ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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アトリエ世界では「栗」のことを「うに」と言います。
エレメント関係は完全に独自解釈です。

今回もよろしくお願いします。


2. 5日目    天才に任せるとこうなる

アルさんは2、3日って言ってたから、3日待って再びアルさんの工房へ。

が、タイミングが悪かった。遭いたくないやつがいた。

 

モリッツさんの息子――ボオス・ブルネン。

 

「……お前か。ライザ」

 

「あたしだったらなんだってのよ」

 

「お前の事だ。エルリックさんの店に入り浸ったり、無理難題を依頼していないかと思ってな」

 

「あんたに関係ないでしょ。そっちこそ権力使って無茶な依頼してないでしょうね?」

 

こいつの事は昔から知っている。今のような関係になったのは……やめやめ、考えたくない。

 

「まあまあ、そこまでにしようよ。お待たせしたねボオス君」

 

「いえ。いつも丁寧なお仕事をありがとうございます」

 

「注文に応えているだけだよ。それじゃあモリッツさんにもよろしくね」

 

「はい。必ず伝えます」

 

そう言って、ボオスはこちらを見る事なく工房を出ていった。

 

「はぁ~。タイミング悪かったなぁ、ここで出くわすなんて」

 

「君達の関係は相変わらずだね。僕にとってのボオス君は丁寧だから結構不思議な関係だよ」

 

「どうせまた「ブルネン家の男として~」とかカッコつけてるだけですよ。モリッツさんもアルさんのお世話になってるんですから、頭が上がらないんじゃないですか?」

 

「それはそれで普通の振る舞いだと思うけどね?」

 

アルさんの言ってる事はわかるよ?

お世話になっている人に丁寧に接するのはあたしも同じだ。

だけど釈然としないというか、今は素直に受けられないかな。

 

「それでアルさん。お願いしてた杖なんですけど」

 

「ああうん。作業は終わっているよ」

 

そう言って。アルさんは作業場から布でくるまれた杖を持ってきて、その布を取った。

そしてあたしは今頃思い出した――そうだ。この人の本格的な改良は。

 

「……ええっと、アルさん?」

 

「なんだい?」

 

「形が随分と変わっちゃってるんですが?」

 

「うん」と答えるアルさんは解説を入れてくれる。

 

「新しく作ったわけじゃないんだ。ちゃんとライザの杖を元にしているよ。ただライザの……魔法の素養? を思うとどうしても制限が掛かっちゃう気がして。丁度材料もあったからそれを使って組み直したんだ」

 

「あの形が気に入っていたならごめんよ」と申し訳なさそうに言ってくれている。

 

元のお手製の杖は、魔石を先端に付けてそれを保護する形で装飾を付けたやつ。

それをあたしが先端部や枝分かれ部を補強した「改」仕様だ。手作り感バリバリだったよね?

 

それが……アルさんの手によって先端に三日月が付いた、全体的に赤っぽい感じに。

完全に別シルエット。あれ、魔石はどこにいったんだろう?

でもそんな事は、杖から感じる雰囲気と見た目のインパクトの前ではどうでもいい事だ。

 

「元の杖は主に鉄製だったけど、より魔力の通りやすい銅製に換えたんだ。ただ重さや強度の問題があったから見た目が変わっちゃったんだけど……」

 

色々説明してくれるアルさんだけど、「素材が変わった」、「見た目が変わった」、「前より魔法が使いやすい」、その3つはとりあえず分かった事にしとこう。それ以上は異世界言語だ。

そして、とにかく手に取ってみたい!

 

「……ああそうか。ごめんごめん、試してみてね」

 

「はいっ! ありがとうアルさん!」

 

待ちきれないあたしの反応を察して杖を渡してくれた。

少し重くなったかな? でも気になるほどの違いじゃない。

 

軽く振ってみる。

見た目のわりに重心が先端じゃないのかな? 杖に腕を持っていかれる感じもしない。

魔力を流して――新感覚。スムーズというか、一生懸命流そうと思わなくても自然に流れる感じ。

 

まずは、とにかくこれを使ってみたい!

 

「アルさん! 魔法使ってみてもいい?」

 

「店の中は勘弁しておくれよ?」

 

 

 

旧市街で思いっきり魔法を使える場所はないから、沈んだ住居跡がある浜辺に2人でお出かけだ。

ちゃんと杖は布に巻いてね。

 

「そういえば、アルさんと一緒に出かけるのって久しぶりですね」

 

「ライザとはよく会っているけど、外出はそうかもね」

 

初めてじゃないけど多くもない。今年に入ってからは初かな?

いろいろ出来ちゃうからいろんな所から頼み事を受けてるらしいし。

加えて島の外での採取とかも考えると、アルさんの自由時間てほとんど無かったりする?

 

うん、少しは自重しよう。

 

相当に入り浸っていたあたしのそんな考えが顔に出ていたのか。

 

「偶にはいいね、誰かと気軽に出掛けるのも。どうしても仕事が関わってきちゃう事が多いから」

 

と、何て事ないように語るアルさんだった。

 

「やっぱり、お仕事だと気が重くなっちゃったりするんですか?」

 

「毎度じゃないよ? でも話を聞きながら、どういった改良や対処が出来るかとか色々考えてしまうからね。楽しむって感じではないかなぁ。遊びではないんだしね」

 

「今回の杖の件もお仕事になっちゃうんじゃ?」

 

「それもそうだけど。後は見てからだと思っているし、それに――」

 

「ライザだからね」と、微笑むアルさん。

軽~い感じだけどイヤな感じは全然しない。本心でそう思ってくれてる感じ。

 

この人と気軽な関係になれた事はホントにうれしい。まるで別世界の人のようなんだから。

これがレントあたりのセリフだったら大量のうにを投げ付けているだろうけど。

 

 

 

浜まで10分くらい。

その間に話しかけられる人の多い事。10年前は追い出されそうだったってホントなの?

あたしもわりと話しかけられる方と思ってるけど、大体「次は何を企んでいるんだ?」って感じ。

アガーテ姉さんなんかは直球ど真ん中だ。企みじゃなくて色々試してるだけなんだけどなぁ。

 

「さあ。じゃあ一回使ってみようか」

 

「はいっ!」

 

取り出した杖を右手に持ち、身体の左側から正面に振りぬけるように構える。

攻撃っぽい事に使える魔法として――まずはあたしの十八番を!

 

コーリングスター(来たれ流星)!!」

 

杖の先端が水底の住居跡に向くように振り抜く。

普段が直径5センチくらいだから、それより少し大きいくらいの淡い光弾が水面に当たって軽く水しぶきを上げる。

 

そんな程度の予想だったんだけど。

 

 

ボッ!

 

 

なんか出た。

 

 

ズッッドバァーーーーン!!!

 

 

「…………」

 

30センチくらいの輝く魔力弾が以前の5倍くらいの速度で水面に突っ込み、水に沈む石でできた住居跡の一部をぶっ壊して水柱を生み出した。

打ち上がった水が、霧雨のようにあたしとアルさんに降ってくる。

 

「な、な、な、な……」

 

なに、今の。

一方アルさんは落ち着いた様子のまま「そのまま意識的には魔力を込めずに、正面に向けて何度か振ってごらん」とあたしに指示。

 

とりあえず、振ろう。

 

新しく魔力を込めてないのに杖には光が残ったまま、振った先から……さっきよりは小さいけど輝く光弾が飛んでいく。

水に当たってないから威力は分からないけど、いつものコーリングスターよりずっと強いはず。

というか、魔法ってここまで物に直接干渉できるんだ?

 

そのまま5、6回は振って。ようやく杖の光が消えた。

自分のやらかしに頭が追い付いていない。何が起きたかだけはわかる。

 

「えっと……アルさん?」

 

「うん。これなら魔物相手にも十分通用するね」

 

「いやそうじゃなくって!」

 

半分パニくりながらもやっと今の出来事を理解したあたしと、さも当たり前って感じで評価するアルさん。あれ? リアクションおかしいのってあたしの方なの?

 

「あたっ、あたしの魔法が石材を砕いたんだけど!?」

 

元のコーリングスターは石材どころか木すら削れなかった。

そもそも魔法はエレメントを除いて物へのダメージは難しいはず、よね。

 

どんなものにもエレメントが宿る。大なり小なりあるけど4つの属性。

それに干渉して影響を及ぼす、んだったよね?

あたしたち人間にも、動植物にも、単なる物にもエレメントはある。

 

違いは宿るエレメントの種類と、量と、そして動かしやすさ。

生き物は4つ全部のエレメントを持ってる。だけどその中身の比率はみんな違う。

 

あたしはかなり珍しく4つともほぼ同じ量。レントは雷、タオは火が多いんだったかな?

犬や猫は風、ヤギなんかは氷が多いんだっけ。

 

で、動物の中でも特にエレメントが多くって、ずっと生き抜いてきた動物の子孫が魔物。

生き物の持つエレメントは水を含んでるせいで、物よりずっと干渉しやすいらしい。

魔法を生き物に当てれば……動いたエレメントに引っ張られるように動く。

だから強いエレメントを持つ魔物には攻撃としても使える。うん、ここまではOK。

 

でも物の持つエレメントは特定の属性にドカッと寄っちゃって、ずっと動かしにくい。

加えて相性があるから干渉も難しい、でよかったはず。

相性はたしか、氷→火→風→雷→氷……かな?

 

エレメントに偏りがないあたしは不得意がないけど、得意もないのだ。

ああいう岩は風が多いんだったかな? なら火属性なら干渉しやすいのかも。

 

だけど、そもそもあたしの魔法は人に当たってもせいぜい強く押す程度。

水際で釣りをするレントを小突いて落とす程度だもん。

今のが当たったら落とす前に吹き飛ばしちゃう。文字通り。

 

「うん、やっぱりライザはすごい魔法の才能だね。それだけの威力を一発で出せるなんて」

 

「あたし魔法で岩なんて砕いた事なんてないよ!?」

 

「そりゃそうだよ。普段から人を傷つけられる威力の魔法を放てる杖を、平和なこの島で持っていたら大変だ。ミオさんもライザに渡していないだろうさ」

 

いつもの感じで淡々と話すアルさん。

じゃあこれが、本来の魔法?

 

「クーケン島には魔物がいないから魔法で身を守る必要がない。だから島にある杖とかの……魔道具とでも言えばいいかな? それらは威力のある魔法を使う為の機能を持たせていないんだよ」

 

「身体でやるのが大変な事を補助する程度なのさ」と、いつのまにか真剣な表情で教えてくれる。

 

「だけど、島の外に出て魔物と戦うとなれば勿論話は別さ。身を守るって事は外敵を排除するのと同じだからね? 相応の威力を持たせる事になる。今までの魔法で魔物を倒せると思っていたかい?」

 

「でも……ロミィさんは「ぷに」っていうゼリーみたいな魔物だよ~って」

 

そう言うと、「あ~そういう事か」となんか納得した感じで話を続けるアルさん。

 

「ロミィさんはやさしく教えてくれているね、島の外に過剰な恐怖を抱かないように。確かに島の対岸、小妖精の森だと「青ぷに」が多い。他には「オオイタチ」「花の精」が主な魔物かな」

 

指を折って、数えるように、思い出すように。

 

「でも大型個体として「でかぷに」「オオイタチマザー」「エルダーフェアリー」なんてのもいる。でかぷにはレントより大きなぷにで、あちらに危害を加える気がなくても戯れに身体を包まれたら窒息するだろうね」

 

ゼリーの魔物に鼻や口をふさがれる……うわぁ。

 

「他にも、僕も見た数は少ないけど「動く甲冑」がいる。分かりやすく剣を持ってるよ。北の街道には中型の翼竜もいる。青ぷにとは比べ物にならない危険度で、偶にだけど森の近辺まで飛んでくる事がある」

 

腕を下げたアルさんがあたしを見る。

 

「物事に絶対なんてないんだから、気を付けていてもライザがそういった魔物に出遭ってしまうかもしれない。そうなった時、ライザは今までの魔法で戦えるかな?」

 

ロミィさんたち街道を行き来する人たちや、たまに対岸に行くアガーテ姉さんからも聞いた事がない。楽しい話じゃない、結構こわいお話。魔物って、ホントはそんなのなの?

青くなっちゃってたのか、あたしを見るとアルさんは苦い顔。

 

「ロミィさん達は島の外を嫌ってほしくなかったんじゃないかな。行商をされる方で命を落とされる方もいるって話はライザも聞いた事があると思うけど、実際に説明すれば生々しいだけなんだよ。だけどライザが島の外に出るって話だったから、心構えも含めて説明をしたつもりなんだけど……どうかな?」

 

ひと段落って感じかな。

 

「今まで、単に島の外だからって大した事ない。みんな掟に縛られてるだけでつまんない日々を送ってるって思ってたけど、ホントに危険なんですね……」

 

意気消沈。そんな感じのあたしに。

 

「でも、僕は杖を預かった時にこうも言ったかな? 島を出る事は否定しない、早い内に色々経験するのは良い事、出るなら事前準備と魔物への理解をしっかりってね」

 

そう言って、いつものやさしいアルさんが戻ってきた。

 

「怖がってもらおうとは思ったけど、怖がり続ける必要はないんだ。ライザの思っている通り行商で街を行き来している人達がいて、そういう人達のお陰で島には無い物が手に入っている。島の外がどうなっているのかを知ってもらうのは大切だと僕も思っているよ。だから――勉強する気はあるかい?」

 

アルさんのお話は最初と同じ。

外へ出る事は止めない、得られるものは今後につながる。だけど魔物にも襲われるかも、それは自己責任。だからしっかり事前準備。つまり勉強をっと。

 

目をつむって、すこーし考えた。うん。

そして、勢いよく顔を上げ、元気よく返事。

――つまりは。

 

「やります!」

 

あたしの、やる気次第だ。

アルさんは「ふふっ」と笑って。

 

「そうかい、じゃあ僕も協力しよう。掟破りの共犯者を増やす事になっちゃうなぁ。さて、まず今をどう乗り切ろうかな?」

 

はっはっはと笑いつつ、なんか遠い目。今を乗り切るって?

……あ。

 

「ライザ!! それにアル君まで!? 一体さっきの爆音はなんだったんだ!」

 

アガーテ姉さんがすっ飛んできた。そりゃそうだ。

人の往来からそう離れたところじゃないんだから、いろんな人に聞こえてるよね。

そして島一番の護り手のアガーテ姉さんが見に来るのも当たり前。

第一声で呼ばれるのはあたしかぁ。いや、実際やらかしたのはあたしなんだけどさ。

 

「申し訳ないアガーテさん。鉱石層粉砕用のニトロを合成したからインパクト試験をしたんだけど試算より高ジュールで水深不足もあって爆轟を生じさせてしまったんだ。もう少しエステル化を抑制すべきだったよ」

 

さっきまであたしにも分かるよう喋ってくれたアルさんが、一気に異世界言語のオンパレードだ。

うん。これは分かる――アガーテ姉さんを煙に巻こうとしてる。

 

「はぁ……なんというか、相変わらず君は難しい事をやっているんだな。そのお陰でこっちの生活が楽になっているんだが。とにかく魔物の襲撃とか、危ない事が起きたわけではないんだね?」

 

「ええ、ご心配をおかけしました。ライザが他の分を持っていてくれたお陰で誘爆の危険も避けられましたし」

 

あれっ? あたしの杖、いつの間にかまた布が巻かれて?

中身が分からないよう若干だぼだぼ気味に。

あたしがちゃんと何かを両手で抱えるような感じになってるし。

 

「……っライザ! 落とすな! それを絶対に落とすなよ!?」

 

「落とさないよ! あたしが一番大変じゃない!」

 

()()()()()()()()()が、危険物を抱えているって感じのアガーテ姉さん。

杖を持ってるだけなのに、そんな空気に飲まれてあたしも鬼気迫る感じになった。

 

 

 

「色々ありがとうアルさん。杖やお話に加えて庇ってもらって……」

 

「あはは、気にしないでいいよ。見通しが甘かった僕にも責はあるし、ライザの演技で信憑性が増したんだから」

 

アガーテ姉さんから軽く説教を受け(いつもの3人なら3時間コースね)、工房に戻ってきたあたしたち。これまでのやらかしの中でもかなりヤバい部類だったと思うけど、この程度で終わったのはこの人の人徳――人徳かぁ。

 

「えっと。勉強って言ってくれましたけど、本とかを貸してもらえるんですか?」

 

勉強って聞くと……シンシアさんの授業やタオみたいな本読みかな?

苦手だけど、頑張ると決めたんだ! やるぞっ!

 

「ううん。それについてはちょっと考えがあってね」

 

ありゃ? じゃあ一体何を?

 

数日のうちに連絡をくれるって事で、その日はそこであたしは家路についた。

杖は預かってもらった。さすがにアレはなぁ。




いかがでしたでしょうか。
ご感想などあればよろしくお願いします。

ゲーム本編に突入するまで、もう数話かかります。
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