ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
今回もよろしくお願いします。
……ふぅ。
「……みんなは!?」
急いで回復と、そのあとは撤退だ!
階段の下に……いた! 踊り場にみんないてくれた!
息はあるよね? レントが痛々しい、背中が腫れあがってる……。
早く……ああもうっ、チャージ残量が足りない。ジーゲルをコンバートだ!
「女神の飲みさし! みんな大丈夫!?」
「ううん……」
「いっつつ……」
クラウディアとタオは意識がある。大丈夫そうだ。
レントは……見た目には分かんないけどまだダメージが……。
ええい、飲みさしの中身を直接口に突っ込んでやるわよ! 飲用かどうか知らないけど!
「レント! 飲みなさい!」
レントの口をガッ! と掴んで飲みさしの中身をどばっ! と一気に注ぐ。
「……ぶっほぉっ!?」
盛大にむせてきた。
周囲にレントの口から吹き出された回復薬がぶちまけられる。
当然、被害者は真正面にいたあたしである。
「ぶほっげほっげほっ! 何が起きた!?」
「ちょっと! きったないわねえ!」
さすがに殴る気にはなれなかったけど、文句は言わせてもらう。
あーあ、もう……服がビシャビシャじゃない。
「ライザ、なにがあったの? ……服が!?」
「クラウディア、大丈夫!? よかったよ! 心配したんだから」
「えっと、うん? そういえばなんで無事……あれ? とにかく服を乾かそう!?」
まだ混乱してるみたいかな……急いで撤退したいところだけど。
服は別にいいって。これまで何回も水浸しになってるし。
「ライザも退却できたんだね、よかったよ……どうなるかと思ったけど」
「タオもね。正直生きた心地しなかったわよ? 三人が吹っ飛んだ時は」
「で、なんでそんなに濡れてるの?」
「レントが回復薬を吹き出したからよ、まったく……」
「……そうだ、レント!」
「ああ、大丈夫だ。まだ身体は軋んでっけどな……アイツは?」
「気配というか、イヤな雰囲気が……なくなってる?」
クラウディアの言葉でみんなが塔の頂上に意識を向ける。
たしかに、女王がいる感じが全然しない? どっかに行ったのか?
「……さすがに確認しねえってのはねえよな。見てくる」
「あたしもいくよ。二人は動ける?」
「大丈夫だよ」
「私も大丈夫。もう少し落ち着いたら回復魔法をみんなにかけるね」
警戒しながらも塔の頂上に再び向かう。
……あれ? さっきまであたし頂上にいたんだよね?
その時どうしたんだっけ……なんかすっごいムカついてた気はするけど。
レントが背負ってる大剣にザックリとキズが入ってるのを見る限り、夢ではなかったらしい。
「……おいおい、こりゃあ何があったんだ?」
「天変地異でもあった? ……うーわ。二人は見ない方がいいかも」
「いや、ここで見ないっていうのは……ううえっ」
「うっ……なにがどうなっているの? タオ君は目を瞑っていよう?」
塔の頂上は陥没して、火山の噴火で頂上が吹っ飛んだみたいな、そんな風になってた。
その中では今も一部がジュージューと音を立てて溶けていて、何となくイヤな臭いがする。
そんな穴の底の真ん中で……女王だったと思われるナニカが潰れてた。
ホントに踏み潰された虫みたいになっちゃってるよ。
これは比較的都会暮らしなクラウディアと、特に虫嫌いのタオにはきついわね。
「……ライザ、どこまで覚えてる?」
「ええと……レントが二人をかばいに行って、鎌を受けてみんなが階段下まで吹っ飛ばされて、女王があたしの方へ向かってきて……そこまでかな?」
「まるで隕石でも落ちたみたいだよ……気持ち悪い」
「……もしかして、キロさんが何かしてくれたのかな」
はっきりとは分かんないけど……これをやったの、多分あたしなんだろうなあ。
なぜならば、コアクリスタルには入れてなかった禁忌アイテムが無くなってるから。
偶然
そんな、あたしたちみんなの命といえる「星の力」を、破壊に特化させた赤黒い八面の結晶体。
そんなもんを作っちゃったから、戒めを込めて
使う気はなかったんだけど、最悪の時のためにポーチに入れてた最終手段だった。
戦争にも使える……錬金術の兵器化ってのはこういう事なんだろうね。気を付けないといけない。
――ああ、そういえば確認をしなきゃだね。超重要事項、目標その2だ。
「降りれる……かな。戦士の証がないか見てくるよ」
「俺も行くぜ、ライザじゃ持ち上がんねえだろうしな。タオはクラウディアを見てやっててくれ」
「分かったよ……うっぷ」
「大丈夫、タオ君? あっちを向いていよう?」
虫嫌いのタオにとって、潰れた巨大な虫の死骸なんて拷問でしかないわよね。
実際にはクラウディアに看てもらうってのが正しそうだ。
できるだけ瓦礫になってる所を下りましょうか。底まで滑り落ちちゃいそうだ。
「……なあライザ」
「うん?」
「なにやったんだ?」
下りながら、上の二人には聞こえないくらいの声でレントが尋ねてくる。
まあレントは分かるわよねえ。あたし以上にあたしを知ってそうだし。
さて、あのアイテムだけじゃこんなに陥没とか女王が潰れたりはしないだろうから。
「多分だけど……キロさんの真似事をしたんでしょうね。よく覚えてないんだけど」
「お前の方は大丈夫なのか?」
「今んとこ、なんともないわよ。だけどまあ……二人には内緒にしといて」
「最初から言うつもりねえよ。なんともないなら、いいんだ」
こういうとこ、助かる。
伊達に長年一緒に悪ガキをやってない。
潰れた女王は、もう元の大きさがわからない。
文字通りグシャッといってる。まあそれでも大きいんだけど。
証がある可能性が高いのは胸殻だっけ? でもこれじゃあ何が何やらだ。
とりあえず目に付いた部分から探していくしかないかな。
「……しっかりくたばってるな。大丈夫そうだ」
レントがガツガツと剣でアレだったモノを突いてみるけど反応なし。ピクリともしない。
今のところアルさんたちが戦ってる……ひょっとしたらもう倒したかもしれない影側からどうのっていうのもなさそうだね。
一応、こっちが頭で……あ~ひしゃげた円形っぽいコイツが胸殻かな。
「胸の方をお願いできる? あたしは一応頭も見てみるよ。見つけても触んないようにね」
「おう。よっこらせっと」
「せーのっ、ふんっ!」
バキャッ!
もう今更、頭かち割るのに抵抗なんてないわね。シーカーには悪いけど我慢してもらおう。
んーと。
「それっぽいものは……ないか」
意外な事に頭の中身はスカスカだった。
どうやって動いてたのかしらね、コイツ。
「ライザ、コッチ来てくれ」
「なんか見つけた?」
「コレん中だ」
胸殻部分に剣を突っ込んで、てこの原理でこじ開けてるレントに指で示される。
頭と違って胸の部分は中身が詰まってるみたい。グロくなくて幸いだわ。
……おっ。
「どうだ?」
「多分当たり。レントお手柄」
以前キロさんに見せてもらったやつよりずっと大きい、こぶし大くらいの赤い石。
ホントに持ってんのね。こっちとしてはとっても助かるけれど。
止めを刺したのはあたしのはず。なら、あたしが触る分には問題ないはずだね。
一応軽くチェック……エレメントとか魔力を吸われてる感じはしないかな? そんじゃまあ。
「ふんっ! ……ありゃ? わりと簡単に取れた」
「こんなもんで島が維持できちまうのか?」
「まだ分かんないけどね。大きさもそうだし、賢者の石に出来るかどうかも」
あたしの手でしっかり掴めるくらいのサイズ――キロさんの持ってた欠片の数十倍はありそうだ。
たしかに、こんな物から島のエネルギーを長い間賄えるシロモノが作れるかと言われると、正直分かんない。未だ賢者の石のレシピはさっぱりだしなあ。直接持つだけじゃ理解不足かな。
とりあえず今は、スペースの空いたベルトのポーチに入れておきましょ。
「ライザー! レントくーん! だーいじょーぶー!?」
「大丈夫だよクラウディア! ちゃんと見つかったから!」
「今からそっちに戻る。回復よろしくな!」
「はーい!」
上からクラウディアの元気な声が降ってきた。
あの様子ならクラウディアはもう大丈夫。あとはタオのメンタルの問題くらいね。
ちゃちゃっと登っちゃいましょうか。田舎育ちをなめんじゃないわよ。
「おつかれさま。癒しの旋律を吹くね」
「ああ、助かるぜ……タオ、落ち着いたか?」
「思い出さないようにすればとりあえず……それより、あの辺が見える?」
「あの辺って?」
できる限り潰れた女王を見ないよう、タオは階段の下の方を向いていたらしい。
指で示された先には何体かのフィルフサが戻ってきて……戻ってきて?
うん?
「なんか右往左往してるわね?」
「そうなんだよ。私たちが無視したフィルフサも、巡回ルートみたいに歩いていたのがバラバラになり始めているのにタオ君が気づいて」
回復をしてくれたクラウディアも会話に参加してくれる。
これで仕切り直しとしても十分ね。もう心配ないだろうけど。
「女王が消えたら……群れがバラバラになるっつってたか?」
「キロさんがね。女王がいなくなって統率がなくなったんだと思う。全部散るには時間がかかるって言ってたけど」
「じゃあ、これで聖域のフィルフサはいなくなるんだね!」
「これで一先ずあたしたちのやる事は完了ね……タオ、今何時?」
「えーっと、11時47分。戦ってたのは30分くらいだったのかなあ?」
17年の人生で過去一長い30分だったわね。
それにしても、思ってたよりずっと強かった――帰れない事を覚悟した。
無事に終わってよかった……。
アルさんたちは……大丈夫だよね?
「……じゃあ戻ろっか。勝っても負けても戻る事になってたし」
「おう。アルさんたちならもう戻ってるかもしんねえな」
「こっちであんな強さだったから影の方の強さを想像したくないね。結局……何で勝てたのかよく分かんないけど」
「アルさんたちは私たちよりずっと強いんだから大丈夫だよ!」
「ホント、それよね」
「証はあったのかい?」
「幸いね。早いとこレシピを考えなきゃ」
あの四人が負ける光景が描けない。
仮に撤退してたとしても、影経由であたしたちの倒した女王が復活するだけ。
あたしたちで勝てたんだから、多分アルさんとかなら単騎でいけるんじゃ?
その場合、影側は七人で戦闘可能。力はともかく数の暴力でボコればいける気がする。
島周辺の遺跡を通過し、あたしが吹っ飛ばしちゃった郷を通過し……ホントどうしようね?
石壁周辺も、やっぱりフィルフサの数は減った感じに見えるし、いるやつも動き方がおかしい。
なにより――あたしたちに襲い掛かってこない。
現時点では蝕みの女王を倒せたって事に間違いなさそうね。
「なんかこの光景を見ると戻ってきたって気がするよ」
「今までがおかしかったんだけどな。なによりあの黒い太陽が落ち着かねえ」
「ここの緑は戻ってるけど、全部が戻るのはまだまだ先なんだよね……」
「だからこそ出来る限りのお手伝いをしないとね。念の為にこの穴は塞いどきましょうか」
岩穴を通って浄化された聖域の中へ。その穴の壁にフラムロッドを振りかざす。
洞窟が崩れるような感じで穴が塞がる。これでフィルフサが迷い込んでくる事もない。
大岩に比べてスマートじゃないけど、まあキロさんならすぐ吹っ飛ばせるだろうし。
うん、門も稼働してるね。ホントは喜ばしい事じゃないんだけど。
鎧に見送られてあたしたちの世界へ。ああ、気分的にやっと大きく息が吸えるわ。
「アルさんたち、もう戻ってきてるかな?」
「女王が復活しなかったからな、十分あり得そうだ。リラさんから課題増やされるかもしんねえが……」
「この結果でもダメなのかな……しんどすぎて勘弁してほしいよ」
「前向きに考えようよタオ君! もっと強くなれるかもしれないって事だよ?」
「クラウディアは僕に何を求めてるんだい!?」
新技じゃない? さ、門にダイブだ!!
「よっと! ……あれ?」
一番乗りでこっちに戻ってきて。
想像してたのは、アルさんたち四人が「なかなか強かったですね」とか「お腹すいた」とか「これであちらも落ち着く」とか「漸く少しは罪を清算出来ただろうか」とか言ってる。
そんな景色だった。
「誰も……いない?」
門の外、あたしたちの世界は相変わらずの快晴。
乾期も迫った夏の太陽がカンカン照りの光を放ってる。
少し離れた所には、おそらくアルさんたちが入っているだろう黒紫色のトラベルボトル。
まだ光を残している――つまりは。
「まだ、帰ってきてない?」
「うおっ!? まだ慣れねえぜ……アルさんたちはいねえのか?」
「うわっと! はぁ……まだ戻ってきてないんだね」
「よいしょっと! ふぅ……あれ? まだ……何かあったのかな」
予想が外れた。まだボトル組は戻ってきてない。
影の女王までの道のりはあたしたちより短い。
なによりあの四人だ、道中のフィルフサなんて物の数じゃないはず。
という事は。
「アルさんたちが――苦戦してる?」
「それか他に何かあったか。入ってみてえところだが」
「待機指示だよ。気持ちは分かるけどさ」
「待つしかないんだね……」
もどかしい、何もできない。
正直、あんま我慢できそうにない。
リラさんの拳骨覚悟で、ボトルの中に入る?
……っ!?
「これは!?」
「ライザ離れて!」
「タオ! お前も離れてろ!」
「何が起きるっていうんだよ!?」
一気にボトルが光り始めた――こんなの見た事ない。
そして。
「…………いっ」
「っ外か!? アンペル!」
「私はいい! アル君が!!」
ヒヒィィイイイイイイーーーーンンン!!!
ボトルから飛び出してきたのは、大きな白毛の8本脚の馬。
手綱を握ってるのはキロさん。その後ろにリラさん、リラさんが右腕で抱えてるアンペルさん。
…………アルさんがいない。アルさんがいない。アルさんがいない。
パァアアアアアァァーーーンン!!!
「ボトルが!?」
「ライザ、下がれ!」
さらに輝きを増したボトルは――まるで悲鳴を上げるように、粉々に弾け飛んだ。
どういう状況なの、これは。
アルさんがいないアルサンがいないアルサンガイないアルサンガイナイ
そんなバカな。
馬は勢いそのままに20メートルほど飛んで、着地してから数秒で消えていった。
キロさんが召喚した風の馬だったか――そんなのは後だ。
「キロさん! アンペルさん! リラさん! アルさんは!!??」
「……っごめんっ、っごめ、ごめん、ごめっんっなさい……」
「キロ! しっかりしろ! もう外だ!」
馬が消えて……リラさんは綺麗に着地したけど、キロさんはそのまま地面に落下して。
なにより、大泣きしてる。外に出た事にすら気づけていない。
――もう何が原因なのか考えたくない。
「ライザ! お前達は無事だったか」
「アンペルさん!! 何があったの!? アルさんは!?」
「ライザ落ち着け!」
「ライザ、気持ちは分かるけど落ち着こう? ね?」
「先生、一体何が?」
落ち着いていられない――ムリ。
こんな。ありえない。あってたまるか。
だって。
「……まず結果だけ話す。影の女王は討伐出来た。だが……アル君が、ボトルの世界にとり残されてしまった……」
「ご、ごめっん、ごめんっなさいっ、ごめんなさい……っ!」
「落ち着けキロ! お前のせいではない! 前を見ろ! 私を見ろ!」
アルさんが――この世界からいなくなってしまったって事じゃない。
という事で蝕みの女王側は無事に終わりましたが、影の女王側では……。
原作プレイ済みの方はあれっ? と思われたかと思いますが、
本作ではこのまま進みます。
次は時間を遡ってボトル側の視点です。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。