ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
今回もよろしくお願いします。
みんなで最後の階段を踏み越える。
そこには――
「……あれ?」
「心配すんな……気配はしっかり感じるぜ」
およそ直径50mってところかな? 塔の頂上はそのくらいの広さ。
塔の向こうは荒野が広がって、まるで巨大な門のように黒い太陽が口を開けてた。
散開はあまりよろしくなさそう。階段側に逃げようにも間に合わないかもしんないね。
せいぜいあたしだけ集団から抜けるくらいか。
「……! 塔の下から何か来るよ!」
「なにかイヤな感じのものが……這い上がってくる感じ、だね」
クラウディアがそう口にしたと同時に……ドン! って何かが跳んでくる音がして。
ドスン! とあたしたちの前にソレは姿を現した。
グゥゥオオォォォォォォォォォォォッ!!
今まで見てきたフィルフサと同じ、白めの甲殻に紅色の模様。
おかしいのはそのサイズ――間近で見るとここまでデカいとは。
どう見てもヤバそうな左右のでっかい鎌。
まともに受けたら戦闘不能どころじゃない、そのまま身体の上下がオサラバかも。
今回の相手は……加減なんてしてくれないんだから。
戦士の証があるかもしれない胸殻ってのは、首の根元の丸い部分かな。
「ボトルで見たやつの完全色違いって感じだね。まず間違いないかな」
「つまり、これが……蝕みの女王なんだね」
「やっぱでけえな、6メートルくれえあるか? ここまで色々面倒かけさせられたが、ようやっとハイエツをタワマったってえわけだ」
「タワマるんじゃなくて
「アルさんたちの方も上手くいって、あたしたちの予想が合ってればだけどね」
まあ、あっちはまず大丈夫だよね。下手すりゃ瞬殺してそう。
問題なのはあたしたちの方だ。
ドンドンと音を鳴らしながら女王がこっちに近づいてくる。
いざ!
「さあ、ここで終わらせよう――何もかも! 神秘の羽衣!!」
あたしがアイテムを使う声と同時に、隊形をとって。
グゥギャアアアアァァァァァァァァァァッッ!!
あちらさんも間違いなくこっちを「敵」と認識した。
――戦闘開始だ!
「二人はしっかり後ろに居ろよ!」
「ありがとうレント君! ……フェアリーズギフト! ライザ、いいよ!」
「僕も行くよ! いっけえ結索の楔!」
「おっけい! んじゃあたしも、コォーリングスタァーー!」
ドォウゥン!ドォウゥン!
ドンドンドンドンドンドンッ……ドゥン!!
しっかりクラウディアにバフをかけてもらって、まずはあたしの十八番から!
あたしの魔法の中では一番発動が早くて、ノックバックも大きいコーリングスターで出来る限り女王の封殺を狙う。
タオのも速度低下だったかな? 相変わらずクラウディアがハイテンションだね……。
さて効果のほどは。
「……身体デカすぎんのよ! 一歩も下がんないじゃない!」
「デバフはちゃんと効いてるくせえぜ。あの地獄の特訓は無駄じゃなかったってなあ!」
「フェアリーズギフト! レント君もOKだよ! タオ君の次手は?」
「早いとこ異常耐性を下げてみるよ! 「桎梏の罠!」ハモらなくていいから!」
この状況でもマイペースねえ。
感覚的なもんだけどボトルの中の甲虫種より防御は低めっぽい。体力がわかんないけど。
行動遅延はムリだね、鎌を狙って狙いを逸らすのが限界かな。
シーカーを使ってもこの程度だなんて。
と……うおっ!?
HUZETSUNOTOGE
ビビビビビビビッ!!
聞こえるはずのないナニカの声が聞こえた気がして。
女王が頭を下げたかと思ったら、空から大量に雷の棘が降ってきた!
だけどこんなもん、キロさんの炎弾の雨に比べりゃ小雨もいいとこよ!
「二人は下がってろよ! であっ!」
「ふっ、ほっ、ふんしょ! 攻撃手段は厄介くさいわね! レント、そっちは!?」
「アルさんの岩石パンチに比べたら屁でもねえよ! コッチはしっかり守る!ライザは自分の事に集中しろ!」
「ありがとうレント君! 力強く一気に、セイクリッドコード!」
「本当にアルさんたちっておかしいよね! これでどうだ、黒鳥の羽!」
「頼もしい事で! こっちも準備しときましょうか。シエルライト!」
タオのディスりがヒドイ気もするけど、ホントの事だから仕方がない。
あの巨体より威力のある攻撃を絶え間なく撃ってくるんだしねえ。
っ左鎌を振りかぶってくる!
「ソッチいくわよレント!!」
「分かってる!!」
NAGIHARAI
ブォン!
「ふんっ!」
ガキャッ!!
「がっ!? 見た目通りにやっぱ重てえ……っ!? 二人とも後ろに飛べ!!」
「えっ」
「ごめんクラウディア――飛ぶよ!」
ドォオオオオン!!
薙ぎ払われたと思ったら――地面が爆発した!
三人は……!
「……げっほ。チッ、めんどくせえ攻撃だなおい! タオ、クラウディア、無事か!?」
「こっちは無事だよ……タオ君、重くなかった? 大丈夫?」
「大丈夫だからレントの回復をお願い! ライザも遊撃に戻って! 躁術・絡繰り!」
なんとまあ――タオがクラウディアを抱えて回避した。
初めてフィルフサと戦った時は腰を抜かしたあたしを引きずるのも大変だったのに、あたしより少し背の高いクラウディアを抱えて飛ぶとは。
伊達にハンマー振ってないわね。加えて超冷静……やっぱりタオが一番性格が変わる。
それにしても、今までに戦ったフィルフサと違って攻撃方法がずいぶん多彩だ。
女王って言うだけあって頭がいいのかもしんない。虫の女王って司令塔だもんね。
とにかくあたしは撹乱とヘイト稼ぎに専念だ! 手数優先!
「コーリングスター……連射ぁ! それそれそれぇ!!」
「ちっとは俺も仕掛けるか、アクセルダイブ!」
「あんまりレントは無理しないでよ! 闇夜の帳!」
「次は岩穿ちあたりかな? それじゃあフラジオレット!」
「ついでにコイツも食らいなさい!」
ルナーランプをうりゃあ!
その演奏は魔法耐性低下だったかな? ならば魔法アイテム連射だ……って。
全身に寒気が走った。
「ライザ! 上!!」
……ヤッバ!!
TSUKISASHI
コイツ……思ってたより動きが早い!? こんな図体のデカさで反則だ。
上から右鎌が降って来る! リーチも長い!! 何より攻撃範囲が広すぎる!!!
速度デバフが切れた? クラウディアの声が聞こえた――回避は間に合わない、レントも遠い!
かくなる上は――歯ぁ食いしばれ!!
ブォン!
「農家の娘をなめんじゃないわよ! ふんっ……おっも……!」
うぎぎぎぎぎぎ!
シーカーが折れるなんて事はないでしょうけど、支えるあたしの腕がこんなバカでかい鎌の攻撃を受けきれない。ヴァッサ麦の袋満タン10袋分ってとこかしらね……骨が折れるっての!!
なんとか……弾くっ!
「てえいっ! ……ぷはあぁっ!」
「ライザ、後ろへ回れ! クラウディアは回復を頼む!」
「僕が前に出るよ! 鎚術・岩穿ち! はぁ!!」
レントたちが移動してあたしを隠してくれる。
あたしが陽動しなきゃなのに――ああんもう! 上手くいかない!
「ライザ! 大丈夫!? すぐに治すから!」
「直撃は食らってないけど、ちょーっち腕にキてるわね。レントのようにはいかないかあ」
ついでに脚にもキてる。
そもそもこんなバケモノの攻撃を受け止められるわけないんだよね、あたしなんかの鍛え方で。
今まで回避優先だったから……もっと防御も練習しときゃよかった。
一方で、あたしの知る力自慢の大人二人なら微動だにしなさそうだ。
あー痺れが引いてきた。
KESAGIRI
「さっきとおんなじか!? ……させるかよ、ディフレクトォ!」
ガギギギギ……!! ギィン!!
レントが真上から振り下ろされた鎌を大剣で弾く……器用なもんだなあ。
受け流しってのはああやるらしい。あたしにゃムリだ、回避に専念!
「懐が空いたね! 燃え上がれ、黄昏の炎! ……ライザ、大丈夫かい!?」
「大丈夫そう、ライザ?」
「ごめんねみんな! 大丈夫だから! 風で距離とるよ――バニッシジーゲル! 今のうちにみんなも階段前に戻って!」
ゴォオオオオオオオオオオッ!
あたしを守ってもらう都合で位置がかなり動いちゃってるから、早めに戻さないと。
……うわー、これは。
ヤバそうだ。
ヒィィイイイイイイイイイイイン
女王から黄色いオーラが放たれて。
MUSHIBAMINOSHINSYOKU
カッ!!
グゥゥオオォォォォォォォォォォォッ!!
「へへっ……いよいよ本気ってか? 鎌とかヤベえ事になってんな」
「笑い事じゃないんだけどね。でもこうなったって事は」
「ちゃんとダメージは与えられているって事だよ! 強化し直すね!」
「タイミングがよかったって言うべきかしらね……こっちもかけ直すよ! レントよろしく!」
「任されたぜ!」
影の女王よかマシなんでしょうけど――こっちもこっちで十分禍々しい。
ついに翅を開いた。加えて鎌とかも光ってすっごい嫌な感じしかしない!
図体1.5倍ってとこかな。虫の威嚇ってこんな感じなんだよね。
ああ、虫って事は。
「ああぁもう! 気持ち悪いったらありゃしないよ! 邪竜の尾!!」
「タオ! 我慢しろ! 今は防御優先だ!」
タオにとってはこいつも十分虫に当てはまるらしい。まあカマキリだしねえ。
――そしてまあ、これ見よがしに。
……ギ ギ ギ ギ ギ
来るか、一発目。
オーラも加えたらこの塔のてっぺん全てがリーチに納まりそう。
「こんなもん避けれっかよ……防ぐぞ! しっかり身ぃ守れよ!」
今から思いっきり振りかぶりますよ! って言わんばかりの構え。
ノーガードで受けたら身体が残んないかもしれない。
「タオはあたしの後ろ! クラウディアはタオの後ろに! その剣が折れない事を祈るわよ!」
「シャレにならねえ事言うんじゃねえよ! 作ってくれたアンペルさんの腕を信じてろ!」
「ライザ、そっちに詰めて! 僕らもレントを支えよう!」
「了解! レント、後ろにはっ付いてるからね!!」
「私も詰めるね?」
「……僕が全然身動き取れない!?」
身長はあたしとクラウディアの方がタオより少し高い。
だから屈んでるとはいえ、タオは視界が完全に塞がる感じだ。
いいじゃない、普通こんなシチュないと思うんだけど?
クラウディアみたいな美少女に背中を支えてもらえるなんて。
――こんな状況じゃなければ、ね!!
KYOKUTEN・KAGEROU
そんな戦闘中とは思えない思考の最中、今度はなんとなく聞き取れた言葉が頭に響く。
「来んぞ!!」
ギィイイイィィィィィィオオォォォォッ!!
ブォオン!!
レントの怒号の直後、高速で風を切る音がレントの前方から響いて。
ドォオオオオオオオンッ!!!!
――ものすごい衝撃と風圧が全身を貫いた。
「ぐぅおっ!?」
「うわたっ!」
「うわあぁっ!?」
「きゃあぁっ!?」
レント越しに伝わった衝撃だけでも全身にボトルの甲虫突進超えの衝撃。
全員一塊となって飛ばされる――こんなもん何発も食らえないわよ! とっとと回復だ!
「ええい女神の飲みさし! レント、無事!?」
「ぐっっ……ああ! ヤベえぞアレ。お前らいなかったら防御の上から吹っ飛ばされてんぞ」
「すごい威力だったね……癒しの旋律を吹くよ! みんなは大丈夫そう?」
「あんなの反則だよ! 予定通り、二発目が来る前にケリをつけないと!」
さすがにレントでもアレは何度も防げない。冗談抜きで剣が折れそうだ。
次はあたしがヘイトをとった上で避ける事も考えてたけど。
今までの訓練で、単体ですごい威力だとか全体に重めとかはあっても……全体を全力で潰す気の攻撃は受けた事がない。
妨害に失敗したら待っているのは確実な戦闘不能、あたしという存在の終了だ。
ボトルの中の特訓で強くなった気でいたけど……これは無理。
間違いなく、終わる。
キロさんの気持ちがよくわかる。
これしか選択肢がない状況で後もない状況じゃ攻めるに攻められない。
いまさらだけどはっきりと思う――あたしはここで終わりたくない。
だから、もう次を受けたら撤退だの避けるだの考えてる場合じゃない!
逃げる? ……ううん、ダメージは通ってるんだ! 攻撃の反動で動きが鈍い今しかない!!
「一気に攻めよう! 二発目を打たせちゃダメ! アストラルスフィア!」
「お前ら、耐えててくれよ! ウォーシャウト!! うおおおああぁぁぁっ!!」
「僕らは遠距離で攻めよう! 縛術・影縫い!」
「了解だよタオ君! 凍麗の舞! ……フェイタルドライブの時間が稼げれば」
KOUSHINOMAI
ビビビビビビビビビビッ!!
もう復帰してきた!?
ホントにフェイタルドライブを使えたらって思うけど、あっちの攻撃が激しすぎて溜めてる暇がない! しかも攻撃強化されてる……これさっきの棘だよね!? なんか付与されてるくさい!!
「掠っちゃダメ! 大きく避けて!!」
「うあっ!?」
「痛っ!」
「くそっ! テメエの相手はこっちだ! ソリットブレイク!」
タオとクラウディアじゃ避けられない。しかも麻痺と毒持ちか!!
レントも防御を捨ててるから徐々にダメージが溜まっちゃう。
回復用にコアチャージを残して置きたかったけど……使う!
「レント下がって! ――創世の鎚!」
ギィィイイイイイイイィィィィィッ!
前にキロさんから聞いた、クリント王国の人たちが使ったっていう地震を引き起こす鎚。
多分これの事だ。
正直これを使うのは抵抗があったけど、もうそんな事言ってられない。
だけどこれはチャージ消費も大きい。回復のためにコンバートを……。
JIRETSUNOKAMA
……っ! さっきの爆発付きの薙ぎ払い!?
標的はあたし……じゃない! クソッ!!
「まずい!」
「タオ、クラウディア!」
あっちか! 邪魔くさいのより弱ってる相手を狙うわけ!?
「ライザたちは攻撃に集中して!」
「私たちは大丈夫だから!」
大丈夫なわけないでしょうが!
鎌は届かない距離――爆発だけ飛ばす気か! ふざけんじゃないわよ!
「ジャベリン! こっちを向けえ!」
「轟雷剣! こっち向けっつってんだよ!」
女王の構えは止まらない――振るわれる。
「飛ぶよ!」
「うんっ……きゃああああっ!!!」
ドォオオオオオオオンッ!!!!
「二人とも!?」
「俺が行く!」
今度はクラウディアも自分で飛んだけど、麻痺に加えて爆発の威力が増してて避けきれてない!
爆発の衝撃でタオとクラウディアは吹っ飛ばされて、塔の淵に転がらされて……身動きが取れなくなった。
まずい、まずい、マズイマズイマズイマズイ!!
もう戦闘どころじゃない! 急いで撤退を……っ!?
またあの構えっ!?
「レントッ二発目!!」
「くそったれ!! 間に合ってくれ!」
あたしじゃもう間に合わない。
レントは……間に合っても防御体勢が取れない。
二人は……気絶はしてないみたいだけど――まず避けられない。
なら止めろ! 少しでも方向をずらせ!!
「ブラストノヴァ!! あんたの相手はあたしだ!!」
渾身の魔力を込めてあたしが撃てる最大の魔力砲を放つ。
攻撃をやめさせられるなんて思ってない――理想はあたしに鎌が向けばいい。
鎌に当たって……ちょっとは狙いがズラせた気がした。
でも、変わらなかった。
KYOKUTEN・MUSOU
もう音は聞こえない。映像しか入ってこない。
巨大で強大な鎌がありったけの力を込めて、さっきみたいな横振りじゃなくて縦振りで、タオとクラウディアに振るわれる。
「っっがっ」
その寸前に……レントが間に分け入る。
でも、当然防御なんてできなくて。
――背負った剣越しに、レントに振り下ろされた。
「レント!!」
あたしの声は……多分届いてない。
レントが崩れ落ちて、続く爆風がタオとクラウディアにも襲い掛かる。
二人からも声は聞こえない――気絶であってほしい。
そのまま後ろへ吹き飛ばされて……階段を転げる音だけが聞こえて――見えなくなった。
女王は、厄介者を取り除けたといわんばかりにこっちを向く。
それなりにダメージは通っていた……んだろう。
さっきの一連の流れがなければ、あたしたちが勝ってたのかもしれない。
けど……。
もう、どうでもいい。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。