ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
逆もしかりですね。
誤字報告ありがとうございます。やはりこの章は多いようで……。
今回もよろしくお願いします。
「時間がきっちいな。ペラ一枚の精度を取るのすらキツいのに円盤一つで10以上なんざ」
「今のあたしじゃ時間の都合上そのくらいが限界でさ……こっちの球体なんてどうやって真球なのを確認すればいいわけ?」
「台を用意するから転がしてみてよ。左右どちらにも傾かなければ真球だから」
それって台が完全に水平が取れてる事前提ですよね?
ちなみに見本として真球を一個作ってもらった――うん、単なる丸じゃん!
だからこそ無茶苦茶難しい!
「真円っていうのは数字で正確に表す事が出来ないものだからね。苦労してるね」
キロさんがフロアから戻ってきた――ポニテ超かわいい!
これは男どもの何人かは今後キロさん目的で来るわね。
キロさんが戻ってきたって事は……うわあ、もうお昼だ。
「不思議なものだよね。イメージはしやすいのに正確な表記は不可能なんだから」
「ヒトの定義で何もかも表すなんてできっこないって事だよ。神秘とはよくいうよね」
あいかわらず何言ってるのかはよく分かんないけど、難しいって事は分かった。
にしても実物を見ても分からないなら……何をヒントにすればいいのやら。
「なんつったか……えんしゅうりつ? でしたっけ?」
「へえ? 学び舎でそんな事習うんだね。そう、その円周率だよ」
えっ? あれっ? そんなの習ったっけ!?
「真円の長さは直径と円周率の積。だけど円周率はきちんと数字で表す事が出来ないんだよ」
「でもたしか……大体の数字はわかってんすよね?」
「そう。逆に言うと大体の値しか出せない。イメージは……三角形より四角形、五角形、六角形の方が円の形に近いよね? これを極端な話、無限角形にした時の辺の長さの合計から計算したのが円周率。レントはよく勉強しているね」
いけない――レントの方が話についていけてる!
学び舎の教科書まだあったっけ? いつか読み直そう。
「ライザにとって身近なのは……水球が真球に限りなく近い、のかな?」
「えっ? そうなんですか?」
キロさんから意外なヒントを貰えた。
確かに旅人の水球は球体だけど、真球に近いだなんて思ってもみなかったよ。
「難しい話は飛ばすけど、液体は真球の形が一番安定するんだよ。簡単に言えば表面張力、きちんと説明するなら分子間力と自由エネルギーの……」
ダメだ、キロさんも異世界言語が使える人だった!
これ以上はあたしの頭が爆発しそうだ。世の中難しい法則で動いてるんだね、神様ってすごいね。
「と、とりあえず旅人の水球をイメージすればいいんですね?」
「ライザ的なイメージだとそうじゃないかな。アルもなんかいい例えはない?」
「いやあ、僕は水球って重力に引かれて楕円気味になるって考えが入っちゃったから、そんなヒントは思いもしなかったよ。なら……月とか?」
「随分と一気にスケールが大きくなったね? 自然物ならいいってもんじゃないよ? 第一月も遠心力で楕円だし更にクレーターもあるじゃない? ライザが作れるもので考えるべきだと思わない? 研究者っていうのはホントに応用が利かないね? だからウィンリィにフラれたんじゃないの?」
ああっ、キロさんのマシンガントークで珍しくアルさんがヘコんでる……マシンガンてなんだ?
とにかくそのイメージでやってみよう。
マテリアル環もリンケージも何もないけど、スタルチウムで旅人の水球を作るイメージ。
とりあえず翡翠の煌水を入れて……後は今までの歯車とかの経験を元になんとかするっ!
「レントの方はファンの形を目指して調整するより、この台の形に押し付けて叩き合わせたらファンになります! って風にした方がいいんじゃないかな? 今のやり方じゃ職人芸だよ」
「
「そうそう。数が多いんだからいちいち精度取ってられないって。ほら、そこで崩れ落ちてる
「はいぃ……あぁ、一応いつかの雷球は真球に近いかもね……」
「お昼は作り置きの利く物の方がいいですか?」
「そうだね。ライザはしばらく帰ってこないだろうし、こっちのポンコツには今から作業させるから少し時間がかかるよ――
「もちろんですけど……アルさんをポンコツって言える人初めて見ましたよ」
「生きてる間に言える気しねえもんな。じゃ、休憩がてら手伝うぜ」
旅人の水球は水をゼッテルで包み込んでるような状態だ。
今回の場合、水はスタルチウムだけどゼッテルの代わりになる物は?
目の前のスタルチウムの真球の周りにあるものは……空気?
空気で物を包む……キロさんの風の力で吹き溜まりから飛ばしてもらったようなもんよね。
そういえばこの前水圧の話があったけど、普段のあたしたちも空気に圧されてるんだっけ?
ぐっちゃぐっちゃぐっちゃ
「釜のお湯に入っているのって、緑のお水とスタルチウムのインゴットだけなんだよね? なんであんな半固形物のような音がするのかな?」
「気にするだけ無駄だぜクラウディア。どこからともなくガラス容器が出てくるくらいだぜ?」
「錬金術でパイも作れるんだっけ。そう聞くと錬金術ってなんなんだろうね?」
「このロテスヴァッサ王国では秘匿気味の技術だが、他国ではアカデミーといって錬金術を学ぶ為の機関があるくらいだ。アル君の錬金術も我々の物とは完全に別物だし、一言で言い表せるものではないさ」
「……ああ、パイの錬金術はアーランドの娘だったか。中和剤一つでアトリエを吹き飛ばし、どんな素材であろうがパイに出来るという意味不明の能力らしいな。結果が何であれ、何かが作れれば錬金術なんだろう」
「僕らの世界の錬金術は――富の象徴である金を自力で作ろうとする事から始めて、いつしか永遠の命……不老不死を目指そうとする過程で出来た技術ですね。僕も分かっていない事の方が圧倒的に多いですよ」
「何故不老不死を目指すんだろうね? 果てに待っているのは永遠の虚無しかないのに」
「絶対に得られないと分かっているからこそ目指すのではないか? 俺達は精々百年の人生だからな。それだけでは満足できない連中が多いんだろう」
うん? なんか今までよりイメージ出来てそう。
形になってるかな?
「お!」
よさげ!
「良さそうなのは出来た? ライザ」
「うん。ちゃんと測ってみないとだけど……あれ、クラウディアのお店は?」
「もう夕方前だぜ? 店は閉めちまってるしこっちの作業も終わったぞ。疲れたぜ」
「え!?」
うっそ! 4時間くらい経ってる?
調合してるとこれが問題なのよね。
ぐぎゅうぅぅぅぅぅ……
ああ……盛大にお腹が鳴った……。他の音してないからアトリエ中に響いたわね……。
「よくお昼からこれだけの時間食べずに持ったよね。クラウディア、温め直してあげよう」
「はい! ガッツリめの物を置いておいてよかったですね」
「お世話かけます……」
レントもいつの間にかペラを作れたらしい――あたしの調合中になにがあった。
中身が肉物系らしいホットサンドを温めてもらってる間に出来た球体を確認しよう。
「ん~……」
釜の中の球の見た目は綺麗に真ん丸。良さげだとは思うけど――あとは最終チェックだ。
「アルさん。いい出来だと思うんですけど、どうですか?」
「……うん、良さそうだね。早速確認してみようか」
ハンカチを使って取り出した球体をアルさんが台にセットする。手脂が付いちゃダメらしい。
あたしも手伝いたいけどできる事は無さそうだし、キロさんに席に着くように指示されちゃったし、ここはアルさんにお任せしよう。
むしゃあ……おいひい!!
「……しょっと」
ゴロゴロゴロゴロ……
台にセットされた球が坂を滑り降りて、水平の道をまっすぐ進み、行き止まりのクッションへ。
大丈夫そう、かな?
「うん、大丈夫だね。ライザ、お疲れ様」
「あ~よかったあ。一個作るだけでこの苦労かあ」
「ライザでも作れるって事が分かったんだから、後は
「単なる球体を作るのがこれほど困難とはな。工業というものには無学だが凄まじいようだ」
「そんな自然にはあり得ない物を作ろうとするから増長して滅ぶ――自業自得というやつだ。ボオス少年の以前の考えの方が動物としての生き方には合っているのだろう」
「えっと……他のみんなの作業はもう終わっちゃったのかな?」
全メンバー(ランバー以外)がここに居るし。
今もキロさんは店員仕様のかっこのまま――うん、この方がいいね。
「レントとタオの武器の新調は終わったぞ」
「おう! この剣、
「僕もコレだね、聖鎚・
ちゃ、ちゃんちゅん? なんかタオのハンマーは大層な名前になったわね。
これでクラウディア以外の武器はクリミネア製になったわけだ。
フルートの調合はあたしがやろう――もちろんゴルドテリオンで。
「みんなお疲れ様。これで修理に必要な部品は揃ったよ。明日早速組み込むとしようか」
そんな事を言うアルさんの持つ箱の中には、あたしが数時間かけて作ったスタルチウムの真球が数十個……なんだかなあ。
「改良分はこれでお終い?」
「そうだね、突き詰めればキリがないけど大きく影響する所は作れたと思う。効率的には数割増しになったんじゃないかな。まあ、メイン部を触るだけの余力が島になさそうだけど」
「止めると地震が怖いか。まあエネルギーを補給してからだね」
ライザ達を帰した後、工房の中は様々な部品でごっちゃごちゃの状態だ。
一回で運び込める気がしないんだけど?
それにしても古式秘具の効率数割増しって……文明の違いってのは恐ろしいね。
「明日は組付けをやってみて試運転だね。これに関してはライザ達全員に協力してもらう必要はないかな」
「3日で作り終えるとは思わなかったよ。流石ライザだね。レントも根気強かったし」
まあ……ここに居る逸脱者の場合は全て合わせて半日もかからないんだろうけどね。
本当の目的はライザに錬成気味の調合の感覚を掴ませる事。それは十分達成できた。
この先、ライザでなければ出来ない事が恐らく出てくる。今回はその布石。
島の命と天秤にかけたわけだけど、こっちを取った――エネルギーは最悪私でいいわけだし。
「そろそろライザ達にもボトルの中で戦闘経験を積んでもらいたいところだし……アンペルに中枢操作を任せてタオは借りていく形でいい? クラウディアのお店はどうしようかな――午前営業だけとかにしてもらおうか。オープンしたばかりで申し訳ないけど」
「そうだね。流石にリラさんだけでみんなを見てもらうのは大変だから、キロさんもよろしくお願いするよ。こっちも明日の内にやり終えてみるさ」
この一言で明日の魔力の心配は無くなった。誓約とは便利で不便だ。
一方で……ライザ達に調合をお願いした最重要の五か所に加えて、勝手に動いている秘密の錬金術師の魔改造箇所は30を超える。1日で終わる物かな?
とはいえ、正直それほど時間が残されているわけでもない。
今日みたいに……本当なら店員とかをやっている時間を訓練に充てるべきなんだろうけど、彼ら彼女らにも事情がある。あの子達の日常を出来る限り崩さない――これが条件だ。
幸いスケジュールには収まるんだから可能な範囲でやろう。
あの子達はまだ子供――無理をするのは大人の役目。
それに、ライザ達にはああ言われたけれど……最悪のパターンは伝えていないのだから。
「そっちは任せるよ、加護経由の理解が要らないなら私も不要だろうし。武器火力のバランスを考えるならライザとクラウディアをペアに私が、タオとレントのペアをリラが見る感じかな」
ライザに渡したセレスティアシーカーの火力はクラウディアのフルートの10倍を超える。
これは単に素材の違いに加え、リラによる精霊のバフの影響も含む。
クラウディアは後衛を務める事が多いし、範囲攻撃も可能だからそれでも十分だけど発動の遅さが致命的だ。柔軟に物理も魔法も可能なライザと組ませる方がいいかな。
リラ組は……レントはともかくタオも割とタフだよね? 彼はあと数年で化ける気がする。
「そういえば、アルとエドさんってイズミさんの下でどんな修行をしていたの? あんまり記憶に無かったんだけど」
「…………」
島でサバイバルをしていたはずだけど……途端にアルが黙って震え出した。地雷を踏んだらしい。
「……亀の甲羅を背負って牛乳配達、素手で畑を耕す、サメのいる湖で遠泳、密林に放り込まれた石ころを探す、とかかな」
なんか想像していたのと違う――亀の甲羅? そもアメストリスに密林なんてあっただろうか。
イズミさんは錬金術の師匠のはずだけど、それじゃどう聞いても武道の師匠だよね?
まあ彼女もブリッグズの冬山に一人放り込まれて熊と素手で戦った上、少将の基地に侵入しては食べ物を拝借していたんだっけ。アレでただの主婦を名乗るのは無理がある。
「うん……まあ、それ以上は聞かないでおくよ」
「ありがとう」
これ以上は加護があっても支障をきたしそうだ。さてと。
「なんだかんだで今日も日付を跨いだね。緊急でやる事がない……なんて事はないんだけど、貴方も休んだら? 眠らなくてもそういう時間で思い付く事もあるよ」
「疲労はともかく、頭をスッキリさせといた方がいいのはあるかもね。ライザ達へのアドバイスが僕じゃ硬すぎるって事を身を以って知った所だし……」
「学者っていうのは得てしてそういう存在なのは分からなくもないけど、一般人にその価値観で話しても分かるわけないんだよ。世間の常識に落とし込まなきゃ」
「……君、ホントに数百年オーリムで一人戦い続けていたんだよね? 馴染み過ぎてない?」
ええっと……今日でこっちに来て13日? 日付を跨いだから2週間か。
あっちにいた時はフィルフサを殺す事以外に大して思考を割かなかったからかも。
まあ確かに、それを除いても向こうにいた時と比べて良く喋るようになったのは同意する。
感情の起伏が乏しい自覚はあったんだけど。
どうしてこうなった。
「色々新鮮なんじゃない? あちらがマトモだった頃よりも戦っていた期間の方が長いだろうし。さ、とっとと寝るよ」
「今日もここで寝るのかい?」
「今からクラウディアの所にお世話になるわけにはいかないでしょう? アルも不都合無いんだったらいいじゃない。今更外で寝ろと?」
「ああ、うん。それもそうか」
寝なくても平気だけど、休むに越した事はない。
それに。
――何故だか知らないけど、安心するんだ。
これで第八章の前半、島の修理編は終了です。
これでライザもリンケージ調合で明確な形を作るスキルが備わりました。
本作のアルは、ひょっとしたらかめ〇め波を放てるのかもしれません。
タオの武器の読みが正しいのかは分かりません! 取り敢えず中国読みしたんですが……。
次は第八章後半、戦闘訓練編の開始です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。