ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
これ上手に表現できる方々がうらやましい。
今回もよろしくお願いします。
この数日間のあたしは、いわゆる「真面目」だったんじゃないかな?
お父さんの農作業を手伝い、お母さんの家事を手伝い、足腰を悪くしているおばあちゃんのバーバラさんの荷物運びを手伝い、シンシアさんの手伝いで子供たちの相手をしたり。
「病気なのか!?」とマジに言ってきたレントには、いつもの3割増のうにを投げつけてやった。
タオにもどうしたんだい? とは聞かれたけど、タオはやんちゃタイプじゃないしね。
あたしがちょっと真面目なタオ寄りになったと思ったんでしょ。
だから
ラーゼン地区の端からタオの悲鳴が響く中、あたしは家への道を歩く。
今までみたいな行動が減ったのは……いろいろ教えてもらって、やりたい事の先を考えるようになったから、かな? 楽しい事だけじゃない、悪い方向で予想外の事があるかもって。
だから、動く前にちょっと考える。
普段ならそんな事を考えながら他にやろうかと思う事に出会うから、それに飛びつく。これもあたしの一面って言えんのかもしれないね。
ぼや~っと考えながら家に帰ってきて。
「ただいま~」
「やあ、お邪魔してるよライザ」
アルさんがお父さんとお母さんとダベってた。
あれっ? 連絡をくれるって、レントあたりに伝えておくとかじゃなかったの?
「しかし……アルフォンス君。ライザで君の助手が務まるのかい?」
「逆ですよ、カールさん。ライザみたいに好奇心の強い子の方が新鮮な意見を貰えますから」
「でもアルフォンス君の道具作りはとても難しそうだから。寧ろ迷惑にならないかい? この娘が何かやらかしそうで心配だよ」
「ちょっとお母さん!?」
お話は――アルさんが新しい道具作成の手伝いとして1週間のうちの数時間、あたしの時間を貰いたいって事らしい。
もちろんそれは建前で、ホントはあたしに勉強を教えてくれるための時間。
約束通り、しかも農作業をサボるんじゃなくて堂々と時間が取れる形を見つけてくれた。
「以前ライザが僕にしてくれた質問が、僕にとっては結構新鮮でして。新しいアイデアが出るんじゃないかと思うんです」
「どういうわけかこの子は色々な事に興味を持つ性格だからね。こちらとしては土達に興味を持ってくれないかと思うんだが……僕としてはライザが良いなら構わないよ。収穫期ではあるけれど、数日数時間というならそこまでは影響しないだろうからね」
「アルフォンス君にはずっとお世話になってるしねぇ。貴方が作ってくれた農具でこちらの作業も随分と楽させてもらえるようになったし」
すごい! お母さんから了承を取り付けた!
結構頑固で特に農作業に厳しいお母さんからOKを取れるなんて、
「いえ。こちらこそ何処の誰とも知れない僕を受け入れてくださって感謝するばかりですよ。道具作りはその為のお礼にすぎません。そして今回ライザに助力をして貰えれば、また新しい物が作れるんじゃないか、という所です」
さらりと両親との話をまとめていく。そして。
「という事なんだけど。ライザ、どうかな?」
「やる! やります!」
若干食い気味になっちゃった。お父さんは苦笑し、お母さんはあきれ顔だったけど。
早速明日からおよそ1週間。朝9時から昼過ぎ3時までアルさんのお手伝い、もとい勉強を受ける事になったのだ。
その日の夕方は、うにのダメージとカバンの中のナナホシに文句を言ってきたレントとタオを、屋根裏のあたしの部屋に迎えてのグチ大会となった。
でもあたしにはうれしい報告があるのだ。
「マジかよ! アルさんの助手だって!?」
「いいなあ。普段見られないようなものがたくさん見れそうだよね」
「ふふ~ん。いいでしょ!」
クーケン島における有名人の一角ともいえるアルさん。
そして新しい、未知のものを作り出す第一人者。
やり方が違うけど、ある意味有名になりたいってレントと、古代文字みたいな不思議なものに惹かれるタオにとっても魅力的なポジションよね。
しかも、その中身は島の外を冒険するためのあたしへの個人授業なんだから。
浮かれずにいられないじゃない?
「でも、なんでライザなんだ?」
「アルさんの道具に対してレントは「すげえ」の一言で、タオは理解をしようとするまでだったでしょ? 思った事を口にしてたあたしの意見が新鮮だったって言ってたわよ」
「うわーそういう事かぁ。僕も思ってた事を言ってみればよかったかなあ」
「あんたたちの言う「考え無し」なんていうのが、アルさんには魅力的に映ったのよ」
うん。実は協力してもらう方なんだけど、ついついそんな話を盛ってしまう。
完全にアルさんの受け売りなんだけどさ。
「んで。一体何やるんだ?」
「あたしも具体的には聞いてないけど、新しい道具を作るからそれの意見をくれっていうのがもらった話かな」
「それにしても、よくミオさんたちがOK出したよね?」
「それはあたしも驚いたわ。あたしが話に入る前にもうほとんど説得終わってたし」
「ライザがサボってないか見に行くとするぜ」
「自分のやる事サボって見に来んじゃないわよ。アルさんのお仕事の手伝いなのにそんな事するわけないでしょ」
だよなぁ~と言うレントをタオがなだめつつ、グチというか近況報告をしてその日はお開き。
明日の為にも夜更かし厳禁だ。まあ元々朝は早いし、寝坊もほとんどした事ないけどね。
次の日。
「いってきま~す!」
「ご迷惑かけるんじゃないよ!」
お母さんの言葉を背中で聞いて旧市街のアルさんの工房に。
特別何も持ってこなくていいって言われてるけど?
お店の札は「OPEN」。いざ!
「おはよーございま~す!」
「おはようライザ、いらっしゃい」
今日は売り場で迎えてくれた。
そのまま玄関にかかった札を「CLOSE」に。
「それで、勉強って何をするんですか?」
「うん。それなんだけど、ライザはこんな言葉を知っているかな?」
そしてアルさんはこんな言葉を口にする。
百聞は一見に如かず、百見は一考に如かず、百考は一行に如かず、百行は一果に如かず、百果は一幸に如かず、百幸は一皇に如かず……長い。
ひゃくぶんは……? しかずが多いのは分かったわよ?
こちらには無い言葉なのかな? と苦笑しつつ説明してくれる。
「聞くだけより見た方が分かる、見るだけじゃなく考えるべき、考えるだけじゃなく実行すべき、その実行で成果を得る事、その成果で幸せになる事、そしてその成果は自分だけじゃなくて皆のものにすべき、そんな意味だよ。要は座学より実践あるのみって事さ」
「大体は分かったんですけど……まさか今からやる事って」
「うん。対岸に行くよ」
ええぇーー!!
というわけで。
あれっ!? 計画が達成されちゃった!? 間違った事言ってないよね!?
もちろん堂々と港から舟で行くんだから、アガーテ姉さんにも声をかけられたけど。
「いくらアル君とはいえ、ライザを連れて行って大丈夫なのか? リードを付けておいた方がいいんじゃあ……?」
「いくらなんでもあんまりだよ! アガーテ姉さん!」
OKはもらえたものの――ヤギかいあたしは!
そんなやり取りの後、アルさんが舟を漕いで数十分。
ついに目標の地だった島の外、対岸に到着したのだった。なんとまああっさりと。
「僕の手伝いを、という事だから後で素材採取は手伝ってもらうけど。まずは魔物との実戦かな」
「いきなり実戦ですか!? さすがにちょっと怖いんだけど……」
「勿論最初から強い魔物と戦うわけじゃないよ。まずはライザも知っている「ぷに」、その中でも一番弱い「青ぷに」からだね」
預かってもらっていた杖を手に、魔物との戦いの準備。
アルさんは……手甲、籠手? レントのガントレットの肘先だけのミニチュアみたいなのと、
浜を歩いて間もなく「ああ、あっちにいるね」とアルさんが魔物を見つけた。
これが「青ぷに」。うん、ゼリー状の、ゆるい顔をした、全然危ないと思えない魔物。
これしか知らなかったら、そりゃあ危ないって思わないよね?
青ぷにもこっちに気づくと、ぴょんぴょん跳ねながら近寄ってきた。
「じゃあ初戦だね。魔法も魔力も使わずに、取り敢えず杖で叩く感じでやってごらん」
「はっはい!」
杖を構え、魔力は込めずに横薙ぎに振れるように。
戦いについては完全に素人だ。うん、とりあえず殴ろう。
前衛を務めてくれているアルさんに青ぷにが飛んでくる――ホントに攻撃してくるんだ。
それをアルさんはパシンと左手でなんて事なく弾き返した。
弾かれた青ぷにがよろよろしている。
「ライザ」
「っはい!」
青ぷにに近づいて、「やあっ!」っと杖の横薙ぎで青ぷにをぶっ叩く。
魔物と言っても生き物なんだから……気持ちのいいものじゃないなあ。
結果、青ぷににもダメージはあるんだろうけど、怯みもしない。
「あたしが一回叩くくらいじゃ怯まないんですね」
「そうだね。今のライザの杖は魔力を流していないし、筋力は女の子の平均よりちょっと強いくらいと思う。丈夫な棒で叩いただけだから、そうダメージを与えられるわけじゃないよ」
そういえば魔力を込めていないんだった。初の戦いに緊張しちゃって頭から飛んじゃってたね。
「だから攻撃っていうのは――こういうものになる」
ゴッ!!
言った刹那、アルさんが
一瞬で青ぷにに近づいて――貫手っていうのかな?
右手をまっすぐ飛び跳ねていた青ぷにに突き出して。
ボッ!!
貫通した。顔のど真ん中を。
青ぷには溶けるように地面に落ちて……消えちゃった。
「どうだい? 初の魔物との戦闘。そして、目の前で命が一つ失われたっていうのは」
「……気分がいいものじゃないですね。アルさんがやってくれたといっても、やっぱり」
「そうだね、その気持ちは大事だよ。でもライザが抵抗しなかったらケガするのはライザなんだ。この後イタチと小妖精とは戦う予定だけど、イタチは動物感が強いし小妖精は人型だ。心情としては更に攻撃しにくいと思う。でも、躊躇っちゃだめだよ」
少し真剣な感じで説明してくれるアルさん。
これが魔物と戦う事で、島の外に出るって事なのかぁ。
それから何度か青ぷにと戦った。いくらでもいるなぁ。
2戦目からはしっかりと杖に魔力を込めて。4戦目には魔法も使って。
さらにその後は2匹同時に。
さすがに魔法を使えばあたしでもほぼ一発だ。
でも燃費が……杖で殴るのにも魔力を込めてるから、体力も集中力も続かない。
ちょくちょく休みながらなのに2時間も持たなかった。
「うん。今日戦うのはこれでおしまいにしようか」
「あ、ありがとう、ございました……」
ずっと前衛で、休憩中も気を配り、全部あたしより早く魔物を見つけ、たまに出てきたイタチや小妖精はあたしを介す事なく一撃で倒しても、息が上がるどころか汗一つかいていないアルさん。
蹴りが入った瞬間に吹っ飛ぶ事すらなく霧散していく魔物には驚くしかない。
「ぎょ、行商の人、たちも、ずっと、こんな感じ、なんですか?」
「いや? 基本的に会敵しないように移動して、時には隠れて、戦ったとしても逃げられる時に逃げるさ。倒したところで得られるものは少ないし、荷物も持っているんだからね」
そりゃそうか。今のあたしは杖一本だけでも、行商の人たちは売り物持ちだもんね。
ふぅ、やっと息が整ってきた。
「今回連戦したのは、どのくらい戦闘っていうものが疲れるかを経験してもらうためだよ。慣れない事を続ければ疲れるのは当たり前だし、戦いなら尚の事。今は浜の周辺だけだから逃げる場所も十分にあったけど、小妖精の森は一本道。だから行きは良くても帰りも戦闘になる可能性が高い。疲れた状態でね」
「つまり、さっきまでのあたしの状態で」
「オオイタチや花の精、最悪でかぷにに囲まれる可能性もあるんだよ」
1回2回の戦いで、1匹ずつならあたし達3人だったとしてもなんとかなりそうだね。
けど。何匹も同時に相手して、連戦して、くたびれた帰り道にも。
今回はアルさんのおかげで全部先制出来てるし、なんせこの安心感だもんね。
逃げはしないだろうあたし、突っ込むだろうレント、逃げに徹するだろうタオの3人だけならどうなっていたやら。
「どうだい? 学びは多かったかな?」
「はいっ!」
「それは良かった」といつもの笑顔で武器を外しつつ。
「さて、お昼にしようか。いい時間だろうしね」
持って来ていたバッグの中からパンやお惣菜、飲み物を取り出してくアルさん。
グギュゥゥゥゥゥゥ……
――盛大にお腹が鳴った。
「…………っ!」
はっずっ!! 顔から火が出そう! アルさんの前でだけは勘弁してほしいのに。
あたしも一応恥じらう女子なのだ……一応でいいのか?
「それだけ動いて、それだけ学んだって事だよ。はいライザ」
「いただきます……」
免罪符は頂いたからご厚意に甘えるとしましょう。
アルさんから一式をもらって。何かの資材なのかな? 物置の屋根の下でまずは飲み物。
ほんのりと甘い果物の香りと味がするお水が疲れた身体に染みわたる。あぁ~。
「これ、クーケンフルーツじゃないですよね?」
「ライザも雑貨屋さんを覗いてみるといいよ。色々見つかるよ?」
今度回ってみよう。
お惣菜も家では食べた事ない味。不思議な感じだけど美味しい。
アルさんって料理も出来るのか。あたしはレパートリーが少ないんだよなぁ。
アガーテ姉さんの家を出て一人暮らしを続けているだろうアルさんだし、色々作れるのかな?
ご飯の後は聞いていた通り素材採取のお手伝いだ。
使えそうな木材を拾ったり、短い金属の棒(タガネっていうんだって)と槌を使って鉱石なんだろう岩を小さく砕き、手際よく袋に入れていく。
あたしは道具を渡したり袋を広げておく役だ。
一度運ぼうとしたんだけど。
「おも~~~い!!」
全然持ち上がらない! なにこれ!
そんな袋を「そりゃそうだよ」と言いつつ、片腕で事無げなく持ち上げ舟に運んでいくアルさん。
あたしの体重よりも重いと思うんだけど?
そんな作業を1、2時間続け、説明をもらいつつ舟で島に戻ってきた。
集めた素材を荷車で運んで工房に戻った時刻は午後2時半。ピッタリだね。
「勉強初日お疲れ様、ライザ」
「お疲れさまでした! ありがとうございました!」
「明日からやる事も基本的には今日と同じだよ。レパートリーは増やしていくけどね」
「はい! よろしくお願いします!」
午前は魔物との戦いの訓練、午後は助手として採取のお手伝い。
よ~し。お昼にお腹が鳴らないようにしなきゃ。
杖を預かってもらって家に帰る。
朝にアルさんが言ってた……なんだっけ? 実践で学ぶって事だったけど、ホントに新しいことだらけの大収穫。大変だったけど、ここ何年かで一番充実した1日だったんじゃないかな。
屋根裏で計画を練るだけじゃ絶対分かんなかったし、そのまま外に出ていたら。
事前準備としてアルさんの所に行ったあの朝からは想像できなかった状況だけど。
退屈だった、変わらなかった日々は間違いなく動き出したのだ。
明日も気合入れていかなきゃ!
「うっぐ、ぐぅああぁぁぁ~~~~~……」
そんなあたしの決意は、翌朝の筋肉痛にかき消されそうだった……。
青ぷには某RPGのスライム的な存在ですね。
初めての戦闘って、素人ならやっぱり物怖じするんじゃないでしょうか。
次回で前日譚編は終わり、本編に入る予定です。
大体一話6000文字がいいところでしょうか?
ご意見いただければ調整していきます。
ここまで読了いただきありがとうございました。
読みづらい箇所があればご指定いただければ幸いです。
それでは次話をお待ちください。