ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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アンペル・リラ編二日目。島の外最終日です。
彼女と合流します。

今回もよろしくお願いします。


144. 6日前     秘密の島へのパスポート

「フン」

 

 

ガッ

 

 

ギィッ…………ドサッ

 

 

「相変わらず器用に殴るものだ。コイツはどういう状態になっている?」

 

「衝撃だけ頭蓋を通して脳を破裂させた。外傷を生じさせないならこれが最適だろう」

 

「間違いではないが、ギルド側にどうやって討伐したかの説明が面倒そうだ……コイツの裂傷は裂挫創だな。単なる切り傷ではなく皮膚が千切れるほどの衝撃を受けたもの。深部まで損傷が激しく塞がりにくいから出血が増え、壊死や感染もしやすい。死に至るまでは気が荒くなるのも分かる」

 

「翼竜共の傷との一致は?」

 

「何ともだ。メガワイバーンの翼膜の裂傷とは違うが、中型種とは大体近い。同一個体かは分からんが同種、あるいは似たような存在に害された可能性は小さくないだろう。妖精の羽は前者寄りだ。ま、報告には十分さ」

 

「ならとっとと台車に乗せて運ぶとしよう。こんなもの引きずっていても邪魔なだけだし、外傷が無駄に増えて価値が下がるのは御免だ」

 

 

 

ギルドの依頼通り、気の立った負傷個体が集落の南エリアに徘徊していた。

アンペル曰く裂傷ではあるものの原因が異なる可能性あり、同一個体によるかまでは不明。

会敵した場所はそれなりに散っていた。これに関しては負傷してからの日数が分からない以上、大して当てにならないだろう。

 

これでギルドからの依頼はほぼ完了か、後は引き渡し。残りの調査は彼らの仕事だ。

望むべきではないが、こういったケースが何度かあれば早々に路銀を稼げそうではある。

 

 

 

「どう思う?」

 

「季節が合わんな、乾季まで三カ月はあるだろう? 以前に確認された負傷というのが気になるが……お前さんから聞いた情報とこれまでの経験を合わせると、かなり早い事にならないか?」

 

「私が知っている範囲ではな。だが最近は雨が降っていないし、数百年も経てば奴らも変異している可能性はある。この周辺に現れた個体にそういった特性が生じている……というのは流石に短絡的か」

 

「さて? この数十年で何度も遭遇した経験の上では合致し無さそうだが、奴らに対する警戒は当然だ。そういう考えも外せないだろう。もし本当ならシャレにならないがな」

 

「空読み」出現の可能性をゼロにはできん、か。衝撃傷というなら「斥候」の可能性も。

考えすぎかもしれんが、頭の片隅に置いておく価値はあるだろう。

この時点でヤツらが出て来ているというなら……最悪の事態もありえる。

 

「それで、どのくらい稼ぐつもりだ? お前がアトリエを構える案は絵空事なのだろう?」

 

「酷い言いようだな……今回の件でどのくらい報酬が出るかだろう。追加分がそれなりの額なら、ここで纏めて稼いでおく方が楽ではないか? お前さんにとって大した手間ではないのだし」

 

「柄でもないが、この辺りの安全確保にも繋がるか。原因となっている魔物の正体も気になるしな。お前も何かしら稼ぎ方を考えておけ、でなければ菓子は全てこちらで貰う」

 

「それは聞き逃せん言い分だ、ギルドに売る情報の値段を吊り上げねばならなくなる」

 

別に腹を膨らます分には何でも構わない。今のあちらに比べればこっちは食料に溢れている。

だが偶には趣向品も口にしたい。言っている場合でないのは自覚しているが、やる気が下がる。

ギルドから金を得たら久々に探そう。あの集落なら少しは…………?

 

 

 

「……止まれ、アンペル」

 

「どうした?」

 

「足音だ、そこまで遠くない。血の匂いはしない。二足歩行。11時方向」

 

「了解した……こちら側は街道と逆方向だぞ? 今の状況で出歩いている者など、相当な命知らず以外おらん。ヤツだとでも?」

 

「確認する。そこで伏せて待っていろ」

 

他に足音はなし。特別匂いもしない。アンペルをここに置いても問題ないだろう。

音は若干遠ざかっている。集落の方角に移動しているのか?

魔物の鎧にしては軽い音だし金属音でもない。本当に「空読み」の可能性がある。

 

距離は約270メートル――あの岩陰の向こうか。

一息で……詰める!

 

 

 

「シルフィード、防音を頼む――フッ!!!」

 

 

ドッ!!

 

 

ヤツだったなら、一撃で仕留める!

 

 

ザッ!!

 

 

「ふえっ!?」

 

「なに?」

 

 

岩陰の向こうに居たのは……装飾付きのケースを持って、呆けた顔をした長い金髪の娘。

どう見ても身なりがいい。非戦闘員。冒険者ではない。ギルド関係者でもない。

危険が知れ渡っているだろう今の状況で、行商人がわざわざ南を出歩くか?

偶々あの集落に居た世間知らずの貴族の娘が出歩いていた……これが一番近いか。

 

「ここで何をしている? 今この一帯は安全とは言えん。護衛なしで居ていい場所ではない」

 

「あぅあっええっとぉあのぅ……ちょっと、散歩を?」

 

「散歩、だと?」

 

「……すみません。何も考えずに歩いていました。一人になりたかっただけで……」

 

「…………はぁああぁ。アンペル! 魔物ではない! そこで待っていろ!」

 

まさかこんな状況で呑気に散歩に出る娘がいるとは。

利発そうに見えて、随分と頭に花が咲いているらしい。

 

「この周辺は傷を負ったはぐれの魔物が徘徊している、とギルドから情報が出ている。さっき始末してきた所だが、他の個体の存在も否定できないから相応に危険だ。用事がないなら付いてこい。ついでだ、護衛してやる」

 

「あっはい、ありがとうございます……申し遅れました、クラウディア・バレンツと申します」

 

「リラだ、考古学者の用心棒をしている。今はギルドの依頼で周辺の魔物の調査を行っていた。あっちに待たせているから、そこまでいいか? 荷物も置いてあるのでな」

 

「はい、大丈夫です」

 

予想外の拾い物をしたな。親に護衛料でも請求するか。

 

 

 

「そちらの娘さんが足音の正体とはな。この状況ではある意味はぐれの魔物より珍しい」

 

「ただの散歩だったそうだ。お前より図太い神経かもしれん」

 

「ず、図太い……」

 

すっ飛んでいったリラが何に遭遇したかと思えば、冒険者の類から一番縁遠そうな娘ときた。

十代後半といったところか。背はリラとほぼ同じ、顔立ちも整っているが幼さがまだ残っている。

 

身なりがいいな、王都でこんな服装が出回っていた事があっただろうか。

どう見ても隊商の格好ではない。キャラバンをするのに普通タイツやヒールを履くか?

今からどこかのパーティーか交渉会議に出席するのかとでも尋ねたくなる。

 

貴族……でもないな、低姿勢過ぎる。何より貴族臭さがない。

ある程度公正な貴族だったとして、子供でも多少のプライドは持っているものだがこの娘にはそれがない。寧ろこちらに恐縮しているような気配だ。商人の方がまだあり得る。

 

抱えている箱はなんだ? 外見は随分と精巧な作だな……まあこちらには関係のない話か。

 

「アンペル・フォルマー。考古学者兼錬金術士で、そこのリラの雇い主の様なものだ」

 

「クラウディア・バレンツと申します。助けていただきありがとうございました」

 

ほう? 予想外のファミリーネームが出てきたな――「バレンツ」と来たか。

ならばこの格好にも納得がいく。常に商売(戦い)の場なわけだ。

 

「王都系の先進商会でも成長著しいと聞く「バレンツ商会」の関係者、でよいかな?」

 

「あっはい、商会長ルベルトの娘になります。私どもをご存じとは光栄です」

 

「本店に足を運んだ事はないが、系列店には何度か世話になっているからな。興して一代でなかなかに拡大している商会の名くらいは耳に入っているし、印象にも残るというものだろう。リラ、お前さんの手入れ道具の販売元の一つだ」

 

「そうか」

 

「ご利用いただき、ありがとうございます」

 

一言で終わらせてやるな。何となく反応に困っている感じだぞ。

商会長の実の娘とは。普通に街中を歩いている時ですら護衛がいても不思議ではないが。

 

「それで、本当にただの散歩なのかね? リラから聞いたかもしれんが、今この一帯は少々気が立った魔物が多い。こんな感じのがな」

 

「これは……」

 

リラが狩った魔物を見せてやったが……たしかに肝が据わっているようだな。

特段怖気づくこともなく、淡々と観察している。普通ならそれなりに戸惑っていそうなものだが。

 

「学んだ限りでは結構強い魔物だったと思うんですけど……これを、リラさんが?」

 

「殴って頭の中身をミンチにしてある。安心しろ」

 

「この娘さんの心配はそこではない、リラは少し黙っていろ。この外傷が他の魔物によるものと見ていてな。勉強はしている様で結構な事だ」

 

魔物の復活を警戒しているのではなく、純粋にリラの心配だぞ。

困惑を通り越して引いているではないか。

 

「ギルドから依頼を受けてこいつ等を討伐してきた帰りで、このまま集落に戻る所だ。差し支えないなら付いてくるといい」

 

「はい、ありがとうございます。こちらからもお礼をさせてください」

 

言葉だけでなく明確な礼をする旨を示してきた。流石商人の娘だな。

今日は久々に真っ当な飯にありつけるだろうか。丸焼き以外なら基本大歓迎だが。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「報告は以上だ。それと会敵時の状況などの詳細はこちらに纏めてある」

 

「情報のご提供ありがとうございます。追加報酬の精算に少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか? 後ほどご足労頂く形でも結構です。基本報酬はこの場でお支払い致します」

 

「分かった。では後で寄らせてもらう事にしよう」

 

「承知致しました。錬金術士の方のレポートとなると、査定がすぐには出せないものでして」

 

「構わない。経験済みだからな」

 

「ご配慮いただき感謝します。こちらが基本報酬と……これが追加報酬の引換証になります。最低でもこちらの金額は保証致します。サインを頂いても?」

 

「色を付けてもらえると助かる。受注したのは相方だが、私でいいかね?」

 

「お二人が組まれている事は私が確認しておりますので。こちらで適切に処理しておきます」

 

「了解した。では後を頼む」

 

ふむ、追加分はそれなりになりそうだな。

バレンツ商会からの礼が無くとも、今晩くらいは真っ当な飯にしたいものだ。

相方が強いのは結構な事だが、こちらの十数倍の食費がかかるのは何とかならんのだろうか。

 

「終わったか?」

 

「追加分は後で受け取りにくる形になる。日が暮れる前にでも来たらいいだろう。そちらは……バレンツ嬢との話に花が咲いたか? お前さんにしては珍しく機嫌が良さそうだ」

 

「よろしければ「クラウディア」と。敬称を付けていただく様な身ではありませんので。各地の食事情のお話がとても興味深かったです」

 

「趣味が菓子作りだそうでな、各地の菓子について話が聞けた」

 

食は偉大だな。人見知りのリラが短期間でそこまで喋るようになるとは。

菓子作りが趣味とは都合がいい。土産に何か頼む事もできるか?

 

「それで……フォルマーさんは、今からお時間は? ご都合が良ければ、私どもが詰めている宿にお越しいただければと。今の時間であれば商会長も執務中かと思いますので」

 

時間は昼前といったところか。

礼だけ先に受け取って、昼飯を真っ当にする形でもいいかもしれんな。

それと。

 

「私も「アンペル」で構わんぞ。時間については問題ない。リラは了承済みだな?」

 

「ああ」

 

「それではご案内いたしますね」

 

 

 

いくつかの隊商が出発しているか。ギルドからの通知が既に回り始めているようだな。

この様子なら追加報酬にもある程度期待できるだろう。

 

「わざわざ商会のトップがここまで出向いているという事は、新しい販路の開拓かね? 賑わいを見た限り、この辺りはなかなか有望な場所のようだな」

 

「そうですね。ご存知かと思いますが、中央では珍しい物が出回っている事がありまして。私どももその視察といったところです」

 

「来ているのはクラウディアと商会長の父親だけか?」

 

「はい。それで、本当ならここから護衛を付ける予定だったんですが……私は把握していなかったんですが、件の魔物の影響で到着が遅れているのかと」

 

「並の護衛だと荷物を捨てる羽目になりそうだからな。そちら側も慎重になるだろう」

 

ここまではほぼ自力で来たのか、なかなかに強行軍なのだな。

まあそのくらいスピード感は持たねば。商売は後手に回ればそれだけ儲けを損ねる。

クラウディアも自衛手段は持っているというわけか。あの箱の中身は武器なのか?

 

――それとは別に、気になる話が出たな。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()という話だが……()()()()()()、他のエリアにこれまでの道中と比べても強力な魔物はいないだろう? 何か被害にでもあったか?」

 

「……えっ、ええ。私と商会長だけでは対処が厳しい場面も何度かありまして」

 

「それでわざわざ早馬を飛ばして準備をして、この町で護衛と合流する予定だったのか? 前の町で待っていたとしても大して変わらないと思うが」

 

「そっそうですね? 父も……少し気が動転、していたのかも、しれません」

 

 

 

分かりやすいぞ、クラウディア。商人の娘にしては随分素直なようだ。

 

ここまで来れた自衛力はあるのに、ここから南以外のエリアに移動するための護衛など本来必要ない。視察・販路の開拓が主体というなら荷物もそこまで多くは無いだろう。

 

バレンツ商会は比較的王都近郊に拠点を構えている。こちらのエリアには手を出していないはず。単なる視察目的ではなく新規開拓を決めているからこそ、商会長とその娘がわざわざ直接赴いていると考えるのが自然。

 

つまり、クラウディア達の目的地は「南」か。

私達は掴んでいない何らかの金になる情報を、バレンツ商会は手に入れたらしい。

南にある金の生る木……一つネタがあったな。試しにちょっと話を振るか。

 

 

 

 

 

 

「そういえば南にリュコの実の生産地があるらしいな。バレンツ商会は販路を持たないのかね?」

 

「!?!?!?!?!?」

 

わかりやすっ。

 

 

 

 

 

 

「どうしたクラウディア? 突然ブレイクしたかのようだ。アンペル、軽めの気付け薬は持っているか?」

 

「ふぇっ!? ええっとぉはい、いっ今になって突然、あぁ朝の魔物の危険性を自覚しまして! 体調はっ大丈夫です! はいっ!」

 

「そうか? まあ戦士でないならそんな事もあるだろう。話に聞いたトマトか、美味いというなら一度は食ってみたい気もするな。クラウディアは食べた事があるか?」

 

「どっどうだったでしょうねぇ? あ、あははは……マズイマズイマズイマズイマズイマズイ

 

冷や汗を掻くほどか。ついでにリラの純粋な善意と質問が心に効いていそうだな。

 

成程。バレンツ商会がここまで来た目的は、南で「リュコの実」の販路を確立する事なのか。

恐らく今のロテスヴァッサ王国において、かなりホットな話題だ。

その交易に関わる事が出来れば、得られる利益も相当なものになるだろう。

 

現時点ではごく少数の個人行商だけで流通させている所だが、何らかの手段でバレンツ商会はそこに一枚噛める機会があったようだな。

この先南に行ったとして、広がっているのは火山の麓の荒れ地と遺跡だけのはず。いくら少量と言っても、一定規模の商会による販路を結べるほどの生産を維持するのは難しい――普通なら。

 

つまりは、何かしらの方法で()()()()()()()()()()()()()()()()が維持できているわけだ。

南の地形……入り江状の汽水湖があったな。エリプス湖と言ったか。

閉鎖環境となると――これが一番考えやすいか? 地図には示されていないはずだが。

 

 

 

「南と言えば、果てのエリプス湖には地図に載っていない島があったな。いちいち行くのが面倒な場所だが」

 

「◎△$□♪×♨¥●&%☆#?!」

 

「おっおい、クラウディア!? 本当に大丈夫か? 遅効性の呪い? 痙攣を起こすほどショックだったか。せっかくの綺麗な髪がぐしゃぐしゃになるぞ、落ち着け。アンペル、回復アイテムを出せ」

 

 

 

いかん、少々いじめ過ぎたようだ。これ以上はクラウディアの生涯の汚点になりかねん。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「たっ、ただいま……」

 

「お帰りクラウ。まさかとは思うが集落の外……そちらの方々は? お客様かね?」

 

「その集落の外でこの子を保護したものでな。礼を貰えるとの事で、ここまで案内してもらった。私はアンペル・フォルマー、流れの考古学者兼錬金術士だ」

 

「リラ・ディザイアス、こいつの護衛だ。朝からギルドの依頼ではぐれを狩っていてな」

 

「それはそれは! 娘を助けて頂きありがとうございます。クラウディアの父で、商いを営んでおりますルベルト・バレンツと申す者です。さあ、どうぞこちらへ。クラウ、お茶の準備を」

 

なかなかいい宿だな、この集落の中では上級の部類。私達とは雲泥の差だ。

彼がバレンツ商会の創業者か。やり手の風格がある50歳前後の紳士。若い活力に溢れている。

歳を考えると、愛娘が可愛くて仕方がないといったところだろう。

 

「何と御礼を申し上げればよいか。先刻ギルドから当該の魔物の討伐通知が出ておりましたが、お二人が? 錬金術士の方が関わられているとは思いもしませんでしたが」

 

「そうなるが、私は魔物の検証を行ったに過ぎん。戦闘は専門外でな」

 

「あの程度、戦いと言えん。準備運動が良いところだ」

 

「なんと。出回っていた情報では危険度が高いようでしたが、お強いのですな」

 

「戦闘経験の豊富さなら自信はある」

 

それはそうだろう。数百年戦い続けられる戦闘狂がこっちに何人もいて堪るか。

良い茶葉だな。こんな良い物を飲むのは十数年振りだ。

 

「娘からも申し出があったようですが、是非御礼の機会をいただければ。宜しければ何かご希望の品などございますかな? これでも商人の端くれですので、凡そのご要望にはお応えできるかと思います。何なりと」

 

 

 

ここまでの流れは順当だな。

さて、ここからの話に乗ってくれるかどうかだが……まあいいか。シンプルにいこう。

 

 

 

「それについてだが、金や物品ではない提案をさせてもらいたくてな」

 

「アンペル?」

 

「ああぁぁ……」

 

「特殊なご提案、でございますか? 娘の命の恩人からのお申し出です。出来る範囲にはなりますがお応え致しましょう」

 

すまんなクラウディア。お前さんの名を出す気はないから安心してくれ。

 

「お前さん方の馬車に乗せてもらいたい――早い話、私とリラを護衛として雇ってもらえんか?」

 

「……お二人を私どもの護衛として雇用する事、がこちらからの返礼になるのですか?」

 

「そうだ。バレンツ商会の目的地はここから更に南だろう?」

 

ルベルト氏の目が驚愕に見開かれる。彼と言えど、これは予想外だったようだな。

 

「私達の目的は南部にある火山ヴァイスベルクの麓の平原と台地、そこに点在しているクリント王国時代の遺跡調査でな。これまでは徒歩で移動していたんだが……今回は私達にとっても少々面倒だし、荷物もそれなりにあるから馬車を使おうと考えていた。だがここから南への乗り合い馬車なぞ当然出ていなければ、自分で調達するにも金と時間がかかる。そんなわけで、便乗可能であれば途中まで乗せてもらえんかと思ってな。その間の安全はこちらで確保しよう」

 

流石に悩み顔になるか。クラウディアにいたっては顔が土気色になっている……。

私達が何処まで真実を知っているか、ルベルト氏は確かめる手段がないしな。

 

この感じ、リュコの実や謎の島に関する情報は秘匿の契約が結ばれているらしい。

なら、その前提条件をひっくり返してしまえばいい。()()()()()()()体なら問題ないだろう。

 

「やり手の商会長の貴方なら知っているんだろうが、私達の目的は島でもリュコの実でもない。あくまで周辺の遺跡調査だ。その手前で降ろしてもらえれば構わんさ」

 

「……驚きましたな。ご存じだとは」

 

「それなりに歩き回っているものでな、多少のネタは持ち合わせている。その様子だとバレンツ商会はリュコの実の販路を築こうとしているのだろう? それを邪魔するつもりはないから安心してくれ。こっちとしてもリュコの実を食える機会が得られるのは楽しみにしているんだ」

 

「娘から……何か伺ったので?」

 

「いや? 「島」や「リュコの実」については一言も聞いていないぞ? なあクラウディア?」

 

汗だくで目を回しながら激しくコクコクと頷いている――朝の肝の据わり方はどうした?

せっかくの可憐な容姿が台無しになりそうだ。

 

「お前、そんな事を考えていたのか……私達が彼女から聞いているのは、付く予定だった護衛との合流が遅れているという事だけだ。はぐれの魔物程度に後れをとる護衛の実力など知れている。そいつらだけより安全な旅程となる事は確約してやろう」

 

「貴女の実力はこの集落に知れ渡る形で既に証明済みですからな。間違いなく私どもがこれまで関わった護衛の中でも指折りの御力でしょう……承知致しました。先方が到着の後、少々調整のお時間を頂きたく思います。もしお二人を雇えない事になった時には、別途相応の返礼をさせていただく形で宜しいでしょうか? 情けない話ですが、どうしても断言は致しかねるもので」

 

「それで構わない。ああ、話がこじれそうだったらこう伝えるといい――「隊商に同行して来なかったとしても、そいつらはいつか絶対来る」とな。実際そのつもりだ」

 

ルベルト氏がどう動こうが、我々が島の周辺に来る未来が変わらんのであれば島側も諦めがつくというものだろう。機会を作ったのは遅刻した護衛だしな。

 

「効果覿面のお言葉ですな、かしこまりました。ところでその辺りのお話とは別に、これから昼食でもいかがですかな? なかなかに美味そうな屋台を見つけているのですよ」

 

「勿論だ」

 

「お前さん、こういう時の反応だけは異様に早いな……願ってもない話だ。同席させてもらうとしよう」

 

「それでは向かうと致しましょう、今ならまだ混む前でしょうからな。クラウ、支度を。随分と髪が乱れている。身嗜みは商会の顔だ」

 

「う、うん……すぐに準備しますので少々お待ちください」

 

普段大して手入れをせんリラよりも髪が跳ねまくっているからな。服も着替えねば。

常在戦場のバレンツ商会の人間としてはなかなか見てられん状態だろう。

利用してしまった形だし、昼食の中でクラウディアのフォローをしておくとするか。

 

 

 

さて、雇用に関してはほぼ決まったようなものだ。これで思っていたより早く出発できる。

ギルドの報酬も合わせれば、あちらに着いてからも多少は真っ当な生活ができるだろう。

 

リュコの実に関しては想定外だったが、クリント王国関連について大して期待できんのは変わらん。過去の「門」は全て人里離れた場所だったからな、近くに有人島があるなど論外だろう。

念のために暖炉を借りて、少しアイテムを作っておくくらいを考えておこう。

 

今年の夏は南の島でバカンスか。ちょっとした休暇になりそうだな。




ということで、こんな感じの出会いにしてみました。
実際の話、秘匿されている島への行商に無関係の護衛を付ける経緯が
どうなっていたのか気になります。
この頃のクラウディアは、氷の女帝(笑顔)と化すには程遠いという事で。

これで島の外編も終了。過去編、サブストとしてもほぼ終わりです。
次は余談的な回になります。
次回も楽しんで頂ければ嬉しいです。
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