ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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自分は偶然だと思っていても?

相変わらず冒険しません。
戦闘描写は苦手で下手なのに、それでも偶にはバトらせたい気分が不思議。

今回もよろしくお願いします。


141. 半年前②   表の偶然 その裏側は

リュコの実を頂いて十日ほど。年が明けた学校の放課後では私も出所探しに歩いていた。

 

頂いたリュコの実は本当に美味しかった。今までのが嘘の様とは言わないけれど、これ以上ないって思っていたものを簡単に超えていったほどの味わいとジューシーさ。

そんな極上の餌を示された以上、私もいつものように家で待っている気にはなれなかった。

 

だけど。

 

「分からないなあ……」

 

遡れない。

 

お父さんと一緒に件の農業ギルドに足を運んで、当人と思われる人にもお話を伺った。

だけど予想通りというか、その人は生産者でもなければ流通者でもなかった。

「試しに売ってみてくれ。外から来た商人なら価値が分かりやすい。子供の方が向いているかも」と話をされた。大まかにはそんなお話。

 

おかしなのは――話を持って来た人の姿が、妙に曖昧にしか覚えられていない。

分かっているのは「女性」という事だけ。年齢も体格も髪の色も長さも覚えていない。

何かしらのアイテムを使っている、というのがお父さんの見立てだ。謎の緩衝材も多分ソレだと。

 

因みにあの緩衝材、リュコの実を頂く都合で意識を外していた間に(ちり)になっていた……ええぇ?

 

詳しく知らないけれど、そういう不思議なものを生み出す分野があるみたいで、色々な機能を持つ道具(アイテム)を作れるらしい。「錬金術」……だったっけ。

らしいというのは、それ以上をお父さんから聞けなかったからだ――つまり話せない、と。

私は知らない方が良い世界なんだろう。だからそれ以上は聞こうと思わなかった。正直怖い。

 

とにかく。

分かりやすい情報は「女性」、「農業ギルドに出入りがあった」の二点のみ。

あっさりと糸は途切れてしまった。ならば後は人海戦術しかない……二人でだけど。

 

馬鹿正直に「リュコの実取り扱ってますか?」と聞くわけにもいかない。

食料品を取り扱われている女性の行商人の方にそれとなく探りを入れて、それっぽいお話が欠片でも出ないか期待するだけ。商いへの興味がなかった自分の能力のなさがここで足を引くだなんて。

 

そうは言っても、お父さんですら足取りは掴めていない。

こちらの考えが深読みし過ぎなのかな? だってお父さんの予想が真実だったら、うちの商会程度は丸裸に出来ますよと言われているようなものだもの。

それでも、正体不明の何者かが動いているという事実は消えることがないのだけど。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「なんだか迷ってる感じ?」

 

「ごめんなさい。集中できてなくて……」

 

「そんな日もあるって。暗くなってるわけじゃなさそうだけど、心ここにあらずというか。調べ物のお話?」

 

「……そう、です。でも全然進展が無くて」

 

先日約束をしていたサーヤさんとの合同練習。案の定、私は演奏が出来ない。

せっかくの機会なのに台無しにしてしまっている。自分が本当に嫌になる。

 

彼女にリュコの実の名は出していない。信用していないわけじゃないけれど、どこから他に話が出てしまうか分からないからと、誰にも口にしないようお父さんに念押しをされている。

だから話してあるのは「市場調査の都合で滞在期間が延びた」という事だけ。

私も訓練の一環で、お父さんの目線では見つけられない町の特徴を探している、としている。

 

「なかなか難しいよね。私も新しい歌詞とか曲を考えるのに数カ月とか掛かったりするし。早いと数分で書けちゃうのに」

 

「インスピレーションの世界ですから、お時間が掛かる時は掛かりそうですね」

 

「それを商売にしようと思うなら、そうも言ってられなさそうなんだけどねー……気分転換って言うのもなんだけど、今日はお土産持ってきてるからさ。一緒に食べようよ、早めに食べた方が良いらしいし」

 

「ありがとうございます。頂きますね」

 

色々申し訳ない。

心ここにあらず、音はメチャクチャ、お土産も何も持ってきてない。

相手を不快にさせる事ばかりだ。ここはお気持ちに甘えて、お土産を味わわせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

「知り合いのお姉ちゃんが持たせてくれたんだけどね。()()()()()()()()()()()みたいなんだけど、どんな味なのか楽しみにしててさ」

 

 

 

 

 

 

!!!???

 

純粋な味への興味だけなんだろうサーヤさんが、カバンの中の箱から取り出されたのは――

 

「リュコの実!?」

 

「うおお? なんだかすごい喰いつき。そんな声出せたんだ」

 

ここ十年で一番大きな声を出した気がする。でも今はそれどころじゃない。

 

「これをどちらで!?」

 

「知ってる感じ? さっきも言ったように知り合いのお姉ちゃんから貰ったんだよ。熟し過ぎちゃいそうで売り物にしづらいから、友達と食べるといいよって」

 

これを取り扱える行商人の女性、緩衝材も同じ物――まさか。

いやいやこれ以上がっついちゃいけない。一旦落ち着こう。

 

「ごめんなさい。私これがとっても好きだから、また食べられると思わなくて」

 

「ほーう? じゃあマジで美味しいわけだ、流石は()()()ちゃんのお墨付きだね」

 

「……コトリ、さん?」

 

「うん、といっても愛称で私もフルネームは知らないんだけど。たまーにこの町に来る事がある行商のお姉ちゃんだよ。いつもはアクセサリーとかを取り扱ってるかな」

 

とんでもなく貴重な情報。まさか関係者と思しき人の愛称が分かるだなんて。

本来のお取り扱いはアクセサリーだったのか。リサーチ対象から外しちゃってたよ。

 

サーヤさんが持ってきていた折り畳みナイフでリュコの実を切り分けてくれた。

先日の物は特級品だろうけれど……これも確かに売るには熟し過ぎているといっても1000コールくらいでも十分に販売できる気がする。

 

……まさか、ここで食べるのを前提にした熟し具合? 考えすぎ?

 

「いただきまーす……おお!? 甘いけど、でも砂糖や甘露の実みたいな感じじゃない。見た目はトマトで中身は塩味のメローネ(メロン)的な食べるジュース? これは面白いね、へええ」

 

「イタダキマス……間違いない」

 

リュコの実だ。私たちがあの大玉を頂いてから十日経っているから、その間でも保存できる方法があるか、或いは改めて仕入れが出来ているのか――ああっ、また緩衝材が消えてる……。

とにかく、これの元の持ち主は出元を知っている人に他ならない。

 

「ごちそーさまでしたー! 確かに美味しいね、これ。また持ってきてくれるように頼めるかな」

 

ここで手を引いてしまったら、もう二度と辿りつけないかもしれない。

 

だから――

 

 

 

「私も……」

 

「うん?」

 

「その……コトリさん? に会わせてもらってもいいですか? お礼も言いたいですし」

 

一歩先(未知の世界)に、踏み込んだ。

 

 

 

「別にいいよー? お客さんになりそうな友達がいたら連れてきてーって軽口言ってたくらいだし。このトマトが大好きっていうなら、その熱意を伝えたら持ってきてもらえるかもだしね」

 

やった。やってしまったとも。

行商先の無関係の人に、商会絡みの面倒をお願いしてしまうなんて。

 

「今から行ってみる? 多分通り沿いで露店を開いてると思うけど」

 

「……時間が良いなら、お願いできますか?」

 

「いいよ~善は急げってね。気分転換にもなるし。じゃあ行こっか!」

 

探すって事以外完全にお父さんの指示を仰がずに足を突っ込んでしまった。

これがどう出るかは分からない。でも突っ込んだ以上は前に進むしかない。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「緊張してきた……」

 

「コトリちゃんに会うのに? あははは! そんな心配しなくていいって。多分年は私と同じくらいだけど、私達より小柄で童顔だし。クラウディアちゃんでも話しやすいお姉ちゃんだからさ」

 

普段からよく通る町の大通りをサーヤさんと一緒に歩く。

何気にこういうのは初めてだ。たまたま会った時に話をしたり練習したりだけだったから。

 

以前のお話から「女性」って事だけは判明していたけれど、その正体は小柄で若い、明るい雰囲気の方らしい。そんな方が秘密の極みと言われるリュコの実の仕入れを?

しかもまさか、毎日のように歩いていた道で露店を開いていただなんて。

 

「んーと……あ、いたいた。コトリちゃーん」

 

サーヤさんが目を向けた先には。

 

 

 

「ん? お、サーヤ。おかえり。お隣は話に聞いてた子? もうセッション終わったの?」

 

「一旦休憩中。それでお土産にもらったやつが美味しかったからさ、お礼とまたお願いしようと思って。この子はアレを知ってたんだってさ」

 

 

 

愛らしい女の人だ。この方がコトリさん――かなり前にどこかでお逢いした事が? 気のせいか。

 

確かに小柄。背は150前半みたいだけど……二十歳前後? 見た目はお若いけれど風格がある。

行商を始められて数年は最前線を生き抜いてこられている、そんな余裕のある長調の波の気配。

私がお姉さんだと思っているサーヤさんが「お姉ちゃん」呼びするのも分かる気が。

私より淡い感じの金髪をサイドで括ったボブカットが、余計に小顔に幼く見せている。

 

「クラウディアと言います。御馳走様でした」

 

「いえいえ、こっちとしてもアレは売り物にするかどうか迷っちゃってたからさ。後でお腹壊しても治療費請求しないでね?」

 

「それはヒドイって……でさ、アレってまた仕入れられる?」

 

「保証は出来かねるなあ。私が作ってるわけじゃないし」

 

この人も生産者ではない、と。だけど。

 

「あの……あれって、リュコの実、ですよね?」

 

「あークラウディアちゃんはたしか商家の娘さんなんだっけ? そうだよ、皆(大体天才一名)で頑張って(多分片手間で)やっと(たった5年で)ある程度は真っ当に運べるようになった(私がひたすら試した)みたいでさあ」

 

……?

なんだろう。言葉の途中に別の心の音が聞こえた気が?

ノイズじゃない。これは楽譜の中に隠されている真意を読み解かないといけないパターンだ。

 

とにかくこの方がリュコの実の行商人の一人である事は確定――とんでもない事だよ。

今まで全く流れがつかめなかった秘密の果物の正体の一端に辿りついただなんて。

なんとか、少しでも話を聞かせてもらえないかな?

 

「コトリさんは……いつからこちらの取り扱いを?」

 

「ひ・み・つ。クラウディアちゃんなら分かってると思うけど、色々取り扱いが難しいものだからさ。大っぴらに出来ないんだよ。サーヤ()内緒にしといてね?」

 

「はーい。でもそんな果物あったんだ」

 

「世界って広いもんだよ。サーヤも王都に行ったら歌の分野でも色々知れるんじゃん?」

 

やっぱりこれ以上教えてもらえないか。

 

今回私がコトリさんに接触できたのは偶々かもしれない。サーヤさん経由だし。

先日のリュコの実を取り扱っていた人とは別人で、今回は奇跡的に遭遇できた感じなのかな。

あるいはお父さん相手だったら何か話してくれていたのかもしれないけれど。

 

「そんな残念そうな顔しないでって、気持ちは分かるけどさ。私にとっても生命線だから」

 

「ごっごめんなさい。つい……」

 

項垂れていたのが分かりやすく顔に出ていたみたい。

何の契約も結ばず、先方にはデメリットしかないのに情報だけ得ようとしたこちらが烏滸がましいだけだったのに。勝手に残念がってしまった。

 

「将来商人になるのは微妙的な感じだったのに、しっかり染まってる?」

 

「……そうなの、かな。そんな気は全然ないつもりなんですけど」

 

「コレの事を知っているなら食いつく人は多いわよ。サーヤにあげたやつだって、ちょっとミスってなかったら結構な儲けになってた品物だったし? まあ代わりと言ってはなんだけど、サービスするからこっちも見てってよ。お近づきの印に勉強はさせてもらうからさ」

 

そうだと思いたくないのだけど、私もお父さんに染まっているのかな。

コトリさんも事情を汲んでいただけるみたい。ありがたいことだ。

せっかくお近づきになれたのは本当のお話。本来お取扱いになられているものを見せてもらおう。

 

 

 

これは……これを露店で販売を?

 

 

 

「随分と、精巧なお品物が多いですね。ご自分でこの細工を?」

 

「おっ、なかなかいい目してるねクラウディアちゃん。残念だけど私にそんな器用な腕はないよ。あったら行商人やってないんじゃない?」

 

「コトリちゃん、どっちかっていうと不器用っぽいもんねー……痛い痛い! グリグリは止めて! 頭が、頭が悪くなる!」

 

「そんな頭の悪い言葉が出てくるんだからこれ以上悪くならないわよ! 一般レベルだっつの。それにここまで上手に細工できる人を知っているんだから、私がそのスキルを身につける必要は無いの。お願いすればいいんだし」

 

サーヤさんからはアクセサリーって伺っていたけど、これは彫金(ちょうきん)細工だ。

金型加工や針金細工とは違って、金属の塊から鏨や彫刻刀とやすりで削りだす美術品の一種。

一般的にアクセサリーとされる小物より、大型の金具への細工である事が多いんだったかな。

 

組み合わせで作るものじゃなくて、一枚岩を削るようなもの。

修正が効かず、ミスが一切許されない。故に手間はすさまじく、かかる時間も半端じゃない。

 

だけどこれ……指先サイズにこんな緻密な彫金を? しかもよく見ると透かし彫り。何と器用な。

見ているだけで目が痛くなってくるよ。作者の方はどんな集中力なのか。

王都の貴族向けの専門店にあっても全くおかしくない、一流の職人技の逸品だと思う。

流石に結構値は張るけれど、価値が分かる人でこの価格を値切る人は多分いない。

 

「その辺のやつは大体高いよ? ご指摘の通り凝ってるからさ。元々は露店用じゃないし」

 

「やっぱりそうでしたか。こんな小さなサイズでこの密度の彫金を見るのは初めてでした」

 

「あー()ったあ……ちっちゃすぎて何の模様か分かんないよ。私達向けのってないの?」

 

「サーヤとクラウディアちゃん向けとなると……やっぱ音楽? となるとこの辺とか、ちょっとデカくなるけど――」

 

コトリさんが案内してくれたのは、音符を象ったアクセサリー類。

さっきの彫金とは作者さんが違うみたい。そこまで緻密じゃないし、値段も私たちで手を出しやすい程度。これならカバンに付けるのにちょうどいいかな。

 

「そうそう、このくらいが助かる……うーわ。待って、そっちの何? 私でもヤバさを感じるものがあるんだけど」

 

「どうやって作ったんだろうねえコレ? 大きいから実は私も取り扱いに困ってるんだけどさ、適当に売るつもりもなくて」

 

「取り扱ってる商人自身が詳細知らないってどうなの?」

 

コトリさんが後ろから出してきてくれた「デカい」の。これは多分彫金の作者と同じ方。

でもこれは。

 

「……すっごい」

 

截金文様(きりかねもんよう)って聞いたかな? 金属箔を貼った代物ではあるはずなんだけど、何をどうやったらこんなのになるかは私にゃ全くわからないのですよ」

 

立体的な五線譜模様の波。その中を、何処か幾何学図形的に飛び交う音楽記号。

楽譜のようで楽譜じゃない。これだけで一つの絵として成り立っている。

作者の方は音楽にも造詣が深いの? 習っていないとまず見る事がない楽語まで。

しかもこれ……本物の金箔や白金箔? 価格はお察し、取り扱いも極めて難しいはずなのに。

 

多分、間近で目にする機会は十年ない。大店ギャラリーの目玉クラスの品だ。

私が買えるものじゃないだろうけど……それでも聞きたくなってしまう。

 

「これって……おいくらなんですか?」

 

「時価」

 

「時価?」

 

生鮮品でもオークションでもないのに、時価?

 

「というのも、作った人もこれが初めてらしくてね? 自分でもどのくらいの価値か分からないんだって。だからこれを心から欲しいって思う人に金額を決めてもらいたいって。勿論ある程度は私に裁量があるけれどね、その数パーセントを頂く決まりにしてたのよ」

 

無謀にも思わずポーチを叩いて財布の位置を確認する。今いくら入ってたかな……?

表面はガラスで覆われているから、せっかくの細工が欠けてしまう心配はなさそう。

なら、フルートのケースに装飾として付けられないかな? サイズはピッタリに見える。

 

ただ……。

 

「お買い上げをご検討頂ける感じかな?」

 

「欲しいのは間違いなく欲しいんですけど……今自分で付けた価値に対してですら、私の資産じゃ全然足りなくて」

 

私の中で弾いた金額だったとしても、この先数年お小遣いを貯めたとしても全くもって不足する。

でも、こんな技巧の品を自分のエゴで値下げするなんて真似は絶対にしたくない。

 

真面目で結構――うん、じゃあ手付金を頂く形にしようか」

 

「手付金、ですか? 私に?」

 

「手付金って何?」

 

「証約手付っつって、ある程度お金を払っておくから取っておいてもらうか、後で余計に払うから先に下さいって契約金よ。本来なら家とかを買う時のもんね。今回は……今クラウディアちゃんが支払える金額を預かって先渡しさせてもらう形でどうかな? 利息は今回の出会い祝いのサービスって事で」

 

分割払いは売り手側に大きなリスクを孕む。買い手側の持ち逃げの危険性があるから。

だからこそしっかりとした契約を結べる相手としか成立しないし、リスク分の利息は当然のお話。

商家の娘とはいえ私個人は分割契約を結んでもらえるような信用ある立場じゃない。それを……。

 

「よろしいんですか? 今の全財産でも頭金すら危うそうですけれど……」

 

「ろ……コトリさんに二言無し! そもそも作者さんが買い手の言い値でいいって言ってるものだしね。それだけ真剣に悩んでくれるなら価格も相応だろうし、反故にしないでしょ? 頭金もなしでいいよ」

 

「勿論です! ありがとうございます! 帰ったらお父さんに借金してきます!」

 

「マジで!? ……いや、ルベルトさんなら聞き入れてくれそう。愛娘のこの喜びようだし」

 

「そこまで特急でなくてもよかったけど……じゃあ書類作るからちょっと待っててね。金額を決めたのはクラウディアちゃんだから書類はそっちで持ってもらう事にしましょうか。あ、サーヤもなんか買うように。ちゃんと割り引いてあげるから」

 

「買うつもりではいるけどさぁ、クラウディアちゃんがなんかすごいものを買っちゃったから釣り合いが……」

 

「将来スター歌手になるんでしょ? 未来の自分に誓いなさいな、このくらいは余裕で稼げる女になるって」

 

無心じゃなくて借金だからちゃんと返すし! 私もこの支払いのための目標が出来たのかも。

それに……ご本人ではなさそうだけど、リュコの実を取り扱っている方を見つけられたんだから。その報酬として借りるくらいはできるよね?

 

 

 

コトリさんから()()()口止めされていないとはいえ、どこまでお父さんに話していいんだろう?

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「で、この契約書と、その箔細工のガラス板という事かね」

 

「うん……ダメ、かな?」

 

とんでもない情報ではあるけれど、この業界で生きてきたお父さんなら取り扱いは分かる。

そう判断して、結局一通りお父さんに話した結果。

 

リュコの実に関しては素直に褒められた。だけどコトリさんという名の商人は知らないらしい。

そしてケースに装飾する予定の商品の価格を見て、最初は当然顔をしかめられた。

けど、実物を見て今度は怪訝な顔をしてる。ちょっとギョッとしたような。

 

怒っている感じではなさそう。でもどう思っているのかは分からない。

契約書と商品を何度も見直している。

 

そして。

 

「……まあ、クラウが私に何かをねだった事はしばらくなかったし、クラウも自分で払うつもりだったんだ。今回は私への借金ではなく、私からのプレゼントという形にしよう」

 

「ホント!? いいの!?」

 

「クラウがそのコトリ君を見つけてくれた事は本当に僥倖だったからね。娘に貸し付けるというのもいい気分がするものではない。宜しければぜひ会いたいと伝えておいておくれ」

 

「もちろん! ありがとう、お父さん!」

 

まさかプレゼントしてくれるとは思ってなかった。コトリさん様様だよ!

 

「私も一筆添えさせてもらおう……複写の割り印契約書をそのまま手渡してくれるとは、随分とクラウを買ってくれたものだ。しかし本当にこの額で……クラウ、代金分のゴールドコインとこちらをそのコトリさんに………………っ!?」

 

「……? お父さん? どうかした?」

 

複写契約書の一枚目をペリっと剥いだところで、何故かお父さんが固まってしまった。

二枚目に字がはっきり写ってなかったのかな? こちらの控えだし、渡しに行く時に全額支払うんだから大きな問題にはならないけど、几帳面なお父さんだから気にするかもしれない。

 

「……いや、すまない。見間違えだったよ、桁を一つ多く見てしまった。ではこれを」

 

ああ、それは確かに思考が止まりそう。ビックリするよね。

 

「じゃあお渡ししてくるね!」

 

「ああ、よろしくな」

 

 

バタン

 

 

 

 

 

 

「……コトリ(小鳥)、か。間違いではないが……はたして本当の(ひな)はどちらなのやらだよ。これがウチの商会の転換点となるのかもしれないね」

 

 

 

追伸

バレンツ商会長 ルベルト・バレンツ様へ

 

ここからは秘密のお話。赤い宝玉の輝きは夏。春先に南の町でお待ちしております。

可愛い(小さな)フォーゲル() ロミィより

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「掴みはオッケー!!! あ゛ぁー大変だった、クーケンフルーツが痛むギリギリだったよ。サーヤが居る町で助かったぁ」

 

「よかったです。スルーされていたらどうしようかと思っていましたよ。音楽関連の文様なら興味を持ってもらえるだろうっていうロミィさんのリサーチの賜物ですね。読みもお見事で」

 

「私の方は博打もあったけど、アル君のはわざわざあのケースに合わせて作ってもらったのにスルーとかあるわけないって」

 

「ライザと同年代の子向けの品物作りは初めてでしたから」

 

「まあロミィさんも初めての変装潜入は緊張はしたしね……さっすがあのダ(パイオタクと)メ女共(その師匠)を飼育できるだけはある(弟子)のアイテムだった」

 

「すごいものですね、錬金術のアイテムというのは」

 

「アル君が言う? アレなんてオークションかけてたら十数倍は軽く値がついたよ? ルベルトさんは娘が詐欺を働いたんじゃないかって疑っただろうし。あの子、無茶苦茶いい買い物したわ」

 

「こんな風に怪しくて回りくどい手に乗って頂いているんですし。アレはロミィさんのデザインは別として、そこから僕が勝手に凝り過ぎてしまっただけですから」

 

「箔細工なんて16の女の子の買い物じゃないわよね……ルベルトさんすら手に取るの躊躇いそう」

 

「僕にとってもいい勉強になりました」

 

「サラッとまあ……さあってと、それじゃロミィさんが見積もったアル君のお仕事代も含めた追加報酬を、こんな面倒くさい事に付き合わせてくれている元凶共に請求しに行くとしましょうか。少しは自分達で動けっての、まったく」

 

「今はボオス君の胃が大変な事になりそうですからやめてあげましょう? ライザ渾身の作品、うに製「ザ・魔物」巨大オブジェの処置に頭を悩ませている所でしょうから」

 

「こっちの娘は一体なにやってんのよ!? ちょっとはクラウディアちゃんを見習え!! ボオスも真面目に考えずとっとと捨てなさい!!」




このくらいしないと、島にバレンツ商会呼べないと思うんです。
フォーゲルはドイツ語で「鳥」だと知りませんでした。彼女にはピッタリの姓ですね。

次がクラウディアメインの最後です。季節は春。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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