ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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前日はロミィにヒントをもらいましたが今日は?
伏線でも何でもありませんでしたが、漸く第一話のやりとりが補完されます。

誤字報告ありがとうございます。綺麗な言い回しって難しい……。

今回もよろしくお願いします。


66. 76日目①  錬金術じゃ無くったって

「へえ。あのお嬢さんがそんなに料理上手だったとはね」

 

「失礼だろうけど、ヤギの丸焼きを食べているイメージだったよ」

 

昨晩のご飯についてウチの親に話した結果、こんな回答が返ってきた。

大変失礼ではあるけど……あたしもほぼ同じ感想だから何とも言えない。

あたしは間違いなくこの2人の娘らしい。

 

「ねえお父さん。酸っぱい土とかって話を以前してくれたことあったじゃない? あれっていつ知ったの?」

 

「昔からだよ? 農家をしていれば結構常識的な話さ。連作障害とはまた違うんだけどね」

 

「麦が育った後は麦に必要な栄養が土から無くなるだろう? そういう痩せた土の事を酸っぱい土と呼ぶんだよ。あとは雨のせいとかさね。何もしなくても育つのはクーケンフルーツくらいのもんさ、あれは連作にも強いし。勿論気温や日照不足はあるけどねえ」

 

おかしい……あたし一応農家の娘のはずなんだけど、新情報がぞくぞく出てくるよ?

やっぱり農業も「バケガク」の産物なのかもしれない。

 

「昔の話を出してきたね。ライザが今やっている事と関係あるのかい?」

 

「まあそうかな? 道具の手入れのための薬を作ってるんだけど、強すぎて道具自体壊しちゃいそうでさ。今の薬が酸っぱい土なら、何入れたらいい感じになるかなーと」

 

「酸性土壌なら貝殻を焼いた石灰や苦土を撒いちまえば中和できるし、二日酔いのザムエルにはクルクマ(ウコン)を突っ込んどきゃいい。アルフォンス君に聞いたらアイデアを貰えるんじゃないかい? あの子は化学者みたいなもんだし」

 

「……中和に、「カガクシャ」?」

 

「おや、ライザは知らないかい? 「変化の学問」と書いて化学(かがく)、または「バケガク」というのさ――更に広い意味の科学(かがく)と識別する為だね。僕達のやっている農作物栽培や品種改良、増産なんかをキチンと学ぼうとするとこの分野に踏み込む事になる。昔から作られているクーケンフルーツは育成法が確立しているけど、ヴァッサ麦はまだまだ最近の事だからね。皆、麦が喜ぶ状態が何なのかを知ろうとしている所さ。僕も少しは勉強したものだよ」

 

「これを専門に修めている人の事を「化学者」と呼ぶんだよ。彼にはピッタリだろう?」

 

……ええと。なんだっけ、灯台下暗し?

今度からもうちょっと、真面目に話を聞こう。うん。

 

 

 

 

 

 

「まさか……このコンテナにこれだけの物が、しかも雑多に入っていたとは思わなかったよ。ホントにパンドラの箱状態だね」

 

工房の一画、あたしのアトリエスペースにコンテナの中身をぶちまけ……並べてみたよ。

低品質の物はジェム化してるんだけど、それでも300以上はありそうかな?

コンテナに腰掛けてるキロさんの感想はもっともだね――もう自然に居ますね?

 

「エレメントコアは丁重に扱ってほしいんだけどね……なんかへばり付いているし」

 

「このソーンフィッシュ(イバラカジキマグロ)、コンテナから出したんだよね? どうやって入ってたんだろう?」

 

「これは……怨嗟の叫び(マンドラゴラ)? が中で生長しているのかな? 鉱石が巻き付かれているけど」

 

「あっはっはー」

 

笑うしかない。案の定コンテナの中は悲惨な事になってたよ。

ま、まあ幸い変な反応は起きてないみたいだし?

 

とりあえず複数個ある素材でCランク以下の物はジェムにしちゃいましょ。

せめてレアなブツは別管理しとこう……。

 

「タオあたりに目録作るの頼もうかな。こういうの苦手だわ」

 

「手間はかかっちゃうけど、これが自分で出来ないと帳簿とか作れないよ? ライザ」

 

「アンペルはこの辺りマメみたいだね。ノートみたいなのに纏めてたよ」

 

「全部覚えちゃえばいいと思うんだけどなあ」

 

一人おかしなこと言ってる化学者さんは置いといて。ノートねえ。

紙は貴重だし、ゼッテルを作ってまとめちゃえばいいか。

さてさてお目当ての物はどこにあるかなーっと。

 

「どこかの司書さんはすごい記憶力だったね。それでライザは何を使う事にしたの?」

 

「んーとですね、やっぱりこういう毒を取り除こうと思うと神秘の力を宿したエリキシルとかが合うと思うんです。一昨日の塔での採取で神秘の素材はたくさん採れましたから、その中から使えそうな物でレシピを考えようかと」

 

この辺までは昨日思いついた通りだね。あとは該当するものがどのくらいあるかなんだけど。

ええと、これとそれとあれと……。

 

「結構たくさん候補がありそうだね。アルさんならどんなものを使おうと思われますか?」

 

「僕かい? カテゴリが識別できないから使えるか分からないんだけど……コレかな?」

 

「昨晩すっごい綺麗な水を作るのに使った葉っぱだね。これも塔で採ったっけ?」

 

「そうだよ。どうにも不純物を引き寄せる作用があるみたいだね」

 

「葉っぱにそんな効能が……灰汁取りに使えたりするかな? ライザの素材候補にも挙がってるみたいですけど」

 

「まあ本人もやる気満々だし任せとこうよ。クラウディア、朝お願い」

 

「はーい。何枚焼きます?」

 

「7枚」

 

「もう常連とのやり取りだね。少しは自重したらどうなんだい?」

 

うん、こんなもんかな。9種類ならレシピも思いつくでしょ!

 

ラインナップはこんな感じだ。

ドンケルハイト、聖樹結晶、聖樹の大枝、聖樹の葉、幻獣の毛皮、竜眼、翡翠の煌水、森の賢人、ラピス・パピヨン(チョウチョの翅)ね。

 

数打ちゃ当ててみせるわよ!

でも、まずは底に粘液が溜まってたコンテナの掃除をしましょ……洗いながらでも考えられるし。

 

 

 

「で、お前はこいつの掃除をしている、と。暢気なものだな」

 

「うっさいわよ。仕方ないじゃない」

 

なんとかコンテナを運び出して、水路口で水洗いしてたとこにやってきたのはボオス。

ランバーはいないらしい。まだ筋肉痛かな?

 

「あんたこそ何しに来たの?」

 

「漁師への聞き取りだ。お前も知っているだろうが……島の近辺がかなり深刻な不漁に見舞われている。幸い外海に出る必要までは無さそうだが、各漁師が持つ程度の小舟では何かと不便だ。あの時の様にこちらの船を出す事も考えている」

 

不漁の話、思ってたよりマズいのかもしれないわね。

魔物がいないのなら撒き餌で寄せる事も出来そうだけど、根本解決にはならないし。

でも原因が思い当たらないんだよなあ。

 

「今の所は対岸への行き来も最小限に絞っている。フィルフサの様な魔物が発見されたとは聞かんがな。一方で対岸や外海口周辺は島からの距離のわりに魚は居るらしい。場合によっては漁場を考えねばならん」

 

「あたしたちも見回ってるけど今んとこ対岸周辺には来てないわね。こっちでポンポン増えてるって事は無さそう。でもそっか、そこまで……」

 

「何の皮肉か、今のクーケン島の最高戦力はお前達だ。護り手達の経験では限界があるし、アガーテは対人制圧と要人護衛には慣れているが魔物狩りは専門ではないからな。音爆弾があるとはいえ……ライザ達に護衛を依頼する日も遠くないかもしれんぞ」

 

あたしたちで護衛かあ。わりと現実味があるのが驚きだけど……その時は既にヤバい状態よね。

 

「加えてだが……」

 

「まだ何かあんの?」

 

「少しずつだが、水面が上昇しているという話が子供達から出ている」

 

「水面が? ……あれ、でも今日なんかは」

 

「そう、上弦小潮だ。水面は普段より低い。が、この話を聞いたのは今朝の事だ」

 

これは完全に初耳だ――大潮でもないのに水面が高い?

世界中の水の量が増えてるって事になるけど、対岸はそんな感じになってたっけ。

浜には遺跡が沈んでるんだから、昔に比べりゃ高くなってるのかもだけど。

 

「なんでも貝類を採りに行っている場所に水が溜まるようになったそうだ。まだ問題になりそうな規模ではないが……溺れる可能性もなくはない。早めに護り手を付けるべきかもしれん」

 

「……そう、だね」

 

あれはホントに怖かった。

人はパニックになると足首の高さの水でも溺れるらしいってのはエドワードさんの談だ。

早いうちに手を打ってもらった方が吉なのは間違いない。

 

よし、掃除終わり。

そういやボオスは知ってるのかな?

 

「そう言えばあんた、バケガクって知ってる?」

 

「いきなり何だ? 化学の事で良いのか?」

 

うわあ、こいつも知ってんのかい。

 

「毒を消そうと思った時に化学を使ってならどうやって消す?」

 

「随分と大雑把な問いだが……木炭とかではないのか?」

 

「木炭?」

 

ダイヤにもなってる、あの炭?

 

「キロ達の水が無かった頃、水源の確保として使われたのが雨か湖水なのは知っているな? だが雨はともかく湖水は淡水ではなく汽水、塩を含むし生物汚染もあるからそのままでは生活用水に向かん。これを取り除く為に木炭を通して浄水し、更に蒸留して真水にしていたはずだ」

 

「なんで炭で浄水できんの?」

 

「詳しくは知らんが目には見えんほどの細かな穴が空いているらしい。つまりは一種のザルなのだろう……こういう事はお前の方が詳しいと思ったが? 土壌の水はけ改良や、エルリックさんが活性炭という脱臭剤を販売していなかったか?」

 

「えっええうん、モチロンシッテルワヨ?」

 

「なんでカタコトなんだ……」

 

うげえ、まさかボオスから錬金術のヒントを貰う事になるとは思わなかった。

工房にそんなの置いてたっけ? 販売してるくらいだから錬成で作られた物じゃないよね。

ロミィさんの話もそうだし、錬金術じゃなくても色々出来るもんだ。

 

でも――なるほど、紙の原料になるくらい植物ってのは繊維のカタマリだ。

木の状態だと吸水膨張してすぐ目詰まりしちゃうけど、炭ならカチカチだから問題ないわけね。

禁忌の雫の時は吸わせる特性を使ったけど、今度はザルとして考えりゃいいと。

つまり繊維の丈夫な植物の特性かあ。神秘、エリキシル、植物……あっ。

 

「あった!!」

 

「何がだ?」

 

全部揃ってる素材に決まってんじゃない! 急いで戻んなきゃ!

 

「ボオス、これ工房に運んでってくれない!?」

 

「自力でやれ!」

 

 

 

 

 

 

「という事がありまして。はぁ……」

 

「成程。朝からボオス君も災難だったね」

 

「ライザが普段から掃除しておけばよかった事だからね。お疲れ様、ボオス」

 

「でもそのおかげでライザも閃けたんですし。ボオス君、何か食べる?」

 

「なら……プリンを貰えるか? あれは水なしでも食べやすくていい」

 

あの後ボオスにきょうせ……手伝ってもらってコンテナを運び戻し、あたしは早速作業中だ。

 

え〜っと、これこれ! 聖樹の葉! うってつけの素材じゃない!

ただの綺麗な葉っぱだと思ってたけどこんな使い道があるだなんて。

考え方は禁忌の雫と一緒。聖樹の葉をベースに禁忌の雫を流し込んじゃえばいいかな。

 

「あれがライザの錬金術ですか……釜に何かを放り込んでいるだけにしか見えませんが」

 

「ボオス君が見るのは初めてだったかい? 僕も何故あれで出来るのか理解不足なんだ」

 

「私にとってはどっこいどっこいだね。鉄から金を作るとかもうわけが分からないよ」

 

「鉄から、金?」

 

「鉄じゃなくてボタ山とかでも出来るよ? 懐かしいなあ」

 

「アルさんが説明するべきなのはそこじゃないと思うのは私だけなのかな……はいどうぞ!」

 

ん、いい感じだ。

でもやっぱりこのままじゃ聖樹の葉の特性が壊れちゃうから――前の竜肉みたいに補強、コーティングする物がいるわね。

コーティングコーティング……あれだ、音爆弾用のぷに玉! 全色入れちゃえ! 大盤振る舞いよ!

 

「子供の遊び? ヌチャヌチャ音がするが……」

 

「アンペルさん曰く相当に高度な事をやっているらしいけどね。素材は僕のと同じかな?」

 

「ボオスに一票」

 

「ライザも大はしゃぎでやってますよね。楽しそうで何よりだよ! コーヒー飲む?」

 

「毒を消すと聞いていたが……むしろ形容し難い色になっていないか? 頂こう」

 

青、緑、赤、黒、銀、金。なかなかにカラフルね。

あとはこれをよぉおくかき混ぜて……お、きたきた!

 

「出来たぁっ!」

 

「何故アレから透明な液体がビン入りで作れるんだ? やはり得体が知れん」

 

「今回は早かったね。昨日の超純水? みたいな感じに濾過された、でいいのかな?」

 

「それでいいと思うよ。容器の出現原理は僕にも分からないけど」

 

「さすがライザだね! みんなの分コーヒー入りましたよ。ボオス君はブラックでいいよね?」

 

「こっちに煎り豆の煮汁を飲む習慣があるとは思わなかったよね。焦げた香りも良いものだよ」

 

いい感じじゃない。聖樹の葉を使った毒々しさは全くない綺麗な雫、さしずめ聖なる雫ね。

これなら多分行ける……ん? コーヒーのいい匂いが。

 

「……あれ、ボオス? あんたまだ居たの?」

 

「殴って構わないか?」

 

「後で私がしばいておくよ。スレイプニルで島中引回しの刑かな」

 

「8本脚の馬だったかな? 君が言うとシャレにならないからやめようね?」

 

「キロさんって西方方言も使えるんですね。あとは……どつく、とかでしたっけ」

 

なかなかに物騒な話をされてるよ?

いやだって、ボオスは見回りの途中って聞いてたし。とっとと戻ったものかと。

そしてキロさんの罰を受けたら――あたしは原形が残ってるんだろうか。

アルさんのセリフ的に止まったはずだけど、本気じゃない事を祈ろう。

 

「で、出来たのか?」

 

「うん、これでいいと思う。ちゃんと綺麗っぽいし。後はこれで鍵を煮る感じで調合すれば多分お掃除完了ね」

 

「……っぽい? 多分?」

 

「ライザ風に完璧ってニュアンスだから気にしないでおくれ」

 

「なんとかと天才は紙一重って、多分こういう事を言うんだろうね」

 

「ライザはバカじゃないです! ちょっと天然なだけですよ!」

 

「私、せっかくぼかしたのに……」

 

「あたしはこのフォローを喜べばいいのかな?」

 

クラウディアに天然って言われるのは、正直ちょっと複雑なんだ。




という事で錆取り剤が完成しました。
ただこの日はこれを調合してはい終わり、というわけではないです。

次は鍵の掃除、そして……?
次回も楽しんで頂けると嬉しいです。
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