ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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依頼日を含めて3日で義手を作れるライザは天才だと思います。
というか、このくらいで作らないとひと夏で話が終わらない!

ちょっと今回は短めです。

誤字報告ありがとうございます。なかなかあってはならないミスが……。

今回もよろしくお願いします。


48. 71日目④  「今」と「昔」の錬金術士へ

「家を離れて働くというのは思っていたより学ぶ事が多いようだね。ライザがこんな料理を作れるなんて知らなかったよ」

 

「あたしも教えてもらってるだけだよ。自分で考えたわけじゃないしね」

 

「それにしたって驚きだよ。朝に作っていってくれたサンドイッチにも驚いたけど、作ったとしても同じ物ばかりだったライザがねえ。どうせアルフォンス君の所で色々とお世話になってるんでしょう? あたし達からも何かお礼を考えないと」

 

「そうだね。僕達から御礼に出来そうな品となると一番はヴァッサ麦になるが……」

 

「あっちでのご飯にもよく使うからいいと思うよ。アルさんなら色んな使い道も知ってるだろうし。といっても、受け取ってもらえるかどうかだけど」

 

義手を調合して、拠点から一旦家に帰ってきた。夕ご飯と、夜に出掛けるって伝えにね。

 

あたしが作ったのはプルムル(巻き貝)とノライモ、ツヴィーベル(玉ねぎ)にクーケンフルーツを使ったチャウダーってスープ。お手軽だけど美味しくて、ヤギミルクでも作れる優れものだ。

これはシン料理じゃないらしい。たしかに油はあんまり使わないし煮込み料理だもんね。

 

麦は……後日、荷車でも借りて運ぶとしましょうかね。

クラウディア用の麦に水増しする形で潜り込ませとこう。

 

「じゃあこの後ちょっと出かけてくるよ。そこまで遅くならないようにするから」

 

「分かった。気を付けて行くんだよ」

 

 

 

 

 

 

お父さんたちに了解を取って対岸に向かう。

あたしだけで対岸に向かうことってあったっけ? 実は初めてかもしれない。

 

舟の上は……とっても静かだ。暗いせいか余計に。

 

景色を眺める分にはとってもいいよね。静かで、遮るものもないし。

でも……なんだか、寂しい。

分かり切ってたけど、あたしには賑やかな方が合うみたい。

 

ケガをしてから放浪してたっていうアンペルさん。オーリムで1人戦い続けてきたリラさんとキロさん。1人異世界に飛ばされてきてしまったアルさん。

みんな、どんな気持ちで毎日を過ごしてたんだろう。

 

 

 

「ライザか。夜にここへ来たという事は……出来たのか?」

 

「はい。アルさんとキロさんにも見てもらいました。後は使ってみて、という所です」

 

拠点ではリラさんが外に出てテラスに座っていた。

どこか憂いた……こんな感じのリラさんは初めてかもしれない。

 

「急いでくれて感謝する。そうか……アンペルは中だ。私から話をしよう」

 

「分かりました」

 

アンペルさん、受け取ってくれるかな。

リラさんに続いて拠点の中へ。

 

 

 

「ライザ? 来ていたのか。この時間に来るとは珍しいな」

 

「こんばんは、アンペルさん」

 

「私の依頼の報告に来てくれてな――アンペル、お前に渡したい物がある」

 

「リラから? 私にか?」

 

不思議そうなアンペルさんの表情。さすがに予想してないよね。

 

「ああ。ライザ、見せてやってくれ」

 

「はい。これ、なんだけど……」

 

心臓の音が大きく、速くなるのを感じる。胸辺りに違和感。軽く胸やけみたいだ。

布を解く腕が重い。

 

どうか、上手くいってほしい。

 

「……こいつは」

 

「以前どこかの遺跡でレシピを見たな? お前に焼き捨てられてしまって内容は分からなくなってしまったが……ライザに頼んで、考えて作ってもらった」

 

アンペルさん、そんなことしてたんだ……。

そんなアンペルさんの表情は――とても複雑な表情だ。残念ながら好意的じゃない。

 

「余計な真似をする……調合してみせたライザの腕前は素直に称賛しよう。だが私は、そんなもの使わんぞ」

 

ううっ。なんとなくあり得ると思ってた展開だけど、やっぱりキツイなあ。

理由が何であれ、自分が作った物を拒絶されるってのは刺さるものがあるよ。

 

「やっぱりロテスヴァッサの――元はクリント王国の錬金術に頼るのはイヤ……ですか?」

 

「……お前かリラ。あんな昔の事を蒸し返すなど」

 

アンペルさんの口調は強い怒気を含んでる。こんなの初めてだ。

けど対するリラさんも負けてない――揺らいでる感じがしない。

 

「私にとって今のライザは単なる私達の手伝いなどではない。お前がやるべき事の多くを担ってくれている。今回もライザにはかなりの負担をかける事になったんだ。ならば、依頼するからには理由は話して当然と判断した。全て私の責任だ、ライザを責めるような真似はしてくれるなよ」

 

そう言って、リラさんは一息つく。

厳しく、それでいてどこか寂しそうな目をしてる気がする。

 

「私がお前に初めて会った時、クリント王国が過去に行った錬金術による罪業を聞いて――私にこう言ったな? 「錬金術士はいつまでも同じことをやっているな」と。その直後の私の質問は覚えているな? 忘れたわけではあるまい」

 

「……「お前自身はどうなんだ、錬金術士」、だったか」

 

「そうだ。そして……お前は私に誓ったな? 「命の限り、錬金術士の犯す罪に抗う」と。ライザ達の成長は言うまでもない。アルは自身のトラウマなのだろう過去に反してでもオーリムの浄化をしてくれた。キロはオーリムを守る意思の下、こちらに来たうえに錬金術に触れてくれている。私達だけなんだ、アンペル――今この時になっても、何も変わっていないのは」

 

リラさんが拳を握る。色々とこもっていそうな。

 

「これまでも散々錬金術を使ってきて……この場においても好き嫌いをほざくなど許されない。私に出来るのは大した事ではないが、守るべきと思うものを守る為に全力を尽くそう。いい加減お前も覚悟を決めろ」

 

「……覚悟、か」

 

今度のアンペルさんの口調は――複雑で、弱々しい。

2人が出会った時にそんなやり取りがあったんだね……。

そして、リラさんがこっちを見ながら話を進める。

 

「この道具は罪業の産物ではないんだ。お前の誓いを導くため、明るい未来を描く新たな錬金術士がお前のために考え、悩み、行動し、作りあげ、お前に差し伸べた新たな手だ。お前が今もその誓いを正しく抱いているのなら――その手を取れ」

 

今この場で、あたしの言葉なんていらないよね。

ただ、示そう。あたしの思いを。

 

 

両手で義手を持って、前に差し出す――一緒にいこう、アンペルさん。

 

 

リラさんの言葉を受けて、あたしの行動を見て……アンペルさんは目を瞑って、深く息を吐いた。

深い深いため息。どれだけの思いがこもっているのかな。

 

でも――開いた目と表情は決意に満ちた明るいものだ。

 

「……成程。これからは傍観者ではなく自ら現場に立てという事か。相変わらず、お前の言う事は的を射ていて厳しいな」

 

そう言って。アンペルさんはあたしから義手を受け取り、右腕に通して装着した。

力の供給源になってる雷球の部分が薄く点灯して。

右手をニギニギして……ちょっと驚いた感じで。

 

「……大したものだ、何の違和感もない。問題なく、かつての腕を取り戻したかの様な感覚だ」

 

笑ってくれた――それじゃあ!

 

「ありがとう、ライザ。またこうして……私が錬金術士として他の錬金術士と真に手を取り合える日が来るとは思わなかった。この道具は古式秘具級の代物のはずなんだがな? 共振の玉石なぞ何処で手に入れたのやら。全く、お前さんには驚かされてばかりだ」

 

「ううん。あたしの錬金術は全部アンペルさんが、こんな素敵な力を教えてくれたことから始まってるんだよ。2人がここに来てくれたからあたしは……あたしたちは変われたんだもん」

 

アンペルさんと握手。

そうだよ。新しい世界に足を踏み入れて、変わることができたキッカケはアンペルさんたちがいてくれたおかげなんだから。

 

「……私の様な流れ者の旅にもそれなりに意味があったらしい。しかしまあ、お前は本当に厳しいな、リラ。躊躇なく人の尻を蹴りつける」

 

「あたしに依頼された時は「アンペルさんは背負いすぎ。私も背負うべき」って感じで言ってませんしたっけ?」

 

「……! いつまでもウジウジさせず、とっとと立たせると言っただけだ!」

 

珍しくリラさんが狼狽してる。こんな表情もするんだね。

やっぱり、単なる協力者じゃなくって仲間なんだよね。

 

「ははっ……リラ、ライザ。ありがとう。やってみるとするよ。お前達が差し伸べてくれた、この右手を使ってな」

 

「はい! よろしくお願いしますね!」

 

よかった! 不安……というか怖かったんだ。

正直ちゃんと動くかなんて二の次だ。アンペルさんが受け取ってくれたことが嬉しい。

 

それにしても……古式秘具級の物を作ったなんて実感、全然ないんだけどなあ。

神経の通り方やらどんな機能やら、教えてもらったイメージを形にしただけだし。

 

 

 

「早速この老骨にムチ打ってどこまでやれるか確認するとしよう。ああライザ、礼というわけではないがレシピの書き出しは終わっている。受け取ってくれ」

 

そう言ってアンペルさんは……ええ、何枚あるの?

 

「こんなにたくさん……以前はこれ全部作れたの?」

 

「全てではないさ、レシピしか知らない物もある。素材が入手出来なかった事もあってな。ライザでも作るのが難しい物もあるだろうが、近い内に全て為せると思っているぞ」

 

こんなもの作れるのかなあ。

全く見たことがない素材もあれば、レシピがなくて名前だけの物もあるし。

名前から察するにこの辺が布系で、こっちは宝石? 天文時計ってなに?

 

「一気には誰も作れんさ。大侵攻が明日起きるというわけではなし、これからは私も協力できる。必要な物を優先して調合していけばいいだろう。それと、これもライザに渡しておこう」

 

さらにアンペルさんが渡してくれたものは――純白の反物。

すごいなあ。光り輝いてる感じにすら見える……ってコレってまさか。

 

「本物のエルドロコードだ。大昔に報奨として手に入れた事があってな。何度も捨ててしまおうと思ったが……資金源に出来なくもないし、いつか使う日が来るかもしれんと思って持ったままだったんだ。ライザなら有効活用出来るだろう」

 

「やっとそれを手放す気になったか。随分と時間が掛かったものだ」

 

「いいの? 単なる高級品ってだけじゃなくて思い入れもあるんじゃあ……」

 

「言っただろう? 私も過去に囚われず前に進む時が来たのさ。それは過去にしがみ付いていた老人ではなく、未来を見据えた今の若者が使うべきだろう」

 

ダメだ。なんかムダに緊張してきた。

 

今までの人生で最も高価な物を手にしてる気がする。ゴルドテリオンは価格分かんないし。

考えるべき方向性が違う気しかしないけど……こちとら貧乏人ですからね!

 

「……ありがとう、アンペルさん。ちゃんと有効活用してみせるし、いつか自分で調合できるように頑張るよ!」

 

「その意気だ。いやはやライザの才能は本当に天井知らずだからな。あっさり作れてしまう気がしてならんよ」

 

「私もそんな気がするぞ。3、4日後には調合出来ているんじゃないか? ……ライザ、ありがとう。依頼を達成してくれた事、感謝する。私もこれから先陣を切って戦おう」

 

リラさんが笑顔でお礼を言ってくれた――絵になるなあ。こういう笑顔は初めてだ。

それにしても、こんな神秘的なものを数日で作れそうって? いやいやそれは無いって。

 

とにかくこれで依頼は達成! 明日みんなにはいい報告が出来そうだね!

今日はよく寝れそうだ!




これでようやくアンペルが表舞台に立てます。調合面でも戦闘面でも。
そして相変わらず自覚の薄いライザ。
彼女は何時自覚するんでしょうね。

次は第五章の最終話。同時刻の島からです。
その後、3日ほどお時間を頂きたいと思います。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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