ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
誤字報告ありがとうございます。加えて方角を間違えるという……。
今回もよろしくお願いします。
「なんというか……キロ嬢は随分こちらに馴染んだな」
アンペルさんが感慨深く呟いた――馴染み過ぎじゃないかな?
「私と違ってキロはただ一人で戦い続けてきた。最早不要な感情は捨てていただろう。今のキロが本来の性格に近いのだろうな」
「見た目と最初の語りの印象はピッタリだと思っていたんですけど……」
「あたしもだよ。儚げな人だな~って思ってたんだけど」
大食い(オーレン族共通?)、女子会、爆睡、女子旅、アルさんイジり、同衾アルさんシャツ。
儚さはどこへ行った。
「お前達は私達を色眼鏡で見過ぎだ。オーレン族もオーリムではこちらの人間と変わらんのだぞ? 笑いもすれば怒りもするし、腹が空けば眠くもなる。大きな違いは各氏族毎に特徴がある事と、自身がオーレン族である事に誇りを持っている事くらいだ」
「以前はリラも獣の様だったからな。これでもかなり馴染んだのだぞ? 当時はどうしたものか悩んだものだ……お陰で、私自身の悩みを考える暇が無くなったのだがな」
「当たり前だろう。死にもの狂いで逃げた先に死んでも殺したい錬金術士だ。よくあの場で首を掻っ切らなかったと今でも考える」
そう言えば二人の馴れ初めって詳しくは知らないのよね。
まあギクシャクしてたんだろうなあ。
「馴染むといえば……私もなんでしょうか。これまでの隊商では
「うん? ここに来た時のようにふらっと居なくなっていたのではないのか?」
「あぁえっと、それはそうなんですけど」
リラさんたちは隊商に便乗してたんだっけ。
そりゃその印象が強くなるよね。いきなりどっか行っちゃったんだし。
「お父さんが商会を立ち上げて以来、ずっと働きづめってお母さんから聞いていて。実際これまでの交渉とかここでの仕事も一人でこなしてますから……私が居る意味って私の勉強以外ほぼ無かったんです。商いの仕事にはあまり興味が無かったし……」
「交渉事では人数が多い方が雰囲気的に有利になるし、クラウディアの容姿は映えるからな。それだけでもバレンツ氏側に空気が靡きやすくなるだろう」
「それが今や演奏で魔物を凍結粉砕し、キロの腹を満たし……今日は島民を癒した天使様だったか? 馴染んだというなら……この島は一体何なのだろうな?」
「凍結粉砕……いや、何にもないただの島……だったはず、ですけど」
「天使様はやめてください……恥ずかしい……」
加えてスパルタ現場監督も出来る。結構商人向きのステータスだと思うけど。
凍結粉砕は否定しないんだね?
この島は……今や人工島っていう相当に妙な代物と分かっちゃったからね。
少なくとも「ただの島」って事にはならないや。
「ちなみにだがライザ、アル君がここに来た当初はどうだったのかね?」
「アルさん? え~と、アンペルさんたちはどの辺まで知ってたっけ?」
「10年前に漂着、当時はガリガリ。護り手の家に保護された後独立。様々な道具などを作って地位を確立。そして異世界の国一つ救った英雄の片割れの錬金術師といったところか」
これだけでも十分だと思うけど。
昔のアルさん、か。懐かしいなあ、あの声。
「最初の1年はあたしもほとんど見た事がなくって。初めてまともに会ったのは……杖を突いて島中を歩く事でリハビリをしてたとこかな。むちゃくちゃ汗かきながら――それでも真剣な顔で身体引きずってた感じでさ。それで……思わず「だいじょうぶ?」って声かけちゃって」
「リハビリってとっても大変だそうだよ。身体が思うように動かない……今の私たちをずっとひどくしたような感じだと思う」
「私も腕一本をある程度動かせるようになるまでかなり時間がかかったからな。全身となると想像を絶するものだっただろう」
「その時、アルは何と?」
「「うん、ありがとう。もっと頑張れそうだ」って。笑いながら頭撫でてくれましたね」
当時あたしは8歳で、アルさんは15歳――中身は21歳かな?
すでに身長差は大人と子供のそれだから、あたしを撫でるのも大変だったんだろうな。
見た事もない金髪金目の異邦人。あたしも全く警戒が無かったかというとウソになる。
でもこの出来事でアルさんへの偏見は無くなったわね。きれいさっぱり。
「ふむ、一度の邂逅でライザを堕としたか。やはり筋金入りなのだな」
「わりと普通の反応ではないかね?」
「お前なら「不要な気遣いだ、道を開けてくれ」と、なんの礼もせず立ち去りそうだ」
「……否定出来んな」
「リラさん、声真似上手ですね!」
えっ、あたしここで堕とされてたの!?
そしてリラさんの意外な特技が判明した。
「えっと……それからじきにアガーテ姉さんの所を出てパットさんにここを譲ってもらって、小さな道具とか肥料とか作りながらって感じなはずです。うちにも土壌改良? とか鍬の注文とかの話で来るようになって、たまにあたしともお話ししてくれる機会があって。で、あたし繋がりでレントとタオとも知り合うようになって、って感じですね」
「今の私たちの歳の頃には、もう一人前の大人として活動されていたんだね」
「中身は20を超えているのだから、お前達の人生観では大人と見ても間違いではないだろう。だがまあ、あの知識と体術練度は凄まじい努力の証だ。才能はともかく根性は相当に据わっている」
「ふむ、ここに来てからの生活はそう予想から逸脱したものではないか。となると……元の世界にいた時、アル君は一体どのような日々を送っていたのだろうな?」
「……錬金術師が、兵隊として扱われる世界、かぁ」
そんな世界をアルさんはお兄さんと一緒に旅して、あげく国を救った。
でも国を救う旅ってわけじゃなさそうだったわよね。賢者の石を探すためだっけ。
ただ……普通そのために10歳ちょいで旅に出る? 何かあったのかな。
ご両親がいない、お兄さんが軍属にってのもあるかもだけど。
「ただいま~」
伸びーとしたキロさんの声が入り口から聞こえてきてお話はストップ。
2人も結構な量の荷物だ――大半は2名のお腹に収まるんだろうけど。
「「おかえりなさい! ありがとうございました!」」
「助かった。レントは役に立ったか?」
「もう少し野菜や香辛料について覚えてもらった方がいいね……」
「せめて
「面目ねえ……魚なら分かるんだが」
「……そういったものも少しは教え込むか」
多分レントはブロッコリーと
「さてと……タオはライスを炊けるんだよね? 洗っておいて。レントはそっちの倉庫からなんでもいいから肉の塊を持ってきて。リラは肉の処理と、後でブレイズでお湯お願い。アンペルは野菜の皮剥き、義手があるならそのくらい出来るでしょ? レントも手伝ってあげて。クラウディアは……もうリジェネをかけてもよさそうかな。後で野菜を一口大に切って大鍋で軽く炒めてくれる? ライザはまだダメだね。 私はスパイスを調合するから。Resurrectio.」
「ありがとうございます」「大丈夫です」「ウィッス!」「任せろ」「義手無しでも出来るんだが……」
テキパキと指示を出すキロさんと、役割を与えられた4人に、復活したクラウディア。
そして1人コンテナに転がってるあたし。
――居づらい!
それにしてもキロさん手馴れてるわね、配置が適材適所だ。
本来は司令塔向きなのかもしんないね……どっちかっていうとお母さんっぽい?
「まあ、ライザはもう少し休んでいなさいな」
てくてくとすり鉢を運んできたキロさんがあたしの近くでゴリゴリと何かを混ぜ始める。
珍しく完全にポンチョを脱いだワンピースみたいな恰好で、袖をまくった戦闘態勢。
寝巻は別として、クセルクセスの時すら脱がなかったのに料理は別らしい。
その方が絶対可愛いのに。
そして……勝手知ったる他人の家状態だ。なんで倉庫の中身の把握まで?
「なにを混ぜてるんですか?」
「香辛料を色々。10種類以上は入っているよ。見回って知ってはいたんだけど、僻地と聞いているこの島でまさか材料が揃うなんてね」
ずいぶんと複雑なスパイスみたい。リラさんの「手間がかかる」ってのが分かるわね。
あーなんか既にいい香りがしてきた。
「これは……シナモンと、ナツメグ?」
「正解。なかなか鼻が利くね。これだけ入れていると識別は難しいはずなんだけど」
「シナモンはクラウディアのお菓子に入ってることがありますから。ナツメグは……お薬に入ってるんだっけ?」
「ここの医者は優秀だね。こういう物は結構処方が難しいって聞くから。Siccum.」
混ぜつつ更にいろんなものを投入し、時折魔法――乾燥させてるらしい、を使って淀みなく調合していくキロさん。
リラさんもそうなんだけど、精霊魔法便利過ぎじゃない?
「ライザの魔法……というより、こっちの人の魔法を日常に使うのは身体強化以外まだまだかかりそうだね」
「声出てました?」
「顔に書いてあるよ」
「キロさん、大体お野菜に火が通りました!」
「肉も解し終わったぞ」
「じゃあリラはお湯をよろしく。量は大体分かるよね? レントはタオを見てあげてて。クラウディアは次に小麦粉を炒めてくれる?」
「わかった」
「了解です!」「
「どのくらい炒めます?」
「んーおっきな
「……結構な量ですね」
「私にやる事はあるかね?」
「その机の上を片付けて。地震があったとはいえたった一日でこの惨状だし、原因のライザがこの様だからね。アンペルなら工房ふっ飛ばさないでしょ? さてシチューのスープの残りはーっと」
「……私もライザに整理の仕方を教育すべきか。弟子の不始末は師匠の不始末だ」
「お世話かけます……」
あたしがすぐに机に寝かされなかった理由がコレだ――つまり自業自得。
普段4人で食べる時は別の机。こっちはあたしの作業台だけど昨日はアンペルさんが避けてくれていたらしい。
いやだって、使うかもしれないものって出しておきたいじゃん?
そのあとキロさんはお肉をカット(風魔法……)して炒めつつも、クラウディアの小麦粉とスパイスを混ぜてから
ああぁすっごい良い匂いしてきた! お腹が鳴りそう……耐えろあたしの腹!
「うむ、やはり食欲を誘ういい香りだ。もう二度と食えんと思っていたが」
「真面目に作ろうとすると手間だからね。ざっくりならもっと省略してもいいけど」
「これもオーレン族の家庭料理なのかね?」
「これは……ゲン担ぎ、かな? 遠征前とか強大な魔物の討伐前とか。揚げ肉を添えて」
「これだけでお店が開けそうですね。多分工房の外にも香りが流れてますよ?」
「いい香りだけど……どういう味なんだろな? 見た目はシチューに似てっけど」
「胡椒も買ってたから辛いのかな? 楽しみだよ」
辛えだけに? ああ歯がゆい、見たい!
うん? 入り口から音がしたね。
「ただいま。随分といい匂いがしているね」
「お邪魔する……これは、キロが作っているのか?」
家主のアルさんと、まさかのボオスもやってきた。まあ不思議じゃないけどさ。
そして……料理するキロさんにすっごい衝撃受けてる――手料理か服装か。
「おかえりアル、ボオス。アル、勝手に使っているよ」
「ああうん、構わないよ。むしろありがとう。実はどうしようかと思っていたんだ」
「そこで転がってサボっている穀潰しを使えばよかったのでは?」
「ボ・オ・ス? あんたねえ……?」
「実際晩飯づくりにライザ、全く役立ってねえしな」
「ライザはあれだけ走ってくれたんだから、今は休んでもらおうよ」
「クラウディアも旧市街とボーデン地区を相当往復してたよね?」
「ライザも訓練に参加させるか?」
「お前達並みに怪力になると調合の妨げになりかねんのだがな」
フォローしてくれるのがクラウディアしかいない……ああっ天使さまっ。
子どもたちの気持ちがよく分かる。
「僕も何か手伝うかい?」
「9人……小分けも面倒か。でっかいボウルにでもサラダとドレッシング作ってよ。味は薄目で」
「了解したよ。ボウルは……作るか」
「そろそろ皿も出すとしよう。ライスカレーに合う器は……」
「デザートもあった方がいいですか?」
「そうだね。ゼリー系が口を冷やすのに合うかな?」
「この氷室の仕組みを知りたいものだ。便利が過ぎるぞ」
「この工房、何が存在しないのか尋ねたくなるな……椅子を運んでくるか」
「こっちもそろそろいい感じじゃねえか?」
「そうだね。じゃあ最後に藁を一掴みくべてっと」
さっきのボウルみたいにその場で作るからね、その人。ボオスの発言には同意する。
あー、そろそろ魔法かけてもらっても大丈夫なのかな?
痺れは減ってきたし。
「キロさん、あたしそろそろ大丈夫じゃないですか?」
「ん……そうだね。ライザを晒し者にするのも終わりにしようか。Resurrectio.」
そっちが本音じゃないですよね? 冗談ですよね?
あー身体が軽い! 生まれ変わった気分だ。
「あたしもやる事あります!?」
「コップと水差し」
は~い……。
カツッカツッ
ハフッ ハァムッ!
ガツガツガツガツッ!!
ガタンッ……サッ!
ボフッボフッ……ドバァ
さて完成した料理、カレーだったんだけど――なかなかに珍現象が起こった。
ほとんど誰もしゃべらない。みんな黙々と食べてる。
なぜなら――おいしすぎて喋る時間がもったいない。
お味は複雑な辛さ。アルさんの唐辛子系とはまた別の辛さだね。
本来もっと辛いらしいんだけど、キロさんのご厚意でハチミツとかでかなりマイルドにしてくれたらしい。
席を立った誰かが同タイミングのお代わりの人のご飯をよそう暗黙の了解が成立していて、ボオスとあたしのご飯をリラさんが、タオとクラウディアのご飯をキロさんがしてくれるといった普段ならあり得ない立ち絵が見られた。オーレン族は必然的に機会が多くなる。
結果、あたし3、クラウディア2、タオ4、レント6、アルさん2、ボオス3、アンペルさん2、リラさん10(大皿)、キロさん12杯(大皿)となった……最後の2人の胃はどうなってんのかな。
ごちそうさまでした! オーレン族は料理上手ね!
「それで……島の様子はどうだったんですか? 切羽詰まった感じはしないですけど」
「うん。建物被害は旧市街以外ほぼ無くて、怪我人もキロさんとクラウディアが癒してくれたからね。大事には至っていないとの事だよ」
「キロ、クラウディア嬢。島を代表して心から感謝する」
「どういたしまして!」
「出来る事をやっただけだから、気にしないでね」
みんなでコーヒーを頂きながらアルさんの報告を聞く。
この辺はボオスってしっかりしてんのよね。
旧市街もアルさんの錬成で強化されて倒壊はしてないから、目立った事にはなってないと。
――本当に良かった。
「しかし、こんな事が頻繁に起こるようではな……対策のしようもない」
「地震って建物自体を強い組み方にしないとダメって聞いているから……」
聞いてみようか。
「ねえアルさん。今回の地震――予想してた?」
「うん」
案の定だよ。あっさりとまあ。
「見たと思うけど、旧市街の建物全体に鉄筋を打った。予め準備させてもらったよ」
キロさんもコクコクと頷いてる。知ってたらしい。
「どういう事ですか? 地震の予想など……確かに以前と比べてここ最近は頻度が多いですが」
「明日行く所で確信に変わるかもしれないね――ライザ、鍵は出来たんだよね?」
すっかり忘れてた!
いそいそと大釜の中身を確認すると――輝きを放つ鍵? が底に転がってた。
「大丈夫そうです!」
「相変わらず適当な……」
「試してみないと実際分からないからな。古式秘具を修理する薬品などそれだけでもとんでもないのだが。見た目も鮮やかになっているし問題ないだろう」
「ライザの事だ、心配ない。お前のお役御免も近そうだ」
これ思いつきだしなあ。しかもヒント元がボオスっていう。
「でも……それって地下に何かあるって事ですか?」
「今はそう考えてるよ。そして、多分そこで一番活躍するのが君だよ、タオ」
そう返されてタオの顔に緊張の色が見える……自分でも分かってたって感じ?
「であれば、明日朝一の見張りをランバーに交替させておきましょう。いい加減筋肉痛も引いているでしょうし」
「出来るだけ早い方がいいね。この大人数じゃ目立つから」
「あたしは5時くらいには大丈夫ですよ!」
「僕も大丈夫です。ヤギの世話はその前にやっておきます」
「俺も大丈夫っすよ。最近は半分寝て半分起きるってことも出来るようになったんで」
レントの魚化が進んでる。
「頑張って起きなきゃ……」
「いちいち拠点から来るのも面倒か。クラウディア、屋根を借りられるか?」
「はい! お部屋準備しておきますね!」
「今晩は熟睡できそうだな、ありがたい」
「私もここに居ようか。朝ご飯出てくるし」
「今日みたいに偶には自分で作ったらどうだい?」
「や。誰かに出してもらうご飯がいいんだよ」
「キロが……餌付けされている?」
あながち間違いじゃないわよボオス。
「では明朝5時に。ライザ、その鍵と門の鍵を忘れるな」
「わかってるわよ。みんなを待たせられないしね」
まだこれがちゃんと機能するのかも分かんないし、正直プレッシャーだわ。
何にもないと思ってた島の、とんでもない部分とのご対面かぁ。何があるやら。
「思っていたよりマズい?」
「そうだねえ。単なるエネルギー切れだけじゃなくて設備の損傷も酷そうだ」
本来避難所として機能させる予定じゃなかっただろうから、ここまで持ったのはまだマシだったかもしれない。随分なタイミングでこちらに来る事になったのは間違いないけれど。
門の封印の崩壊、大侵攻の予感、聖域の水の在り処に島の沈没、影の女王と大盤振る舞いだ。
加えて――あとたった三年で世界崩壊の危機まで来ているなんて。
ここ数百年アレ等がわらわらとやってきて、その分を皆殺しにするだけの毎日だったけど。
状況は最悪なのにワイシャツ一枚でホットミルクを飲んでる今現在――世の中分からない。
「指輪で動力源を補給出来たとしてもマトモに動作しなきゃ意味がない。かなり規模が大きいけど……どこがダメになっているかを確認する作業は必須だね」
「で、アルは何をやってるの?」
「効率計算。柔らかくても、重くても、摩擦過剰でも長持ちしないから。今大丈夫だったとしても換えた方がいい箇所とかの洗い出しだよ。ライザやアンペルさんみたいな特級の錬金術士が……次のガタが来た際に居るか分からないからね。出来る時にやっておかないと」
こちらの秘密の錬金術師は「クーケン島」という古式秘具中の古式秘具だろうものを更に魔改造しようとしている――これだから研究者は始末に負えない。
未来永劫機能するものじゃない以上、対岸に住む為の準備とかの方がいい気がするけど?
あぁ、今日も徹夜か。まあ今は仕方がない、いつか余裕がある時にでも酔い潰そう。
「アル一人でやる必要あるの? 時間は有限だし……エドさんまでとはいかなくとも、タオやアンペル辺りもこの辺は手伝えるんじゃない?」
「どうなんだろう? タオは寝かせてあげたいし……アンペルさんはこういう機械物は管轄外な気がするなあ。僕なら寝なくても問題ないんだし、逆に2人にしか出来ない事がある。加護を有効に使わなきゃね」
加護はそういうものじゃないと思うんだけどなあ。
光の大精霊様がわざわざ与えたくらいだから、それ相応の事情があるはず。
本来アルは――災厄とやらの封印の修復の為に召喚された存在。
眠くならない加護が不必要とは言わないけど、優先度は高くないはず。副次的な効果のはずだ。
それに……最近のアルの錬成とかを見て分かったけど、「フィルフサに関係する事」なら加護は自動的に作用する。指輪の錬成に私は関わっていない。勝手に加護が働いているのだ。
特に分からないのは、部分的とはいえ私無しでもエレメントコアを理解出来た事。
恐らくこれも加護経由なんだろうけど……エレメントコアはフィルフサと全く関係が無い。
もし加護経由でないならば、アルはこちらの世界でいう真理のようなものを自力で見る事が可能って事になる。これはもう才能云々を越えた話だ。
他の理由があるんだろうけど中々にわかってない。
私も一人で考えちゃってるな――この男の事を言えないや。
「まあ貴方がそう言うなら止めはしないよ。現に有効ではあるしね。私は休むよ――魔力タンクとして機能しないと。ベッド貰うよ?」
「あまり負荷がかからないといいんだけどね。歯磨きなよ? おやすみ」
多分貴方の30倍くらいは生きているんだけどなあ――ハミガキて。ブラシがないから魔法だよ。
家主の部屋は相変わらず殺風景。エドさんのコートだけが彩りを添えている。
身体を預けたベッドは……クラウディアの家には敵わないけど、今までに比べれば雲泥の差だ。
今までなら周囲を警戒して寝るどころじゃなかった。そも、元々眠気なんて殆どなかった。
今晩だけで考えるならフィルフサを殺す事も、いつ終わるか考える事もない――なんて贅沢だ。
それにしてもまあ、私もこの短期間で随分人間味豊かになった。
私は――異質ではなかったのか。
給食を思い出します。一人はおかわりがむっちゃ早い子が居るっていう。
よくカニを食べる際に使われる表現ですね。
そしてアルとかの情報についてボソッと開示。
次は本章メイン、島の地下へ。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。