ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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前話からあっさり1日が経過して一旦のまとめ。
そして営業を開始したお菓子屋さんの一幕です。

誤字報告ありがとうございます。多分この章は全体的に……。
見直せる分は見直していきます。

今回もよろしくお願いします。


75. 79日目①  お菓子屋さんの平和な半日

絶対に箸の練習してやる……。

 

まさか野生じみて来てるレントに食事マナーで負けるとは思わなかった。

あたしもクラウディアみたいにフォーク使えばマシだったんだろうけど――なんか悔しいじゃん?

それに棒2本であれだけ器用に食べられるなら、他の物を食べる時にも便利そうだ。

 

さてと。

 

「残り、2! 今日中に行けるかな?」

 

「最難関は削りゃあどうにかなりそうな気もするが……完全な球が10個とか多分俺じゃ無理だ。そっちはライザに一発で決めてもらわねえと」

 

「球体は超高精度だけど、イメージはしやすいだろうからライザの腕の見せ所だね」

 

「微調整はこっちでもやるから、まずはチャレンジしてみてよ」

 

「大丈夫ですよ! ここまで作れたライザなんですから!」

 

「レントは弱音を吐くな。柔の力の使い方のいい例だ」

 

「お前さん、取り敢えずレントに投げればいいと思っていないかね?」

 

「でも、実際にこの3つはライザとレントだけで作ったんですよね? すごいなあ」

 

「俺にとっては、あの妙な絵を一日中触っていられるタオも大概だと思うが」

 

みんなの方針が決まって、各々活動を始めてから3日目。

今日は全体の進捗状況の共有をするためにみんな工房に集合だ。

 

……ランバー? 今頃死んだみたいに爆睡してるんじゃない?

 

あたしたちの方は歯車、クラッチとかいう円盤、クランクシャフトの3つを完成。レントお疲れ!

残りはベアリングっていう球の集まりと、最難関のダクトファンとかいう水の中用の風車だ。

 

「それで……アルの方はどうにかなりそうなのか?」

 

「ええ。取り敢えず島の構造体の主要部の設計図は作製し終わって改良箇所も選定済み。いくつかは錬成してあります。ライザ達の部品を組付ける際に一緒に交換可能かと。タオ、その時は制御をお願いするかもしれないからよろしくね」

 

「任せてください! 大体の出力調整の方法は分かりましたから」

 

「本当に私はお役御免だな。では皆の装備の調合でもするとしようか。しかしまあ……古式秘具の改造というのは何なのだろうな?」

 

アルさんとタオのチームは順調に進んでるらしい――中枢の設計図が出来たって?

昨日のお昼に見た紙の束がそうなんでしょうけど、アレを大半調べたってなんなんだろう……。

 

「ボオスの方はどうなの?」

 

「……すぐに島民が島の外で生活を送るのは不可能だと思っている。周辺に生活基盤が無さすぎるからな。完全でなくともいいから延命させてその間に周辺の町に根回しを行い、その後に分かれて生活を送るしかないだろう。現実的とは言えんが……島の生活を続けようとするならばクーケン島が浮島である事を利用して、対岸まで移動させるくらいしか思いつかん」

 

「移動って……ボオス君はどんな方法を考えているの?」

 

「一つは島の水流制御で対岸側へ流す事、島の命が尽きる前に燃やし尽くす形で博打もいいところだな。もう一つは……人力なり何らかの方法で引っ張り上げる事になるだろう。さっきも言った通り、現実的とは思えん」

 

たしかに現実的じゃないわね。島民全員で引っ張って動くもんとも思えないし。

 

「排水量は……100億トンくらいじゃ足りないかなあ? 一度計算してみようかな」

 

「超大型エンジンでも造るの? それとも油圧ウィンチ的な?」

 

「いや、古式秘具を動かすのに古式秘具を超えそうな代物を造るのはちょっと……」

 

「本末転倒もいいところだからね、いくらアルでもすぐに錬成出来そうにないし。ん~タングの2頭に引っ張ってもらえればワンチャンあるかな? 牽引用の綱の強度が問題だね」

 

「キロも待ってくれ。これは現実的な案じゃないと前置きをしたはずなんだが?」

 

一方でこの二人には現実的な範疇らしい――あれ、感覚おかしいのはあたしだった?

 

アルさんのは、あっちの世界の技術を持ち込む感じだよね。出来そうなのがすごい。

キロさんのは……アレか、以前聞いた雷の戦車を引くヤギ。戦車って大きめの大八車なんだっけ? それでなんとかなるの? そもそもヤギの力で島を引けそうってなんなのやら。

雷の大八車の時点で意味不明だけど――フェンリル(世界を食べた狼)の時点でいまさらだよね!

 

「一番ムズそうな案件があっさり解決しそうなのがすげえぜ」

 

「この二人は規格外だからね」

 

「私からしたらレント君もタオ君も十分規格外だと思うんだよ? こちらはあまりお話しする事もないですけど、お店は順調です! みなさん優しくて」

 

「父さんが箱買いをしていたな、感謝する。考え事には甘味が効く」

 

「ほう、ボオス少年も甘味の良さがよく分かってきたじゃあないか」

 

「お前の場合は甘味に対する味覚が規格外なんだ。クラウディアの作る菓子が最上物だと舌に覚えさせておけ。ランバー少年は……自身の壁を超える為に奮闘中だ。回復次第再開する」

 

聞いた話、リラさんと綱で繋がれて島中を引き回されるように走り回ってるらしい。

リラさんはジョギング気分なんでしょうけど、レントを除くあたしたちには全力疾走ものだろうし、ランバーは文字通り限界を超えそうね――色んな意味で。

 

「じゃあみんな順調……というかあたしが一番遅れちゃってる? 頑張らないと!」

 

「俺はペラを削ってみっから、ライザは球作んのに集中だな。何とかしてみるからよ」

 

「今日は僕もこっちにいるから必要だったら声掛けしておくれよ。出来る事なら手伝うからさ」

 

「私は……少しはクラウディアを手伝おうか。作ってもらってばっかりだし」

 

「ありがとうございます! フロアと厨房、どちらをしていただけますか?」

 

「厨房はクラウディア一人の方が慣れているでしょ? フロアをやるよ」

 

ついにオーレン族の店員が正式に誕生した――この世界でここだけだったりしない?

 

「僕は島の機能に関する事項を清書してみます。ライザ、ゼッテル(錬金紙)を貰うね?」

 

「易々と読まれるのは問題だが、タオの家に保管して封をするならまだ安全か。私は拠点で皆の装備……装飾品と、レントとタオの武器ならいけるか? 二人とも預かって構わないかね?」

 

「大丈夫っすけど……俺の剣、アンペルさんで運べますかね?」

 

「僕のもハンマーですけど」

 

「一応私はアンペルの護衛だから一度あっちへ運ぶのも兼ねて移動する。戻り次第今日は……ランバー少年は息抜きにするか。座禅だな」

 

「うへぇ、アレっすか……」

 

「そんなにキツいの?」

 

「足組んだまま動いちゃダメなんだ。ジッとしてる事が修行ってやつだ」

 

うわあ……あたしにもキツそうだ。ジッとしてろってのはかなり堪えるわね。

 

「さて、俺はどうしたものか……まさか現実的な案だったとは思っていなかったんだが」

 

「あんた相当毒されてるわよ? あたしらの基準で考えなさいな」

 

「でもよ、仮に島を引っ張るっつったって……島のやつ全員合わせてもリラさんに勝てんのか?」

 

「そう言われると……」

 

ヤバイ。絶対に島民が勝つって言いきれるイメージがない。

綱引きしたとして――無強化でわりといい勝負。強化状態なら圧勝されそうな気さえするわね。

 

「つくづくキロ達といいエルリックさんといい、世の中分からないものだ。探せばああいった強大な力を持った人間もそれなりの数がいるのだろう。世界とはそういう一部の存在によって回っているのかもな」

 

「考えすぎ……とも思えないのよね。錬金術の分野だけでも片手間に賢者の石をホイホイ作れそうな人が居そうな気がしてきたわ」

 

「冒険者や戦士にしてもそうなんだろうな。クソ親父のホラだと思ってたが……ハンターって呼ばれる戦士の中には国一つ滅ぼした御伽のドラゴンをたった1人で狩るようなのも居るらしいぜ?」

 

それってもう人間じゃないんじゃない?

……いや、あたしたちも実はそれに近い事をしようとしてるんだよね?

 

「話が脱線したな。取り敢えず、そういった超常の力を使わずに生活を維持する事を考える。最悪一時とはいえ、島民全てを流星の古城で生活させる事も視野に入れる必要が出てきそうだがな」

 

「フィルフサさえいなくなれば入り江の方が生活しやすそうかな?」

 

「ま、なんにせよいい案を期待するぜ。ブルネン家の跡取りさんよ」

 

フン、と息をついてボオスは工房を出ていった。

既にあたしらの考え方は世間の常識から外れてきてる気がするから、ボオスに考えてもらうのが一番現実的なのよね。

その手段を取らないようにするのが一番いいんだけど……万が一の保険は欲しい。

 

「さ、あたしたちも作業に取り掛かりましょうか!」

 

「まずはペラだな。その大枠をライザが作って俺が弄ってる間にライザは球作りでいいだろ?」

 

「そうね。この球も相当な難易度なんだけど……最難関は伊達じゃないわね」

 

形、厚み、立体感。簡単なイメージはともかく、詳細を頭に浮かべるのは無理。

だからレントに頑張ってもらう事になりそうだ。

 

さ、気合入れていこー!

 

 

 

 

 

 

ガランガラン

 

 

「いらっしゃ~い」

 

「オーレンのおねーちゃん、こんにちは~!」

 

「うん、こんにちは。今日はお勉強は?」

 

「あるよ! 今はきゅーけーでおつかい! あとでせんせーも来るよ!」

 

記念すべき最初の応対客はシンシアの学び舎の少女だ。

将来この子達の舌は肥えそうな気がするね――ある意味幸せで不幸だ。

 

「なんだかおねーちゃん、いつもと感じちがうね? 今のもにあってるよ!」

 

「そう? ありがとう。髪を上げているからかな?」

 

フロア対応の顔が見えづらいのはダメとの事で、クラウディアのピンで前髪を上げさせられた。

ついでポニーテールにしている。耳を巻き込まないようにするのが少し面倒。

 

まあクラウディアが言う事は分かる。

確かに普段より視界が広くていいし首筋も涼しい。夏場はこれで過ごすのもアリかもしれない。

 

「それで……みんなが学び舎で食べるものでいいかな?」

 

「うん! 小さいのをたくさんかうんだって言ってたよ」

 

「すみませんキロさん。この子、今日が待ち遠しかったみたいで」

 

「いらっしゃい、シンシア。こちらとしては嬉しい限りだよ」

 

シンシアも来た。それなりの数を購入するだけのお金を子供に持たせるのはよろしくないしね。

さて、この子達が食べるような物っていうと……。

 

「クッキーと……マドレーヌが人気だったっけ?」

 

「まどれーぬ!」

 

「そうですね。クリームが付いている物は服を汚してしまうので、食べやすいサイズの焼き菓子を、と思いまして。正にその2つです」

 

「了解……クラウディア~、プレーンのクッキーとマドレーヌを15個ずつ持ち帰り。シンシア達だよ」

 

「はーい! ちょっとお待ちくださいね!」

 

確かそのくらいの人数だったはず。一人1種類ずつは食べられるでしょ。

 

「今後はこちらでお勤めを?」

 

「臨時だよ。以前も言ったように長く留まるつもりはないし、金銭にも困ってないからね」

 

「え~ずっといればいいのに」

 

なにせあっちでは野生生活だし、こっちでは無銭飲食宿泊その他諸々だ。

ゼロで十分やっていける。

 

 

ガランガラン

 

 

お。

 

「いらっしゃい……おや、君は」

 

「こっ、こん、にちは……」

 

確か、シンシアの息子の。

 

「エルマー、でよかった? 買い出しの手伝いに来たのかな?」

 

「あらエルマー。あなた学び舎で待っているって言わなかったかしら?」

 

「今日のとーばんはわたしだよ? エルマー」

 

本来彼は今日来る予定では無かったらしい。待ちきれなかったという所だろうか。

 

それにしても……。

体温の上昇、発汗量の増加、呼吸数の増加、目線の散らばり、身体は震えて強張ってる。

顔もなんだか赤い。どうにも落ち着きを失っているようだね。大丈夫かな?

 

「風邪でも引いてる?」

 

軽く冷やした手を彼の額に当てる。体温は……37.4℃、子供ならまあ平熱の範囲かな。

問題は心拍数だね――170超えてない? しかも更に増加気味。全力で走ってきたのかな。

 

「だっ、だい、じょう、ぶ、ですっ!」

 

「ホントに? 無理しちゃダメだよ?」

 

視点が合わなくなってきてる気がしなくもないけど、まあ本人の意思を尊重しよう。

状態異常というわけじゃなさそうだし夏風邪でもないようだ。

 

「お待ちどお様です!! シンシアさん、また感想聞かせてください」

 

「ええ、必ず。私は個人的に他の物を食べさせてもらいに来ますね。こちら、お代金です」

 

「あ~! せんせーずる~い!!」

 

会計も終わったね。

クラウディアは比較的暗算が早いから手伝う必要が無い。流石商家の娘だ。

 

「あ、あのっ、キロおねーさん!」

 

「うん?」

 

彼に名前を呼ばれたのは初めてだね。なにかあるのかな?

 

「そのっ……かみがた! とってもにあってるよ!!」

 

ふむ……やっぱり放置よりは気を遣った方が受けはいいのかな。表情も見やすいし。

こっちに居る間くらいは気にかけてもいいかもしれない。でも耳を避けるのがなあ……。

随分気合を入れた風に褒めてくれたね。ならこっちも気合を入れてお礼をしようか。

 

「ありがとう。嬉しいよ」

 

頑張って笑顔を作ってみた。表情筋総動員――してみたんだけど。

目の前の少年は沸騰したかのように顔が真っ赤になって、比喩表現じゃなく湯気が出ている……。

 

……ホントに大丈夫かな? たんぱく質が変性しそうだ。なんかマズった?

 

そのエルマー少年は、シンシア達を待つ事なく――脱兎の如く店を後にした。

 

「……彼、大丈夫?」

 

「ええ、すぐ元に戻るわ。あの子だけでこちらにお邪魔する事もありそうですけど、その時は色んな意味で宜しくお願いしますね」

 

「ここはお店なんだからお客様は神様だよ。ね? クラウディア」

 

「そうなんですけど……キロさんはどこからそんな言葉を学ばれているんですか?」

 

「わたしもくるー!」

 

 

 

こうして人生初? のまともな接客を無事に終えた。

 

その後も以前から交流のあったロミィ、バジーリア、アガーテの他に。

島記者のピーター、雑貨屋のフレッサ、便利屋のロルフ、先日怪我を治したバーバラ、旅好きらしいダニエル、ボオスの父親のモリッツ氏、ルベルト氏、長老会代表? の古老さん、医者のエドワード氏、ヤギといった客の対応を行ったところでお昼休憩だ。思ってたより男性もいるね。

 

古老さんは排斥派の筆頭と聞いていたけど……全然そんな感じはしないね。私、孫のような扱い?

島にもエドワードという人物が。しかもアルと同じ漂着者で元錬金術士とはね、すごい一致だ。

そしてこちらではヤギを買い物に来させるのか……侮れない。

 

さて、臨時で付けた防音扉の向こうの作業はどうなっているかな?




排水量は適当です。計算しようとも思いませんが……。
人工建築物で最大なのが万里の長城の石材の合計約5000万トンで、氷河から分離した巨大な氷山が約100億トン(排水量にあらず)だそうです。
月の質量に掛け算をすればそれっぽくなるのかもしれませんね。

キロさんは罪なお人。

次で島の部品製作は完了です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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