ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
意味深なフィールドにしたわけですが、作者はわりと考えなしです。
誤字報告ありがとうございます。なんか変な誤字り方していますね。
編集の際になにやら中途半端になっているようです。
今回もよろしくお願いします。
「ここはクセルクセス。僕がいた世界、僕のいた時代から500年前に栄え、滅んだ国だよ」
「クセルクセス……そういえばこの国だけは方角の話がなかったですね」
「よく覚えてるねライザ。なぜならアメストリスが建国された時、この国はもう無かったんだ。位置的にはアメストリスとシンの間になるかな」
「でもなんで大昔滅んだ国がここに模されて……ああ、そういうこと」
「多分そういう事だよ。確信はないけど」
ちょっとちょっと! 2人だけの世界に入らないでくださいよ!
あたしとフェンリルは置いてけぼりくらってますから! フェンリルは興味なさそうだけど。
「ちょっと説明が難しいんだけどね。僕はこの国とアメストリスのハーフになるんだ」
「え? ……滅んだのって500年前なんですよね? ごくごく少数の生き残った人たちだけで500年も血筋を繋いできたんですか?」
理由はよく知らないけど、血筋が少ない一族は病気になりやすいって聞くよね。
あたしの両親は2人とも島出身だけど、ずっと上のご先祖さんには島の外出身の人が居たはず。
500年なんて、25歳で1世代としても20世代分? とんでもない長さになるけど……。
「ライザ。アルの世界に関して500年って聞いて覚えている事はない?」
「500……あーあれでしたっけ。最高齢の人?」
「そうそうそれだよ。その人、僕の父さんだから」
「はあっ!?」
お父さん、500歳!?
「アルさんのお父さん、超おじいちゃんじゃないですか!?」
「じゃあ私とリラは超おばあちゃん?」
「ああ!? いえ、その、これはアレです! 言葉のアヤってやつです!」
「種族や世界が違えば常識も違うものだよ……貴方はツッコんでこないの?」
「まだ死にたくないからね。兄さんとは違うよ?」
「フェンリルのジャーキーにしてあげるつもりだったのに」
考えたらリラさんとキロさんはもっと年上の可能性があるんだった。
完全に忘れてたわ。レントが今のセリフをリラさんに言ったらボロ雑巾になってそう。
それにしてもキロさん、冗談なんだろうけど割とキャラが過激ね……。
一方のフェンリルは「不味いのは要らねえ」って顔してるわ。
「まあ色々思う所はあると思うけど一旦納得してね。で、僕の魂には父さんの魂も少しは含まれているんだろうから、そこから再現されたんだと思うよ」
原理はサッパリだけど、世界の素になる情報はアルさんが持ってたわけだ。
だけど前回の世界はアルさんが絡んでないから――キロさんが悩んだのってそういうわけね。
「とりあえず元ネタがなんだったのかは分かりましたけど、この絵が決め手になったのは?」
「私もそこは分からない」
「問題はそれだよね。この壁画の意味と経緯を知っていないと分からない事だから」
そう言ってアルさんが壁画の下に近付いていく。
あまり元気が無さそう。まあフェンリルに食べられた後だしね。
「2人も分かると思うけど――これは錬成陣、その考え方を描いたものだよ」
「まあそれは、そうですよね」
「そうにしか見えない」
多分だけど、アルさんが使う錬成陣の構築式より絵柄っぽいんだね。
何を示してんのかは分かんないけど、何が描いてあるのかは部分的に分かるし。
「そこに疑問が湧かないのもなんだか複雑だね。で、詳しい説明は省かせてもらうけど……これこそクセルクセスが滅んだ原因なんだ」
「「!!」」
この錬成陣が原因で、国が滅んだ?
「まあクリント王国で例えるなら……この錬成陣でフィルフサが召喚されたようなものだね」
「あー、そういう例えなら分かりますね」
国を滅ぼすレベルのヤバイ何かを錬成したわけだ。
何処の世界でも同じようなことが起こってるらしい。
「だけど実際には召喚じゃない別の何か……そっか、この配置は」
「キロさんストップ」
キロさんが何かに気付いたみたいだけどストップがかかった――これは強制停止だね。
でも何に気付いたのかな? キロさんの方がアルさんの錬金術には強そうなんだよなあ。
「まあ……父さんの出身と壁画の意味が分かれば、自ずとここがどこか分かるって事なんだ」
「国を滅ぼした原因がこれにあるなら、まあショックを受けたのも納得だね。棒立ちにさせた事は水に流してあげよう」
「涎で物理的に流しましたよね?」
「ライザも咥えられてみる? 暖かいと思うよ?」
「嫌ですよ! 普通に嫌ですしフェンリルいなかったら暑いくらいじゃないですか!」
「エンヴィーに食べられたっていう兄さんもこんな気分だったのかな」
う~ん。詳しくは分かんないけど……。
壁画の錬金術で長生きされていた人たちの国で、なにかの都合で使えなくなったとかかな?
偶然アルさんのお父さんは長生きのままを維持できた、とか。
あたしたちも――ボオスが
生活必需品が突如無くなったら、避難とかする前に全滅しちゃいそうだ。
狼に味見される件は丁重にお断りさせてもらおう。幸いフェンリルも興味無さそうだ。
まあとにかくこの世界の起源は分かったし……あ! そういえば2人に言ってなかった。
「すみません忘れてました! この絵の下で雷球は発見できました!」
「そうだったんだね。じゃあ1番の目的は達成できたわけだ」
「フェンリルの維持も長くはもたないからね。見つかってよかったよ」
「この世界に素材がないのもほぼ決まりですし……あたしはもう大丈夫ですね。2人は回りたいところとかあったりしますか? 特にアルさんは、お父さんの故郷なんですよね?」
「いや? まさか直に見れる日が来るなんて思っても無かったから、それだけで十分だよ」
「私はとっととこの暑い世界から脱出したい」
「この国、砂漠の中にあるからねえ」
砂漠、かぁ。
ひたすら細かい砂が広がるだけの乾燥した土地だっけ。
食べ物どころか水もなく、昼は灼熱で夜は極寒って話よね。過酷だなあ。
それでも人が住めるんだからすごいもんよね……あれ?
人里から離れてて、淡水の入手が難しくて、魚介以外はクーケンフルーツしか育たなかった以前の島もわりと過酷だったりしない?
今でこそオーリムの水や麦とかの作物、行商の人たちのおかげで特別苦労せずに生活できてるけど……なんでこの島に住もうとしたのかな? 天候の話や、自前で水が有ったのはあるけど。
人が住み始めたのがクリント王国があった時からか、滅んだ後からかは全然わかってないし。
「ねえアルさん。こういう砂漠みたいな土地って、なんでここに街を作ろうとしたんですか?」
「住みづらいって事は人の行き来もしにくいって事。その地域に街を作る事が出来れば必然的に人が集まるからね。行商の中間地点として栄えるんだよ。後は人と同じく野生動物も寄り付きにくいから外敵が少ないってのはあるかな」
「あ~たしかに。クラウディアみたいな隊商を組む人たちには大助かりですよね」
そっか。そのままで不便ってことはそのままじゃ無くなれば便利ってことだね。
「後は生き方次第だね。私がフィルフサだらけの土地から離れようとしないと同じかな?」
「そうなのかもしれないね。やっぱり、住んでいた場所は愛着が湧くものだから」
「……そっか」
どこか遠い目をした感じのキロさん。ずっと昔のオーリムを思い出してるのかもね。
砂漠に街ができる理由は分かったけど、クーケン島は当てはまらないかな?
ん~タオかボオスあたりならまだ分かるか。
「あれが帰還場所でよかったかな?」
おっと、もうここまで戻ってきてた。
フェンリルのおかげで帰り道も寒いくらいに涼しかった。実はまだちょっと怖いけど。
「そうですね。ここからボトルの外に出られます!」
「もうこんな暑い世界はこりごり」
「来た所で雷球しか手に入らなさそうだしね。それ以上の意味は無さそうだ」
アルさん意外とサッパリしてるね。まあ自分の故郷じゃないってのもあるのかな。
「それじゃあ戻りますね!」
「戻ったら義手の調合を試さないとね」
「フェンリル、ありがとう。次に喚べた時もよろしくね」
『次は旨いジャーキーを所望する』
「!!??」
帰り際に、聞いちゃいけないハスキー声が耳に入った気がする……喋れるんかい!!
「お、戻ってきたようだな」
そのまま拠点でレシピを書き起こしてくれてたらしいアンペルさんが出迎えてくれた。
文字とか絵を書き続けるのって結構大変だよね。ホントいい師匠を持ったなあ。
「ただいま、アンペルさん!」
「戻りました。まさか本当にボトルの中に世界があるなんて思わなかったですよ」
「我々ですら中々に珍しい体験だからな。ちなみにどのような世界だったのかな?」
「砂漠の街」
「……興味深い場所だな。砂漠となると私には少々厳しそうだが」
「ライザでも採取出来るものがほぼありませんでしたから、お勧めはしませんね」
たしかにあの雷球しか手に入らなかったしね。
アルさんが居なかった場合は……何処なのか分かんないホントに何もない砂漠の街だし、あたしもおススメ出来ないか。そもそもあそこに行けたのかも分かんないけど。
「まあ、今の私では一人で入って生き残れるか分からないからな。またライザ達が入る際にでも付き合わせてもらうとしよう」
「……アンペルさん。その右腕、治したいって思う?」
「そうだな……見ている事しか出来ない自分を歯痒く思う所はある。しかしそれは
「そっか……」
う~ん。やっぱりそのまま「治したい!」とはいかないか。
ここはリラさんの説得に期待だね。あたしがどうこう言うことじゃない気がするし。
ぐぐぐぎゅるるるる……。
「お腹空いた」
雰囲気ぶち壊しです、キロさん。
いやまあ実際お昼時なんですけどね?
「ボトルの中で頑張って貰ったからね。お腹も空くだろうさ」
「ほう? キロ嬢の獅子奮迅といったところか」
「獅子じゃなくて、狼だったけどね……」
そういえばあの壁画の動物の1つは獅子っぽかったね。ああいうのも記号になるんだ。
それより――あの狼、何で作ったジャーキーならいいかな……。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
あれからあたしたち3人は工房へ帰還してクラウディアと合流。
お昼ご飯を食べ終わったところだ。今日は手伝ったよ?
あの後入り江の見回りに行っていたリラさんがレントと拠点に戻ってきた。
その入り江で魚を釣ってきたみたいで、それがお昼ってことだったからあたしたちも拠点で食べることにした。キロさん分だけで数倍の量がいるもんね。
ちなみにフィルフサの姿は影も形もなかったとのこと。そりゃあねえ。
「いいなあ、大きなワンちゃん! モフモフしてみたかったなあ」
「う~ん、あれをワンちゃんって呼ぶのはちょっと無理があるかな?」
工房でシャンティークリームを作っていたクラウディアと合流して、4人でお昼にした。
クラウディアが食べたことなくて、かつキロさんがお気に入りのエビチリ。
それと、昨晩あたしとアルさんだけ食べたチャオズを作ることに。
レントが釣った
シゾールの殻(キチン質って言うんだって)は調合にも使えるから、魚介なこともあってあたしが担当。アルさんはせっせとタネを皮で包んでた。今回は焼いた。
「クラウディアは氷のエレメントが強いからフェンリルも気に入るかもね」
「そういう感じなら、僕が精霊に気に入られることはないかあ」
「精霊にとってはアルの存在は本来「異物」扱いだからね。まあ光の加護を認知されているから敵対される事はまずないよ」
一人で30個はチャオズを食べてご満悦のキロさん。ちなみにアルさんは10、あたしたちは6だ。
さすがに一度じゃ焼ききれなくて、アルさんは一人だけ鍋の前で焼きながらご飯を食べてた。
「ライザの言う「本来のボトルの世界」じゃどうなのか分からないけど、機会があったら試しも兼ねてまた喚んでみよう。私も慣れておいた方がいいのかもしれないし、周りに影響も出ないしね」
「ちなみに他の……動物型の高位精霊だとどんなのがいるんですか?」
「私の場合は強力なのは火が鳥、風が馬、雷なら山羊だね。馬ならモフモフも出来るかな?」
狼はストレートに狂暴そうだけど、他はまだ大丈夫そうかな?
ヤギはやっぱり雷なんだ。エレメント的にそこは一緒らしい。
「フェンリルは「世界を飲み込む」、なんて逸話が出ていたけど他はどうなんだい?」
「天を頂く輝きの鳥。世界を駆ける8本脚の馬。雷の戦車を率いる山羊ってとこ。あと……あっちで話をした仲間の最期の召喚は、多分だけど氷系統繋がりの
「……空間ごと凍らせて停止させたのかな。そこまで出来てしまうなんて」
だい、じょう、ぶ?
飲み込むよりマイルドそうだけど、迫力はお腹いっぱいにありそうだなあ――戦車って何?
最初に精霊が関わったタオのハンマーバットの時点で大概だったんだけど、世の中不思議だ。
お昼も頂いて、ついに義手の調合開始!
やっぱり2個必要だったんだね。これなら形になりそうだ。
「上手くいきそう?」
「はい! これなら大丈夫だと思います」
なんだかんだ試して、時刻はもう夕方近い。
ぐーるぐーると釜の中身を混ぜるあたしと中を覗き込むキロさん。クラウディアは帰宅中だ。
エレメントがどうなってるのかはあたしでも分かるんだけど、実際に釜の中がどうなってるのかは分かんないんだよね。溶けてるような感じだとは思うけど。
完成形はアンペルさんの右腕の肘から手首までを覆うようなやつ。
肘の部分と手首の部分に雷球を配置してスタルチウムで伝達する感じだね。
もちろん神経の通り方なんてあたしには分かんないから、その辺りをアルさんに聞いたらスラスラと絵を描いてくれた。人の腕の中ってあんな感じなんだね……なんとまあ複雑。
どう考えてもおんなじ形には出来そうにないから、それっぽく繋げるイメージだ。
「錬成陣の意味は分からないけど、錬金術自体はアルが使う錬成の方が想像しやすいね」
「そうなんですか? 精霊やエレメントを扱うこっちの錬金術の方がキロさんには身近な気がするんですけど」
「それはその通りだよ。だけど、それを「物体」に宿して置き換えるような感じになるのがよくわからない。この義手は雷のみだけど、場合によってはエレメントが変わっているでしょ?」
「あーブロンズアイゼンなんかそうですね。あれ自体は火属性ですけど、コベリナイトは氷だし」
最初の頃のあたしと同じだ。結局これの原理は「?」だから――なるものはなるってね。
「そんな感じ。だけどアルの錬金術は、見た目や規模はおかしいけど中身は変わっていないから。ゴルドテリオンの時みたいにエレメントに干渉していないから、私にとってはその方が自然」
「見た目はそうかもですね。でも……赤い石の錬成とかは結構あたし寄りなんじゃ?」
あれなんかは……フィルフサの
「そうだね。だけどアレもアル側の錬金術なのは今日の壁画でちょっと分かった」
「ええ!?」
あれで!? というか、理解できてないあたしがダメなだけ?
「私達の扱うエレメントは火、雷、氷、風の4つが基本。だけど実際には光、闇の2つが更にあるって話はしたね? アルのもそれに近い」
「……ええと?」
「今言った6種類以外の――別の物をエレメントのように捉えてるんだよ。「水」と「土」がそうだね。そもそもの常識や前提条件から違うんだよ」
あーそうだ、今日そんなこと言ってた。「水」「土」と「だいご」なんたら。
あたしがわかる範囲では――大体の水のカテゴリは「氷」のエレメントだけど、ヤギミルクや植物エキスなんかは氷を含んでない。雷と風だね。
だけどアルさんの場合は水のカテゴリ自体を「水」ってエレメントで扱ってるってことかな。
見た目だけならそっちの方が分かりやすそうだ。あたしもヴァッサ麦がなんで雷なのかは分かんないし。
「壁画やそれに関連する説明はストップがかかっているし私自身話す気がないけど、ライザ達の調合との違いはその辺にあると思うよ」
「なるほど……なんというか、キロさんがそのうち錬成を使えるようになる気がしてきました」
「壁画はともかく構築式の意味が分かっていないからね。エルリック兄弟でさえ時間はかけているんだから、私なんかじゃ10年は確実じゃない? 生きている間に使う事は出来るかもだけど。そういう意味で……錬金術に触れてひと月足らずで義手なんて作れちゃいそうなライザはなんなのかな?」
「そう言われても……作れちゃってますとしか?」
あたしの場合は環境が良すぎるだけだと思うんだよね。
異世界の錬金術師にして英雄級のアルさん、調合の師匠で元宮廷錬金術士のアンペルさん、戦闘の達人のリラさん、精霊のスペシャリストであるキロさん――大人組が凄いことになってる。
それと、なんだかんだあたしに付き合ってくれるレントとタオ。もはやあたしと一緒に工房の店員になりつつあるクラウディアという同年代組。
みんなが手伝ってくれてる――あたしだけじゃ大したことなんて出来ちゃいないしね。
さてと、そろそろかな。
「……お~、光ってきた」
「……うん。考えてた形には出来たと思います。これでまとめっと」
光が消えて、釜の中に残った調合品を両手に。
アクセサリーと呼ぶには大きいけどそれっぽい幾何学的、とでも言えばいいのかな?
そんな感じの形状をした装備品って感じだね。あとは動作確認をしないとだ。
「キロさん。動力を見てもらっていいですか? アルさんを呼んでくるので」
「ん。預かるね」
キロさんに義手を渡して売り場でタオの本を読んでるはずのアルさんを呼びに行く、と。
あれ?
「アガーテ姉さん?」
「ああライザ。お前に言うのは変な感じがするが、お邪魔しているよ」
「ライザは工房の店員ではないですからね。とはいえアトリエとの区別がつきませんが」
「それだがこの建物……以前はもう少し小さくなかったか? ライザのアトリエとクラウディアのキッチンも兼ねているんだろう? パットさんの元の染物屋はそこまで広くは……」
「き、気のせいじゃないカナ?」
「錯覚だと思いますよ。流石に広げようがありませんから」
「まあ……それもそうだな。ここに来るのも日が空いたし思い込みだろう」
はっはっはと笑うアガーテ姉さんとアルさん。
――ごめんアガーテ姉さん、思い込みじゃなくてそちらの常識外れさんの仕業です。
「それで姉さんはお買い物?」
「ああ。先日の竜の時に剣が折れただろう? あれから護り手共同の持ち物を借りて使っていたんだが、いい加減自分のを、と思ってな」
「アガーテさんの場合は私用というより島の為だろう? だから安くしておくと言っているんだけど聞いてもらえなくてね」
「君の場合は値引きが過ぎる……元の販売価格に上乗せされていてもまだ安いと思うぞ」
「何割引きなんですか?」
「8割だよ」
「やっす!」
字面だけ聞いてもおかしいと思うのはおかしくないはずよね……あれ、同じこと言ってる?
カウンターに置かれてる剣。インゴット製みたいだけど……ただの鉄じゃないね。
あーこれはあれだ、「鋼」だ。単なる鉄より硬いっていうやつ。炭入りだっけ?
配合はあたしにはさっぱりだけど、アルさんが作るからにはまず間違いはないから十分に業物。
ええっと、レントに買ってあげた剣が150コール位だったっけ?
とりあえず倍はするとして300コール。けど付いてる値札は200コール。
8割引きで……160コール引かれるんだから。
「……40コール? クーケンスウェットとほぼ変わらなくない?」
「そうだろう? ライザからも言ってやってくれ、彼は昔からそうなんだ」
「いや、これで生活出来てますし……」
「そうそう。本人がそう言ってるんだし問題ない」
「キロさん?」
店の奥からキロさんが義手を持ったまま出てきた。
「ライザが戻ってこないからどうしたのかと思って。こんにちは、護り手さん」
「こんにちはシャイナスさん。貴女も此方に居たんですか。しかしいくら何でもこの価格は……」
「今のアルの営業形態で私とライザとクラウディアを養えているんだからなんの問題もない」
「言い方!」
あれ、あたしは養われてるのか? でも居る時間は家より長いし食事だって……いかん。
「日中は結構アルさん依存だったりする……?」
「ライザは散々入り浸ってきて何を今更言っているんだ。シャイナスさんもここで生活を?」
「寝てはいないけどここに居る時間が一番長いかな? 大体のご飯はここで食べているよ」
アルさんがあたしたちを養っている――そんなに間違ってない気がする。特にあたしは。
「アル君の意外な甲斐性の方向だな……分かった。だがせめて半分は出させてくれ」
「いやアガーテさん待「そうそう、頼らせてもらってるんだから。まいどあり」えぇぇ……」
「とうとうオーレン族が店員になった……」
胃袋を掴むどころじゃなくなった。雇用できてしまった。いや押し売り?
しかもなんか手馴れてる。失礼だとは思うけどリラさんにこれが出来る気しない。
そのままアルさんの言葉が届くことなく、買った剣を持ってアガーテ姉さんはお店を出ていった。
「今度は私にも馳走してくれ」との言葉をいい笑顔で残して。
「うん。いい形に決着がついたね」
「どの辺がだい? どう見ても誤解を招いているよね?」
珍しくアルさんがムスッとしてる。納得がいってないらしい。
「まあまあアルさん。実際の話、アルさんの道具の値段が安すぎて行商の人たちの品物が売れてない所もあるんですから。競合してるジャンルが少ないんで問題になってないみたいですけど」
「そうなのかい? それは……申し訳ない事をしていたね」
「そうそう。市場価格の是正だよ」
「君はどこからそんな言葉を覚えてくるんだい?」
「バレンツ親子。ためになるよ」
あれぇ? 昨晩あれからすぐ寝たんじゃないの?
起きてたにしたって「市場価格の是正」って単語が出てくる話が分からない。
実際そんな言葉が出てくるのはバレンツの2人だけでしょうけど。
「まあ値段については気を付けるけど――養うって。そんな事をしているつもりはないんだけど」
「実際私無銭飲食だし。そもこっちのお金持ってないし」
「すみません。あたしもです……」
これはお母さんあたりにカミナリ案件だ。
「いや食料はみんな自前で調達してるところも……食料以外、道具、場所……あれ、確かに誘ったのは僕だね? いや、でも……う~ん」
クラウディアの場合、お菓子の材料分は間違いなく払ってるだろうけど、直接金銭的なやり取りはしてないだろうしなあ。窯に始まる調理器具もある意味アルさんの全額負担だもんね。
あたしは錬金釜に始まり小物やら色々もらってるし、ご飯を作ってる回数も……。
食と住はアルさんに面倒見てもらってる状態だ。これで衣が含まれたら完璧だね。
……なに言ってんの、あたし? 自立しろ自立。アルさんは親じゃないんだぞ?
「服はこれで良いし食べ物はなんでもいいし、寝なくても平気だけどあっちにいた時と比べるまでもない生活を無銭でさせてもらっているんだから。何も間違ってない」
「それ力説していいことですか?」
「う~ん……まあその通りなのか」
アルさんは丸め込まれつつある――そろそろ状況を元に戻そう。
「と、とりあえずその辺にしときましょう? あたしのアルさんへの返済額が数字で見えそうなのが怖いので……義手の方、どうでした?」
「なかなか強引に締められちゃった。エレメントは問題ないね。流れ方を見る限りこの雷球は連動する性質があるみたい。そういう意味でも複数個使って正解だったんだよ」
「ライザはそんなこと考えなくていいんだよ? 僕だってたくさん助けてもらっているんだし。さて、出来たんだね」
「ライザの傑作だよ」
とは思うんだけど。あたしが目指してるのはプロ仕様で、チェックするのはプロ中のプロだ。
どうしても不安だなあ。
「あちらの義手やオートメイルとは在り方が違うから構造的に弱い部分がないかを見るくらいだね……神経の張り方を模しつつシンメトリーの構造。素材はスタルチウムだから強度も十分で耐摩耗性も良好。使うのはアンペルさんの繊細な動きの再現だから……少佐みたいな使い方じゃなければ問題はないのかな」
「あの芸術的云々の使い方に耐えられる道具ってあるの?」
「ないね、多分。実に無意味な考えだったよ」
「ええと……大丈夫、そうです?」
良いのか悪いのか分からないやり取りになってる気がしますけど。
芸術で道具を壊すってなんなんだろう? 「しょうさ」はたしか、マッチョさん?
「ごめんよ……大丈夫だね。後は実際にアンペルさんに使って頂いて、かな。こればかりは満足に右腕が使える僕達じゃ分からないから」
「必要があれば作り直すか修正すればいいだけの話。そこは私達が手出ししてもいいでしょう?」
そこは……たしかにそうだ。ホントなら話が出た当日に用意が出来てただろう物。
それをあたしの都合で曲げてもらってるようなもんなんだから。
「そう、ですね。これ以上時間をかけるわけにもいかないですし」
「この前も言ったけど、ライザはもっと自信を持っていい。心配しなくていいよ」
たしかに。いつからこんな弱気になったかなあ。
知ってる世界が変わっちゃったことはあるけど、やりたいことを探して色々やってたじゃん?
まあ、後先考えてなかったけど。
最悪このレシピに拘る必要もないんだし、もっとチャレンジ精神を持つべきだね――よし!
「分かりました! じゃあ今晩にでも拠点に持っていきます。夜なら2人ともいるだろうし」
「リラさんからの説得が要るかもって話だったね。僕も行くかい?」
「いえ、依頼を受けたのはあたしですから。キロさんにも勇気をもらいましたし、あたしだけで行ってきます」
頼ってばっかじゃ前に進めない。やったことに責任を持つ、ね。
「その感じだと私は拠点に居ない方がよさそうかな。今晩も島で夜を明かそうか」
「ああっ!? そうでした! 明日の朝の方がいいかな……」
「出来るだけ早い方がいいと思うから行っておいでよ。私は半分こっちで生活しているんだし、こちらの綺麗な夜空も見ておきたいから。島なら警戒不要で済むからね」
「……ありがとうございます。結果は明日報告しますね」
「必要な事があったらちゃんと言ってね」という2人の言葉を貰って工房を出る。
あのまま居るとまた晩ご飯を頂くことになりそうだったし。
今日は朝ご飯作っていったんだし、夕ご飯も手伝いますかね。
……と、レントに、ボオス?
「あんたたち、こんなとこでなにやってんの?」
「おうライザか。アルさんのとこからの帰りか?」
「そ。まあ夜にはアンペルさんたちのとこに行くつもりだけどね」
「リラさんがなんか依頼したんだったか。今のお前なら大丈夫だろうけど夜の舟は気を付けろよ」
「お前のように泳いで横断なんてバカな事をせん限りそうそう危険は無いだろうがな。今は全ての舟に音爆弾を据え付けてあるんだ、時間は稼げる」
「漁師さんたちの舟にも全部付けてもらったんだ、安心だね。で、あたしの質問は?」
この組み合わせ、二カ月前だったらケンカ勃発寸前だ。何気にすごい。
「俺は息抜きだ。流石にあれほど長く籠っていては息が詰まる。その方向では……タオの才能は天才的だな、飯すら食おうとせずよくあれだけ集中が続くものだ」
「俺は久々にクソ親父とガチにやり合ってきたぜ。疲れた状態で互角まで来たからもうそろそろだと思ってる」
「あんたはほどほどにしときなさいよ? まあザムエルさんが静かになるのはありがたいことではあるけどさあ……ケガとかはやめてほしいんだから」
「同意はするが……事あるごとにレントにうにを投げ付けていたライザがそれを口にするのか?」
「最近はしてないじゃん!」
「しなくて当たり前だろ」
うわあ。この2人に揃って批判的なこと言われてる。
しかもこの方向はあたしに不利。話を変えよう。
「ちなみにボオスの方の進捗はどうなの?」
「7割方掘り起こしたが……まだ見つからん。アレはブルネン家の機密だからな、普通に探すだけでは足りないかもしれん。タオを閉架に入れる事も視野に入れねばな」
「1日で7割だろ? 結構なもんなんじゃねえのか?」
「全てのページを捲っている訳ではないからな。タオは速読じみた所がある分記憶力もいいから、閉架には入れづらいんだが……」
今日のアルさんみたいな感じかな? 流すように読みながら中身が分かってる感じ。
タオは元々解読をやってる感じだと思ってたけど、やっぱり文字を読むことには慣れてるんだね。
ただまあ、古式秘具以外で家に関わることはたしかに問題あるか。親しき仲にもなんとやらだ。
「俺はあまり姿を見ていないが、キロの様子はどうだ?」
「わりと満喫してるように見えるよ? 特にご飯」
「あー1人でオオイタチマザー1匹丸々食ったって聞いたけど、あれマジなのか」
「……あの身体のどこに1匹丸々入るんだ?」
考えるだけムダよ、ボオス。
「他にも……今日アルさんが作ったご飯、あたしは6個で十分だったけど30個は食べてたわよ」
「……馳走する際は量を考えておかなければな。俺達とは違う部分もある、か」
実際そうなのかもしれない。年齢とか精霊とか耳とかも考えると。
他のオーレン族の人はどうなんだろう? 植物に詳しい氏族の人が居るんだっけ。
あーっとそうだ、レントには伝えとかないと。
「レント、今晩あっちの拠点に行く予定ある? わりとあの2人のことで大事な話があるから今日は避けてもらいたいんだけど」
「別に予定はないから構わないぜ? ライザの依頼は結構大事そうだしな。了解だ」
「さて、俺も捜索に戻るとしよう。適度にタオを止めてやらんと徹夜でやりかねん」
「そっちはお願いね。集中の度合いはあたしたちと比較になんないでしょうし」
しっかしまあ――この3人でこんな話をする日が来るなんて。
タオよりはあたしたちの方が年上だもんね。気を付けてあげなきゃ。
さてと、まずはウチに戻りましょ。ご飯ご飯っと。
どんどんキロの設定(属性?)が増えていきますね。
今後もこういうのはザラです。
アルは錬丹術を学んでますから人の身体の構造には詳しい……と思いたい。
ボオスはこんな感じで今後もちょくちょく出てきます。
次は依頼品の納品ですね。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。