ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
本章期間中は感想返しや誤字報告適用が遅れてしまう見込みです。
失礼かとは思いますが宜しくお願い致します。
終盤に突入です。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
やっとここまで来たんですが、作中の経過日数はたった84日……。
ひと夏の冒険は伊達じゃないですね。
それではこの84日目のみで構成される本章をお楽しみください。
話の構成の都合で、これまでより文字数が少なめの回が多くなりました。
予めご了承ください。
今回もよろしくお願いします。
89. 84日目① 大団円のために
う、ぅん。
日の出前……4時過ぎ?
さすがに早いかな? 緊張のせいだよね、多分。
オーリムへの突入開始は10時、工房には7時に行けばいい予定。
さすがに3時間あるのは長いね。二度寝するにも微妙。
……ちょっと散歩でもするかな。
「今日も暑くなりそう」
この時間って事もあるけど雲一つない。ホントにもう乾季寸前って事が分かる。
空はどこまでも広い。そりゃあこれを空読みが見たら乾季だって思うよね。
「今年のヴァッサ麦の出来栄えはどんなもんかしらね?」
大して手伝ってないけど、ここ数年ではぶっちぎりに手伝ってるはず。
お父さん曰く麦や土やらは喜んでるらしいし、良い物が出来てると願おう。
他所の畑も良い物になってるかな?
今年は比較的天気がよかったし……アルさんの肥料とか、開墾技法も広まってきてる。
元々、以前と比べてずっと良くなってるんだ。
せっかくアルさんが、あたしたちの生活が良くなるように努力してくれてきた今のクーケン島。
その維持のためにも――お借りしていた水を返すためにも。
みんなの日常を護るためにも。
絶対に女王を倒す!
「おやライザ、もう起きていたのかい?」
「うん。ちょっと早く目が覚めちゃって」
帰ってきた時にはお父さんがもう起きてた。まあいつも通りだけど。
「今日もお店番……いや、今日はお休みだったね」
「そうだよ。だから今日は別の用事」
用事というか……決戦というか。なかなか大がかりだけどね。
「そうなのかい? 昨日の仕事ぶりを見せてもらって思ったんだけど……ライザの才能はああいった事に発揮されるものだったんだね」
「まだまだ分かんない事だらけだよ。でもあたしに何が出来て、何が出来ないのかもはっきりさせないといけないから」
色々試すっきゃない。ただまあ……今度は島のみんなに迷惑をかけないような形でね。
「じゃ、行ってくるよ。今日はちょっと時間がかかりそうだから」
まだ早いだろうけど。まあアルさんたちか、クラウディアももう起きてるでしょ。
「ライザ」
「うん?」
なにかな。
「無事に帰ってくるんだよ」
「……っ、なあにいきなり? いつも通りだよ。ちゃんと帰ってくるから」
「約束しておくれ。いつも通り、元気に帰ってくると」
何も話してないはずなんだけど……あたしそんな顔してるのかなあ。
「約束するよ。無事に……笑って帰ってくるからさ」
去り際に見た――お父さんの寂しそうな顔が、頭に残った。
島の様子はいつも通り――うん、いつも通りだ。
みんなもう農作業を始めてる。あたしにも声をかけてくれる。
みんなは島を取り巻く状況なんて知らない。人工島って事も、フィルフサって魔物の事も。
知る必要はない事だしね。本当に知ってもらった方がいいのはもっと別の事だ。
「おはようライザ!」
「あ、おはようクラウディア。ちょうど良かったね」
お屋敷から工房に向かって来てたクラウディアと合流。
大体こんな時間になるよね。クラウディアの場合はキロさんのおせ……差し入れもあるし。
……いや、あそこでの食事当番は本来あたしのはずだったよね? これまでに何回やった?
「昨日は眠れた?」
「思ったよりは、かな? 本当は昨日不安だったんだけど……元気を貰える事もあったから」
「へえ~」
営業中に良い事でもあったのかな?
でも正直安心した――クラウディアも不安だったんだ。
それを聞けたって事は、それだけ我慢せずにいられているって事かな。
「ライザは?」
「新アイテムを色々考えちゃってね。とは言っても、今日でケリが付けられるなら無用の長物だと思うよ。あたしも朝は早く起きちゃったかな」
以前キロさんが言ってた地震を起こす鎚。なんとなくイメージが付いてしまった。
そこから、こんな事もできるんじゃないかってシロモノも。
ただまあ……アレはアルさんの懸念が形になったものなんだろうから、事が終わったら即処分だ。
さてさて――あれ? 早いとは言っても。
「……CLOSEだね?」
「うん……なんだか、以前のアレを思い出すよね」
アルさんシャツ同衾赤飯事件。
まあキロさんはここにしょっちゅう寝泊まりしてるらしいし、あの2人は大人だ。
あたしがどうこう言う事じゃない。
それはいいんだ、あたしに関しては。いろいろ思う所はあるけどさ?
問題は。
「――女王を倒したら、お祝いだね!」
「うん、そうだね……」
なんか違う意味がこもってる気がしてならない。
さてと、合鍵合鍵。
カチッ ガチャン
ガランガラン
「……やっぱり、いらっしゃらないね?」
「そうだねえ?」
普段のアルさんならこの時間には起きてるはず。
となると――この前のアレがフラッシュバックするんだけど。
「ゴメンゴメン。爆睡してた」
トタトタという足音と共に二階からキロさんの声が降ってくる。もういいや、それに関しては。
こっちの声が聞こえたみたい。
さて。今回見るのは普段着か、生脚か、それとも。
「私の服、何処へやったかな?」
どっちでもなかった。
生脚には違いなかったけど、肌が見えてる面積は以前より小さい。
問題は着てるもの――羽織ってるだけとも言える。
「……あの、キロさん。なんでシーツを羽織っているんですか?」
「いや、服が見つからなくてね?」
「昨日はどちらに?」
「こちらに」
「下着は?」
「上が行方不明。昨日湯浴みした時にどうしたっけ? 暑くてどこかに放り捨てたかな」
「知らないですよ!」
前回より状況がヒドイ……。
とうとう着てるものが服ですらなくなった。
クラウディアはもはや尋問モードだ。顔は笑ってるけど噴き出す魔力がヤバい。寒い。
「アルさんは今どうしてるんですか?」
「まだ寝ているよ。そろそろ起きるとは思うけど……アルに任せたんだっけ?」
「何を任せたんですか!? 後始末!?」
過剰反応気味になりつつある……どうどうクラウディア。妄想が妄想を呼んでるよ。
とりあえず一個ずつ確認していこう。
「キロさん。昨日寝る時は服着てました?」
「ん、勿論。アルのを借りて寝た。ここに私用の寝間着なんて無いし」
それも結構複雑だけど……まあいいや、この場ではささいな事だ。
「今着ていないのは?」
「着替えようと思って脱いだのはいいんだけど……私の服が見つけられなくて。で、下からライザ達の声が聞こえてきたから一旦降りてきた所。もしタオとか居たらマッパはマズいと思って、取り敢えずコレを羽織ってきた」
割とまともな倫理感で助かります。でも普通は寝間着を着直します。
「つまり……さっきまでは服着てたんですよね?」
「そうだよ? 私は緑羽氏族と違って露出趣味は無いから。需要も無いでしょ」
「昨日は同じベッドで一緒に寝ただけですか?」
「そうだよ? 一個しかないし……え? 何を想像されているのかな?」
「わ、私……また早とちりを……?」
「前に言ったかもだけど、私とアルはそういう関係じゃないよ……アッチはその気ゼロだろうし」
今度はクラウディアが沸騰してる。忙しいね。
とりあえず乗り切った……女王との決戦前に戦闘不能になる所だった。
キロさんが他の人よりも一歩以上アルさんに近いのは間違いないんだろうけど、その先にも鉄壁が待っているらしい。難攻不落とはこの事だね。どう攻めればいいんだろう?
「キロさん……やっぱりこの眠り方は目覚めがすっきりしないよ。変な感じだ」
アルさんも起きてきた。眠りの魔法はかなり強力らしい。ちょっと髪が跳ねてますよ?
「アル、私の装束って何処にある?」
「作業場にあるよ……所々
「……あーそうだった。2階に持ってきてもらえばよかったね。下着は?」
「知るわけないでしょそんなもん……ライザ達もおはよう。不格好で悪いね」
「おはようございます!」
「おはようございます……」
いよっし! クラウディアが完全鎮火したね。アルさんの反応が普段通りなのが功を奏した。
しかしアレだね、この店がCLOSEの時はクラウディアを入れちゃいけない――都度工房が凍る。
今後は気を付けよう。
「う~ん、やっぱり暑かったから寝ている間に適当に脱ぎ捨てたのかな? もっかい見て来よう。あ、クラウディア、20枚。今日はしっかり食べるよ」
「分かりました」
「平常運転だねえ」
今日「は」?
アルさんの言う通り、いつも通りですよね? 一切緊張してないのが分かって何よりだけど。
キロさんってプライベートでは相当にズボラなのかもしれない。
しかしまあ、男性の隣で素っ裸でいる度胸はあたしにはない。
タオが居たらヤバかったかも……いや、あの子は多分「シーツ踏みますよ?」かな?
レントは「その状態でも戦えるんっすね?」で。
問題はボオスか。まともな格好で寝静まるまで見張られそうだ。
アルさんもキロさんの話にほぼ無反応――あたしは自意識過剰なんだろうか?
「ご馳走様。これで昼まではもつかな。どのくらい戦闘が長引くか分からないし」
「ああ、一応それを考えての事だったんだね」
「11時戦闘開始として、昼までに終わるとは思えないですからね」
「なんでみんな疑問に思わないのかなあ……」
どう考えてもキロさんの体型で、胃の中にパンケーキ20枚は収まらない。
食べながら消化してるとしても無理がある気がするんだ。
胃の中で圧縮されてる? 考えるだけ無駄だよね……。
「タオとレントはこっちに来るの?」
「いや、2人は対岸で集合らしいよ。だから僕らが行くだけだね」
「じゃあ8時30分くらいには出た方がよさそうですね」
「入り江の遺跡にはどのルートで行きますか?」
「ライムウィックの丘から南壁を越えよう。無駄な戦闘を避けるにこした事はないから」
もう移動経路もおかしくなりつつある。気にしちゃいけないけど。
さぁて、行きましょうか。
「来たようだ。いい時間だな」
「アルがいるんだ。時間にルーズにはならんだろう」
「キロさんだと時間感覚がズレて大変そうっすね」
「まあ……な。今のあちらは昼と夜の違いが分からんからな」
「あっちって、なんで太陽が黒いんですか?」
「分からない。ただフィルフサどもに周辺を汚染され始めた頃から徐々に暗くなっていった。太陽そのものを汚染するなど奴らにも出来んだろうから、遮られているようなものなのだろうが……」
あっちは4人とも集まってるわね。直ぐに出発できそうだ。
「お待たせしてしまって申し訳ないです」
「気にしなくていい。まだ予定より早いしアップの時間も取れた」
「あそこに行くまで戦闘は回避するからな。温まって丁度いい程度だろう」
「軽く身体動かして程よくって感じだな。今日はタオがいるから俺も泳いでねえし」
「ボオスが居なかったら泳いで舟を引っ張るつもりだったんだよね……?」
「やっぱりバカ?」
「これはアホの方だと思うかな?」
「なかなか2人とも辛辣だね? 割とクラウディアも言う様になって何よりだよ」
なんで決戦直前に体力を使い切りそうな事をしようとするんでしょうねえ。
こればかりは2人を見送ったらしいボオスに感謝しよう。
んでクラウディア。バカとアホの違いってなんなの?
「では向かうとしよう。遅いより早い方がいいだろうからな」
フルメンバーで対岸から出発するのは久々だね。聖塔以来だから10日ぶりか。
最初はアルさんと2人、次はいつもの3人、そこからクラウディアを入れて4人。
それが今や8人の大所帯。賑やかになったもんよね。
これが……単なるピクニックだったらどんなに良かったか。
既に、アンペルさんが持ってる袋の中からイヤな気配がしてるんだから。
道中の戦闘はなるべく回避。今のメンバーなら積極的に襲ってくる魔物でないなら捕まらない。
最初にボオスを探しに行った時が嘘みたいに、あっさり門の前にご到着。
まあルートも違うし、反則技も使ってるしね。
さてと。
「あの時のまま、ですね」
「先日私が見たばかりだからね。これで罅とか入っていたら割と笑えない」
「じゃあ、僕は先行してあっちの石壁に穴を開けてくるよ。もし群れていたら露払いも」
「私が同行しよう。単にフィルフサを潰すだけなら私の方が体力を使わずに済むだろうからな」
オーリムへの先遣隊はアルさんとリラさんが買って出てくれた。
アルさんは必須だし、リラさんならまず心配いらないしね。
「それじゃあ……今のうちにライザ達にあっちでの道順を伝えておくよ」
2人が門の向こうに消えてから、キロさんがあたしたちに向き直る。
「私の拠点までは分かるね? 周辺はアルに壁を張ってもらってあるけど、あの拠点から先に進んだ所にはトンネルがあって今は大岩で塞いである。先に進む為にその岩を吹っ飛ばして」
「つまりは」
「俺たちが通った後はフィルフサもそこを通れるようになっちまうわけだ」
「様子を見ながらだけど……道中のフィルフサはどうしよう?」
「穴の大きさ次第だけど――数が多いなら私に考えがあるよ」
誰も岩を吹っ飛ばす事に疑問を抱かない。みんな感覚がマヒしてきてるわね?
そしてクラウディアの提案に少し不安を感じる。失敗云々じゃなくて周辺の被害的な意味で。
あたしの新アイテムもあるし状況を見ながらかな。多分たくさんいるんでしょうし。
「トンネルの先は霊祈氏族の郷になっているから、黒い太陽に向かって進んで。人工物っぽい物が増えて来ていれば間違っていないから」
「クリント王国の物ですか?」
「全部ではないかな。彼らのアトリエもあるし私達の建築物もある。そこから更に先に進めば大きな祭壇の塔が見えてくるよ。もはや略奪者の塔だけどね。多分……そこに蝕みの女王がいる」
アレの白い版、かあ。
一回はそれっぽいのを見たんだし、その時ほどのインパクトは無いと思いたい。
ボトルの中で地獄は十分に見て来たしね……。
「女王を倒す事が出来たら戦士の証を持っていないか確認して。多分胸殻周辺だから。あったら勿論回収。止めは出来る限りライザが刺すように。この後は以前話した通り――覚えている?」
「えっと……もし女王が復活したら、即離脱」
「あとは、女王がわけわかんねえ事になっても」
「すぐに退避、だね」
「事がうまく運んだ場合は……フィルフサの行動が変わるんでしょうか?」
「徐々に群れを成さなくなるとは思うけど……すぐには変わらないんじゃないかな。暴走するって事は無いはずだから落ち着いてここまで戻ってきて。そこまでが今日の理想だよ」
「女王を倒せないと判断した場合も迷わず離脱するんだぞ。今日で全てを終わらせる必要はないし――なによりお前達の命が第一なのだからな」
「分かりました、先生」
キロさんの指輪や中枢をいろいろ弄ってもらったおかげで、少しだけど島の寿命は延びてる。
一回で終わらせようと決めつけちゃダメね。いのちだいじに、だ。
「今の内に聞いておきたい事はある?」
「う~ん……」
聞いても情報過多になりそうなのよねえ、あたしの頭じゃパンクしそう。
「キロさんの予想が付く範囲で、女王について気を付けた方がいい事ってあるっすか?」
お、割と当たり前に欲しい情報だった。ナイスレント。
「そうだね……今まで聞いた事も併せて考えると女王は翅持ちだろうから、飛ぶ事はないだろうけど翅を広げたら多分一層攻撃的になるし、なりふり構わなくなる。まずは攻撃より回避を優先」
「うっ……そんなところまでカマキリっぽくならなくてもいいのに」
「威嚇の意味合いとか、最後の抵抗でも身体を大きく見せるんだったかな? あれだけ大きい身体がもっと大きくなるのは、当てやすくはなりそうだけど……」
アレを未だに虫として捉えられるタオもタオだし、攻撃しやすいって考えるクラウディアもクラウディアだ。回避しろって事に耳を傾けてほしいのはあたしだけなのか。
「戻ったぞ」
「ただいま」
お、先遣隊の2人が戻ってきてくれた。
当たり前だけどノーダメージ。よかったよかった。
「どうだった?」
「壁の内側は安全なようだ。侵入された形跡はないし汚染も進んでいない。が……音を聞く限り外は相当な数だな。キロが始末していなかった日数分が溜まっているのだから当然だが」
「他の様子は特に、だね。着々と進行中ってとこだろうさ。なんにしたって一旦数を減らす必要はあると思うかな」
女王を討伐出来なくても、あたしたちが少しでも数を減らせば侵攻を抑えられるかもしれないか。
掃討は無理でしょうけど、出来るだけ減らしときたいね。
まあクラウディアがやる気満々らしいし……。
「あいつらの事だから自分達を踏み台にして壁を乗り越えてきそうだね――じゃあ、時間も良い所だし始めるとしようか」
ん! よし、気合い入れ直せ!
「当初の予定通り、今は10時前。作戦を開始して11時までに女王の前に到着。11時になったら女王と戦闘開始。戦闘終了次第、即時撤退。その際に戦士の証の回収が第二目標――いいかな?」
「「「「はい!!」」」」
「腕が鳴るな」
「ボトルの中なら私も十全に力を振るえるからね。遅れは取らないよ」
「さてどの程度の物なのやら。おっと、ライザにはこれを渡しておこう」
アンペルさんから手渡されたのは――先端に赤い宝石の付いた杖。
武器、じゃないよね? あたしにはシーカーがあるんだし。
「これは?」
「フラムロッドという採掘道具で要するにフラムの爆発を杖を振るだけで発動させられる代物さ。岩の破壊程度にコアチャージを使うのは勿体ないからな」
超便利!
「ありがとうアンペルさん!」
「ライザたちは前に出過ぎんなよ。基本先頭には俺が立つぜ」
「じゃあ僕らの役割は周辺警戒だね」
「回復は躊躇せずに言ってね!」
「まずは皆無事に戻って来る事を第一に――それじゃあ、またここで」
さあ、ついに決戦だ。
出来る限りフィルフサの戦力を削って、可能な限り女王の討伐も目指す。
大団円以外の結末なんていらないんだから!
フラムロッドを出すタイミングを見失っていたなんて言えない。
それでは二体の女王討伐作戦開始です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。