ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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ホントにキロがよく動く……。

話が長くなりました。いろいろ詰込み過ぎかな?。
原作には無いエピソードですね。設定盛りだくさんです。

誤字報告ありがとうございます。ワンちゃん=フェンリルです。

今回もよろしくお願いします。


51. 72日目②  自由奔放なオーリムの巫女

「へえ~、そんなことになってたんだね」

 

「あの錬金術士、右手が不自由だったのか。全く気付かなかったな」

 

「生活する分や簡単な錬金術くらいなら大丈夫だったのよ。でもアンペルさん本来の腕前を発揮しようとするとってこと」

 

「タルフラム以外はどんなものを作っていたんだろうね?」

 

「クリント王国の者達が使った道具に「地震を起こす槌」があったけど……アレは勘弁してもらいたいね。流石に落ち着かないから」

 

トレッペの高台。ブルネン邸の真向かいにあるガゼボにみんなで腰掛けて。

クラウディアの焼いてくれたマドレーヌをいただく。前よりふわふわ感が増してるね。

 

並びはキロさん、ボオス、タオ、あたし、クラウディア。

 

やっぱり……何かにつけてキロさんはボオスを気にかけてる感じだ。

まあ古式秘具を怒りのまま壊しかけたくらいだし、分かる所はあるけど。

 

ただ今朝の件は……やめておこう。混沌を招きそうだ。

 

ちなみにタオとボオスはクラウディアとキロさんが呼んでくれた――あたしは立入禁止。

 

なんで!? 一応最近の評判はよくなったはずなんだけど!? 「お前はダメ」ってなによ門番!!

鍵の話もアルさんからしてもらったのに!

バレンツ家の御令嬢とボオスの命の恩人なのは分かるけどさあ。疎外感ってやつだ。

 

「そんな物まで作れたのか。地震を故意に起こすなど……あの球も同格の代物という事か」

 

「他にも小規模の嵐を呼ぶとか、噴火みたいなのを起こすとか。よくまあ色々やってたね」

 

「キロさんたち、よく我慢出来ましたね?」

 

「私達が本気で排除にかかったらもっと大規模な現象を起こせたから。皆に見せた神炎もそうだけど、ライザには更にいくつか話したね?」

 

「召喚関係のお話ですか? まあフェンリルに後ろを歩かれるだけでも怖かったですけど……」

 

「召喚って……キロさんもあの竜みたいなのを喚べるんですか?」

 

「タオがいう竜がどの竜なのか分からないけど、多分それ? 一撃で都市の一画くらいは焼き尽くしたのかな?」

 

「そんなのにあたしたち勝てないですって!」

 

「俺が思っていたよりも、世界は遥かに広いらしい」

 

そこまで考えてたら、あんたすごいよボオス。

 

聞いた中ではフェンリル――世界を飲み込む氷狼が一番ヤバそうではあるけど。

大丈夫って分かってたとはいえ、アレに齧られたアルさんはどんな気分だったんだろう。

えんび~がどうのって言ってたっけ?

 

「まあアンペルさんがなにを調合されるのかは置いといて、この後その右腕の調子を見に行くつもりだよ。そっちの調べはどうなの?」

 

「開架も閉架も、分かりやすい部分はほぼ見終わった。それでも見つからん……となれば、後は一ヶ所だ」

 

「ホントにやる気かい? ボオス」

 

「予想が出来ちゃうんだけど……モリッツさんの自室?」

 

「そうだ。クラウディア嬢も分かるだろう? 商人にとって最も大切な物は――手の届く範囲に置いておく」

 

「……いくら何でも、ヤバくない?」

 

事の重さを考えれば、そりゃ調べてもらう方がありがたいんだけどさ。

バレたらボオスだろうとタダじゃすまないよね、ソレ。

 

「今更だ。今の俺がやるべき事はブルネン家として父さんに従う事じゃない。禁足地の鍵も盗み出しているんだぞ? ここで引いてキロ達の水が戻らないなんて事に比べれば勘当なぞ些末事だ」

 

「私には危なさが分からないんだけど……ボオスはそんなに危険な事をしようとしているの?」

 

「ボオス君の言ったことが現実になったら……ここを追い出されて、ブルネン家の名も失っちゃうと思います」

 

「別に命を失うわけじゃない。キロもエルリックさんもお前らも、これまで命を懸けてきたんだろう? なら俺にも名くらい賭けさせろ。まあ俺がどうなったとしても、やる事は変わらんがな」

 

「……はぁ~。このかっこ付けめ」

 

たしかにあたしたちもヤバそうになったことは有ったけどさ――ボオスも危ない橋を渡るわね。

竜やフィルフサのことを引き合いに出されると反論できないんだけど。

 

なんか他にいい方法がないものか……。

 

「ボオスが危ない事をしようとしているなら……危なくないようにすればいいかな?」

 

「えっと……? キロさん、何を言ってるんですか?」

 

「タオにも今度体験させてあげよう。ボオス、お父さんの今日の用事って分かる?」

 

「特別出かけるといった話は無いな。執務をこなすだけだと思うが……?」

 

「ならそこまで迷惑にはならないかな。ちょっと行ってくるとしようか」

 

キロさんがタオとボオスを連れてブルネン邸に向かってく――なんとなく察しは付いた。

 

「クラウディア。キロさんが何しようとしてるか分かる?」

 

「多分だけどね。現場を見たわけじゃないけど……昨晩の再現じゃないかな?」

 

「ボオスの服を借りて……」

 

「そっちの意味じゃないよ! 分かって言ってるよね!?」

 

「ごめんごめん」

 

メチャクチャ怒られた。流石におふざけが過ぎたね、反省。

今朝の件、あたしよりもクラウディアの方が敏感になってるみたい。方向性が違うけど。

 

精霊術での睡眠ねえ。どのくらい効果があるものなんだろう。

寝つきを良くする程度なのか、寝落ちさせるレベルなのか。

 

……ありゃ、キロさんだけもう帰ってきた。10分くらいしか経ってないよね?

 

「お待たせだよ」

 

「モリッツさんを眠らせたんですか?」

 

「ん。一言声を掛ければ十分だからね」

 

「そんなにあっさりとした方法だったんですね……」

 

「何もしないなら約2時間。ボオスが両手で手を鳴らせばそこで起きる」

 

なんという汎用性。

たしかにそれならバレないけど。なかなかキロさんもアクティブだ。

 

「ボオスが言うには隠せる場所なんて限られてるらしいから、2時間あれば充分でしょ?」

 

ついでにサッパリしてる。その辺りは価値観の違いかな。

昨晩の「寝つきを良く」ってのも「強制的に眠らせた」んじゃないかとすら思えるわね。

やる意味がないけど。

 

さてと。

 

「それじゃあアルさんの所に戻りましょうか。アンペルさんの所に行く準備もしないと」

 

「そうだね。ケーキのスポンジは時間になったら出して貰うようお願いしてるから」

 

「私の依頼分は見通しがついたかな?」

 

「……? 何かアルさんに依頼を?」

 

「うん。といっても出来るか分からないって言っていたし、出来たとしても時間がかかるんじゃないかな」

 

あのアルさんに正式に依頼するとなるとかなり難しいことになりそうだ。

なにをやってもらってるんだろう……まあ変に首突っ込むのはやめときましょうか。

 

 

 

「……ああ、お帰り」

 

「ただいまです……なんだかずいぶんおつかれですか?」

 

「どっかの誰かさんの依頼がなかなかの無茶振りでね……こういうのは専門じゃないのに」

 

「後で回復と……また今晩歌ってあげようか?」

 

「回復はありがたいけど、後者は精神的に疲れそうだ……」

 

まだ11時前。

今日のアルさんなら起きてから4時間経ってないはずだけど、ずいぶんとくたびれてる――眼が疲れてるっぽいかな。

キロさんの依頼をやってたんだろうけど、アルさんがこれだけ負荷を感じることって一体。

 

「取り敢えずの加工は終わったよ。コレをどうするんだい?」

 

「もう終わらせたの? 流石だね、後で話すよ」

 

「それじゃあ私はケーキを完成させますね!」

 

「あたしも手伝うよ」

 

「窯からは出しておいたから、もう少ししたら冷めると思うよ」

 

「ありがとうございました!」

 

さて、あたしたちも作業……というか調理開始だ。

クラウディアのホイップも慣れたもの。作ってもらった器具もあるけど早いこと早いこと。

あたしはその間に果物の皮むきとか種取とかカットとか……調合してる気分になってきた。

 

 

 

「……うん、いい感じだね!」

 

「最初の頃に比べると豪華になったよね」

 

最初の頃のケーキはシャンティークリームを全体に塗って果物を乗せた形。

今作ったのはスポンジを水平方向に3つに分けて、各層にベリーとクリームを挟んで、外周をクリームで覆ったうえで果物を飾ってる。豪勢だね。

 

さてと、アルさん達も作業は終わったかな?

 

 

 

「……頭が痛いし眼もキツい。流石にこんな作業を連続してやるのはダメだね。リバウンド予備症候群だ」

 

「それでもこれだけ短時間で完成させる辺り、加護の補助もあるのかな。お礼は後で弾むよ」

 

「絶対ライザの領分でしょコレ。目に見えない物を扱うとか。また加護の反転だの、そういうのは勘弁してね……」

 

「む……実験も兼ねて、だからね。取り敢えずは成功だしいいじゃない。何が欲しい? 見たい夢でも見る?」

 

「出会った頃の雰囲気が噓みたいだ……」

 

 

 

とりあえずあっちも完成したらしい。

あのアルさんに相当な負荷を強いている辺り、本当に難しい作業だったみたいだ。

見た感じは……錬成、なんだよね?

 

「ああ、そっちも終わったんだね」

 

「はい、準備OKです!」

 

「じゃあ傷まないうちにあちらに行くとしようか。夏場じゃお菓子が持たないだろうから」

 

「一応レヘルン(氷爆弾)を突っ込んどきますね?」

 

「私の魔法もかけておこうかな」

 

「……私の精霊術じゃ凍り付いちゃうかな? 超小規模の魔法行使はあんまりした事がないし」

 

凍ったケーキってのも夏場には良さそうな気がするけどね。

 

 

 

 

 

 

「おお、皆来てくれたか」

 

「こんにちはアンペルさん。あれから右腕の調子はどうかな?」

 

「すこぶる好調だ。数十年ぶりの魔法も問題なく使えたしな。ただ、流石に杖は新調した方がよさそうだ」

 

「どんな杖をお使いに?」

 

「これだ。クラウディアなら見た事があるかもしれないな」

 

拠点にはアンペルさん達とレントがいた。レントは泳いできたとかじゃないよね?

お祝いのお菓子の前にアンペルさんの経過確認だ。大丈夫そうでなにより。

 

で、クラウディアの問いを受けてアンペルさんが立てかけていた杖を持ってきてくれた。

やっぱり戦闘方法は魔法なんだね。杖は……あたしの杖より短いけど太いって感じ。

先端の意匠はけっこう目立つかな。あたしみたいに振り回す感じじゃなさそうだ。

 

()()()()といってな、魔法以外でも普通の杖として使っていたものだ。長らくこれで過ごしたが、インゴット製な事に加えて何せ古い。性能は見込めないな」

 

「単なる草払いの杖だったからな。手入れの点でも最悪だろう」

 

「それじゃあ……あたしの方で調合してみるよ? スタルチウムくらいならそろそろ……」

 

杖ならあたしのグリムクォーツとそんなに変わらないだろうし、ソロでいけるかもしれない。

 

「ありがとう……と言う所だが、気持ちだけ貰っておこう。調合のリハビリもしなければならないしな。とはいえ時間はかけられないから素材を分けて貰っても構わないか?」

 

「宜しければゴルドテリオンをお使いになっては?」

 

「いや、いきなり最高級品はマズいだろう。アレは普通の材料ではなさそうだしな。ライザが口にしたスタルチウムがありがたい」

 

「ゴルドテリオンも実験をしないとね。今のままじゃジェム還元用素材みたいだし」

 

うっ……キロさんの言う通りだ。たしかに何一つ手を付けられてない……。

とりあえず何かの調合に組み込むくらいは考えないと。

 

「スタルチウムは了解だよ。拠点のストック分を使ってもらっていいから」

 

「ついでだ、私の鉤爪も新調してくれ。手入れは欠かしていないが良くもならないからな」

 

「元よりそのつもりだ。心配するな」

 

あれだけ色んなレシピを知ってたアンペルさんだし、スタルチウムを使った調合くらいは全然問題ないんだろうなあ。

あたしの場合は、やっぱりアルさんの手を借りないと武器類は特に安定しない。

 

経験不足やら才能不足やら……想像力不足なのかなあ?

以前に比べたら()()って物を分かってきた気がするけど、特にタオのハンマーは微妙……。

仮にあたしだけで調合できたとして、順番的にはその次になるクリミネアの調達をどうしたものかなあ。

 

「ライザ。俺たちの武器もその「スタルチウム」ってので作ってくれたんだったか?」

 

「そうだよ。ただ、次にランクアップさせるための素材がオーリム由来の代物でさ」

 

「レントにも話してやっただろう。白と黒のまだら石だ」

 

「でもそれ……リラさんたちの世界産なんすか? 俺、街道で見たことありますよ?」

 

「はあ!?」

 

もしホントなら、いい意味でレントがフラムを投下したわよ?

 

「街道なんてあたしも一緒に大体回ったじゃない。どこで見たの?」

 

「中央ライム平原の東側だな。あの平原を一回りしていて……あのでけえワイバーンを倒した後だったか。そこから南の崖の上に空き地が見えたから登ってみたんだ。たしかそこで見たぜ」

 

「逞しくなったなレント。私は嬉しいぞ」

 

リラさんが満面の笑み……野生化は意図的だった?

 

「リラが鍛えると道具無しでそんな事が出来るようになるんだね。レントの話が本当なら……セプトリエンや七煌石も産出している?」

 

「ええっと……他のやつは分かんないですけど、あの場所だけ変わった色の石があったっすよ」

 

「アンペルさん、何か着色料はありますか? 色鉛筆を作りますので」

 

「ここの模様替え用にライザが置いていったアルケミーペイントがある……ああ、これだ」

 

「頂きますね」

 

アルさんが手合わせ錬成でさらっと色鉛筆をこしらえて、サラサラと絵を描いていく。

錬成陣をフリーハンドで描くんだから絵も上手なんだろなとは思ってたけど。

 

「……写真?」

 

「すごいね、百科事典とかに載っていそうな出来栄えだよ」

 

半端じゃなく上手い。もう絵の領域じゃなくない? しかもめっちゃ早い。

実物見ながらでも無理なんだけど。

 

「……我がアームストロング家に代々伝わりし……」

 

「僕エルリック家だから。でも兄さんは駄目だったな。少佐は凄かったね……レント、どうだい?」

 

しょうさ、しょうさ……あーあれだ、背が高いマッチョマンさん。義手の時にも出てた。

その人は絵も上手なんだね。みんないろいろ特技を持ってるなあ。

意外な事にエドさんは絵が苦手らしい。まあ手合わせ出来るなら問題ないもんね。

 

ええっと……アルさんが描いたのは「創生の逆さ石」と「セプトリエン」に、なんか黒い石?

 

「すげえ……見たまんまっすね。3つともあったと思いますよ。他にもあったかも?」

 

「七煌原石までこちらにあると? あれは奴らに根こそぎ持っていかれたと思ったが」

 

「私もその認識だった。けど、レントの見間違いとは思えないね」

 

「良い表現に出来ないが……クリント王国がオーリムから持ち帰った素材の廃棄場だったのではないだろうか。おいそれと部外者が手を触れられる場所には設置しなかったんだろう。それが何時しか土壌と化し、大地の魔力を吸って産出していたというところか」

 

「たかだか数百年で鉱床になるものなんですか。こっちの魔力ってすごいなあ」

 

「つまりレント君は……錬金術を使わないと行けないような場所に自力でたどり着いたんだね?」

 

それはあたしも思った。まあ今はまじめにいこう。

 

「そこだけオーリムの地面になってるってことかあ……レント、あとで案内してくれない?」

 

「おう、もちろんいいぜ」

 

ホントに逆さ石がこっちで採れるならクリミネアの調合に困らないし、セプトリエンはゴルドテリオンに出来る。

この黒いのが……七煌石? 原石? まあ一緒だけど、アルクァンシェルの元なんだ――あれ?

 

なんでアルさんは七煌石を知ってるの? 見たことないはずだよね?

 

「思わぬ収穫だな。それでクリミネアやゴルドテリオンを調合出来るようになったなら装備を充実させられそうだ。まあ金属の調合は既にライザが私を追い越しているだろうから、私は宝石類を揃えるとしようか」

 

「それはないって……まあ金属は頑張ってみるよ。あ、そうそう。エルドロコードの材料も分かったかもしれないんだ」

 

「ほう! たった一晩でそこまでか? 後でじっくり聞かせてくれ。いい加減()()が気になって仕方がない」

 

ソレ――もちろんケーキだ。

 

「じゃあ切り分けますね! レント君は別になっちゃうけど焼き菓子を作ってきたから」

 

「ワリいな、結構手間だろ。サンキューな」

 

「何故レントは甘味の美味さが分からないんだ?」

 

「お前が苦味や毒味を好まんのと同じだろう」

 

「私達も好んでクミネの実を食べてたわけじゃなかったよね?」

 

「しっかりとレイヤーケーキになったものだね。開店も近そうだ」

 

レイヤーってのは「層」って意味らしい――層状ケーキ、なるほどね。

カットすると……おお~、中はこんな感じになってるんだ。見た目も楽しいわね。

 

早速アンペルさんががっつ……一番に頂いてる。満面の笑みだ。

自分の作ったもので笑顔になってもらえると嬉しいね。

 

「うむ、見た目を裏切らん美味さだ。クラウディア、これは何時頃売り出すのかね?」

 

「ええっ? まだ売り物になりそうなのはプリンくらいなのかなって思ってましたけど」

 

「今度お菓子用のショーケースを作ろうか。一度店に置いてみて島の人達の反応を見てみるといいんじゃないかな。ロミィさん辺りなら話を広めてくれるさ」

 

「このクッキーでも十分売り物になると思うぞ? 島にこういうもんを売ってるとこねえからな」

 

クラウディアの求めるクオリティが高すぎるだけで、今の状態でも十分やっていける気がするよ。

王都はともかく他の街にこんなお菓子あるのかな?

 

「ライザ、お前さんのアイテムはどうなんだ?」

 

「えっ、あたしの? ……いやぁお店としては」

 

売り物になりそうなのって魚のエサとか回復薬くらいよね?

今までの回復薬――グラスビーンズ、軟膏、百薬煎じ……少なっ!

 

クラウディアの食べ物が回復薬になったものの方が多くない?

 

「……フラムは、ダメですよね?」

 

「そりゃあね。ライザの調合品で店に置けそうなのは……ゼッテルとかの雑貨やエルツ糖みたいな食べ物関係、採取道具ってところかな?」

 

「何の店か分かんねえな。つか、アルさんの道具に飲まれそうだ」

 

ホントそれ。

 

「なかなか錬金術のアイテムを売り物にしていくのは難しいからな。効果があり過ぎる物がある以上、錬金術だと悟らせないようにせねばならん。表向きの需要は限られているのが現実だな。エルドロコードのように極めて高級な代物を極一部の決まった物流で売買する程度だろう。まあ、世の中錬金術でパイを作って販売している者もいると聞くが」

 

「それ、錬金術である必要があるの? イメージがおかしくなりそうだよ」

 

「何でも錬金術の方が簡単らしいという噂だ、わけが分からん……こういう甘さだと私でも問題なく食べられるな。美味かったぞ」

 

「また作ってきますね! 良かったら感想を貰えると嬉しいです」

 

中和剤とかインゴットとか、普通の人は使わないよねえ。錬金術と分からないように、か。

道具としての格はアルさんのと比較されても困る。だって発想が斜め上だし。

 

でも、お母さんたちへの報告もあるから売り物も考えていかないとね。

 

 

 

「さて……キロ」

 

「ん?」

 

「指輪なんて嵌めていたか?」

 

「ん~ん。今日初めて嵌めた。目立つ?」

 

「それだけ色合いが独特だとな。私達なら気付くだろう」

 

あぁん?

 

全然違う話題が出てきたけど、これは聞き逃せない。

あたしだって女だ。アクセサリーには興味があるね、島じゃそんなに売ってないし。

指輪とな? 今日から? どこから?

 

「アルに作らせた」

 

ですよねー。

 

「キロさんに作らされました……ホントに疲れた」

 

「お疲れだったのはそのせいだったんですね」

 

「ジュエリーっつうんだっけか? えらく変わった色してるんすね」

 

これを作ってたんだ。レントはよく「ジュエリー」なんて言葉知ってたわね……まさかザムエルさん情報?

 

たしかに不思議な色をしてる。リング部は緑っぽい金属って感じだけど、見る角度で色が違う。

付いてる宝石はいろんな色にキラキラしてて虹色みたいだね……虹色?

 

「キロさん……指輪を嵌める指の意味って知ってますか?」

 

「全然。意味なんてあるの? 親指と小指以外はサイズが合ったから取り敢えずここに嵌めたんだけど」

 

また……なんだか若干テンション高めっぽいクラウディアから質問が飛んだ。

はめているのは左手の薬指だね。クラウディアはなにか知ってる?

 

「アルさんは知っていますよね?」

 

「知っているよ。でもキロさんが言ったみたいに薬指でサイズを決めたわけじゃないよ。本人が気にしてないなら別にいいかと」

 

「ねえクラウディア、はめる指に決まりがあるの?」

 

それを聞いたクラウディアの顔が驚愕に変わった――そんな常識レベル?

 

「ライザが知らないのに驚きだよ……左の薬指の場合は「永遠の絆」の意味。つまりはずっと一緒にいましょうっていう、主に夫婦が嵌める位置なんだよ?」

 

「えっ? うちの親、どっちもはめてないよ?」

 

「農作業に邪魔だったり無くすといけねえからじゃねえか?」

 

あ~なるほど。それはあるかもしれない。

しかしまあなるほど、クラウディアが気にするわけだね。今朝から特に。

 

「指輪というのは力を高める物もあるからな。白牙氏族でも嵌めていた者がいた」

 

「リンケージ調合による錬金術の最高峰としても指輪があるぞ。なんでも、賢者の石を宝石としてあしらっているそうだ。眉唾物だがな」

 

「……ああ、そんな人もいたな」

 

「レト教のハゲのオッサンだね? ……ふ~ん。まあ嵌めているのは私だけだしいいんじゃない? 対の指輪は無いんだし」

 

「私が気にし過ぎなのかな……?」

 

なんかキロさん軽っ! ボソッと出たハゲのオッサンも気になるけどさ。

さっきまであたしも知らなかったけども。クラウディアはちょっと落ち着こう?

 

あとアンペルさんの「賢者の石を付けた指輪」って何? なぜにわざわざ指輪に……。

それにしてもこの指輪――リング部分はともかくこの宝石って。

 

「キロさん……というよりアルさん? これ宝石って何使ってます?」

 

「ライザの想像通り七煌石だよ。それを力尽くで加工したから「アルクァンシェルもどき」だね。キロさんのポッケには他にも色々入っているらしい」

 

うおお新素材! もどきとは言えレシピ的に最高クラスの宝石じゃん!

これが錬金釜からも作れるはずなのかあ……。

 

「なんとこれがアルクァンシェルか! 幻の宝石と言われるだけはあるな、見た目だけでも神秘的な力が感じられる」

 

「あの黒い石がこう化けるのか。クリント王国の奴らが漁っていくわけだ」

 

「宝石って……そんな短時間でカットできるものでしたか?」

 

「僕も職人さんに聞いた事がないから分からないけど、1、2週間は掛かるんじゃないかな?」

 

もう分かりきってるけど半月前……竜の話うんぬんくらい? そんな時期には触ってないと。

ありえない話だね。ホントは手間かかるんだなあ。

 

「アルさんはこれをいつ?」

 

「今朝ライザ達がボオス君達の所に行って帰ってくるまでの2時間くらいだよ。習作の時みたいに手計算じゃ時間がかかるから結晶構造やら結晶方位やら結晶面やらを理解した後は全部暗算でやる羽目になったし、カットも分解の応用を顕微鏡レベルで睨めっこさ。一つの錬成陣で全面カットってわけにはいかなくてね、エレメントに対する無理解は辛いよ。未だに頭が痛いし加護が無かったらリバウンドを起こしてそうだ……対価は僕の頭の毛根かな」

 

「冗談を言えるくらいだから大丈夫だね、お疲れ様。ただ、ここまで急いでくれなくても良かったんだよ?」

 

「そんな事を言っていたら、蝕みの女王を倒す日の方が早いかもしれないよ? ボオス君達が手がかりを見つけたら女王を倒すその日まで休み無しかもしれないし」

 

うっはぁ……。

間違いなく天才のアルさんの頭がパンクしかけるくらいなんだから、普通の作業じゃなさそう。

加えてアルさんはエレメントを正しく扱えないから普通の理解、分解、再構築じゃアウトなわけだ。まんま使うしかないと。

 

こういう事を手伝えればいいんだけどなあ。キロさんもとんでもないことを依頼するよ。

 

で、だ。

 

「なぜにキロさんはアルさんに指輪作りの依頼を?」

 

「朝にダイヤの話があったでしょ? こっちでは永遠の絆とかを意味する物みたいだけど……私としてはこっちに居た記念かなあ? あっちに戻ったら、また数百年はこういう物を手にする機会がないだろうし」

 

「……そう、だな。キロはアルが聖域を浄化した後はそこの守り人に戻るか」

 

「うん。あちらに戻ったら……ライザ達が生きている間にこっちに来る可能性は低いだろうから」

 

「僕に依頼した時、そんなしんみりとした雰囲気だった?」

 

「なんの事かな?」

 

ダメだ。キロさんの性格がますます分かんなくなってきた。

結局どれが本音なんだろう……。

 

「アルクァンシェルにも興味は尽きないが、このリングの素材も錬成でかね?」

 

「ええ。と言っても僕はライザやアンペルさんのようにリンケージ調合は出来ませんから……キロさんの協力を得ながら、やっぱり顕微鏡レベルでの合成をしました。宝石加工よりマシだったけど、もう二度としない」

 

「またムチャクチャなことを……材料はなにを使ったんですか?」

 

「ゴルドテリオンと、キロさんのポッケに入っていた謎の結晶」

 

「わりと適当っすね……」

 

「キロ、ポケットの中身を出してみてくれ」

 

「ん。りょ~かい」

 

そう言って、キロさんはポケットの中身をひっくり返した。

 

「キロさん……一度その服預かりますね?」

 

まあ出てくること出てくること。よくこんなに入ってたね? 容量的に無理じゃない?

クラウディアの言った通り一回服洗濯しないと……いろいろ出汁が取れそうだ。

 

ええっと……あたしが分かるのは「セプトリエン」「七煌石」「フェアリーピース」「魔石の欠片」だね。この黒っぽいのが「闇水晶」?

こっちの2つ……変な色の石とごくごく小さな赤い欠片――似た物を前に見たね。

 

「これはオーリムに染みこんでるフィルフサの成分――アルが鎧を錬成したやつだね。で、こっちの赤いのは多分それの高純度版と言えるのかな? コレは触らない方がいいよ。力を制した人間じゃないとエレメントを吸われるから」

 

「そんなものポケットに入れとかないでくださいよ!」

 

「そんな危ない材料だったからさっさと分解したんだよ。性質は全然分からないけど、出来た素材はゴルドテリオンよりも硬くなったかな? 相変わらずこっちの錬金術はよく分からないね」

 

「これは……戦士の証じゃないか。強大なフィルフサのみが持つとされる結晶体だ。また随分な物を使ったのだな」

 

オーリムでアルさんが作った賢者の石もどき。この赤い欠片はそれに似ているね。

でも、こっちの方が色は濃い感じだし透明感がない。見比べるとよりハッキリしそうだ。

知ってるなら見間違いはしなさそうだね。ただまあ……。

 

「……仮に入手できたとしても、完全に危険物扱いですね。今はパスですか」

 

興味を惹かれる素材だけどさすがに使うのは怖い。エレメントを吸うとか、怨念かなにか?

無い物ねだりをしてもしょうがないし、まずはレントが見つけたっていう素材を見に行こう。

 

「クラウディア、ごちそうさま。さて……レント、言ってた場所に案内してもらっていい?」

 

「おう、構わないぜ。つってもライザじゃあの崖を登れるか……」

 

「私も行くよ。風の精霊の力で持ち上げられるだろうし、素材の確認にも適任でしょう?」

 

「そうですね。よろしくお願いします」

 

「私は手持ちの素材の範囲で調合を行っていくとしよう。武器のレシピも考えねばな」

 

「なら私はキロ達に付き合うとしよう。ついでにあの翼竜をシめるぞレント」

 

「ウィッス」

 

「僕は……申し訳ないけど少し休ませてもらうよ。まだクラクラする」

 

「無理はダメですよ、アルさん。軽食を作りますから良ければ先に頂いてください。ちょっと時間は回っちゃいそうだけど、皆の分のお昼も準備しておくね」

 

「ありがとう、クラウディア。それじゃあ行きましょうか!」

 

さ、あたしたちも行動開始だ! ホントにあるのかちょっと信じらんないけどね。




本作だとキロとモリッツがここで会っちゃった。
余談ですが、作者がハガレンで一番お気に入りなのが少佐です。なので割と出ます。

素材やアイテムに関しては原作と設定や役割が異なっているものがあります。
ご了承ください。

次は原作で隠しエリアっぽくなっている場所へ。
そして初お披露目となる技……久々の戦闘描写です。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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