ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
そして道具屋の過去も?
この辺は、あ~って思いますね。
誤字報告ありがとうございます。指摘いただいたものも含め、
自分なりの文章ルールを外れていたのでその分も修正しました。
ボオスが関わるとライザの言葉も感じが多くなりますね。
今回もよろしくお願いします。
「じゃあ話すけど……お昼前に言ったみたいにホントに大した事ない話だよ」
「それは結果だけ見れば、だろ。ライザお前、下手すりゃここに居ねえんだぞ?」
「ホント……アガーテ姉さんがいなかったらと思うとね」
10年も経つのにしっかりと覚えてるもんよね。
はあぁぁ。さて、話そうか。
「10年前……あの頃は、今のクラウディアのポジションにボオスがいたんだよ」
「4人目って事?」
「それもあるし、あたしたちの中ではレントと並んで最年長だったから落ち着きがあった。でもブルネン家がどうこうなんて一切なくて――本当に普通に友達やってたんだよ」
「それで……切っ掛けになったその日も4人で島を探検してた。旧市街の南の水没区画へな。当時俺たちがやってたのはああいう遺跡や廃墟でかくれんぼ、みたいなところがあったからな」
「行くのは初めてじゃなかったんだ。でも、その日は前日の雨で増水してて水面も荒れ気味で、普段来ないところまで水が来てた。そこでライザが足を滑らせて……湖に落ちたんだ」
クラウディアが口を手でふさいだ。
アルさんたちは口をつぐんでる。
ホント、なんでそういう所でドジ踏むかしらね。さあ続きだ。
「普段水に落ちるなんて事ないから、パニックになっちゃって水も飲んじゃって。しかもああいう場所って変に深いところがあって……どんなに頑張っても岸に上がれなかったんだ」
「もがいてたライザの手をギリギリつかんでよ、必死に引き上げようとしたんだ……俺とタオの2人でな」
「……2人で? 彼はどうした?」
そこだよ、リラさん――こじれたのは。
「……いなくなってたんだ」
そう。あたしたちの目には……その事実しか映らなかったんだ。
「俺とタオだけじゃ引き上げられなくて、俺たちも岸から落ちそう……ってなってたところで」
「ボオスが呼んできたっていうアガーテ姉さんと護り手の人たちに助けてもらったってわけ」
「……成程。僕へのアガーテさんの監視が厳しくなった理由が分かったよ」
姉さんは当時12歳。護り手一家に生まれたと言っても、何になるかは決めてなかったらしい。
だけどあたしたちの件を目の当たりにして、同じ事を起こさせないって思ったって。
「僕らも……その時のボオスの行動が正しかった事は、後でだけど理解できたんだ。でもその場で一緒にライザの助けに入らなかった事には……納得できなかったんだよ」
「あん時ボオスもライザを引いていたら、もっと早く助けられたかもしれない。俺たちも沈みそうにならなくて済んだかもしれないってな。だから、言っちまった」
「「なんで一人だけ逃げたの?」ってね」
これが、あたしたちの関係が変わっちゃった言葉だ。
「お前達の思う事も分かるし、ボオス少年のその時の行動の冷静さも……ああ、そういう事か」
そうだよアンペルさん。ここでお互いの主張が平行線を辿っちゃったんだ。
「あの場でボオスが助けてくれていたら。でもボオスが大人たちを呼べていなかったら。どっちが正しいなんて無いのかもだけど、ボオスも主張を曲げなくてさ。そこから何日か経って――そのいざこざの最後にボオスがこう言ったんだよ、「本当に大事な時に逃げたりしない。俺はブルネン家の男なんだ」って」
「……そこから、どうなったの?」
「どうにも。お互いなんとなく近づかなくなって、疎遠になって。その頃からだね。ボオスがブルネン家としての立場で振る舞い始めて、遭遇したあたしたちと衝突するようになったのは」
「まだガキの頃はよかったんだ、大した主張も出来ねえしな。だけど俺たちも成長してきて色々な事を知って……それでも立場は変わんなかったから内容がエスカレートしちまった」
「ボオスは言う事やる事がキツくなっていって、僕たちも同じように反発する。それがこの10年ずっと続いてるんだよ」
「これだけの話だよ。あたしたちとボオスの、子どもの頃からの意地の張り合い」
そう。あたしが溺れて、その助け方にケチが付いて。
どっちが正しいか――そんな主張をただ続けているだけなんだから。
「……ああ。それでなのか」
「アルさん?」
「ごめんよ、一人考えこんじゃって。ボオス君が正しいと思う事、為すべき事をって強く主張するのはそれが切っ掛けだったんだね。そして今でもライザ達の事はしっかり見てる」
アルさんは……そっか、初めてボオスに会ったのはこの話の直前くらいか。
「ふむ。ボオス少年にとっては正しい事を続けている筈なのに、私達のようなわけの分からん存在に誑かされたと思っていたお前達3人が島で認められるようになったから、彼の信念を支えていたものを信じられなくなっているのだな」
「どうしたものだろうな。まあお前達が互いに受け入れん限り、自然に和解とはいかんだろう。それを望んでいるかは知らんが、どうするかは決めておく事だ」
「なんでっすか、リラさん?」
「ボオス君言ってたよ……乾季が来る頃、王都に留学しちゃうんだよね? 最低でも4年、長ければもっと。私が言う事じゃないけど、ずっとそういう関係を望んでいるわけじゃないんだよね?」
「……もう会えないかもしれないから。だから決める、って事かな」
あたしが望んでいるのは……和解? 決別? それとも今みたいな関係を続ける?
今の関係が心地いいなんて全く思わないけど、和解というより理解したいとは思う気がする。
なんでボオスはそこまでして、錬金術を最終手段にするくらい自力で解決しようとするのか。
掟に従って、外の物を受け入れない。ボオスの行動の根幹は一体どこにあるの?
でも理解してどうなるんだろう――あたしってこんな複雑な考え方してたっけ。
「「今がいい」だなんて思わないけど……わかんないかな」
「話の腰を折るようで悪いが、それまでに門を見つけて封印しなければその機会が訪れる事すらなくなる。それを忘れないでくれ。可能なら明日にはあの遺跡に向かう予定だからな」
ちょうどそのタイミングと同じ――1か月弱って事よね。
なにかしら決着をつけられるのかな。
そして悪魔の野の南の遺跡。明日、か。
「まあボオスの事はあっけど、まずはそっちだな!」
「どっちが優先ってのを決めるべきじゃないんだろうけど、フィルフサは止めないとね」
「ここからはあたしたちで決める問題だもんね。それでアルさん、お昼前にボオスに言ってた事なんですけど」
「うん。この先どうするかって話だよね?」
そう。それです。
ずっと島にいるものだって勝手に思っちゃってたけど、実際は?
「まず結論だけど、しばらく島を離れる時期はあると思うよ。僕の過去をはっきりさせたいとは思っているからね」
「アメストリスって国を探すって事ですか?」
「見つかれば最善だけど、僕が知っている単語を探すだけでもいいと思っているよ。ライザ達やアンペルさん達が知っている事と、僕が知っている事ではあまりに差異がある。錬金術の違いもそうだし……知っている国も、料理の種類も、生活環境もね」
そこまで? もう一般常識自体が違う?
「アル君。よければ君が知っている国名を教えてもらっても? 一つくらいは聞いた事があるかもしれん」
「アメストリス、シン、クレタ、アエルゴ、ドラグマ……クセルクセス。いかがですか?」
やっぱり聞いた事がない。まあロテスヴァッサ以外ほとんど知らないけど。
「……すまない。私は一つも聞いた事がないな。リラはどうだ?」
「私も同じだ。力になれずすまないな」
「いえ、ありがとうございます……実の話、僕は逆にロテスヴァッサという国を知らなかった」
え?
「この国を、知らなかったと? 領土の広い国ではないが、特殊な地質や植生で比較的名の知られた国のはずなんだが……まったくかな?」
「ええ。こちらも……アメストリスは小国ですが軍事国家として有名で、砂漠を挟んだ東のシンを除き、北、西、南は戦争状態に近かった。そしてシンは広大な領土を持つ大国です。でも皆さん、聞いた事がないんですよね?」
「この島にいるからかもだけど……みんなはどう?」
少なくとも、あたしはカケラも聞いたことがない。
「ううん。僕も聞いた事がないと思う」
「私もお父さんからも聞いた事はないかな。それに……砂漠?」
「クソ親父の自慢話には国の名前が入ってなかったぜ。あっちだのこっちだのってよ」
あまりにも知ってる事がかみ合わないなあ。
あたしたちが知らないのはまだ分かる。この島の周辺しか知らないんだもの。
でもアンペルさんたちや、逆にアルさんがこの国を知らないっていうのは、なんで?
「……まさかかもしれんが。アル、お前は……門の向こう側の人間なのかもしれん」
「リラさん? それって?」
「お前達は想像していないかもしれないが、異なる資源や魔物がいるとはいえ、門の向こうも正しく一つの世界だ。そして門が繋ぐ世界が……特定の一つとは限らないかもしれん」
「これまで私達が封じてきた門の先は、クリント王国が錬金術で作り出したものだからか全て同じ世界だった。しかしリラが……ごく稀に自然発生する門があるかも、と話をしたか。そこなら違う世界に繋がっている可能性があるやもしれん。想像の域を出んがな」
じゃあアルさんは外国の人じゃなくて……別の世界の人?
「何かの弾みで踏み入ってしまった門に飲まれて、ここに。まあしっくりとは来ますね。元々別の世界だとは思っていたもので」
「決め手はなんだったのかね?」
「月ですよ。僕の知っている月はもう少し小さいんです。後は星座や夜空の景色もかなり異なります。光害を考慮したとしてもあそこまではっきりと天の川が見えるなんて、といったところです」
なるほど。いくら異国だったとしても月の見た目は変わらないよね。
「ねえアルさん。ここに漂着した前後の事は覚えてないんですか?」
「シンで錬丹術……まあ錬金術の亜種みたいな物だね。それを学んでいたのは間違いない。けど何をきっかけに門を通ったのか、その後どうやってクーケン島に流れてきたかは分からないんだ。ここでの最初の記憶は、ハーマン家でアガーテさんに「起きた!!」って言われた事だから」
声真似をするアルさんによるアガーテ姉さんがなんかほほえましいなあ。
ちょうどその頃の姉さんに助けられたのに、なんだかかわいい。
それと、やっぱりアルさんってどこか中性的な声なんだよね。改めて思うわ。
「しかし……そうなるとますます手がかりがなさそうだね。流れ着いた以上は海に放り出されたって考えるのが自然だから、海上のどこかに門が発生しているのかな?」
「だとすれば浜の中の一粒の砂を探すレベルの難易度になる。可能性の話ではあるが周辺国を回って、というのは得策ではないのかもしれないな」
どこか安心してるあたしがいる――消えてしまうのが怖いのか、執着か、変化を望まないのか。
どんな未来が、一番笑っていられるんだろう?
「まあなんにしても、すぐに島を出るってつもりはないよ。ボオス君の言っていた通り色々島のあり方を変えてしまったからね。後始末って言い方はおかしいけど、線引きはしないとこの島が別世界の技術や文化に染まりかねない。それは望むところじゃないよ。ここを出るのはその辺りをきっちり決めた後さ」
「そっか。ありがとうアルさん、話してくれて」
「どういたしまして。僕としても収穫があった話だったよ。ありがとう」
アルさんが別世界の人かもしれないって話は驚いたけど、でも色々知る事ができた。
知らないままよりずっと良かったかな。
うん!
「さてきりが付いたかどうかは各々違うだろうが、この後の話をしようじゃないか。問題なければ明日ライムウィックの丘の南に見えた遺跡に向かいたい。外からでは分からなかったが、中に門がある可能性は十分にある。そうでなくても何かの手がかりが得られるかもしれないしな」
「前も言ったがあそこの魔物は強い。話した時とはお前達も少しは変わっているだろうが、出来る限り戦闘は避ける」
「僕が階段を作るからそれで岩壁を越える。あちら側の状況確認のためにまずリラさんとアンペルさん、次にライザ達、最後に僕が階段を破壊する。それでいいですね?」
「破壊してって……また爆弾で飛んだとか言ったりしないですよね?」
「しないしない。安心しておくれ、全部錬成で終わらせるよ」
さっきの話で、アルさんが文字通り非常識な人ってわかったから不安だよ……。
「じゃあ明日の朝にみんなここに集合して貰えばいいかな? 朝といえば……島のみんなの朝は早くて驚いたよ」
「日の出と一緒に起きてるだけなんだけどな?」
「代わりに日が沈んだら大して活動しないからね。それでバランスを取ってる感じだよ」
「夏は暑くなる前に済ませたい作業があるから、あたしたち農家なんかは特にそうなっちゃうね」
「まあ起きてすぐってのは大変だから……7時くらいかな。大丈夫かいクラウディア?」
「大丈夫です! 今晩からお弁当を準備しておきますね!」
一気にピクニック感が増した。
「私達は対岸で待つとしよう。気持ちはありがたいがピクニックではないのを忘れないでくれ」
「何を言ってるアンペル。腹が減っては戦は出来ん」
「お前さん、そこらの木の実だろうがキノコだろうがなんでも食べていたと思ったが?」
リラさんブレないなあ。
さてと、日が落ちるまではまだまだ時間がある事だし、アトリエに戻って出来る限りの準備をしますかね。
「ねえ、アルさん」
「どうしたんだいライザ?」
久しぶりにあたしとアルさんだけ。
さっきの話で聞いてみたい事があったんだ。
「ここに来る前後の事は分からないって事でしたけど、あっちにいた時の事は覚えて?」
「そうだね。覚えているよ」
なんとなくそんな気がしてた。知識の種類が違うだけで量は圧倒的に違うんだもん。
記憶がないって言ってたのは、ホントにその部分の話だけだったんだ。
「その頃のアルさんの事、よかったら教えてもらえないですか?」
ふうむ、という感じのアルさん。
「全部とはいかないけど……簡単な範囲なら話そうか」
「やった! ありがとうございます!」
いままで誰も聞いた事がなかったアルさんの過去。知ってみたい。
「まず……僕が生まれたのはアメストリス東部の片田舎、リゼンブールってところだよ。牧羊が盛んな村でね、この島よりも田舎って言えるかな。ラーゼン地区よりも建物がなかったよ」
「ここよりもですか!?」
「うん。土地はあったけど、特別使われていたわけでもない。ただの平原が広がる田舎だったよ。学校も建物がなくって空の下でやっていたものさ」
意外だなあ。色々知っているアルさんだからもっと都会の人なんだと思ってたよ。
「家族は父さんと母さん、そして1つ上の兄さんの4人。だけど父さんは僕が小さい頃にいなくなってしまって……母さんも僕が4歳の時に亡くなったよ」
「……ごめんなさい。そんなつもりなくって」
「ああうん、気にしないで。で、しばらく兄さんと2人で暮らしてたんだけど……母さんがいた頃から僕らは錬金術について勉強していてね。そこで軍のお偉いさんに声をかけられた。そこから兄さんは軍属になりつつ、ある目的のために各地を旅してたんだ」
「目的、ですか?」
「うん――「賢者の石」って物を求めて。聞いた事あるかな?」
けんじゃの、いし?
「……? いえ、聞いた事ないですね」
「「苦難に歓喜を、戦いに勝利を、暗黒に光を、死者に生を約束する血のごとき紅き石」。僕らの世界において伝説とも究極ともいえる……法則すら書き換える事が出来るとされた代物。それを手に入れる、あるいは作る方法が分からないかと思って各地を旅していたのさ」
島に流れ着いたのが10代ちょっとくらいのはずだから、更に子供のころからお兄さんと一緒にずっと旅を。さすがにそれは出来そうにないなあ。
そんな歳からいろいろ経験を積むと、アルさんみたいになるのかな?
「まあそこから紆余曲折あって兄さんは更に錬金術を学ぶために西へ、僕は新しく錬丹術を学ぶ為に東へ別れた。そこからここに流れてきたってとこかな」
「お兄さんってどんな人だったんですか? 子供のころから軍人って……」
「う~ん、僕にとっては尊敬できる兄さんではあったけど……喧嘩っぱやくて、デリカシーがなくて、背丈を気にしてたなあ。女性にはモテないってよく言われてたよ。でも、国で最も難しい国家錬金術師の資格を史上最年少で得ているからね。そして……信念を曲げない人だった。容姿は結構違ったかな? 僕は母さん似、兄さんは父さん似だったから。2人とも金髪金眼だったけどね」
最初らへんの特徴はレントとタオを足したみたいな感じだけど、この弟の兄はやっぱり規格外の兄みたい。アルさんの国は錬金術士……いや錬金術師なのかな? を管理してたはず。そのレベルに子どもで至っていたなんて。
アルさんの強さの理由が分かる気がしてきた。
「細々話をするとキリがないから、まあこんなものかな?」
「はい! ありがとうございました! あぁ、でも一つ……聞いて良いですか?」
「なんだい?」
「結局、その「賢者の石」って手に入ったんですか?」
興味本位で聞いただけだったんだけど……アルさんの顔はすごく複雑そうだ。
「……伝説は伝説で、代価もなく全てを得られるものなんてない。これが僕の知った真理かな」
なんだか変わった言い回し……?
まあアルさんの錬金術の原則、「等価交換」通りで賢者の石なんて無かったって事かな。
「さて僕の事を話したんだし、今度はライザの事を聞かせてもらおうかな?」
「ええ? えっとなんというか、アルさんの内容と比べると薄っぺらすぎるというか……」
語るにしたって、歩んできた人生のスケールがあまりにも違う気がするんですけど?
あたしはただの田舎娘だし、つい最近まで島の外にすら出た事なかったんですけど?
世界って広いなあ……。
という事で、ボオスとの過去からの関係と
アルがこちらにいる経緯がある程度開示されました。
ついに出てきた「賢者の石」。
第三視点で見ている私達と、話のまましか知らないライザ達では
知っている情報が違います。
話に違和感を感じられたらおそらくその部分だと思います。
そうである事を願いたい。
次は第四章のラストイベントの開始です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。