ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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お待たせしました。第七章開始です。

まずは鍵の修復から。久々の人物からの講義が入ります。

今回もよろしくお願いします。


第七章 作られた島 ~あたしたちの選ぶ未来~
63. 75日目①  古式秘具のリフレッシュ


「ぬぅ~ん……」

 

「なかなか思いつかないね?」

 

塔にたどり着いた翌日。

アトリエで乙女らしからぬ悩み声が響く――だれが乙女じゃないって?

 

錬金術の調合レシピは料理に近いから、こうしてクラウディアにも知恵を絞ってもらってる。

家主のアルさんは朝からタオの家で調べものタイムだ。

 

「物を直すっていうのはなかなか料理では無い発想かな。ライザ、その鍵って錬金術的にはどういう状態になっているの?」

 

「そうだねえ……複雑な水路を想像してみて? その水路がゴミで塞がっちゃってたり、岸壁がボロボロになってたり、別の水路に流れ込んじゃったり、そんな感じね。そもそも水路に水を流すための門が開かない状態ってのもあるけど」

 

門の隙間に魔力を無理やり流して中身の把握は出来てるけど、根本的な解決にはなってない。

そもそも誰かの魔力を石碑に伝えるような機能じゃないだろうしね。

 

「となると……しないといけないのはお掃除って事になるのかな?」

 

「そうだね。ただ相当に頑固な汚れだから荒療治が必要な気がするよ。でも鍵を壊しちゃわないか心配なんだよなあ」

 

錬金術的な汚れだから物理的に掃除しても意味がない。

となってくると、錬金術的に強力な作用のある何かを鍵の中に流してやる必要があるのかな。

 

 

ガチャン

 

 

「クラウディアちゃん、ご馳走様~。プリンはアレでいいと思うよ?」

 

店舗側でクラウディアのお菓子の試食をしてくれてたらしいロミィさんが作業場にやってきた。

 

「だけどケーキはちょっと甘さ強めかな? 使ってる果物類のシロップを甘さ控えめにするか、漬け込む時間を短くした方がいいかもね」

 

「ありがとうございます! 調整してみますね……くどい感じですか?」

 

「くどいって言うよか果物の味がシロップに負けちゃってる感じ? 見た目と触感はいいけど味は判別しづらいっていうか。今のでも十分美味しいんだけど、突き詰めるならってとこ」

 

「甘いだけじゃダメなんだね……甘いのも色々だもんなあ」

 

「そういうライザは何かお悩み? ホレホレ、ロミィさんに話してみんしゃい」

 

いろいろ世界を見て回ってるロミィさんだ、なにか閃いたりしてくれるかも。

まずは見せようか。

 

「これを綺麗にしようと思ってるんだけど」

 

「なんだぁアル君関係じゃないのか……随分とまあ錆び錆びだねえ。磨くのはナシ?」

 

「無しでお願いします」

 

「そもそも錆びってどんなもんなのかもわかってないんだよねえ……」

 

「えぇ~ライザあんた、アル君の傍にいるのにそういう勉強はしてなかったりするの?」

 

ロミィさんにすっごいあきれ顔された……。

錬金術以外はスッカスカで――なんかすみません。

 

「張り合いがないなあ……アル君と話そうと思うんならそういう知識くらいは身に付いてると思ってたけど」

 

「ロミィさんはこういったお勉強を?」

 

「アル君は金属加工が多いし、ロミィさんが取り扱う品物にも装飾品が無いわけじゃないからね。話を合わせる為にも色々努力してるんだぞ?」

 

「いや、そんな勉強しなくっても話は出来るんじゃあ……」

 

「こっちは遊び気分じゃないっての。アル君を狙うなら使い物になる女を演じてナンボじゃん? はぁ……しゃーない、ちょっと教えとこうか。超強力なライバルが現れたばかりだというのに」

 

ロミィさんの努力の方向はこういうものだったのか、考えた事なかったなあ。そういえばドンケルハイトが載ってたっていう事典を仕入れたのってロミィさんなんだっけ。あれもその一環だと。

やれやれ顔ながらもロミィさんがチョークを持ってボードに向かう。

綺麗な字でボードに書いてくれたのは。

 

貴金属(ききんぞく)卑金属(ひきんぞく)。2人は聞いた事ある?」

 

「両方分かりません!」

 

「黄金とか……装飾品に使われる金属が貴金属なのは聞いたことがあります」

 

なんか、ホント、ごめんなさい。

そんなあたしをスルーして、ロミィさんがその2つの言葉の下に素材の名前を書いていく。

 

「まあ分かりやすく「金」とか「銀」みたいな錆びにくいのが貴金属。「鉄」みたいな錆びやすいのが卑金属ってとこよ」

 

「でも……銀食器ってすぐに真っ黒になりますよね?」

 

「アレは錆びてるわけじゃないんだなあ、それは主に硫化。錆びは酸化ね……温泉は分かる? あれの臭いの元と混じると黒くなるのだよ。そもそも銀食器ってそういう毒や砒毒中の硫黄をすぐに判別する為の物だしね」

 

単なる高級品だと思ってた。

なんであんな磨いてばっかの物を使うんだろうと思ってたけど、そんな理由だったんだ。

 

「んで、今回の場合はこっち――卑金属だね。大半の金属がコレで、空気や水にさらすと色が変わってボロくなる。私達が吸ってる空気に触れると……林檎とかも色が悪くなってくるでしょ? それもある意味錆なわけだよ」

 

「錆びってそんなもんなの!?」

 

「腐ってくるわけじゃなかったんですね。でもクーケンフルーツはわりと……」

 

「腐るのもゼロじゃないけどアレは主に雑菌のせいね。クーケンフルーツは錆には強いんだよ。とはいえ、すぐに水分が飛んじゃうし柔いし熟しちゃうから結局長距離運搬は難しいわけだけど」

 

やばい、知らない事ばっかだ。行商をお仕事にしようと思うといろいろ勉強が必要らしい。

 

「一番分かりやすいのは鉄か。例えばさ? ここに置いてあるインゴットを雨ざらしにするとどうなるか想像は付く?」

 

「赤っぽくボロボロになるよね? 錆びってソレの事じゃないの?」

 

農機具なんかも使い続けてないとどうしてもそうなっちゃう。

アルさんが作ってくれるのは随分と長持ちするけどね。

 

「まあライザは経験あるよね。鉄が雑く酸化したのが赤錆。だけど赤いのだけじゃなくって……コレも錆なの」

 

そう言って……ロミィさんがあたしの大釜の表面をちょいちょい指さす。

 

「どれ?」

 

「全部全部。金属って基本光ってるけど、これは黒くなってるでしょ? 黒錆って言って中身が錆びないように外側を意図的にしっかり錆びさせてあるのだよ。そこの料理鍋もそうかな? 被膜とも言ってライザが知ってる様な赤い錆が出ないようにして……この釜ヤバくない? こんな馬鹿でかいのにメッキしてあんのかってくらいに綺麗じゃん」

 

「「えっと、まあ、その」」

 

ここにある道具の大半がアルさん謹製ですので。ただロミィさんに錬成は内緒だからクラウディアもしどろもどろだ。

アルさんの説明回避のために驚きが飛んじゃったけど、これも錆びなんだ。そういえば被膜してあるって言ってたっけ。

 

「まあどうせアル君の仕事だよねー。とりあえずロミィさんがライザに教えたいのは――錆ってのは空気とか水とかのせいって事と、錆にも種類があるって事。今回は意訳交じりだから、真面目に専門用語を使った正しい説明はライザが最低レベルまで勉強してからね」

 

「お世話掛けました……」

 

「表面が傷つくとそこから錆びちゃうのってそう言う事だったんですね。勉強になりました! でも意図的に剥がすとなると」

 

「そ。錆びさすのは簡単だけど逆は大変よ? 削らないで錆取り掃除っていうならロミィさんが知りたいくらいだねえ。言葉の上では還元って言うんだけど」

 

大変勉強になりました。還元……元に還す、ね。あれ、ジェム還元と同じ? まあいいや。

そっかあ、錬金術の分野じゃなくても錆び取りというのは難しい話らしい。

 

「お掃除かぁ。う~ん……キッチンのお掃除に使うのは水垢ならクーケンフルーツとか、油汚れには重曹や石鹸とか」

 

「クーケンフルーツってそんなのに使えるの!?」

 

「うん。詳しくは分からないけど、アルさんが言うには水垢とクーケンフルーツって性質が逆なんだって。油と重曹もだね。逆に石鹸は油に馴染みやすい性質らしいよ?」

 

「なんだ、ちゃんとアル君から勉強してるんじゃない。柑橘類は両方に使えるよん……ライザの頭からすっぽ抜けてるだけか」

 

ジト目された……。

あたしは多分聞いてないよ! 水垢とクーケンフルーツが逆ってなんですかアルさん!

これはアレか、例の「バケガク」ってやつなのかな。

 

 

 

とりあえずロミィさんの説明を整理すると。

赤錆ってのは自然の調合なんだよね。鉄と空気や水があたしたちの望んでない形で調合された物。

この鍵も長い間放っといたせいで、錬金術的な仕組みの部分までよろしくない錆びが回っちゃったんだ。調合って言うなら基本は足し算だから水路に不要な物ができてるのも納得だね。

 

これを、元に戻す。つまり還元しようと思うなら。

必要なのは不要な物を取っ払う事。それもピンポイントで。

クラウディアのお掃除を例にするなら――錆びと逆のものをぶつけるか、錆びと一緒に流しちゃうわけかな。流しちゃうと元の部分まで削れちゃいそうだから逆のものをぶつける事を考えたいね。

 

しかも、古式秘具に影響を与えた数百年レベルの錆びを取り除けるくらい強力な。

 

さて……錬金術で強力なものっていうと、一つはエリキシル。

ついに補充を成し遂げた翡翠の碧水やドンケルハイトもこれね。

いまいち具体的にこうだからエリキシル! って分類は全然分かんないんだけど。

 

次は神秘の力を宿す素材。聖石関係とか魔導書、いつかの蝶の羽なんかがこの辺だ。

イメージとしてはこの辺が使える気はするけど……パンチ力不足かな?

 

最後は毒関連。もうそのまんま毒系統やオーリムの植物素材とかがこれに該当。

他の物を侵す感じで干渉するって意味ではこいつが一番作用がありそうよね。

ただ……鍵そのものを壊しかねない気がするんだけど、荒療治なら一考かなあ。

 

「考えっぱなしは疲れちゃうよ? パンケーキでも食べる? ……贅沢に金のハチの巣でも使って! ロミィさんもいかがですか?」

 

「いいね! せっかく採ったんだし堪能させてもらおっか」

 

「ありがとねクラウディアちゃん……金のハチの巣なんてこの周辺の何処に?」

 

昨日思いもがけない大収穫だった金のハチの巣、一足先に味わわせてもらおう。

採りに行こうと思うならロミィさんには相当苦労してもらう事になるかな……。

そういえばクラウディアなら知ってるかな?

 

「ねえクラウディア、ハチミツってなんで傷まないのか知ってる?」

 

「ええっとね。傷むとか腐るっていうのはさっきロミィさんがお話ししてくれた傷ませる性質の雑菌が広がっちゃうせいらしいんだけど、ハチミツの中では生きていけないらしいよ? だから怪我した時に塗ると殺菌してくれて治りが早くなるんだね」

 

「勉強してるじゃんクラウディアちゃん。ハチミツって元はハチのご飯なわけよ。それが巣の中で腐ろうものなら巣が全滅。だから腐らないご飯を考えたわけだね。あ、絶対に赤ちゃんにはあげちゃダメよ?」

 

「1000年単位で腐らないって極端すぎない?」

 

「虫が作り出すような物なんて私達(ヒト)の尺度と一緒にしちゃダメよん? ハチミツより強力なローヤルゼリーは普通のハチを女王バチに出来るんだし、蜘蛛の糸とか丈夫さヤバいらしいし」

 

手早くパンケーキを焼きながらクラウディアが解説してくれる。

食材の話になるとクラウディアもめっちゃ詳しい。加えてロミィさんの補足も入れてもらった。

あたしの勉強不足が余計際立った……。

 

雑菌が生きていけない、ねえ。

傷みはこの鍵で言うなら経年劣化。雑菌は錆びがそれにあたるのかな。

 

錆びは……ロミィさん用語で言うと空気によって起きてるものなんだから、それを阻んでるのが食べ物でいうハチミツってわけね。

ただ人のケガは自分の力で治してるわけだから、ハチミツ自体はそれの補助……うん?

 

昨日聞いたエリキシル剤とかなんて普通じゃ有りえない治り方をするんだから、アイテム自体に治癒効果――元に戻す作用があると思った方が自然なのかな?

癒しの力となると、やっぱり神秘の力かエリキシルが狙い目かあ。

 

「はい。お待ちどう様です!」

 

「ありがとね~……う~わ、これ全部金のハチの巣のハチミツ? 売ったらいくらになるんだか」

 

「ありがとうクラウディア! あたしもいい加減リベンジしないと」

 

パンケーキ、弱火、焦げ……うっ、頭が……。

 

それにしてもホントにクラウディアの腕前が上達してるわよね。もう開店間近なんだっけ。

料理の腕前そのものもそうだけど、もう計量せずとも目分でピッタリ量れるらしい。

とは言え、こういうおやつのパンケーキとかを除いてキチンと全部量るらしいけど。

 

時間もピッタリなんだよね、驚異的な体内時計。クラウディアは懐中時計持ってないしね。

 

さてさて~こっちのハチミツを上からかけて~、うん! すごいテカってる!

香りもすごく強いよね。昨日採取した後キロさんのお腹が鳴りっぱなしだったのは仕方がない気がする。

 

「はい。それじゃあ、「いただきます!」「いただくね~」」

 

クラウディアはきちんと切り分けてるけど、こちとらそんなマナーは学んでない。

食べたいように……豪快にいくわよ!

 

「せめて1/4くらいには切ろうよ……」

 

「そんなのライザじゃないよクラウディアちゃん。この雑さこそがライザよ」

 

円形のままかぶり付くあたしを見て、さすがにクラウディアが苦笑してる。

それと雑さってあんまりじゃない? いや、調合もわりと適当か……。

 

「クラウディアもしてみたらいいんじゃない? 一回でたくさんハチミツが味わえるわよ?」

 

金ハチミツを食べるのは初めてじゃないけどやっぱり美味しいわね。

濃いんだけどくどい濃さじゃないし、飽きない味。

銀ハチミツは普通のと変わんないんだけどなあ。

 

そんなあたしの様子を見ていたクラウディア。

まだ手を付けていないもう一枚のパンケーキに、おもむろにフォークを刺して……。

 

まさかホントにいっちゃうの?

煽ったのあたしだけど! ロミィさんもめっちゃ目見開いてるよ!

 

 

ガブッ!

 

 

「珍しい物を見た気がするよ」

 

「「!??」」「おー」

 

入り口から聞こえた儚げな、でもなんとなく「ニヤリ」って効果音が聞こえた気がする声。

 

「キロさん?」「ふぃろふぁん!?」「やっほ、キロちゃん」

 

おーおークラウディアがあたふたしてる。そんな焦る事ないでしょうに。あたしなんて日常だよ?

 

「外まで微かに高級なハチミツの匂いが漂って来てたからね、ご相伴に預かろうかと。ロミィも来てたんだね」

 

「ロミィさんはクラウディアちゃんのメニューの試食だったんだけどねー」

 

「ホント……どこからそういう言葉を覚えて来てるんですか?」

 

こっちに来てどんどん毒されてる(俗世にまみれてる)気がするよね。

 

「んごくっ……キ、キロさんも食べますか?」

 

「5枚よろしく」

 

「そんなに食べんの!?」

 

ほんのり顔が林檎色に染まったクラウディアの提案――8割本音、2割ごまかしってとこかな。

それにしても、フラっと現れて5枚食べると宣言するこの人はなんなんだろう。

ロミィさんの反応は極めて正常だ。

 

「アルはタオの所に行ってるんだよね。こっちは何か進展あったかな?」

 

「そうですね。具体的には程遠いんですけど神秘の力を宿した還元……修復剤? みたいなものが調合できればなあ、くらいを考えてます」

 

「まさかライザの口から正しい意味での還元なんて言葉が出るなんて……修復剤?」

 

「さっきロミィさんが教えたのだよ……この子さぁアル君と何話してんの? 酸化還元くらい聞いてそうなもんじゃない? 農家の娘なら酸性土壌とかくらい……」

 

キロさんの一言が割とヒドイ上にジト目された。ぐぬぬ、錬成とかいろいろ話が出来れば。

 

「ええっと……人でいう所のエリキシル剤をイメージしてます。自己治癒が無いなら薬自体に修復の効果が無いと多分治りませんよね?」

 

「あー成程。私の回復魔法も代謝の促進だから物を直すならそうなっちゃうんだね。ただ生き物に対するドンケルハイト的な素材が存在しない。そんなとこかな」

 

「今サラッとヤバイ素材名が出た気がするんだけど……持ってたりしないよね?」

 

この人は本当に錬金術に触れた事が無いんだろうか? 理解が滅茶苦茶早い。

お花はレントが大量にごうだ……採取してくれました。なんとなくの方法で保管はしてあるけど、薬効は消えちゃってるんだろうなあ。

 

「ちなみになんですけど、オーリムで最も強力な薬とか毒って何になります?」

 

「ん~薬としてならドンケルハイト、毒としてなら戦士の証――この指輪の素材元だね。ある意味オーリムの汚染を煮詰めて結晶化させたような代物だろうから、色んな物を汚染する作用もあるよ。フィル……魔物の負の怨念でも纏ってるんじゃない?」

 

危ない危ない、ロミィさんにフィルフサの事は秘密なんだから。ナイスキロさん。

 

「変わった色の指輪に宝石ね? まさかグランツ……いやいやそれはないか。 「オーリム」ってリラさんとキロちゃんの故郷だった? 大変な状況なんだね……」

 

「うっうん、キロさんとリラさんはその解決のためにわざわざこんなド田舎まで見て回ったりしてるんだし」

 

「それにしてもとんでもない物をポケットに入れてましたね。やっぱり一度預かって……」

 

5枚のパンケーキをお皿に乗せて、クラウディアがセットしながら会話に入る。

アレってエレメントを吸うんだっけ? キロさんが持ってる限りは大丈夫らしいけど、なんで入れっぱなしにしとくかなあ。他のポッケの中身もよく無事だったもんだ。

 

「ありがとう、いただくよ。さて、物に作用する薬っていうのは私も知らないけど、物に作用する毒がある以上は薬も作れるんじゃない?」

 

「うん? それってどういう意味ですか?」

 

毒があるから薬も作れる?

 

「こっちでは一般的じゃないのかな? 薬と毒って根本は同じものなんだよ。副作用が出ないようにした毒が薬と言っても間違いじゃない」

 

シュトゥルムフート(トリカブト)がそうなんでしたっけ。元は強毒なのを薄めて鎮痛剤にしてるんですよね。あんまり知っている人はいないかもです」

 

「酒は百薬の長ってライザは知らない? 逆に、お酒に限らずどんなものも採り過ぎたら毒。桶一杯の海水を一気飲みしたら死ぬわよ?」

 

なんかどっかで聞いたことがある気がするかな?

あれ、前にあたしが風邪引いたのいつだっけ? お医者さんのエドワードさんの使ってる薬とかもそういう物が元だったりする?

 

「そうそう。あとは感染症に対する最強の薬がカビ毒だったりね。まあそんな感じで薬と毒は紙一重なんて呼ばれるくらい似たモノだよ。万物に毒ありとも言うかな?」

 

「へぇ~初耳情報ばっかですね。薬と毒が背中合わせかぁ」

 

「ちょっと違うけど食べ物にも毒持ちが多かったりするよね、お豆とかイモとか。ロミィさんが仰っていた「ハチミツが赤ちゃんにダメ」っていうのもそうだね」

 

「ハチミツの場合は別の理由だけどね。アレは赤ん坊じゃ毒の元になる菌を除去できないせいらしいから」

 

クラウディアもなかなかに雑学豊富ね。豆やイモは火を通すと毒が消えるんだっけ?

カビはチーズ作りにも使われてるんだよね。まさか薬になってたとは。

そしてロミィさんがかなり博学だ。さすが世界を見て回ってるなあ、知らなかったよ。

 

「とまあそんな感じで、戦士の証は流石に危ないだろうけど……他の毒っぽい物をいい感じに薬に出来ればわりといけるんじゃない?」

 

「一気に適当になりましたね……」

 

「ううん、結構ヒントを色々貰えたよ。ありがとうキロさん、ロミィさん」

 

「お役に立てたなら何より。クラウディア、ごちそうさま」

 

「うっそ! もうない!?」

 

「あれっ、いつ食べたんです?」

 

方向性自体は間違って無さそうだよね。

要はエリキシル剤の物体向けバージョンで、原料に使えそうなのは多分毒っぽい物って事。

 

毒、ねえ。イバラの抱擁なんかに使ったくらいだけど、原料はクミネの毒液だっけ。

もっと強力そうな毒っていうと……あーアレがある。けど、あんま触りたくないなあ。

まず触って大丈夫なのかな? 取り扱い方法をアンペルさん辺りに相談した方がいいか。

 

「ところでキロさんのご用事はなんだったんですか? パンケーキが無くてもここには向かって来てたんですよね?」

 

「私は報告、とりあえず見終わったから。結論から言うとアルの予想が正解だね。それっぽいのもあったよ」

 

「そうですか、やっぱりあそこに。そういえば日中堂々とあそこに入ったんですか?」

 

「私は大恩人だよ? ある程度特権が利くんだよ?」

 

「ボオス関連? キロちゃんなら古老のじい様がダメっつってもモリッツさんがゴリ押せるレベルで見て回れそうね」

 

日頃の行いィ! 10年近く悪ガキ枠だったのと、異邦人とはいえ命の恩人で扱いに差がありすぎる。理由ありきならアルさんも問題なく入れるんだろうなあ。鍵の取り替えって体もあるし。

 

「で、レントにはタオの家に寄った後にリラ達へ報告をお願いしてるよ。ライザの家の裏手から泳いで向かったんじゃないかな」

 

「あの子何やってんの!? ザムエルさん化してない!?」

 

やっぱりバカだ、もはや泳いで渡るのが当たり前になりつつあるよ。

ロミィさんにとって野生化=ザムエルさん化らしい。

 

「という事で情報共有はOKだね。で、お昼前だから多分アルは戻ってくるだろうし行き違いになってもなんだからと思って」

 

「アルさんにも何か用事があるんですか?」

 

「ん。昨日満漢全席を作ってもらえなかったから」

 

まさかの昨日のご飯の約束回収に……?

 

 

 

 

 

 

「いや、だから満漢全席は無理だってば。準備に何日かかると思ってるんだい? そんな暇ないし材料も揃わないし作り方知らないし」

 

「諦めたらそこで終了だよ?」

 

「そこで諦めるべき案件だよ」

 

予想通りに戻ってきたアルさんとキロさんのやり取り。

ここまでナチュラルにアルさんにたかれるのキロさんだけだよね。

ちなみにロミィさんはお仕事って事で泣く泣く外回りに出ていった。

 

「ちなみに満漢全席ってどういう料理なんですか?」

 

「料理の名前じゃなくて宴会に出す料理の形式、とでも言えばいいかな。条件は全てが珍しい食材である事で、動物、植物、鳥類、魚介からそれぞれ何種も料理を作って少しずつ摘まむような感じだよ。王族の贅沢の象徴みたいなものだね」

 

「そんなものを個人で食べようとしてたんですか……」

 

「私もそこまでだとは思ってなかった。ちなみに珍しい食べ物って?」

 

「ん~特徴的なものだと……熊の手のひらとか?」

 

「クマってなんですか?」

 

「なんでそんなもの敢えて食べようとしたんだろう、シンの人って」

 

お金持ちの人だから普通に食べれるものに飽きちゃったってところなのかなあ。

これってどんな味なんだろう、どんな風に料理できるんだろうってね。

 

「むう、仕方がない。満漢全席は諦めよう。どっちにせよパンケーキ頂いたばっかだし」

 

「助かるよ。ライザ達ももう食べちゃった感じかな?」

 

「パンケーキですけどね。アルさんも今から食べられるならお昼作りますよ?」

 

本来ここのお昼の台所はあたしのはずだしね。

スープ物だったら食べれる分だけ小分けに出来るし、この家の場合は何らかの方法で保存も楽勝な気がする。

 

「それじゃあお願いするよ。タオも後で来ることになってるから」

 

「了解です。んじゃまあキャセロールでも作りましょうか」

 

「手伝うよ、ライザ」

 

シチューに近いけど、せっかく耐熱皿があるんだしそっちにしましょうか。

麦やパスタも入れちゃえばボリュームも出てアルさんにはちょうどいいよね。

 

 

 

 

 

 

「首尾はどうだい?」

 

「やっぱりライザは閃きがあるってとこかな? 道筋は見つけたみたいだよ。ロミィも色々教えてくれたみたい」

 

「あのボードの用語はロミィさんだったのか。勉強されてるんだね。周りに頼りにされてそうだ」

 

聞かれた事に答えただけのつもりだけど、それを錬金術に結び付けられるあたりあの子の感性がいかに錬金術士に向いてるかがわかるよね。

そして……ロミィは多分頑張って貴方に合わせているんだよ? あの子は泣いていい。

あえての説明はしない。説明した所でどうせ朴念仁だ、理解しない。

 

「鍵穴の場所は分かり切ってた事だし、ここでの事の方が取れ高はずっと上かな。そっちは?」

 

「タオの理解が凄いね。昔読んだ蔵書と今の知識を紐付けてどんどん真相に近付いていってるよ。局所的には僕より理解しているかもしれない」

 

国家錬金術師相当の精神年齢30歳に迫る正真正銘15歳の酪農家。

長命じゃない種族ってのは代替わりが早いのもあってか短期間で能力が備わるよね。

他の子達も含めて若い子達の成長はオーレン族には無いものを感じるよ。

 

「抉じ開ける必要が無くなりそうで助かるよ。何が起きるか分からないからね」

 

「寧ろ頑張らないといけないのは私の方だね。入り口を開くまでにどこまで指輪に魔力を溜められるかだけど」

 

「他に必要そうな物はあるかい?」

 

「2つ以上付けても込められる総量は変わらないし、これは七煌石も特殊なんだから作ったところで効率低下かな。私の体調が万全になるよう手伝ってくれたらいいよ」

 

「了解。まあ満漢全席とはいかないけど、色々終わったらなんかご馳走してあげるよ」

 

「そういうの、フラグを立てるっていうんだよ?」

 

「旗?」

 

合ってるけど間違ってる。

あれ? 昔仲間からこういう表現するって聞いたんだけど? こっちやアル達にはないのかな。

 

「多分だけどライザは毒の取り扱いをするだろうから気を付けてあげてね」

 

「随分な物に修復のヒントを得たんだね。どっちかというとアンペルさんの方が専門な気がするけど、出来る範囲で手伝う事にするよ。それにしても毒、かぁ」

 

「記憶の中に毒ってワードは出てきた事ないと思うんだけど、そっちの錬金術に薬や毒って使われないの?」

 

「僕らが関わって来なかっただけじゃないかな。兵器という意味での錬金術師の手段として毒っていうのは回りくどいだろうし、毒の錬成自体もかなり難しいはずだから。化学式や構造式から毒性を読み取るのは至難の業だからね」

 

毒っていうのは生体由来で構造が極めて複雑な事が多い。

アル達の錬金術は本来生き物の在り方を変えるものじゃないし、構造は分かっても新造は難しいってとこかな。

アンモニアぶっぱでも十分強力な気はするけど……。




本来は「錆」ですが、なんとなく部分的に「錆び」にしているところがあります。

ハガレンに毒ってありましたっけ? アンモニアはエドが使いましたが……。

次も鍵の修復、素材採取編です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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