ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
2つの世界の錬金術の違いはコレなんじゃないかと思います。
アニメは違うようですが……。
複雑な絡繰りと聞くと、作者は万年時計をイメージします。
誤字報告ありがとうございます。思いもしなかった部分が……。
今回もよろしくお願いします。
アルさんの指導を受け、あたしたちが木製歯車の作製を始めてから数時間。
人って集中するとお腹空いてんのも忘れるんだね。教えてもらうまで気づかなかった。
だけど、その甲斐あってか。
「……うっし、良さそうだぜ。ライザも確認してみてくれ」
「ホント? なら一歩前進だね!」
本当ならこれを一発で調合しなきゃいけないんだけど……今のあたしにゃ無理だ。
だから、まずはその第一歩。
古代の錬金術、そしてアルさんの錬成の高度さがよく分かる――おかしいと思う。
この辺の道具もアルさんが作った物ではあるらしいけど、やっぱりアメストリスじゃ普通に手に入る代物らしい。クーケン島の世間知らずはどんなもんなんだろうね。
「ん〜んっ、よしっ! これで原型の完成だね!」
「これをあの硬え金属で作らないといけねえのか。絡繰りってのはすげえもんなんだな」
「絡繰りにも色々あって……二人が作った歯車でも十分に複雑だと思うよ? 時計はすごい歯車の数だったけど形はシンプルだったし……やっぱり古式秘具だからじゃないかな? ひと段落ついたならお茶入れるよ!」
「ありがとクラウディア! よろしく!」
「あんがとな。しっかしまあ、残りの2つを見るとゾッとするな。こっちが最難関とは聞いたが……」
目標の5つの内、アルさんが一旦描いてくれた3つの部品の三面図。
1つ目は今回の歯車。既に散々苦労しているけど、他のに比べりゃ本当に単純なのだ。
2つ目は棒に何やらごちゃごちゃした物が付いた部品。クランクシャフトというらしい。
これは比較的単純な形の部品を組み合わせる感じだね。とはいってもそれぞれが歯車級だけど。
そして問題の3つ目。ダクトファン。
見た目は筒の中に風車みたいなのがたくさん束になってるような代物。
これが水を吸い上げて外に吐き出す事で島の位置を維持してるらしい。
大問題なのは「組む」んじゃなくて、一個まるまるを一発で作らなきゃいけない事。
風車だけでも10個。しかもそれぞれ形や厚みやらが若干違うオマケつき。
手を付けてすらいないのに、気にしないといけない部分が多すぎて既に頭がパンク状態だ。
アルさんがやったら全部合わせても10分とかからない。
現に今回の5個以外の改良分はアルさんが錬成する事になってる――情けないけどあたしじゃ力不足だ。女王に備えてそっちの訓練もしなきゃなのにわがままを言ってるんだから、今以上の無駄な時間は掛けられないよね。
ウィンリィさんならこういうの聞いただけで分かっちゃうんだろうなあ。
エルリック兄弟の傍に居るってそういう事なんだよね。
「それで……どうだ? 出来そうか?」
「そうだね、ずっと分かりやすい。一息入れたら早速調合してみようか」
あたしたちの錬金術は「こんな効果の物を作りたい」ってイメージを元にしてるリンケージ調合。
つまり役割さえ果たしてりゃ見た目はなんでもいいわけで、結果としてシンプルな形からよく分からない見た目の物まで色々ある……ローゼフラムとか何故に花の形? いつかの紅蓮ってやつ?
けど、今回の場合は逆。見た目がキチンとなってないと役割を果たせないのだ。
今までガワを気にした事が無かったあたしにとっては未知の世界。
でもこれが出来れば、みんなの武器もあたしだけで作れるようになるんじゃないかな?
「よっしゃ! 気合入れていきますか!」
「頑張ってライザ! きっと出来るよ!」
「前より近い形にしてくれりゃあ俺も頑張って削るからよ。道具の使い方も一通り習ったしな」
「あてにしてるわよ」
出してもらった紅茶とケーキを味わいつつグイッとお腹に押し込んで――さあ、調合開始だ!
錆取り材の時みたいに性質を溶かしだすとか、そんな面倒な事は考えなくていいから最初に釜に放り込むのはスタルチウムで確定。
ただ……あたしの場合、ここから必要な特性に結びつけるためのレシピが思い付かない。
だから最初はとりあえず金属っぽい要素って事でロテスヴァッサ鉱水を混ぜてやったわけだけど、結果は今朝の通り散々なものだ。
今回は当てずっぽうじゃダメだね。今まで作ったもので何かいい例は……。
「一番絡繰りっぽいのは……フルート?」
「フルートがどうかしたの?」
「ん~、クラウディア。ちょっとフルート見せてもらってもいい?」
「待っててね」
フルートも常にここに置かれるようになった。今のフルートは完全に魔法の武器だしね。
イノセントスノウを普通の一般住宅に置いておくのはなかなかに危ないのである。
シーカーは、まあ……うん。
「はいどうぞ」
「うん、ありがとう。ちょっとキーとか動かしてみてくれる?」
「こうやってみると、結構部品が色々付いてんだな。頭がこんがらがりそうだぜ」
クラウディアが構えだけ取って、フルートのキーをカチカチと動かしてくれる。
理由があたしには分かんないけど、フルートの仕組みってのは簡単なようでかなり複雑だ。
奇跡的にあたしは
けど、フルートの音を出すためにはこの形じゃなきゃいけない――つまり今回の歯車と一緒。
クラウディアのフルートを作り直した時、形状はアルさんの錬成で整えてもらったけど、材料を作ったのはあたし。あの時フルートを作んなきゃって、無意識にその形にしようとはしてたはず。
確かその時にスタルチウムもどきに使ったのは、若木の枝葉にパールクリスタルと……。
「あ~あれか! レント、コンテナの中から緑色の水が入ったビン取ってくれる?」
「峡谷で汲んだあの水か? ちょっと待ってろ」
翡翠の
あの時はとっさの思い付きでアルさんから貰った神秘の水だったけど、意外とコレいけるんじゃないかな? 持ってきてもらったのはAランク相当。品質も申し分ないね。
「ここに煌水をひとビン加えまして~」
「釜ん中に緑色の水を入れてんのは……錬金術士っつーより
「たしか……似たような物が観賞用に販売されていたのを何処かで見た事があったような?」
「こんなもん飾んのか?」
「絵とかと一緒だね。見た目は綺麗な色付きのお水だし、物珍しさもあるから」
ジャバジャバと釜の中に注ぎこんで、グルグルとかき混ぜる。
……うん、やっぱりイメージがはっきりする。万能! 相性が良かったりするのかな?
あとはレントに整えてもらった木製の歯車を見つつ、コレが嚙み合って動くイメージをしっかり持って……おっ。
「いけたかな……おおっ! 今朝よりずっと、結構いい感じじゃない?」
「貸してみてくれ。見た目は……ほぼ出来上がってんな」
キチンと測らないと分かんないけど、見た目と大きさはほぼ問題ない物が出来た。
この水が万能なのかエリキシルってカテゴリが万能なのか――何にせよ方針は掴んだっぽい!
「角度はよし……へえ、サイズも大体よさそうだな。これなら1時間もありゃ仕上げられそうだ」
「マジ!? やった、一気に前進だね!」
「すごいよライザ! 半日でここまで出来ちゃうだなんて」
ん? 半日?
窓を見ると……わぁお、もう夕方じゃん!?
お昼前に一回ロミィさんが来て、お昼食べて、木製のを作って、そこからだから……4時間くらい?
混ざるまでの時間がネックだなあ。
「どうしても調合に時間かかっちゃうわね」
「よくライザの体力が続くと思うよ。緑のお水を取ってもらってからずっと混ぜてたんだよ?」
「その腕じゃパンパンになりそうだよな。でもクラウディアも一日立ち仕事じゃなかったのか?」
「私の場合はお菓子を作りながらで動いているから大丈夫だよ。レント君も待っている間逆立ち指立て伏せしていたよね?」
あんた何やってんの?
「正直さっきのトレーニングより今朝の金属削りの方がきつかったけどな。だけど……こういうトレーニングしててもキロさんの氷の刃みたいな切れ味を出せるイメージが湧かねえんだよ」
「あーセプトリエン採りに行った時の? アレは一緒にしちゃいけない気がするわよ?」
「剣にもいろいろあるんだよ? アガーテさんたちの剣に比べてレント君のは丈夫さ重視だと思うし、他にも長くて細くて曲がっている剣とか。持ち歩きが大変そうだけど」
キロさんのあれは切ったというより分断、レントのは切り潰す感じだと思う。
そもそもあのデカい大剣――
「……やっぱり、ここに居るだけじゃダメっぽいな?」
「あん? 何の話?」
「俺の今後の話だ。今日ロミィさんも言ってたろ? いろいろな場所に行くといろいろ学べるって。さっきのクラウディアの話もそうだし、やっぱ島にいるだけじゃ限界があると思うんだよ。なんか……ボオスのやつが言ってたのをパクってるみたいで嫌なんだけどな。世の中見回ってみたら、リラさんやアルさん並みに強え人がゴロゴロいるんじゃねえかってさ」
「武者修行って事かな?」
「まあ……レントがザムエルさんと一緒に暮らし続けるとは思えないわね」
「違えねえな。今日中にも出て行っちまいてえよ」
へっと笑いつつも、作業を進めるレントがそんな事を口にした。
まあそんな気はしてたけど、いざ本人の口から出るとやっぱり思う所はあるわね。
今後、か。
そう言えば――約束の件、いつ決めよっかな。今はタオがいないし。
「ただい……おお~形になってる。ライザを侮ってた。レントが相当頑張ってる?」
「お帰りなさいキロさん。二人とも頑張ってるんですよ?」
「これは失敬。その通りだね」
「おかえりなさいキロさん! アルさんは?」
「今買い物を仕舞ってるよ。晩御飯も作らなきゃだし」
……あれ? あたしここに来て、ここのための買い出しって何回行ったっけ?
「お疲れっすキロさん。タオたちは上手くやれてた感じっすか?」
「この島の中枢への理解だけならタオはアンペルを超えているんじゃないかな。色々理屈で考えちゃうアンペルと比べて、直感で理解できるタオのアレは一種の才能だと思うよ」
「やっぱり「操術・絡繰り」を使えるからかな?」
「クラウディア……よくタオの技いちいち覚えてんな? まず関係ねえと思うぞ?」
へええ、意外な事にタオも直感理解組だったらしい。理屈肌と思ってた。
やっぱり島の中枢を管理する一族の子孫って事があんのかな?
そしてクラウディアは余程タオをからかいたいらしい。その内モーションをマネしそう。
「あの二人はボオスの家でお風呂だけ借りてぶっ通しで調査するみたいだよ。島がどうこうというより好きでやってるみたいだし、放っておいていいんじゃないかな」
「じゃあ晩ご飯だけ差し入れに行ってあげないとですね」
「私のお昼を二人の晩御飯用に分けてきたから大丈夫。明朝見に行く際に朝食を持っていくよ」
「……キロさんが、ご自分のご飯を?」
「クラウディアも十分失礼だと思うのは私だけかな?」
ぶっ通しの作業はあたしでもやった事ないんだけど、体力不足だろうタオは大丈夫なんだろうか。
でもってクラウディア、そういうのは心の中に留めておかないと。
「みんな、お疲れ様。レント、どんなものかな?」
「いい感じだと思ってますよ。見てもらっていいですか?」
「預かるよ……大したものだね、この短時間でここまでの物を作れるようになるなんて」
ついにプロからもお墨付きが出た!
「
「ライザ……心の声が漏れてるよ。女の子がしちゃいけない笑い方だよ?」
「今更だぜクラウディア。こいつの中身はガキ大将だぜ?」
「せっかくシンシアがフォローしてくれてたのに台無しだよ」
「もうここまで出来てるんだったら……せっかくだしバフもやっちゃおうかな」
「バフ? 歯車に強化魔法をかけるんですか?」
「違うよライザ。専用の道具で表面をピカピカに磨くんだけど……普通歯車にやる?」
「鏡面加工の歯車ってロマンがないかい? どうせ僕のも錬成痕を消さないとだし」
「理解に苦しむかな……」
明朝、鏡のように光を反射して輝く歯車が作業台に鎮座していたのは話すまでもないね。
作中時間でひと月前にフルート作成を経験した成果がここに出ました。
今回の経験も後に活きてきます。試すって大事ですね。
ダクトファンは、リアルには存在しませんが水中ジェットエンジンをご想像ください。
次は本編キャラによる現状考察回、状況の整理になります。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。