ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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原作開始まで作中時間で一月少々。
漸くメインキャラが出そろいます。活躍は薄っすいですが……。

時系列と視点が何度か飛びますのでご了承ください。
詳細は後書きに記載してあります。


連載を開始してから二年。ここまで続けてこられたのは読者の皆様のおかげです。
長きにわたってお付き合い頂き、本当にありがとうございます。

今回もよろしくお願いします。


143. 7日前     合縁機縁の旅の先

「その「門」とやらを用いたそちらの世界の資源搾取、挙句の果てに化け物共の扇動、か。何と言ったものか……そこまで来ると笑いすら込み上げてくるな。今のお前さんの激情と、この状況にも納得がいくというものだ」

 

「だとしたらどうする? このまま首をへし折られるか? 即刻殺してやりたい所だが、自覚も罪の意識もない貴様では何の達成感も得られなさそうだ……そもそも貴様、本当に錬金術士か? 傲慢そのものだった奴らに比べれば薬臭さが幾分抜けている」

 

「意外と冷静だな。随分と鼻が利くようだが、さっきも言ったろう? 私は「元」錬金術士だ。服装は考えるのが面倒だから昔のままなだけだと。同僚だと思っていた連中に始末されかけて、何も考えなくなって、ただ存在しているだけの世界のゴミだと。だからこのまま握り潰してもらって構わんぞ? 特に生きる目的があるわけではない、ただ死んでいないから生きているだけだ。数百年恨み続けた異界の復讐者に殺されるなど、ゴミには勿体ないくらいの結末だろう。いい機会だ」

 

「…………違うな。お前は奴らの蛮行に「笑いすら込み上げる」と口にした。錬金術を嫌っている節はあるが、離れられずにいるだけだ。内情をある程度知っているせいで、無駄に責任感と罪悪感を持つ歪な半端者。ああ、間違いなくお前は錬金術士だ。気狂いのようだがな」

 

「私は今も錬金術士なのか? ……ハハハハハ! そうだな、自分はアイツらと違うと思いたいだけで、実際は何時まで経っても過去を捨てきれない間抜けなはぐれ者なんだろう。いやなに、笑いが込み上げたのはこう思っただけだ――錬金術士はいつまでも同じことをやっているな、と」

 

 

 

 

 

 

「――なら、お前自身はどうなんだ。錬金術士」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「……随分とまた、懐かしい夢を見たものだ」

 

「どうしたアンペル? 久々の馬車にはしゃぎ疲れたか?」

 

「そんなところだろう、歩かずに済むのだから。そうでなければ繊細な私は眠る間もない。残念ながらお前さんと違ってそこまで身体が丈夫ではないのでな」

 

「私は普通だ、お前が軟弱すぎるだけだろう。老ける前に戦闘できるくらいには右腕のリハビリをさせてやる。覚悟しておけ」

 

「また私を殺す気か? 余計に酷くなる結末しか見えないのだが……」

 

「アンペルさん、リラさん。もう少ししたら野営の準備に入ろうと思っているんですけど、よろしいですか?」

 

「分かった。それとこちらに気を遣う必要は無いぞ、クラウディア。我々はただの護衛で、こうして馬車に乗せてもらっているだけで十分ありがたいからな。引き続きリラをこき使ってくれ」

 

「コイツの飯は抜きでいい。そこらの魔物か虫でも食わせておく。菓子は全て私に渡してくれ」

 

「あははは……」

 

 

 

前回の稼働していた門を閉じてから何年経ったか。これまでいくつ閉じてきたか。

 

大して広い国土ではないこの国だが、クリント王国時代の支配領となれば話は変わってくる。

時には国境を越える必要もあれば、立ち入り禁止となっている場所もいくつかあった。

 

だが元々秘匿されていたシロモノを目的としている以上、何かしら隠したがっているような情報には危険であろうと手を出さざるを得ない。

可能な限り自らの過去を抹消して逃げ消え去った奴らの足取りを辿る方法は限られる。

他に手がかりは無いのだから。

 

そういった、僅かな情報を元に大陸中を歩いて移動するのは手間がかかる。

私の様なおかしな人間と、相方の様な特殊な存在でなければとうに寿命が尽きている。

オマケに珍妙な二人組だから乗り合い馬車も受け入れられない有り様だ。荷物も多いしな。

 

特殊、か。我々が「特殊扱いにしてしまった」のが正しいのだろう。

本来であればあちらの世界で普通に、平和に暮らしていた一般民のはずだったのだから。

 

そんな相方に脅迫まがいの発破をかけられ、こうして旅をするようになって数十年。

とうとう僅かな情報も耳に入らなくなってきた。

 

だからいっその事、古臭い情報の場所を巡ろうと考えた結果のこの旅路。

大昔に小耳に挟んだ事を頼りにする羽目になる日が来るとはな。

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

「南? ここから更にか? 果ての認識だが」

 

「間違っていない。その地方にもクリント王国の遺跡がある事自体は把握していてな。全く調査が進んでいなかったあたり、大した情報は得られなかったんだろうが」

 

「町はあるのか?」

 

「さてな。恐らくない……はずなのだが」

 

知っている限り南部に大きな町はない。精々小さな集落が点在している程度のはず。

しかし、だ。

 

「リラは「リュコの実」を知っているか?」

 

「知らん。木の実の名か?」

 

「トマトの様な果物、だそうだ。これまでに滞在したいくつかの町で偶然耳にしただけだが、私が知っている限りトマト、ないしトマトに近い作物で噂など過去にこの国で流れた事がない。火のない所に煙は立たぬ――実物がどんな物かは分からんが、トマトっぽい何かがここ数年でごく少量出回り始めているのは事実なんだろう」

 

随分と嬉しそうに話をしていた。珍重品なのだろうし、恐らく味も悪くないのだろう。

野菜であるトマトを果物と評するからには甘いという事。フルーツトマト的な物か。

 

「それが南とどう繋がる?」

 

「そのごく少量が出回っていたのは最近まで王都だけだったようだが、今までその話を聞いたのはいずれも王都より南の町だ。私達のように辺境も含めて歩き回っている変人か、運んでいる当人達でもない限りこんな傾向は掴めんだろうが」

 

「生産地がある以上は人もいて、町もある、か」

 

「そんな所だ。加えてさっきの話の通り、クリント王国に関する話題が全くゼロというわけでもない。まあこれまで回って来た地域と比較して、南部の情報は「荒れ地」だの「火山の麓」だのくらいだ。私達が行ったとしても新たに得られるものがあるかは分からないがな」

 

「どうぜ何の手がかりもない状況なんだ、そこでいいだろう。とはいえ、体力はともかくお前の釜を担いだままの移動となると流石に面倒そうだが」

 

「分かっている。今まで以上に未開の地だ、私もそこまで徒歩で移動したくはない。馬車を使いたいところではあるが……」

 

自分で未開の地と口にしたばかりだ、そんな所に向かう乗り合い馬車があるわけがない。

となると、自前で調達せねばならん。

 

暫くやっていなかったが、一度アトリエを構えて纏まった資金を稼ぐ事も考えるか。

また錬金術を金儲けに使うのは忌避感もあるが、他に手段もない。

 

「歩いて移動するより時間はかかるかもしれんが、ついでに今後の資金も稼ぐとしよう。どうせ金は要るんだ、先の事を考えれば結果的にはプラスになる」

 

「飛び入りの魔物討伐依頼では大した金にならないからな。ギルドに登録する面倒よりマシだが」

 

私の腕前でそこまで価値のあるアイテムを調合できるわけもなし。無許可でも問題ないだろう。

そもそも、この時代でそんなアイテムを調合・販売してしまうと面倒事になりかねんしな。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「……想定より活気がある。何故だ?」

 

南に大した資源は存在しないとアンペルから聞いたはず。

 

人間であれ動物であれ、集まるのには理由がある。一番は生活が安定する事。

特に水場の周辺は食料に困らない事が多い。自然と川や海沿いに町が生まれる。

 

人間が他の動物や植物と違う所は、生きる事以外にも価値を見出し、満たそうとする事。

それが物であれば搾取に走り、同じような考えを持った連中で争いが始まり、皮肉な事にそこに他の物の需要が生まれる。大体始まりは攻撃手段だが。

 

現代では平和に生活している集落であっても、その起こりは大体こんなものだ。

何故こっちの連中は私達のように守るべきものを定められないのか……思考が飛んだな。

 

南の地方に大したものはない――それに聞き間違いはないはず。

地図を見た限り、確かに目立つ物はなさそうだった。せいぜい森林と火山と汽水湖くらいか。

アンペルは火山の生み出す鉱物資源を目的に、クリント王国は拠点を置いたのではないかとの事だったからな。

 

しかし、現在のロテスヴァッサ王国では表で取り扱えるものが極めて限定されると聞いた。

当時はあれだけ居た錬金術士も、現代のこの国では隠れてコソコソやっているだけだと。

そんな連中に供給する資源採取のために発展したとは考えにくい。

 

だが、単なる集落よりは栄えている。町になりかけと言ったところか。ギルド支部もある。

 

何かが採れるのか、それとも何処かとの中継になっているのか。

まあ人が多いのであれば、それだけ魔物討伐の依頼が出されている可能性も高くなる。

わざわざある程度腰を据えて稼ぎに出るというなら都合がいい。

 

 

 

「狂暴な青いオオイタチ(ルインコラプター)黒の翼竜(イービルオニキス)青白の翼竜(ウォッチャー)赤い妖精(ルナリアエンゼル)大型の翼竜(メガワイバーン)……随分とラインナップが豊富だな。しかも比較的強めの種が多い」

 

ギルドに足を運んで、出されていた依頼を見た最初の感想はこれだ。

 

これまでの道中と比べて強い魔物が意外に多い。苦戦は論外だが。

こちらの人間は脆弱だ。自称傭兵共でも私達の非戦闘員とですら比べられる練度ではなかった。

一般人なら尚の事、この程度でも脅威と言って差し支えないだろう。

 

たしかにこれらの魔物が普段から周辺を跋扈しているというなら、一時的な逗留はともかく拠点を築くのは難しい。発展などできないわけだ。

 

一方で、いずれも気になる注意書きがある。

 

「指定の負傷個体、か。全部「はぐれ」か? 攻撃的な魔物が生まれたか、戦闘や密猟の巻き添えか、或いは……」

 

どれも傷があるという特徴。攻撃された事で気が立っているといったところか。

元の強さを考えれば討伐依頼が出されるのも頷ける。遭遇したら行商人なぞ皆殺しだろう。

 

危険度と緊急性が加味されて報酬額はいい。まとめて狩るとしよう。

 

「これらを受ける。ギルド未加入の飛び込みだ、その辺りのルールは理解している」

 

「かしこまりました。何れも特定の個体が対象となりますので、討伐証として部位の回収をお願いしたいのですがよろしいですか?」

 

「メガワイバーンの死体を丸ごとここに持ち込めばいいか? ルナリアエンゼルは羽を捥いで生け捕りか?」

 

「……そう仰られるという事は、各魔物が何なのかをご存じのようで安心致しました。メガワイバーンについては左の翼を負傷していると報告を受けています。そちらを回収して頂きたく。イタチ種と中型翼竜二種は出来れば死体ごと。妖精に関しては回収困難ですので、負傷箇所とドロップ品、遭遇場所をご報告頂ければ。あとこちらは可能であればで構いませんが、できるだけ裂傷を減らして頂けると助かります。内容に応じて報酬を追加致します」

 

この時点で(ふるい)にはかけていると。危険性は理解しているらしい。

一般的な討伐証明の回収とは違うとなると――

 

「最近現れた「はぐれ」という認識でいいのか? 何に傷付けられたかは分かっていないと」

 

「御明晰で。しばらくこういった個体は出現していませんでしたが、最近になって見られるようになっています。これまでも何度か討伐・死体の回収調査は行っているのですが……負傷自体はともかく内容に共通点がないのです」

 

「今回の個体は裂傷を負っているが、過去の個体は違ったと」

 

「はい。擦過傷や打撲程度はよくある範囲ですが……かなり深い咬傷、どころか肋骨を粉砕されていた個体も確認しています。特に咬傷については、こちらで把握している魔物の歯型と一致していません。それらと合わせて調査を進めたいと考えております」

 

調査用か。歯型が合わないなら――未知の魔物の可能性。多少の警戒は必要かもしれん。

 

「分かった、出来るだけ傷付けずに丸ごと回収する。刃物を使わずに済ませよう」

 

「承知しました。それでは受付を致します……個人的に、()()の方であれば安心してお任せできるというものです。よろしくお願い致します」

 

「……ああ」

 

悪気はないのだろうが……獣人、か。そういう一括りになるか。

私達には「オーレン族」という誇り高き名があるのだがな。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「ほう? 確かにこれだけ負傷のはぐれが同時期に出現しているとなると、何かがうろついているというのが自然だな」

 

大した物件も見つけられず、宿屋で菓子を貪っていたアンペルの口から出たのはそんな言葉だ。

働かざるもの食うべからず。仕事を与えてやる。

 

「こっちの魔物の傷跡の識別はお前の方が慣れているだろう。ギルドは調査用の素体にしたいくらいに詳細情報を求めている。お前も来い。「錬金術士」様のレポートなら高く売れる」

 

「嫌味を言ってくれる。まあこちらは目的を達していないのだから、そのくらいの事はするとも。リラが依頼をこなす事で周囲に恩を売れる可能性も高いしな」

 

「何か聞いたか?」

 

酒場を回っていたはずだ。私よりも手に入れられる情報の幅は広いだろう。

 

「リラも違和感を抱いたと思うが、想定よりこの集落は発展している。聞いた限りではここ数年の話だそうだ。それ以前は私の話した通り大したものは何もなく、ひっそりと暮らしていた住人、そこと繋がりを持っていた僅かな行商人の出入りがあった程度だったそうだ」

 

「それが変わったと?」

 

「ああ。出所不明の物品……主に便利な工作道具のようだな。アイテムではないようだが、いつからか周辺の市場に流れ始めたらしい。量自体は少ないから、隊商を含めた行商人達が入荷されるタイミングに遇える事を願って出入りしていると――まるで噂に聞いたリュコの実のようだな。それと魔物に関しても、オオイタチ程度の魔物はともかく強力な個体の発生が以前よりも減って比較的安全になったと聞いた。此処を除けば周辺に集落はないから、逗留にも都合が良かったのだろう」

 

ここ数年での発展か。資源が見つかったのではなく何かが開発されたと。

錬金術士共が作り出す欲に満ちたアイテムではなく、職人の努力の末に生まれた技術というならば、そう目くじらを立てるものでもないか。

 

だが……同時期に強力な魔物の個体数が減ったのは何なんだ?

私が聞いてきた話と繋がりがあるのか?

 

「でだ。それなりに滞りなく流通が為されていたようだが、今現在狂暴な魔物の出現によっていくつかの隊商が足止めされているらしい。この規模の集落では討伐隊の編成に限界がある、仕方がない事だろう。身軽な我々と違って行商人連中は見つかれば終わりだからな……リラの話を聞くまでは、「やつら」が現れているのではないかとの懸念もあったんだが」

 

「……そうだな、「白い甲殻の魔物」という話は聞いていない。だが原因がやつらであれば、今回の魔物程度を害するのは容易だろう。想定に含めた方が良いのかもしれない」

 

話を聞いた過去のはぐれの魔物の負傷内容は擦過傷、打撲、咬傷、肋骨粉砕。今回は裂傷。

単一の魔物でこの全てを達成できる種は限定される。同一個体ではないとするのが自然。

加えて「仲間意識を持った複数種」に襲われたのなら話は簡単になる。

 

 

 

――フィルフサ、なのか?




時系列は過去(数十年前)→未来(半月後)→現在(数日前)→現在
となります。
実際はどんな出会いだったのやら。

次で島の外編も終わります。
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです。
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