ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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ライザの休日後編です。

今回のメインとなるスポットは原作では単なるオブジェクトなんですが……。

今回もよろしくお願いします。


54. 73日目②  初デートはクラウディアと

「クラウディア、お待たせ」

 

「時間ピッタリだよ。ライザは時計を持っているの?」

 

「ううん? 時間は太陽の位置見れば分かるじゃん? 懐中時計はここじゃ相当高いからタオみたいな……手持ちの時計が好きって人くらいしか持ってないと思うけど。ホントはもうちょっと早く着く予定だったんだ。遅刻しなくてよかったよ」

 

「農家の人ってすごいね、それで時間がわかっちゃうんだ……ここに来るまでに何かあったの?」

 

「ザムエルさん……レントのお父さんに会ってちょっと話してたんだよ。酔ってなかったらそこまで無茶苦茶な事はしない豪快なおじさんって感じだし、あたしの両親とは知り合いだからまだ話しやすいってわけ」

 

「レント君の話を聞いてるとちょっと怖いイメージがあるからね。それじゃあ行こうか」

 

「そうだね。アルさんはもう外出された?」

 

「うん。15分くらい前に食材を持って拠点に出発されているよ」

 

キロさんの要望に応えるのも大変だなあ。

アルさんの指示があった時はキロさんも料理するんでしょうけど、その場合ってどうなるんだろ?

キロさんが知ってる料理になるのか、アルさんの言い方次第でなんでも作れるようになるのか。

 

リラさんも普段料理しないけどシチューとかのレシピは知ってるんだよね。

あっちの料理っていうのも食べてみたいなあ。

 

さて、戸締りはしっかりとね。

 

 

 

「クラウディアから見て、クーケン島ってどんな感じ?」

 

「そうだね。掟の話とか……他の町とは一風変わったところはあるけど物資は揃っている感じかな。人が多い町なら珍しくないんだけど……クーケン島って1000人もいないよね? 他の町から離れているし、加えて島だから物を運ぶのも大変。だから最初にこの島を開拓した人たちはすごい技術を持っていたと思うよ」

 

「人の数なんて数えた事ないね。たしかに……あたしなんて17年島を出ることもなく過ごせてるんだし。クラウディアみたいな行商の人たちのおかげだけど、不便はしてないね」

 

「驚きはリュコの実……クーケンフルーツがここでしか育たないって事だよ。ロテスヴァッサ王国は全体的に鉄分の多い地質だって聞くし、そのせいなのかもだけど……あれ、そういえば島ではアオツメクサって見かけないね?」

 

「あーあの草ね。ここじゃシロツメクサしかないから、アオツメって何のことかと思ったよ。じゃあクーケン島は対岸の地質とは違うのかな?」

 

あとは、タオがよく口にするけど鉱石も無いんだよね。こういうのはアルさんが詳しいかなあ。

 

「でも一番の違いはライザたちが居る事かな? 行商先でこんなに充実した毎日が送れるなんて思ってもみなかったよ」

 

「あはは。それはあたしたちも同じだよ。こんな毎日が来るなんて思ってもみなかったから」

 

こうして同世代の女の子と似たような服を着て、島を歩く日が来るなんてね。

そして……さすがに2人同じ服を着て歩いてるとあたしもいろいろ話しかけられる。

ピーターさんに取材されたり、ロミィさんに「青春だねぇ~」と言われたり……青春?

まあクラウディアが楽しそうだからいいんだけど。

 

さて、着いた着いた。

 

「いらっしゃいませ~……ありゃ、ライザじゃない。なにげに初? おめかしまでしちゃって」

 

「気分転換ってやつだよ。あと初めてのお店って、入るのに気合要らない?」

 

「島の中で緊張も何もないでしょうに。クラウディアちゃんはこの前お菓子ありがとうね。あのプリン、店長にも好評だったよ」

 

「テイストありがとうございます! よかったぁ~」

 

店員さんのお名前は知らないけど、顔はよく見てる。島はそんな人ばっかだ。

クラウディアは特殊な意味で、あたしは悪童的な意味で有名……むう。

 

「それで……2人でいいのかな? 夏場はテラスが人気だけどお店の中も席の空きはあるよ」

 

「ん~、じゃあせっかくだからテラスでお願いできます?」

 

「は~い、客寄せよろしくね。そういえば最近のライザは特にアルフォンス君といる事が多いけど、今日彼は居ないの?」

 

「今日はね。別行動されてるよ」

 

「そっかぁ~。こっそり飲み物にお酒を入れて優しい言葉をささやいてもらおうと思ったのに」

 

「それ……王都ですると捕まりますよ?」

 

「ザムエルさんと飲み比べても平気らしいから多分無理じゃない?」

 

「冗談よ。でもザムエルさんと飲んでも酔わないってマジ? 難攻不落もいいとこね……はい、メニュー表はこちら。ちょっとしたら聞きに来るわね」

 

冗談ならいいけどとんでもないこと考えるわね……。

さてと、飲み物の種類は。

 

「クーケンフルーツに林檎、アナナス(パイナップル)、甘露の実にフレスベリー……酸っぱそうだね」

 

「フレスベリーは一度火を通すと甘くなるんだよ。パルマ(椰子)って……ライザが木材に持っていたっけ? あれって実がなるんだね?」

 

「皮が硬くって開けられたもんじゃないんだけどね……へえ~、そんなのも置いてるんだ。あたしはパルマにしよっかな」

 

「私は甘露の実にするよ。ご飯はバーガーでいいかな?」

 

「服汚さないようにしないとね……」

 

サンドイッチと違ってアレは作り方が豪快なんだよなあ。

普段着なら多少汚れようと気にしないけど、この服汚すのはちょっと抵抗あるし、そのままクラウディアと一緒にいるのは失礼だしね。

 

「ご注文は決まった?」

 

「あ、はい。飲み物はパルマと甘露の実。あとバーガーを2つで」

 

「はーい。パルマとピーチ、バーガー2つね。テーブルナプキンは後で持ってくるから」

 

「? ピーチって?」

 

「甘露の実のここでの通し名よ。アルフォンス君がそう呼んだからなんだけど、「かんろのみ」より言い易いしね。あ、そうそう、飲み物代はプリンのお礼って事で1杯サービスだから」

 

「わあ! ありがとうございます!」

 

「こっちも新しいメニューにさせてもらえそうなんだし安いもんよ。まあその辺にしとかないと、アルフォンス君なんて永久無料になりそうだけどね」

 

ここでも何かやらかしてるんですね?

 

「ここにアルさんの道具が?」

 

「そうよ。そこに置いてある樽の「さーばー」とか、さっき注文してくれたパルマの実の皮を刳り貫く道具とかね。儲けの額を考えて……彼が来る頻度を考えたら全部無料でも足りないんじゃない? じゃ、ちょっと待っててね」

 

「……色々やってるなあ」

 

知らなかっただけで、こんな所にもアルさんの道具シリーズがあったよ。

しかも話を聞く限り多分タダ。そりゃ他の商人さんの商売あがったりね。

 

「アルさんって島に来て10年なんだよね? いくら流れ着いたときの中身が20歳で、錬成が使えて知識があちらの世界の文化だからって言っても……そんなにポンポン作れるものなのかな?」

 

「中身って……むしろ控えてる方じゃない? ホントにアルさんの世界とここでは文明? ってやつが違うみたいだから。この前ボトルの世界で見た線路ってあったじゃない? アルさんの世界では100人以上を運べる乗り物が、リラさんの全力疾走くらいの速さで線路の上を走るらしいよ」

 

「……すごいね。つまりリラさんが100人くらいを担いで走っているようなものなんだよね? 100人って、どうやってそんなに人を乗せるんだろう」

 

あたしの説明のままではあるけど……なんか気にしてる点が違う気がする?

 

「で、アルさんは間違いなく天才の部類だし「なんでそうなってるのか」を考えるとすぐに答えにたどり着いちゃうんじゃないかな。もしその気になったら島が原形を留めてない気がする……」

 

「ふふっ、王都よりも都会になっちゃってるかもだね。逆に……ホントに私たちがアルさんの世界に行ったらどんな感じなんだろうね?」

 

「あっちには魔法がないらしいから、まず人前で使わない方がいいって言われたかな。身体中調べられるかもって」

 

「そっか……あちらでは紛争が起きているんだったね。魔法も、攻撃や回復の手段になっちゃうのかな」

 

あーいけないいけない、暗い話になっちゃった!

明るい話題に戻さないと。

 

「そう言えばここに来たばっかの頃のアルさんって、声がすっごくかわいかったんだよ」

 

「声? そういえばアルさんって結構中性的な声だよね」

 

「そうそう。だけど子供の頃はほとんど女の子の声だったんだよ。アガーテ姉さんより音が高くて、今のあたしとそんなに変わらないくらい」

 

「そんなに高かったの!? そこまでは思ってなかったなあ」

 

おしっ、軌道修正!

しばらく昔のアルさんについて話に花を咲かせましょうか。

 

「は~い、お待たせ。パルマジュースはどっちかな?」

 

「あ、あたしでーす……えっ、かなり冷えてる?」

 

「こんな夏にどうやって氷を……」

 

「ふふ~ん、もう言わなくても分かるでしょ?」

 

まぁたあの人か。

でも魔法を使わずに物を冷やすなんて、一体どうやって。

 

「あ、ちなみにどうやって、なんて聞かれても答えらんないわよ? うちらもぜんっぜん分かんないんだから。とりあえず夜に箱の中に水を入れて置いたら朝には氷になってるって事だけ。こっちはクラウディアちゃんの分ね。それとバーガー二つにテーブルナプキンっと。ご注文は以上でお揃いかな?」

 

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 

「じゃ、ごゆっくり~」

 

すごいわね、ホントに氷だよコレ。夏にはたまんないわね。

さて、このナプキンとやらはどう使えば……ああ膝の上に置けばいいんだ。

 

「ナプキンもストローもちゃんと出てくるんだね。バーと言いつつちょっとしたリストランテだよ。氷はびっくりだなあ」

 

「ストローは……まあ麦作ってるこの島ならね。こっちはクラウディアがいなかったら使い方分かんなかったわ」

 

「テーブルマナーって結構複雑だから、いつも気にしてたら肩肘が張っちゃうよ? 服を汚さないためにってくらいに考えれば大丈夫だね」

 

マナーねえ。とにかく残さない、手を付けたら食べるってくらいしか気にしたことないけど。

さてパルマジュースはっと。

 

「中身はこんな白っぽい水なんだね~。どれどれ……」

 

ちゅ~っと……んんっ!?

 

「思ってたよか甘い! 冷たいのも合わさって今の時期には最高じゃんコレ。採取の後にがぶ飲みしたいなあ」

 

「ライザらしい感想だね。こっちは……ん~甘くて冷たくて美味しい。すごいねこれ、他の町で飲んだ事ないよ」

 

「ちょっともらっていい?」

 

「いいよ、はい」

 

クラウディアのとグラスを交換。

甘露の実は普通に高級品だからなあ。そのまま食べる事すらめったに無いのに。

 

「うわ~甘い! 冷えてても分かる甘さだね。でも普通の搾り汁よりずっと飲みやすそう。冷えてるからなのかな?」

 

「そのままだと濃すぎるから氷水で割ってるんだと思うよ。こっちは……不思議な甘さだね? 木の実のはずなのにどこかしょっぱい?」

 

「育ったのがこの辺で採れたやつなのかな、湖水から塩っ気を吸ったとか。パルマは塩水でも育つのかな?」

 

「塩っ気があるからこその味かもだけどね。おもしろいなあ」

 

島の中でこんな味わいに出会えるなんてね。

そういえば……アルさんにご飯作ってもらった時にも雑貨屋さんに色々あるって言われたっけ、見てみなきゃね。

 

「こっちのバンズも表面を軽く焼いてあるんだね。色々工夫してるなあ、見習わなきゃ」

 

「クラウディアのプリンも表面焼いてない?」

 

「あっちは火が付く材料を入れてあるからまだ簡単だね。こんな風にパリッとさせるなら丸ごとオーブンに入れないといけないから、すごく手間をかけてると思うよ」

 

いつの間にやらあたしも食べながらいろいろ分析するようになったわね。

初めてシャンティークリームを食べた時が懐かしく感じるよ。10日くらい前でしかないんだけど。

 

「ああライザ、ほっぺにソースが」

 

おおう、油断してた。

 

「どうかなお2人とも? ウチの味は」

 

店員さんが戻ってきた……お盆に何か乗せてる?

 

「すっごく美味しい。なんで今まで来なかったんだろう」

 

「まあライザ達の小遣いで来るにはちょっと値が張るだろうからね。これでもアル君が来る前に比べたら安くなったんだよ? 店長拘りが強すぎるから……」

 

「分かります、それ。出来る限りいいものを提供したいって。でもやっぱりコストとの兼ね合いになっちゃうんですよね」

 

「嬢ちゃんとは気が合いそうだ。こいつはそんなコスト度外視の一品だ」

 

店長さんが出てきた――あれだ、ザムエルさんを取り押さえられる数少ないおっちゃん。

この人店長だったんだ。

 

お盆に乗せてたものをテーブルに置いてくれた……これは。

 

「ミルクの……氷菓子?」

 

「そうだ。これを作っちまうとその日の氷をほぼ使っちまうがな」

 

「はぁ~、今日の分どうするんですか? 今からまだ半日近くあるのに」

 

「そんなもん、氷が出来るまで臨時休業だ」

 

「そんな大切なものを……よろしいんですか?」

 

「逆だ。お前さんにこそ食ってもらうべきだろう。あとはアルフォンスとかな。ライザ、お前は嬢ちゃんに感謝しとけ」

 

ついでですかいあたしは。まあご相伴に預かるけどさ!

 

「まあまず食ってみろ。ほっとくとすぐ溶けちまう」

 

「それじゃあ早速……っ!」

 

ちべたい!

 

「ちべたい!」

 

「分かり切った事言ってんじゃねえよ」

 

思ったことがそのまま口に出たよ。いや、最初の感想はこれじゃない?

 

「おいしい……見た目で分かってはいましたけど、単に凍ったミルクではないんですね。でも半分だけ凍ってるわけでもない……これは一体?」

 

「どういう状態なのかは俺でも説明が出来ん。正確に説明できるのはアルフォンスくらいだ。あいつが言うには「脂が完全に固まらないのと同じ」、との事だがな」

 

「ホント、彼の頭の中はどうなってるのかしらね」

 

異世界製の異次元です。

 

まあ真面目に考えると――凍ってるのは間違いないけど、氷みたいな食感はないのよね。

たしかに冬場に固まった脂をかじったらこんな感じなのかもしれない。

原料がヤギミルクと砂糖系なのは間違いないだろうけど、この不思議な食感のおかげで完全に別物の味わいだ。

 

「コレ、店長さんが考えたんですか? ……まさか」

 

「そのまさかだ。悔しいがこれは再現で「もどき」だ。あいつは一体ここに来る前に何を見てきたんだろうな?」

 

「彼が言うには氷じゃ冷やし不足だそうよ。作った時は何で冷やしたんでしょうね」

 

「これも……アルさんが」

 

おかしいわね。英雄とはいえ、アルさんの本業は錬金術師よね?

最初にこれ作った時も錬成? 料理で錬成してるとこ見た事ないし、違うよね。

 

じゃあ自前の知識だけ?

……あれだ、いつかタオが言ってた「ばけがく」とやらを聞いてみよう。

 

「とまあ、今はコレの開発をずっとやってたところに嬢ちゃんが新メニューの売り込みに来てくれたってわけだ。ありがとよ」

 

「いえ! 私もプロの方にそう言ってもらえて恐れ入ります。採用ありがとうございます」

 

「今の言葉、ライザは一言一句迷わずに言える?」

 

「分かって聞いてるよね?「やった! じゃあよろしくね!」に決まってるじゃん」

 

なぜに見知った顔相手にそんなかたっ苦しそうな言葉遣いがいるんだか。

 

しっかしまあ……あっつい夏にこれがあったら大流行しそうだよね。

今はお店の氷を全部使っちゃうくらいらしいけど、いつか形になるといいな。

……これ、レヘルン使えないかな?

 

 

 

「すっごく美味しかったね! また行ってみようよ」

 

「そうだね。まさかあそこがああいうお店だったとは……」

 

既成観念っていうんだっけ、要するに思い込み。

これはこうであるとか、こんなことあるはずないとか。掟みたいだね。

錬金術を考える分にもありそうだなあ。発想を変えてかないと行き詰まりそう。

 

というか、アルさんの影響がそこかしこにあるわね。

今までに知ってたのは水路とか肥料、農具にバジーリアさんの鍋とか、最近なら音爆弾。

けどアルさんがここに来て10年になるんだから、他にもいろいろ普及してるんだろうなあ。

 

目指す壁は高い……空を飛び越えちゃいそうだ。

 

「ライザはこの後どうするの?」

 

「特に予定はないよ? 夕方に装飾品の調合をしよっかって思ってるくらいかな。時間は……1時くらいか、まだまだ全然大丈夫だよ」

 

「なら私の家でお話ししない? まだまだ話したい事がいっぱいあるんだ!」

 

あたしとしても話したい事はたくさんあるし、休みの過ごし方としてはもってこいね。

キロさんが居たらアルさんの情報がいろいろ聞けたのかもだけど、それは後日にしよう。

 

「いいよ、あたしもおしゃべりしたいし。女子トークとシャレこみましょうか!」

 

「じゃあ早速行こうか! うちにも氷があったらなあ」

 

「あれを普通だと思っちゃいけないって」

 

正直、この夏場に氷を見るなんてレヘルンくらいしかないんだし。

……あれ、クラウディアなら自前で用意できるんじゃあ?




パルマが椰子というのはラテン語だそうです。びっくり。
お店と店員2名の設定は完全にオリジナル。店長のイメージはシグさんです。

次は……同時間の別視点です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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