ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
でも一方で、本来なら支払う必要のない代価を払う存在もいるんじゃないでしょうか。
その理由は様々でしょうけれど。なお本話では代価と対価が混じります。
誤字報告ありがとうございます。文章が長くなるとヒドイですね……。
今後も1万文字オーバーの話が何回かはあるんですが。
今回はライザ視点ではありません。
よろしくお願いします。
島へと向かう舟の上。
私は島に背を向けて、船頭の方を向いている。
ボオスにお礼というのも勿論嘘じゃない。それはそれで大切な事だ。
でも今は……もっと優先すべき事がある。
アルフォンス・エルリック。
彼しか居ない状況でしか、するべきではない事だから。
そう、私は――
「何かお悩み事ですか?」
「分かる? 表情が分かりやすいと言われた事はないけれど」
「空気で分かりますよ――張りつめている。尋ねるか悩みましたが、聞く事を選んだって事です。あぁ、内容を知りたいって事では無いので」
「ううん。私としても……きっかけが欲しいところだったから」
「きっかけ、ですか?」
「そう……お詫びの、きっかけ」
――彼に、謝罪しなければならない。
「謝る? なにを」
「大陸暦1911年10月3日」
彼の顔から表情が消えた――いや、驚愕に塗り潰されたのか。
それでも負の気配が全くしないのは流石だね。
彼の人柄が分かる。
「何故、その日付を」
「ニーナ・タッカー」
今度は苦々しい表情。
当然だよね。あんな結末、私は受け入れきれない。
そして、その起点も。
「……トリシャ・エルリック」
「…………全て、ご存じだと?」
「貴方の全てを私の頭に入れたら、多分その場で死んでいる。それだけの
言い訳をさせてもらえるなら、見えてしまったのは偶然の産物のはずだ。
森からの帰り道の途中、彼が纏う光の加護――その正体が何なのかを知ろうとした。
それが間違いだった。
原理も理由も分からないけれど、私の意識が彼の中に引っ張られた。
そして、頭の中に莫大な量の情報を叩き込まれた。脳が焼き切れるかと思った。
なんとか整理し得られた情報はあまりにも非常識で――だから彼の持つ「記憶」だと行きついた。
誰が、一度は「全身を持っていかれた」だなんて思うだろうか。
「加護に触れた、その副作用ってところですか」
「可能性としてはね……でもそんなの言い訳にならない。私が必要以上に踏み込もうとしなければこんな事にはならなかった。各人の最大の秘密、記憶を暴くなんて何であろうと許される事じゃない。本当に、ごめんなさい」
今の私に出来るのは、せいぜいフードを脱いで頭を下げる事だけ。
許される事は期待していない――これは自己満足だ。単なる保身なのかもしれない。
でも、そうせざるをえない。あまりにも知り得た内容が重い。壮絶すぎる。
幼い頃の母の死から、禁忌に踏み込んだ惨状と代償、賢者の石を巡る欲望と血と死の嵐。
私の数百年間なんて、彼の4年間に比べたらなんと変わり映えのしない日々だったのだろう。
「勘弁してくださいよ、別に怒るとかそういうのはないですから。黙っておけばよかったのに……というより、大丈夫だったんですか?
「この僅かな時間だけでも知った事だけど……お人よしだよ貴方は。私でも少しは嫌悪感を抱くでしょうに、貴方の場合は寧ろ私の心配をしている。許してって事じゃないんだよ、自分に嘘をつきたくないっていう自己満足だから」
「なら何故心配しているかも分かるでしょう?
「多分その真理を見るに至っていない。等価交換が原則でしょう? なら私は代価を払ってなきゃいけないよ。兄のエドワードさんは左足と右腕、師匠のイズミさんは子宮周辺の内臓、恩人のロイさんは両目の視力、貴方は全身で……エドワードさんの代価の一部でもあるんだよね? そして貴方の魂がおかしくなっている原因だろう父親のホーエンハイムさんは出自故に自身の代価が不要。でも私が失った物はないよ、ふざけて良いなら常識くらいだね」
真理――「セカイノナカミ」を知るなんて、本来私達ヒトが持っていていい権利じゃない。
それ故に、行使した場合は理不尽と言える代価を請求され、通行料として無慈悲に搾取される。
全く、なんと人間に不親切な世界の仕組みなのだろう。
「その辺りも知っているという事は相当に色々ご覧になったようですね。忘れろなんて言いませんけど――忘れた方がいいですよ。結果こそ僕らにとっては良い方向になりましたけど、そこに至るまでの経緯はこの世界に持ち込むべきモノじゃないと思っています」
「神となるべくホムンクルスによる5000万人分の賢者の石の錬成、ね……でも「
あの鎧、思い入れどころじゃない――まさか「前の身体」だったなんて。
兄を救うために兄を信じて、自身の魂を対価にして窮地を救ったアル。
そして弟を救うために、彼の根幹といえる錬金術を躊躇なく対価として払ったエドワードさん。
本当にとんでもない兄弟だった。英雄とはこういった存在を指すのだろう。
「元々錬金術師である事もこの10年明かしていませんでしたし……ここへ来た理由の調査はありましたけど、唯の「アルフォンス・エルリック」という漂流者でいる事も考えていたんです。ですが僕らも色々見て回るのが好きだったって事と、今のライザ達が昔の僕らにどこか重なりまして。そこから手助けし始めた事から今みたいな状況になっているだけの脇役ですよ。ライザなんて、本当に僕の発言をなぞった事がありますからね」
「ライザは面白い子だね。本人に全然自覚がないのが不思議だけど、この世界の錬金術士としては貴方やエドワードさんに劣らない才能だと思っているよ。程度はあるけどあの子は光のエレメントを扱えた。リラから聞いたけど、アンペルも貴方の世界でいう国家錬金術師に該当するらしいから、それを超えようかというライザの才は凄まじい。けどあの子も貴方達と同じように、本当に大きな事を為しても誇らないんでしょうね」
「アンペルさんが? それは初耳ですね。ライザはそれが凄い事だなんて思ってないんですよ。日常を抜け出したいと思いながら、誰より日常を守る事を大切にしている。彼女にとっては「当たり前」なんです」
日常を守る、か。
失った日常を取り戻そうとしてる私と、今ある日常を守ろうとするライザやボオス達。
リラは私をオーレン族の誇りと言ってくれたけど、彼ら彼女らも同じだけ誇られるべきだね。
「まあとにかく……咎めるとか借りだとか、そんなのは考えていませんから勘弁してください」
事実すら受け取ってもらえないか。それだと私が自責で潰されそうだ。
「じゃあここからは完全な自己保身だね。私の話をしてもつまらないから……原則貴方には従うし、貴方に何かあったら必ず貴方を助けるためだけに行動すると約束するよ。私なりの等価交換」
「オーレン族の貴女が僕らの錬金術の原則を口にするものじゃないですよ。それに、僕らは旅の末に等価交換に代わる原則を得ました。等価交換が絶対じゃありません」
「プラス1、でよかったかな? なら謝罪プラス使役の権利だね」
「もう少し自分を大事にしてください。貴女を使用人にするような真似など」
「ハーレム」
「まだ続いてたんですかそれ!?」
「お婆ちゃんじゃ不味い? 多分ホーエンハイムさんより年上だと思うけど……」
私にとって――あれだけ見ておいて頭を下げて「はい終わり」とはいかないものだよ、アル。
それに事実を伝えた以上、今まで通りのお付き合いはアルがよくても私には無理だ。必ずどこかで綻びが出る。
線は引き直さないといけない。一先ずこうしておこう。
「アル、実はライザに少し困っている。違う? 」
「……なんでそう思うんですか?」
「視線。本来男は人と視線を合わせられないんだよ? それは獲物を見る行為だから。けどアルは誰でも真正面から視線を合わせられていて、それは女からの好感を誘う。これはまあ自然にやっているんだろうけど……ライザへは意図的に外しているよね? 今以上に近づかれないように」
「……それ、どうすればいいんですか? 特に最近のライザは警戒心が無さすぎるんですよ。そも、何故島でただ一人あんな格好を……」
「女というのは見た目と中身と女としての自分が一致していないんだよ。ウィンリィさんやメイで学ばなかった? その防護線を私が張ろう」
ようやく彼がただの男の人に見えた。彼も女の扱いは学びきれていないらしい。
少々無理矢理な理由にはなったけど、近くにいる理由の一端にはなる。
「メイの事もあるから線引き内に踏み込ませないのでしょう? まあライザもクラウディアもリラも、見た目に比べてどうにも男っぽいところがあるから大丈夫だと思うけど。ライザが貴方に見ているものは恋愛のそれでは無さそうだし……さて、それじゃあ本来伝えるべき事を伝えるよ」
随分長い前置きになった。けど話は締められた――彼に拒否されなかった事実が大事。
この辺の解説は本来不要だったけど、まあ私の勝手のせいだったしね。
「何か分かったという事ですか?」
「ん。まあ記憶を見せてもらって分かった事だけど……アルは魂が鎧に宿って身体と精神が分離していたよね?」
「そうですね。兄さんに魂を錬成して貰って精神は兄さんと混線し、真理の扉の前の身体に兄さんからのエネルギーを貰っていたお陰で僕は生き残った。そう認識しています」
エドワードさんと混線を起こしたおかげで、アルは肉体が朽ちずに生き残っている。
魂の錬成自体もすごいけど、混線は血縁の血を使った偶然による奇跡といえるね。
「あの真理の世界は多分だけど精霊の世界に近い……んだと思う。物体と精神と魂、それぞれだけで存在は可能みたいだし。だからあの世界にいたアルが、精霊を認識できるこちらの誰かに感知されて召喚されたんじゃないかな。記憶が6年後のものなのは……世界のズレ? これはまだ分からないけど」
「当時の僕の肉体はほぼ全ての期間で魂を持っていませんでしたからね。身体をあそこから引っ張り出して、魂と精神だけ6年後……。召喚という未知の技術とはいえ、真理から僕を連れてくるなんて芸当が可能なのかが不明なのと、今この瞬間における元の世界の僕の存在の取り扱いが気になりますね。まだまだ分からない事だらけですよ」
たしかにあの世界は異常。
そもそも一つの世界なのかすら怪しい。ただの「場所」にも思えるし。
あそこについて
まだまだ憶測だらけだ。
「アル自身は自分がどんな存在になっていると思ってる?」
「年齢の話があるまでは20歳の時点からここにそのまま飛ばされたと思っていました。召喚の話を伺った限りでは、その際のなんらかの不都合で「切り取られた魂」のように「身体が削られた」と考えています」
「ん~、光の加護を宿す対価に身体と魂を使ったのかな? これについてもまだ分からないね……そもそも加護を宿している時点でとんでもない事だし」
これ以上考えても分からなさそう。
大精霊様に会えれば話を聞けるかもしれないし、いつか伺いを立てるとしよう。
「まあ今は僕の事は本当にいいですから。先ずはフィルフサと水、そしてオーリムを元に戻す事に専念しましょう」
「……ありがとう」
「それと……他にも2つ解決しないといけないだろう問題が見えてます。ライザ達に協力してあげてもらえませんか?」
「? 手伝うのは勿論いいけど、何についてなの?」
「
事実上の誘拐、理不尽といえる召喚のはずだけど文句ひとつ口にしない。
本来なら漸く幸せと言える人生を歩んでいたはずなのに――本当にお人よしだ。
ボオスの見た女王はともかく……
そのうち聞けるというならその時を待とうか。
そういえば。
「ところでアルは「
「あれは国家錬金術師だけなんですよ。自分で名乗るものじゃなくて人柱候補として軍から付けられる、ね」
「何回かアルが「鋼」って呼ばれてなかった?」
「見た目の都合ですよ。本来は兄さんのオートメイル……「機械鎧」を指したものですから」
「まあ、アルが名乗るなら「鎧」しかないものね」
「僕が手合わせ錬成できるようになった際に「鎧の錬金術師」って単語も出た気が?」
私が見たのは全部アル視点のはずなんだけど――あの時だけは妙にデフォルメされた鎧のアルを第三者視点で見た気がするのはなんでだろう?
「じゃあ機会があった時は「鎧の錬金術師」と名乗る事にしようよ」
「誰に名乗るんです? それに僕とキロさん以外は経緯が分かりませんよ」
「そのうちライザ達も知る事になるんじゃないかな。代わりにライザにも何か二つ名を考えてあげよう。ああそれと、私に敬語を使う必要はないよ。敬われる謂れがないんだから」
「分かりまし……分かったよ。でも「さん」は付けさせてもらうからね」
そんな話をしている間に島の港に到着した。
まずは用事を済ませよう。
それから――自身に誓いを立てようか。
意図せずしてアルの過去を知ったキロ。
今後の彼女の立ち位置はアトリエ世界の住人でありながら
ハガレン世界を詳しく知っている存在です。前話で「少佐」と正しく認識していたり。
唯一アルと対等に会話ができるポジション。それゆえの第二主人公です。
こんな扱いにしてしまったから作者の胃がヤバいんです。
せめて3発表の前に投稿していれば……。
次は同日午後、ライザに視点が戻ります。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。