ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
誤字報告ありがとうございます。見直しの気力が……。
今回もよろしくお願いします。
「ぜぇ、ぜぇ……きっつ!」
「物理弱点じゃねえとダメージ入れるだけでもしんどいな。雷のエレメント持ちな事を今日ほどよかったって思った事はないぜ」
「はぁ、はぁ、はぁ……ライザが雷のアイテムを持っていなかったらと思うとゾッとするね。かすり傷くらいは僕でも食らわせられているのかな」
「ふぅ……私も精度をもっと上げないと。笛の練習でどうにかなるならよかったのに……」
今回は事前にバフをガン積みして、タオにデバフを連発して貰って、あたしはプラジグ乱発、レントは雷の剣、クラウディアはバフの後回復に専念してもらった。
で、結果――勝ったけどズタボロだ。あたしはもう
レント曰くサソリ人間はハリネズミより軽い代わりに鋭いらしくって、衝撃は少ないけどガード出来なかった時のダメージはハリネズミより上との事。
痛いと思う前に切られてるんでしょうね。これはエグイわ。
「ん~。当たり前だけど流石に3、4日でどうにかなるレベルじゃなさそうだね。この子達にはここよりもオーリムの女王本体を担当してもらう方がいいかな」
「私達でも油断できないからな。だが、本体単独であればここで鍛えればいけそうか」
「そうだね、問題なのは本体の強さよりそこに行きつくまでの数だろうし。フォローの人員がいるこの子達なら大丈夫かな? 私と違って環境の影響もないしね」
とりあえずオーリム側の女王本体であればまだ相手に出来そうらしい。
良かったというべきなのかなあ。
「お前達の今日の戦闘訓練についてはここまでだ。各々課題が見えただろうから出来る範囲で詰めておけ。ライザは分かっているだろうが、クラウディアの笛を新調してやってくれ」
「わかりました、元々そのつもりだったので。帰ったら早速取り掛かるからね!」
「ごめんねライザ……ライザも疲れているのに」
今のクラウディアのフルートは……ヤンチャした際に壊してアルさんがお試しも兼ねて作った時の物。戦闘用にどうこうなんて一切考えてないもんね。
楽器には詳しくないから使用者のクラウディア本人に聞きつつ作るとしよう。
「さて……もう一個のメインイベントをこなそうか」
「もうすでにバクバクしてるよ……」
「俺もだぜ、タオ。これは武者震いなんかじゃねえ。得体の知れねえもんを目の前にする気分だ」
「もう想像の域を超えちゃってるよ。私には竜がいるって事だけでも驚きだったのに」
「それが普通だよクラウディア。あたしなんかもう……近づきたくない雰囲気がビンビンする」
「ここから私語は慎め。前はキロ、後ろは私が見る――いくぞ」
今までそれなりに戦ってきたけど、護衛される立場になるのは古城の竜戦以来かな。
だけどここまでの2戦だけでもヘトヘトなのを考えると、数体で襲われたらひとたまりもないし、何よりリラさんたちの邪魔になる。
出来るだけ気配を消すつもりで進もう。
聞いた話、ここって闇の大精霊さんが影の女王の記憶を元にして作ってて、影の女王自体はクリント王国の人の恐怖心の塊みたいなもんだから――要するに昔の聖域なんだよね。
一回行ったきりだから見回れてなかったけど、霊祈氏族は樹上生活だったのかな?
当時はどのくらいの人が住んでたんだろうね。
「ライザ」
「はい?」
キロさんから小声で話しかけられる。気が散ってた――何だろう?
「アレ」
キロさんが遠くを指差して……その方向に目線をやった。
なにを示したか確認する必要はなかった。
認識した瞬間――全身の毛穴が開く感覚がした。息が止まった気がした。
見たくないのに目が離せない。1秒でも早くここを離れたい。
濃密な……死の気配。
「……なに、あれ」
「マジかよ……」
「うっぷ……悪い夢じゃ、ないんだよね?」
「うそでしょ……」
文字通り――黒い身体に赤い線が血走っているかのような。
カマキリみたいな、バケモノがいた。
あんなのが、この世の中にいるの?
「アレが女王。実際にはその影なわけだけど……強さはこっちが格上だろうね」
「私達も事を構えていないから実際の火力やタフさは判断出来ない。が、ライザ達だけでは難しいとみている。その予想は間違っていないだろう」
相手になるとかそういうレベルじゃない気がする。そもそも同じ生物なの?
紙芝居の怪物って言われても信じられなさそう。
「正直ボオスが言ってた事はホラも混じってると思ってたんだけどよ、眉唾どころか上乗せできそうだぜ。アイツ、冷静だったんだな」
ボオスは坑道でアレを見た瞬間に、ランバーを逃がして自分も反対方向に逃げた上に見た目も覚えてたんだもんね。
何気にすごいわ。あたしなら直視どころか思い出したくもならなくなりそうだ。
「乾季が来るまで10日程度。アンペル達の作業が今日にも終わるとして……5日以内には討伐にかかりたいか。アレから戦士の証が手に入るかも分からんしな」
「遅くなると私がホントに人柱になっちゃうからね、皆よろしく。ここからじゃ証を持っているかどうかわからないね。あるとしたら胸殻の中かな」
軽っ。
あたしの前にいるこの人は、なんなら単騎でアレより強い可能性があるもんなあ。
ああ、あともう一人――下手すれば一撃で倒せそうな人もいた……。
でもアレに勝てる勝てないとは別の話で、中枢のエネルギーを補給できなかったら島は沈没。
ボオス案での生活かゴリ押しか。絶対阻止するけどキロさんの人柱の可能性がちらついてくる。
なんとかしてみなきゃね!
「さて、これで今日の主目標は達成だね。皆疲れているだろうし戻ろうか」
「そうだな。戻ってからもやる事は少なくない。帰りは私が先導しよう」
「やっとアレから離れられる……」
「同じ空間に居るってだけですごいプレッシャーだよね。戻ったら甘い物でも食べよう? きっと気が楽になるよ」
「なんでクラウディアはそんなに余裕そうなんだい……?」
「一番肝据わってんのがクラウディアだと思うぜ。受け入れが早いっつうかなんつうか」
怖いもの知らず、とでも言えばいいのかな。クラウディアの場合。
でもアレについては怖いとかそういう物じゃない気がする――理解の埒外というか。
とんでもない魔物がいたもんだ。
帰りはリラさん先導の下、戦闘を回避して出口へ進む。
正直クタクタだし集中もとうの昔に切れちゃってるしでありがたい。
「目指すものは見えた?」
後ろに居たキロさんから突然のご質問。
「目指すもの、ですか?」
「ライザはアルの力になりたくて錬金術を学び始めたんでしょ? 方向性は色々だけど……戦闘の方面だったとしたら、アレが一つの答えになるんじゃないかと思って」
あたしたちじゃ戦えないけど、アルさんやキロさん達なら戦える――その差。
それを埋めるための一手段として、錬金術を使うならって事かな。
「そう、ですね。答えって考え方はしてなかったですけど……分かりやすいかもしれないです」
「聞いておいてなんだけど、ライザの錬金術をわざわざ敵を殺す為の手段に特化させる必要はない。アルでもリラでもアンペルでも私でもない――ライザにしか出来ない事があるはずだから。頑張ってね」
「はいっ!」
なかなかに難題だけど、最初にアンペルさんに教わる時に決めたんだもんね。
どういう使い方が一番向いてるのか分かんないけど――だったら色々やるまで!
「……ああ、どうにも面倒な状態のようだな。なんだあれは」
前方から珍しくリラさんのダウナーな声が聞こえてきた。
……なんだアレ?
「……ゴーレム?」
「にしちゃデカすぎねえか? 軽く4倍はありそうだ」
「私も見た事が無いね。大精霊様が設置した何か?」
「番人みたいなものってことですか?」
身体は石っぽいけど見た目はもっと人型に近くて、フィルフサとはちょっと違うけど身体中に色線が走ってる。
ゴーレムは表情があるけど、コレからは表情が読み取れない。そもそも顔はどこよ?
そんなナニカが出口の魔力点周辺をうろついてる。
幸い行き来を塞いでるわけじゃなさそうかな?
でもでっかい石剣を持ってるし――知能のある生物なのか、それとも。
「……多分だけど、リーゼ峡谷で先生が言ってた巨人じゃないかな。聖塔がフィルフサに攻められた際に戦ってたっていう。ここがクリント王国の人の記憶を再現した世界なら居てもおかしくないんじゃない?」
あ~確かに。言われてみればそうかもしれない。
バカでかい剣やら弓矢やら使ってたみたいだもんね。
さすがはタオ、いい読みをしてるわ。
「つまりは守護兵、ガーディアンの一種という事か……キロ、ライザ達を見ていてやってくれ」
「ソロでやる?」
「ああ。私は此方に来てマトモに戦っていないし……同じ守護者として引くわけにはいかんのでな。ついでにレントとの約束を果たそう」
ああ、この人はバトルジャンキーだった……レントと約束なんてしてたっけ?
指をボキボキ鳴らして巨人に近付いてく。巨人もリラさんを敵とみなしたみたい。
「ねえレント、リラさんの本気って見た事あるの?」
「いんや。そもそもリラさんが知らない魔物ってのが島周辺には居ねえからな。見た事が無いやつ相手ってのも初めて見るぜ」
「リラさんだから大丈夫だとは思うけど……」
「私はむしろガーディアン側が心配だよ。気の毒に……」
「なかなかクラウディアは独特な視点だね? まあお手並み拝見といこう」
クラウディア、いくらなんでもそれは……。
「さて――とっとと始めよう」
私達の会話もなんのその。リラさんはガーディアンへ踏み込み。
――相手が振りかぶる動作の間に肉薄した。
はっや!
「ガラ空きだ、インジェクトブレイズ!」
バキドカッ! ザシュッ!
炎を纏った二発の蹴りから、更に両手の鉤爪で引き裂く――アクロバティック!
ガーディアンにおもっきし爪痕が残ってるし。
「卑怯臭いよね。戦う時間が長くなればなるほど、精霊を身に宿して強化されるんだから」
キロさんがなんとなく遠い目をして言う――あなたも大概じゃないですか?
それでもガーディアンは振りかぶる動作を止めない……あぶなっ!
ドゥン!
だけど振り下ろされた剣を、ほんの少し身体を横にずらしただけであっさり回避した。
顔の横3センチくらいなのはギリギリ過ぎるって!
「見た目通り鈍重だな。威力もアルの蹴り未満。防衛特化なのか?」
冷静に分析してるけど……アルさんはあれ以上なの?
アルさんは精霊を降ろしてるわけじゃないよね? 加護の話はあるけどさ。
「次は魔法で行くか……撃ち抜く。グレイシャルフラウ!」
ドンッドンッドンッドンッ!!
グオォォォォォッ……ドォン!
続いて、あたしのコーリングスターみたいな氷弾が両腕から計4発。
締めにアストラルスフィアみたいなサイズの氷弾を撃ちこむ。
リラさんってこういう魔法も使えたんだ。でもって一撃が明らかにあたしより重そう。
「これで2属性。半分まで来たね」
「魔法を交えた攻撃がこんなに早いなんて……」
あたしたちの中で氷魔法主体のクラウディアには衝撃的よね。
4人の中では一番速度寄りのあたしよりも、動きも発動速度も段違いだもん。
敵さんはうめき声も何もないけど――明らかに動きが鈍くなった。
「魔法が弱点なのか? いや、魔法仕掛けなのだから氷に弱いと見るべきか」
相変わらず平然と分析してるよ――まあ圧倒してるんだけど。
…………!
ブォン! ブォン! ブォン!
あちらさんは一撃狙いをやめて無茶苦茶に攻撃する事にしたらしい。
まともに狙っても当たらないだろうから多分正しい判断なんでしょうね。
だけどね――スイスイ避けられたあげく、剣の上に乗られてるよ?
「止まって見えるぞ」
剣からトンと飛び立ち、頭? と思われるところに浴びせ蹴りを入れる。鉤爪の意味がないなあ。
「続けていくぞ、エクレールサージ!」
バリガリバリガリバリガリッ!
ゴゥン!
と、思ったら今度はビリビリと音を立てて錐揉みしながら突進して、サマーソルト!
身体やらかいなあ!
「リーチ」
「一撃だけでも重いのに連撃の速度がおかしいよ……」
一発当たりの威力が大きいのはタオとレント。
特にタオは一撃重視だもんね。頑張ってハンマー振ってもらわないとね。
そして、キロさんの説明が雑い!
ドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!
ガーディアンは剣での攻撃をやめて、身体を活かした突進に切り替える。
当たらない気がするけど……リラさん避ける気なし!?
「一度、力比べといくか」
ガーディアンの体当たりに対して、リラさんが選んだのは。
――いつか見た、右腕を後ろに引いて一気に踏み込む構え。
あの時のリラさん、ホントはコレをアルさんに使うつもりだった? だいぶ殺意混じってない?
衝突寸前で、赤く光った力を込めた。アッパーカット、だっけ?
「こいつを食らえ……
ガッ!! ……ドコオッ!!
鍔迫り合いは一瞬で……ガーディアンが5メートルくらい打ち上がって落下した。
「
「気持ちは分かりますけどもう少し言い方考えましょうよ!」
あまりにあんまりじゃないです? 本当にあなたも大概なんですよ?
どれだけ重いのかわからないガーディアンがあれだけ飛ぶのはたしかにビックリですけど!
しかも体当たりのパワーを全部相殺してアレなのよね?
ブラストノヴァでもあんなに飛ばないだろうなあ……。
それでも――まだガーディアンの戦意は消えていない。
「攻撃は並、防御は高め、本質はタフさか。ラムローストくん2号を思い出すな」
なんだかリラさんから謎の単語が飛び出した。2号?
ずいぶん変な名前の魔物だけど。
「だがこれ以上時間をかける必要もないか。仕上げだ、吹き飛べ。シルフィードベイン!」
ヒュゥイイィィィン……バキッ! ドカッ! ザシュッ!!
両手足に風を纏わせて、回し蹴りから更に爪で追撃。
直接触れてはいないんだよね? 吹っ飛んでるけど。
こう見てると……レントを指導してるけど、リラさん自身の戦闘スタイルは全然違うんだね。
そういえば――これで。
「
「話に聞いてた、アレっすか」
「そう、アレっすよ」
キロさんにレントの口調が
4属性宿った! そういえば言ってたわね――リラさんの。
「成程、タフネスさは認めよう。大したものだ。その頑丈さに敬意を表し」
本家本元の、フェイタルドライブ!!
「見せてやる」
キィィィイイイイイン!
リラさんから赤、黄、緑、青の光が立ち上る。オーラがヤバイ!
「精霊の力を乗せて……行くぞ!」
踏み込んだ瞬間――リラさんが消えた。
「えっ!?」
「アレの後ろだよ」
キロさんの声を頼りに探したら、いた。
ガガガガガガガガガッ!!
でもって……見えない何かに切り裂かれるようにガーディアンにダメージが入っていく。
音を置き去りってやつ? 置き去りにされてるのはあたしたちもだけどね!
「吹き飛べ」
ベキャッ!!
回し蹴りからガーディアンを打ち上げて。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュザシュザシュザシュザザザザザザザザザ!!!!
もうそこからは……何が起こってるのか分からない。
多分全属性が乗ってるんだと思う――紫色の残光が空を駆け巡ってた。
「お~随分派手だね」
「すっげえ……!」
「受けてみろ」
最後は――もう4人に分裂したかのように、4色の光と共に強力な蹴りを食らわせながら。
「アインツェルカンプ!!!!」
リラさんの気合の声が空から響き渡り。
ズドォォォオオオオオオオオ!! ドォウン!!
既にヒビに覆われたガーディアンを墜としてきた。
着地の衝撃を活かしてリラさんはあたしたちの前に降り立ち。
「終わりだ」
ドォゴオォォウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥンン!!!
ガーディアンがいた場所が爆発した――なあにこれ?
木っ端みじんどころじゃない。何も残ってない。
「打撃であの一瞬に67発、無茶苦茶だね」
「ひどい言い草だな。数えられる時点でキロも大概だと思うが?」
「誉め言葉だよ、あれだけの瞬間火力は私じゃ出せない。流石継承者」
「受け取ろう。まあ威力を出すには下準備が手間なんだがな。キロのように高位精霊を宿すだけの理解と器があればよかったんだが。さてレント、これで約束は果たしたぞ」
「はいっ! 俺も、いつかあの高みを目指します!」
オーレン族同士はわりと涼しい顔をしてる……本当にどうなってるの、この人たち?
で、あんたアレを目指すの?
正直幼馴染が「空中乱舞が出来ます!」っていうのは複雑な気分だなあ……。
今ならクラウディアの「気の毒」って言葉に同意するわ。
「ここのフィルフサ相手よりも、あのガーディアンの方が訓練向けだったかもしれないな。火力は甲虫並みだが遅いしタフだから早々には倒れん。次に見つけたら考えるか」
「フィルフサの動きに慣れさせる方が優先だよ。そういうのは全部終わってからにしようね?」
「む……それもそうか」
キロさんナイス!
あんなの相手してたら一体で1時間はゆうにかかりそうだよ。
「さあ戻るとしよう、立ち止まっている時間はない。今回は分析しながら戦ったが……火力が十分なら本来は先手必勝、攻め方が分からない場合は回避、分析、強化しながらになる。4人で戦い方を考えておく事だ」
そんなリラさんの言葉で締めくくって、あたしたちはボトルの世界から帰還した。
アトリエシリーズお馴染みのアインツェルカンプ。正しい描写は不可能でした……。
何気にリラのまともな戦闘描写は初? 色々複雑すぎます。
ここで出てきたガーディアンは2のボスを参考にさせてもらいました。
これでフェイタルドライブは3人が公開です。
次はボトルの外に出て……ライザのお仕事です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。