ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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日常が動き始めるのは、いつだって突然。

今回もよろしくお願いします。


67. 76日目②  カウントダウンの鐘は鳴る

コーヒーを飲んで、ボオスは見回りに戻っていった。

あたしも見聞きしたい所だけど……ボオス風に言うなら為すべき事はこっちだし、今は我慢だね。

 

お昼(シチューの端材のスープね)を食べて、今は鍵の洗浄という名の調合中。

余分な素材は不要。時間待ちだから――今朝ボオスから聞いた事をアルさんに相談しようかな。

 

「ねえアルさん、不漁の話って何か進展は聞いてますか?」

 

「いや? 漁獲量が目減りしていってるって事以外は聞いてないよ」

 

アルさんも何かの作業中みたいだ。

これは……図面? ずいぶん複雑そうだけど何か作るのかな。

ボロボロになってるタオの本を清書してる感じみたいね。

 

「さっきボオスから聞いたんですけど、ある程度島から離れた所には居るらしいんですよ。対岸とか湖口近辺とか」

 

「う~ん。大体の見当は付いているんだけど……あまりそうであって欲しくはないんだよね」

 

「原因が分かってるんですか?」

 

「今ライザが煮詰めているソレが完成したら分かるかもしれないらしいよ」

 

キロさんも知ってるらしい……ここは情報共有されてるんだよなあ。

て事は、島の地下に原因がある? 明日には入れるだろうけど。

 

「あと、水面が何だか高くなってきてるって話も……おっ」

 

出来たかな?

 

そう思った。

 

 

 

そのタイミングは――日常が崩れ始めるタイミングと重なったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

ビキッ! ミシィ!

 

 

「ん?」「えっ?」

 

「……!! いけない! アル!

 

分かってる! みんな床に伏せて!!

 

 

パンッ! ドッ!!

 

 

壁に圧力がかかる音がして。身体に違和感を感じて。

今まで聞いた事のない大声が工房に響き渡り。

アルさんが手合わせをして、勢いよく床に手を付いた。

 

 

――直後。

 

 

 

 

 

 

 

グラグラグラグラグラグラグラグラ!

 

ベキッ! ピシィ! バキンッ!

 

ゴオォォォォォォン! ガランガラン!

 

 

 

 

 

 

工房が、大きく揺れた。

 

 

 

「きゃあ!?」

 

「おわぁっ!? っクラウディア!」

 

Protego! 伏せてなさい!」

 

「狭い範囲であってくれ……!」

 

30秒くらい揺れ続けて……揺れはやっと止まった。

 

生まれて初めて、ここまで大きな揺れの地震に遭遇した。

こけちゃったクラウディアはキロさんの魔法で守ってもらったみたい。よかった。

 

まだ心臓がバクバクしてる。びっくりした。

 

「はぁ、はぁ……い、今の地震は……?」

 

「ライザ、今すぐ家に戻ってカールさん達の無事を確認して! 無事だったらラーゼン地区のみんなを見回ってあげておくれ!」

 

「っわっ分かりました!」

 

「クラウディアもルベルトさんの所へ! 余裕があったら旧市街を見てもらえないかな!?」

 

「はい!」

 

「2人ともちょっと待って……Curre. 普段よりかなり速度が出るから気を付けてね。私も怪我人がいないか見て回って、終わったらリラ達を呼びに行くよ」

 

「ありがとう! 必要があったら何でもいいから合図をちょうだい、すぐに行くから。僕はアガーテさん達と合流してくるよ!」

 

そう言ってアルさんは飛び出していった。

あたしも急いで向かわないと!

 

「クラウディア! キロさん! また後で!」

 

「うん、気を付けてね!」

 

「こっちは任せて」

 

 

 

工房の外、旧市街は多くの人が外に出ていた。ケガしてる人がいないといいんだけど。

ヒビが入った家はあるみたいだけど、崩れたところとかはないみたい。よかったよ……。

ん? なんか壁から変なものが飛び出してる?

 

「ライザ! 無事か!」

 

レントだ、大丈夫だったらしい。いいタイミングね!

 

「こっちはみんな無事! ラーゼン地区を見に行くからボーデン地区をお願い!」

 

「まかせろ!」 

 

頼もしいわね! それじゃあ、まずは急いで家に戻んなきゃ!

 

 

 

「ライザ、無事だったかい」

 

全力疾走の3分の1くらいの時間で家に戻ったあたしを、外に出てたお父さんとお母さんが出迎えてくれた――無事でよかった。

 

「こっちは大丈夫だよ! この辺は?」

 

「そこまで揺れてはいないからご近所は大丈夫だろうさ。念の為にバジーリアの所にでも顔を出しておこうかね」

 

……あんまり揺れてない? あっちはびっくりするくらいだったのに。

現にお母さんもお父さんも落ち着いてるし、ここまでの道でも壊れた物は見当たらなかった。

 

旧市街だけ大きく揺れた?

 

「アルフォンス君達は大丈夫かい?」

 

「うん。今アガーテ姉さんたちと合流してる頃だと思うよ」

 

「何かあってからじゃ遅いからねえ。まあ小さい島だから見回りもすぐに終わるだろうさ」

 

他の場所はそれなりに揺れてた可能性があるし――まずアルさんの指示通りに動こう!

 

「あたしも周りを見回ってくるよ。タオの家とか大変かもしんないし」

 

「行ってあげておいで。気を付けて行くんだよ」

 

北西の端、望郷岬の側にあるタオの家へ。

あそこは大量の本があるから、ちょっとの揺れでもよろしくない。

地下で埋まってなきゃいいんだけど……。

 

 

 

「ライザ、工房の方は大丈夫だったかい?」

 

問題なさそうなタオに出迎えられた。不要な心配だったらしい。

 

「ちょっと建物にヒビが入ったけど、幸いそのくらいで済んだわ。こっちは揺れなかったの?」

 

「今のライザの話にびっくりだよ……ヒビが入っただって? ものすごい揺れじゃないか」

 

「そ。だからタオが本で押し潰されてるんじゃないかって飛んできたんだから」 

 

やっぱりラーゼン地区はあまり揺れていないみたい。

他の所もその程度で済んでるならいいんだけど……。

 

「そうだったんだね……ありがとう。以前までなら大変だっただろうけど、アルさんが仕掛けを作ってくれたから大丈夫さ」

 

「仕掛け?」

 

「うん。前にここに来た時にね」

 

タオに案内された地下書庫。

とんでもない量の本だけど、確かに一つも床に落ちてない……この青い紐は?

 

「この伸びる紐を付けてもらったからね。取り出す際は引っ張ればそれなりに伸びるんだ。あとは棚も丈夫にして固定してもらってあるよ」

 

「これ……ぷにで作った紐?」

 

「え? これぷにで出来てるの?」

 

クラウディアの家の水漏れを直した時、排水に使ってたぷに製の管の細くて柔らかい版だ。

なるほど、これなら本を取るのにも邪魔にならないわけだね。

 

と、こうしちゃいられない。

 

「タオも動ける? レントとクラウディアにはボーデン地区と旧市街をお願いしてあるの。アルさんは護り手の人たちと合流、キロさんは軽く見回ってケガした人が居たら治してくれるって。アンペルさんたちも呼んでもらう手筈だよ」

 

「トレッペの高台はボオスたちがいるだろうから、あとは農場と港だね」

 

「あたしはキロさんに強化魔法をかけてもらってるから、遠い港の方に行ってくるわ。農場をお願いできる?」

 

「分かったよ、元々ヤギたちの様子を見に行くつもりだったしね。その後は旧市街に行くよ。本来クラウディアはお客さんなんだし」

 

「じゃあ、後で工房で合流しましょ!」

 

「了解だよ!」

 

ここよりも港の方が旧市街に近い。

水場も多いんだから急がなきゃ!

 

 

ドォゥバッシャァアアアーーン!!

 

 

……なんか家の方で水柱が立った? まさか、気のせいよね。走れ走れ!

 

 

 

 

 

 

 

途中のボーデン地区ではザムエルさんが

 

「フゥレッサァァアアアア! しっかりしろ! お前がいなくなったら誰が酒を仕入れるんだ!」

 

「大丈夫ですから! 軽くぶつけただけですから!」

 

と、微妙な理由でフレッサさんを救助……? してた。

大丈夫ではあるみたいだけど、やっぱりラーゼン地区よりは揺れたっぽいわね。

 

「ライザ! そっちはどうだった!?」

 

「レント、とバーバラさん!? こけたりしちゃったの!?」

 

バーバラさんはあんまり足腰が強くない。ケガはしてなさそうだけど……。

 

「ありがとう、大丈夫だよライザ。膝を突いて擦りむいてしまったんだけど、通りすがった銀色の女の子にあっという間に治してもらったよ。腰の調子も前よりいいくらいさ」

 

キロさんだ。さっすが頼りになるわね。

 

「よかったよ……ラーゼン地区はそんなに揺れなかったみたいで、あたしの家もタオんとこも大丈夫だった。これから港を見に行くつもりだよ。タオも農場を見てから旧市街に来てくれるって」

 

「こっちは旧市街よりかマシだが、ちょい被害ってとこだ。ケガの方はキロさんがさらっと治しちまったけどな。旧市街はクラウディアも回ってくれてるんだったか。なら俺も港に行くぜ」

 

「わかった。じゃあバーバラさん、気を付けて戻ってね」

 

「ライザもレントも気を付けるんだよ」

 

「ばあちゃんもな!」

 

バーバラさんと別れて港へ駆ける。

レントが「お前速すぎねえ!?」って言ってきたけど、魔法無しでついてこれるあんたに言われるのはなあ。

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……あー出店の売りもんが転がっちまってるな」

 

「こればっかりはね。屋台が崩れてないだけ不幸中の幸いなのかな」

 

山積みになってただろう果物とか野菜が崩れちゃってるわね。

でも屋台自体は大丈夫そうだしケガ人も居なさそうだ。

やっぱり一番揺れが大きかったのが旧市街だったって事なのかな。

 

「こっちは大丈夫よ。アガーテちゃん達を手伝ってあげなさいな」

 

ロミィさんが笑いながら話に来てくれた。

 

「大丈夫なの?」

 

「ロミィさん達行商人をなめんじゃないわよ? 逞しさが私達の取柄なんだから」

 

ヤバイ、惚れそう!

あそこでギャーギャー祟りだのなんだのわめいてる古老と大違いだ。

 

「んじゃ、ここはお願いします! いくぞライザ」

 

「ああうん。じゃあロミィさん、またね」

 

「はいは~い、いってらっしゃいな」

 

バーの店長さんやヨンナさんもいるみたいだし、ここは問題なさそうだ。港に急ぎましょ!

 

 

 

桟橋の方は……いた! アルさんたちだ。アガーテ姉さんとボオスも居るね。

 

「アルさん! アガーテ姉さん! ラーゼン地区とボーデン地区は大丈夫! 農場の方はタオにお願いしてるよ!」

 

「ありがとうライザ! レントも回ってくれたんだね」

 

「キロさんがさらっとやっちまってましたけどね。まあ……あっちはクソ親父もうろついてるみたいなんで」

 

「二人とも助かったぞ。農場の方が分からないが……大まかな被害を確認した限りでは震源は南東寄り。位置を考えれば旧市街が最も揺れたか」

 

「あの辺りは元々地盤があまり強くない。以前の地震もあそこが一番揺れたらしいからな。見た限り倒壊した建物はないし、行き掛けにクラウディア嬢に話を聞いたが怪我人も軽傷と聞いている。回復魔法をかけてくれるそうだしキロは既に癒して回っていると――後で礼をせねばな」

 

クラウディアの回復魔法は音の旋律に乗せる形。つまり吹いて歩くだけでも効果があるらしい。

さすがの魔法だ。以前は人前で吹くのが苦手だったのに、今や行進の様相ね。

 

「護り手よりライザ達の方が行動が早いな、恐れ入る……よし、私達は至急旧市街を中心に各家を回って聴き取り、崩れた物などの撤去の手伝いを。怪我人が居たら手当を最優先、判断に迷ったら即刻エドワード先生に指示を仰げ。日が落ちる頃に旧市街広間に集合し報告――いいか?」

 

「「「「はっ!」」」」

 

「僕は各建物の損傷具合を確認、整理して回ります。後で補修の計画を立てましょう」

 

「分かった。後で別途時間を取らせてくれ――行くぞ!」

 

アガーテ姉さんを先頭に、護り手の人たちが散開していく。

これで一安心かな。

 

「アルさん。他にあたしに手伝えることはある?」

 

「ありがとうライザ。すぐにして貰いたい事は……今は大丈夫。ライザはキロさんの魔法を受けて頑張ってくれたから、多分この後疲れてくるよ。無理せず休んでもらった方がいいかな」

 

「お前そんなもんかけてもらってたのかよ。どうりで速いはずだぜ」

 

「早馬並みの速度だったらしいな。少しは自重しろ……と言いたいところだが今回は功を奏したか。お前は例の鍵の事もあるのだろう? 後はこっちに任せて寝ていろ。タオに会ったら礼を言っといてくれ」

 

ボオスに労われた? ……ような感じなんだけど。うわあなんか気持ち悪い!

ちょっと鳥肌立ってきた。

 

「多分キロさん達も工房に戻ってくると思うから一緒に休んでておくれ。ライザも回復魔法をかけてもらった方がいいかもしれないよ?」

 

「キロに会ったらさっきの感謝の話、改めてすると伝えておいてくれ。気にしないと言われそうだがこういうのは礼儀の問題だ」

 

そう言って、二人は街中に駆けてった。

 

後で筋肉痛かな? いつかの修業の翌日を思い出すわね。

 

「クラウディアとタオも旧市街に多分いるんだろ? 見つけてさっきの話して、工房で待たせてもらおうぜ。リラさんたちも来んだろうしバラけちまうより良いだろ」

 

こう言う時、レントは冷静だ。

下手に動くよりもアルさんの指示を仰いだ方が効率がよさそうだし、そうしよう。

 

 

カツカツカツカツカツカツカツカツカツ!

 

 

ん?

 

「レントストップ! 対岸の方から何か来る!」

 

「ありゃあ……リラさんだ。アンペルさんを脇に抱えてんのに上体がまったくブレてねえ」

 

それなりに目がいいと思ってたけど、レントも大概いいらしい。聖石視力検査じゃ測れないね。

まだかなり遠いけど水上を「走る」誰かが接近中だ。

何をどうやったら走れるようになるのかな?

 

「お前達か、丁度よかった。工房に向かっていたら行き違いになっていたな」

 

「うっぷ……リラ……おろしてくれ。しかいがゆれて……」

 

全く息を切らしていないリラさんと、酔ってるご様子のアンペルさんが桟橋まで来た。

足元が凍ってる……便利!

 

「キロさんはもうそっちに着いたんですね。今舟でこっちに向かって?」

 

「うん? ……キロを見ていないのか?」




原作にはこのイベントなかったかな?
この辺りの出来事が頭に描けてしまうのがなんともまあ……。

実はフレッサ初登場。アニメと随分な差です。

以前解説をしているかもしれませんが、クーケン島内の地区の大まかな位置は
南:旧市街
中央:ボーデン地区
南西:農場
北西:ラーゼン地区
北東:港
東:トレッペの高台、になります。

次は同時間、別視点です。
次回も楽しんでもらえたら嬉しいです。
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