ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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長いです。過去一だと思います。
が、この作品の設定説明回にもなりますのでお付き合いください。

色々独自解釈を含みますが、基本この設定を使っていきます。

今回もよろしくお願いします。


35. 67日目④  世界の分岐点

「……ライザ」

 

「大丈夫だよ、ありがとうクラウディア。ちょっとは落ち着いた」

 

あれから……30分くらいは経ったかな?

あたしは立ったまま何を考えていたのかな。

なんで? って言葉が何回か繰り返されてたと思うけど、とりあえず最後らへんで「今からどうするか」って考えに出来たとは思う。

 

レントとタオは背中合わせで座ってる。

なんでこんなことになってるんだ、って感じかな。

 

クラウディアはあたしの傍にいてくれた。

あたしが巻き込まなければ、なんて考えちゃいけないよね。

やさしいんだ。

 

ボオスはキロさんと一緒にいる。

ボオスが感じてる重みは……あたしたちよりも、多分ずっと重い。

キロさんと話しているのは今までの話か、これからの話か。

 

そういえばキロさんがなんか言ってたなあ――目の届く範囲だけでも守る、ね。

あのバカ。

 

アンペルさんはリラさんと一緒にいる。

あの2人だから話しているのはこれからどうするかだよね。

アンペルさんなら何かの解決方法が思いついてるかも?

 

 

 

そして。

 

 

 

「……これが、僕が喚ばれた理由なのか?」

 

ただ1人、あたしたちから離れて周辺を歩き回っていたアルさんが帰ってきた。

ガリガリと棒を地面に擦り付けながら――これって。

 

「アルさん……まさか錬成陣を描いてきたんですか!?」

 

あたしの声でみんなの意識が集まっちゃった。

アルさんは何も言わない。持ってた棒を足元に置いて、加えて何かの石を陣の円周に置いた。

 

「あれはフィルフサの魔石……アルは一体何をする気?」

 

「私にも分からないが悪い事にはならないだろう。陣を使った錬成は最初に説明を受けた時以来か」

 

「ライザから武器を調合する際に使っていたと聞いている。わざわざ陣を用意したんだ、余程難しい錬成という事か?」

 

大人組で予想はしてるけど、結局アルさんにしか分かんない。

あたしにとってしっかりと見るのはフルート以来だね。都度武器の調合に描いてもらってるけど。

 

そのアルさんは――その場にしゃがみ、陣の淵に手を置いた。

 

そして。

 

 

 

キイィィィィィィィィィン

 

 

 

いつもみたいなバチバチじゃない。

音爆弾とはまた違った高い音が鳴って――陣の中が白い光に包まれて。

 

 

 

「……今、信じられないものを見てる。この数百年間、欠片も見る事が出来なかったのに」

 

「夢ではないぞキロ……私も同じ光景を目に出来ている」

 

陣の中、直径100メートルくらいの範囲だけ紫色の地面と木はあたしたちが知ってる茶色に。

そして付けていた葉っぱが。

 

「元の自然が戻ったのか……信じられん」

 

葉っぱの色が、緑色になってる。

アンペルさんの言う通り――陣の中限定だけど浄化できたんだ。

 

「……すごい」

 

「なんという……錬金術というのはここまで規格外な事も可能なのか?」

 

「ライザやアンペルさんの錬金術でも魔法じみてるが、これは次元がちげえぜ」

 

「汚染の元になったフィルフサの魔石を地面や草木から集めたのかな?」

 

「あそこに出来ている小さな赤いカケラが汚染元の結晶なのかな。ここまで出来ちゃうなんて」

 

驚いてるあたしたちとは裏腹に、アルさんの顔は晴れない。

なにか問題があるのかな。

 

「アル……一体何をしたの?」

 

「……原理は先刻の鎧の錬成に近いです。陣の中のフィルフサの魔石を、地中や木に含まれていた分を取り除く形で一か所に集めて結晶化した。それだけです」

 

「ここまで出来てしまうものなのか。目の前にしても信じられん」

 

「だが……少し待ってくれ。アル君の錬成は「分解」と「再構築」に依るものだろう? 陣内だけとはいえ大地や木々を一度完全に分解してから、もう一度全く同じ形に再構築したと?」

 

そっか。アルさんが今までにやってきた分離はずっと小規模だし元の形なんて気にしない。

だけど、これは完全に「抜き取っただけ」。再構築したって言ってもあまりに自然だ。

アンペルさんの疑問はもっともだね。

 

「……僕の世界に、禁忌とされる錬金術が存在します」

 

しばらく間を空けてアルさんが口を開いてくれた。

 

「それは……人体錬成。錬金術で生き物を作る。死者を蘇生するという行為です」

 

「なっ……死者の蘇生など完全に生命に対する冒涜だ。我々の錬金術でも生死に関わるアイテムの調合は封印指定とされる。だが禁忌という事は、手段自体は実在しているという事か」

 

死んだ者は生き返らない。

これが世に知られている法則なのは、一般常識不足だろうあたしでも間違ってないんでしょうね。

錬金術で命を作るなんて、考えたことも無かった。だけど。

 

「でも、アルさんは今の錬成で生き物を作ったわけじゃないですよね?」

 

「通常、人体錬成は不可能なんだ。人を含めて生き物は「肉体」、「魂」、「精神」の3つから成り立つとされているんだけど、死ねば魂は失われて精神は引きちぎられる。存在しないものは作れない――これが等価交換の法則だね。だから人体錬成は例外なくリバウンドの対象となる。僕が知っている人体錬成のケースは、皆身体のどこかを失っている」

 

不可能を可能にするために、無理矢理帳尻を合わされるってこと。

そこは以前聞いた通りだね。問題は……対価の大きさ。

 

「……一応、例を聞いてみてもいいっすか」

 

「右腕、左脚、内臓、両目の視力、そして……全身」

 

なによ……それ。

 

「リバウンドって……ケガなんてレベルじゃないじゃない……」

 

「私は初めて聞いたよ……そんな、そこまでの反動を?」

 

一番最後の、全身丸ごとって何よ。何も残らないじゃない。

アルさんが一度「はぁ」とため息をついて話を続ける。

 

「さっき言った通り、通常は不可能。じゃあ……通常でなければ?」

 

「……身体はともかく、魂や精神を他から持ってくる。そういう事ですか」

 

「やはり君は聡明だ、ボオス君。常識を外してすぐその発想に辿り着けるんだから」

 

「でも……他から魂とかを持ってくるなんて。元の魂の場所には」

 

身体しか残らないことになる。錬金術で直接生き物の在り方を変えてしまっているの?

 

「ライザがおそらく予想している通り、死んでしまう。でもそれだけなら……まだ良かったのかもしれないね。使()()()()()()()()のだから」

 

アルさんの声は苦しさを感じさせる。死ぬだけなら……マシって?

 

「その魂を引っ張ってくる方法でのみ得られる()()が僕らの世界にはあるんだ。魂……つまりは生命エネルギーの塊ともいえる物が」

 

そんな無茶苦茶な方法で得られるもの。

真っ当なものじゃない。だから普通の形で語られてない。

曖昧な形で伝わってきた――島の掟みたいに。

 

昨日アルさんの話で聞いた言葉があったはず。

伝説とか、究極とか、アルさんの世界で伝わってるもの……そうだ。

 

「それが……賢者の石」

 

「ライザもそこに辿り着けるんだね。昨日今日の話だけで分かるのは流石だよ」

 

「……私達の錬金術にも賢者の石の概念は存在する。森羅万象、ありとあらゆるものを作る事が可能と言われる血のように紅い結晶体と言われている。それがアル君の世界では、生き物を材料にしていると?」

 

「正確には「大量の生きた人間の魂」です。錬金術を使えるのは人間だけ、才の差はあれど全ての人間が保有する素養……その素養こそが必要なのかもしれません。でも人ひとりじゃ形に成らない。使えるレベルの形を成すには大量の犠牲が必要なんですよ。そして無茶を補完するための資源として使用される。それにしても、こちらの世界の賢者の石も同じ姿と伝わり方なんですね」

 

人の命そのものを、素材にしてしまう。

アルさんが言ってた、「代価もなく全てを得られる物なんてない」ってこういうことだったんだ。

何かを得られる代わりに誰かの命を奪う――等価交換の法則。

……気分悪くなってきた。

 

「前置きが長くなりました。僕がやったのは、陣の中のフィルフサの魔石を賢者の石のように錬成した、という事です。陣内のフィルフサに関する要素を「理解」し、分離する形で「分解」し、賢者の石のような形に「再構築」した。さっきの鎧の際には大地に染みた魔石だけでしたが……さっき陣を描く際に遭遇したフィルフサを念のために「生かして」配置しておきました。それらの魂を核にして大地に染みたフィルフサを寄せ合わせて、これに錬成した。実際にはフィルフサの特性を集めた、と言えるかもしれませんね。賢者の石の錬成に物質は不要ですから。散々殺してきて今更ですが……自分でこの錬成陣を使う時が来るとは、と思いまして。これが、今の僕の役目なのか」

 

アルさんの表情は、どこか失望したかのような笑い顔。

お話をしながらアルさんはクラウディアの言ってた赤いカケラを拾って持ってきた。

話に聞いたとおり――小指の先くらいしかないけど赤い、欠片のような石。

 

「アンペル。これが賢者の石なのか?」

 

「……いや、かなり近いものだろうが賢者の石とは異なるだろう。そもそもアル君と私やライザが使う錬金術は別物だからな。私の知る賢者の石はリンケージ調合で作る物、錬成陣とはエレメントの要素などが異なるはずだ。だが調合で作る賢者の石も、ひょっとするとフィルフサ由来の物なのかもしれんな」

 

「あたしたちの調合も動物とか植物を使ってるんだから、十分あり得るんだよね……」

 

植物、虫、魚とか。これらは「素材」として優秀だ。

ならこっちの「賢者の石」が生き物由来でも違和感はない。

一度は割り切ったことはあったけど……あたしのやってきたことって。

生き物の命を無駄にする、好き勝手にする行為って言えなくもないのかな。

 

目の前が暗く、心が重くなってくる。

 

「ライザ」

 

呼ばれた――ボオス?

 

「お前の家で作っている麦は何のためだ? 島のクーケンフルーツは? 漁業は? 全て俺達が生きるため、食うためだ。錬金術が無くとも俺達は数多くの命の上に成り立っている。それを忘れるな」

 

……ひょっとして、励ましてくれた?

 

「ライザ、貴女は優しいんだね。でもボオスの言った通り、生き物は他の生き物を糧に生きているんだよ。私なんてこの数百年を生き抜くためにどれだけのフィルフサを殺してきたか」

 

「僕が賢者の石の錬成に抵抗があったのは……経験と素材と、錬成された理由に因るものが大きいんだ。色々含みを持たせた話をして申し訳ないけど、重く考えすぎないでおくれ」

 

ホントに……ですよ、アルさん。重たすぎるんですよ。

でもあたしは、あたしのできることをするだけなのかな。

 

 

――生きるために。

 

 

「聞いていいものかと思うが……縋らせてくれ。その錬成ならオーリムを元に戻す事が?」

 

「原理的には可能ですね。汚染を一か所に集めるような事は出来ます。ただフィルフサはいるわけですし水も戻りませんから、するとしても最後になるでしょう」

 

「水は……「渦巻く白と輝く青」の元には俺が必ず連れていきます。あんた達が出禁になった原因だからな、そう簡単に外部の者は入れん」

 

「成程。私達が出禁になったのは遺跡ではなくその水の大本が理由だったわけだ」

 

悩んでも解決しない。今はありのまま受け入れよう。

今のあたしは「大侵攻」を止めるために動いてるんだから……よしっ!

 

「ふんっ!」

 

パァン!

 

「おいライザ!?」

 

「大丈夫よ。踏ん切り付けただけだから」

 

「いきなり勘弁してよ……」

 

「お顔は大事にしようよライザ。真っ赤になっちゃってるよ?」

 

思ったよりちょっと力入れ過ぎた。結構ジンジンしてるわ。

でも切り替えは付いた。

 

水の大本、たぶん古式秘具なのかな? それは今はボオスに任せよう。

あそこはあたしたちでも簡単に入れる場所じゃなさそうだしね。

 

「もう。それでキロさんは……これからもここに?」

 

「ええっと、クラウディア……でよかったかな? そのつもりだよ。アルがこの辺りを綺麗にしてくれたとはいえ、またフィルフサが入ってきたら荒らされてしまうから」

 

「それについてなんですが――キロさん、ご相談があります」

 

「?」

 

ああ、これはアレだ。

あたしの訓練やらアトリエやらクラウディアのお店やら――今度は何なのかな。

 

「一つ確認なんですが、最近フィルフサが増えたという事は?」

 

「うん、多いね。貴方達が来た門が新しく開いたからじゃないの? あそこにあったなんてね」

 

「キロ。今、門の外は乾季が近いんだ。およそひと月前に斥候が、ここに来る前には空読みが居た。おそらく大侵攻が近いとみている」

 

「……将軍に、渇きの悪魔あたりかな。それで数が増えてるのか……結構キツいね」

 

「ライザ。大侵攻とは何の話だ?」

 

「……乾季が来たら、フィルフサが大量に対岸に押し寄せてくるってことよ」

 

ボオスの顔が一気に渋くなる。そりゃそうか、あたしたちだって同じだ。

 

「クリント王国もそれの影響があって弱体化して……結果的に滅んだんだって」

 

「お前が特攻した竜も、元はフィルフサ迎撃用だったらしいぜ」

 

「竜は私たちが倒しちゃったから……」

 

「……乾季なぞひと月もしないうちに来る。俺が島を出たと同時に奴らの群れに出くわすわけか――笑えん話だ」

 

竜がいたとしても……多分どうにもなってないよ、クラウディア。

でもそっか。ボオスの留学と大侵攻は同じタイミングになるんだ。

掟の「渇きの悪魔」ってサソリ人間の名前まんまだったのね。

 

「大侵攻を止めるには女王を倒すか、水を戻す。あるいは両方が必要。それで合っていますね?」

 

「そうだね。女王を倒せば群れとして瓦解はするけど、しばらくは数が残るし次の女王候補が来るとも限らない。水は……この一帯を水没させれば確実だけど、流石に元々そこまでの規模じゃなかったから水源が戻ってもすぐに完全撤退はしないと思う。確実を目指すなら両方になるよ」

 

「この周辺一帯と門の周りに壁を張ります。それで大侵攻までフィルフサの侵入を妨害する」

 

「私に門の向こう側――彼らがいた世界に来て欲しい、という事でいいかな?」

 

「察しが早くて助かります。あなたはリラさんと並んでフィルフサにも精霊にも詳しい。気は進まないと思いますが……ライザ達の、錬金術の協力をしてもらえないでしょうか?」

 

アルさんの相談は、キロさんの勧誘だった。

キロさんは、フィルフサにはもちろん精霊……つまりはエレメントにも詳しい。

いてもらえれば捗る事は間違いない、んだと思うよ。

わりと考えられることではあった。けど、キロさんにとってあたしたちの世界は……。

 

「アル、それは待ってもらえないか。浄化の可能性を聞いた私こそ口を挟むべきでないと分かっているが――私とてアンペルに遭った際、重傷を負っていなければそもそも接触を選ばなかった。誇り高き志でこの地を守り続けてきたキロを……可能性をエサにあちらへ誘うというのは」

 

そう、だよね。憎くないとは言ってくれてるけど、それでも水を奪った国があった世界。

ここを守ることより優先してもらいたいってのは、いくらアルさんの保険があったとしても心情的に苦しいものがありそう。

 

「では無礼を承知で言います。誇りのために命を守れる可能性を捨てて、命を捨てる方を選ぶなんて――そんな選択は許容できません

 

アルさん!? なんだかすごい圧が――ビリビリする。

 

「生き延びる選択があるのに、誇りの下に玉砕するのは一種の諦めだ。生きて生きて生き延びて、もっと色んな手段を考えれば……根本から解決する方法が見つかるかもしれないのに! 思考停止は可能性の放棄だ。何度でも言いますよ? そんな考えは、僕は受け入れられない」

 

「……アル、お前は、一体何を経験した?」

 

わりと強い口調だったリラさんが、今は完全にアルさんの剣幕にのまれてる。

 

「僕の命を守る事と引き換えに、僕の目の前で自分の命を犠牲にしようとした大馬鹿な兄を知っているだけです。兄さんはあの時一度諦めを許容した。でも二人ともその場を生き抜いて、最後に目的を達成できた。信念や誇りの大切さは分かっているつもりです。僕らも絶対に守ると決めた信念があった。でもそれで生きる事を諦めるなんて、絶対にして欲しくない」

 

話に聞いてた、天才のお兄さんのことだね。

ホントにどんな人生を送って生きてきたんだろう……。

 

「……ふふっ」

 

「キロ?」

 

「温和な人だという印象だったのだけど、まさか白牙氏族のリラ相手に啖呵が切れるなんて思わないでしょう? それに私も、ただただ死ぬつもりはないのだけれど?」

 

キロさんが笑った。かわいい。

さっきからあたしのキロさんへの印象、こんなのばっかじゃない?

 

「はぁ……相変わらずやり方が強引な人だ。ですが、何故貴方がそこまで「守る」事に拘るのか少し分かりましたよ」

 

「アルはボオス達相手でもこんな感じなの?」

 

「掟破りの常習犯なんだ。ここのアホ共と違って事前にしっかりと考えられている分、余計にタチが悪い。だが絶対にそれを貫くだけの意志の強さと実力を持ち……実際に成し遂げられてきた」

 

「さらっとあたしたちディスッてんじゃないわよ」

 

「ボオスに言われんのはすげえ癪だけどよ、実際考え無しだっただろ」

 

「何回騒ぎになっただろうね?」

 

「私はフルートの練習の為だったんだけどな……」

 

「なに。大きな事を為そうとすれば普通の、常識的なやり方じゃやってられんという事だ。だから私もはぐれ者をやっているのだからな」

 

なんか、なんか……う~ん。褒められてるようでそうじゃない。

クラウディアはフルート関係なしにおてんば枠だよ?

 

「貴方なりの覚悟はわかった。勝算はどのくらいなのかな?」

 

「蝕みの女王が未知の存在ですから無責任な事は言えませんね。ですけど、キロさんがいてくれた方が絶対に大きくなる確信はあります。それに……僕も一度は国を守ったつもりの1人ですから、そう簡単に負ける気はありませんよ?」

 

なんだその情報!

 

「……はぁ~。そう驚かないつもりでいたが今度は国を守ったと来たか。召喚されたとして、アルが選ばれた理由が分かった気がするな……私は、ただ中途半端だっただけか」

 

「すみませんリラさん。あのような事を……」

 

「いや。どこぞの馬の骨の戯言なら殴り飛ばして終わりだが……これまでも私達の力となってくれて、挙句アルの世界では国を救ったのだろう? 出まかせではないのだし、その言葉の重さも分かった。なら本当に私なぞが口を挟む事ではなかったんだ」

 

「ちなみになんですけど、どのくらいの人を助けたんですか?」

 

「たしか……5000万人くらいだったかな?」

 

聞くんじゃなかった。もう物語の存在だ。

周辺国を含めても全然足りない気がする。大陸全土クラスじゃない?

――もう、やめよう。ツッコむの。

 

「あははは! 本当に前の世界の英雄さんだったんだね。そんな人にお誘いを貰ったら……無下には出来ないかな」

 

「僕には貴女が必要です。お願いできますか?」

 

「アル。貴方――これ女タラシって言われてない? ……分かったよ、貴方達と共に行こうか」

 

キロさんがあたしの方を向いてボソッと――多分その通りです。

 

絶対言われたことあるよね。

一緒にいる時間が長くなったからよくわかるけど、この人は間違いなく天然タラシの朴念仁だ。

 

本人は気付いてないけど、息をするように殺し文句を口にすることが過去にもチラホラ。

あたしはだいぶ前から理解しちゃってるからいいけど、そうでない人は大変なのだ。

しかもその言葉に嘘偽りが含まれてないってわかるから、尚更タチが悪い。

 

あたしの場合は尊敬の意味合いが強いけど、島の人で実際にアルさんを好いている女性は多い。

ロミィさんはおふざけ混じりだけど、それだけで「アル君好き!」だなんて口に出来ないもんね。

弟ポジで見てたアガーテ姉さん――アルさんの歳を知ったらどんな反応するだろう? 2つ上だよ?

 

ただ……一方で、自分に向けられる好感情に線を引いてるところがあるんだよね。

近づけるのは一定のラインまで。それ以上は誰にも踏み込ませることなく、だ。

なんでだろう?

 

「ありがとうございます。ご期待には持てる全てで応えますから」

 

「今確信を得たよ。これは気を付けないと」

 

 

 

アルさんは今この周囲一帯を囲むための錬成陣を描きに行ってるところ。

その間あたしたちはキロさんと交流を深めることにした。

 

あたしは錬金術のアイテム(エネルジアニカ(ハーモニカ)にしたよ)を、レントは剣技、タオは古代文字、クラウディアは……久しぶりに演奏としてのフルートを披露してくれた。

そしてキロさんは、それに合わせて詠ってくれた。すっごい上手だ。

 

ボオスはクーケン島やロテスヴァッサ王国についての話。さすがあたしたちより詳しい。

リラさんとアンペルさんは念のためにアルさんの護衛のような形で付いてってる。

フィルフサも倒すんじゃなくて「無力化」するために。

 

「アルって普段からあんな感じなの?」

 

「あたしたちも深く関わるようになったのは最近のことなんです」

 

「島では滅多にいない漂着者で、なんでも出来る道具屋って感じっすよ」

 

「まさか僕が見せてた本から古代文字を読めるようになってたなんて思いもしなかったよ」

 

「基本的に私たちには優しいですけど……怒るときは怖かったです」

 

「お前らエルリックさんを怒らせるなぞ何をしでかした……」

 

あんたには絶対言えない。

 

「そっちの話もそうなんだけど、タラシの件」

 

「ああぁ……そうですね。無自覚だと思いますし、伝えても伝わりません」

 

「天然物か。かなりの強敵だね」

 

あたしは尊敬、クラウディアは感謝、リラさんは実力者、アガーテ姉さんは弟的な感じなんだろうけど……ヨンナさん辺りはアルさんみたいな男性がいないかってよくボヤいてるし、こういうのはおふざけがちなロミィさんがこれに関しては一度も全く否定したことがないのだ。

誠実さと、解決しようとすることに対する本気度合いがよくわかるんだ――真剣なんだって。

 

「オーレン族は誠実な者が多かったと言っていいと思うけど、アルはまた違った意志の強さがあるね。ある程度話を聞いたとはいえ20年という僅かな期間でどれだけ濃い人生を歩んできたのかな」

 

「子どもの頃からお兄さんと一緒に旅してたらしいですよ? ちなみにそのお兄さんも、多分アルさんと同レベルかそれ以上だと思います」

 

「エルリック家ってなんなんだろうな?」

 

「元々錬金術で有名な家系だったとか?」

 

「ライザは私たちよりも知っているみたいだね?」

 

「昨日アトリエで教えてもらったんだよ。お兄さん、史上最年少で最高の錬金術の資格持ちって」

 

「……単なる天才とは思えん。一体どれだけの努力を積んだんだ」

 

色々知ることが出来たけど、同時に疑問もポンポン増えるわね。

 

頭が良くて兄弟で旅をしてたってのはまだわかるよ?

でも禁忌ものの錬金術を知っていて、賢者の石の真実に到達していて、あげく5000万の人を救う――物語の方がまだ現実味があるよ。

でも、タオの言う通り家系的なものはあるかも? 手合わせ錬成は才能じゃないって言ってたし。

 

「お待たせしたね」

 

アルさんたちが帰ってきた。さっきみたいに棒で地面に陣を描きながら。

そんなに時間経ったかな?

 

「ん。こっちも皆と色々お話が出来た。会話するってやっぱりいいものだね」

 

「他人が居てこそだからな。人間が本来一人で生きる存在ではないと感じるいい機会だろう」

 

「私と出会うまで長らく一人はぐれ者をやっていたお前から、そんな言葉を聞くとはな」

 

「それじゃあ……いきますね」

 

アルさんが陣に手を触れる。

 

フゥッと陣の中が白く光り始めて。

 

 

キイィィィィィィィィィン

 

 

「……この先何回見ても、慣れるって事は無さそうだね」

 

「長らくあの惨状を見てきたキロなんだ。感じるものは誰よりも強いだろう」

 

「私達にとっても奇跡の御業といっていい現象なんだがな」

 

 

光が収まって。

 

 

「……きれい」

 

自然が、大地に戻った。

 

「空の色はどうにもなんねえよな。絶対元に戻そうぜ」

 

「そうだね。こんな景色をまた汚させるわけにはいかないって僕も思うよ」

 

「島のこともあるんだから、頑張ってフィルフサの女王を倒さないと!」

 

「……必ず、水を返す」

 

そう――これはその場しのぎ。

時期が来たら結局フィルフサが侵攻してくるんだから。

頑張らないとね!

 

「周囲にはネズミ返しの壁を張りました。後は僕達が門を通る際、門の周りにも壁を築きます。多少の時間稼ぎにはなるでしょう」

 

「貴方達の世界にもフィルフサを来させるわけにはいかないしね。私も出来る事に出来る限り取り組むよ」

 

「キロ、礼を言う。力を借りるぞ」

 

「ううん、これは私の意思だから。それに……あんな誘い文句じゃ断れないって」

 

天然め。

本人はそのセリフを聞く前に赤い石を拾いに行っちゃってるよ。

多分こういうのが積み上がっていってるんだろうなあ。元の世界の人たちも大変そうだ。

 

「さて私達の世界に戻るとしよう。ボオス少年は行方不明という事になっているのだろう?」

 

「そういやボオスを追いかけてここまで来たんだったぜ……」

 

「忘れてはいないけど、ここでの出来事が衝撃的すぎだよ」

 

「お前ら、どうやって俺の不在を知った?」

 

「昨日私のお父さんがブルネン邸にお世話になっていたでしょう? そのお父さんが今朝モリッツさんからお話を聞いて、私たちに伝えてくれたんだよ」

 

「あたしたちも今朝から門の外の遺跡に来る計画だったから、すぐにあんたの後を追えたのよ」

 

「……あんな紙切れでも、残しておいて正解だったわけか」

 

ルベルトさんとランバーの二重で止めてもらってるけど、増援が来てたりしないよね?

 

「それにしても……逃げないのはいいけど勇敢と無謀は違うんだから。あんたならわかるでしょ?」

 

「あそこまでの化け物だとは思っていなかった……が、そこは認めよう。まさかライザに説教される日が来るとはな」

 

「へっ。これで俺たちがやってることが遊びじゃねえってわかったかよ」

 

「分かってくれたなら……もう追い掛け回すのはやめておくれよ?」

 

「ところで、ボオス君が見たっていうフィルフサってどんなのだったの?」

 

「そういえばキロにも確認していなかったな。形容するのは難しいが敢えて言うなら……」

 

ハリネズミはネズミと思えない見た目だもんね。

 

 

 

「……()()()()、か? あれほど馬鹿デカいのがいるとはな」

 

 

 

……は?

 

なんでだろう。全身から一気に血の気が引いていく感じがする。

 

「カマ、キリ? サソリとかじゃなくて?」

 

「サソリはここまでの道中にいた奴だろう? あれ一体くらいならここまで退却したりせんし、どこかでやり過ごせるだろう」

 

サソリはサソリでちゃんと把握してる。なら、本当に違う?

 

「だがアレはどこまで行っても真後ろにいるかのような威圧感で、走るのは死に物狂いだった――他はそれどころではないとな。こちらに飛び込んでキロに助けられて、気配が消えている事にようやく気付いて初めて自分が生きていると実感した。ああ、付け加えるなら白い魔物という報告だったが……赤黒かった。禍々しいの一言だ」

 

「……おい。なんだ、それ」

 

「僕たち……僕たちもそんなフィルフサは知らないよ!」

 

「ボオス君が見たのって一体?」

 

そもそもフィルフサですらない?

見た目も、色も、大きさも。あたしたちの戦ったフィルフサに一致しない。

……リラさんやキロさんに聞いてみないと。

 

「みんな、こっちに来てもらえるかな。門の周りに壁を築くかr「アルさん!」……? どうしたんだい?」

 

「ボオスが遭った魔物……フィルフサじゃないかもしれない」

 

アルさんたちの顔に懐疑の表情が浮かぶ。あたしだってそうだ。

 

「置き手紙の通り「白い魔物」……フィルフサに遭ったのではなかったのかね?」

 

「俺が遭遇したのは白くない。赤黒い、巨大なカマキリのような化け物だ」

 

「……カマキリ、ですって?」

 

「キロ?」

 

「ボオス! 覚えてる限りで特徴を教えて!」

 

「っわ、分かった。色は、黒色で血管の様に赤い線が走っていた。大きさは……キロが将軍と言っていたか? アレの3倍はあったと思う。そして4足歩行に、鎌の様な両腕。俺に分かるのはそこまでだ。後は生まれて初めて感じた死の気配、とでもいうやつか」

 

キロさんが固まった。

前髪で見えにくいけど両目が――大きく見開かれているみたい。

汗まで掻いてる? すこし震えてるのかも。

改めて聞くけど、文字通りのバケモノだ。想像だけでも今までのフィルフサと別格の。

 

「キロ? おい、キロ!?」

 

「!?……ごめんなさいリラ。動揺しすぎてたみたい」

 

「それは構わないが、ボオス少年の見た謎の魔物を知っているのか?」

 

「……あり得ないはず、なのだけど」

 

キロさんが、言葉を区切りながら。

 

「赤黒いって事以外、女王の特徴に、一致する……」

 

ありえない答えを口にした。

 

 

 

「そんな……馬鹿な」

 

最初に聞こえたのはリラさんの声。

 

「蝕みの女王が巨大なカマキリである、というのは確実なんですか?」

 

「私が知っている、この聖域の群れを率いている女王がカマキリなのは間違いない。忘れるはずがない。ただ私が見た女王は、他のフィルフサと同じで白色が主体だね」

 

「という事は……キロ嬢の知る女王と、ボオス少年の見た黒いカマキリは別個体という事か」

 

「そう考えるのが自然ですね。女王も何かから生まれた存在ならば同じ種族として何体か存在していても不思議じゃない。問題は」

 

「何故現れたのか、だな。キロ嬢がここに居る以上この門を通ったというのはありえない。なら」

 

「待ってよアンペルさん! じゃあ、他にも門が島の近くにあるっていうの!?」

 

叫ぶような声になっちゃった。あたしも動揺しすぎている。

 

「おいボオス。そのカマキリ、どうやってお前の前に出てきたんだ?」

 

「気付いたら、としか言いようがない。勿論俺達が対岸に到着した時はいなかった。見張りに聞いた通り、白い魔物……フィルフサか。アレが坑道の方に向かったと報告を聞いて俺とランバーも坑道に入った。最初の広い空間でランバーに指示を出そうと振り向いた所で……目の前に居やがった」

 

「坑道……そんな大きな黒いフィルフサ、僕らももちろん見てないし」

 

「詳しく見てないけど……痕跡みたいなのもなかったよね? でもボオス君が見たものが」

 

「あまりに具体的かつ女王の特徴と一致しているね。ボオス君が見たのが仮に幻覚だったとしても、姿が女王の色違いの様なモノであるのは間違いないんだと思うよ。だけど実体があったなら……どうやって現れたのか見当もつかない。あの水が無かったとして、そもそもそんな大型のフィルフサじゃ坑道を通れないからね」

 

冷静に、現実的に考えればそうだよね。落ち着けあたし。

そもそも坑道なんて場所、そんな超大型のフィルフサが通れるわけない。

なら直接現れたか幻覚か、何にせよ門を通って現れたわけじゃないよね。

 

「その黒い女王がなんだったのか現状不明だが……今ここで考えても答えは出ないだろう。先ずは戻るとしようじゃないか。元の女王の話と水の話もあるのだからな」

 

アンペルさんも冷静だ。いつもの飄々とした感じで。

 

「そう……だね。オーレン族2人に、錬金術士が2人。ボオス達に、異世界の英雄までいるんだから。何か良い案が思い付くよ」

 

「俺たちがボオスの付属になっちまった……」

 

「その英雄ってのは勘弁してください。第一僕は主役じゃなかったですし」

 

「じゃあ主役は誰だったんですか?」

 

「兄さんだよ」

 

身内じゃん! ずっとそばにいたんでしょうが!

質問はやめようと思ったばかりだったでしょうに……。




長文お疲れさまでした。

最終メインキャラ、キロが加入しました。当初は全然予定になかったんです。
そして原作と違うナニカが。

ハガレンの賢者の石の解釈ですが、錬成時に元の肉体は残っている事から
通常の錬成と異なり魂のみを分離していると解釈しています。
この魂についても人の魂のみ(実際犬のデンに影響はなかった)である事と
真理が「扉は全ての人間の内に在る」と発言している為、
正しくは「人間しか持ちえない要素」が必要なのかな? と思いまして。

今回はそれのフィルフサ版という事でなんとかご納得ください。。。

次はオーリムから島への帰還です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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