ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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前話と同時間帯、別視点からスタートです。

誤字報告ありがとうございます。やはり何故か一部の字が二重になったり……。

今回もよろしくお願いします。


68. 76日目③  舞台裏のプチ冒険

「おばあちゃん、これで大丈夫?」

 

「これは驚いたね、ありがとう。もう全く痛くないよ」

 

年齢的におばあちゃんなのは実はこっち側なんだけど……私やリラが腰を曲げるようになるのは後何年先なんだろうね。

 

「レント、この辺はお願いしていい? 私はリラ達を呼んでくるから」

 

「分かりました! ここら辺は任しといてください!」

 

彼は子供達の中で一番冷静に居られる。ここは大丈夫だろう。

 

旧市街はとっさにアルが錬成した鉄筋――供給源のインゴットは私が以前から夜間せっせと配置して回っていた、で倒壊は無し。

でもこれ無しじゃ崩れていたかもしれないね。緊急手段をもう使う羽目になるなんて。

 

それにしてもまあ、「国土錬成陣」ならぬ「街中錬成陣」とでも言えばいいのかな?

インゴットから針金を伸ばして円を成し、五か所にアルの血を落として工房との間に流れを作り、錬金術と錬丹術の応用で範囲錬成する――私の見た記憶の中にこんな錬成はなかった。

準備してあったとはいえ、あの一瞬で地区一つをカバー出来るとは。

 

「シルフィード、力を貸してね。Musca. よっこい」

 

しょ!

 

港の脇にある浜から対岸に向かって跳ぶ。私1人でこの距離なら跳躍で何とかなる。

リラとアンペルがいてくれればあの子達の安心感も違うよね。

 

問題なのは島の機能不全が予想より重い事。

下手をすれば大侵攻の前に沈んでしまうかもしれない。

 

幸いライザの鍵掃除は今日中に出来るだろうし、今晩か明朝にでも中枢には行けるでしょう。

ここからは時間との勝負だね。私は体力勝負でもあるけれど。

 

 

 

お、見えてきたね。

 

Venti Impetus!」

 

流石にこの勢いで着地すると地面がマズそうだから、風で減速……こんなものかな?

着地前にリラが出てきた。気配を感じ取ってくれたようだね。

 

「ほっと……リラ。アンペルも居る?」

 

「中に居るが……なにがあったんだ? 魔法で跳んでくる程の急ぎとは」

 

揃っているなら都合がいい。まあ彼は大半ここに居るけれどね。

 

「つい先ほど島で地震があってね、建物とかがそれなりにダメージを受けてる。少数だろうけど怪我人も。今はアルやライザ達が走り回ってる頃だよ」

 

「なに? こちらでは地震なぞ……例の絡繰りの話か?」

 

「多分ね。思っているより深刻なのかもしれない。これについてもライザが恐らく今日中には鍵の掃除を終えてくれるから。今晩か明日、中枢に行った際に話す事になるかもね」

 

「我が弟子ながら見事な腕前だな、もう雫の無毒化に成功するとは。しかし既にそこまで事が進んでいるか」

 

アンペルも出てきた。説明の手間が省けたね。

 

「ある程度はアルの錬成で建物を強化して緩衝しているから惨事にはなってないと思う。けど二人がいた方があの子達も安心するだろうから」

 

「成程分かった、回復薬を準備してすぐに向かおう。キロ嬢はどうする?」

 

「私は先に戻るよ、怪我人が何人いるか分からないし。あんまり魔力は使いたくないけど」

 

指輪に込める魔力を極力減らしたくない。

1回分の跳躍なら自然回復で追いつくけど、2回分だと余裕は無さそうかな。

 

「なら私に任せろ――島まで投げよう」

 

…………は?

 

「アンペル。お前を抱えて島まで走るから準備しておけ……ブレイズ!

 

リラの右腕にブレイズが宿って燃え盛る紅い炎のオーラが……えっ本気? 殺す気?

跳ぶならまだしも投げるって。

 

「いや、リラ……いいよ。自分でなんとか」

 

「心配するな。この距離なら10秒あれば着くだろう――飛翔より遅くはならないさ」

 

心配してる事が全然違う!! いい笑顔でドヤ顔してるけど!!

え、島まで5kmくらいはあるよね? 10秒?

 

 

 

5÷10×3600=1800km/h? ……Mach(マッハ) 1.5!?

 

 

 

こういう時にアルの無駄な知識が!? 早く逃げないと死ぬ!

 

「キロなら加減無しでも心配がないからな。レントはまだまだだ」

 

「お前さんはレントをどうするつもりなんだ? それにしても……これがオーレン族の移動方法か、随分早く到着しそうだ。キロ嬢も冷静なものだな」

 

いつの間にか私の両足がリラの右手の上に乗せられてる!?

冷静なんじゃないよパニックなんだよ!

 

「ちょっまっ」

 

「いくぞぉ!!」

 

 

バキャッ! ミシミシミシミシッ!

 

 

リラの左脚が地面を踏み砕き、右腕の軋む音が聞こえて。

 

 

ドォウ!

 

 

文字通り――私は音を置き去りにして、島に向かって全力で投射された。

 

 

 

「獣人というのは、自ら衝撃波を発生させるような速度でも平然としていられるのだな」

 

「誰でも、ではない。だがキロなら何の問題もないだろう。私達も行くぞ、足元をフラウで凍らせて走る。舌を噛むなよ?」

 

「やれやれ。急ぎとはいえ老体を労わってほしいものだ……水柱が上がったな?」

 

「角度不足、加えて狙いの港より少し西に逸れたか。後で詫びねばな……私も精進せねば」

 

 

 

 

 

 

ああああああああああああああああああぁっ!!!

 

 

目が回るし息は出来ないし風圧で身体がバラけそう! 声すら出ない! 血が頭に足りない!

これだから白牙氏族(脳筋)は! ご丁寧に回転までかけてくれてありがとう! 何処に投げたの!?

このままじゃ女王と戦う前に色々と終了だ。なんとかしないと。

島が近い、水面が近い、減速はもう間に合わない――防御するしかない! 叫べっ!!

 

Protego Maxima !!!」

 

 

 

ドォゥバッシャァアアアーーン!!

 

バシャンバシャンバシャンバシャン! ズザザザザザザザァーーーゴッ!

 

 

「…………げほっ…………はぁ。いったあ」

 

何の音かって? 私が着水して水柱作って浜までボロ雑巾のように漂着した音だよ。

ギリギリ間に合って身体ダメージはほぼないけど、精神ダメージは甚大だ。たんこぶは別。

何気にたんこぶ程度とはいえ、こっちに来てダメージがあったのは初?

 

ここ400年くらいで一番叫んだ気がする――心の中でも実際にも。

リラめ。善意100%なんだろうけど流石に加減してほしい。

普通に跳んだ場合より遥かに魔力を使った気がするよ……。

 

「さてここは……」

 

「大丈夫ですか!?」

 

ああマズい。さっきの音で付近の住人が来てしまったらしい。

どうしたものかな。

 

「えっと、大丈夫。さっきの音は気にしないで」

 

我ながらもう少しマシな説明は出来なかったものか。まだ頭に血が戻ってない。

 

「そうですか。ご無事で何より……貴女がキロ・シャイナスさんですか?」

 

「? そうですけど」

 

この……なんて言えばいいかな? こんないい感じの声の男性に会った事があっただろうか?

私の識別は簡単だろうけど。

 

「娘がいつもお世話になっています。ライザリンの父、カール・シュタウトです」

 

「……えっ、貴方が?」

 

――どうやったらこの落ち着いた雰囲気の父親からライザが育つんだろう?

取り敢えず、私が投げ飛ばされたのはライザの家の裏手らしい。

 

「娘からよくお話は伺っています――アルフォンス君と並ぶ目標の人だと。なんでも魔法にとても精通していらっしゃるとか」

 

「んと……上手いというか、生まれながらの体質みたいなものだから……」

 

一体ライザは家族に何を話しているのかな。今度聞くとしよう。

この人は恐らく一般人の枠を出ない。あまり説明すべきじゃなさそうだね。

 

「先程島内で地震がありまして。此方は大した事がなかったのですが、旧市街はかなり揺れたと娘から聞きました。今はあまり出歩かれない方がいいかもしれません」

 

「ありがとう。どうしても用事があるものだから、気を付けて行くとするよ」

 

さっきまでその娘と一緒にいたし――下手をすれば震源近辺かもしれないしね。

でも忠告は素直に受け取っておこう。

 

恐らく島内は皆が回っているだろうし、リラ達も来る……多少のカモフラージュはしているよね?

高速で対岸から島に接近する存在とか、一般人からは最早魔物に見られかねないんだし。

まあ一旦工房に向かおうかな。

 

「……あの」

 

「?」

 

まだ何か?

 

「……娘は、ライザは私と違って昔から様々な事に興味を持つ子でした。ですが私は私の常識に従って農業を勧めてしまって、それがライザの反抗を招いてしまったようで。アルフォンス君やシャイナスさんにはお世話をかける事になってしまい……お恥ずかしい限りです」

 

成程。その反抗の結果が今の破天荒なコンテナを作る性格に繋がっているんだね。

加えてアルの存在が未知への憧れをより具体的な物にしてしまったと。

アルめ、全く碌な事しないね。子供を堕とそうとするとは。

 

「恥じる事じゃない。貴方はライザをここまで元気な子に育ててきた。ライザも今になって貴方の常識……そこにある日常の尊さを理解し始めている。少しずれてしまっただけだよ」

 

「そう言っていただけると救われます。何かとご迷惑をお掛けするかと思いますが……娘を宜しくお願い致します」

 

「こちらこそ。ライザには随分と助けてもらっているからお互い様だよ――貴方も気を付けて」

 

随分どころか、今やあの子が今回の騒動解決のキーになりつつある。

 

レント、タオ、クラウディア、ボオス、リラ、アンペル。アル……そして私。

 

それぞれ能力は高いけれど、これらを全て結び付けているのはライザ。

あの子の好奇心が無ければ、こんな繋がりは恐らく存在していない。

 

……あれ? そうなるとアルによる篭絡は正解だった? む~ん。

 

 

 

「まだ……誰も戻って来ていないか」

 

怪我人は居なさそうだったから工房に戻ってきたけど、鍵は開きっぱなしで誰もいない。

……最後に出たのは私だっけ? 鍵持ってないししょうがないよね。

 

この工房もそれなりに揺れてしまって、色んな物が床に落下しちゃっている。拾っておこう。

幸い壊れた物は無さそうだ。仮に有ってもすぐ直せるだろうけど、クラウディアの準備を無駄にするような事にはなって欲しくない。

 

あーでも、コレが倒れちゃってたね――確かに盛大に音がしていたし。元に戻しておこう。

ん? そういえばアレは……ないね。流石にそこまではしなかったか。

 

……む~ん。

 

 

ガプッ

 

 

 

 

 

 

「なんて無茶苦茶な事を……」

 

「さすがキロさんだな。俺は目いっぱい手加減して貰ってもキツかったぜ」

 

「レントとキロでは鍛え方が違う。お前も精進しろ。私も鍛え直す」

 

「ウィッス!」

 

「レント。お前さんも少しはリラの言動に疑問を持つべきだと思うぞ?」

 

タオとクラウディアとの合流も兼ねて、北の港から南の旧市街に移動中だ。

 

どうにもキロさんは、リラさんの手によって対岸から文字通り()()されたらしい。

前に泡雲の大砲の砲弾について話したけど――まさか自分が砲弾になるなんて思ってもみなかったでしょうね。しかも投げた際に風の影響とかを受けてなのか落下点が逸れちゃったご様子。

まあキロさんなら大丈夫だと思うけど。

 

そしてやっぱりレントが人間を卒業しつつある――どこへ行く気なのレント?

 

「幸いというか、思っていた程の被害ではないようだな。以前出くわした地震では町全体が半壊していた事もあった」

 

「そんなに!?」

 

「地震とは星の力の片鱗。生物が直接体感する自然災害の中では最も強力な物だ。広範囲で大地が震え裂け、火山は噴火し、大海嘯(だいかいしょう)を引き起こす。私達ではどうにもならない――自然とは恩恵を受けつつも畏れるべきものだとよく分かるだろう」

 

「そういや……アルさんの錬成ってこの力を使ってんだったか? どうやってんだろな」

 

少なくとも今回の地震は、ここ数十年クーケン島で起きたものでは相当に大きいはず。

でも話を聞くともっと上があるみたい。星の力ってすごいものね。

レントの言う通り、確か地殻変動のエネルギーって言ってたと思うけど……あたしの魔法や錬金術の魔力も何由来か分かんないしね。世の中不思議でいっぱいだ。

 

「……? この、壁から生えてんのは何なんだ?」

 

ああ、それ――あたしも疑問に思ってた。

 

「キロが言っていたが、アルが地震の瞬間に周辺の建物を強化したとの事だ。これがそうなのだろう」

 

「鉄筋だな、硬くて柔軟性がある。これを地区全体に展開したのか。驚くほどの効果範囲だな」

 

あの地震の時、アルさんは何かを錬成してた。これだったらしい。

信じられない判断速度……と言いたいんだけど。

 

タオの本棚の話とか、地震の時のキロさんの反応とか――アルさん、今日の事を予想していた?

 

アルさんの錬金術――錬成は錬成陣を使うのが基本。

手合わせ錬成じゃ広範囲の錬成は出来ない。浄化の時がそうだったしね。

 

だけど……今回は瞬時に広範囲を錬成してる、って事は予め錬成陣が描いてあったはず。

即興の手段とも言えちゃいそうなのがアルさんのすごい所だけど――今回は分かってて備えてた。そんな気がする。別に悪い事でもなんでもなくて、むしろありがたい事なんだけど……。

 

まだ私たちが知らない事をアルさんは知っていそうだ。

地下に何があるかも知ってるみたいだったしね。それを今日明日で話してもらえるのか……。

 

「「ライザ!」」

 

「クラウディア! タオ! お疲れさま――大丈夫だった?」

 

ボーデン地区から旧市街に入るってところで2人に会えた。一緒に行動してたみたいね。

 

「こっちは大丈夫だよ! ケガした人も少なかったし、されていた人も私で治せたから」

 

「農場の方はラーゼン地区と同じでほとんど揺れなかったみたい。ケガしてた人たちを治していったクラウディアを、子供たちが天使様って呼んでたね」

 

「タオ君!?」

 

タオ、やめときなさい――凍るわよ。

でも翼が生えたクラウディアをあっさり想像できちゃうのよね。そのうち見る気がする。

 

「こっちも大きな被害は出てなかったよ。今はアルさんやアガーテ姉さん、護り手の人たちが回ってくれてる。一旦あたしたちのお役目は完了だそうよ」

 

「ボオスも、だろ? だからタオとクラウディアと合流しようと思って工房へ向かってたとこだ。ちょうど良かったぜ」

 

「先生たちはいつこっちに?」

 

「つい先程だ。リラの、湖上を走るという荒業でな……」

 

「キロさんはご一緒じゃないんですか?」

 

「先に対岸から投擲した。もう工房にいるだろう」

 

「対岸から……とうてき?」

 

考えちゃダメよクラウディア。分かるのはレントだけだ。

 

「そういえば、キロ嬢から聞いたが今日中に鍵が直りそうらしいな、ライザ」

 

工房が見えてきたところで、アンペルさんが言ってくれて思い出した。

地震の寸前に多分完成してるわね。

 

「うん。多分今頃釜の底に転がってると思う」

 

「適当だなおい」

 

「途中じゃなくてよかったよ……空焼きになっていないよね?」

 

「仮に途中で調合を止めた場合ってどうなるんだい?」

 

「え? う~ん……」

 

そういえば……中断した事は無いわね。予めレシピを通して考えるし。

 

「様々だな。低品質の物が作れたり、中途半端、全く違う何か。この辺りならまだマシなものだが……」

 

「周囲におかしなものをまき散らしたり、極めて強烈な腐った魚の臭いを漂わせたり……最悪アトリエごと吹っ飛んでいたな。下手な爆薬より遥かに(たち)が悪い。ライザはしてくれるなよ?」

 

はいぃ……。

 

 

 

「……ああ、みんなお帰り。合流してたんだね」

 

工房の中にはキロさんが一人黄昏て……なんかやつれてません?

 

「遅くなったな。見ろレント、かすり傷一つ負っていないだろう? これが戦士だ」

 

「まだまだだな、俺は……」

 

「レント、レント。真似しなくていいよ。あれはホントに死んじゃうから」

 

「軌道が逸れたようだったが、キロ嬢は何処に着いたのかね?」

 

「すまなかったな、キロ」

 

「場所については別にいいよ……ライザの家の裏手に不時着(漂着)した。ライザのお父さんには迷惑をかけたね」

 

「お父さんに会ったんですか?」

 

てことは、タオんとこを出た時に見た水柱って……。

あれ、あたしんちって浜からそれなりの高さあるわよね? それを超える高さ? どんな衝撃だ。

 

「随分穏やかそうな人だったから分からなかったよ。ライザはお母さん似かな?」

 

「カールさんよりは」

 

「ミオさん似だよな。でもライザが誰かを立てるなんて事するか?」

 

「どういう意味よそれ!」

 

「自分は一歩引いて、主人……この場合はお父さんだね、を支える事だよ?」

 

そうじゃないんだよクラウディア……。

あれ、あたし意味すら分かってないと思われてる? レントの意見には同意されてたりする?

 

「いつも通り賑やかになったね。その様子ならどこも大丈夫だったのかな」

 

「あっはい。今はアルさんたちが島中を確認しに回ってくれてるところっすね」

 

「旧市街以外は大きくなかったんですよ。僕は軽く感じただけでしたし」

 

「お父さんはブルネン邸にいたんですけど、他よりは揺れたみたいです。場所が高い事もあるのかもですけど」

 

そういえば――クラウディアの家の水漏れの件。

あれは地震のせいって事だったけど、あたしの家ではほとんど分かんないくらいだったっけ。

地震ってそんな場所ごとに揺れ方が違うの? ボオスは旧市街地は地盤が柔いって言ってたけど。

生まれてこの方地震なんて数えられるくらいしか経験してないし、そんなもんなのかも。

 

でもなぁ――そんな気がしない。星の力の具現とは思えない。

 

「まあ最終的にはアルの帰還待ちだね。夜には戻ってくるかな?」

 

「そうですね。日が落ちる頃にクラウディアの家の前に集合して報告解散みたいです」

 

「だったらウチにいらっしゃいますか? 護り手の方々が集まられたらすぐわかりますし」

 

目の前だもんね。一緒に詳しい話を聞けるかもしれないかな。

 

「ここもすぐそばだし、大体の話はアルから聞けると思うから行かなくてもいいんじゃないかな。それに、ライザとクラウディアはそろそろ魔法が切れる頃だろうし」

 

「「えっ」」

 

ここを出ていく前に足が速くなる魔法をかけてもらったけど――それが一体?

 

「あの魔法、速く走れるよう筋力と神経伝達物質の増加はするけれど、溜まった乳酸や切れた筋繊維のケアをしてくれるわけじゃないからね。タフなレントならまだしも、2人だと……ちょっとひ弱過ぎかな?」

 

え、なに!? そのすっごい不安になる感じ!! ついでに「にゅうさん」ってなんです?

 

 

ビキッ!

 

 

「おっ! うぐぁああ!?」

 

「あっ、うぅんっ……」

 

アッアッ身体がいけない――ミシミシいってる! あとすっごいダルい!

なんかクラウディアは妙に色っぽくない?

あがががががが!

 

シゾール(ザリガニ)に指でも挟まれたみたいだね」

 

「ライザは多分普段の3倍くらいで走ってやがったからな。疲労も3倍か」

 

「れい、せいに、かいせつ、しないで、くれる?」

 

「キロ。これは回復魔法でどうにかならないのか?」

 

「う~ん、魔法による体力消費だから……やるにしても少し待った方がいいかな。ライザ達の活性自体が弱体化しちゃってるから」

 

「回復アイテムは持ってきたが……まあ偶には疲れを知る事も必要だろう」

 

「これは、ちょっと、たいへんですね……」

 

いけない。あたしなんかは走りまくってたからクラウディアの比じゃなさそう。

ふぐあっ! こっこれは、初回訓練のアレをはるかに超えてる。

 

「はぁ……これでは使い物にならんな。この工房に休める場所はあったか?」

 

「ベンチはありますね。一人はいけそうです」

 

「ではクラウディアをベンチに運ぼう。ライザは……」

 

「床に転がしときゃいいっすよ。ライザだし」

 

「レン、ト……あとで、おぼえときなさいよ」

 

「私は、大丈夫、です。ライザを、ベンチに」

 

「絵面がよろしくないな。クラウディアを床に寝かせるというのは」

 

「コンテナの上に寝かせておこう。少し回復したらリジェネをかけるから」

 

クラウディア優先なのは同意するけど――あたしならいいって事? アンペルさん?

ぐあぁぁ! ダメだ、立ってられない。膝がガクガクしてきた。

そしてキロさん、よろしくお願いします……。

 

「生まれたての小鹿とはこの事だね……よっこらせ。リラ、そちらはお願い」

 

「ああ。クラウディア、私に身体を預けろ」

 

「「お世話になります……」」

 

あたしより背が少し低いキロさんだけど、軽々とあたしを抱えて運んでいく。

キロさんの腕っぷしは知らないけど、魔法無しでもあたしよりずっと強そうだ。

でもなんか、言い回しがオッサンくさく感じますよ?

 

何気にこの至近距離でキロさんの顔を見たのは初めてね。

前髪が長くて目がちょっと隠れてるから儚げなイメージが強調されてるけど、髪上げた方が中身に合う気がするなあ。

 

「私の顔に何か付いてる?」

 

「あっいえ。キロさんの髪型を変えるとどうなるのかなって」

 

ガン見し過ぎてた。

 

「ん~耳の都合上、短いと変な感じになりそう。見る人がいなかったから気にしてなかったけど」

 

「あたしももうちょっと伸ばしてみようかなあ」

 

走るのに邪魔だったから昔っから大体このくらいの長さにしてたけど、伸ばしてみるのもいいかもしれない。

 

「……属性過多になりそうだね」

 

「え、なんです?」

 

「ううん、ライザは今の髪型が似合うって話。ライザは今の頭周りの印象がかなり強いから、誰だか分かんなくなりそう。到着っと」

 

「あっありがとうございます。あいたたた……」

 

タオと同じような印象かぁ。

まあ確かに、あたしの周りで常に帽子を被ってる人いないもんね。

 

他のみんなだと――クラウディアは今みたいに長い方がピッタリ。レントのロン毛……無いわ。タオは~ちょい短くすると坊ちゃんぽさが抜けるかな?

アルさん……あれ、意外とロングを適当に縛った感じがしっくりくるね。

 

「さてみんな――今からが問題だよ」

 

キロさんがあたしから振り返り、他のみんなの方向へ真剣な口調で告げる。

みんなの雰囲気もなんだか引き締まった感じがするね。

 

今日は色々な事があったし、鍵も出来……確認してないや。

ま、まあ出来てるだろうから明日には中枢に行けるはず。

 

気合い入れなきゃね!

 

 

 

「晩ごはんを、普段ここで作る人がいない」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 

 

……うん、そうですね。

 

「今日も私が作るのでもいいが……レントは何か作れないのか?」

 

「俺っすか? ……基本魚焼くだけですね」

 

「普段のリラと大して変わらんな。私が作ってもいいが……こっちにはエルツ糖のストックはあるのか?」

 

「クラウディアのお菓子用じゃないですか? 僕が作ってもいいですけど、軽食っぽくなるかもですね」

 

「ごめんなさい。もう少しすれば動けるようになると思いますから……」

 

さすがだ、誰もツっこまない。あたしもだけど。

あーあークラウディアが稼働しようとしちゃってる。ダメだよ。

 

正直想定だにしてなかったけど、わりと重大な問題ね。コレ。

 

「んー、じゃあ私が一回作ろうか。昨日のリラの料理に近いものになっちゃうけど」

 

もはや半分くらいここの住人になりつつあるキロさんからそんな発言が出た。

ものすごく失礼だけど、正直びっくりだ――食べ専だと思っちゃってた。

あれ、キロさんへのイメージが最初の頃から相当ねじ曲がってない?

 

「何を作るつもりなんだ? ものによっては手伝えるが」

 

「カレー。材料はここと市場で揃いそうだから。たまにはライスをそのまま食べたい。寸勁とブレイズだけお願いしていい?」

 

辛え? イメージが付かないけど昨日のシチューっぽいのかな?

そして、精霊をさも当たり前のように調理器具として使うオーレン族ですよ。

 

「アレか……調合にかなり手間がかからないか?」

 

「偶にはいいんじゃないかな? 戦闘していないとはいえ若者は皆お腹が空いているだろうし、大量に作れて食が進むものにしよう。アルが帰ってきた際に温めなくても持ちそうだからね。レント、タオ、荷物持ちをお願いしていいかな?」

 

「「分かりました!」」

 

男二人がすっごい素直――すっごいイラッとする。

なにげにこの組み合わせは初ね。

 

「お金は確かここに……あった。適当に貰ってこよう。じゃあ行ってくるよ」

 

「よろしく頼む」

 

そう言って、キロさんは2人を連れて市場に繰り出してった。

なんでお金しまってある場所まで知ってるんですかねえ?




原作ではあり得ない扱いですね。書いていて楽しいんですが。
どんどんキロが独り歩きしていきます。

次は晩ご飯と報告会です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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