無かったからたまには二人で港の方にでも行ってみようか。掘り出し物が見つかるかもしれないよ?」

 

「わーい!」

 

彼女も16か――僕がシンに旅立った年。

環境が許すなら、ライザも外へ旅立つような選択を取ったかもしれないね。




何処がズレているかというと、アルはこの交易に直接噛んでいなかったという設定です。
本編でボオスに「うまくいくといいね」とか言っておきながら、
外伝ではガッツリ関わっているわけです。この後更に酷くなります。

ライザの格好は53話に出てきたディヴェルの抱擁衣装です。
最近知ったのですが、イタリア語で「楽しませるもの(ディヴェルティメント)」だそうですね。

次は久々にライザとのやり取り。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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