ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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第八章最終話、決戦前日パート3です。
今度はライザ以外の皆の様子になります。

誤字報告ありがとうございます。少しは減った……でしょうか?

今回もよろしくお願いします。


88. 83日目③  不安を乗り越え前を見て

本能、ね。自分で言っておいてなんだってお話だけど。

 

いつの頃からか生物に与えられた最強最悪の祝福にして呪い。

これが無ければ世界はもっと混沌としていて、もっと多様性に富んでいたんだろう。

それが良いのか悪いのかは誰にも分からないけれど。

 

「キロさん、お疲れさまでした。今日もありがとうございました!」

 

「ん。普段からお世話になっているんだし、これくらいは構わないよ。私としても新鮮だから」

 

一旦髪留めは返しておこうか。明日は戦闘だし、その後どうなるかも不明だ。

借りっぱなしになるか、失くすのかもね。

 

さて。

 

「気は紛れた?」

 

「……正直、今も怖いです。まだ……足が少し震えてしまって」

 

「当たり前だよ。未知の物には警戒するべきだし、こんな事には慣れない方がいい。そういうのは私みたいなので十分」

 

だからフロアに立たせなかった――この子では取り繕えない。

未知への好奇心は十分、戦闘意欲も悪くない。

 

けどそれは……ライザ達と一緒に居たい、という願いが根底にある。

 

今回の一件。極端な話、戦闘は回避可能なのだ。

初めて会った時はボオスの件があったし、それ以前にあったらしい竜の件もボオス。

……ボオス、中々に貧乏くじを引いているね。

 

とにかく他者の命が懸かった回避不可能な状況。部外者ではあるけど踏み込まざるを得なかった。

この辺りの度胸はライザ達の中で最もある。

 

けれど、今のクラウディアの状況は完全なる巻き込まれ。

オーレン族にも、クリント王国にも、クーケン島にも本来関係がない。

加えて今なら……最良を諦めれば誰も死なずに戦闘を回避できる。

 

それでも彼女がここに居るのは正義感もあるだろうけれど、特にライザと居たいから。

故に背負っているものが他の皆とは少々異なる。

彼女の場合、友人とはいえ赤の他人の都合で自身の命を張るのも同然なのだから。

 

「無理はしなくていい。片付けはしておくから少し横になっているといいよ」

 

「ベンチで休みなよ。後でココアでも持って行くから」

 

「……ありがとう、ございます」

 

状態によっては魔法をかけてあげようか。トラウマじみた物を残すのは酷だし。

どっちかというとライザ達の覚悟がキマり過ぎているんだよね……。

本当に10代なの? 3か月前まで素人同然だったのが真実なのか、色々ツッコミたい。

 

ああ、それはこの兄弟も一緒だった――なんなのかなあ、もう。

 

「どうかした?」

 

「最近の若者の成長の著しさにドン引きしているんだよ。私やリラがバカみたい」

 

「あはは……それに関して僕が言える事はないかな」

 

「当たり前だよ、その筆頭のくせに。こっちなんて何百年も戦っているのに何一つ好転しなかったんだよ? それがあんな若い子達4人だけで討伐出来そうな状況。私は何をしていたんだろうって」

 

あの時この子達がいたら、なんて思ってしまう。

同胞が死なずに済んだかも。いや、そもそも略奪が起こらなかったかもしれない。

 

あ~何を考えているんだ私は。

 

「ん~解決したのは確かに僕らの時代だったけど……キロさんは父さんの事も知っているんだよね? 数百年かけて自分の中の賢者の石の魂全員と対話した事も、錬金術封じの対策を打っていた事も。ホムンクルスも僕ら2人で全員を相手にしたわけじゃない。僕なんか1人も倒していないしね。如何に協力者が揃ったかじゃない?」

 

「……アル達の場合はホーエンハイムさん、ウィンリィ、イズミさん、シンの人達、軍の人達、傷の男(スカー)……キメラの人とは元々対立していたっけ。ヨキって人にも驚いたよ、ただの悪徳軍人で終わらないとはね。確かに私が知っているだけでも数えきれないほどだね」

 

「でしょ? 僕と兄さんも、個々の力なんてたかが知れていたんだよ。何かを解決しようとする意志の波みたいなものが時代にあるんじゃないかな。それが僕の時は14、ライザ達の時は17前後、キロさんは……ま、まあタイミングだよ!」

 

人の事を老婆と言おうとしたね? この男。

適当な年齢を口にしていたらハゲにしてやろうかと思ったけど……まあいい、止まったし。

 

意志の波ねえ。私にとってのタイミングが今、か。

 

「そういう事にしておくよ。そろそろココアを持って行ってあげたら? 私よりもクラウディア。こっちで洗い物はしておくよ」

 

「ああうん、そうだね。クラウディアにはどのくらい練ればいいかな」

 

以前も思っていたね――事の中心にいるのは私じゃなくてライザ。

私はあの子を取り巻く事情の出演者なんだろう……少し憧れる気もする。

 

それなら精々その中で与えられた役柄を演じよう。

それが、私にとっての悲願にも繋がるのだから。

 

あと14時間くらい、かな。

 

 

 

 

 

 

「遂に明日、か」

 

「ああ。まさかこんな僻地でこれほどの進展があるとは思いもしなかったぞ。加えて条件も最高としか言えん」

 

故郷(オーリム)から逃げ出して数十年。

それからは、少しでもあちらを汚すまいと門を閉じる事に専念してきた。

 

それがまさか、女王を討伐する機会を得られるとは。

 

「出来過ぎもいい所だ。装備は充実し、戦力については最早想定外の域。この機を逃したら二度と来ない気がする」

 

「全くだな。未知の力を持つ錬金術師に最強クラスのお前さんの同郷、更には師匠をあっさり超える弟子とその友。私にそんな良縁も人徳もない。文字通り奇跡の産物だろう――またこの右腕を使えるほどの、な」

 

まさか同胞の生き残りに遇えるとは思わなかった。

そして優秀な少年少女達。極めつけは異世界の英雄級の存在まで。

利害の一致があるとは言え、全面的に協力をしてもらえる。

 

どの町に行こうが凡そ奇異の目で見られていただけだったのに、随分と変わった。

しかも一部はあのクリント王国の末裔――巡りあわせとは不思議なものだ。

 

「私も少しは過去を清算出来る時が来た。弟子に置いていかれんようにも精々気張るさ」

 

「その弟子の成長が間近で見られないのは残念だがな。それよりも、ボトル組では私達二人が足手纏いかもしれんのだぞ? 気張る程度では足りん――死ぬ気でやれ」

 

「冗談でないのが恐ろしい日が来るとはな。やれやれ……」

 

レント達に関しては心配ないだろう……本当に強くなった。想定を遥かに超える成長だ。

厳しい課題で適当にあしらおうとしたのが大間違い。覚悟を甘く見ていた。私の目も節穴だな。

白牙氏族相伝の技と比べて、たった2か月で3分の1の威力だと? 軽く眩暈がしたぞ。

 

この件が片付いたら、存分に身体を苛め抜かねばな。

そうしなければ……あの子達の師匠など名乗れないのだから。

 

 

 

 

 

 

「明日、かぁ」

 

アレ(蝕みの女王)と、戦う。

 

怖い。

 

戦う事も、みんなの力になれるか分からない事も。

 

演奏していて不安になる。

ちゃんと魔法は発動するのか、せめて足止めになっているのか、回復できているのか。

 

役に立っているのか――見捨てられないか。

 

自信が無い。

 

欲しい物は目に見えないものばかり。

魔法の力、演奏の上達……友達との繋がり。

 

友達が出来るなんて思わなかった。昔から人との付き合いなんて一時の事。ほとんど一人ぼっち。

お父さんの仕事先の町で他人の顔色を窺って、愛想笑いを浮かべる。それだけだったのに。

 

一緒に遊んで、一緒に食べて、一緒に寝て、一緒に働いて、一緒に冒険して、一緒に戦う。

――虹色の日々。

 

それが、明日壊れてしまうかもしれない――私の力不足で。

だから今日は唯一私だけがやっているお菓子作りに精を出した。少しでも自信を付けたくて。

 

でも、やっぱり不安は拭えない。

 

「クラウディア、大丈夫かい?」

 

「あ、はい。すみません」

 

文字通り、世界の違う力を持った島の道具屋の店主さん。

私の知る限り、出来ない事が何なのか分からない大人の人。

私の歳の頃には……国一つ救った人。

 

「はいココア。飲んだら少しは落ち着くよ」

 

「ありがとうございます」

 

聞いた限りでは間違いなく天才の部類に入る人。

でも、大事なのはその才能を開花させた事。

自信を持って、頑張れば必ず出来るって信じて、ひたすらに研鑽を積んだ事。

 

なんで、そこまで自分を信じられるんだろう。

 

「あの……アルさん」

 

「うん? なんだい?」

 

「アルさんはあちらで……なぜ錬金術を、賢者の石を手に出来るって思ったんですか?」

 

不躾な質問――でも聞いてみたい。

あちらでも伝説と言われるものに、なぜ全力で近づこうと思えたのか。

 

「……それしか選べなかったんだよ」

 

「えっ?」

 

伝説に挑むしか、選択肢が無かった?

 

「あちらの世界で……本来僕はもうこの世の存在じゃなかったんだよ」

 

「アルさんが……あのガリガリだったってお話ですか?」

 

14歳当時がそうだったって聞いたかな。やっぱりもうお身体が……。

 

「それも関係するんだけど……賢者の石がなければ生き残れない、当時僕らはそう判断するくらいの状況でね。その為の覚悟も決めたんだ――絶対に道を(たが)えないように」

 

「戻れないように……?」

 

「家を焼いた」

 

「焼い!?」

 

そんな、出鱈目な。

 

「逃げ場を消したんだ。それが一番確実だから。後はまあ……若さで増長していたのはあったね。錬金術で解決出来ない事なんて無くて、僕らに出来ない事は無いって。現に兄さんは天才で、出来ない事は殆ど無かったんだ……うん、殆どね」

 

当初は過信があったのかもしれない。

でも何かがあって、伝説を求めざるを得ない状況になって、絶対に達成するべく逃げ道を塞いだ。

不安であろうが前に進むだけ。出来る出来ないじゃなくて、やるかやらないか。

 

そういう覚悟の違い。出来ると思う自信じゃなくて、決心を貫き通す自信。

 

「まあ……だから若さ故の過ちから引き返せなくなっただけなのさ」

 

「その一文だけ聞くと違った意味に聞こえますよ?」

 

アルさんは大人なんだからご経験も……いやいやいや何を考えているのこんな時に私は!

とにかく! 強くならなきゃいけない理由があって、そのために逃げ道を塞いで、そのために頑張った! それがなんで国を救う事になるのかは分からないけれど。

 

「という事で大した根拠はないよ。それしかないと思っていただけさ。こんなとこかな?」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

つまり私の場合は、ライザたちと一緒にいるためには強くなきゃいけないから。

ライザたちと一緒に居るって決めたから。

 

ひたすら頑張る――がむしゃらに!

 

自信なんていらないんだ。絶対にやるって決めて、突き進む! ライザみたいに!

 

んくっ、ぷはぁ!

 

「ごちそうさまでした!」

 

「元気が出たならよかった」

 

「それじゃあ、アルの女癖の悪さを治すとしようか……」

 

後ろからキロさんがゴミを見るような目でアルさんを見下ろしてる……。

さっきの一文から聞いていたんですね?

なんだか、さっきまでの不安がバカみたいに感じる寒気がするよ。

 

「えっ!? ゴメン何の話!?」

 

「既に言質は取った。「若さ故の過ち」だぁ? その性癖――矯正し(切り取っ)てあげるよ」

 

「なんかすっごい不穏な単語になっていないかい!?」

 

「間違っていないよ――去勢すれば矯正されるでしょ? ……このノコギリを使おうか」

 

「それ取り返しが付かないから! マジで止めて!? まだやめたくない!!」

 

なんだかホラー小説の犯人を彷彿とさせる雰囲気――本当に仲がいい。

決戦前日とは思えない騒がしさ。

でも比較のしようもない最高戦力なんですよね……。

 

つまり、そのくらい振り切った方がいいのかな?

いままで短めの曲ばかり吹いていたけど――最後まで、フィナーレまで奏でてしまえば。

 

 

 

 

 

 

「ついに明日、なんだなあ」

 

ライザに付き合ってから無茶苦茶だ。いつもの事だけど今回は度を超えてるよ。

クリント王国や古代文字に関する知識が得られたのはよかったし、先生たちに会えたのも、クラウディアに会えたのも良かったけどさ。

いくら何でも、魔物の親玉まで相手しなくちゃいけないなんて思わないよ。

 

怖いけど……もうここまで来ちゃったし、引き返せないんだよなあ。

 

「タオ、目が悪くなるぞ。本は明るい所で読め」

 

「っ……ボオス」

 

「そう警戒するな。もう一々突っかかったりしない」

 

もうボオスもほとんどの事情を知っていて、僕たちとは別方向で動いてるんだもんね。

 

「ランバーはどうしたの?」

 

「アンケートの体で観光客への聞き込みをさせている……明日らしいな」

 

「それも知ってるんだ?」

 

「先刻ライザから聞いた。絶対達成するから、島民の移動はギリギリまで待ってくれともな」

 

ボオスは僕らが失敗した場合の後始末を担当してもらう事になってる。

この場合、一番割を食うのはボオスなんだよね。

 

「……逃げてもいいと思うんだがな」

 

「えっ?」

 

「今はキロ達やエルリックさんを筆頭に――元々の俺達では考えられん戦力を持っているからこそ今回の作戦が取れている。掟に従っていれば……俺達は何も知らずに湖の底、あるいは対岸に避難した所でフィルフサに蹂躙されて終わりだった。今からでも島の生活を捨てればかなり楽になれるはず。お前達が戦えて、対応出来ているって事が異常なんだからな。知らぬ存ぜぬで行く末を見る形でも、責められるやつなぞこの島にはいないし許しもしない」

 

「それは……」

 

少し前ならそれしかなかった。

何も知らずに事が進んで……ボオスの言う通り僕らが全滅するか、アルさんや先生たちが解決するか、だよね。今はキロさんも居るし、正直僕らなんて要らない気がする。

 

「そうかもね……だけどさ」

 

「うん?」

 

もう、僕たちは踏み込むと決めたんだ。

 

「もう知っちゃったからさ――クリント王国の事も、オーレン族の事も、水の事も。僕はずっと知りたいって思ってた。最初はライザに巻き込まれただけだったけどさ、色々知って……僕の先祖なんて直接関係してる事すらわかってきた。途中からなあなあだったけど、もっと知るために色々面倒を見てもらってここまで来れたんだ。そこから脇道に逸れるってのはね。だから怖いけど……逃げる気はないよ」

 

「……はぁ。まったくどいつもこいつも」

 

ボオスは心底めんどくさそうに頭を掻く。

 

「島の掟は、お前らみたいなやつを作らん為の物だったのかもしれんな。気が休まらん」

 

「そういうお前は神経質すぎんじゃねえか?」

 

何処からか戻ってきたのか、レントが来た。

まあボーデン地区にはレントの家もあるし当然だけどさ。

 

「俺は頭ワリイからブルネン家の役割がどうだってのは分かんねえけどよ。お前はお前でやりてえ事をやりゃいいんじゃねえか? 島のやつらも、お前ら親子にいつまでもおんぶに抱っこでいるべきじゃねえんだよ」

 

「自立心の強いお前らしいな。それも一つのやり方だろうが……ああ、こういう考え方自体が囚われているのか」

 

「それはそれで必要な考え方だと思うけどね。島民がみんなライザみたいだったら……もう集落の体を成してない気がするよ」

 

「違いないな」「違えねえな」

 

本人に聞かれてたらカバンに蜘蛛でも敷き詰められそうだけど。

 

「レントに関しては……お前はそこまで悩むタイプでもないか」

 

「色々背負っちまったけどな。ただ強え魔物と戦って武勲を上げて、島の大人やお前らを見返してやれればそれでよかった。それが今じゃ、ずいぶんと重くなっちまった」

 

はぁ、と一息つく。けど、その表情は明るい。

 

「だけど、やる事は変わんねえよ。見返りなんざ求めずただ必要な戦いをするってのが戦士ってもんらしいからな。正直俺が何になりてえのかなんて分かんねえけど、今の俺に出来んのはそれだけだ。そんだけの事さ」

 

「レントは……怖くないの?」

 

「怖えよ? だけど恐れってもんはあって当然で、必要なんだとさ。それに――怖かろうがなんとかなるようにしてもらったんだ。ここまで鍛えてくれたリラさんたちを信じるだけさ」

 

「筋肉脳め」

 

「うっせえ理屈ゴネめ」

 

清々しいまでに真っ直ぐだ。僕は変に考えすぎてるのかなあ。

 

でも……レントだって怖いんだ。なんだか安心した。

なら、僕の中で出来る事をしよう。

 

「……時にタオ。お前は今後もクリント王国についての勉学を続けるつもりか?」

 

「そうだね。せっかくここまで知る事が出来たし文字も読めるようになったんだし。やれるところまではやってみたいと思うよ」

 

う~む、とボオスが逡巡する。そして――

 

「タオ、王都に来る気はあるか?」

 

とんでもない提案が出てきた。

 

「えっ?」

 

「俺が留学する話をした際に言っただろう? 島で学べる事には限界があると。まああの2人の話を聞く限り、王都よりこの島の方がクリント王国に関する情報は多いかもしれんが……調べ方やクリント王国と繋がりのあった別の何かについての情報は、王都の方が得られると思っている」

 

たしかに僕の調べ方は我流だった。

先生のおかげでかなり進んだけど、同じ我流のアルさんはほぼ完全解読に至っていた。

何かを調べるための勉強ってのも必要なのかもしれないね。

 

「お前がタオを連れてくってのか?」

 

「1人くらいは何とかなるだろう。タオでは王都に伝手が無いし知らん事だらけだろうから暫くは面倒を見よう。タオの頭の良さは知っている。あちらでの試験通過は順当だろうし、場合によっては特別待遇が受けられるかもしれん」

 

このままここに居たら、そんな機会はなかなか巡ってこない。

でもヤギの世話とかもあるし……。

 

「う~ん、ちょっと突然すぎて……少し時間を貰えるかい?」

 

「ああ。だが事が理想的に進んだ場合、王都への出発は一週間後が目途だ。あまり時間はないからな」

 

「わかったよ」

 

「タオも出ちまうか……」

 

「レントも?」

 

初耳だ。

 

「ここに居ちゃ戦える魔物も会える人も限られちまう。クソ親父と似たような方法なのが気に食わねえけど……世界を回ってみようと思ってんだ。ラムローストくん2号の記録みてえにすげえ記録を出せる人に会えるかもしんねえしさ」

 

「なんだその珍妙な名前は?」

 

そうだったんだ。レントも次の道に進むんだね。

そうなると、誰がライザの面倒を見るんだって話になりそうだけど。

 

――今のライザなら、大丈夫なのかな。

 

「ま。その辺はやる事やってからだな」

 

「そうだね。それじゃあまずは」

 

「おう、女王をぶっ飛ばすぜ!」

 

「おい、俺の質問はどうなった?」

 

「道具の名前だよ」

 

女王退治が終わりじゃない――もっと前に進むんだ。

 

 

 

 

 

 

「はあ……モンキーレンチで殴られる兄さんの気持ちが少しわかったよ」

 

「あんな話をクラウディアにするんじゃないよ。私なんて魔法で回復させようか考えていたのに」

 

「そこまで過保護にしなきゃいけないかな? 僕は、あの子達はもっと魂が強いと思っている。それに……守られてばかり~って思われているみたいだし。もっと現実を知ってもらいたい」

 

「例え話をするのに貴方の記憶はあまりに刺激的すぎるよ。ニーナの話を出すんじゃないかってヒヤヒヤした」

 

「しないよ、絶対に。あれは誰かに話すものじゃない。僕らが一生背負うものだ」

 

「分かっているならいい……うん、貴方達は見ただけじゃなかったしね」

 

「あれは僕ら錬金術師の業。僕は魂だけだったからよかったのかもね。精神まで入っていたら……壊れていたかもしれない。特にライザには話せないね」

 

「私としてはアンペル辺りが暴走しそうで怖いね。この世界から錬金術を抹消すべくスカーみたいになりそう。リラも近そうかなあ」

 

「気を付けるよ」

 

「ん。さぁ明日か……まだ何かする事があるの?」

 

「やろうと思えばいくらでも。でも、正直その後の事の方が僕としては不安だよ。未知すぎて」

 

「私もわかんないけど……影の方も十分未知なんだから気を抜かないでね」

 

「勿論だよ。ここは僕にとって第三の故郷なんだし」

 

「ならいい。あー貴方と話しているとホントに色々調子が狂う。舌がよく回るし顔に出る」

 

「今まで話し相手が居なかったせいじゃないのかい?」

 

「覚えていないけど……そうでもない気がする」

 

「そうなの? 割と最初から説明とかしてくれていたけど」

 

「そこから既におかしい。ボオスとは大して話してないはず。あの子が憔悴していたのもあるかもだけど、考えていたのは精々保護と送還方法だけだった。仲良くなるとか相手を知るとか、そういうのは無かったはずなんだよ」

 

「そっか……まあでも、いいんじゃない? 今のキロさんも、キロさんの一面なんだろうさ」

 

「まあ特別悩む必要はないか。そういう事にしておこう。さてと、寝よう。これって割と大事だね――頭の中が整理出来る事が多い」

 

「全ての動物に与えられた権利なんじゃない? そう考えると……大精霊っていうのはホントに別の存在なんだって実感するけど」

 

「貴方の場合は誤魔化されているに過ぎない。不足分を何かで補われているだけ。寝れる時は寝るんだよ……後4時間は寝れるでしょ? せっかく人の身なんだから寝なさい」

 

「また朝から騒ぎは勘弁してほしいんだけど……」

 

「精々気を付けたまえ」

 

「誰のせいだと思っているんだい?」

 

「自業自得じゃない? はいはい準備準備。服借りるよ?」

 

「どうみてもデジャブだよね?」

 

「あはは」




各々こんな感じに前日を過ごしていました。
クラウディアは精神的支柱が折れた瞬間に崩れ去りそうな気がするんです。
レントはやはりいい兄貴分ですね。

そしてまあ、明朝の騒ぎは待ったなしです。


これで第八章は終了です。ご読了お疲れさまでした。
ここまで2000人もの方にお気に入りのご登録を頂き、感謝致します。
読者時代には考えてもみませんでしたが、本当にすごく励みになるんですね。

また数日頂きまして、終盤の第九章を開始致します。もうここからは走りっぱなしです。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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