ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
最初の頃と比べて考え方が色々変わってきました。
誤字報告ありがとうございます。
少し先からまたちょっとチェック方法を変えてみました。
マシになる物と思いたいです……。
今回もよろしくお願いします。
「いらっしゃ……お帰りなさい。クラウディアさん、ライザさん」
「ただいま戻りました。代打ありがとうございます、ジェナさん!」
「ジェナで結構ですよ? まだ約束の時間には少し早いですね」
「ロミィさんが労ってあげよう! さあさあジェナはシュークリーム持ってきて! コーヒーなら入れたげるよん」
「たまには苦いのもいいかな。ありがとうロミィさん」
「……ライザにしちゃ、なんだかお疲れだね?」
「なかなかに危ない橋を渡ってきたもので……」
「? 分かんないけど、アル君に余計な面倒をかけないようにね。レント達は?」
「もう少ししたら来ると思います」
「なら4人分かな。仕事は閉店までしっかりやるから任しときなさいって!」
さすがロミィさんだ、伊達に一人で商売をやってない。
ショーケースのお菓子はほぼ消えさってるけど、4人分残ってるあたりわざわざ取っておいてくれたのかな。
今はお言葉に甘えよう。
「あ゛ぁ~~、づがれ゛だ」
「そういう声を出すと喉が悪くなっちゃうよ? 気持ちは分かるけどね」
「は~い。しかしまあ……よくなんとかなったもんよね」
何を以て
ただまあ、一昨日の影の女王見学も息が詰まったけど、今日のは命の危機を感じたわ……。
「クラウディアの方はどんな感じだった? あたしは正直みんなへ気を配る余裕がなかったよ……」
「アンペルさんの魔法攻撃は着弾までほぼノータイムだったから大変だったかな。当たっちゃうと変な感じになるんだよ」
「変な感じ?」
時間系統だから、え~と。
「身体が動かしにくくなったり、逆に目だけすごくゆっくり見えるようになったりだね。だからライザに投げられたアイテムに気付けたんだけど」
バフとよく似たもんね……結構副作用ヤバくない? それ。
「あとは、たまにキロさんから雷魔法が飛んできたかな? お返しにフルートを投げて牽制してみたよ、結構驚いてたね! 他には……アルさんの岩パンチ? 便利だよねアレ」
今のフルートはゴルドテリオン製だし、ちょっとやそっとじゃ壊れないでしょ。
ただ……アルさんに見られた結果がアレだ。やっぱりというかあんまり多用すべきじゃなさそう。
岩パンチは卑怯くさい。速い上に当たり判定が大きいし、当たったらただじゃすまない。
ガランガラン
「うい~~、こっちも戻ったぜ」
「今回はさすがにヘトヘトだよ……なんとかなってよかった」
「お、二人とも丁度来たね。は~いロミィさん特製のコーヒーだよ。ライザとタオは甘めね」
「ありがとうございます……なんかライザたちのは変わってるっすね?」
コーヒーの香りなんだけど……クリームが浮いてる?
「ふっふっふ、世界を見て回っているロミィさんは色んな飲み方を知っているのだよ。これはアインシュペナーといってコーヒーと同量の生クリームを浮かべたものね。どっちかっていうと冬場向けだけどさ。レントは甘いのが苦手だし、クラウディアちゃんは大人だから大丈夫だよね?」
「あっはい。ありがとうございます」
「レントさんとタオさんもお帰りなさい。シュークリームです」
「ありがとうジェナ。甘い物は助かるなあ」
ああ、甘さが身体に染みわたる。あたしってそんなに子供っぽいんだろうか?
「レントたちはどうだった?」
「リラさんのガチの一撃は、精霊付与なしでも甲虫の突進よりヒデエよ。しかもそれが絶え間なく飛んでくっからさ……重い一撃で目くらまししながら距離取って時間稼ぐ感じだったな。軽めの剣使って速度重視の攻撃すんのも手かもしんねえけど」
「ずっとあのサイズの剣で鍛錬してきたんだし、今更スタイルを変えない方がいいんじゃないかい? やるにしても今回の件を終わらせてからにした方がいいと思うよ。最悪剣が折れそうだ」
威力はレントより上、速度はあたしより上。
精霊付与無しって事はスキルも無しだろうけど、あたしなら防御の上から潰されそうね……。
「僕の方は……「う~りうりうりうりうり」って火の玉連発されたよ。たまに風やら氷やら、あと身体強化もだね――まさかキロさんに殴りかかられるとは思わなかったよ。ボオスから走って逃げ回っていたのがこんな形で役に立つなんてね……」
「最初の詠唱は急所狙いの精度向上だったそうよ。食らってたらヤバかったわね」
「なんでか時折ライザとアルさんの解説に入ってくれたから助かったけど。あーむすとろんぐがどうのとか……死ぬまで殺すだけとか物騒な事を言っていたかな?」
二つ目のは、タイミング的には大佐かな? なかなか苛烈な人みたいね……。
つか、やっぱりあたしは相当にヤバイ攻撃を連発されていたらしい。それだけ本気って事か。
「それにしても……遊撃失格だなぁ。助けられてばっかだったし1人だけ拘束されちゃったし」
「ライザは頑張ってくれたよ!」
「ありゃ仕方ねえだろ? なんせリラさんたちだし、ライザの相手はあのアルさんだぞ? 俺はあの岩石パンチ避けらんなかったぜ、マジで痛えっての……青イタチの突進なんざ石ころくらいだったんだな」
「僕はハンマーで砕けたけど……連発は勘弁してほしいね」
多分だけど、蝕みの女王の倍くらい強かったんじゃない?
影の女王は分かんないけどさ。
「で、結局アルさんたちは? 訓練を見学してたんでしょ?」
「リラさんの「我々も引き締めよう」って言葉に乗っかって、アンペルさんとキロさんのデバフを自分たちにかけまくった上で戦ってたな。代わりにマジの中のガチだから――甲虫の頭にアルさんの拳が突き刺さった衝撃で背中の魔石が丸ごと吹っ飛んだ時は目ぇ疑ったぜ」
うひっ、あたしの頭に飛んでこなくてよかった。潰れたクーケンフルーツよりひどそうだ。
あそこのフィルフサたちには少し同情する。同じ「マジ」でもまだマシだったらしい。
「しかしまあ、やっぱライザは軍師向けなのか? まさか音爆弾をアルさんたちに投げるわ俺たちにアイテムを使わせるわで、コイツヤベえって久々に思ったぜ」
「そのおかげで納得して貰えたんでしょうが。それとレント、あんたはあとで爆粉うにの雨を受けてもらうわ」
「なんだその理不尽!? せめて理由を言えよ! あっちでもいきなり頭をその杖で殴るなんざ」
当然でしょうが。あたしの胸は安くない……んな説明言えるかぁ!
「まあライザが軍師向けなのは同意かな。僕じゃ理詰めで考え過ぎちゃうし」
「私は手数が足りないから力押し気味になっちゃうんだよね……女王もライザの作戦に期待だね」
「あんまりプレッシャーかけないでよ? あのカマキリが何してくるのか分かんないんだし」
まあ、鎌の攻撃は確定だよね。あとは……フィルフサの特性を考えるなら毒とか?
カマキリなら翅も持ってんでしょうし、飛んだりもするのかも? タオの戦意がヤバそう。
「ライザ達の話にしては、なんだか深刻そうだね?」
「もうライザさん達は行動制限が無いんですよね? ――そろそろお店を閉めますね」
「ああうん、ありがとうジェナ。深刻というか、まあ悩みはおっきいですね」
明後日。
女王討伐の二面作戦に加えて、島のエネルギー問題。
解決しなかった場合は――水の返還は絶対としても島民の移住と大侵攻の可能性。
正直荷が重い。首を突っ込んだのは自分からなんだけど、ぶん投げたい気分だ。
大人組が超頼りになるからまだまだ楽なんだろうけどさ。
本当だったら、今みたいに道草くってる場合じゃないんだろうね。
島から移住するためにみんなを説得するとか、ボオスの手伝いとか、女王を倒すためにひたすら修行するとか、賢者の石の調合のために錬金術の腕を磨くとか。
やらなきゃいけない事はいくらでもある。
でも今日みたいな修業はともかく、移住のための説得話は――あたしからのホラ話扱いならともかく、アルさんやボオスからのように重みが出たら。島民があの中枢を一度でも見てしまったら。
おそらく、今のクーケン島の日常は二度と戻ってこない。
賢者の石の調合も……多分フィルフサの要素で出来ているって事は分かったけど、アンペルさんが口にしたみたいにそれ以外の必要な要素・特性ってのが思いつかない。がむしゃらだ。
試すにしたってキロさんの持ってる最後の一つだろう戦士の証を、それもエレメントを吸われながら扱うしかない。その場合あたしはどうなるんだろうね。
方向性に見通しが立たない。そういう意味で先日の部品作りは大きな進歩だ。
古式秘具とはいかなくとも、あたしでもある程度日常道具とかを調合できるかもだし。
経緯はどうあれ、アルさんはあたしに部品作りの一部を任せてくれた。ホントなら一人であっという間に終わるはずなのに。これは意味があるんだと思う――将来のあたしのため、とか。
だとしたら、導いてもらってばかりだけど――最低限の期待には応えたい。
そう考えると今の道草……お店の件とかはあたしたちの日常のため、なのかな?
今の状態でも荷が重いと思っちゃってるのに、ひょっとしたら心が潰れちゃってたかもしれない。
なら、また頼っちゃってるって言えるのかな。
――おかしいなあ、あたしは何時からこんな暗くてややこしい事を考えるようになったんだろう。
女王をぶっ倒して、賢者の石を作って、水を返す! でよかったはずなのに。
「ライザには……アル君に迷惑かけすぎるな~とは言ったけどさ。迷惑かけられるのは君達子供の特権だよ? 自分で出来るに越した事はないけど頼れる所は頼りなさいな。今日のお店なんかは、ロミィさんが島にいる間はある程度受け付けてあげるし」
「今日は本当にありがとうございました! ロミィさん! ジェナさん!」
「いえ、私もとてもいい経験になりましたので。普段の生活では観光の方とお話しする機会は中々ありませんし、お父さんを黙らせる話題もそれなりに得られました。あと私に敬称は不要ですよ、クラウディアさん」
やっぱり厳しいわね、この子……。
ジェナの5年後は武器を持ってないアガーテ姉さんみたいになりそうだ。
ロミィさんとジェナはクラウディアからお給金と手土産のプリンを受け取ってお店を後にした。
なんだかんだでもう夕方ね。
「明日は訓練無し、明後日に備えて体力回復だとよ。つっても俺はやる事ねえんだけどなあ」
「イメージトレーニングで新技でも考えたらいいんじゃない? リラさんのフェイタルドライブを真似してみるとか」
「なかなかタオもムチャいうわね……そういえばタオ、いつあんな新技考えたの? ええっと」
「
「あいかわらずクラウディアはよく覚えてるね……クラウディアのフルートブーメランを真似たんだよ、物理の全体攻撃は無かったから。魔力の糸で自分を軸に縛って放り投げただけなんだけど」
「シッコクってなんだ? 別に黒くなかったぞ?」
「たしかに」
「手枷足枷って意味だよ? ハンマーが飛んで来たら動き止めるよね。レント君のは漆黒かな」
博識だなあ。あたし全く聞いた事ないんだけど?
新技……そういえばフェイタルドライブをどうしようかな。レントはもう持ってるんだし。
ある程度方針は決めたけど、やっぱり一回は実物見たいんだよなあ。
ガランガラン
「4人とも、今日はお疲れ様」
「ん。皆が成長し過ぎていてびっくりした」
アルさんとキロさんが戻ってきた。キロさん、あなた拠点側の人ですよね?
「アルさんたちの鍛錬も一段落っすか?」
「まあ、そうだね」
「大分地形が変わっちゃった。大精霊様のお咎めがないといいんだけど」
「何やってるんですか!?」
フィルフサとの殴り合いはともかく、地形が変わるってなに?
大人4人側は誰でも出来そうなのがすごい。
「レントから聞いたと思うけど明日はお休み、英気を養ってね。とはいっても落ち着かないと思うから、疲れないくらいに体を動かすとか調合は任せるよ」
「明後日の作戦開始は朝の10時。ライザ達は入り江の門からオーリムへ、私達はボトルを門の所まで持ってきて突入する。門の前の広間は邪魔が入らないようアルが封鎖して、ボトル突入前にあちら側の壁に穴を開けてもらうよ」
うわあ一気に現実感が出てきた。本当に……明後日に決着をつけるんだなあ。
「両チームが突入してから女王の元に到着するまで差が出るから、女王と戦うのは1時間後の朝11時とするよ。タオの時計で確認しておくれ」
「もし私達が倒すのが遅れたら、蝕みの女王が復活する可能性があるね。戦士の証を確認した後に一旦離脱して。逆に――ライザ達が倒すのが遅れた場合は蝕みの女王が強化される可能性があるよ。私達も撃破次第急行するけど、なんにしても一旦離脱して。一回勝つ事が出来たならかかる時間も分かるし、強化された場合は全員で挑む事も出来る筈だから」
同時って言ったって、完全に合わせるのは不可能。
ある程度の許容時間がある事を祈るしかないかあ。
まあ……仮に蝕みの女王本体が強化されたとしても、8人いればタコ殴りに出来ると思いたい。
「ついに、か。2か月前からじゃ考えらんねえ事になってんな」
「クリント王国時代からの数百年間の因縁に、僕らが関わるなんてね」
「一生忘れられない行商になりそうだよ!」
「そりゃあねえ……」
クラウディアなんて完全に巻き込まれた形だけど、その上で楽しそうなのがすごい所よねえ。
今は色んな事情があるけど……元々レントは武勇を求めて、タオはクリント王国の真実、クラウディアは新しい世界への第一歩。
でもあたしの場合はアルさんの手伝いで、手伝いの一区切りはアルさんが災厄の封印とやらの元に連れていかれるって事で。
その先に、今までと同じ日常は――心地よさは待っているの?
「ただいま~」
「おかえり。今日は少し早めかな?」
「最近は遅い日が多いからね。まあ島の中なら滅多な事はないだろうけど」
時節は夏至を過ぎた頃。陽が最も長い時期なのに、沈んでから帰ってくる事の方が多い。
農業やってる分には陽が昇ったら仕事して、陽が沈んだら寝るのが基本。
そういう意味ではあたしはかなり夜型の生活になっちゃってるね。
起きてる時間は以前と大して変わってないけど……動いてる時間は圧倒的に長いし、考えてる中身はずいぶん重くなっちゃった。
元気が取り柄なつもりだったけど、あたしもさすがにお疲れ気味かな。
「どうしても時間がかかっちゃう事が多くってさ。これお土産」
「おや、ライザにしちゃ気が利くじゃないか。お茶でも入れようかね」
「あたしは疲れたから今日はもう休むよ。ご飯は頂いてきたから」
「そうかい? 働くのは立派だけど無理をしてはいけないよ?」
「あと10日もしたら収穫に入るから、体調を整えておきなさいよ」
「は~い」
あたしがまさかあんな事に首突っ込んでるなんて思ってもないんだろうなあ。
そういう風にしてるわけだし、変に話を聞かれないのはありがたいけど。
言い訳にも困るしね。同じような答えにばっかなっちゃう。
「ふい~」
ブーツを脱ぎ捨て、ベッドに仰向けにバタン。
昔から変わらない天井。
でも――明後日にしくじったら、もう見る機会が無いかもしれない。
そうならないために色々やってるんだけどさ。
あーナーバスだ。全くもってあたしらしくもない。
まあ、たまにはこんな時間も必要かな。
具体的にあたしたちがどのくらいの物を背負ってるのかは分かんない。
こういうのはボオスの領分――アイツも今頃胃を痛めてんのかしらね。
大人になるってのは、こういう事なのかもしれない。
そういえば……アルさんたちは一国そのもの、5000万人の命だっけ?
こういう時、何考えてたんだろうなあ。
ここで今日は終わると思いきや、もう一話あります。
子供達がどうしようか悩んでいる一方で……?
次は深夜帯の話になります。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。