ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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お待たせしました。
1話当たりの文字数が徐々に多くなってきているのが原因ですね……。

新メンバーを迎えて、新しい事が分かって。
今回は新要素の実験編です。

とはいえ細かく原理がどうのというのはないので
こんな扱いなんだな、くらいに捉えていただけるとありがたいです。


今回もよろしくお願いします。



37. 68日目   光の加護の使い方 素材編

「昨日は予定外の行動になったけど……かなりの情報と、更に協力者まで。一気に前進だね」

 

「アルさんの中でキロさんは単なる協力者扱いなんですね……?」

 

オーリムから帰って一夜明けての朝。工房に来たあたしとの会話にて。

 

あの誘い方で「協力者ゲット!」で済ませるのはズレてると思いますよ?

一切悪気がないあたりどうにもならなさそうだ。

 

「実は他にも収穫があったんだ」

 

「何がですか?」

 

「これだよ」

 

そういってアルさんは何かをあたしに手渡してくれた。

白と黒のまだら石、かなり硬そうだ。エレメントは……氷と風かな。

初めて見るけど?

 

「この石……鉱石ですか?」

 

「オーリムで拾ったんだ。多分だけど「創生の逆さ石」、クリミネアの材料だと思うよ」

 

「クリミネア――あの図鑑に載ってた原材料不明の金属ですか!?」

 

「鉱石自体は載っていた資料があった。けどまさかリラさん達の世界の素材とはね……僕がやっている事もクリント王国と大差ないのかもしれない」

 

「絶対そんなことないです! あたしたちは私利私欲で使おうとしてるんじゃないんですから」

 

「……そうだね。守るための力、か。うん、ライザの言う通りだ。後でちゃんとリラさん達には話しておくよ」

 

「そうですね。そこはしっかり線引きしときましょう」

 

あたしたちは略奪しに行ったわけじゃないんですよ?

あの世界を守るため、あたしたちの世界を守るため。

 

――そのための錬金術にするため。

 

 

 

ということで、あたしはクリミネアの調合に取り掛かることにしたよ。

順当に行くならスタルチウムにこれ放り込んだら作れるのかな。とはいえ貴重だし慎重に。

 

アルさんもアルさんで作ってみたいものがあるらしい。光の加護の実験も兼ねてとのこと。

 

クラウディアもこっちに来てまたお菓子を作ってくれた。今日はドーナツ!

どんどんレパートリーが増えるね。ドーナツは難しくないらしいけど、アンペルさんが言ってたアスラ・ドーナツとやらは作り方の想像が出来ないらしいよ。

これもおいしいんだけど……ここ最近の摂取カロリーが気になってきた。

 

そしてお昼前に。

 

「邪魔するぞ」

 

「あっリラさん、とキロさん?」

 

「こん……にちは? おはようなのかな?」

 

「しっかり陽が昇ってますからこんにちはでいいと思いますよ。こっちの様子を?」

 

「ん、話を聞いて一度見てみたいと思って。アルはいるの?」

 

「奥の作業場ですよ。呼んできますね」

 

「あと……この甘い匂いは?」

 

「クラウディアの作ってくれたお菓子の香りです。クラウディアもいますよ」

 

「ここは3人の拠点? 男1人に女の子2人……アルのハーレム?」

 

ハーレムって……。

 

 

 

「お2人とも、いらっしゃい」

 

「こんにちは。リラさん、キロさん」

 

「こんにちは、アル、クラウディア。アル、ここは貴方のハーレムなの?」

 

ド直球ど真ん中ですね?

 

「僕にそんな甲斐性はないですけど、なぜハーレムだと?」

 

「利害の一致でアンペルと一緒に旅をしているリラはともかく、それ以外の女の子が2人も貴方の傍にいるのに?」

 

「そりゃあライザのアトリエとクラウディアのお菓子屋が僕の工房の中にあるわけですし」

 

ずいぶんとおかしな工房になっちゃったけど、そんな状態だしそりゃあ集まるよね。

あたしの場合、それに関係なくここにはしょっちゅういたんだけど。

 

「他にも女の子がいたりしない? 私を誘ったみたいな感じに」

 

キロさんの追及がきびしい……。

 

「いませんけど……なんか変な事言いましたっけ?」

 

「……ちなみに。前の世界で女の子に頼み事をした時、どんな頼み文句だったかな?」

 

「頼み事。う~ん……例えば、あの時かなぁ。「こんな事頼めるの、君しかいない」」

 

「「「「うわあ」」」」

 

ついにリラさんまでハモった。でもそりゃそうだよ――これはひどい。

もう命懸けの何かだよ?

 

「いや一応弁明するけど、そうでも言わなきゃやって貰えそうになかったんだよ。説得の時間なんて無かったから」

 

「一体どんな頼み事だ……」

 

「普段からそんな頼み方を?」

 

「まさか。クラウディア達にそういう頼み方をした事はないだろう? あの時は本当に彼女にしか出来なかった。でも渋られるのは分かっていたから」

 

「どんな人にどんなことを?」

 

「僕の元の世界にあった「シン」って国は覚えているかな?」

 

あれだ、砂漠の国だ。

 

「ええっと、はい。東の大国でしたっけ?」

 

「そうそう。そこの皇女さんだったね」

 

「ストップ! そこまででいいです!」

 

質問はしない方がいいって言い聞かせてたのに……なんで大国の王女様が出てくるの!?

そんな人となぜか知り合いで、そんな殺し文句で頼みごとするとか。もうこの先は聞いちゃいけない。アルさん像が属性過多だ。

 

「私のは……そういう頼み方が必要な感じだったのかな?」

 

「私が口を挟んだ通り、軽いものではなかったさ。とはいえ普通あの誘い方はせんと思うが」

 

「本当にアルさんは英雄さんじゃないんですよね?」

 

「うん、それは兄さん。だけど兄さんは結構自分の好き嫌いも、他人からの好き嫌いも激しい人だったからね。その皇女さんともそんなに仲良くなかったかな? 相対的に僕の方が人付き合いはよかったと思うよ」

 

「アルさんに付き合いにくさは一切ないですからね。商人の必須スキルです」

 

あたしたちの中で兄弟持ちっていないけど、いたらこんな感じに性格分かれるのかな?

お兄さんに会ったことがないからなんとも言えないけどね。

 

「取り敢えずハーレムではない事はわかったよ」

 

「とりあえずなんですね?」

 

「身の潔白まで長そうですね」

 

「在り方はそう簡単に変えられないからねえ。それで、御用はハーレムかどうかの確認だったんですか?」

 

「その話はここに来てからだ。ここに連れて来る事自体が目的だったんだが……な」

 

「お店を見せるだけでもひと悶着だなんて……」

 

 

 

一旦アルさんのハーレム疑惑は晴らされて。

天然であるのはより理解できたところで、やっとあたしたちの作業場へ案内だ。

 

まず最も広いアルさんの作業場。今日は珍しくあたしが使うような釜を使ってるところ。

 

次に拡張スペースその1である、あたしのアトリエ。

端に設置してある例の大釜の前に机とコンテナを置いて、中和剤や素材やらが転がってる。

 

そして拡張スペースその2のクラウディアのキッチン。

あたしと似た感じで大きな窯と、調理台の上に調理器具や食材が並んでる……片付いてるね。

 

別に仕切りがあるわけじゃない。一つの大きな部屋でスペースを分けてる感じだね。

とは言えクラウディアの取り扱うものは食べ物だから、ホコリが出そうなアルさんの大きな器具とは対角上に配置されていたりもする。

 

「釜に窯に大釜。やっている事は似ているようで結果は全然違う感じなんだね」

 

「僕は普段錬金術を使いませんからね。手作業が多くなります」

 

「あたしは見たまんまですね。大釜に素材を放り込んで調合してる感じです」

 

「私は錬金術じゃないけど……やっていることはライザ寄りになるのかな?」

 

「性格が出るな」

 

「あっちもアトリエになるんだろうけど……こっちの方が雑多だね」

 

「片付けます!」

 

自分の部屋はわりかし片付いてるんだけどなあ。

レントやタオが良く来ることもあるし、お母さんに言われたりでそうなってるのかも。

 

「アルは何故錬金術を使っていないの?」

 

「元々この島には錬金術の概念がありませんでしたし、そういった未知の知識を避ける傾向にあるんですよ。だから僕も基本的には非公開です。それに全て錬金術でやってしまうと考えなくなりますから」

 

「アルさんが錬金術――錬成を使えることを知ってるのはあたしたちとボオスだけですよ」

 

そんなあたしの言葉を聞きつつ、キロさんがある物に目を向けた。

 

「……そのわりに、これは多分錬金術なんだよね?」

 

「分かりますか?」

 

珍しくアルさんが使っている釜。火にかけて何かを煮詰めてる感じは調合に近いよね。

 

「ちょっと実験をしていまして」

 

「実験……エレメント関係でいいのかな?」

 

「キロさんに教えてもらった光の加護。それをエレメントにしてライザみたいな調合が出来ないかと思いまして」

 

「そんなことしてたんですか!?」

 

思ってたより大実験だった。光属性って普通じゃないんですよね?

出来ちゃったらあたしの出番無くなりません?

一方でキロさんは思案顔だ。

 

「ん~纏ってはいるけど混ざってはないね。雷と火がごっちゃになっていて、全体を光で覆っているだけという感じ。ライザの錬金術ではダメなの?」

 

「全くそんな事は。ただライザは今は別の調合をしてますからその前に自分で実験を、と思って。やはり僕ではダメみたいですね」

 

ならばここはでるっきゃない!

 

「じゃあアルさん。ここからあたしがやってみてもいい?」

 

「うん、それじゃあお願いするよ。素材はこれだよ」

 

「普通の頼み方だね」

 

キロさんまだこだわってる……。

ええと、これはあれだ、ゴルディナイト。前にメイプルデルタでアルさん用に採ってきたやつ。

それと、こっちの不思議な色の石は?

 

「セプトリエン? よく砕けたね……違うね、砕いたわけじゃないのか」

 

「ということは、これってキロさんの世界の?」

 

「ん。でも硬すぎて加工出来ないから使い道がない。クリント王国の者達もすぐに諦めていた」

 

「偶々割れていたこれをそのまま武器代わりにする程度だ。塊ならわりとあちらではそこらに転がっている」

 

「僕の錬金術にあまり物性は関係ないですからね。ああ、事後報告ですみません。オーリムの素材をいくつか少し持ち帰らせてもらいました」

 

「わかった。せめて有効活用してくれ」

 

「包丁とかに出来ないかな?」

 

「ケガしちゃわない?」

 

絶対欠けなさそうなとんでも包丁が出来る気がする。

 

さて釜の中身だけど、アルさんの分解の作用なのか物としてはちゃんと混ざってる。

もはや液状化してる感じだ。これをフィルフサはくらってるのかあ……ちょっと同情。

けど、たしかにエレメントはバラバラ。ゴルディナイトとセプトリエンそれぞれの雷のエレメントすら混ざってない状態だね。

 

ということで、リンケージ調合をイメージしてあたしの魔力を流してみたんだけど……。

 

「う~ん、レシピのイメージが湧かないです……。両方の素材が独立しすぎてる? エレメントが素材から離れないっていうか」

 

「合ってる。セプトリエンと、その黄色い石(ゴルディナイト)への、エレメントの親和性が良すぎるんだね」

 

両方ともそのままでとっても「安定」してるからバラすのが難しい。

あたしが普通にやっても他の素材と結びつかない。アルさんの分解だからこそここまでになった。

 

「そうかい。じゃあ元々難しい錬金術だったのかな」

 

「ちなみになんでこの組み合わせを?」

 

あえてこの2つを選んだ理由が分かんないなあ。

 

「ゴルディナイトは面白い性質があってね。そのままならライザ達に採取して貰ったようにある程度柔らかいんだけど、他の金属と混ぜると一気に硬くなるんだ。僕らの言葉では強化元素って言ってね。だから元々硬い素材と混ぜたらどうなるかなと思ってさ」

 

「セプトリエンを超える鈍器が出来そうだな」

 

「高級な金属ってそうやって作られているのかな?」

 

へ~。

まだ使ったことない素材だけど、そんなおもしろ性質が。いつかのぷに団子みたいね。

何か使い道がありそうだ。今度自分の分も採りに行こう。

 

「……ん。じゃあちょっと試そうか」

 

キロさんが考えた末に、なにかひらめいたらしい。

 

「何をですか?」

 

「私が手伝う。アルの光の加護を繋ぎにしてエレメントを纏められるか」

 

「精霊の力でそんな事が可能なのか?」

 

「わからない。そもそもオーレン族が錬金術に触れるなんてね。まあでも……やってみていいんじゃないかな。そうはない機会だし」

 

エレメントの制御に関して、キロさんは間違いなくあたしの上位互換だもんね。

出来ちゃうかも?

 

「それでは……お願いします。具体的にはどうすれば?」

 

「私だけじゃ光の加護を使えない。だからアルに触れて加護を扱いながら、エレメントを纏める。と、なると……」

 

「……こうなりますよね」

 

呟いたクラウディアは――なにを思ったんだろう。なんとなくわかるんだけど。

 

釜の前にキロさんが立ち、すぐ後ろにアルさんが立ち、アルさんが釜に向かって伸ばしている両腕の間からキロさんがその腕を掴んでるような感じ。

あれだ。泳ぎを教える時に向かい合わせで手を持ってあげるのが、同じ向きになった感じ。

背丈に差があるから、二人とも若い見た目なんだけど親子に見えなくもない。

何故だか分かんないけど、2人に後光が差してみえる。

 

「それじゃあアルは錬成? と光の加護を釜に送るイメージを続けて。加護には私が問いかけるから」

 

「分かりました……構築に混じらないようにしないと」

 

「じゃあ……Mixta.」

 

2人が錬成、でいいのかな? この場合は。

キロさんが両目を閉じて、釜に向かって何かつぶやいてる。

見た目は特に変わってないけど……。

 

「むぅ……Colligentes.」

 

キロさんが詠唱で釜の中の素材に問いかけ続ける。いや、加護に向けてなのかな?

 

「なら……Unum est Omnia.」

 

「僕も何か……「(ぜん)は、(いち)」」

 

えっ、なに? アルさん、精霊の言葉まで分かるようになった!?

 

「なっ」

 

途端に釜が光り始めてリラさんがいち早く反応して。

 

「……黄金の延べ棒だあ」

 

クラウディアが感嘆してた。

延べ棒ってのはわかんないけど釜の中で金色のインゴットが出来た。

インゴット経由じゃないのに同じような形なのはアルさんのイメージのせいかな?

まさかこんなものが。

 

「ふう。なんとかいけたね」

 

「出来ましたね。成程、これは制御が難しいわけだ。オンオフが僕には分からない」

 

「アルが問いかけないと加護が反応しないんだね。途中から私の言葉が分かったの?」

 

「いえ全く。本当に何となくだったんですが……」

 

あたしにとっちゃレシピ無しで草から武器を作るレベルだ。そりゃあ難しいよね。

 

「キロさんはなんて言葉を?」

 

「え~とね。「混ざれ」、「集まれ」、「個々で成せ」、って感じかな?」

 

「それに対してアルは「全ては一つ」と返したと。流れはともかく意味は大体合うな」

 

「それで出来上がるのが黄金なんですか? ……これは大変なことですよ」

 

さっきまでクラウディアの目がキラキラしてたけど、一転して真剣になった。どうしたのかな。

キロさんがアルさんの腕を離し、釜の中の金色のインゴットを持つ……けど。

 

「ふんっ……おっ、重い……とても……とても重い。アル、持って」

 

「はい……へぇ、たしかに随分と重いですね。金よりも更に重い?」

 

「アルさん、あたしもいいですか?」

 

「気を付けてね。足に落としたら大ケガするよ」

 

両手でプルプルと金色のインゴットを持つキロさんから、片手でがっしり持つアルさんへ。

そして両手を上に向けて構えるあたしに、アルさんがそっと置いた……んだけど。

 

「うお重っ! なにコレ!?」

 

ありえないよコレ! 普通のインゴットの3倍は確実にあるじゃない!

持てなくはないけどかなりツライ。

 

「ほう? 見た目のわりに随分中身が詰まっているんだな。レントとタオの重りに良い」

 

「本当に……黄金にしか、見えないんだけど……重たいね、これ」

 

続けてリラさん、クラウディアも持つ……クラウディアもプルプル状態だ。

そしてあの2人のトレーニングの過酷さが増すのが確定した。ご愁傷様。

そこから再びアルさんの下へ。

 

「重量は……ざっくり20キロくらい? 入れた素材の量からじゃあり得ない重さですね」

 

「……約200万コール?」

 

「コレそんなに高いの!?」

 

あたしの借金全部返せるんじゃない!?

 

「クラウディアの言った「大変」の意味が分かった。それだけ金があれば食い放題だな」

 

「これで食べ放題になれるの? それは大変だね」

 

「金とは重さが違いますから換金の際にバレます。無理ですよ」

 

「ちなみに「大変」の意味合いも違います!」

 

アルさんは原子量がどうこう、クラウディアはインフレがどうこうってことだったけど、両方あたしには分かんない――あれ、クラウディアの言葉はこの世界のものだよね?

それにしても。

 

「これが成功したってことは……あたしはお役御免ですかぁ」

 

エレメント制御が抜群のキロさんと、形状を含めた物質の錬成が出来るアルさんで成り立っちゃうから、あたしの入る余地がない。うぅ~、数少ないアイデンティティ(存在意義)が。

 

「それはないよ。エレメントの話はライザが釜の中を均一にして、更にある程度の方向性を持たせたから私でも扱いが利いた。そもそも属性の異なるエレメントを纏めるなんて事は私に出来ないから。アルだけじゃごっちゃの状態で、私じゃそこから制御っていうのは論外だね」

 

「僕は光の供給源にはなれてもエレメントの扱いは素人という事だよ。やっぱり調合はライザがいないとね」

 

「……ライザ。顔がゆるんでるよ」

 

おっといけない。よだれは回避しないと。

よかった、まだ活躍の場はありそう。錬金術士の魔力がいるって事でいいのかな。

そもそもアルさんのお手伝いをするために錬金術を始めたんだから、これが無くなるのはツライ。

 

「それに私の拠点はここじゃないからライザより圧倒的に時間は少ないよ。実験には光の扱いって事があるから私としても興味があるけれど、必要な錬成はまとめてやりたいね。それに私が光の属性を扱えるかも協力してもらいたいし。それとも……アルは私もここの一員希望?」

 

「嫌疑は晴れたのでは?」

 

「まあそこは2人で話をしてくれ。それで、出来たコレは結局どんな代物なんだ?」

 

あの誘われ方は根深そうだ。キロさん結構おちゃめ?

リラさんはお話を元に戻してもらってありがとうございます。

元々硬いもの同士を混ぜたらどうなるかって話だったもんね。

 

「エレメント的には……元になっている雷と火だね。やっぱり光は宿ってない」

 

「物性は~っと」

 

アルさんはどこからかハンマーを持ってきて、金色のインゴットを軽く小突いてみた。

 

キンッキンッ!

 

明らかに硬い音がする。全くキズがついてないよね? スタルチウムより硬い?

 

「間違いなく金とは別物ですね、遥かに硬い。錬成を使うならまだしも普通の道具には無理がありそうです。加工器具が壊れそうだ」

 

「黄金なら間違いなく変形していますよね」

 

「そうなの? べこべこになっちゃうとか?」

 

「う~ん。コレは僕の世界でも禁止事項なんだけど、まあ少しならいいか。小さなブロンズアイゼンを貰っていいかい?」

 

アルさんにブロンズアイゼンを渡して、アルさんが手合わせ錬成をする。

出来たものはさっきのに似てたけど、大きさは半分以下になったね。

 

「これの重さはブロンズアイゼン(元の材料)と一緒なんですね」

 

「本物の黄金も作れちゃうんですね……」

 

「ちなみにこういう違いもあるよ」

 

そう言って、アルさんがハンマーを金に思いっ切り叩きつけた。

クラウディアから「ああっ!?」って悲痛な声が……。

ハンマーをどかした下からは――なるほど、ぺっちゃんこだ。別物なんだね。

……ちょっクラウディア!? なんでorz状態!? しっかりしようよ!

 

「作るのは可能だけど……クラウディアの懸念通りインフレ待ったなしだから僕らの世界でも禁止事項だし、金の錬成は高難度だからね。単なる混ぜ合わせじゃなくて、そもそもの素材の在り方を変えなきゃいけないから。術者にも負荷が大きくてリバウンドの可能性が高いんだ」

 

金を作るには金がいるらしい。そりゃそうだ。

でも錬金術って、もともとそれを目指してたんじゃなかったでしたっけ?

 

「これなら間違いなく食い放題なのか?」

 

「ダメですよ。元に戻しますからね?」

 

「……ねえクラウディア。アレならいくらくらい?」

 

「アレでも20万コール以上は……黄金はホントに貴重だから。見た目がきれいだし何年経っても色が曇らないんだよ? 他にもいろいろ使い方があるらしいから世界中で探索されているって……今それが一瞬でペチャンコになっちゃったわけだけど」

 

よかった、まだちょっと引きずってるけど復帰してくれた。

元がコベリナイトなものを黄金に変えてるんだから、いかにぶっとんでるか分かるよね。

でも金を錬るのは簡単じゃないらしい。

 

「さて、コレに名前でも付けようか。案はあるかな?」

 

「いつまでも「金色のインゴット」じゃなんですもんね。でも偽りの金とかマイナスな……」

 

さすがにそれは……ないんじゃないかなクラウディア? ええと。

 

「材料はゴルディナイトと……セプトリエンでしたっけ?」

 

「ゴルディナイト……そのまま「金の鉱石」って意味がしっくりくるかな」

 

「セプトリエンの「セプト」は7って意味。「トリエン」は混ざり物って感じだね」

 

「7つの金の混ざりもの……もうわけが分からないな」

 

リラさんの感想通り、通じる意味にするのは難しそうだ。

なら混ぜつつもそれっぽい発音に。例えば。

 

「ゴルドリエン……? う~ん、なんかしっくりこない……「ゴルドテリオン」ってどうですか? 2つを混ぜて発音しやすい感じで」

 

ということで、あたしの命名「ゴルドテリオン」が採用された。やったぜ。

 

 

 

それからあたしはクリミネア調合の実験をしつつ、アルさんの錬成を手伝うことになった。

アルさんは手持ちのゴルディナイトとセプトリエンを大体ゴルドテリオンにするつもりらしい。

キロさんに何回も手伝ってもらうわけにはいかないもんね。

ただセプトリエンはオーリムの素材。量がないからそんなにたくさんはもともとムリだね。

 

終わったくらいに「ぐうぅ~」という小柄なキロさんから想像できないお腹の音が鳴ったので、お昼にすることにした。

今日はアルさんの担当日だ。

 

「キロさんは何か食べられない物とかありますか?」

 

「ないよ。あっちではクミネの実とか食毒草を食べる事もあったし、虫はご馳走だったね。お腹が鳴ったのを自覚したなんて何時ぶりかな」

 

「私の食事の感覚が分かったか?」

 

「はい……よく分かりました」

 

普通の食べ物なんてなかったんですよね。

そういう意味で――あたしたちはとっても恵まれてるんだ。

 

「分かりました。じゃあ今日は特に食が進むものにでもしましょうか」

 

「シン料理ですか?」

 

「そうだね。でも2人にも食べてもらったことはないかな」

 

そう言ってアルさんは地下倉庫から生肉と……白くて四角い柔らかそうな何かを持ってきた。

 

「なんです、コレ?」

 

「トーフと言ってね、豆の汁に塩っ気を抜いた湖水を加えるとできるんだ。海水の方が固まりはいいかな。あまり日持ちしないのが残念なんだけど」

 

「お豆を四角く固めた感じですか?」

 

「イメージはそれで合っているよ」

 

アルさんはまず生肉を包丁で細かくバラバラに潰していってる。

それをあの丸い巨大片手鍋で炒めて、アルさん自家製の調味料を加えていく。すでにいい匂いがしてきた。

ただ、全体的に赤茶色い。

 

「味見番はまだか」

 

「まだなの?」

 

「ないですよ」

 

オーレン族は食いしん坊が多いらしい。まだお肉炒めただけですよ?

2人から感じる絶望感がすごい……。

 

その間にさっきのトーフっていうのを四角く切り分けて、塩水で軽く茹でる。

お肉の方にもお水を入れて伸ばした後、茹でたトーフを入れてさらに煮詰めて。

さらに……何か白い粉を水で溶いてる?

 

「これは?」

 

「スターチだね、私のお菓子にも入れたりするよ。プリンとかに使うかな」

 

それを鍋の中に回し入れる……少し固まってきた? ゼラチンとは違うみたいだね。

 

「おもしろい。液体が固まるんだ」

 

「糊に近いですかね」

 

そこにラウホ(ネギ)を入れて、更に少し煮詰めて――完成!

うん、やっぱり赤茶色い。

 

「はいお待ちどう。シン料理のマーポートーフって言います」

 

「クーケンフルーツとは全然違う赤さですね」

 

カプシカム(とうからし)の色だよ。少し辛いからね」

 

「王都だと虫除けに使われてますけど……食べられるんですか?」

 

「匂いはいい」

 

「早く食べる」

 

いつの間にか数が増えたお皿によそって、炊いてあった麦と、量がなかったからとりあえずパン。

それでは。

 

「「「いただきます」」」

 

「いただこう」

 

「? 食べる」

 

「かなり熱いですから火傷しないでくださいね」

 

オーレン族に元々食前の挨拶の習慣はないらしい。

スプーンでトーフを掬ってみる。スターチで粘り気が出たこともあって熱そうだね。

しっかり冷まして、口の中へ!

 

「んっ――おいしい! たしかにちょっと辛いですけど塩っ気と合うんですね」

 

「カプシカムってこんな味がするんですね。もうちょっと辛くてもいけるかな」

 

「本場はもっと辛いし、他にも振りかけるものとかあるんだけどね。カプシカムをそのまま入れても辛いだけだから色々工夫するんだ」

 

辛い料理は新感覚だけど、これはおいしい。

塩っ気が強いから麦で薄める――食が進むってこういうことだね。

しかも冷めにくいから冬場にいいかも。今は夏だけど。

 

「「おかわり」」

 

「はやっ!?」

 

「はいはい、ちょっと待っててください。鍋ごと持ってきますから」

 

「オーレン族は舌も強いんですね」

 

「美味しいって感覚が久しぶり。昨日拠点で食べたのと全然違う」

 

「あれは料理ではなくただ腹を膨らませただけだからな。アンペルはなんでも甘くしたがるから、私には合わない……となると昨晩の様になる。まともな飯ならここだ」

 

「分かった。アル、もっと辛くできる?」

 

「オーレン族の胃が篭絡されてる……」

 

あまり表情が表に出ない二人だから真顔で「おかわり」って言うのがなんかおもしろいわね。

アルさんは鍋と一緒に、赤色の元である自家製調味料を手に持ってきた。

 

「これはなんなの?」

 

ドーバン(豆板醬)っていいます。色々入れてますけど豆とカプシカムの塩漬けと思ってもらえれば」

 

「これも豆……前の炒麦の味付けもこのトーフもそうですけど、豆料理が多いんですね?」

 

「そうだね。わりと育てやすいし日持ちもするし栄養価も高いし、生では毒があるから動物に食べられにくい。いろいろと便利なんだよ」

 

「お豆の原形が全然ありませんよ?」

 

「作ったのは2年位前だからね」

 

「「2年前!?」」

 

「随分と日持ちするんだな」

 

「あ~む…………からい……」

 

表情は変わらないけど辛かったらしい。汗をボタボタ流してる。

暑くなったのか、キロさんが初めてフードを取った。

髪に見えるけどちゃんと獣人の耳っぽいのがあるんだ。

リラさんよりもあたしたちとの差が分かるね。

 

「そりゃそんなガブッと食べる物じゃないですよ。お水です」

 

「んくっんくっ……ぷはぁ~~。あちらだったら死んでた」

 

「笑えん冗談だ」

 

「このお鍋にどのくらい入れたんでしたか?」

 

「大さじ2杯だね」

 

「その半分を一口で食べたら、こうなりますよね……」

 

7、8人前の料理に2さじでこの辛さなのに、それを一口で食べてこの程度で済んでるのが凄いと思う。クミネの実とか食べてると鍛えられたりするのかな?

今度は少し掬ってマーポートーフに入れて食べてるキロさん。やっぱり辛いのがいいみたい。

リラさんはトーフを分けてお肉をパンに乗せて食べてる――あれ、パンの残数が?

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「馳走になった」

 

「美味しかった」

 

「お粗末さまでした」

 

お昼を食べて2人は拠点に帰っていった。なお鍋の残りは2人が全部食べた。

ちなみにクラウディアの作った焼き菓子もお土産に渡してるよ。

 

次は別メニューで魚介希望らしい、お昼のために来る気満々だね。

魚介はあたし担当だし頑張らなきゃ。

 

あとは錬成の時に言ってた光の属性が使えるか実験したいってことで、明日拠点に行くことに。

あの規模の魔法を島で発動させたら大変じゃすまないもんね。

 

「今思ったんだけど」

 

クラウディアが何か思いついたみたい。

 

「アンペルさんの所もリラさんとキロさんの女性2人がいるんだから、あっちもハーレムみたいってキロさんは考えているのかな?」

 

まだその話続いてたんだ?

 

「2対1程度じゃハーレムって言わないと思うけどね」

 

「そもそもハーレムってどういう状況なんですか? 単に男性1人に女性2人以上ってわけじゃないですよね?」

 

「具体的な数はないけど……一夫多妻、1人の男に多人数の妻っていうのが一応そうなるかな。シンも皇族のトップ、前の皇帝はそうだったね」

 

「何人くらいだったんですか?」

 

「たしか……50人? お子さんも40人以上いたって聞いたかな。ちなみに僕に協力してくれた子は17番目の皇女さんだよ」

 

「そこまで来ると愛情なんてなさそうですね……」

 

「実際そうだろうね。一部族につき一人の嫁を強制させてたみたいだし。リン……今の皇帝から変わったんだけど」

 

いまさらっと王様もお知り合いみたいな感じだったよね?

それとアルさんがハーレム気分じゃない理由が分かった。基準がおかしいんだ。

 

「もし多かったとしても、アンペルさんがたくさんの女の人の中であろうがやってることが錬金術しか想像できないから、やっぱり違うんじゃない?」

 

「アンペルさんって錬金術以外は何をやっているんだろうね?」

 

アンペルさんも過去が分からない人よね。

未公開って点ではアルさんよりも多いし。年齢も本当に不詳だもん。

右腕をケガしてるってことだけど……。

 

 

 

その後はあたしはクリミネアの調合……形にはなったよ。武器に使えるかな。

アルさんはさっきのゴルドテリオンで何かできないか考え中だ。

クラウディアはいつの間にやら、以前アルさんが作ったホールケーキを作った上に、中にも細工が出来るくらいになってた。

更にアルさんからのアドバイスをもらって、「ショートケーキ」なる物を作ってるらしい。

 

みんな成長してるなあ。今が結構ヤバい状況なんだとは思えないんだけど。

約束は約束で、島の日常は守らないといけない。

なんにせよボオスの手引きがないと先には進めない――頼むわよ、ボオス。




加護の活用法の例です。錬金術の神髄なんて参考書はなかった。
アルでもキロでもライザでも、通常1人では使えないって事ですね。

ゴルドテリオンの売値は作者の手持ちので233コールでした。カンスト品なのに。
原作ではエドがボタ山から金を錬成していましたが、難度はどのくらい違うんでしょうね。

次は加護の実験、実戦編です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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