ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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トラベルボトルから帰還して、やっと話が進みます。ちょっと長めです。

今回もよろしくお願いします。


44. 70日目③  渦巻く白と輝く青

「こうやってライザと2人だけで舟に乗ったことあったかな?」

 

「なかったかも。そう思うと意外だよね、結構一緒にいる時間は長いのに」

 

夏の午後6時はまだまだ明るい。夕日がしっかり見えるくらい。

あたしが船頭になって島に向かって舟を進める。わりと難しいねコレ。

 

「いままでこうやって行商先で同年代の……しかも女の子と話す機会なんてほとんどなかったから。この島での思い出はずっと残るよ、絶対に」

 

「ただの思い出にしないでよ? ヒマがあったら来てくれたらいいんだし」

 

「お父さんの仕事を本格的に手伝うようになったらどうなるのかな……。ライザはクーケン島を出るつもりはないの?」

 

「あたし? そうだね。今日のボトルの世界もそうだけどいろいろ勉強っていうか――見てみたいとは思ってるかな。具体的にどうとかは全然考えてないんだけどね。なにかきっかけがないとなあなあになっちゃうかも。錬金術に行き詰まる~とか」

 

鉄道を見て思ったけど、人の発想ってすごいよね。

今のあたしじゃ全然思いつかないようなことが世界にはまだまだあるらしい。

錬金術もそれと同じ。思ってもないことから新しいレシピが思いつきそうだし。

 

「他のみんなは……この先どうするのかな」

 

「ん~まずレントは家を出るかな? ザムエルさんと一緒に居たくないはずだし。リラさんの訓練で相当に野生じみて来てるから島の外でも平然と生きていけそう。今はあの塔への到達だと思うけどね、ずっと目標にしてたから」

 

これはまず間違いない。野生じみて来てるのってこれを見据えて?

 

「レント君は周囲の山を登ってでも目指しそうだね……タオ君は?」

 

「タオはあたしたちの中で一番家業――ヤギの世話をちゃんとやってるし、家を継ぐかもね。でもアンペルさんのおかげでクリント王国とか古代文字に関して分かったことがずっと増えてるから、本格的に勉強の道に進むのかも? まだ15歳だし色々選べそうかな」

 

ボオス風に言うなら、島で勉強できることには限界がある。なら必然的に島の外になるかな。

 

「ボオス君みたいに王都に留学とか? そうなったら王都で遇うこともあるかな。後は……」

 

「アルさん、だね」

 

以前、「先のことを考える」とは言ってたしね。

ルーツがこの世界に無いってことは既に分かったわけだけど。

 

「すぐってことはないと思うけど……いつかは島を離れちゃうんだろうね。ずっとなのか戻ってきてくれるのかも分かんないけど」

 

「……元の世界に帰る。それもあり得るのかもしれないね」

 

「オーリムで言ってた「喚ばれた理由」かぁ。それを達成しちゃったら……ひょっとして勝手に元の世界に戻されちゃう?」

 

誰かに喚ばれたんだとしたら……用が済んだらポイッとされちゃうとか?

 

「アルさんの世界では10年間行方不明になっているんだから、そういう意味でも戻らないとだよ。一つの国を救った英雄の1人が失踪して大騒ぎになっちゃってるかもしれないし」

 

そうだよねえ。

あたしたちが島から出るのとはわけが違うんだもんね。知名度が桁外れの筈だ。

出身国に居たわけじゃないみたいだけど、それでも王女様や王様と知り合いだっていうんだし。少なからずそうなってそう。あの性格なんだから人付き合いも多そうだ。

 

「じゃあみんな島から出ちゃうかもしれないんだね。戻ってこれた時に誰も居なかったら……わがままだけど、それは寂しいね」

 

「先のことは分かんないね。ふた月前までこんなことになるなんて全く思ってなかったし――じゃあさ、一つ約束しない?」

 

先の事が分からないなら、こうすればいい。

 

「約束?」

 

「そ! あたしたちだけで決めるのもなんだから、レントとタオも入れた話になるけどね」

 

「……うん、そうだね!」

 

会えないかもっていうなら――会うタイミングを決めちゃえばいい。

破った場合は別の機会で会った時にご飯全おごりだ。

 

 

 

さあて島に着きましたっと。

7時ってとこだね。

 

「それじゃあ、また後でね」

 

「うん! 待ってるね!」

 

旧市街に到着してクラウディアはお屋敷に、あたしはアルさんの工房へ。

灯りは点いてるからアルさんはここに居るみたいだ。

 

「戻りました~!」

 

「おかえり。女子旅はどうだったかい?」

 

「結構充実しました! コレも入手出来ましたし」

 

腰のポーチからボトルの世界で見つけた雷球をアルさんにお披露目。

アルさんはどう思うかな……ああ、これはアレだ。研究者の目だ。

 

「へえぇ……随分と面白そうな素材だね。これ自体が電気を帯びているんだ。でもイナズマ鉱とは全く別物か。出力は品質で変わったりするのかな……コレ古城あたりで見つけたのかい?」

 

「いえ、ちょっと変わった場所です。アルさんにはまだ説明してなかったですね。今度アンペルさんたちの拠点に行く時に見せますね」

 

「見せる?」

 

まあ今の説明で分かるわけないよね。

これで「古式秘具だね?」って言われそうな気がするからすごい。

 

「アルさんは何をされてたんですか?」

 

「今日は久々にただの道具屋をやっていたよ。拠点に釜を拵えたのは知ってるかな。それと、()()()では新作扱い物をちょっとね」

 

釜と炉は無料なんだろうなあ……。新作って、前の排水ポンプみたいな? あっちの道具かな。

 

「錬成を使った道具みたいなものでも?」

 

「錬成はほとんど使っていないよ。無暗に広めるとボオス君に怒られそうだから、しばらくは工房だけで使うつもりさ」

 

そう言ってアルさんが見せてくれたのは……なにこれ?

金属製の、手のひらに充分収まるサイズの小さな長方形の箱。これが道具なの?

 

「この状態じゃ分からないよね」

 

カシャン

 

あ、上の部分がパカッと割れるみたいに開いた。

中には……紐と、丸い何か?

 

「これを見てもわかんないんですけど?」

 

「そうだろうね。実際に見てもらうよ」

 

アルさんが丸い部分に親指を当てて……。

 

 

シュボッ

 

 

火花が散って――火が点いた。

ほう!! 超便利!! 火種を持ち歩かなくていいんだ。

 

「すごい! あっさりと!」

 

「ライターって言って僕の世界では普及していたものなんだ。火打石と燃料をしみ込ませた綿を仕込んで、火打石にドラムを擦らせて摩擦で火花を飛ばすと燃料が染みた紐に着火する仕組みだね」

 

ライター、灯りを点すもの。そのまんまの意味だね。

島での火おこしの原料は薪、ロウソク。規模の大きなものは松明。光源としては魔石。

そこに火打石や非常用のマッチを使って、島ではちょっと希少な紙のくずとかセキネツ鉱に着火させるってのが主なやり方。

 

あたしが調合できるミックスオイルの方が便利なんだけど、販売はしてないんだよね。

あたしがいなくなったら大変な人が出てくるかもだし、まだちょっと様子見だ。

 

けどコレはすごい。一瞬で着火したし、やけどの心配も少なそうだね。

 

「燃料にはオイルを使っていると思ってもらえばいいよ。とはいえオイルも火打石も生産するには問題があるから、広めようと思ってもちょっと時間がかかるね」

 

「それでもすごいことですよ……なんで今作ろうと思ったんですか?」

 

「キロさんの「神炎の断罪」を見て、僕の世界の錬金術を再現しようと思ってね? 使った事がないけど、もしかしたら行けるかなと」

 

アレからかい。このちっさいのがアレに繋がるの?

 

「あの規模の炎をぶっ放すんですか? それ錬金術なんですか? 魔法じゃなくて?」

 

「まあその錬金術は秘術だから、実戦運用には相当な練習も理解も必要だね。中尉には勘弁してもらわないとなあ」

 

物を作る錬金術で炎を発生させるってなんなんだろう……。

あたしの誘引火瓶も近いものはあるけど、まだアイテムの範疇だし。

 

再現ってことは普通に使えた人が――あれだ、「たいさ」って人かな。焔ってこの人?

あの炎を連発する兵隊さん、ね。考えない方がよさそうだ。

 

アルさんがフタを閉じた。これで鎮火するらしい。水も土もいらないのはいいね。

 

「とまあ、僕の方はこんなところ。ゴルドテリオンを触ろうともしたけど、あれは僕だけじゃダメみたいだね」

 

「加工が出来なかったんですか? アルさんの錬成でも?」

 

「形状を変えるだけなら出来るんだけど……魔力方面はうまくいかないね。不思議な素材だよ」

 

使ってる素材も半分はオーリムのものだし、性質がよくわからないよね。

次の錬成の時はあたしの調合を混ぜてもらおうかな。

 

「じゃあそろそろ夕ご飯にしよう。まだ食べてからゆっくりできる時間だからね」

 

「そうですね。なに作りましょうか?」

 

「もう準備はしてあるんだ。あとは軽く茹でるだけだよ」

 

「お手数をお掛け致します……」

 

あれ、最近ここであたしがご飯作ったのいつだっけ?

 

 

 

アルさんが作ってくれた「ちゃおず」なる料理を頂いて、義手のレシピを考えながらまったり。

 

といっても、やっぱり緊張してる。全然集中できない。

「あの水」の話。奪った水で……あたしたちの命を繋いでる水の話だもん。当然かな。

 

「ねえアルさん。自分が使ってきたものが他所から獲ってきたものだったって経験ありますか?」

 

「どうだろうね……例えになるけど、アメストリスは建国されて500年位でしかなくて、その前にはさらに別の国があったと思えば国自体が別の国から奪った土地にはなるかな」

 

そっか。国が興って、滅ぶ。

それを考えるならロテスヴァッサもそうなのかもしれないかな。

 

「それと、葛藤はあったんだけど……僕も賢者の石を使った事がある」

 

「……アレを、ですか」

 

人の魂そのもの。それを使うんだから――人の命を奪ったとも考えられちゃう。

 

「最初は僕も拒否した。だけど一緒に戦ってくれた人が「賢者の石になっても魂を人として扱っている君が、世界を守るために使うべき」って言ってくれたんだ。だから……みんなと一緒に戦わせてもらった」

 

「……そっか、そういう考え方なんですね。リラさんやキロさんが言ってくれたことも」

 

奪ってしまった事実は戻らない。

 

なら。もちろん返すことは大切だけど、どうしても使うならばそれをせめていい方向に。

あたしたちを生かしてくれている時間を使って、もっといい形にしないとね。

 

「一応答えというか、参考にはなったかな?」

 

「はい、ありがとうございます。すみません、変な質問をしちゃって」

 

「ライザにとって大切な事だろう? 助けになったなら嬉しいよ」

 

クヨクヨしてるだけじゃダメ。

少しでも考えて、みんなが笑っていられる形にするんだ。

 

「さあ、そろそろ行こうか」

 

「はい!」

 

なにが待ってるのか。結果はほとんど分かってることだけど。

ならその先を考えていかないとね!

 

 

 

 

 

 

「おや、私達が最後だったか」

 

「遅くなりました」

 

「まだ時間前だ、問題ない。あちらへの集合はまだ1時間あるのだしな」

 

アンペルさんとタオが合流して、これで全員集合ね。

 

「あんたよく無事だったわね?」

 

「一応誰かに付き添ってもらった方がいいな、あの鍛錬法は。魔物が来たらヤバかったぜ」

 

「魔物がいなかったら問題ないんだね……?」

 

レントは無事に島に到着できていたらしい。

さすがに疲れたらしいけど……ここに立ってるあたりとんでもなくタフになってる。

――野生化が進んできた。

 

「ライザ、アレは使えそうだった?」

 

「大丈夫そうです。あとはもうちょっとレシピを詰めれば形になるのかなと」

 

「あんな素材、何処で手に入れたのか興味が尽きないね」

 

完成したらキロさんとアルさんには見てもらわないとね。

使い物になるかどうかはあたしより2人の方がずっと正確にわかりそうだし。

 

アルさんが掛け時計を見る。そろそろいい時間かな。

 

「それじゃあボオス君の所に行こうか。ライザ、鍵は持っているかい?」

 

「はい。ちゃんとここに」

 

帽子の中から鍵を取り出す。もう首から掛けときましょうか。

 

「皆ブルネン邸に行くんだったね。ボオス君が随分思い詰めていた様子だったが……大丈夫なのかね?」

 

ルベルトさんが執務室から出てきた。この人も忙しいよね。

 

「お邪魔しておりますルベルトさん。今から向かう事と関係しているところもありますが……彼も笑えるように努力していきますよ」

 

「そうかい。ならそれに期待するとしよう。クラウも、彼を気にかけてあげてくれ」

 

「分かってるよ、お父さん。じゃあ行ってきます」

 

ボオスもそんな様子か。鍵の事はバレなかったみたいだ。

一番緊張というか張りつめているのは……ボオスかもしれない、かな。

 

 

 

8人でトレッペの高台、ブルネン邸に向かう。

先頭はアルさんとキロさん、次にリラさんとレント、後ろにアンペルさんとタオ、最後尾がクラウディアとあたしだ。きれいにペアが出来るものだね。

 

キロさんは知らずのうちに命令じみたことを受けてないといいんだけど……。

あたしたちはこの先のことをちょっと緊張しつつも、お店のこととかさっきの約束のこととか。

レントやタオがなんの話をしてるかは想像が付くけど、先頭の2人は何を話してるんだろう。

あの2人だけは全然違う話をしてる気がする。

 

長い長い階段を上って、たどり着いたブルネン邸。その門でボオスが待ってた。

 

「時間通りですね。助かります」

 

「こちらこそだよ。一時的に見張りを外してもらっているんだったかな?」

 

「ランバーの相手をする名目で1時間ほど外させています。ライザ、鍵穴はあそこだ」

 

「わかった。じゃあ……開けるよ」

 

ボオスに案内されたあの開かずの門。まさかあたしが開ける日が来るなんてね。

下げていた鍵を外して、鍵穴に差し込んで、回す。

 

カチン

 

特に引っ掛かりもなく軽い重みを感じて鍵が外れた。精度がヤバい。

 

「こちらへ」

 

ボオスの案内で、この島の中ですら未知だった場所を進んでいく。

17年間ずっと島にいたのに、ここの事なんて考えたことなかったかも。

 

ここにも遺跡があるね。わりとしっかり形が残ったままだ。

その遺跡とあたしたちの歩く道の間を水が――あたしたちが向かう方向から、来た方向へ。

 

川ってのは山から流れてくるみたいだけど、この高台みたいに頂上付近からってことはないよね。

今まで考えもしなかったけど、井戸のように汲み上げるにしたってアルさんが作ったような道具がないと無理だし、1日中人手がいることになっちゃう。

こういう考えに至らせないのも掟の役割だったりするのかな。

 

「あそこです。ブルネン家の「水生みの離れ」、そこに安置してあります」

 

敬語のボオスが変な感じだ。アルさんに対しては元々こうだけど。

これがブルネン家としてのボオス、か。

 

特別扉もない。何かを覆うための離れ。

その正面に立った。

 

 

 

そして――あり得ないものを見た。これは想像を超えてる。

 

 

 

「これは……これが、錬金術によるものなの?」

 

「泉じゃ、ない……あの球自体から水が湧き出てる?」

 

タオの説明の、本当に言葉のままだ。台座に置かれた青と白の球体から「水があふれ出てる」。

 

この島の水の全てが、あんな小さな球だなんて。

 

「これが「渦巻く白と輝く青」……奴らの古式秘具、か」

 

「道理でここの調査を拒絶されるわけだな。これを衆目に晒すわけにはいくはずもない」

 

「信じらんねえ……俺たちの使ってる水がこんな流れ方をしてるなんて」

 

「この……古式秘具? どういう経緯でここに来たのかな」

 

「数代前のブルネン家の人間が何処からか持ち帰ったようだ。それを調べてみてはいるが、まだそれだけしか分かっていない。ウチの機密なんだろうな」

 

「旅人の水珠」って道具が、あたしが調合できるものにある。

水を圧縮して、透明な膜で閉じ込めたシロモノ。

 

原理的には同じかもしれない。けど、これは量がおかし過ぎる。

あたしたちの何世代も前、数百年は機能し続けているはずなんだからいくらあっても足りない。

それだけ圧縮されているのか、全く別の原理なのか。

 

 

――川底の採掘の為だけに、なんてものを作ったんだ。

 

 

「だが……そんな事はどうだっていい。知っているべきなのは、この水がキロ達オーレン族の聖地から奪った水であり」

 

ボオスが球体に近付いてく。

――台座に立てかけてあるのって。

 

「ぬけぬけと……それを使って島で権勢を得てきたのが、俺達ブルネン家という事だけだ!!」

 

ハンマーを手に――マズい! いけない!!

 

「こんなもののせいでっ!!」

 

「「「ボオ「駄目」ッ……」」」

 

反応が遅れて……あたしたちじゃ止められなかった。

けど、ボオスの振り上げたハンマーは止まった。

 

――キロさんが、後ろからボオスを抱きしめている。

 

「ダメだよボオス。そんな事をしちゃいけない」

 

「……何故、なんでキロが止めるんだ? 憎いはずだろう? 怒っているはずだろう? いち早く、この水を取り戻したいはずだろう……?」

 

ボオスの声は震えてる。その気持ちはよくわかる。

 

「聖域に水を戻したいっていうのはボオスの言う通り。でも怒ってないし憎くもない。言ったでしょう? ボオスやライザ達みたいな、そんな人達の生活を潤せている事が嬉しいって」

 

ゴツッ

 

やっと、ボオスがハンマーを降ろした。

 

「ボオス少年、その気持ちは素直に受け取る。だが今ここでソレを砕いた場合、ほぼ間違いなく島は水を失う……お前達の生活が立ち行かなくなってしまう。それを、私も望まない」

 

「リラさん……ありがとうございます」

 

ホントに、オーレン族の人は優しい。

今ここで黒い感情をぶつけられても全然おかしくないのに。

 

「あんたまで……なら、なら俺は結局何も出来ないのか?」

 

「いや、そんな事はないよ」

 

ここまでずっと静かだったアルさんが初めて口を開いた。

キロさんもボオスをそっと離す。

 

「この古式秘具をブルネン家が入手した経緯はボオス君にしか調べられない。ブルネン家には錬金術に関する蔵書もあったんだから、当時のブルネン家の方はこの球が錬金術の代物と把握していた可能性があるよ。モリッツさんには聞けないだろうけどね」

 

「俺が調べた物以外で……入手当時の経緯がまだ何処かに残っている可能性、ですね」

 

「仮にこの水をオーリムに戻すとしても使い方が分からない。どういう原理でここに水が溢れているのかもね。その最初の足掛かりとして、昔のブルネン家に関してより詳細に調べてもらいたいんだ。何かの形で残っていると思うんだ、口伝とするにはあまりにも重要性が高いから」

 

たしかに……作動のさせ方も分からない。

旅人の水珠は膜に穴を開けて取り出すような感じだけど、コレはどう見ても違う。

錬金術的ななにかは感じるけど、どういったものかわかんない以上は扱えないね。

 

少しでも手がかりが欲しい。分かった後は、あたしたち錬金術士の出番だ!

 

「そうだな。アル君の言う取り扱いの事もあれば、リラの言うその後の島の水源をどうするかという問題もある。性急に動かず、着実に片付けていこう」

 

「うん!」

 

これは、絶対に!

 

「クリント王国の錬金術がやったことだし、同じ錬金術士としちゃ放ってはおけないよね!」

 

「! ……そう。そう、だな」

 

クリント王国の錬金術を使ってるのはアンペルさんと、その弟子のあたしだけ。

――まあ1人、別次元の錬金術師もいますけど。

一番錬金術に頼ってるあたしが動くべきでしょう!

 

「ボオス。調べ物、お願いするね」

 

「任せてくれ。家中の全てをひっくり返してでも調べてみせる」

 

「あんた変わったわねえ……キロさんが絡むとこうなるの?」

 

「いいじゃねえか。ガチでやるってそういうことだぜ」

 

「僕たちも出来ることを考えないとね……ボオス。よかったら僕も手伝わせてくれないかな?」

 

「……そうだな、そこの2人よりずっと適任だ。閉架は俺が見るから開架を探してみてくれ」

 

「了解だよ。ブルネン家の蔵書かあ」

 

「あいっかわらず一言余計ねえ……」

 

「ライザは結構本を読むの?」

 

「錬金術のレシピ以外全然読まないよ!」

 

向き不向きなら、間違いなく不向きなんだけどさあ。

クラウディア、今の確認要った? わかりきってるじゃん?

 

「んじゃまあ、俺も目標達成のために励むとするぜ」

 

「レントの目標……塔じゃなくって?」

 

「クソ親父をブチのめす。いい加減ケリつけてやんぜ」

 

あ~。そのために島を水泳で往復してたの?

それでまだザムエルさんに勝ててないってことは……ザムエルさんも同レベル?

 

「私も、みんなと一緒にいるためのお勤めをしないと。物によってはライザのコアクリスタルに入れられるんだよね?」

 

「なにが基準か分からないけどね。今まで作ったお菓子も入ったりするのかも」

 

ドライビスク、百薬煎じにカクテルレープ。それから楽器の知識を借りたエネルジアニカ――回復やバフ系ってあたしは苦手だからとっても助かる。

クラウディアは回復魔法も使えるし……行商に必要なスキルだったりするのかな。

 

あたしも、まずは義手づくりをしないと。

 

「タオ。君の家の書庫にある本をいくつか借りられるかい?」

 

「えっ? 構いませんけど……どれがどの本か分かるんですか?」

 

「ちゃんとしたタイトルは分からないけどね。ジャンルくらいなら分かると思う」

 

「うらやましいなぁ。わかりました、明朝にでも来て下さい」

 

アルさんは以前からタオが解読してる本の中身が分かってたみたいだし、何かのヒントがあるのかな?

まあアルさんのことだから、お任せしてればあたしたちよりいろいろ進んじゃうんだろうなあ。

 

「……私は」

 

アンペルさんは……右手をぎこちなくニギニギしてる。

リラさんの言ってたのはこういうことね。

 

「ライザ。アレはいつ頃になりそうだ?」

 

「明日にでも一度調合してみます。それをアルさんとキロさんに確認してもらった後に持っていきますね」

 

小声でリラさんから現状確認が。

あの球は使えそうだから検討中のレシピを早く形にしよう。

 

「すまないな」

 

「大丈夫です。それが今あたしが一番やるべきことですから」

 

「じゃあ私もアトリエにいた方がいいね。詠唱でも考えていようか」

 

「ありがとうございますキロさん。明日のお昼くらいには一度作れると思いますから」

 

「他の話は後にしてくれ。見張りが戻ってくると面倒だ……ライザ」

 

うん?

 

「なに?」

 

「合鍵はそのまま持っていろ。見張りはどうにもならないが必要があるなら使え。その時は俺の名を出せ。後はどうにかする」

 

「わかった。予定が分かってたら出来るだけ事前に伝えるようにするよ」

 

使う頻度はあたしとかアルさんが多そうだしね。

また帽子の中に入れときますか。大体いつも被ってるし。

 

 

 

ブルネン邸の門まで戻ってきた。まだ見張りの人たちは戻ってきてないみたいね。

 

「タオは……エルリックさん、何時頃にタオの書庫へ?」

 

「タオが良ければ朝一でいいよ」

 

「それじゃあ6時ごろにでも来てください。その時間なら親もヤギの世話に出てますから」

 

「ならタオは8時以降に来い。門番には話をしておく。ではな」

 

ブルネン邸に戻っていくボオス。今から本棚ひっくり返し始めたりしないでしょうね?

 

「本当にみんな朝が早いね。見習わなきゃ」

 

「夜にやることがないからね。この時間なら大体寝てるし」

 

もう夜11時だもんね。朝5時に起きるなら5時間弱ってとこか。

これより短いのが続くとさすがにちょっとキツイかな。

 

長かった今日1日もそろそろ終わりだね。ずいぶんと歩いた日になったよ。

 

あたしはともかく今のクラウディアなら、あの時のブルーフィンもあっさり振り切れそう。

体力がないと……ああ、ランバーがへとへとになって上ってきてる。ああなるわけだ。

 

「はぁ……はぁ……え、エルリック……さん? こち、らに? ボオス、さんは?」

 

「お疲れ様、ランバー君。販路の話とか……君達が坑道で見たらしいモノの話でちょっとね。彼は屋敷にいるよ」

 

「ひえっ……ありがとうございます……」

 

「アルフォンス、お前もここに勤める気はないのか? モリッツさんも喜ばれると思うが」

 

「今の僕はしがない道具屋ですから。あ、そうそう。あの門の鍵を強固な物にするかも、というお話をボオス君から頂いたので何度かライザと拝見に伺うかもしれません」

 

「それは残念だな。鍵の事は分かった、ボオスに確認しておこう……しかしライザかぁ」

 

まぁたサラッとそれっぽい作り話を……。

しかも一切疑われてない、信用が違うね。それに比べてあたしの取り扱いの酷さだよ!

 

 

 

長い長い階段を下って、階下に広がるのはボーデン地区だ。

 

「それではここで解散としよう。私も、更に古い記憶を掘り起こすとしようか」

 

「昔調合したアイテムとかですか?」

 

「そんなところだ。レシピだけならライザより知っているだろうし、それを書き出すだけでも違うだろう」

 

「では私達は森の拠点に戻る。キロはどうする?」

 

「クラウディア、今晩もお願いしていい?」

 

「もちろん大丈夫ですよ! お夜食作りますね!」

 

「という事で、こっちで寝させてもらうよ」

 

「眠れるって事は幸せだからね。しっかり寝ておいて」

 

「……そうだね」

 

今の――指示になっちゃったかな?

まあ10時間でもキロさんにとっては長い部類だから大丈夫だろうけど。

 

「じゃあ僕は先に戻るよ。明日寝坊できないからさ」

 

「俺は今晩どこで寝ようかね」

 

「レントあんた……家に帰ってないの?」

 

「帰るわけねえじゃねえか、あんなあばら家。せいぜい風呂と着替えくらいだ」

 

「レント君もよかったらウチに来る?」

 

「気持ちだけ貰っとくぜ、ありがとよ。クラウディアのお屋敷みたいに環境が良すぎると逆に落ち着かねえからさ」

 

「分かんなくもないけど、ちゃんと休みなさいよ」

 

あたしの家でもいいけど結局ベッドはないし。

お父さんたちに相談したら、お母さんがザムエルさんの所に乗り込みそうだしなあ。

それはそれでレントに迷惑がかかりそうだし。

今は夏だからいいけど、そっちも何とかなるといいなあ。

 

さあ、あたしも帰って寝よう。さすがに眠い。

 

「眠れる幸せか……本当だよね

 

誰かから聞こえたそんなつぶやきを背に、ラーゼン地区へ。




オーリムから帰還してここまで3日……長かったかな?

蒼炎の種火とかあるくらいですからライターくらいはあるかもですね。

次は義手の調合にフォーカスです。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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