ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

32 / 150
第四章のメインイベント開始で……最終話です。。。
この作品も、よりオリジナル要素に舵をきっていきます。
当初のプロットには全くなかったんですけどね。

誤字報告ありがとうございます。作者の日常は誤字まみれです。

今回もよろしくお願いします。


32. 67日目①  辿り着いた先

朝5時。

農作業をしなくなっても起きる時間は変わんないもんよね。

更に言うなら、今日でフィルフサ絡みのことが終わるかもしれないのに、眠れないなんてこともないらしい。いいことなんだろうけど。

 

「おはよう、ライザ」

 

「おはようお母さん。お父さんは?」

 

「いつも通り畑を見に行ってくれてるとこだよ。ライザもたまには見に行きなさいな」

 

「はいはい、たまにはね」

 

お母さんもお父さんも、いつもと同じ一日を始めている。

まさかあたしが異世界の魔物と戦ってるなんてまず思ってないよね。

あたしにとっても何の変哲もない朝だけど、アルさんは4歳からご両親がいない生活を送ってる。あたしは幸せ者なんだろうな。

 

 

ガチャ

 

 

「ふう……おはようライザ」

 

「うん、おはようお父さん。おつかれさま」

 

「せっかくこの時間に起きてるんだから偶には畑に来てみておくれ。土達も喜ぶだろう」

 

「あたしが行って土が喜ぶの?」

 

「勿論だよ。土だって放って置かれたら悲しむ。世話してくれる人がいれば、土達も喜んで作物を頑張って育ててくれるんだ」

 

「あたしとしても、ライザが取り組んでる事より畑を見て欲しいと思うんだけどね。まさか護り手達の竜退治を追いかけるなんて」

 

「あんなこと、そんなしょっちゅう起こらないって」

 

あの時のことは――討伐に向かったボオスたちをアガーテ姉さんとアルさんが追って、さらにその話を聞いたあたしたちが物資運搬で追いかけたってことになってる。

竜と直接戦いました、なんて言えないよねぇ。アルさんが居なかったら大惨事だったし。

ただ……今からその竜と関わってる魔物の巣に向かうのかもしれないんだけど。

 

 

 

「おはようライザ」

 

「おはようございます、アルさん」

 

朝ご飯を食べて朝6時を回ったころに家を出てアルさんの工房へ。

アトリエからも必要なものを持ち出さないとだしね。

レントとタオはそのままクラウディアのお屋敷に直行だ。

 

「昨日はよく寝れたかい?」

 

「いつもどおりです。あたしの朝って平和なんだなって思いましたね」

 

「何事も平和が一番だよ。なかなか気付かない事なんだけどね」

 

失ってからじゃないと分かんないってやつかな。

平和を知るために平和を失うなんてことはしたくないもんね。

さてと、それじゃあいk

 

バァン!

 

「大変だよライザ! アルさん!」

 

「何があったんだい!?」

 

血相を変えたタオが工房に飛び込んできた――ただごとじゃないよね。

 

「ボオスがいなくなって……対岸に行ったかもしれないって!」

 

 

 

「来たかい、2人とも」

 

「お邪魔致します、ルベルトさん……お話を伺っても?」

 

クラウディアのお屋敷にて。

なんとボオスに関する情報源はルベルトさんだった。

 

「ああ。私も断片的にしか分からないが……朝我々が食堂に集まった際に彼が来なくてね。モリッツさんが部屋を覗いたらもぬけの殻で――メモが置いてあったそうだ」

 

「なんて書いてあったの? お父さん」

 

「「対岸に見慣れぬ白い魔物の報告あり、確認、討伐へ。ブルネン家の男として為すべき事を」。凡そそのような文章だと聞いている」

 

「あんのバカ……!」

 

「やはり急ぎ知らせて正解だったようだね。君達は彼をよく知っているようだし」

 

方法は分からないけどボオスは対岸の様子を知った。

白い魔物ってまさかもなにもフィルフサよね。なんでこんなにタイミングが悪いのかしらね!

 

「ありがとうございます、ルベルトさん。僕達はボオス君の後を追ってみます」

 

「私に出来る事はあるかね?」

 

「……それではモリッツさんに私達が救援に向かった事をお伝え願いますか? 下手に人員が増えると二次災害になりかねませんので。港の護り手には私から」

 

「承知した。クラウをよろしく頼むよ……クラウも、みんなの助けになってあげなさい」

 

「もちろんだよ! ありがとう、お父さん!」

 

対岸ってことは……運が良ければアンペルさんたちと会えてる?

分かんないわね。とにかく急いで向かうしかない!

 

 

 

「ボオスのやつ、突っ走りやがって!」

 

「……やっぱり昨日のことが関係しているのかな」

 

「なんだっていいさ! とにかく対岸に!」

 

「君達は先行してアンペルさん達に事情を話しておくれ。僕はアガーテさん達に事の概要を知らせてくるから」

 

「分かりました!」

 

レントも合流して港でアルさんと別れて、あたしたちは一直線に対岸へ。

4人で乗るのはメイプルデルタ行き以来かな。

レントが何も言わずに船頭を務めてくれる。

 

「白い魔物って、やっぱり……だよね」

 

「そう考えたくはないけど、そうとしか思えないわね」

 

「ボオスが行っちゃったのはそりゃ大変なんだけど……このタイミングで現れたフィルフサって」

 

「リラさんが言ってた「空読み」ってやつか? サソリ人間だったら第2段階ってわけだ」

 

本格的な乾季までひと月弱、あと3週間くらい。

仮に「空読み」だったとして、ソイツはこっちの世界をどう思ったのやら。

ボオスはソイツから逃げられているのかな。あたしたちもフィルフサと戦ったことはないんだから、ボオスにとってどのくらいの脅威なのかは分からない。

ただ、サソリ人間ならあの時の「斥候」より足は速い気がする。

……ああ、もう! 見つけて無事だったら引っ叩いてやる!

 

「あれはリラさんたちと……ランバーか!?」

 

対岸を見てたレントの声であたしたちも対岸に顔を向けた。

たしかにランバーだ。手を砂浜について息を切らしてる感じ。

逃げ切れた? ボオスは!?

 

「まずはランバー君から話を聞く方が早いかな」

 

「アルさん!? えっ俺そんなに漕ぐの遅かったっすか!?」

 

「一人で急ぐ時の漕ぎ方があるのさ。急ごう」

 

船尾で1本櫂を使ってるレントと、一人で2本の櫂を使ってるアルさん。

人数的にも差はあるけど――速い! もうあんなところ!?

 

 

 

「思っていたより早かったな。こちらから知らせるべきかと思ったが」

 

「なかなかの状況察知力だ。手間が省けていい」

 

「ふぅ~……ふぅ~……」

 

「おいランバー! 何があった!」

 

「へあぁい!?」

 

「とまあ、まともに話せる状態ではなさそうなんでな……断片的に聞いた話を纏めて伝えよう。早い話、この浜で私達を見張っていた彼らの子飼いの護り手にフィルフサが発見されたようでな? それを追いかけたら、逆に追いかけられる状態になったようだ」

 

バカなことを!

 

「ランバー! ボオスはっ!?」

 

「ぼっボオスさんはっ……俺をっ逃がすために、囮にっ……、坑道の、奥へ……っ」

 

「安否不明か……しかし、坑道の奥? ランバー君、方角は分かるかい?」

 

「そっ、そのまま真っ直ぐ、だったからっ……西、だと……」

 

大事な時は逃げないって……ああもう! なんでこんな時にバカ正直に守ってるかな!

それにしても、西? 水が溜まってたとこよね?

 

「おいランバー! そっちは水が溜まって行き止まりだぞ! 合ってんだろうな!?」

 

「ひいぃっ! 真っ直ぐ下った先だっ! ボオスさんはっそこを下ってった……!」

 

ってことは。

 

「じゃあまさか……水が引いてる?」

 

「タオの予想くらいしか考えられないけど、見に行かなきゃ分かんないわね」

 

「早く追いかけよう! ボオス君が心配だよ!」

 

とにもかくにも、行かなきゃ!

 

「ランバー君、君は島へ戻っていておくれ。ボオス君は僕らで追いかけるからその事だけ伝えてくれるかい?」

 

「丘の探索どころではなくなったな。タイミングとは恐ろしいものだ」

 

「ここで(たむろ)していても好転しない。坑道の奥とやらに行くとしよう」

 

「ランバー! ちゃんと戻れよ! 絶対ついてくんなよ!」

 

いまだまともに身動きが取れないランバーに念押しをして。早く坑道へ!

 

「私も戦闘に参加するが……最優先はアンペルの護衛だ。お前達、自分の身は守れるな?」

 

「大丈夫ですリラさん!」

 

「初めてここに来てからまだ一月なんだけど、ずいぶんと心構えが変わったもんね」

 

「この一月が濃すぎるんだよ……」

 

「行商先でこんな経験をするなんて思わなかったよ」

 

「それがリラさんの得物ですか。よくあの時素手で組めましたね。思っていたより長い」

 

「私と会った頃は素手だったんだがな。随分な物を使うようになったものだ」

 

何気にリラさんの本格的な戦闘を見るのは初めてだよね。あのアルさんとの組み手を除いて。

あんな鉤爪、あたしが使ったら自分の顔を引っかきそう。

とにかく、今は真っ直ぐ。

 

 

 

対岸の西に入り口がある水没坑道。

以前は水が溜まってた場所……そこが。

 

「マジかよ」

 

完全に水が引いてた。

 

「とんだ見落としだ。まさかここが通れるようになっていたとは」

 

「ボオス少年達が見たというフィルフサもここを通ってきた可能性が高いか。急ぐとしよう」

 

いくら何でもこれは想像できないよ。いつ、どうやって引いたの?

最近来てなかったのがこんな痛手になるなんて……。

しかも普通に奥へ道が続いてる。文字通り水没してたわけだ。

 

「……こんなに広い洞窟が奥に広がってたなんてね。しかも」

 

「遺跡もあるね。ここもクリント王国時代に作られたものなのかな? タオ君はわかりそう?」

 

「たしか昔の住人が鉱石のために掘ったって話じゃなかったか?」

 

「あたしたちが知ってるのはね。その住民ってのがクリント王国の人なのか、それとも」

 

「お話自体ライザたち島の人への……カモフラージュだったのかな」

 

そもそもここも立ち入り禁止なんだけどね。

ってことは、ここも元々フィルフサを考えてそうしてたってことかな。

 

「ボオスのやつ、どこまで行きやがったんだ? そんなに追い回されたのか?」

 

「本来良い事と捉えるべきでは無いが、血痕が見当たらない。逃げきれているという事だろう」

 

「よくこれだけのっ、魔物の間を抜けたものっ、だな」

 

「彼はっそれなりに鍛えていますからっ、ね。どちらかといえば頭脳労働派ですが……エアドロップを作ってもらった際に何故考え付かなかったんだ、僕は」

 

いままで行けた所と違ってここには妖精しかいないけど、明らかに入り口の個体より強い。

強いんだけど……リラさんが一瞬で切り裂いて、アルさんが蹴り飛ばしていく。躊躇ないなあ。

戦闘じゃなくて蹂躙だ。あたしたちの出る幕が全然ない。急ぎだし当然だけど。

 

「一からここまで掘ったというわけではないか。元々在った洞窟に改めて道を作ったようだな」

 

「なんでこんなところに道なんざ……」

 

「この先にそこまでしても欲しいものがあった、ってことなのかな?」

 

「どうなのかな。この洞窟って北西に――悪魔の野の方向に続いてるよね?」

 

「そうだね、方角はそれで合ってると思うよ。コンパスがあればなあ。ライザ作れない?」

 

今度作りましょうかね。

 

……あれ、なんだかここは変に広い?

 

「これは……」

 

「こんな場所にこれだけの大橋を作るとはな。やつらめ」

 

「クリント王国の物と見て間違いないだろう。ここは祭壇の一種、か?」

 

大きな球みたいな空洞の場所。その中央に「まさに古代遺跡!」って感じの建物。

その先にまっすぐ高く積まれた石の大橋が伸びてる。

そして、その脇に。

 

「……この先が発生源でしたか」

 

「これが……フィルフサなの!?」

 

「前のと全然違う!」

 

「だけどよ、身体は白いし背中には魔石付けてやがる。間違いないぜ!」

 

「これが……フィルフサ、なんだね。サソリ……じゃあなさそうだけど」

 

サソリ人間じゃないけど、いた。相当な数――ボオスを追い回してきたのはこいつら?

前の斥候よりずっと小型だけど、普通の魔物よりは大きな四足歩行の異形。

クラウディアが見るのは初めてだっけ。

こんな、島の近くに。

 

「厄介だな。こいつも斥候の一種だ。相当に情報を吸われているとみえる」

 

「取り敢えず「ハリネズミ」と呼んでいる。物理に弱い。とっとと潰すぞ」

 

はい! と返事する前にアルさんとリラさんにボコボコにされてた。

まあ2人とも本気モードだから当然なんだけど。

 

「そこの柱の影に二体いる。お前達でやってみろ」

 

「わかりました! リラさん!」

 

「物理に弱いならレントの独壇場かしらね?」

 

「魔法に強いかは分からないよ? だから二手に分かれようか」

 

「じゃあ僕がレントに付くよ。ライザとクラウディアでもう片方をお願いするね!」

 

タオも変わったなあ……。

さて、こっちもやるとしましょうか!

 

「じゃああたしは杖で殴って怯ませるから、合間に魔法をお願いね!」

 

「了解だよ!」

 

この見た目から物理に弱いっていうのが考えにくいんだけど。

第一印象……超狂暴そう。

何よあのキバ! 嚙まれたら腕が無くなっちゃうよ!?

大きさはオオイタチマザーくらい? だけど全体的に細いから。

……ぬお!? はやっ!

 

「うおっと、突進回避! はあぁっ!」

 

ガツッ!

 

速いわね、見た目通り!

けど、たしかに打撃には弱いらしい。柔らかくはないけどあたしでも十分怯むわね。

そして見た目のわりに高めの鳴き声、たしかにネズミだわ。

 

「ライザ、いくよ!」

 

あの修理の時から使い続けているフルートだけど……あの段階ではオーバースペックだった。

旋律に魔法を乗せる。魔法に耐性があるわけじゃないみたいだね。

音に乗った衝撃にネズミがノックバックする。なら!

 

「このまま押し込もう! ふんっ!」

 

「分かったよ!」

 

バキャッ! ドッ! バシッ!

 

あたしが殴りつつ、絶え間なくクラウディアが吹き続けて……撃破! おしっ!

 

「テメエの顔も見飽きたぜ!」

 

「いや見るの初めてだよね!?」

 

あっちもあっちでレントがとどめを刺したみたいね。特に問題はなさそう。

ただ……リラさんとアルさん。一体倒すのにほぼ一撃だったよね? アルさんは錬成無しで。

物理メインの2人とはいえ、この火力差ですよ。

 

「この辺りは片付いたか。アル、何体やった?」

 

「7、ですかね」

 

「こちらは6体だった。随分と居たものだな。錬金術を使えばもっといけただろうに」

 

「地面を使ってしまいますから。広い空間の一対多数なら向きますけど、多数対多数は悩み物ですね。まあ……「分解」は可能そうでしたけど」

 

次元が違う話してるよね。

 

「さて邪魔者は片付けてもらったんだ。この先に進もうじゃあないか」

 

アンペルさんに続いて、大きな石で造られた大橋を登っていく。

抜けた先は普通に外って感じの景色。

 

その先には。

 

 

 

「……驚いたな」

 

「こんな場所が島の近くにあるなんて、ですね。ライムウィックの丘から見えていたあの遺跡でしょう」

 

「ここに繋がっていたのだな。今まではあの岩壁を越えてきていたが……坑道の水が引いた事で浜側へ来たのだろう」

 

3人が見たっていう遺跡。島からぜんぜん見えない隠された入り江の先に、わりときれいなまま遺跡が浮かんでた。ホントに秘密基地みたいだよ。

遺跡前の浜にも街道にあったみたいな廃墟が、風化せずにわりと形を残したままになってる。

 

「ボオスのやつはここまで逃げたのか?」

 

「見てよこの足跡! 間違いなく人のものだよ。多分ボオスだ」

 

「ここまで来られたんだから、多分……」

 

「あの遺跡の中を目指した。そんな感じでしょうね」

 

あんなものを目にしたらまず避難先に選ぶよね。

ということで、まずはあの遺跡を目指そう。行かないなんて選択肢はない!

ここも魔物が多いね。さっきのフィルフサや銀色のぷにやらがいるけど一旦無視だ。時間がないし。

 

 

 

遺跡の中もかなりきれいだね。

タオ曰くクリント王国の教会に似てるらしくって、アンペルさんが言うには「聖堂」ってものなんだって。

見たことないおっきな魔石が、噴水の上に浮いている――すごいわね、こんな景色があるなんて。

なんか()()()()()()()()()も転がってる……ちょっと拝借。

 

「……なんだこれは。魔物風情が警備の真似事か?」

 

「明らかにここを守ってるかのような。扉を向いているのは……ボオス君を追っていた?」

 

「魔物がこんな風に統率されているなんてありえるんですか?」

 

「ない事もないが、ここまで勢ぞろいというのはなかなか見ないな。貴重な体験だぞライザ」

 

珍しいのは珍しいけどあり得るんだ?

古城にいたみたいな騎士鎧が見張りみたいに立ってる。

一番おかしいのは一番奥の扉の前。6体も並んでるんですけど?

 

「下手すりゃフィルフサから逃げるよりムズイんじゃねえか?」

 

「ボオス君、スタミナもあるんだね!」

 

「気にするところが違うと思うよクラウディア。どうりで僕を追い掛け回せるわけだよ」

 

タオもズレてると思うよ。

しかしまあ、ホントよくあの坑道からここまで逃げ切れたもんよね。

これがボオスの本気ってやつなのかな。備えてた、と。まさかね。

 

「なんでもいい。とっとと蹴散らすぞ」

 

すでに蹴散らし始めてるリラさんに続いて、あたしたちも鎧倒しに参戦だ。

あたしたちのメンタルも強くなったなあ。

ぷに相手に躊躇しかけてた頃が懐かしい気がする。2月くらい前でしかないんだけど。

慣れってすごい――せえのっ!

 

「当たれっ、プラジグ!」

 

金属らしく雷が良く通るみたいなんだけど、アルさん曰く地面に流れちゃうはず、らしい。

鎧の中になにか宿ってるっていうよりかは、鎧そのものが魔物化してるのかな。

まあ、なんでもいいよね!

 

「ライザすごい! 一網打尽だね!」

 

「見せ場がねえぜ……」

 

「このメンバーじゃ見せる相手がいないよレント」

 

「さて、この先がおそらく最奥だが」

 

ギギギギ……と、アンペルさんに代わってアルさんが扉を開く。

 

たしかに、ここが一番奥だったみたい。

 

――だって。

 

 

 

「あれが……門」

 

「如何にも錬金術で造りました、と言わんばかりの外観だね。これで世界に穴を開けていたとは」

 

70メートルくらい先。ぽっかりと丸い、黒く紫が混じった穴が、周囲を飲み込むかのように。

直径も7、8メートルはありそう。斥候サイズのフィルフサでも何体か同時に通れそうな。

 

「風化と浸食によって封印として機能していた聖堂が役に立たなくなった。その結果再び門が開いてしまったんだろう。こんなケースは初めてだな、浮遊天球だけではどうにもならん」

 

「……空読みがいる。あまり時間がないようだ」

 

アレか。見たことないヤツ。

 

「サソリ人間って正直あんまイメージ出来てなかったんだが、納得だぜ」

 

「あんな魔物が存在しているなんてね。全く友好的に見えないのがすごいよ」

 

「あそこにフィルフサがいるってことは……ボオス君は門の向こうに?」

 

話に聞いてた空読みと、さっきも戦ったフィルフサネズミが門の前を徘徊してる。

ならやることは一つ! いいですよね!?

 

「とっとと倒すよ! まずは新作! きれいな花は、爆発するっ!」

 

「おいライザ、こっちにもやること残しといてくれよ! 強さが分かんねえじゃねえか!」

 

「意外とレントが冷静なことに驚きだよ」

 

「こんなときでもタオ君は辛口だね!」

 

あたしが投げ込んだローゼフラムを追うように3人もフィルフサに向かう――危ないよ!?

フィルフサの方もアレ一発じゃ倒せないかあ。

 

「やれやれ、血気盛んな若者達だ。まあやる気があるなら待つとしよう」

 

「ひと月程度で変わるものだな。あの森すら危なっかしかったというのに」

 

「短期間で大きく成長できるのが若者の特権ですよ」

 

「君も十分その枠組みに入るだろうに」

 

大人組は傍観らしい。居たら居たで一瞬で終わっちゃうしね。

ならここはあたしたちに任せてもらおう。

 

「じゃあこっちも新技いくぜ! 雷よ轟け……轟雷剣! おらぁ!」

 

ピシャァァァ!!

ザシュッ!

 

うおっと! 雷のエレメントが強いレントならではね。

って。

 

「……ありゃ?」

 

「もう……一撃で終わらせてどうすんのさ」

 

「雷のエレメントに弱いっていう収穫だよ! 他のネズミ? を倒しちゃおう。これならどう!?」

 

「んぁあ、うん……って、ちょっと! フルート投げちゃっていいの!?」

 

間違ってないけど、考えがポジティブよねクラウディアって。

そして一度岩を叩いて壊したフルートを、とうとう直接打撃に……。

しかもブーメランみたいに戻ってきてるよ。これも魔法攻撃?

というか……コレハイケナイ。

 

 

 

「君達、ここに来た理由を覚えているかい?」

 

「ボオスを追いかけるためです……」

 

「試すのは大事だけど、時と場合と程度を考えようね?」

 

「「すみませんでしたぁ!!」」

 

「楽器で殴るのは絶対にやめようね?」

 

「ごっ、ごめんなさい……」

 

4人そろって、門の前に正座している――自分たちから正座しました。自然と身体が動いたよ。

ネズミ相手にいろいろやってたら、アルさんによって一撃で分解されたフィルフサたち。

振り返った笑顔は……「怖い」の一言だった。この夏の気温なのにこの冷や汗と寒気だよ。

 

「意外だな。君はライザ達には甘いと思っていたが」

 

「誰かの命が懸かっている時に、その辺りの差は付けませんよ」

 

「クラウディアだけ理由が違う気もするが?」

 

「道具屋の矜持ですよ」

 

まさかここで怒られることになるなんて……。

これで門からボオスが見てて笑われてもさすがに反論できない。

 

「さて、説教も済んだならとっとと行くぞ。もたもたしてまた門からフィルフサが湧いたら笑えんからな」

 

「お待たせしてすみません」

 

「なに、叱るのは大人の仕事で叱ってもらえるのは子供の特権というやつだ。必要な事だろう。では私達から入るとしようか」

 

なんかゴオォォォォォォォ……って音を立ててる門。

アンペルさんとリラさんが門に近付くと……吸い込まれるように消えていった。

あっち側はホントに別の世界なんだ。

 

「じゃあ、僕らも行こうか」

 

立ち位置的にあたしから、門に近付いとぅえ……っ!?

 

 

 

目の前が真っ暗に、吸われるみたいに、流されるみたいに。

 

うわあなにこの感覚!? 気持ちわるっ!

 

先が明るく……赤っぽくなって。

 

 

 

「うおおっと!」

 

「ほう、コケなかったか。中々上手いじゃないかライザ」

 

アンペルさんになんか褒められた。

周りの景色に目をやって。

 

「……えっ……赤い? なにここ?」

 

「うぉおおっ!?」

 

「うわあぁ!」

 

「っしょっと!」

 

「よっと」

 

みんなも追い付いてきた。

結果は、レント前のめりに突っ込む、タオお尻を付く、クラウディアあっさり着地、アルさんなぜか2回転して着地だった。あたし普通よね?

 

「っつつ……んぇ!? なんだこりゃあ!?」

 

「あいたた……うわあ、真っ赤だよ!」

 

「ここが、フィルフサのいる世界……」

 

「そしてリラさんの故郷、で合っていますか?」

 

えっ!?

 

「いつから気付いていた?」

 

「異世界の存在を知った時点で、でしょうか。僕自身異世界の出身ですから、あちらの世界の人との違いに気付きやすいんでしょう。最初に組み合った時に腕と耳から種族的な違いを感じていたもので」

 

「まあ隠してもいないしな。アルなら気付くか」

 

「じゃあホントにここは……」

 

赤く暗い空の色、木々は枯れていて同じく赤紫色に染まっちゃってる。

枯れた木にわずかに残った枯れ葉が舞っている。

 

ここが。

 

「そうだライザ。私の……故郷。お前達にとっての異界――オーリムだ」




無印ライザでは異界の事を「異界」としか呼びませんが、
リラがそれを口にし続けるのは違和感があったので3の要素を入れています。
ご了承ください。この設定が判明して全部置換する事になりました……。

道具屋の前で本来の用途外の使用をしてはいけません。
破損する可能性があるなら尚更。

この辺の騎士の魔物とかは設定を考えちゃいますね。特には付けていませんが。

これで第四章は終わり、いろいろ開示される第五章に続きます。
次は異界にてボオス探索です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。