ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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フルートの調合が終わって翌朝。ボトル内での修業2日目です。
彼女が関わるとこんなサブタイが多くなります。
サブキャラが一人初登場します。

誤字報告ありがとうございます。やはりこの時期に書いた分は全体的に言い回しが微妙ですね。

今回もよろしくお願いします。


81. 81日目①  人に向けて使わないでください

「う、ぅん……? ここは」

 

クラウディアの、お屋敷?

 

いつの間にこっちに来たんだろう。

ブーツは脱いでるけど、寝巻に着替えてすらない。

それにずいぶんと日差しが暑くて……日差し……日差し?

 

えっ?

 

「ウソ!? もう7時くらい!?」

 

やばいヤバいヤバいヤバいヤバイこれはマズい!

2時間の寝坊!? ここ5年の最長記録じゃない!

ああえっと朝からなにするんだっけ農作業の女王? 証の収穫はまだ!

 

 

バァン!

 

 

「ライザ大丈夫!? なんだか大声が聞こえたけど!?」

 

「あぁうぅんクラウディア? おはよう! えっと……あたし昨晩って?」

 

階下に届くレベルの大声を上げたみたい。クラウディアが飛んできちゃった。

 

「昨日調合をしながら寝ちゃってたから、アルさんに運んでもらったんだよ? ライザのお家にはお話しして貰ってあるから」

 

「――寝落ち? ええぇ全然覚えてない……了承済みなのは助かったぁ……」

 

一応、基本家に帰るルールは守ってるし泊まる場合も話はしてる。これが無かった上に大寝坊だったら……お父さんはともかくお母さんには大目玉だったね。頭が回ってないらしい。

こんな時に正座コースは勘弁願いたい。そういやアルさんが伝えに行ってくれたんだった。

 

「まだ7時過ぎだから焦らなくても大丈夫だよ? 湯浴みする? それとも朝ごはん食べる?」

 

「ん~お風呂借りるよ。昨日は戦った上に入ってないし……ないし?」

 

……スン、スン。

 

あたし――大丈夫だよね? 自分で分かるレベルだったら手遅れだけど。

で、よりにもよってアルさんに運んでもらったんだよね?

一応昔からアルさんに会う時は汗かかないように気をつけてるのに。

もしそうだったら軽く死ねるわよ? 尊厳とかいろいろな意味で。

 

「……大丈夫だよ! 着替え置いておくね!」

 

「待って! 今の間は何!? 何が大丈夫なの!?

 

やさしさって時には残酷なんだよクラウディア!

というか、ここにあたしの着替えがある時点でそう言う事なんだよね。

フィルフサと戦う前に、あたしの心はへし折れるかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

「ライザ、クラウディア、おはよう。昨日はお疲れ様だったね」

 

「おはよう。流石に昨日は堪えたのかな? この時間は初めてだよね」

 

「おはようございます……昨晩の事、全然覚えてなくて」

 

「それだけ集中してたって事だよ。おはようございます!」

 

時刻は朝9時、いつもは8時に来てるから1時間遅れだ。

お店を開けるのは10時からだけど、今日明日はロミィさんとジェナにお願いするからクラウディアはこの後説明に入るとの事。

 

「まあ意識的にやっていたなら大したものだったよ。剥がすのが大変だった」

 

「それは言わない事にしていたんじゃ?」

 

「あたしはさらに何しでかしたんですか!?」

 

どうにも昨晩……あたしはアルさんにおぶってもらってクラウディアの屋敷に運ばれたらしいんだけど――降ろされる際にかなりの力でしがみ付いていたらしく、アルさんの首が絞まったらしい。強化したキロさんによって引っぺがされたそうだ。

アレは……大丈夫だったよね? 聞くのは怖いからフタしておこう。

 

「調合中のライザは危険物だと覚えておくよ」

 

「お手数をお掛けしました……」

 

「大丈夫だよ、ちょっと驚いたけど。何か夢でも見ていたのかい?」

 

「夢……? いえ、何も覚えてないんですけど」

 

寝起きのインパクトが強すぎて見たとしても忘れてる気がする。

そういえば……フルートはどうなったんだっけ? 見届けてない気が。

 

「えっと……アルさん。昨日のあたしの調合って」

 

「うん。仕舞ってあるから見ようか」

 

「何が出るかな?」

 

「私は心配してないですよ? ライザが作ってくれたものですから」

 

「自分の心が汚れているのをますます自覚するね……」

 

昨日ドヤ顔してたのは覚えてる。やっぱりキロさんは本来こっちが素なんだろうか?

あるいは数百年ぶりの交流ではしゃいでるような感じなのかな。

 

「これに仕舞わせてもらったよ」

 

アルさんがクラウディアのフルートのケースを持ってきてくれる。

 

正直、開けるのが怖い。

でも、これはあたしのやった仕事だ!

 

いざ!

 

 

ガチャッ

 

 

「……これは」

 

前のフルート(イノセントスノウ)はクラウディアが使ってた市販の練習用フルートをスタルチウム製にした物。

形状も比較的シンプルで……胴部管は白色だったね。

 

一方で箱の中に納まっていたのは、前よりなんだか複雑な形状をした白金色の金具に、銀色の頭部管と黒色の胴部管で組まれたフルート。

 

なんというか、ゴッツい。大丈夫なんだよね……?

 

横にいるクラウディアの顔は……目をパチクリとしてフルートを見てる。

 

「これは……まさかエセリアルトーン?」

 

「名前があるものなのかい?」

 

アルさんの問いには答えず、クラウディアが恐る恐るフルートを手に持つ。

色んな方向から見てみたり、リングキーをカチカチしてみたり。

 

そして、口を当てて。

 

「……C7(超高音ド)~♪」

 

 

ビシィ!!!

 

 

「おおう?」

 

「久々だねえこれ。エレメントってすごいなあ」

 

「感心してる場合じゃないですって!! クラウディアストップストップ!!

 

一音で――作業場が氷室と化した。

 

 

 

「すみませんすみませんすみません!!!」

 

「大丈夫だよ。凍って困る物は無いし、夏場には涼しくてさ」

 

「驚いた。セルシウス並みの寒気かな? フェンリルが気に入りそうだね」

 

クラウディアが高速の水飲み鳥と化してる。髪がぐしゃぐしゃになるよ!

あたしのコンテナは凍るとわりと困るのよね……大丈夫だろうけど。

寒い事は誰も気にしちゃいない。

 

さて。

 

「どうかな? クラウディア」

 

「どうもなにも……ライザは大変なものを作っちゃったんだよ?」

 

そう言われましても。

 

「さっき名前を言っていたかな? え~っと、似非現実(エセリアル)……」

 

「エセリアルトーンです! 「天上の音」って意味ですよ! なんだかニュアンスが違います!」

 

非現実的、じゃダメなのかな……とキロさんが何だか落ち込んでるけど、クラウディアはそのまま話を進める。音楽には厳しい。

 

「えっと、一般的に知られている最高級品は「コンサートミストレス」っていう青銀色のフルートなんです。音を出すだけでも難しくて、出せるだけで一流って言われるくらいですね」

 

そこで一旦話を区切り……もう一度フルートを見回して、話を進める。

 

「ですけど……半分くらい伝説的なものとして語られている、だけど現存しているフルートがあるんです。世界に2本だけだったかな? 私も実物は見た事がないんですけど――聞いた色合いはこれと全く同じなんですよ。それがエセリアルトーンです」

 

「つまり、ライザは」

 

「世界最高峰のフルートを作ったって事だね」

 

「楽器の分野にも錬金術が関わってたんですね!」

 

「ライザが気付くべきはそこじゃないよ……」

 

え~だって。ここじゃみんなが敬遠してる錬金術が世界の音楽を支えてたんだよ?

同じ素材を扱えれば多分誰でも作れるし。

 

「とりあえず……OKでいい?」

 

「とりあえずどころか、これ以上の物なんて存在しないよ? ありがとうライザ!」

 

正直楽器の良し悪しはあたしにゃ分からないのです。

楽器だけじゃなくて芸術関連全般といいますか。

 

 

バァン!

 

 

「ロ~ミィさん登場でぇええええええええええっ!?」

 

「おはようございます……すごいですね。食材保存の為にこれ程の氷室を用意されるなんて」

 

勢いよく開いた防音扉からロミィさんとジェナが姿を見せてくれたけど、よりにもよって作業場は全面氷漬けの状態だ。どう説明したものやら。

 

「流石アル君だね!」「流石はアルお兄さんですね」

 

説明不要だった。

クラウディアのコレが無くてもこの建物は不思議の工房なんだった。

ここでの生活が日常と化してるから、普通ってものを忘れちゃうね。

 

「おはようお2人とも。ちょっとやりすぎちゃってね。お店の事はクラウディアから聞いてね」

 

「お2人とも、おはようございます。今日はありがとうございます、よろしくお願いしますね!」

 

「いやーまさかお客じゃなくて店員としてこの工房に入る日が来るとは思わなかったよ。ロミィさんが行商を引退した時はアル君に雇ってもらおうかな?」

 

「お父さんが記事のネタ探しで五月蠅いので、暫くこれで大人しくさせられそうです。こちらこそ宜しくお願い致します」

 

「ライザ。この子……10歳なんだよね?」

 

「たしか……そのはず、なんですけど。自信なくなってきました」

 

ロミィさんがしれっと就職の保険をかけてる。しかもお菓子屋じゃなくて工房の方に。

ロミィさんは店内員よりは広報向けの気がするなあ。今日は店長代理だけど。

 

そしてジェナは随分とピーターさんに辛辣ね……キロさんの質問はもっともだ。

ちょっと荒み過ぎてる気がしなくもない。ピーターさん以外には良い子なのに……。

 

 

 

 

 

 

「来たか、既にこちらは始めている。クラウディアの笛は作れたのか?」

 

「はい! とっても立派なのを作ってもらいました!」

 

「ほう? それは期待できそうだな。楽しみにさせてもらおう」

 

「まだ戦闘には使ってないけど……大丈夫かなあ」

 

拠点に向かってボトルの中へ。

アルさんは中枢へ、キロさんは対岸近辺を哨戒中。二人とも後で合流するから、途中であたしかアンペルさんが迎えに行く予定だ。

 

お店に関しては大丈夫でしょ。あの2人はしっかりしてるし社交的だし。

在庫切れにならない限りは……。

 

「まずは昨日のように、ここに居るフィルフサどもと戦ってもらう。勿論全種類、後半は複数体同時だ。それを見た上で今度は私達と……後で合流する二人でお前達の弱い部分を攻めるように個別に戦う。締めは明日だ。ちなみにレントとタオについては、二人でもハリネズミを相手する事は出来るようになっているぞ」

 

「フィルフサ相手より緊張するお話が?」

 

正直、フィルフサと戦うより大人組の面々と対峙する方が圧倒的に恐ろしい……。

でもって、レントたちは早くも成長してるみたいだ。

 

ただ。

 

「うぉあアああ゛ア゛っ!」

 

「タオ! 攻めすぎんなよ、ヒットアンドアウェーってやつだ!」

 

「ズあッ!!」

 

な、なんかタオが狂戦士(バーサーカー)化してない?

あのハンマー、普段そのまま殴るように使ってたっけ? 一応魔法具よね?

 

「レント君! タオ君どうしたの!?」

 

「ああクラウディアとライザも来たのか。なんつうか……何回かヤバイ目に遭ったせいで守るくらいならって攻めるようになっちまってよ。あとタオがバングル貸してくれっつうからソレ付けてから、妙に好戦的になっちまってな? 30分くらいあの様子だ。近寄ると俺でもヤバそうでな」

 

「潰レろォ!」

 

 

ボグゥッ!!

 

ギィア!?

 

 

あたしにも原因がありそうだね……後で回収して作り直しましょ。

チェインがあってもバングルの副作用はダメだったらしい。

 

それにしても……あの状態なのにハリネズミの攻撃は正確に避けて腹部にハンマーを入れてるね。

しかもダメージがしっかり通ってるし、やっぱりタオは戦いのセンスがあるみたいだ。

緑ハリネズミに恐怖の色が見えるのは気のせいじゃないんだろうなあ……。

 

「怖気付クカ……仕留メル! 縛術・影縫イ!!

 

 

バギャァッ!!

 

ガッ!? グォオオゥ……

 

 

「ああぁ……せっかくの新技なのに、なんだか声が悪役気味に……」

 

相当に重そうな一撃が、ハリネズミの頭に入って消滅する。いつかのティーバッティングだね。

倒せたのはいいけど……いい加減止めないとマズいわね。なんかの波動に目覚めそうだ。

でもどうしたものか……。

 

 

 

「僕はどうなっていたの?」

 

「……疲れて眠ってただけだ。気にすんな」

 

「うんうん。タオ、お疲れ!」

 

「タオ君、カッコよかったよ! ……ゴメンね

 

「流石にやり過ぎたか。反省しよう」

 

「当たり前だろう。タオは学者肌の15歳だぞ? お前のような戦闘狂(バトルクレイジー)と一緒にされてはな」

 

事実は――クラウディアのオーバーチュアで凍ってもらいました。ゴメン、タオ。

人間、追い詰められるとヤバいのね。窮鼠猫を嚙むとはこの事か。

 

そしてクラウディアのフルートも新調したもんだから、当たり前だけど攻性魔法もしっかり強化されてて旋律ってわかる前から凍り始めて――数秒でタオの氷像が出来上がった。

 

ここ最近で一番焦ったと思う。

この笛を人に向けちゃいけない――ダメ、絶対。この際にバングルもコソッと回収だ。

 

急いでタオを回復した後はあたしとクラウディアも訓練に入った。

フルートの魔法発動速度が段違いに速くなってるおかげで足止めも楽々だ。

 

「私の場合は単純に切れ味や重さの変化だが、魔法具の場合はここまで変わるのだな。元のポテンシャルが高いのも相まって恐ろしい威力と速度だ」

 

「尚更味方に使う物ではないと実感するな。将来有望な若者を失う所だったぞ。さて、私はそろそろアル君達を迎えに行くとしよう」

 

 

 

「優雅に行くよ! 凍麗の舞!」

 

「なんかもうつむじ風ってレベルじゃないよね? 追撃いくよ、アストラルスフィア!」

 

ちなみに凍麗の舞は吹いて演奏するものじゃないんだよね。振り回して音出してます。

このフルートなら採取に使ったとしても壊れない気がする。正座待ったなしだけどね!

 

さてと。

 

「ふう~……あたしたちもサソリ人間ぐらいなら安定してきたね」

 

「うん! ライザのフルートのおかげだよ」

 

「威力も速さも段違いだな。これがクラウディア本来の魔法なのか」

 

「まさか! このフルートがものすごく魔法を増幅してくれているだけだよ?」

 

「僕のハンマーもゴルドテリオン製だったらもっと速くなるのかなあ」

 

「あたし的には、タオは今のままで居て欲しいかな……」

 

正直、ゴルドテリオン製の武器を持ったタオがあの状態になったら止められる気がしない。

必要なら作るけど、今のあたしじゃタオのイメージに狂戦士が追加されそうだ。

 

「皆お疲れ様。お昼持ってきたから食べてね」

 

「この景色じゃおいしさ半減だね。腹ごなしも兼ねて掃除(殲滅)しようか」

 

最高戦力の2人もボトル内に登場だ。もう食べてきたのかな?

ここに居ると何時なのか分かんないけど……こっちに来て2、3時間くらいかな。

 

中枢でなにかやっていたんだろうアルさんはともかく……付近全域を哨戒してたはずのキロさんは回るのが早すぎると思うんだ。どんな高速移動なんだか。

 

「思っていたより全員元気そうだね?」

 

「クラウディアの笛は勿論なんですけど……タオが覚醒しちゃいまして」

 

「えっ? 僕何かしたっけ」

 

「普段より攻めっ気が出たってだけだ。ぷににビビってた頃と段違いだからな」

 

さっきのタオなら竜すら怯みそうな気がする。

 

「キロ達の方はどうだった?」

 

「哨戒はしたけど、フィルフサは特に増えてないね。門も大丈夫。峡谷に見覚えのない(キングオブ)翼竜(ストーム)がいたから消えてもらったくらい。他の説明は後で。じゃ、行ってくるよ」

 

ツッコむな……ツッコんじゃいけない、踏み込んじゃいけない。

ほら、誰も聞こうとしてないじゃない?

 

「僕の方は……足してもらったエネルギーを少し使わせてもらって周辺の水流を調整してみたよ。これで魚も今よりは戻ってくると思うかな」

 

そっか。今の時点で魚の不漁はわりと深刻だ。

食糧事情だし一日でも早く改善しておかないとね。

 

「ボオスの案はどうでした?」

 

「残念だけど岸まで10分の1も届かないうちにエネルギー切れだね。そもそも今の島の機能じゃあそこまで動かす為の機構が無いみたいだし、エネルギーがあったとしても改造した方がいいかな」

 

そういう機能を付ける前に大侵攻が起こっちゃったって事かな。

となると、保険案は移住か力づくでの島移動か――移動可能そうなのがすごい。

 

ᚨᛒᛋᛟᛚᚢᛏᚨ(久遠の) ᛉᛖᚱᛟ(氷縛) !」

 

どこからかキロさんの大きな声が聞こえてきて……女王への道方面一帯が氷の世界に閉ざされた。

ポンポンとあれだけ大規模な魔法を発動するあの人はなんなのかな?

あちらの自然が侵蝕される前だったら、女王もなんのそのだったんだろうなあ。

 

「それじゃあライザ達はお昼休憩してもらう……でいいですか、リラさん?」

 

「ああ。戦い続けでは集中力が持たないし、タオの件もある。次は我々が鍛えるとしよう」

 

「この面子では私が疑いなく最弱というのがやってられんな。久々に錬金術士らしく戦うか」

 

ふい~やっと休憩ね。

錬金術士らしくって事は――アンペルさん作のアイテムを使うのかな?

見て参考にしよっと。




タオが突然日焼けして「滅!」とか言う日は多分来ません。
キロの魔法、ちゃんと詠唱文作ったのに使わなかった……。
汝、美の祝福賜らば~が元ネタですね。

次は……少し時間が巻き戻ってスタートです。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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