ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

88 / 150
再び工房に戻ってきました。
引き続きライザ視点での決戦前日です。

誤字報告ありがとうございます。脱字は減らせても誤字には気付かない……。

今回もよろしくお願いします。


87. 83日目②  日常を守る為の決意

「おーっし。農具はこんなもんかな」

 

鎌と鍬、麻袋っと。

機能が分かってるなら、あたしでもそれなりの性能の品が作れる。

 

加えて、あたしだって腐っても農家の娘だ。見慣れてるから形もすぐ頭に浮かぶし。

切れ味とか長持ちとかの面でアルさんには勝てないけど、普段使いには充分でしょ。

 

さて次はっと。

 

 

 

「風の大魔法?」

 

「あっちで話したんですけど……一個高威力広範囲の風属性アイテムを作ろうかと。あたしの手持ちにそういうアイテムが無いので」

 

ルナーランプも悪くはないんだけど火属性だし、決め手に欠ける。

風属性ならノックバックも大きくて時間が稼げそうだし。

 

「今のライザ達なら大丈夫だと思うけど――オーリムでならライザ達4人で多分私に勝てるよ?」

 

休憩中という事でコンテナに腰掛けてプリンを食べてるキロさん……何個目ですかソレ?

ついでに足組まないでください――なんか、その、ソコ際どい!

 

「そこまで弱体化しちゃうんですか? リラさんたちも言ってましたけど」

 

「かなり酷いよ。周囲の精霊から魔力を借りる形の魔法は簡単には使えない。自分の魔力を絞り出して精霊達を活性化させて、やっと形になるくらい。そうなると私もグロッキーだから、なんとかなる範囲で強化と軽い魔法を連発する形だったね。こっちみたいな戦い方なんて出来ないよ?」

 

「僕らも錬金術が使えなくなった時があったね。アレには困ったよ」

 

まあた訳の分からない新情報を……。

でも、そっか。こっちで発揮してるような実力がふるえているなら、あっちでボオスを助けてもらった際に「守りながら戦えない」なんて言わなさそうね。

もうアルさんのはスルーしておこう。

 

あっちに行った限りではあたしたち4人に制限がかかるわけではなさそうだけど、備えはしときたいんだよね。

 

「念のためってやつですよ。それに……さっき拠点であたしの力を測ってきたんですけど、本気じゃないリラさんにてんで敵わなくって」

 

「測った?」

 

「はい。拠点にある古式秘具で威力を数値化できるのがあって。あたしの全力はリラさんの3分の1以下だったので」

 

「十分すぎる気がするのは私だけなのかな……?」

 

「ライザ達の行く末が不安だね……」

 

だって3分の1ですよ? ちっとも足りてなくないですか?

リラさんが10分で終わる事に、30分もかかっちゃう。調合の時間に置き換えたら大ごとだ。

 

「それにしてもそんなものがあるんだね。私も測ってみたいけど閉店業務が終わってからかな」

 

超馴染んでる……。あたし「閉店業務」なんて口にした事ないんだけど。

 

「僕も単純な腕力は大した事ないしねえ。僕の錬成は本来火力向きじゃないし」

 

「そうなんですか?」

 

「本来アルの錬金術の使い方は拘束、無力化が主体なんだよ。誰も(あや)めた事ないんだよね?」

 

「そうだね。それが僕らの線引きだった。攻撃は兄さんや大佐にお願いしちゃったからね。結局……僕は大した事をやっちゃいない。だから英雄は兄さんなのさ」

 

なるほど――攻めるばかりが大切な事じゃない、か。

じゃあ、作るアイテムもあたしたちを起点に拡散するものにしようかな。

それなら時間稼ぎにもなりそうだ。

 

それにしても意外だ。アルさんの強さも戦闘経験の話も。

最初の訓練の時にトレイルを抜けてきたのは腑に落ちないんだけど……単なる謙虚か基準がおかしいのか。

 

分解主体だったのはそういう事だったんだね。

ただ……ザムエルさんに余裕で勝てる腕力を大した事ないって評するのは違うと思いますよ?

昨日レントから聞いたフィルフサ貫通パンチはなんなんですか?

 

「キロさん! そろそろいいですか~!」

 

「は~い。じゃあ仕事に戻るよ……エルマーの件ってどうしたらいいのかな?」

 

「普通に接してもらうしかないけど……逆にショック療法とか?」

 

「ギャップってやつ? う~ん……もう少しスカート丈を縮めようか。ライザの視線も向いていたし」

 

「絶対に止めなさい! 僕も併せてシンシアさんからのお説教半日コースだよ!」

 

バレてた!

 

 

 

 

 

 

「で、お前はこうやって錬金術に勤しんでいる、と」

 

「そ。てかあんた、今はここ関係者用の場所なんだけど?」

 

「島の命運を知っている人間が関係者ではないと?」

 

「お菓子作れんの?」

 

「……そういう意味か」

 

お客さんに出す飲食物を扱う以上、出入りは制限した方がいいっていうアルさんの提案だ。

だからクラウディアの調理スペースには薄いカーテンが引かれている――ナイフが通らない強度。

 

あたしもお菓子の腕前は微妙だけどさ? 一応ここはあたしのアトリエでもあるんだから。

他のメンバーは材料調達、意外なお菓子知識、そして味見役だ。

 

「それで……ボオスの方は進展あった?」

 

「残念だがこれ以上は似たり寄ったりだな。島が移動不能という話は聞いた。であれば必然的に移住か力づくだ。一旦の移住先は何とかなると思うが、その後の生活については不確定要素が多すぎる。俺も王都に留学どころか皆の働き口探しに奔走する事になりそうだ……明日か」

 

そう、明日。

あたしらの就職ねえ、まったく考えた事なかったけど。バレンツ商会に雇ってもらえないかな?

 

「時間は分かるか? もしもの際、出来る限り早く行動を起こした方がいいだろう。最悪アガーテとランバーにも真相を明かす」

 

「それは待って。一回目はダメでも二回目でいけるかもしれないって話もしてる。それに……」

 

「それに?」

 

「……みんなの日常を壊したくない」

 

こんな事を知るのは悪ガキのあたしたちだけで十分。

みんなはみんなの、当たり前の日常を送るべき。

 

「ボオスの言い分は分かるし助かるよ? その方が後がずっと楽になるんだと思う。でも……ギリギリまで待ってほしい」

 

「……はぁ。後がないと分かったらすぐに知らせろ。お前らは……戦えても島民への信用度がサッパリだ――これはエルリックさんにも任せるつもりはない」

 

「何する気よ?」

 

「あの球をオーリムに移動させるか、最悪の時は砕く。聖域に戻せないならこれ以上誰にも使わせるつもりはない。水が尽きれば誰であろうと危機感を抱くだろう?」

 

こいつねえ……。

まあダメだった場合にあの球どうすんのかって話は全然してないけどさ。

島の人たちにとっては、命の次に大事な水。そりゃ誰でも動く。

ただ……それをまあ、あんたがやるか。

 

「バレたら……ヤバいなんてもんじゃすまないよ?」

 

「それが報いで償いだ。ではな」

 

そう言って、いつものようなムスッとした表情でボオスは作業場を出て行った。

言いたい事言ってさ――全部抱え込む気満々ね。

 

なんにせよ、負ける気なんてない。そのために――こんなのを作ってるんだから。

アルさんには苦い顔をされそうだ。いまさらながらあたしも実感がわいてきた。

 

さてと。必要そうな調合はこれでひと段落、かな?

お店の方を見ましょうか。

 

「あれ? ライザ、もう調合は終わったの?」

 

「うん、とりあえずね。手伝えなくてゴメン」

 

「全然! そもそも私一人でやるべき事なんだし。キロさんとアルさんが手伝ってくれているだけでもとっても甘えさせてもらっている状態なんだから」

 

元々は前日分までの仕込みを、クラウディアだけで持ち帰りオンリーでやるつもりだったもんね。

いつのまにやらイートインでいいんじゃね? って事になって、ついにはオーレン族雇用だ。

しかも超優秀。だって。

 

「パミラ。それ以上食べると帷子(かたびら)が着られなくなるよ?」

 

「大丈夫よ! 太らない体質だし太ったら痩せればいいわ。あと追加で……」

 

「ダメだって、既に5000キロカロリーを超えてる。太らなくても糖尿病になるよ。在庫もないからまた後日ね。ストックはお願いしておくから」

 

「いけずねえ。明日お休みって聞いたから食べ溜めしようと思っていたのに。まあお楽しみは取っておきましょうか」

 

「シャイナスちゃん、御馳走様。私にピッタリのおススメだったわ」

 

「よかったよ、クラウディアにも伝えておくね。おばあちゃんの会計は……」

 

「お嬢ちゃん。こっちの品物は儂でも食べられそうかね?」

 

「硬い物じゃないけど……少し甘めかも? それでいいなら」

 

まずお客さんの顔、名前、好みとかを全部覚えてる。あたしも顔はなんとかなりそうだけど。

だから島民でも観光の人でも対応可能だ。加えて島での知名度も高くて受け入れられやすい。

 

次にクラウディアのお菓子の味を全部知ってるから、どの人にもおススメの案内が出来る。

つか古老、さらっと来てる上にキロさんをお嬢ちゃん呼びとか――掟はどうした。

 

後は頭の中で全部暗算できるから会計が早い。

在庫も把握済み、だからクラウディアに何を作ればいいかをちょくちょく話してる。

他にも、さっきのパミラさんの時みたいにマメ知識とか。

 

うん。これ、あたし要らないわ。

一人で何人分こなしてるんだろうね?

 

そしてもう一人、この建物の本来の店主様はというと。

 

「お待ちどお様です、カールさん」

 

「ありがとう、いただくよ。香ばしい香りだね」

 

「少し強めに焙煎していますからね。別の豆が手に入ったらご感想をいただけませんか?」

 

「勿論だよ。ところで……ライザはご迷惑をかけていないかい?」

 

「こんな立派なお店でライザが仕事だなんて不安でしかないんだけどねえ」

 

「いえ、ライザは立派に働いてくれていますよ。クラウディアが作っているお菓子はライザの道具を使っていますから」

 

アルさん、グッド! というか、お父さんたちが来てたとは……。

あたしには違いが分からないけど、お父さんはコーヒー好きだ。色々な種類を試してるらしい。

で、アルさんは習作の一環とやらでコーヒー豆を焙煎するための器具を作って遊んでいたらしく、煎り具合の調整とかはお手の物というわけだ。

 

あと、どういうわけか紅茶も美味しく入れられる。この人にとってはコーヒーや紅茶も化学の一種らしい。

 

つまり――お菓子担当クラウディア、飲み物担当アルさん、接客担当キロさんが居れば全く問題ないのである。というか過剰。

あたしの仕事は一部食材の調達・調合と、一部道具の作成……完全な裏方ですねそうですね。

 

こうやって見てると……3人とも至っていつもの日常を過ごしてるなあ。

まったく戦闘に関する行動をとってない。

アルさんやキロさんなら分からなくもないけど、クラウディアですら。

 

……あたし、焦り過ぎなのかな。

 

「ライザ、何突っ立ってるの?」

 

「うおぁうぅぇえ!? あ、キロさん?」

 

なんだか考えすぎてたらしい。

食器を下げに来たキロさんからお声がかかった。

 

「親御さんが来ているんだから話して来たら?」

 

「また夜に会いますから。仕事中ですし」

 

「ライザ勤務中だっけ?」

 

いえ、働いてません、はい。

 

「まあ……大丈夫です。特別話す話題もないですから」

 

「そんなもの? 構わないならいいけれど……何にせよ2人が今日最後のお客さんだから、お会計をお願い。私は掃除の準備をしてくるから」

 

……なんというか、キロさんコレが天職だったりしない?

 

「おや? ライザが会計の担当なのかい?」

 

「あたしは状況に応じた助っ人みたいなもんだよ。キロさん一人で店内は回せちゃうし、あたしの腕前じゃお菓子作んのもお客さんにコーヒー入れんのもムリ」

 

「それでも農作業すらしなかったライザがちゃんと働いているって事に驚きだよ。ライザに会計してもらう日が来るなんてねえ」

 

まったくだね。あたしも想像してなかったよ。

 

「……どうだった? ここ」

 

「うん。こういったお店は初めてだけど――いいものだね。普段とは違うコーヒーに、食べた事のないお菓子。今まで島になかった物だけど……外にはこういった物があるのか」

 

「なかなかお金を払って食事をするってのは無い事だからねえ。普段とは違うってのは新鮮だよ。ごちそう様、ライザ」

 

「お礼はクラウディアにお願いね」

 

あたしは会計だけだし……うん、会計だけ。

なんか空しくなってきた。

 

「じゃ、またご贔屓に」

 

「うん。また来させてもらうよ」

 

「頑張るんだよ。くれぐれもアルフォンス君とクラウディアちゃんに迷惑をかけないように」

 

「はいはい。あ、明日はお休みだからね!」

 

「ありがとうございました!」

 

「ああ、クラウディアちゃん。御馳走様」

 

「またよろしくね」

 

そう言って、お父さんたちはお店を後にした。

変な気分だね。

 

「ライザのお父さまたち、いらしてたんだね」

 

「うん、あたしもびっくりした」

 

「娘の働きぶりを見に来るのは普通の事なんじゃないの?」

 

バーンッ!!って変な音が聞こえた気がする。

キロさんがバケツとモップを持って掃除夫さんのポーズ……ホントなんなんだろうねこの人。

現在の見た目は銀髪ポニーテールの儚い系万能美少女、実態はオーレン族最強クラスのダウナー系戦士であり底なし胃袋持ちのぶっちぎり最年長である。

数百年フィルフサを殺戮し続けていたであろう人のはずなんだけど。

 

「私のお父さんも開店初日に来てましたね。私のためっていうのは分かるんですけど……独立したいっていう気持ちもあってちょっと複雑でした」

 

「親は子が可愛いものだよ。独立心は大切だけど親心も分かってあげて欲しいな」

 

アルさんもやってきた。

アルさんは確か、子供の頃にお母さんは亡くなってて、お父さんは……。

 

「アルはたしか……お父さんに対しての反抗心が無かったんだっけ?」

 

「殆ど覚えていなかったからね。この人が父さんなんだって感じだったかな。兄さんは会った瞬間にぶん殴りそうになったらしいけど」

 

あれ? 再会できてたんだ。でも出会い頭にぶん殴るって、なかなかにお兄さん苛烈ね……。

まあお母さんと自分たちを置いて蒸発されちゃったらねえ。

 

「僕らは誰も親になっていないからね。どう足掻いても分からないのかもしれない」

 

「私もこの歳になって母親じゃないしね。こればかりは知識の話じゃない。本能だよ」

 

「本能ですか?」

 

なんか動物じみた物を感じるけど。

 

「クラウディア。私達生物の最も根底的な本能ってなんだと思う?」

 

「え~っと……食べる事、ですか?」

 

「惜しい。食べるのは生きる為、生きるのは成長の為――じゃあ成長は何の為?」

 

「……大人になるため?」

 

「そ。で、大人にしか出来ない事――それは子を残す事だよ。動物でも植物でも、もっと原始的な生物でもそれは変わらない。どんな生物もこの本能を備えている」

 

「子は大人と比べて弱い。だから大人は子を守ろうとする――知識云々じゃなくてね。僕の父さんが居なくなったのも、僕らを守る為だったんだよ。まあ、それが世界規模だったんだけど」

 

あなたは喋らないでください。スケールがおかしくなります。

 

「一人頭のおかしい事を言っているけど……あまり悩まずに親とはそういうものなんだ、と思っておくといいよ。反抗心っていうのも親から独立する為の本能だから」

 

「そんなもんですか……まあ最近は分からなくもないですけど」

 

「ライザもそうなんだ。うん、分かりました。少し考えてみます」

 

「誰も僕のフォローをしてくれないんだね……?」

 

親の心子知らず、だっけ。難しいもんよね。

あなたの場合はフォローのしようが無いんです――住む世界が違い過ぎて。

それからキロさん、いい加減肩に掲げたモップ下げません? 色々台無しだよ!

 

本能、か。

あたしが生きようとするのと同じ……島を護ろうとするのも同じ。クリントの人たちがあたしたちの先祖を生かそうとしたのも同じ?

 

フィルフサがこっちに侵攻しようとするのも同じ……考えるのが面倒ねえ。

 

面倒、面倒か――うん、これこそあたしの思考回路。難しく考えない。

 

つまり、考える必要なんて無いって事よね!

思うがままに真正面からぶん殴る!

 

明日は覚悟してなさいよ、女王!!




これでライザの決戦前日はおしまいです。
新作でのポジションはちょっと意外でした。

さて他の面々の内心は。

次話で第八章は最終話になります。長かった上に中弛み感が強くて……。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。