ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
作者はこういう話を書くのに向かないようです。無茶苦茶難産だった上に面白くない。
ですがこういう話も必要なのかなあと思った次第です。
誤字報告ありがとうございます。初期に比べたら減ったと思いたいです。
今回もよろしくお願いします。
「明後日、か」
聖域が、オーレン族の日常が破壊されてから数百年。
終わりのない戦いを最期まで続けるものと思っていたけど、こんな機会が巡ってくるなんて思ってもみなかった。
女王を始末し、水を取り戻した上で……本当にオーリムの浄化の可能性まで。
しかも協力者の大半はあのクリント王国の末裔と来た。世の中分からないね。
「こんな日々も……あと数日、か」
ひたすら殺し、守り、探す。それ以外大した事は考えていなかった。
唯の世界の仕組みだった。
リラには偉そうな事を言ったけど……実際の所、私に信念なんて大それたものはない。
それしか無かっただけだ。
それがどうした事か。今や大勢の人と会話し、満腹まで美味しい食事を頂き、警戒する事なく寝て、店で働いている。状況は決してよろしくないはずなのに、なんとまあ平和な事。
奇跡のような瞬間。
千年くらいあるのかもしれない寿命の中でたった20日程度の事だけど、最期の時にも忘れていないだろう自信がある。
でも、思い出作りはもう終わり。
終わらせないと、あの子達の未来が大きく狂う。私にとっても千載一遇の時。
たとえ誰もいない世界であったとしても守ると決めた。元の役割に戻る――それだけの事だ。
合理性を優先していたら既にそうなっていたのかもしれないのだから。
「ここにいたのかい」
こっちに来て以来、最もよく会話をする店主がやってきた。私を探していたの?
「何かあった?」
「いやなにも? ただ探しに来ただけだよ。桟橋だとは思わなかったけど」
用事自体は無かったらしい。
まあこっちに来て以来ほぼあそこにいる事だし、突然いなくなっても不自然だね。
ロミィ風に言うなら、私もあそこに入り浸り過ぎなのだろう。
ライザがキーなら、アルはジョーカー。
事態を大きく覆す力を持つ――大精霊様に召喚された存在。
知られていないけど、実は私のご主人様状態。
彼にとって……今この瞬間とはどういうものなんだろう?
「……ねえアル」
「うん?」
「緊張していたりする?」
「勿論、少なからずね。こういうのは加護があっても関係ないらしいや」
かつて国一つ救った存在でも緊張はするらしい。
当然といえば当然だけど。
「後はまあ……不安かな」
「不安?」
「今の道を選択した事だよ。自惚れるつもりはないんだけど……僕はライザ達よりは出来る事が多い。なら僕だけで出来る事は全てやってしまうのが一番の正解な可能性もあった。傲慢だけどね」
「間違いなく傲慢だね。虚言で無さそうなのが恐ろしいけど」
とんでもない考えだ。
「貴方がどんな未来と過程を最良とするかだね。ライザ達に何一つ知らせず終わらせる事も出来たのかもしれない。全てを放り投げて後は野となれ山となれでもよかったのかもしれない。冷たい言い方だけど貴方は本来無関係。ここに来た事情も後で分かった事なんだしね。だけど……貴方はそれを選ばなかった」
「……僕は今、この島の人達の命を天秤にかけている――ライザ達の成長と。ライザ達に未来を委ねたかったなんて言い訳するような状況を作ってしまった。それでいてお菓子屋とかで日常とのバランスを取ろうとしたり……何様なんだろうね。今は上手く回っているけどさ、逆に何もしない方がもっと上手く回っていたのかもしれない。僕が手を出した事が、取り返しのつかない選択に繋がっていたらどうしようかっていうのが……怖い、かな」
なまじ色々な事が出来てしまうが故に、採る事が可能な選択肢が多すぎる。
どれが最良かなんてわからないけど……これしか出来ないって状況がアルには少ない。
だからこそ、失敗した際の後悔の大きさは生半可な物じゃない。
救えたはずのものを救えなかった。
この英雄には、そんな傲慢な考えを持つ事が可能なほどの力があるのだから。
――青いなあ。一度は大きな成功を成した正義感溢れる少年の考えだ。
「悩ましい事なのは分かるけど、貴方が一人で悩む事ではないのは間違いないね。極端な話、聖域は私の、門はリラ達の、島はライザ達の問題。貴方は巻き込まれたのであって、ある意味最大の被害者だよ。お人好しなのは知っているから割り切れないのは理解するけど」
「本来は歴史の外の人間、か。相変わらず成長してないや。右に左にフラフラと……あっちではニーナみたいな事を二度と起こさせないってしっかり決めたはずなのに、こっちでどうありたいのかちっとも決められていない」
何を当たり前の事を。
「たかが30年しか生きていない分際で何を言っているの? ……一生悩むんだよ、そんなもの。私を馬鹿にしてる?」
コッチなんてそのうち千歳を超えるだろうに、自分の存在意義なんて大して分かりはしない。
生まれた境遇、出会った出来事に従って生きているだけかもしれないのだから。
それでもやろうと思った事に対して取り組む。それを忠実に守っている。その程度だ。
「これが最良って思った事に全力で取り組んで、壁に当たったら都度修正をすればいい。全てが計画通りに進むなんてあり得ないんだよ。今の貴方は島の日常をそのままに、ライザ達を成長させて未来を作り、島を救い、オーリムをも救う欲張りな道を選んだ――ならその道を突き通しなさい」
「厳しいお言葉だね……でも、ありがとう」
誰からも頼られる、一方で他人を頼る事はほぼ無かったが故の思考回路。
経緯も経緯だから、誰かに相談する事も難しい。
故に、アルに必要だったのはアルに意見できる人間――まったく損な役回りになった。
「で、他の事は? ついでに聞いておいてあげるよ。貴方についてはその先もあるんだけど?」
「災厄の封印の話? これに関してははっきりしないね、実際に関わってみないとかな。更にその後については……どうなるんだろう? 戻ったとしても時間差とかありそうだし、こっちに残るなら僕の立ち位置をどういうものにするか決めなきゃだから」
「錬成の力の取り扱いって事?」
「世界で一人しか使えない
「奥さんがいたからじゃない? 独身が良かったんだよ……そういえばさ」
「結構心に刺さる事を言われた気がするけど……なんだい?」
「アルって子をなす気が無かったりしない? ロミィと話していて思ったんだけど」
それを聞いたこの世界唯一の錬金術師は――困ったような顔で笑った。
図星か。ロミィはすごいね。
「まあ、そうだね。この力はこっちに広めちゃいけない、僕で終わらせるべきだと思っているよ。ロミィさんがそんな事を?」
「彼女は貴方をよく見ているよ。事が終わったら世俗から消える気なんじゃないかってさ」
「結構バレているんだなあ……今回の件が終わったら、少なくともクーケン島からは離れようと思っているよ。ここにいる限りは僕の影響が出てしまう。ボオス君の言う通りだね」
やはりあの子は賢い。掟の事はあるのだろうけど、島で唯一状況を俯瞰出来ていたのかもね。
「今はまだ……頑張ればこっちの技術だけでも再現可能な程度にしてあるけど、いつかはそれを越えた物を作ってしまうと思うよ。それを防止する為には元を絶つのが一番かなって。ライザ達はずっと成長したんだし、僕がいる必要はもう無いさ」
「どうだかね……」
ぬ~ん……やはりそっちの意識を持たれている自覚はないらしい。ライザは微妙だけど。
とは言え、事情が事情なのは事実だしなあ。
私から付き合いを勧めるのも変な話……一度反応を見よう。適当な例をでっち上げると。
「アルは、要するにあっちの錬金術がこっちで悪用される事を懸念しているんだよね?」
「悪用というか……世界に影響を及ぼさないか、かな? 新しい法則みたいなものだし」
「つまり……使われなければ問題ないわけだね?」
「? 話が見えてこないんだけど……?」
「オーレン族なり長命種族を嫁にしたら? 数世代分は見張ってもらえるし」
「僕個人の都合は一旦置いといてって事でいいんだよね?」
拉致られた上に生き物としての本懐すら果たせないのは不憫すぎる。本来は悩む必要のない話。
私はオーリムに残っちゃうから論外として、王都にもオーレン族がいるらしいし。
リラは……まあいいや。
仮に私がアルの子を……丈夫な子になってくれそうだけど色々混じりそうなんだよなあ。
それ以前に私が母親になるのが想像不可能だ――フィルフサの怨念を背負わせそう。
「う~ん……それって奥さんに重荷を背負わせるって事だよね? 僕より長生きなら確定で看取ってもらう事になるだろうし、力を持ってしまった子は結局面倒な人生を背負わせちゃいそうだ」
否定的か、まあ仕方がない。強要するものじゃないし。
「まあ貴方がそう思うならいいけど……拉致されたようなものなんだからあまり気にする必要はないと思うよ。問題があるなら大精霊様から干渉があるだろうし、なかったとしたらそれがこの世界の新しい在り方なのかも。そもそも使う為の理論も
「あはは。そんな、新しい文化の起点になるっていうのはちょっと気が重いけどね。でも……ありがとう。そう言ってもらえるならいつかは考えるかもしれないかな」
お、意外と効果があった。
「貴方は色々と自分一人で解決しがちだから、
「そういう考え方はした事なかったなあ。でも普通に生きていたのなら兄さんみたいな事もあったのかもしれないしね……うん、今のゴタゴタが解決したら、考えてみるよ」
思いの外、いい方向に誘導出来たね。これならまだロミィや……やっぱりライザは違うのかな?
一先ず島の女性陣にもチャンスがありそうだ。
しかしホントにどういう事なんだろうね――何故私はアルをここまで気にかけているんだろう。
そもそも色々おかしいのだ、よく喋るし感情が出るし食は進むし普通に眠る。これが私だと?
他人と関わり始めた事が起点なのは間違いないけど、この男相手には極端におかしくなる。
前にも考えたけど……私がアルに対して持っている感情は恋愛などとは縁遠いナニカ。
アルが男だろうが女だろうが多分変わらない。恐らく純粋に「知りたい」という興味の産物。
その程度の事が、今のような影響を及ぼしているとは考えにくい。
――私も、事が終わったら考えてみる時間を取ってもいいかもしれない。
「僕の悩みを聞いてもらってばかりになったね。キロさんはどうしたんだい?」
「あと数日だな~と思って。こっちの空は綺麗だから」
あっちの星空なんて忘れちゃった。昼と夜の違いすら曖昧なのだから。
女王を始末して、水を戻して、聖域周辺を浄化して貰っても……空と太陽は多分戻らない。
これだけ透き通った空を生きている間に再び見る事は叶うんだろうか。
「こっちに残る事になったら、なんとかしてみるつもりだけどね」
……ん?
「えっと……アル? それってどうやって?」
「え? いや時間はかかるだろうけど、まずは出来る範囲で大地の浄化をするよね? 元々フィルフサが居た世界なんだったら絶滅させる必要はないみたいだし、集塵機的な物を作って空気中のフィルフサの要素を回収して……」
「いやいやいや……」
あれ? 浄化って聖域だけの話じゃなかったの? 私が思っていたスケールと違うんだけど。
リラもそこまで壮大な事は想像していなかったはずだ……だよね?
「災厄の封印が片付いたら……ここに残った場合はオーリムに来るつもりなの?」
「さっきの話に戻るけど、結構都合が良かったし。こう言うと怒られそうだけど……人が居ないなら錬金術の悪用も子供も何もないからね。それでいて一番有効活用できそうじゃない?」
割とありそうで考えてなかった。
聖域の浄化はお願いというか、私がこちらに来る対価みたいなものだけど――自分からあの世界に留まろうと思うなんて。
「封印とやらを終わらせるのにどのくらい時間がかかるか分からないし、なによりさっきの……僕が大精霊からどう取り扱われるかって話が第一だけどさ」
アルが指折りをしながら話を続ける。
「だけどまあ、出来れば中途半端に終わらせたくない。僕にしか出来ない事だというなら尚更さ。クーケン島の外に出る事には変わりないんだし……繰り返しになるけど僕の錬金術を人目に晒すのはよろしくない。でも、それで一つの世界を救う助力になれるなら使っていくさ」
「……なんとしても、あっちに戻るって事を大精霊様に嘆願しないの?」
「場合によるなあ。戻っても知り合いがいないくらい時が経過しているなら論外だし、逆に全く時間が進んでいないなら……僕が歳を取る以外は今後ある程度こっちに残ったって変わらないよね? 問題は中途半端に経過して皆に心配をかけてしまっている事だけど……あっちには兄さんやマスタング大佐――あー今どのくらい出世しているんだろうね? まあ皆もいるんだし。必要とされているならこっちに残る事も考えているかな」
彼には気の毒だけど、前者の場合はどうにもならない。
少なからず知り合いがいる此方の方が居心地がいい事もあるかもしれない。
時間経過がないなら……私達オーレン族としては非常にありがたい話にはなる。
散々言ってしまっている立場ではあるけれど、その絶大な才能を使ってくれるというならば。
だけど……。
「メイはどうするの? 私が言うのもおかしいけど……彼女は間違いなく悲しむよ?」
「そうだね。だからまあ、一回は会わせてもらうか手紙くらいは届けるなりして欲しい所だね。でもメイなら……僕の錬金術で一つの世界が救えるって事を聞いたら、応援してくれると思いたいな」
「女泣かせめ」
「本当だね。そうなった場合は何一つ否定できないや」
割と本気なのか――あちらの世界との繋がりを絶つ選択肢を採る事を。
ただオーリムに来るにしたって……。
「オーリムに来ても……多分私しかいないよ? 流石にその時は私が貴方の面倒を見るけどさ。アルが浄化を進めてくれて、仮に門の外から同胞が戻って来てくれたとしても極僅か。貴方が生涯をかけても為せるか分からない。ひょっとしたら生き残りがいるかもしれないけど……貴方が出会えるかどうかも」
「その場合はキロさんに看取ってもらう事になるねえ。今の内からこんな話をしたくないけど」
いやホントに、そんな話をされても困る――どう反応しろと。
ただ、拒否感は無いらしい。ほぼ見知らぬ土地で私なんかと二人っきりだよ?
リラ達が門を閉じていけば、更に他人と会える可能性は減っていく。
それを考えていないわけがないと思うけど……。
「……本気? 寂しくならない? 退屈なんてもんじゃないかもしれないよ?」
「なんで? ――キロさんがいるじゃない」
笑った。
ああ――この男が本当に天然タラシ野郎である事をうっかり忘れていた。
こうやって幾人もの女性を手籠めにしつつ泣かせてきたんだろう……いや、知っている限りそんな事はなかったけど。
まあ、でも。
「……ふふっ」
悪くない。
「どうかした?」
「別に? 物好きだなって。さあて戻ろうか。長々と話して疲れたよ、夜食夜食」
「もう無いって。15人分くらい食べたよね?」
「なければ作ればいいんだよ、貴方は
「オーレン族のエンゲル係数はどうなっているのかなあ。アンペルさんも大変そうだ」
こんな気分も。
作者なりに、わりと真面目にこんな考えしてたりするんじゃない? と考えた結果、
こんな長々としたやり取りに……。
あと数話でこういう冗長な話も終わります。
次は決戦前の最後の休日、各々の日常です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。