ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
ついに50話! ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
お休みを頂いたのに全然編集が進んでない……一話が更に長くなってきています。
さて、アルフォンスの朝に平和はあるのか?
今回もよろしくお願いします。
50. 72日目① 異世界人達の素材講座
「んん~いい朝!」
昨晩はなかなかの達成感だった!
錬金術士としての大仕事を達成できたってことも、お世話になってたアンペルさんの助けになれたってのも、両方だね。
朝ご飯を食べたら早速アルさんの所に報告に行きましょうか。
キロさんはどこにいるのか分からないけど、工房にいたら会えると思うし。
あとは貰ったレシピの読み込みだね。クラウディアならエルドロコードは知ってるかなあ?
……寝起きのわりにはずいぶんと頭が回るわね、大分浮かれてるなこれは。
さってと、まずは支度するとしましょ。
「あれ?」
朝8時。
大体この時間にはここに来てるけど……珍しく「CLOSE」の札になってる工房の入り口。
合鍵はあるし出入りの許可も貰ってるから入る分には問題ないんだけど。朝からどこかに出かけてるのかな? とりあえず中に入れてもらいましょ。
カチン。ガチャン
「……あ~おはよう。ライザ」
「あれ、アルさん? おはようございます」
もっと珍しいものをみた。
寝起きっぽい。眠そうなアルさんを見るのは初めてかもしれない。
少し寝ぼけ眼、若干の寝ぐせ、ちょっとしわになった服……寝落ちしちゃった感じかな?
「鍵も札も触ってなかったね。ごめんごめん」
「いえ、それは全然大丈夫ですけど……昨晩からあんまり寝れてない感じですか?」
「いや……むしろ逆かな?」
「逆?」
熟睡出来たってことなのかな? それならいいんだけど……。
ガチャン
「あれっ開いた……あ、おはようございます」
「あっ、クラウディア。おはよう」
「おはようクラウディア。身嗜みが悪くて申し訳ないね」
「いえ、アルさんのご自宅なんですし、まだ開店前なんですし……」
CLOSEの札から開いてると思ってなかったのか、驚いた感じのクラウディアも来た。
クラウディアも目を丸くしてる。そりゃそうだよね。
こんなアルさんはホントにレアだ。
「作業場は好きに使ってね。僕は朝ご飯を食べてくるよ」
「まだ食べられてなかったんですか?」
「パンケーキでよかったら作りますよ?」
「……じゃあお願いしていいかな? その間に身嗜みを整えるよ」
「わたしのぶんもおねがい……」
「あ、キロs」
――あたしはそこで固まった。
――クラウディアは笑顔で凍り付いた。
――アルさんは鎧のごとく不動を貫いた。
とす、とす、とす。
アルさんの生活スペースに繋がる2階への階段。あたしにとっちゃ未知の空間。
そこからキロさんが降りてきた。多分アルさんの――ぶかぶかの服を羽織って。
さっきまで寝てましたと言わんばかりに、目を擦りながらふらふらと降りてきてる。
一切日焼けもシミも無い生足、チラリと見える胸元、そして若干の寝ぐせ――かわいい。
かわいいんだけど……ツッコむところはどこからかなぁ?
……というか、あたしはなに見て解説してるんだ!
仲がいいとは思ってたけど、いつの間にそんなご関係に!?
いやおちつけ、落ち着くんだあたし。まずは2人について整理だ。
今まで数多くの女性を天然でタラシ込みながらも一線を引いてるアルさん。
事情は分からないけど、アルさんの事を詳しく知ってるらしいキロさん。
アルさんからのお誘いだとは思えないから、ここはキロさんについて考えよう。
あたしの見立てでしかないけど、キロさんがアルさんに向けてる感情は
なら、純粋にオーリムやアルさんに関する話をしてただけの可能性が高い。
キロさんは興味がない物にはとことん興味なさそうだけど、興味があるならわりと躊躇しない感じがある。すでにここにあたし並みに入り浸ってる感あるし。
だからアルさんが男性だろうが「アルさん」としか見てなくて、他を気にしてないと思うんだ。
つまりは――昨晩2人で晩酌のごとく話をしてたけど遅くなったから、キロさんもそのままここで寝た。寝間着はなかっただろうから、アルさんの服を借りて客間でお休みになった。
キロさんが野宿宣言をしてアルさんが「ここで寝なよ」的な命令が下った可能性もあるけどね。
それだけのお話――うん、こんなもんだろう。
ここまで1秒くらいで考えられた? 頭は動いてるね。
よしっ!
「えっと……キロさん? 昨晩はどちらに?」
「ここで寝ていたよ? 今まさに起きた所……ふあぁぁ……」
口火を切ったのは笑顔のクラウディア。分かり切った質問だけどまずは確認だよね。
そして、さもあたりまえって感じでキロさんからも返答がきた。
問題はここから――いや問題でもなんでもないんだけどさ!
「この工房って、客間あるんですよね?」
「居住スペースは一部屋しかないんだよ。遊び心ゼロだね。当然ベッドも一つだけ」
あたしが確認するけど――逃げ道を塞がれた。
なんか表現がおかしい気がするけどそんな気分なんだもん!
客間はなし。つまりアルさんの普段使いのベッドだけ。
アルさんがキロさんにベッドを譲らないなんて考えられないから、多分アルさんが机とかに突っ伏して寝たんだよね?
だから身だしなみが崩れているし、まだ眠そうな感じだった。
心なしか……隣から冷気を感じるようになった気がするけど、ヨシ!
「いつの間にその服着たんだい?」
「貴方が寝た後に借りたよ、あの恰好じゃ嵩張ったから。アルの方が先に起きたじゃない。真隣に居たのに気付かなかったの?」
「あのシーツの塊は君本人だったのか」
アルさんの質問で――止めを刺された。
うおおおお!! ホントに!! ホントにそっち方面!?
あたしでもレントやタオの家で寝たことはない。まあレントの家は普通にないけどさ。
隣で寝たのなんて学び舎にいた時くらいの話であって、今は全然ない。
レントが言うには……あたしが寝てる時は裏拳や膝蹴りが飛んでくるらしい。
それは置いといて。
誰もが踏み入れなかったアルさんの内に踏み込めた第一号は……キロさんだった?
………………マジかぁ。
……クラウディア? クラウディア!?
目は
わりと頭ン中暴走気味なはずのあたしだけど――これはそれどころじゃない。
「……同衾? 同棲ですか?? 御結婚なんですか!!??」
話飛躍しすぎじゃない!? 駆け落ちでももうちょっと時間かけるって!
ああぁ吹雪いてきた……。
「クラウディア、落ち着こう。寒いよ。傍で子守唄を歌ってあげていただけだよ?」
「同衾じゃないですか! パンケーキよりお赤飯を準備しなきゃ!?」
「クラウディア、落ち着いておくれ。つららが……ちなみにそれ何処の風習だい?」
「赤飯はけっこう高級品なんですけど……」
「ライザは気にする所が違うよ! お祝いなんだよ!?」
おかしいな、今朝は頭冴えてると思ったけどあたしの頭が回ってないだけなのかな……?
「それで……寝つきの悪かったアルさんを魔法で眠らせたあと、ワンちゃん召喚の影響でお疲れだったキロさんもそのままお眠りになった、と?」
「ん。一つも間違ってない」
「言いたい事はあるけど本当にその通りだね。着替えていたのは知らなかったよ」
「キロさん、そのカッコで絶対外を出歩かないでくださいね?」
「そんなに危惧される事かな?」
クラウディアの焼いてくれたパンケーキを2人が食べつつ。
あたしたちもホットコーヒーを頂きながら昨晩の顛末の説明を受けた。
とりあえずクラウディアも鎮火して、ついでに工房はキロさんの魔法で解凍された。
なんだかあたしもホッとしたよ……なんでだ?
未だキロさんは着替えずにアルさんの服のまま。装束と真逆の白服だから別人に見えるね。
クーケン島で主流のスウェットじゃなくて、ボタン付きのシャツ。
それを2つ目のボタンまで外してある。
サイズが合わないせいで、袖なんか降ろしたら指先すら見えない有り様。
んで、この前のネグリジェで判明した身体のラインが当然今回も十分はっきりしてる。
あたしの頭の中で警鐘が鳴ってる――これはアウトであると。
ネグリジェは寝巻とわかるだけまだマシな気がするけど、こっちはダメだね。
「とりあえず羽織りました」感がダメ。下が見えそうだよ……。
シンシアさん経由で教育してもらう必要があるかもしれない。
「下はともかく、ライザの普段着より肌は出ていないと思うのだけど?」
「間違ってはいないだろうけど、女性が男物を着るものじゃないよ」
「……あたしのカッコ、そんな部類に入ります?」
「う~ん……ライザもその格好で王都は歩かない方がいいかも」
ええぇ……。
ちゃんと上は2枚着てるし下はホットパンツだから見える心配ないし。
胡坐かくには楽なんだよ?
夏場はこのくらいにしないとやってられないんだけど。衝撃的な事実だわ。
だって、レントたちどころか他の島の人にも指摘されたことないからね?
しかもこの服はたしか王都からの行商人さんのだよ? 袖とかクラウディアの服と一緒だし。
他の服もお母さんのお古とかあるけど……そんなに違うかな?
「まあ
「……なんだか微妙ですけど分かりました。それにしてもアルさん、眠れてなかったんですか?」
「タオの本を読んでいて色々思案していたり、ライザの作った義手がどうなったかとか考えていたら目が冴えちゃってね」
「ライザはアンペルさんの義手を調合できたんだね! あ、キロさんお代わり要ります?」
「3枚もらえるかな?」
前髪でちょっと隠れちゃってるからほとんど瞑ってるようにも見えるけど――未だ半目で、でもナイフとフォークできれいにパンケーキを食べてるキロさん。次で6枚目? 半起きですごい。
とにかく義手の話が出たし、報告するとしようかな。
「ええっと、タイミング逃しちゃった感がすごいですけど義手は受け取ってもらえました。動作も大丈夫だそうです」
「よかったよ! やったねライザ!」
「だから心配しなくていいって言ったのに。リラがアンペルをどう説得したかの方が気になる」
「受け取って貰えてよかったよ。それじゃあアンペルさんも調合と戦闘をされる感じかな?」
「戦闘の話はしませんでしたね。調合もレシピは貰いましたけど、あたしとは得意ジャンルが違うみたいだから布や宝石類はしばらくアンペルさんのお世話になると思います」
あたしの素材調合は金属が割と多め。他はアイテム類とかで布や宝石はほぼノータッチだったし。
「アンペルさんはそういう調合に慣れているの?」
「レシピが大半そっち方面だったから。それと、クラウディアにコレを見てもらいたかったんだ」
背負って来ていたリュックから昨日貰ったエルドロコードを取り出した……んだけど。
クラウディアの目が「くわっ!」と見開かれた――純粋な驚きか、商人としての血が騒ぐのか。
今日のクラウディアの顔は忙しいね?
「きめ細やかな純白の反物……ライザ、コレを一体どこで?」
「昔アンペルさんが褒賞として貰ったものを譲ってもらったんだよ。知ってる感じ?」
「世界のどこかにあるっていう幻の黄金郷、そこに住まう際の衣装のために織られた神秘の反物があるって聞いたことがあったかな。グラム単価で比べるなら黄金より高いかも……」
「じゃあ……これが「えるどろこーど」? 綺麗な布だね」
「実物をお持ちだったんだね。見た目は……何を使って織られてるのか分からないね」
「一般的に市場には出回っていなくて、王族か極一部の高級貴族が儀礼に臨む時くらいにしかお目にかかれないって聞いています。なので私も断言はできないんですけど……」
さすがクラウディアはこういうのに詳しいね。聞いて正解だったよ。
くれた本人もそう言ってるんだし間違いないでしょ。
ただこの布ねえ……。
「多分これ、錬金術で織った布だよ。素材は分かんないけど錬金繊維に近い感じだから」
「そうなの!? まさか錬金術で作ったものが使われていただなんて」
「知られている所では使われているって事だね……ちょっと失礼するよ」
アルさんがエルドロコードに手を置く――
けど、その表情は「驚き」って感じだ。
「これはまた随分と複雑な構造だね。動物的、植物的、結晶的、合成的、どれとも言えるしどれとも違う。これが魔法の要素? 僕じゃ手が出せないなあ。すごい代物があるものだね」
「……聖石の力を感じるね。織る際に混ぜているんじゃないかな?」
「聖石、ですか?」
手が出せないと言いつつ、ある程度中身分かってるじゃないですか。
キロさんの言った「聖石」って……最近どっかで見た言葉の気がするんだよねえ。
「魔石は分かるね? ただ、この島にもあるような魔石じゃ大した力は宿していない。だけど偶に高純度な魔石があるんだよ。私達は識別の為に「闇水晶」って呼んでいたね」
「闇水晶……」
なんだかすごそうな名前が出てきた。
「名前の通り、普通の魔石より少し黒っぽい紫色の結晶だね。別に闇のエレメントを宿しているわけじゃないよ?」
「そこは違うんだね?」
「そんな簡単に闇のエレメントが手に入るわけない。単なる例えだよ」
アルさんの気持ちはよくわかるけどね。
以前聞いた闇と光のエレメントは、世界そのものを形作ってるんだっけ。
だからそんな分かりやすく物に宿るものではないよね。
「それで……一部の闇水晶には精霊の力が混じって変質した物があるんだよ。これは元の魔石よりも明るい水色になって、これを聖石と呼んでいた。
「
「クラウディアが意地悪する……」
エルドロコードから鎮火したらしい。
「とにかく……そういう強い力を宿した、変質した魔石を聖石って呼んでいたんだよ。こっちの世界で見たのは2個だね」
「ええっ!? 見たことあるんですか?」
「ライザ達も見ているよ? 1個は入り江の遺跡に浮いていたやつ」
……あれか。間近では見れなかったけど聖堂前の離れ地になってたとこに浮いてたおっきな魔石。
たしかにそれっぽいね。でも、もう一つはなんだろう?
「もう1個は、あの北の塔の天辺に見えているやつ」
「あれ聖石なんですか!?」
「私には光ってるだけにしか見えなかったけど、あそこに聖石があるんですね」
「あれだけ大きな石をどうやって設置したんだろうねえ」
まさか……ずっと前から見たことがあったなんてね。
レントの目標で、アルさんも含めて誰も行ったことがないあの塔。
あの頂上で晴れた日にたま~に太陽の光を反射して輝いてた何か。あれが聖石だったなんて。
「ちなみに魔石が妖精の体内で変質したのがフェアリーピースだね。聖石も大樹とかに宿った場合はその自然の力を持った別物になるとも聞いたかな」
「キロさん、お詳しいんですね」
「地殻による圧縮変性や……生体濃縮に伴った変異? どっちなんだろなあ」
「リラさんも知ってたりするのかな?」
「リラは白牙氏族だから、こういう知識よりは魔物寄りに詳しいんじゃないかな」
なるほど、それっぽい。
でもリラさんも義手とか知ってるくらいだし、2人ともあたしが知らないことをたくさん知ってるんだろうね。
ここに1人、異世界言語をつぶやいてる人は別にして。
「説明が長くなったけど、聖石っていうのはそういうものだよ。で、このエルドロコード? を織っている糸にそれが含まれているんじゃないかな」
「そういうことですか。どうりで特権階級のみの逸品なんですね。高純度の魔石、それも変質した物を錬金術で調合していただなんて」
「まだ錬金術製か分からないよ? 正直調合できる気が……あーー!!」
思い出した! どこで「聖石」って単語見たのか!
「ライザ? どうしたの?」
「ああうんごめんね!? ちょっと待って! ええっと、レシピはどこに入れたっけ!?」
昨日アンペルさんから貰ったレシピ。まだ読み途中だけど、どこかに書いてあったはず。
ええと、ええっと……お!
「あった! ええっと、宝石関連……これだ! セイントダイヤ!」
「ダイヤって何?」
「とっても硬い透明な宝石ですよ。硬すぎて一流の職人さんしか加工できないんです。加えて産出量も少ないので……大きくて品質の良い物なら一粒でお家が買えると思います」
「ダイヤヤバイ。同じ「硬すぎ」でもセプトリエンとは随分な違いだね」
一応、名前と見た目くらいはあたしも知ってる。
でも質によって一粒数万コール以上ってのは初耳……。
「炭で出来ているんだけどね。宝石は良く知られている物の同素体や単結晶の場合が多いんだ」
「ええっ!? ダイヤって炭なんですか!?」
「炭って……あの木炭かな?」
「……マジなんですか?」
「マジだよ。さっきのキロさんの説明みたいに特殊な環境で変質した透明な炭。それをとても精密にカットして磨くと、クラウディアが知っているような輝き方をするわけだね」
錬金術を使わなくてもすんごい作られ方がされてるものなんだね。自然と職人技の合体か。
純粋な炭なら――アルさんの場合、錬成でどうにでもなっちゃうんじゃ……。
「一応これがそうだね」
ああ……案の定さらっと出てきた。錬成って便利過ぎません? これで数万コール……。
片方はあたしも知ってる形のダイヤ。すごくキラキラしてる……っていうかでっかい!
1センチはあるよね? あたしが知ってる大きさは半分の大きさもなかったはず。
これだけで幾らするのよ!
もう一つは……これ、砥石?
「ダイヤの方は昔の習作。最初にこれを考えた人は凄いね、角度を計算するのが大変だったよ」
「……ねえクラウディア。アレ、いくらくらい?」
あたし毎回値段聞いてるなあ――だって知りたくならない?
「私じゃちゃんと値段が付けられないよ? 一応……4カラットはあるのかな? インクルージョンは……全く無さそうだからIF級で、色も付いていないからF以上。プロポーションは全然分からないけれどラウンド・ブリリアントなのは分かるから……50万コールでも足りるかなあ?」
「この大きさで!?」
「ご飯食べ放題だね」
「君はそもそも無銭飲食でしょうに。精度はないからそんな値は付かないと思うよ。職人さんの技と比べられるものじゃないさ」
アルさんの手にかかれば、どんなものでもとんでもない価値になるわね……。
その気になったらお金に困らないどころか大金持ちだ。実際にそうだったりしません?
「こっちのデコボコした円盤は?」
「そっちには小さなダイヤを
「まあそういうダイヤなら宝石みたいな価値は無いんでしょうけど……簡単に作れるものなんですか?」
「私が知る限りはないよ……職人さんは喉から手が出るほど欲しいんじゃないかな」
これもアルさんの世界じゃ普通なのかな。
ただこれって、錬金術無しでもあるものなんだよね? 職人さんってすごいなあ。
「アル。こっちの宝石ってどういった時に使うものなの?」
「主に装飾品だね。ダイヤモンドに限るならエンゲージメントリング――婚約する際の女性に贈る指輪とかが一般的かな? 永遠の絆とかそういうシンボルに使われるから。ザムエルさんが言うには装備品としても使われるらしいけど」
「魔術士の方とかだと、指輪に魔力を溜めたり術式を封じたりすることもあるそうですよ?」
「ふ~ん……身に着けていても不自然ではない、と」
意外なことにキロさんが宝石に興味を持ってる――リラさんは全然興味無さそうだったけど。
そしてあいかわらず謎のザムエルさん情報だ。装備品なら宝石にも詳しいらしい。
あたしもそういう装飾品を作れるようにならないとなあ。
「ええっと……そろそろ話を戻していいですか?」
「ああごめんよ。セイントダイヤだっけ?」
「はい。アンペルさんから貰ったレシピだと……聖樹結晶って物と聖石を混ぜて宝石の形に削った物みたいですね。どっちの素材も持ってないんですけど」
「アンペルが知っているって事はこちらの素材って事? ひょっとしてあの塔にある物なのかも」
もしそうなら、あたしも塔に行く理由が出来たわね。
とはいえエルドロコードの使い道の話もあるんだけど。
それに加えて……一つ問題が。
「ただ……セイントダイヤを調合するまでにあたしじゃかなり長い経路が必要で……」
「レシピ変化って言うんだっけ?」
「そうそう。で、このダイヤまでに「パールクリスタル」、「アンバーライト」、「スピリナイト」って宝石を経由しないとあたしじゃレシピが見えないみたい」
アルさんが言う所の高度な錬金術の素養、ってやつかな?
あたしじゃ1から100まですっ飛ばせない。1から10、10から30って刻むくらいが限度だ。
「ん~。真珠に琥珀、スピネルでダイヤってところかな。琥珀水晶は別物なのかな?」
「アルさん全部わかるんですか……?」
「自然界に存在する物だよ? なんでレシピ変化で作れるのかはさっぱりわからないけど。こっちの錬金術的には真珠より琥珀の方が希少なのか……それとライザは「パールクリスタル」を見た事があるよ」
「えっ?」
あったっけ?
「クラウディアのフルートを修理した時に使った宝石、覚えてない?」
「……あーー!!」
あれだ! ひと月くらい前にフルート直した時に使ったやつ!
何個か使わせてもらったじゃない! 要補充対象だよ、なに忘れてるの!
「クラウディアのフルートには宝石が混じっているの?」
「間違ってないかな。錬成とは違うけどライザの調合に使ったものだから」
「あの時は本当にありがとうございました!」
「お礼はその時にもらったよ。だから……本来の用途外に使うのはやめようね?」
アルさんの笑顔にどことなくプレッシャーが。
そんなことしたらまた正座するハメになる。気を付けてもらおう。
話ついでにアルさんが名前を挙げた宝石を持ってきてくれた。やっぱりあるんですね。
パールクリスタルは大貝の白玉をきれいに磨いたもの――貝になんでこんなものが?
琥珀はメイプルデルタで結構採取できるね。固まった樹液でいいんだっけ。
最後はスピネル。八面体っていうのかな? そんな形をした赤い宝石だ。
原料は意味不明……まぐ、まぐねしある? まあいいや、関わらないでおこう。
それと、最初に見せてもらったダイヤだね。
並べて思ったのは……なんでレシピ変化させるとここまで変わるんだろう?
キロさんが昨日言ってたのと同じ気分だね、エレメントがなんで変わるのかサッパリ。
リンケージ調合を極めようと思うならその辺りも勉強しないといけなさそうだ。
「あと、「アルクァンシェル」ってのもあるみたいです。原材料不明ですけどね」
「なかなか洒落た名前だね?」
「私は聞いたことがない宝石ですけど……何かの単語なんですか?」
あたしどころかクラウディアも知らないらしいけど、意味がある言葉らしい。
「空を彩るアーチ――つまりは「虹」って事だよ。だから多分7色の宝石なんだろうね」
「……一つそれに該当しそうな石がオーリムにあるよ。「
「なんだかすみません……でも、そっか~オーリムの素材じゃ手が出ませんね」
こればっかりはしょうがない。封鎖もしちゃったし。
今の所「天文時計」なる謎のアイテムにしか使わないみたいだから保留だね。
「ライザの調合の中で宝石ってどんな感じに使えるの?」
「あたしもクラウディアのフルートの時に使ったきりだし、あれは多分特殊なケースだと思うから何ともなんだけど……調合する時の歪みとでも言えばいいのかな? それを緩めてくれる感じ」
「全然分からない」
「僕も分からないなあ、宝石も一つの結晶体としか捉えないから。転位の回復じゃないよねぇ」
取り扱ってるあたし自身よくわかってないんだから、みんなに説明のしようがないなあ。
アルさんの言ってることが絶対に違うことは分かる――転移の快復ってなに? 門が元気になる?
まあとりあえず、今のあたしが持ってる話題はこんなとこだ。
「いろいろ話が飛びましたけど……アンペルさんは完全復活、あたしはレシピをたくさんもらったんでそっちを触ってみようかと。あ、昨日の夕方ボオスに会ったんですけど7割方探してそれらしいのは無しってことだそうです」
「エルドロコードから色々お話を聞けたよ。ちょっと感覚がおかしくなりそうなところもあったけど……それじゃあアンペルさんにお祝いのケーキだね!」
「喜んでもらえそうだね。僕もお祝いついでに話をして来ようかな」
「右手が使えるようになったって事は……アンペルの戦い方を観察してこよう。リハビリ的な事をやっているだろうし」
たしかにそうだね。あたしたちはアンペルさんの戦い方をちゃんと知ってるわけじゃない。
あたしよりもアイテムの使い方は上手なはずだけど、それ以外は多分魔法だよね? まさか物理?
リラさんすら見たこと無いはずなんだから、連携を取るためにも一回見せてもらおっか。
今は拠点でもこっちのと同じくらいの調合が出来るし。
タオとボオスが何かを見つけられた時に遅くなっちゃうから、一言伝えとこうかな。
レントはどうせ拠点にいるでしょ。
「それじゃあタオたちに一言伝えときますね」
「そうだね、お願いできるかい? タオ達は義手の事自体知らないからそれも併せてね」
「そういえば全然伝えてなかった……」
「じゃあ私も行くよ。2人にも差し入れをしたいから」
「私も行こうかな。ボオスとタオが頑張ってくれているならお礼しないと」
「ちゃんと着替えてくださいね?」
「? そのつもりだけど……この格好で行くとお礼になる?」
タオの場合は「サイズ間違ってませんか?」で。ボオスだと……ブルネン邸に軟禁されそうだ。
その後島中の服を買い漁りそう。冗談抜きで。
「その場合は計り知れない社会的ダメージが僕に入りそうだね」
「アルさんなら、わりと問題なさそうな気がしますよ?」
たしかに今のキロさんはある意味兵器と化しているけど。
「ああ、アルさんのか」みたいな感じで片付けられる気がするんだよねえ。
結局この人はパンケーキを何枚食べたんだろう? 生地、それなりに量なかった?
エルドロコードは語源が分からなかったのですが……。
エルドラド(スペイン語で黄金郷)+コード(規定)としました。適当です。
遊んでみたんですが、こういうシーンの需要あるのかなあ……。
次は3人娘でブルネン邸に差し入れです。朝の一幕だけで1話使った……。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。