ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
さあ彼の長セリフ回です。なぜか書いていて楽しい。
文章がスラスラ出てきた記憶があります。
今後も料理の描写は何度かあります。
今回もよろしくお願いします。
「被害はなかったみたいだね」
「ライザ……これもお前の仕込みか?」
「仕込みも何もあんたは知ってたはずでしょ? あたしたちで魔物を誘き出して倒すって。それを無視して勝手に出航しただけじゃない」
「そこの2人に集めさせなければ、今頃船は外海に出て漁が出来ていた。随分とピンポイントで待ち構えていやがったな……何故だ! 何故そこまで俺の邪魔をする!」
「危険性を知ってもらう為だよ、ボオス君」
苦々しい顔で港から歩いてくるボオスを捕まえて、話しかける。
更に説明のためにアルさんが前に出てくる。
「
「貴方の差し金か。打てる手は打つ、でしたか。手段を選ばないとは思っていたが、ここまでだとは思いませんでしたよ……俺達が慌てふためく様子を見るのが、そんなに待ち遠しかったですか」
「ボオスてめえ! なんてこと言いやがる! いくらなんでも今のは勘弁ならねえぞ!」
「ボオス。アルさんはあの状況で、出来る限りボオスたちを危険から遠ざけて問題を解決しようとしたんだよ? その言い分はいくらなんでもないよ」
珍しくタオも反論してる。あたしの頭も噴火寸前だけど。
「……君の中で僕は、そういう姿に映るのかい?」
「……愉しむ人ではない。だが必要とあらば手段を選ばない。そこまでしなければ俺が納得しないという判断だったんだろう。現にそれは外れていない。だが貴方の……
ボオスが一気にまくし立てて来るけど……言い分は分からなくもない。
現にあたしたちもアルさんのアイデアに頼ったのは事実なんだから。
「自分達で解決する、その考え方を否定するつもりはこれっぽっちもないよ。だけど一つ確認させてほしい。君は問題の解決のために――「多少の犠牲は払って当然」と考えているのかい?」
「それ、は」
ボオスが止まる。
そのまま「はいそうです」なんて口走ってたら全力でひっぱたいてた。
興奮はしてるけど冷静みたいだ。ならあたしも問いかけよう。
「ねえボオス。掟を守って、あんたの言う「為すべき事」をやって、それで万事解決っていうならあたしも突っかかったりしない。けど他に解決する手段を知ってて、その方が安全であって、みんなを危険に晒さずに済む……それを選ぶ事はあんたの中では甘えなの? そこまでしてあたしたちのやる事は、この島じゃ拒まなきゃいけない選択肢なの?」
「……犠牲ありきなぞ考えるはずがない。無いのが一番なのは当たり前だ! だがなライザ、今の島の状態で錬金術に頼るのは甘えだと考えるぞ。関わる者各々が今回の問題に対して為すべき事を考え、検討し、選択し、それでもなお届かなかった時に初めて挙がる選択肢だ。そこらに転がっている便利な手段など安易に選ぶべきではない!」
「それが分かってないって言ってんのよ! 錬金術がそこらに転がってるですって? あたしはそんな思いで錬金術を勉強して使ってるんじゃない! きっかけはたしかに興味もあった。けど、それでみんなの役に立てるって分かった。その才がある事も知った! あんたにとって遊びに見えるのかもしれないけど――あたしは真剣だよ。実際それでみんなを守る事も出来たって思ってる。だから……守れるはずの人が、目の前で傷ついていくのを見てるだけなんて我慢できないわよ!」
解決できる手段を知っているのに、傷つく可能性を見過ごすなんて出来ない。
これを曲げる気なんて絶対ないんだから。
「……ねえボオス君。あなたにとって、今回外海に出るっていう事は最善の選択だったの?」
クラウディアの問いかけに――苦い顔してる。
分かってるはずなのよ、それが一番じゃない事は。コイツはバカじゃない。
ただコイツは焦っている。そこまで追い詰めたのはあたしたち。
だから今回、無理やりあたしたちより早く動こうとした。
それがなぜなのか。口にすべきじゃないんだろうけど……しかたない。真っ直ぐ聞くか。
「ボオス。あんた、あたしたちに手柄を盗られるのがそこまで気に食わないの?」
「黙れ!!」
叫ばれる、睨まれる……当然だね。
「お前は……お前達はこれまで一体何をしてきた!
ボオスは努力してきた――あたしたちの知らないところで。
でもブルネン家なんだから当たり前、みたいなところは結構あったんでしょうね。
出来るのが当然で、称賛される事でも何でもない扱い。
現にクラウディアたちの招待だって、竜の話だって、今回の話も。
そんな中、たかだか1か月で急に成果を上げ始めたあたしたちが評判をあげていく。
悪ガキ3人組なんて言われてたしね。上から上よりも、下から上の方がそりゃ目立つ。
……10年前、か。
結局のところ、今この状態を作ってるのはあたしたちの――子どもの意地の張り合いか。
ただまあ、無神経にボオスの努力を否定したのは事実だね。
「……ブルネン家云々については言い過ぎたわね。謝る。ごめんなさい」
「「ライザ!?」」
ボオスに頭を下げる――人生初かもしれないな。
息を呑んだ音は誰からか。
「いいのよ、2人とも。これについては好き勝手に言っちゃったから」
これは謝るべき。だけど。
「だけど、他の事についてあんたが認めるかどうかは知らないわよ。褒めてってお願いして褒めてもらってるわけじゃない。島の人たちにとって結果的に喜ばれるものだったんだと思ってる。まああたしの場合はアルさんの手伝いをしようとして、島に貢献する形になり始めたのが実態だけどね。ボオスの言う「錬金術は甘え」ってのが正しいのかどうか知らないけど、あたしが錬金術に対して真剣に向き合ってる事は改めて伝えるわ」
「ライザだけじゃねえぜ? 俺は分かりやすく島に貢献なんてもんじゃねえけどよ。ライザみたいに錬金術が使えるわけでも、タオみたいに頭がいいわけでもねえ。ただ俺は――強くなるって思いは誰にも負けねえ! もちろんボオス、お前にもな! 今までは遊びの範疇だったのかもしれねえが、今はリラさんのおかげで真剣に取り組めているんだ。それは否定させねえ!」
「……僕もだよ。もちろんヤギの世話は大切さ、それで生活してるんだからね。でもずっと取り組んできて……それでもほとんど進まなかった事が、アンペルさんたちのおかげでずっと進むようになった。それがみんなの助けになれそうって事も分かってきたんだ。
そう。あたしも、レントも、タオも。
遊んでるつもりはない。真剣なんだから。
「……みんな」
「随分と慕われたものだな。悪い気はしない」
「捻くれた物言いをするな。素直に喜べ」
言いたい事は言ったけど……どうなるかな。
「……それがお前らの生き方だとでも? ライザは錬金術士、レントは傭兵、タオは考古学者といったところか? ……笑わせる。所詮そこの流れ者におんぶにだっこなだけだ。そいつらがここを去った後、どうするのか見ものだな。まあ、見る事もないか」
「あんたはその相手が普通に親なだけでしょ。見れないってどういう事よ?」
「そのままの話だ、乾季が訪れる頃に俺は王都に留学する。島や屋敷で学べる事には限界があるのでな。掟を守る事は重要だが、何も考えずに守っているだけでは今回の様にバレンツ氏を招けん。必要な物が外にしかない事が分かっているなら外に行くだけ……そこはお前達と同じだな? 喜べよ、最低でも4年間俺は島からいなくなる。その後に商会を構える事も検討しているからな。父さんの隠居まで戻らんかもしれんし、暫くは俺の小言を聞く事なく好き放題遊べるぞ? その間父さんを手伝わせる為のランバーなんだからな」
……これは全然予想してなかった。
王都に留学? 島からいなくなる?
「エルリックさん、さっきは失礼した。頭に血が上ったものでね。だが主張は変えませんよ? 今回功を焦ったのは事実ですが、各々出来る事を考えて実行すべき、そう思います。やり方が強引とはいえ……これまで自分の力で道を切り開いてきた貴方の力は俺も認めています。そこはご理解いただきたい」
「君にそう言ってもらえるのは光栄だよ。それに君が言った通り、僕も先の事を考えなきゃいけないのは事実だからね」
え、なに? どういう事?
まるで……アルさんがいなくなってしまうみたいな。
「ただ、ライザ達は遊んでいるわけじゃない。今を真剣に生きているっていう事は分かってもらえないかな? 僕はライザ達を近くで見続けてきたからね。それを興味本位の遊びだと切り捨てて欲しくはないんだ」
「……考えておきますよ」
そうして、ボオスは港を去っていった。
すっきりしない終わり方――ただ、何に問題があるかははっきりした。
あたしたちにはあたしたちの、ボオスにはボオスなりの信念があるって事。
ただ、それをお互いが理解しようとしていないってとこかな。
あの時の事は……どっちが悪いってわけじゃないけど。清算、かぁ。
「おいライザ。あんなに言わせちまっていいのかよ」
「ボオスが何を考えているか確認する必要があったから。まあ……おおよそ予想通りだったけど」
「予想通りって?」
「あいつが成果を得るために焦ってて、その状況に追い詰めたのがあたしたちって事かな」
「……ねえライザ。ボオス君が言っていた10年前って」
まあクラウディアも巻き込んじゃってるし、いつまでも隠しておく事じゃないよね。
「ここで話すのもなんだし、クラウディアのお屋敷にお邪魔していいかな?」
「ライザ、いいのかい?」
「もうクラウディアもアルさんもアンペルさんたちも巻き込んじゃってる。このまま知らぬ存ぜぬを通しちゃいけない、と思うよ。そんな大した話じゃないんだし」
「……わあったよ」
「ウチでお話するのは全然大丈夫だよ!」
「よければ、私達も聞かせてもらっても良いかな?」
「うん、大丈夫。もともと聞いてもらうつもりだったし」
「私はあまり首を突っ込むつもりはないのだがな……アルは知っているのか?」
「いえ。10年前にあった
そっか。当時のアルさんはそんな時期だったんだっけ。
あたしからも聞くとしよう。
「あの……アルさんにも聞きたいことがあるんです。あとで時間もらっても良いですか?」
「勿論構わないよ。内容も見当が付いているしね」
という事で、7人フルメンバーでクラウディアのお屋敷にお邪魔する事になった。
とはいえ、もう時間もお昼時なのでまずはご飯から。
あたしとクラウディア、アルさんの工房組が料理担当だ。
ルベルトさんはお出かけ中かな?
「そういえば……アルさんって調味料も自作してるのがあるんでしたっけ? 工房では見ませんけど」
「倉庫の中に置いてあるけど数は多くないんだ。手間がかかるからね。まあ島の味っぽくも出来るかな?」
「どのくらいお一人で生活を?」
「ハーマン家にお世話になっていたのは1年ちょっとだから、9年くらいだね。動けるようになってわりとすぐだったと思うよ」
今のあたしたちの歳には、もう一人だったんだ。大変だったよね。
さてあたしたちが作る料理だけど――アルさんは炒め物メイン。
お肉と野菜を大鍋と油で一気に炒めるスタイル。
美味しくて食も進むんだけど、お腹まわりが心配になる。
クラウディアは焼き物メイン。やっぱりオーブンを使った料理が得意になったみたい。
そしてあたしは煮物系。あとスープとかだ。
もともと麦とクーケンフルーツしか使わなかったあたしだったんだけど、錬金術の素材ってキノコとか魚介の方が食べれるものは多いのよね。だから必然的にこうなった。
2人に比べるとちょっと地味だけど、それなりに好評になり始めた――パンケーキの屈辱を糧に。
「やばいぜタオ。ライザがクーケンフルーツ以外の物に手を出してる。完成形が想像できないぜ」
「同じものばっかだったからね。あれはあれでよかったと思うけど」
「ライザはあまり料理をしなかったのかね?」
「基本的にはミオさん……ライザのお母さんがしてましたから。器用なんだけどレシピを覚える気がないって、似たようなのが多かったんです。3人では僕が一番機会があった?」
「それで錬金術のレシピはさらりと覚えるのだから、不思議なものだ」
さすがにアルさんに毎日同じものってわけにはいかないじゃない? 環境って人を変えるものね。
さて、あたしは
セリヨルみたいな魚とか……捌くの大変なのよね。お魚屋さんってすごい。
クラウディアはロースト。オーブンをよく使うクラウディアならではだね。
焼き加減難しいのよね、こういうのって……ああパンケーキ事件が蘇ってきた。
そしてアルさんはというと。
「シン料理、でしたっけ? やっぱり聞いた事ないですし独特ですね」
「炊いた麦をさらに炒めるんだもんね。半分はおかずみたいな感じだよ」
「僕にとっては便利な料理なんだけどなあ。具材はなんでもいいし早いから」
あたしが煮物でスープ系、クラウディアがメインディッシュで焼き物系ということで、アルさんは主食担当。時間がかからないから、それまではあたしたちを手伝ってもらってた感じだ。
しかしまあ料理している姿が映える――7人前の麦が入った大きなフライパンを片腕で平然と振るってる。
曰く火力がないとベチャベチャになるらしくって、アルさんの工房やクラウディアのお屋敷くらい設備がないと火力不足かつ狭くてやってられない。
加えて普段工房で使ってるのは大きくて底が深い、丸いっていう変わった片手鍋。
重くてあたしとクラウディアじゃまともに振れなかったもんね。取っ手もすっごい熱くなるし。
「2人の味の濃さはどんなもんだい?」
「あたしは薄めですね、ほとんど湖水任せで塩とか使ってませんし」
「私のはソースで調整できますから」
「普段は一人一食揃えだから……今回はなかなか不思議な取り合わせになったね。ま、それじゃあそれなりにしておこうか」
あんまり料理をする大人の男の人って島では見ないんだよね。
クラウディアが言うには王都のお店とかには普通にいるって事なんだけど。
「お前達、味見番はまだか」
「はいはい」「もう少しで出来ますから」「座っててください」
「やれやれ。自分が食べる分には何でもいいと言うくせに、いざ作ってもらう時は一番食い意地が張っているのだから毎度困ったものだ」
「生どころか毒持ちすらいくって聞いた時はビビりましたよ」
「長い旅になると保存食も切れちゃうだろうから、そういう感じになるんじゃない?」
味見番がないと分かった時のリラさんの表情――出会ってから一番悲しそうだった気がする。
「お待ちどうさまです!」
「本当に待った」
「何歳だね君は、まったく……」
さすがに7人分それぞれのお皿は数が無かったから、あたしの料理だけあらかじめ取り分けて、2人のは各自でよそう形にした。
「うめえ……おいライザ、工房での昼飯っていつもこんな感じなのか?」
「そんなわけないでしょ、基本は一人で一皿作る感じよ。食費の話もあるしね」
「美味しいし食べ応えあるね。それにしてもライザから「食費」なんて言葉が出るとは思わなかったよ。ライザもこんなの作るようになったんだね」
「ライザはこれまでもお野菜とお魚のお料理が多かったよね? お肉は食べないの?」
「食べるのは全然平気だよ? ただ、魚介料理って湖水で味付け要らないじゃない?」
「ズボラな理由だなぁおい」
「やっぱり胡椒は欲しいな。クラウディアがお肉系で僕は穀物系だから、バランスが取れてるあたり面白いけどね」
「美味い手料理などいつ以来か……おいリラ、肉ばかり食べ過ぎだ。ちゃんと野菜も食べなさい」
「美味いな。野菜は先に頂いた」
「先にスープを飲み切るんじゃあない! コース料理じゃないんだぞ」
お菓子はみんなで食べたけど、ご飯を食べるのは初めてだったりするかな?
アンペルさんとリラさんの、お互いの立ち位置が分かんないわね。
ものすごくリラさんが子どもっぽく見えてくる……。
ま、好評ならなによりだね!
「アルさんの料理すごいっすね! 麦が主食にもおかずにもなるなんざ。島じゃパンしかねえし」
「2人の料理と一緒に食べても全然違和感ないよね。それにしても……2人が料理できるようになってうれしいよ。3人で旅とかしてたらレントは焼くだけ、ライザは同じ味だったから……」
「タオ君……おつかれさまだよ」
タオとクラウディアの目じりに涙……いや、そこまでひどくなかったでしょ!?
ライザの成長を表そうとした結果、こうなりました。
これが今後にどう響いてくるのやら。
「アトリエ」という言葉の都合か、素材に時折フランス語が混じりますよね。
そこに作者が勝手にドイツ語などを追加しております。
ルビは付けていきますのでよろしくお願いします。
シンの料理は完全な妄想です。
お腹も膨らんだところで、次は昔話です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。