ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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第八章開始です。お待たせしました。
比較的長めの章になります。

本話は会話パート多め&長めです。何気に初登場キャラもいます。
本作で唯一、主要キャラが主役でない話なのかもしれません。

今回もよろしくお願いします。


第八章 積み上げたもの ~努力で無理をくつがえせ~
72. 77日目③  作業の傍らの世間話


「ぬわあぁぁぁ~~~~!! なんなのかなこの複雑さ!」

 

「もうちょい図面に合わせてくれ……硬すぎて削る手間が半端ねえなコレ」

 

「がんばれ~未来の大錬金術士。これが一番簡単なやつだからね?」

 

「三面図じゃ難しいかなあ? 一旦木製で調合をしてレントに完成品を作ってもらって、それでイメージを明確にする方がいいかもしれないね」

 

中枢から出た時にはもうしっかりと日は昇ってて、乾季が間近な事を知らせてくれてた。

一方で、お疲れのランバーには睡眠時だったらしい。

そのツケの支払先が仁王立ちする笑顔のリラさんだと分かった瞬間の顔色の変わり方は……人間ってあんなに表情豊かなんだね。

 

あたし、レント、クラウディア、アルさん、キロさんは工房へ移動。

既に描いてくれてた図面――昨日の歯車だね、を貰って早速調合をしてるんだけど……。

 

覚悟だけじゃどうにもならない事がある。世の中そんなに甘くない。

 

大まかな形のイメージは簡単でも精度が全く出ない。

出来たのはただの歯車……タオのハンマーを初めて調合した時を思い出すわね。

ミリ以下の精度の寸法に角度、重心取り。そういったものがあたしには全然分からないのだ。

 

オマケに、歯車一つと言ってもただの円盤に歯が付いてるわけじゃなくて。

軸部分に段差が付いてたり、摩耗防止の面取りが必要だったりとちっとも単純じゃない。

 

さらにはスタルチウムだからメチャクチャ硬い!

ダイヤのヤスリじゃなかったら歯が立たなかったね。

 

あたしの調合は()()()()()()()が源であって、実際にこんな形! ってのがほぼない。

そのツケがここに回ってきた……これは思ってたより遥かに難度が高い。

いくら力自慢のレントでも削るには限界があるもんね。あたしが精度を上げないと。

 

「その案で賛成っす。ライザ、一回木で作ってみようぜ? それで頑張って削ってみるからよ」

 

「そうだね。これじゃ期限内にこの歯車を作るのすらあやしそう……」

 

昔はこれを調合で、あの中枢の分全部作ってたのよね?

古代の錬金術のヤバさが伺えるわ……。

 

とにもかくにも、まずは建築材で試してみようかな。

 

 

ガランガラン

 

 

「いらっしゃいませ! お待ちしてました!」

 

「やっほ、クラウディアちゃん。今日はお招きありがとうね」

 

「今日を楽しみにしてたんだよ。どんな味になっているのか待ち遠しいねえ」

 

「子供達ってどんな味が好みかしら……甘さも色々だし」

 

店舗側からはクラウディアの他、ロミィさん、バジーリアさん、シンシアさんの声が聞こえるね。

今日はオープンといっても仮オープンらしい――今までお世話になった人たちを招待してお店を見てもらうって感じみたいね。他の人はその後順次との事。

美味しさはあたしたちが良く知ってるし、みんなの好みに合う物があると思うよ。

 

「クラウディア。まずはこれとそれとあれと……」

 

ううん? 聞きなれた声がいつの間にかあっちに行って、どんどん注文してる。

財布はアルさん持ちになるんだろうなあ。今更だけど。

 

さてと。

 

「んじゃまあ。昼までに何とか一つ、木製のを頑張ってみましょうか」

 

「俺はこの辺の道具の使い方をもうちょい覚えるとするぜ。こんなに色々あるなんてな」

 

さすがはプロの道具屋さん。初めて見る工具がすごい数並んでるんだよね。

一部は何に使えそうかすら分かんないわ。コレもあっち(アメストリス)の工具なのかな?

 

……よっし! まずは比較的大きめの歯車の様な物を作って、レントに整えてもらうとしましょ!

最初から完璧なんてありえない――トライ&エラーってやつね! あきらめるもんか!

 

 

 

 

 

 

「キロちゃんといいリラさんといい……オーレン族ってのはなんで皆スタイルいいの? 太らないの!? 欲しい所に栄養がいくの!!??」

 

「さあ……私とリラじゃ氏族が違うし、私は見た目通りだけど大して身長が無いよ?」

 

「なに言ってるんだい。そのくらいの背の方が女はモテるもんだよ。あたしやアガーテは随分大きくなっちまって」

 

「彼女は子供の頃からしっかりしていましたから……それを絵に描いたように成長してしまいましたね。ライザ程とは言わずとも、もう少し気を緩められるといいんですが」

 

クラウディアのお店のプレオープンに招待された3人と図らずもお茶をする事になった。

快活さにどことなくライザを思わせる行商人のロミィ、クラウディアのヤギミルクの仕入れ先のバジーリア、この工房の近くで教師をしているシンシア。

私はそこまで島民と話した事がないけど、少なくともこの3人に限れば排斥的って要素は無い。

 

「キロちゃんはロミィさんより背あるじゃん! ロミィさんに言わせれば、オーレン族はスタイル良すぎだよ? モデルやれるよ? 何その小顔、綺麗な髪、色白、細い腰、おっきな……おっきなソレ!!」

 

ソレって……。

あと、なんでこの服の上から私の体型が分かるのかな?

 

「ロミィも特別小さくはないようだけど? それに大きいと活動の邪魔。何より重いし痛い」

 

「あ゛あ゛あ゛!!! これだから二物も三物も持っている子は! いい!? 島の外なら私の大きさでもまだいいのだよ――でもこの島はダメ! みんなおっきいもん! 私もライザくらい欲しい!」

 

「島の外に出た事が無いから答えようがないのだけど……そんなに気にするレベルかしら?」

 

「さあねえ。だけどキロちゃんの言う通りだよ? 肩が凝っちまうよ」

 

戦闘の邪魔にしかならない。

子を持たない私にとってはデメリットでしかないのだけれど。

これの大きさって、要するに多くの子を育てられますよっていうアピールでしかないんじゃ?

 

「リラさんにも聞いたらさ? 「よく動き、よく食べ、よく寝る事だ」って。私もそれなりに達成していると思うんだけどなあ」

 

「じゃあ私やリラ並みに食べれば……ロミィはリラとよく話すの?」

 

「常連さんだよ? ご贔屓にしてもらってますとも。一回でいっぱい買っていってくれるしね」

 

「あの女性とは殆どお話をした事が無いのだけれど……どういう方なのかしら?」

 

「オーレン族というのも初めて聞いたね。外には色んな人がいるんだねえ」

 

それはそうだろう。そも、この世界の住人ではないのだから。

 

「私達は貴女達と違って……半獣人って分かる? 見た目は似ていても中身は違う。数はあまりいないね、それほど子を作らないし。リラは……興味の無い物には全く反応しない。あと人見知りかな」

 

「王都で似たような人を見た事ある気がするんだけどなあ。リラさんは……確かに最初はぎこちなかったけど今は割と喋ってくれるよ? 他の町の事とか食べ物の事とか」

 

意外な情報。食べ物は偉大だ。

 

「初対面……お隣に引っ越しされた時は「今から隣で世話になる」とだけ仰っていたから。グルメなお話だったら聞いてもらえるかしら?」

 

「多分大丈夫じゃないですか? あのもう一人……アンペルさん? ほどじゃないみたいだけど、甘い物好きみたいですし」

 

「その甘い物好きの二人はここへは来ないのかねえ? クラウディアちゃんとも親しいって話だったから」

 

「今は仕事中。後で私が持って行く事になっているよ」

 

リラの体力消費はゼロだろうけど某少年は疲労困憊、頭脳労働の3人はかなり頭を使っている。

活動には栄養がいる。一人例外だけど。ただ、アレにも精神的な補給を取らせないといけない。

 

……質問を受けてばかりだね。少しは返そう。

 

「貴女達から見たライザ達ってどんな子なの?」

 

「そうだねえ。まず……ライザは島の子にしちゃ珍しく色々な物への興味が尽きない子だったよ。島の探検だったりヤギの性格だったり魔法だったり……アルフォンス君との関わりだったりね」

 

「学び舎にいた頃から、ガキ大将とは言わずともなかなか豪快な子だったのよ。一番最初に卵を立たせた子が勝ちって遊びをしたら、底をグシャッと潰して「立った!」とか。その辺りの始末を付けてくれていたのがレントとボオス、真面目に取り組み過ぎてちょっかいを受けていたのがタオだったわね」

 

容易に想像が付くね――そのまんまじゃない? ガキ大将。

 

「後は……ロミィさんにはよく島の外の話を聞きに来てたわね。何がいる、何がある、どんな町~とかね。この島では外に出る事が勧められてないからさ、どうしたものか迷ったよ。そ・れ・か・ら……ここに入り浸りすぎ! 長年アル君を独占状態だもん」

 

「大体は想像出来るけど……そこまで?」

 

ライザがアルにべったりというのは割と有名らしい。足繁く通っていたのか。

 

「ロミィさん以外にも行商人の女子はいるし、あとヨンナさんとかアガーテちゃんとか……結構な数の女の子がアル君には目を付けているんだよ? だけどさぁ……ここ数年は仕事の時以外ほぼ常にライザが貼り付いているんだもん。あれじゃ話しかけらんないよ。最近はそうでもないみたいだけどね。アル君も工房でのお仕事が多いみたいだし」

 

「ライザにとってはいいお兄さんだったんだろうさ。色々興味を持つライザに対して、色々詳しいアルフォンス君だからね。一種の憧れだったんだろうさね」

 

「そうですね。ただライザの場合、恋する女の子というよりは……」

 

「兄、あるいは従兄弟を他人に取られたくない妹みたいなもんじゃないです?」

 

博識のアルはライザにとっての宝石箱だったらしい……あの天然タラシめ。

そして今も大体一緒にいるよ? 外に出ていないだけで。

 

あと……昨晩その人気の家主のシャツを寝巻に着て、寝床で寝てた存在が目の前にいるよ。

なんか申し訳ない。

 

そういえば。

 

「ロミィはアルとどうやって知り合ったの?」

 

「ここでのお客様第一号だよ? ……アル君が居なかったら私は今頃どうしていただろうね?」

 

「そうなの?」

 

「うん。ロミィさんが初めてクーケン島に来たのは今のライザくらいの頃だったんだけど……ここで言うのもなんですけど、外の人間って受け入れられにくいじゃないですか」

 

「まあそうだね。昔から島にある物を使って生活するように言われてきたから、島外の人と関わろうとする習慣があまりなかったよ。先代くらいからじゃないかい? ある程度外の人を受け入れるようになったのは」

 

「幼い事から言い聞かせられているから、それが自然ですね。だからロミィちゃんも」

 

「そう。大した実績もない新入りの小娘だった事もあって信用はゼロ。ちっとも受け入れられなかったし、物も買って貰えなかったわけですよ」

 

当初リラとアンペルから聞いていた島の排他的な部分が明確に出ると、本来はそうなっていたんだね。私は真に例外といえる扱いなんだろう。

 

「大きい島でもないから島民はほぼ全員顔見知り。数少ない出入りがある行商人も同じ。だから新参者ってすぐに分かっちゃって――会話すら続かなかったよ。流石の私も結構へこんでたんだけど……そこに救世主(スーパーマン)が現れたじゃないですか」

 

あの男……狙って近づいてないでしょうね?

 

「当時新進気鋭の異邦人。お医者様と並んで外の人なのに島民に受け入れられていた道具屋にして護り手のエース――アルフォンス・エルリック。アル君が私の露店に来てくれて、商品の大半を買っていってくれたんだよ」

 

「うちの鍋をこさえてくれた後くらいの時期からだったかね? アルフォンス君の道具が便利だと知られ始めて島全体での接し方が変わってきたのは」

 

「学び舎の本棚の補強や黒板の修理、使いやすい色鮮やかなチョークを持ってきてくれたりもしていました。子供達もとても喜んでいましたね」

 

「その時ロミィは何を売っていたの?」

 

「他の行商人達と一緒じゃまず売れないって思ったから……変わり種で行こうと考えて装飾品とか本とかだったかな」

 

そう言う事ね。

アルも島の外の情報を集める為に、普段は売られていない物を欲していた。

ロミィの売り物はピッタリだったわけだ。

 

「で、アル君と関わるって事は絶大な効果を持っていてね? さっきのシンシアさんの話みたいに学び舎の子……ライザ達もそうね。他にもアル君と家族ぐるみの付き合いをしていたアガーテちゃん。その伝手で護り手の方々やブルネン家にも周知されて、ロミィさんも今みたいに受け入れてもらえたわけですよ」

 

「それがアルを好きになった理由?」

 

「ぶっ!? ゴホッゴホッ!!」

 

盛大にロミィが吹き出してしまった――だって隠してないよね?

ただアルを見る目線は……恋しているというより、慈愛? のソレだけど。

 

「めっちゃどストレートに聞くね!? ……まあゼロじゃないけど、その後関わるようになってから分かった人柄とかだよ。彼の場合、私を行商人の一人として見るんじゃなくて「ロミィ・フォーゲル」っていう一人の人間として真摯に接してくれるからね。困った事があったら一緒になって真剣に悩んでくれたりもしたし」

 

「ライザ達が懐いたのもそういった面があったのでしょうね。リハビリ中のアルフォンス君に会った事が切っ掛けだとライザからは聞いたけど――彼はライザの質問の嵐にも一つ一つ丁寧に答えて、レントの夢を笑わず、タオの本読みにも同じ目線で興味を向けて、ボオスをブルネン家の子ではなく「ボオス・ブルネン」という一人の少年として見ていたから」

 

子供というのは子供扱いを嫌う。逆に言えばキチンと個人を尊重する大人には懐く。

ライザ達はそれだったわけだね。ロミィに関しては……あの天然め。

 

「それで……ロミィはアルフォンス君に嫁ごうと思わないのかい? 誰かに取られちまうよ」

 

「……いや、多分なんですけど彼は誰とも付き合わないと思うんです。キロちゃんも含めて」

 

「私、アルと付き合ってるわけじゃないけど……何故?」

 

そこは興味がある。私も感じている――アルの線引き。

ロミィは虚空を見上げて言葉を探しているみたい。今までとはまるで別人の雰囲気だ。

 

「なんて言えばいいのかな……彼って自分から自分の情報を発信する事ってほぼ無いのよ。生い立ちは彼自身忘れてしまっているから当然なんだけど。道具や名前とかはともかく――「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今は流石に知名度があるけどさ。将来「謎の異邦人がいた」って程度の存在になる事を望んでいる気がするの――あのクリント王国みたいな」

 

「漂着者である事の引け目を今でも感じているって事かい?」

 

「う~ん、近いのかも? そこはもやもやしているんですけど……見ていてとっても危うく感じる事があります。誰かの為に生き急いでいるような――終わったらフッと消えてしまいそうな」

 

 

 

……そうか。

 

人が生きていた痕跡――その最たるものは自分の子供、子孫だ。

だけど異世界人たるアルがこちらで子をなした場合、本来この世界には存在しえない要素が持ち込まれる事になる。

 

――自らの内にある真理の扉。即ち、あちらの錬金術を使う力、権利。

 

これが子孫に引き継がれた場合、いつかその力を使える存在が現れるかもしれない。

アルがそうであるように、あちらの錬金術はこちらの世界のパワーバランスを崩す事さえ可能。

――戦乱の引き金になりかねない。

 

アルも自分の事情は出来る限り持ち込む気がないと言っていた。つまり子をなす気がないんだ。

これは加護による欲求抑制やメイとは別の話だね。

 

私達動物が(つがい)となる基本的な目的は子孫を残す事。

これをするつもりがない以上、誰かと付き合う事は場合によっては不誠実になりえる。

 

どうしても一定の距離までは人が集まってしまうけど、その先には踏み込ませない。

自分の痕跡を、この世界に残さない為――ただ一人で消えるつもりなのか。

 

……そうだとしたら考え過ぎだね、あのおバカさん。巻き込まれただけでしょうに。

あ~あ、やる事が増えた。

 

それにしても……すごいねロミィ。アルの過去を知らないのにそこの理解が直感で出来ている。

商売人だから人を見る目があるっていうのを超えているね。私では届かない領域だ。

 

 

 

「だから私としては自分を嫁にっていう事は望んでいなくて……いい表現に出来ないんだけど(かせ)になれたらなって。彼がせめて普通の人でいる為の――ロミィさんはそれで十分。そういう意味でライザとキロちゃんには感謝してるよ? 貴女達が関わるようになってアル君がとても身近に感じられるようになったからね。勿論ロミィさんを望んでもらえたなら話は別だけどさ」

 

「なんとなく分かったよ。ありがとうロミィ」

 

「まさかこんな暴露話になるなんて……というか、キロちゃんって人妻なんだよね?」

 

ん? えっ? 何の話?

 

「今日はしてないけど、一昨日にはしてたじゃん。指輪」

 

あっ。あ~確かに。そうか、こっちではそんな意味合いがあるんだった。ロミィは見てたね。

今あの指輪は中枢にあるからどうにもならない。

 

「あら、そうだったの? 浮気とまでは言わないでしょうけど……男って私達が思っている以上に気にしているものだから気を付けた方がいいわよ」

 

「いや、勘違いさせて悪いんだけど私未婚だから。あれはたまたま着けていただけ」

 

「……って事は、まだキロちゃんは最大のライバル足りえる!? あの日あの後に「よっしゃ!」って思ってたのに! まぁだライザとのツートップかぁ……」

 

「話が戻ったね。ライザの場合は……一方的な憧れじゃないのかい? アルフォンス君の嫁になるには考えが幼過ぎてヤンチャが過ぎるよ」

 

「……最近のライザは落ち着き、というのかな? 錬金術に打ち込むようになったせいか、前ほど島を駆け回る事はしていませんよ。それでもアガーテちゃんから偶に愚痴は聞きますけどねー」

 

「私は……ライザは教師向きだと思うんです。誰とも分け隔てなく関わるし、子供のうちは色んな事に興味を持たせたいと私も思いますから」

 

「カールはともかくミオがなんて言うかねえ。シュタウト家は数代続く大農家だから兼業になるだろうさ」

 

ふむ、まあライザは昔からライザだったと。

 

「レントは……ザムエルさんの事は知ってる?」

 

「元傭兵、お酒好き、喧嘩っ早い。そのくらいは」

 

「それで合っているよ。そんな父親の下で育っちまったから色々白い目で見られちゃってねえ。よくあそこまで真っ当に育ったよ」

 

「レントは本当にいい兄貴分でしたね。ボオスと二人で学び舎の子供達の代表って感じだったわ。あとライザのストッパーとしてね」

 

「それでもやっぱり夢見る少年だよ。あの塔を目指すんだー! ってね。そう遠くない内に叶えそうな気がするね――リラさんにすっごい修行を付けて貰っているみたいだし。でも遠泳は……」

 

レントの父親に未だ遇った事が無いけど、中々にレントも大変な生活を送ってきたらしい。

ちなみに、その夢はもう叶っていたりするよ。

 

「最後はタオね。あの子はライザ達とは少し年が離れていたから弟分。だけど一番勉強はしっかりしてたから、タオがライザ達の宿題を見る事もあったわね」

 

「モンガルテン家はかなり古いと聞くねえ。あたしも何度かヤギの世話に関してお世話になった事があるよ。ここへのヤギミルクの納品は譲ってもらった形になっているんだろうさ。後は……遺跡?」

 

「そうですね、遺跡と古代文字? に興味が向いていて。だけど周りに同じ趣味の子がいないから孤立してしまって。それを見つけて振り回したのがライザなのよ」

 

タオの家は島が避難所になった当初からいるだろう家系。一番長いかもしれない。

タオは比較的ライザ寄りだろうけど、性格は大人しいから周りの目線に敏感そうだ。

 

 

ガランガラン

 

 

お菓子店としてオープンした記念に扉に付けたベルが鳴る。

おや、この人は。

 

「これは皆様。本日はお越し頂きありがとうございます」

 

「お、お父さん! 今日はお父さんもお客様なんだから」

 

クラウディアの父親のルベルト氏だ。

聞いた話、バレンツ商会はルベルト氏が一代で建てたらしい。相当なやり手だね。

 

「娘がお世話になっている方々だ。ご挨拶差し上げて当然だろう?」

 

「こちらこそ、お世話になっておりますバレンツさん。まさかウチのヤギミルクがこんなに美味しいお菓子になるなんて」

 

「そうですよ~ここの味はなかなか王都でも食べられないんですから。この味を食べられるならどれだけでも材料仕入れてきますよ? あ~クラウディアちゃんがここに本気で店構えるならいくらでも王都で宣伝してくるのに」

 

「頂いたクッキーやマドレーヌなんて子供達で取り合いになりそうで。あの子達に新しい味を教えて上げられて感謝しています」

 

「充実した味見役だったよ。よかったらここどう?」

 

「それではお言葉に甘えて。なかなかレディの輪の中に入るのは緊張しますな」

 

「もう……ご注文は?」

 

はっはっは、と笑うルベルト氏――この程度で緊張する器じゃないよね。

コーヒーとショートケーキを頼んで一息つく。

 

「ボオスから少しだけ聞いたけど、商談はほぼ纏まりそうなの?」

 

「耳が早いですな。ええ、元々目的としていたクーケンフルーツは既に締結寸前、後は他の商品を何処まで取り扱うかと販路維持、ブルネン家へのギャランティなどです。おそらくですが中央への申請までひと月とかからないでしょう」

 

つまりは、クラウディアが居る期間もそこまでという事。

その前には私もあちらに帰っているはず。

 

「て事は、この美味しいお菓子が食べられるのが最長でたったひと月弱? なんて勿体無い……」

 

「子供達向けに一つ二つ簡単なレシピを教えてもらえないかしら?」

 

「私からも娘に話しておきましょう。子供達には是非知ってもらいたい」

 

「あたしも出荷先を考えてみるかねえ。使い道があるんなら増えるに越した事はないし」

 

「クラウディアが残る事は出来ないの?」

 

特に制約がないならそれでもいい気がするけど。

う~むと唸るルベルト氏。

 

「今の段階では……難しいと言わざるを得ませんな。私もなかなか子煩悩と言われるものでして、離れた所に置いていくのが不安というのが一番ではありますが。まだ自分の力だけで商いは出来ませんよ。こうしてここで店を開く事が出来たのはエルリック君の多大な尽力とご厚意があります。無論、親として可能な事は助力するつもりでいますが最低限の力量を付けてからになるでしょう」

 

「ん~まだ17ですもんねえ。もうちょっと勉強してからの方が現実的かあ」

 

「ロミィはいつから行商人だったのかしら?」

 

「私は……16くらい? 商売の勉強は独学でしたけど、案の定井の中の蛙になりましたし」

 

「あたしは酪農以外考えていなかったからねえ。ライザと同い年なんだろう? あの子に比べりゃ落ち着きがあるんじゃないかい?」

 

「ライザが基準なのはどうなのかな?」

 

「いや、ライザ君のように色々な事に貪欲に取り組めるというのは稀有な才能ですよ。一方でクラウは商売に興味を持っていませんでしたし、無気力というか……一種の諦観を感じさせる子でした。あの子は妻に懐いておりますので引き剥がされている現状を憂いているのもあるかと。今こうしてクラウの店で皆さんとお話し出来ているのが信じられないですよ」

 

メンバーの中では比較的常に明るくリアクションもするあの子からは少し想像しにくいね。

多感な時期なのもあるだろうけど、同世代がいなかった事が大きいのではないだろうか。

ライザ至上主義的なのがちょっと気になるけど……。

 

「そっかー残念……そういえばキロちゃんはここに来る前ってどうしてたの?」

 

「ボオスを助けてくれたんだってねえ」

 

「今は定住はしていないよ、ずっと一人旅。故郷で風土病みたいな物が流行ってるって話はしたかな? それを治す手段を探して世界を回ってる。ここに居るのは主にリラとの情報共有だね。だから長くは留まらない予定だよ。ボオスの件は本当に偶然だったから」

 

とりあえず誤魔化しはこんなものか。お、ケーキとコーヒーが来た。

 

「ありがとう……そうだったのですか。まだお若いのに世界を見て回られているとは」

 

「シンシアさんも外を歩いてみたらいいんじゃない? 島に居るってのもいいけど、色々見てみると楽しいよ?」

 

「私は子供達と過ごすのが楽しいから。それにエルマーを置いて遠くに行くというのは考えられないわね」

 

「まだエルマーは小さいからねえ。なに、後2年もすればしっかりした子になるさ」

 

「男の子というのは成長が早い。あっという間ですよ……随分と、上手くなったものだ」

 

実はおばあちゃんでごめんなさい……一体私は貴方達の何世代前から生きているんだろうね?

ルベルト氏の感想を聞く限りクラウディアは元々お菓子を専門には作っていなかったんだね。ここへ来て一ヶ月くらいと聞いたけど、よくまあここまで。

 

子がいるとそういう制約が出てくる。

私も種の存続の為にいつかは子をなす事を考えた事もあるけど、今というのはない。

オーリムで生き残りに遇う可能性も低いだろうし、こっちに残るリラに期待するとしよう。

――いや、ホントに期待していいのかな? 夫になる人間の姿が想像できない……。

 

 

 

「皆さんお揃いで。ご堪能頂いていますか?」

 

ここの家主がやってきた――ある意味オーナーだものね。

一旦の作図は終わったんだろうか? まあ全部終わってなくても今日中にライザが一つ作れるかも分からないし。

 

「アル君お邪魔してるよー! ねーねーアル君もロミィさんと一緒に王都まで行ってみない?」

 

「一体どういうお話をされていたんですか?」

 

「私が島の教師だけでなく、外も見てみたらどうだろうという話をロミィから頂いたの。だけど私には子供達がいるから」

 

「まあ急いでやる事もないだろうさ。シンシアもあたしくらいになったら時間が作れるだろうよ」

 

「私としてもエルリック君には是非我が商会に足を運んでもらいたい。君なら自分の商会の一つも王都に出せるだろうし――その為の投資は惜しまないよ?」

 

「ぶーぶー、ダメですよルベルトさん。アル君はロミィさんが貰ってくんですから!」

 

「あはは、僕には過分な評価ですよ。ロミィさんほどアクティブにもなれませんし……あ、クラウディア、お願いしていた物をいいかな?」

 

「はい! すぐ持ってきますね!」

 

あれだけ人を口説いておいて何を言ってるのかな、この男?

そしてロミィの切り替わりがすごい――これだけ演じていたのか。

これは私がどうこう口を挟む余地はないね、余計なお節介もいい所だ。どの辺までにしようかな。

 

「作業は終わったの?」

 

「うん。取り敢えず3枚と……レントに道具の使い方を教えていたら時間が経っていてね。ライザの事だから今日中には一つ作れるんじゃないかな?」

 

「う~ん? 中にライザとレント居るの? 後で顔出していい?」

 

「大丈夫だと思いますよ。僕はこれから出ますので」

 

「お待たせしました! こっちがお二人の分で、こっちがアンペルさん達、こっちがリラさん達の分です。ライザ達のお昼も任せてください!」

 

「ありがとうクラウディア。たくさん準備してくれて助かるよ」

 

「これは……えっ? 何人分なのかな?」

 

2+3+2=7人分だよ?

オーレン族は10倍にしてもらっているけどね。

 

「私もそろそろお暇致します。皆さんはこれからもここをご贔屓にしていただければ。エルリック君はまた後日時間を取れるかね? 是非ビジネスの話をさせてもらいたい。クラウ、美味しかったよ――また御馳走しておくれ。しっかりやりなさい」

 

「もう……わかってるよ」

 

「承知致しました。また後日よろしくお願い致します」

 

むう、ライザとは違うけど――これが反抗期ってやつかな?

 

「さて、僕達も行こうか」

 

「ん。一つ持つよ」

 

「ありがとう。お願いするね」

 

「んん~? 二人でデートだったりする?」

 

「まあそんなところです。それでは失礼しますね」

 

「またねロミィ。二人も」

 

島の命運を決めるかもしれないデートだとは思わないよね。




アルに対する感情は皆それぞれです。

当初全く予定していなかった形になった一話だったりします。
サブキャラによる舞台裏を書くのも結構面白いですね。

次は……リアルでもネジ一本作るのは大変なんですし、頑張ってもらいます。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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