ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
説明が多いので少々読みにくく、かつ長くなってしまいました。申し訳ないです。
誤字報告ありがとうございます。スマホで加筆した場合はPCでのチェックが必須ですね。
新たに評価コメントも付けて頂きありがとうございました。これは作者に通知がないんですね。
今後は章の区切りくらいで拝見していきます。
今回もよろしくお願いします。
長い長い階段の果て、そこにあったのは。
「……なにコレ!? ひっろ!」
あたしの声が反響する――もはや都市とすら思えるほどの広大な空間と。
「こんな、島の地下が全部遺跡だなんて。そしてあれが、この島の心臓部……」
タオが見つめた先。
さっきの鍵の数百倍はあるんだろう天球儀が……弱々しい光を灯して回転していた。
「驚いたね。アレ一つでこれだけの規模を支えていたなんて」
「遺跡どころじゃないですね、王都ですら……こんなに大きなものが本当に錬金術で?」
「私も信じられんが作れたらしいな。峡谷の痕跡にあった巨人でも使ったか?」
「結果的に避難所として機能したわけだが、本来の目的は……」
「リラさんたちの資源を奪って、ここで生活しながらって感じっすか」
「どこまでも強欲だ。その強欲さの上に俺達が生きているのだからやってられん」
「考察は後にしようよ。まずはあそこに行こう。アレが島の中心なんだろうから」
そうだ。はしゃいでる場合じゃなかった。
さらに階段を下って、ソレの前へ。
謎の赤くて小さな丸石を中心に、周回する4つの円と、台座になってる3つの円で出来た天球儀。
――これが。
「島の、心臓……」
「タオ。本をお願いするよ」
「はい! これを組み合わせて……「中核」「重要」「制御」、示している構造も同じ」
「何を意味しているのかと思ったが、まさかこんな物を示していたとはな。暗号だったか」
この辺はあたしたちはお手上げだ。一文字も読めないし。
なんにせよタオとアンぺルさん、そしてアルさんは何なのか知ってるらしい。
「タオの努力がここで実を結ぶとはな」
「あんた邪魔ばーっかしてたもんね?」
「こんなもんに繋がってるなんざ誰も思わねえだろ……いや、1人いるかもなんだよな?」
「よかったよ。仮に私たちだけでここに来る事が出来たとしても」
「ここで出来る事はない……島の寿命を縮める事なら出来そうだが」
「まずその不謹慎な脳筋思考をどうにかしたら? それにしても、この核になっているのは……」
キロさんがかなり辛辣だ。投擲された事を相当根に持ってるわね。
それは置いといて。キロさんが気にした核、島のコアとでも言えばいいのかな。
タオが言うには少なくとも300年くらい島を維持していたらしい設備の燃料――動力源。
今は力が減ってるっぽく見えるけど、元は莫大なエネルギーを蓄えてたんだろう赤いナニカ。
なんか、その正体には心当たりがある。予想してたというか。
「儀式じゃなかったんだ。やっぱりこれの説明書……端末はあれかな」
「僕は周辺設備の劣化具合を直接見てくるよ。アンぺルさん、タオをお願いできますか?」
「勿論だ、そちらは宜しく頼む。タオ、まずは稼働状況から見よう」
「私もそっちを手伝おうか?」
「そうだね。念の為にお願いするよ」
「了解」
タオは……たんまつ? 五角形のボールみたいなものにアンぺルさんと一緒に取りかかった。
アルさんは現場現物の作業へ。キロさんはそれを補助するみたい。加護が役立つのかな。
歯がゆいなあ。やれる事がない。
「のう……きん……わたしは、のうきん……?」
「「リラさん!?」」
リラさんにすっごい精神ダメージ入ってる!?
慌ててレントとクラウディアがフォローに入ったけど、どうフォローしたもんかな。
残ったのは、あたしと。
「ライザ」
ボオスから話しかけられた――顔はコアの方向を向いたまま。
「なに?」
「この明滅する光、昨今の地震、直近の不漁、大昔に枯れた噴水と井戸……お前はどう思う?」
「……明るい回答出来ないけど、いい?」
「構わん」
「……島の命が、尽きかけてる、んじゃないかな」
これらのキーワードだけ並べると、それしか思い当たらない。
原理なんて全然分かんないけど……全部繋がってて、全部終わろうとしてる。そんな気がする。
まだエネルギーは残ってた。つまり島の水が枯れた事とは無関係か、関係が既に切れてたって事。
なら、他にあり得るのは。
基礎が崩れて、島が――沈む?
「…………っ!!」
ゾッとした。今頃あたしの背中はベッタベタだろう。
「はぁ……尽きる前に水だけでも返さないとな。島民を移住させる時間があれば助かるんだが」
「あんた……意外と前向きね?」
「このまま島が死んで、俺達もそれに従うのをただ待つと? 真っ平ご免だ。今の俺が出来る事で足掻く。必要なら未知の分野にも手を出す。まあ、この島自体俺には未知の代物だったんだ。錬金術からアプローチする方が正解だろうがな」
全く以て正しいわね。ここで後ろ向きになっていてもしょうがない。
命と言っても錬金術の代物。人の手で作られた島。
なら、作り直せるはず。
アルさん、アンぺルさん、キロさん。これだけ凄い人たちがそばにいるんだから。
あたしも手伝える事があるはずだ!
あれっ、あたし今リラさんをカウントしなかった? 気のせいだよね?
「みんな! ちょっと来てくれるかい!」
タオからお声がかかった。何か分かったのかな。
あ、リラさんが再起動した。アルさんたちも戻って来たね。
「何か分かったの?」
「何かというより……全部かな。こんな事になっていたなんて」
「そしてアル君の推測の答え合わせでもある」
その人の場合、「推測」じゃなくて「予知」の間違いじゃない?
「僕も全然まとめ切れていないんだけど……」
「落ち着けって。タオが見たもんをとりあえず言ってくれりゃいいさ」
「わかったよ。まず……クーケン島が人工島っていうのはここを見た通りなんだけど」
レントに促されてタオが語り始める。やっぱりレントはいい兄貴分ね。
で、一息入れたタオの言葉の続きは。
「この島――浮いてるんだ」
「は?」
ぶっ飛んでた。
湖に浮かぶ島、とかみたいな比喩じゃなくて? ホントに?
「浮いてるんだよ。舟のように、プカプカと」
「これを見れば分かりやすい。タオ、さっきの画面を」
タオが端末とやらを操作して……すっごいわねあんた、こんなの触れるの?
あ、島の地図っぽいのが出てきた。
島は……湖の底と、繋がって――いない。マジか。
「これが島の遠景。で、この太い線みたいなのは」
「……エリプス湖の、潮流、なのかな?」
サメ事件の時にクラウディアが言ってたっけ。海には大きな水の流れがあるんだって。
今はエリプス湖内の話だけど、島の周りにも同じようにあったんだ。
「その通りだよ。この潮流はクーケン島自体が水を吸い上げて、それを吐き出す事で制御されていた。だから浮島なのに同じ場所に居られたんだ」
「だが……ここを見てほしい。線が他より細いのがわかるだろう?」
線の太さは指一本分くらいの箇所が多いけど、部分的にその半分くらいのところもある。
つまりは。
「ここは制御が弱くなっちゃってる?」
「多分ね。でもここだけじゃない、もう全体的に弱まっちゃってるんだ。その状態でもバランスを取ろうとして、今ギリギリこの状態を維持しているんだと思う。それが少し崩れてしまった事が……多分昨日の地震の原因だよ」
「じゃあ……これ以上その制御ってやつが利かなくなっちまったら」
「バランスを失い昨日のような地震が頻発。島は流され、この中枢にも水が溜まり、最終的に浮上する機能すら停止して沈む、と。よく出来た結末だ」
「ボオスは理解が早いね。流石だよ」
キロさんに褒められてフンって感じだけど――内心喜んでるわよね?
まあでも、頭回すのは早いわホント。
「弱くなっちゃってるのは?」
「目の前にある「浮上装置の動力炉」。コレのエネルギー源が尽きかけてるんだよ。島が作られてからの数百年間エネルギーをひたすら吐き出し続けて……もう枯渇寸前なんだ」
いやな予想ばっか当たるわね。さっき考えた通り全部の原因の大本はここにあったと。
あとは。
「タオ。後どのくらい持ちそうなんだ?」
「あーえっと、そういえば。ちょっと待って。ボオスは暗算得意? 1分間の減り具合を見るよ」
そう言って、タオはトレードマークの時計を取り出してメモを取る。
あたしには全く読めない文字が刻々と変わっていく。
長い長い1分間が過ぎて。
「え~っと。スタートが4705024.6で……1分後が4704710.4」
「毎分314.2。かなりマズいね」
「残り10日と約10時間か。崖っぷちもいいところだ」
キロさんとアルさん、計算はっや! 頭どうなってんの!?
あたしスタートの数字すら覚えてないんだけど?
というか、そんな桁数多いならせめて最初は読んどいてよ! それでも絶対ムリだけど!
レントはポカン顔、クラウディアは口を手で塞いじゃってる。
ほら、ボオスも目を見開いてるし……ああ、リラさんがまた。
残り日数10日のインパクトが霞んでるじゃない。
「僅か10日で生活基盤を動かすというのは現実的ではないな。仮に対岸に避難出来たとしても、直後の大侵攻を我々が止められなければ大惨事だ」
唯一固まってなかったアンぺルさん――暗算出来てたのかな、が告げてくれる。
今朝お母さんが言った通り……乾季が来るまであと2週間、たった14日程度。
門は物理的に塞いであるとはいえ、物量で突破してくる可能性もゼロじゃない。
それに影の女王の方も、ひょっとしたらあたしたちの恐怖心を吸って出てくる可能性もある。
10日以内の引っ越しも現実的じゃないよね。
住む場所もないし、あたしんちなんか農家だ。仕事も出来やしない。
小さな島と言っても何百人かはいるんだから……他所の町で受け入れてもらえるものなのか。
唯一あり得そうなのが……アルさんにお願いして街道とかに家を錬成してもらうくらいなもの。
錬金術も大々的に公開してもらう事になる――なにもかもがアルさん任せの最低な選択肢だね。
それでも島みたいな、ほぼ魔物に遭遇しないなんて生活は得られない。
そもそもこの島が浮島で半月後には湖の底だなんて、この場の人以外で誰か信じるかな?
アガーテ姉さんですらアルさんから話しても疑いそうだ。
だから――考えるべきは引っ越す事じゃなくて。
「アンペル。このエネルギー源とやらがなんなのかは分からないのか?」
「少なくとも同じ物は見た事がないな……だが最近これに近い波長のシロモノを見た気が?」
「賢者の石」
自然と声が出てた。みんなの耳目が集まる。
「アルさんがオーリムで錬成した赤い石。アレに似てるんじゃないかな」
「可能性は高いね。そうでないと困るよ――準備した意味がないし」
キロさんの……準備? 指輪を左手からゆっくりと抜いて。
「タオ。この指輪からもエネルギーを吸えるようになんとかできる?」
「えっ、コレからですか? や、やってみます!」
タオは指輪をキロさんから受け取ると、何やらガチャガチャし始めた。
「あれって……記念品だって」
「使わないに越した事は無かったんだけどね。アルから話を聞いて、考えていた保険だよ」
「じゃ、じゃあアルさんは前からこの事を知ってたの!?」
相変わらず一人先に行ってるこのお方。
こんな大事な事なら早く教えてくれたらよかったのに。
そんなアルさんの表情は……読み取れない。
「島が人工島だと知ったのは、塔でも話した通り結構前から。浮島だと確定したのは……ライザのエアドロップを最初に使った時。2週間くらい前だよ」
「あのサメの時の?」
「湖底まで潜ったって言っていましたね。そういえば」
「人間が潜れる深さではなさそうなんだが……」
「今の俺でも耐えられるか分かんねえな。水の力ってどんなもんか知らねえけど」
アルさんですら浮島だと知ったのは最近だったんだ。
でも、他は?
「浮島という事実とこれまでの地震、魚が獲れず魔物が入り込むようになった潮流、少しずつ上昇し続ける水面……正しくは沈下する地表だったわけだけど。それとタオから借りた本とかを足し合わせて、ある程度の仮説にたどり着いたのが例のサメの日だね」
「……そうか、エルリックさんの住まいは旧市街。俺達より強い地震を経験された回数は恐らく多く――その現象に疑問を持たれていた。島外民なら尚更、一般常識に当て嵌める」
「地震については不思議に思っていたんだ。これほど局所的、かつ縦横が混じった揺れ方は本来ありえない。僕は旧市街に住み続けて10年近いから地震は何度か経験しているんだけど……大体は嵐で湖が荒れている最中だった。関連性は疑いつつも結論は出ず、手を出したのがタオの持っていた本だったわけさ。結局今の今まで具体的には分からなかったんだけどね」
そっか。昨日ボオスが言ってた水面が上がってきてるって話。
あれは、この島が沈み始めてたんだ。
あのサメの日は……たしか11日前。
クラウディアのお屋敷の水漏れを始め、旧市街は地盤がもろいから地震の影響が大きいんだっていうのが島の常識だったけど、やっぱり違った。
キチンと地震の原理を知ってるアルさんだから余計に変な地震だと思った。
でも分からなかったから――分からない本を持ってるタオに関わった。まさかそんな頃から。
タオは……唖然としてる。古代文字そのものじゃなくて、さらにその先に興味があっただなんて。
「そこから原因が何なのかを考え始めて……まず機械的な物が故障しているんじゃないかと考えた。仕組みは恐らく古式秘具、なら使う素材もクリント王国の錬金術に依る物の可能性が高かった。だからオーリムの素材で丈夫に作ってみようと考えたんだ――ライザは分かるよね?」
「……あたしの杖、セレスティアシーカーの素材――ゴルドテリオン」
「そう。元々はここの部品に使うつもりだったんだ。でも重すぎてダメだね、スタルチウムくらいが丁度良さそうだ。そもそも僕の錬成で作った素材だと、僕が居なくなった後に修理が出来なくなるかもしれないし」
あの晩。
サメ退治が終わって……ちょっと昔話もしたけど、打ち上げムードだった中でたった一人そんな事を考えてたんだ。
じゃあまさか、あの時に言ってた「先の事」って、本当はこっちの事だった?
アルさんの言葉を引き継ぐように、キロさんが語り始めた。
「ここ最近はタオの本を読み漁って推測を確信に近づけ、部品の図面を起こし、構造上の問題や良い噛み合わせがないかをアルは考え続けていた。一方で私は、アルからここの動力を補助する手段を用意出来ないか依頼された。何由来なのか不明だったから精霊の力を借りられないかって事だったけどね。私が一日で生み出す魔力は皆よりは多いだろうけど、島の環境を維持する程となると過不足の想像が付かなくて……だから溜め込む事にしたんだよ」
――さっきの指輪に。
「約5日間分でしかないけど何日分補填できるかな……島の5日分より多いならありがたいね」
昨日見た図面もその一環だったんだ――なんで気付かないかなあ!
指輪だって記念品とかお遊びじゃなくて、島のために力を割いてくれてたんじゃない……。
あのアルさんが疲れるレベル、普通の依頼なわけがなかったんだよ。当たり前だよ。
教えてもらうって受け身前提だった結果が、これか――何が支えになる、だ!!
「接続できました! えっと……6964751.0まで!」
「幸いエレメント由来か。量も都合がいいね、丁度5日分の追加――最悪私がここに残れば島の動力は維持出来るわけだ」
「させるわけないじゃない!!」
思わず叫んでた――これが叫ばずにいられるか。
「そんな人柱みたいなことっ! 絶対にさせない! 全力で止めるからね!?」
「キロ、間違ってもそんな事はさせんぞ。島民全員を追い出してでも阻止させてもらう」
そんな……誰かの犠牲の上に成り立つ生活なんてもうたくさんだ!!
絶対に止めてやるんだから!
「キロさん。間違いなく今のは君が悪い」
「そうだね。特にライザはこういう子だったのを忘れてた」
くすくすと、声を漏らしながらキロさんがあたしの頭を撫でる。
あたしより少し低い背丈、小さな体、撫でる手の先に見える顔は――微笑んでた。
「ごめんねライザ、ボオス。揶揄い過ぎちゃった。勿論そんな事
「っはぁ~~……心臓に悪いぜキロさん。俺もどうやって止めようか考えちまった」
「本当に。キロさんが仰ると冗談に聞こえないんですから」
「な、なんか、キロさんが人柱になろうとしてたの?」
「気にしなくていいぞタオ。キロ嬢の悪ふざけだ……かなり頭に血が上ったが」
「キロ、勘弁してくれ。本気のキロを止めるより女王を倒す方が容易な気さえするんだ」
「……次同じ事を言ったら、父さんと古老を殴ってでも総動員令をかける。覚えておいてくれ」
本当に、キロさんが言うとシャレにならない。
――もうやめてよね、こんなこと言うの。
「随分と懐かれちゃったものだよ。さて話を戻すけど……このエネルギー源が賢者の石じゃないかって事。正解かは分からないけど近いものはあるんだと思う。クリント王国がオーリムから持っていった資源は精霊に関する物が多かった。ならばその資源を材料に作られた代物は、多分精霊が絡んでいる」
キロさんが真面目な顔に戻って、コアの方向を向いて話し始める。
確かに――クリント王国はキロさんたちの世界の資源を使って発展した。ならその資源には精霊が関わってる可能性が高いわよね。古式秘具なんてその最たるものでしょうし。
「ライザ達には話したっけ? フィルフサは精霊を餌にしているそうなんだよ。つまり見方によっては精霊の結晶体ともいえる。アルがあの時作ったのは――フィルフサを由来にした精霊を錬成で賢者の石っぽく集めた物、と考えていいんじゃないかな」
「そしてアンペルさんが考えられていた通り、それをリンケージ調合で作った物こそが」
「あたしたちの世界の、賢者の石、って事?」
ついに話に聞いた賢者の石の正体が見えてきた。
まだ仮定の話だけど……まさかフィルフサ由来の代物だったなんて。
「ただ……あの時と同じ素材で作った賢者の石じゃここまでの長期間を持たせられると思えないんだよ。似て非なる何かを使ってるんじゃないかってのが僕達の見解だね」
「……という事は、だ」
「より大きく、濃密なフィルフサの結晶体。私達には心当たりがあるな」
「そうでしょ? これでより一層女王を倒す必要性が出てきたよ」
リラさんとキロさんが知っている物――オーレン族が知っている物。
ああ、それって。
「たしか……指輪の素材にもしたっていう」
「そう。コレだね」
キロさんがポケットから出したのは、いつか見た爪の先ほどもない小さな赤い欠片。
「「戦士の証」と私達が呼んでいる物。実の話、私もこれが何なのかちゃんと分かってなかったんだけど……強力なフィルフサから長期間影響を受け続けて変質した精霊石なんだと思う。でもこんな欠片じゃ話にならないから……とても大きな物を素材にした特殊な賢者の石が動力の正体なんじゃない? これをわざわざ指輪の素材に使ったのは、魔力の伝導体としてもリングそのものでも魔力補給に役立つかもって打算はあったんだよ」
「……まさか賢者の石の正体を異世界人に解いてもらう事になるとはな。やれやれ、私は一から学び直す必要がありそうだ……本当に、情けない」
つまりは。
「じゃあフィルフサの……蝕みの女王を倒して大きな戦士の証を手に入れて、それで新しいエネルギー源――賢者の石を調合する事が出来れば」
「大侵攻は止まり、島の動力は復活。水を自力で浄水出来るようになって水を返す事が出来る。それが僕達の出した結論だ。まだ影の女王の話もあるし……僕の場合はその後の事もあるけどね」
「ただ前に話した通り、これは対象を屈服させた者以外はエレメントを吸われる事になるから、ライザかアンペルが止めを刺して回収するのが望ましいね。それに……蝕みの女王やその影が十分な大きさの戦士の証を持っている保証もない。でもクリント王国は作り出す事が出来ているんだから、なんらかの手段はあると思っているよ」
「現実的で私達の目的にも沿っている。最も達成しやすく、かつ円滑に終わらせる事が出来る方法だ。流石はアルとキロだな。アンペルとは大違いだ」
「お前さんはキロ嬢と同じ目線で考えた事があるのかね? それに、その戦士の証だけで賢者の石は調合できない。何か他の特性が必要なはずだ。それを考えねば」
「……脳筋」
「ちょっクラウディア!?」
「いけねえ! またリラさんが!」
しばらくは禁句だね、これ。
「影とは……あの黒いヤツの事か。エルリックさん、水の浄水というのは動力さえ戻れば回復しそうなのですか?」
「そっちをボオス君には話していなかったね。アレの事情も判明したものだから、僕らは影の女王と呼ぶ事にしたんだ」
「早い話がクリント王国の人たちの怨念みたいなもんだそうよ」
「実体がなかったのか。道理でどこまでも追われるような死の気配だったわけだ」
あたしたちも、近いうちに腹くくらないとね。
「水の方は……知っての通りクーケン島の水が枯れたのは随分昔の話だ。これは動力とは別に設備が劣化、破損して機能しなくなったからだね。結構な部分を修復……というより交換する必要があるよ。全ての改善を考えていると時間がかかるからまずは必須と言える5か所。一度現物は見るけど図面は引けるし、材料はスタルチウムでいいから後は僕が――」
「アルさん!! そのお仕事、あたしにやらせてもらえませんか!?」
これ以上アルさんとキロさんの負担を増やしちゃいけない。凡人にも凡人なりの意地がある。
そもそもあたしの錬金術は、アルさんの役に立つため。
――これをやるべきは、あたしだ。いつまでも甘えるな、ライザリン・シュタウト。
「……かなりの精度が必要になるし時間もない。ライザの調合だと相当に大変だと思うよ――それでもやるかい?」
「やります。これはあたしがやらなきゃいけないと思いますから。お願いします」
相手の目を真っすぐ見て、自分の意志を明確に伝える。ロミィさん流交渉術だ。
「……わかった。後で詳細な図面を渡すよ」
「そのイメージを完璧に頭に叩き込むんだ。我々の錬金術は術士のイメージが命だからな」
「うん!」
アルさんには他に出来ることがいくらでもあるけど、あたしにはこれしかできない。
もちろんフィルフサとの戦いに備える準備も必要だけど、まずはこっちが優先だ。
正直、精度が求められる錬金術には全然自信がない。
でもやらずに諦めるのは性に合わないのよね……絶対にやり遂げるんだから!
あ、あとこれは言っておかないと。
「ところで……ねえアルさん。他にもあたしたちに話してない事ってないですよね?」
あたしたちのためを考えてくれてるのは分かってるけど、どんな事実だろうと受け止める。
もう、ただ守られるだけでは居たくないんだよ。
「そうだぜアルさん。俺たちでも出来る事があるかもしれねえですから。まだあるんだったら教えてもらえないですか?」
「うん、僕も教えて欲しいです。本当は自分で見つけないとなんですけど……」
「キロさんやアンペルさんたちも知っていたんですよね? みなさんに比べて未熟なのは分かっていますけど……少しでも協力したいんです。お願いします!」
ほらボオス! あんたも頭下げなさいな!
「……だそうだが、我々にも黙っている事があったりするのかね?」
「アルの場合、私達も知っているつもりで実はアルしか理解していないという事もありそうだが……」
「俺達にとっての非常識も、この人にとっては常識の範疇だ。俺達の理解とその為の努力が足りんという事だろう」
あれ? アンペルさんたちも情報共有が出来てるわけじゃない?
んでボオス、あんたの提案は無理だってば。
あたしが国家錬金術師になれるとでも? 努力はしなきゃだけどさ。
「随分疑われているね? 日頃の行いが悪かったんじゃない?」
「暗躍したつもりは全くなかったんだけどなあ……ごめんよ、今回の件についてはショックが大き過ぎると思って伏せていたんだ」
アルさんが困ったような顔してる。
正直ショックはムチャクチャ大きいよ? ボオスに問いかけられた時は目の前が暗くなったし。
でも……何も知らないまま事態が進んで欲しくないんだ。
「わかったよ。新しく何か判明したり思い付いたりした時はみんなに共有するように努める。今の所、島に関して僕が持っている追加情報はないから安心してね?」
「ボオスの言う通り、この男の常識は私達とは文字通りズレているからね。不安だよ……」
キロさんもわりとズレてるんですけど、自覚されてないですか?
「さあ、それでは各々目標を決めて邁進するとしよう。私は引き続きこの端末から島の機能を調べてみようと思う。今の状態から僅かでも延命させる手段があるかもしれんしな。タオ、協力してもらえるか?」
「もちろんです、先生! 家からここに関連しそうな本を全部持ってきます」
「僕もここの現物確認をしようと思う。物事の理解は目で見て触るのが一番だからね」
「さっきの作業の延長かな。まあホントに人柱にならないようにする為にも気合いを入れようか」
「あたしは勿論部品の調合だね! アルさん、今分かってる部品の図面をお願いします!」
「分かったよ。一回工房に戻って作図しよう。それと……レント。ライザが作った部品の加工をお願いできないかな? 恐らく出来た部品を削るなりして調整するのが一番やりやすいと思うから」
「了解っす! 力仕事なら任せてくださいよ!」
「私は……ごめんね。みんなと方針が違うんだけど、今日お店のプレオープンを予定しているから……そっちを頑張って、みんなに差し入れを持っていくようにするよ!」
「俺は……もし島の延命に失敗した際の最終手段を出来る限り整えるとしよう。勿論キロが人柱にならない方法でな」
クラウディアのはそもそもあたしたちと一緒にいてくれるための条件だもんね。
むしろあたしたちがそっちをちっとも手伝えなくてゴメンだよ。
各々やる事が決まったわね……あれ、一人コメントが足りない?
「私は、私は……何が出来るんだ? ……本当に……のう……」
あぁ……リラさんは右往左往してる。ほぼレントの修業がメインだったからなあ。
「時間があるのであれば、一つ依頼したい事がある」
「ボオス少年が、私にか?」
「ああ――ランバーを見てやってくれないか? クラウディア嬢に届きそうにもない体力は流石にな……。基礎体力、そして根性を鍛えてやってくれ。緊急時に俺の代わりをさせるつもりだからな。あんたが指導するならランバーもより身が入るだろう」
ボオスから助け船が出た。脱走や弱音=
リラさんが攻撃的な笑顔を浮かべる。
――うわあランバー、ご愁傷様。骨が残るといいね。
「ふむ、まずはどのようなレベルか確認せねばな! 一旦引き受けよう」
よっし! これでみんなやる事が決まったね。
さあ――島を救うため、水を返すため、大侵攻を止めるために。
「じゃあ、行動開始だね!」
これで第七章は終了です。
やっとクラウディアの店がプレオープンです。そして頑張れ、ランバー。
第八章は本話のタイトル、選んだ未来を掴み取るための行動編になります。
もう結構終盤近いですね。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
また数日時間をいただいてから第八章を開始致します。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。