ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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2時間ほど時間が巻き戻り、ボトル側のキロ視点です。
戦闘回が続いているので作者がガス抜きに遊んでいる部分がありますが、
特に意味はありませんのご了承ください。

今回もよろしくお願いします。


94. 84日目⑥  ようこそ虚無の入口へ

「ここまでは順調に来れましたね」

 

「40分はあるね。ライザ達は道中が長いし先行も無意味。予定通り待つとしようよ」

 

「……あの子達は無事でいるだろうか」

 

「なに、心配する必要はない。お前が手ずから鍛えたんだろうが。ライザもクラウディアも一線級なんだ、道中はまず問題ないだろう」

 

影の女王がいるエリアまでひとっ飛びし、当該エリアのフィルフサはさっさと殲滅。

制限をかけた状態で散々殺した相手なのだから、無制限で苦戦するのは論外だ。

 

今のライザ達の実力ならオーリムのフィルフサなんて物の数ではないはず。

こっちはこっちの戦いに備えて集中を高めよう。特に私にはしないといけない事がある。

 

「さて、勝つ事は当然として……その後はどうするべきだろうな? 賢者の石の調合要素が……」

 

現状で不明瞭なのは、アルが災厄対応の為に戦線離脱する事と、クーケン島のエネルギー源の確保――賢者の石の調合レシピ。あと、出来ればでいいけどオーリムに水が戻せるかどうか。

 

オーリムの浄化は湧いて出た可能性だ、喜ばしい事ではあるけれど優先度は下げていい。

一昨日あんな話をしたものの……アルを長期間あの世界に拘束するのは正直忍びない。

この少年はもっと人生を謳歌すべきなのだから。

 

アルの離脱時期はおおよそ決まっているから、一番面倒なのは。

 

「う~ん……こちらの賢者の石の調合に僕の錬成要素を含んだ瞬間、本物足りえなくなりそうです。理論があちらの賢者の石に近いのであればアイデアは提供出来るかもしれないですけど」

 

「私にはサッパリだな。どうなんだアンペル」

 

「錬金術の極致と言えるシロモノだからな、はいそうですかと作れる物ではない。ライザはそれをやりそうで恐ろしいが……」

 

「錬金術に触れてひと月くらいなんだよね? 他の錬金術士は何をやっているんだろうね?」

 

「耳の痛い話だが、言葉を選ばなければライザが異常としか言えん。いくつか成功の噂は聞くが最低でもアカデミー出身者か、錬金術に触れてから何年もかかっていた者だ。錬金術のれの字も広まっていなかったような土地の田舎娘が、季節を越える間もなく作れるモノではないと断言する」

 

結論、ライザがおかしい。

そんなにさらっと作れているなら錬金術の極致だなんて言われていないだろうしね。

加えて私達の世界が荒らされるような事もなか……いや、素材に戦士の証が必要なら一緒か。

 

「とにかくだ。賢者の石に関しては実物の戦士の証を手に入れた上でアイデアを結集するしかないだろう。アル君の今後も未確定……やれやれ、不明な事ばかりだな」

 

「アルがいつまでこちらに居られるかは大精霊様次第。交渉はしてみるけれど既に妥協してもらっている状況だから、まあ延長は利かないかな」

 

「僕が行って解決する話なのかも分からないしね。それまでに出来るだけの事はするよ」

 

「ではアレの討伐の話に移ろう――キロ、大丈夫なのか? 既に気配がよろしくないが」

 

「出し惜しみをしている場合じゃないからね。それでどの程度ダメージが入るかも分かるし」

 

賢者の石に関しては大きな戦士の証の実物を目にした次第だけど……私の想像している物が役立つかもしれない。この決戦が終わったら提案してみるとしよう。

 

今回の決戦の初手は、私のフェイタルドライブぶっぱ。

だから今この時も力を溜めている。これに必要なのは私の強い感情、すなわち殺意だ。

大きな感情の発露がないと声が届かないんだろうね。届くだけありがたい話だけど。

 

倒しきれるかは不明だけど、これでノーダメージだったら心が折れそうだ。

 

「我々は個性が強すぎて連携は考えるだけ無駄、という結論だったな。ライザ達と大違いだ」

 

「各々役割は決まっているようなものだろう。私に器用な真似は出来ないからな」

 

「脳筋」

 

「……っ考えた上でだろう。その呼び方は止めてくれ、割と傷付いているんだ」

 

おお、リラが成長している。今後は止めよう。

 

「まあまあ。僕は初手で分解を試しますけど、ダメなら遊撃に回ります。壁の錬成とかに声掛けはしませんから備えをお願いしますね」

 

「自爆しないように気を付けないと。私は……フェイタルドライブが効いていなかったらお荷物だね。その場合は支援主体の攪乱かな」

 

魔法ダメージが通るなら私も前衛に立てるけど、物理主体ならリラとアルに任せるしかない。

回復手段は私の魔法とアンペルのアイテム。二人が同時に戦闘不能になる事は避けないと。

まあアルには加護がある。ダメージを受ける事さえ考えにくいんだけどね。

 

一番分からないのはアルの手札の多さ。こっちも予想外の行動を取られると焦る部分がある。

応用が利き過ぎて、記憶を見ている私でさえ驚く有り様。これだから天才ってやつは。

 

光属性をどのくらい活用するかだけど、私がアルに触れていないと行使出来ない。

火力は高いけど、手数も減れば時間もかかる。使いどころを考えないとね。

 

さてと。

 

 

 

「じゃあ――そろそろ始めるよ」

 

「うん、いい時間だね。お願いするよ」

 

「ライザ達の足手纏いにならんようにしなければな」

 

「まったくだ、仮にも師匠なのだからな……随分な殺気だ。肌を刺すような」

 

アルの持っている懐中時計はまもなく11時を指すところ。

これを詠唱するのはいつぶりかな? 当時は目の前の全てを滅ぼすつもりだった気がする。

あの時は能動的にやったわけじゃなかったしなあ。

 

それでは。

 

ᛖᛉᛁᛏᛁᚢᛗ ᛁᚾᚲᚨᚱᚾᚨᛏᛁᛟ(果てより来たるは) ᛖᛉ ᚨᛒᚣᛋᛋᛟ(破壊の権化).」

 

 

キィィィィィィィィィィィィン

 

 

久々にまともに力を借りる。

未だに正体が分からないけど、強大な力を持っている事は分かるナニカ。

何時かは言葉を交わしたいものだ。

 

「……敵でなかった事がこれほど心強いとはな。凄まじい魔力だ」

 

「間違いなくオーレン族の中でも有数の実力者だからな。さあ、我々も強化に移ろう」

 

威力は上げて、範囲は絞って……難しい。

感情を荒ぶらせながらも冷静に。とは言え、小規模の攻撃を連発しても意味がない。

 

極限の一発で行く。望む形を頭に描け。

 

精霊召喚ではないからこの世界そのものへのダメージは許容範囲内のはずだ……そう願いたい。

 

ᚾᛟᚾ ᛖᛋᛏ ᛗᛁᛋᛖᚱᛁᚲᛟᚱᛞᛁᚨᛖ(汝に与える慈悲は無し).」

 

 

グォングォングォングォングォングォングォングォングォングォングォングォン!!!

 

 

天蓋へ魔法陣を展開。規模と角度は良さそうだ。制御は出来ているみたい。

ああ、あちらさんが反応したね。当然なんだけど。

 

「空一面の構築式か……すごい規模だ。打ち上げ準備は完了です。しっかり踏ん張ってください」

 

「分かった。ここまでの魔法を目にする日は二度と来んだろうな」

 

「守りのベールよ……何度もあっては堪らん。これっきりである事を願うぞ」

 

地上では衝突加熱の衝撃波(インパクト)やら衝突放出物(イジェクタ)が発生する予定。これは魔法陣でもガード不可能だ。

そのままでいると自爆になる。だから空へ回避するしかない。

発動と同時にアルの錬成で空に打ち上がって、衝突を避けると同時に戦闘に移行する。

 

ᛈᛖᚱᛁᛒᛁᛏ(永久に去ね).」

 

完了――力を貸してくれてありがとう。

大精霊様の力を借りている事もあってか、幸い身体の負荷も少なそうだ。

この感情の高ぶり方はあまりよろしくないけどね。言い回しがきつくなるんだもん。

 

さあ。

 

「死にさらせ」

 

 

パンッ!

 

バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!

 

 

皆に分かる言葉を合図にアルが高い塔を錬成して、私も含めて一気に打ち上がる。

打ち上がってる途中で魔法陣から射出されたソレとすれ違った。それだけで肌が灼ける。

 

だって――もはや赤暗い光を宿した呪詛なんだから。

 

ᚺᛁᚲ ᛗᚢᚾᛞᚢᛋ(現世の) ᚠᛁᚾᛁᛋ ᛋᛏᛖᛚᛚᚨ(極夜星) !!!」

 

本来なら連射系の広範囲大魔法を、今回は一発に凝縮する。

代わりに小さくて重くて熱くて速い、世界を構築する力の一撃。

 

音を置き去りに、弾ける。

 

 

ッズゥドォォォオオオオオォォォォォーーーーーンンンッッ!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ボォォオオオオオオオオオォォォン!

 

 

「……一個人の仕業とは思えんな」

 

「同感だ。キロは本当に私と同じ種族なのか?」

 

「ヒドイ言われようだね。やれっていうからやったのに」

 

「皆さん余裕があるようでなによりです。カウント27秒」

 

高度約4000メートル――これだけの塔を一瞬で錬成するとは。

落下を開始しながら地上を睨む。私達を空へ押し上げた塔は爆破と同時に吹き飛んだ。

直下には真っ赤な火球が展開されている。ちょっとはダメージが入っていて欲しいね。

 

こうやって上空から見ると、この世界って一定範囲外は暗黒なんだね。虚無なのかな。

落ちたらシャレにならなさそうだ。

 

では続きだ。忙しい事この上ない――大魔法を連発する日が来るとは。

 

ᚱᛖᛈᛚᛖᛏᛁ ᚲᚨᛖᛚᛁ(満つる気よ).」

 

「18」

 

ブレイズ! ……さて」

 

「お前さん、本当に飲む気か? そいつは禁薬の一種になるぞ。安全性など一切保障できない」

 

「出し惜しみも安全策もなしだ。お前の手製だろう? ――信じよう」

 

このまま着地すると私達も炭になっちゃう。アルは大丈夫かもだけど。

だから力業で熱波を吹き飛ばす。

 

これも十分攻撃手段になるんだけど、少なくとも落下しながら詠唱するものではない。

リラが飲もうとしてるモノの色が気になる。黒紫色って劇毒じゃない? 今更だけど。

 

ᛖᛏ ᚠᛚᚢᛉᚢᛋ ᛖᛋᛏ ᚢᛁᛏᚨ(この世を巡りし) ᛚᚨᛒᛟᚱᚨᚾᛏ ᚲᛁᚱᚲᚨ ᛗᚢᚾᛞᛁ(生命の波動).」

 

「12」

 

「……うッグっブホッ! ガアぁア゛っ! ……酷い味だ。内臓が焼けるような」

 

禁忌の雫が原料(妖薬エボニアル)だからな……気を保てよ。エクステンション(効果延長)

 

案の定ヤバいものだった。戦闘前に死なないでよ?

残り1000メートルを切ったかな。

残念な事にあっちは死んでいないね。しっかり気配を感じるよ……憎たらしい。

 

ᛢᚢᚨᛖ(万象切り裂く) ᛚᚨᚲᚱᛁᛗᚨᛗ(刃を此処に).」

 

「8」

 

「ああ、身体が燃えるような感覚だ。いける。お前も反動に備えろ」

 

「存分に戦ってくれ。やっこさんも健在のようだからな……嫌になる」

 

ホント嫌になるね。こっちが私達でよかった。これはライザ達じゃ厳しそうだ。

発動準備よし。後はアルのカウントを信じよう。

 

「4、3、2、1 !」

 

ᛖᛉᛁᛏᛁᚢᛗ ᛈᚱᛟᚲᛖᛚᛚᚨ(破滅の天嵐) !」

 

 

ドウッ!

 

ブゥォオオオオオオオオオオオォォォォォンンンッッッ!!!

 

 

本当ならこれ一発で倒してしまいたい威力の暴風。原初の星が纏っていた嵐の再現。

ついでに地表へ衝突寸前の私達へのブレーキだ。

これがただの団扇代わりかあ……先が思いやられる。

 

うん、カウントはぴったり。褒めてあげよう。

今は反動で内臓が揺れているからまた後でね。

 

さてと。

 

 

グゥゥオオォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

「元気そうで何よりだよ、クソ野郎」

 

「どんどん口が悪くなるねえ君。曲がりなりにも巫女でしょう?」

 

「正しく巫女だぞ? 巫女だから罵倒しないなんて事はない。キロはキロだ」

 

「会心の一撃とはいかなさそうだが、多少なりともダメージは入っているだろう。軽口はここまでといこうじゃないか」

 

リラの言葉は一応フォローなんだろうか? まあいいや。

 

目測体高6メートル、本体と同じ大きさかな。

しかしまあ、あの一撃を受けて原形を保っているどころかやる気満々くさいあたり、人間の感情っていうのは恐ろしいね。こんなものまで生み出してしまうんだから。

ボオスもよく冷静に逃げたものだ。あの子も戦いの才能があるのかもしれない。

 

「先陣を切る! エクレールサージ!

 

「続きます!」

 

ただでさえ速いリラの突進の踏み込みに合わせて、アルの錬成で地面ごと女王の方向へ翔ぶ。

ガギャッ! と変な音がした。加えて嫌なお知らせも。

 

「ダメです! 闇のコアと同じで理解が出来るようで出来ない。すぐには分解が効きません!」

 

「分かっていたが相当に硬いな。キロの魔法を耐えたのは手品でもなんでもないらしい」

 

「ならまずは耐性低下が優先だね。アンペルいい? 私はバフ専だから」

 

「勿論だ、錬金術士の面目躍如といこうか――二人とも距離を取れ! 酷寒の舞踏!

 

 

バキバキバキバキッ!!

 

 

以前ライザ達に使っていたね、クライトレヘルン(超氷爆弾)だったか。

おー凍った凍った。こっちもやる事をやろう。

 

Curre! まずは速度バフ!」

 

「熱膨張の実験といこう――灼熱の花冠!

 

「追加でこいつもどうぞ!」

 

 

パンッ! カシャン!

 

ボボボボボッ……ドォンドォン!!!

 

 

アルの知識曰く、pV=nRT。温度(Temperature)体積(Volume)は比例する。

体積が変化した物体は本来ゆっくり変形して構造を維持するけど、高速で変化させると膨張、収縮速度に変形が間に合わなくなり、歪みとなって破壊される。

これが超低温から超高温に超高速ならどうなりますかっと。

 

やっぱりマスタングさんって卑怯だよね、指パッチンでアレとか。

 

む。

 

 

NAGIHARAI

 

 

魔力の籠った一振り。魔刃か、やっかいな。何が付与されているか分かったもんじゃない。

ライザ達は大丈夫かな。

 

 

ブォン!

 

 

「受けずに避けてね! っしょっと! Gelida!」

 

「鎌の上を走るとは器用だな! 追撃する、グレイシャルフラウ!

 

「これあんまりやった事ないんですけど、ねっ!

 

「おおっ! 氷の槍か、初めて見るな! この後は再度加熱に移ってくれ!」

 

私は飛んで鎌の上。リラは前に踏み込み回避。アンペルは後ろに飛び退き回避。一人おかしいのは地面ごと上空へ。暫くはブレイクさせる事が目標になりそうだ。

 

しっかし炎の発生原理はまだ分かるとして、氷ってどうやっているのかな?

強制的な圧縮――それじゃ液体空気だし。たしか氷結の二つ名の人が……。

 

「タネはいつか説明するから戦闘に集中してくれない!?」

 

「ごめんなさい! Ignis Hastam!」

 

バレてた。いけないいけない、素直に謝ろう。

アルが関わるとどういうわけかそっちに意識が向きやすい。指示も出たし暫くは大丈夫。

 

 

HUZETSUNOTOGE

 

 

氷の槍は刺さっていないけど、あの極低温なら冷気は伝わってるはず。

にもかかわらず、あれだけ冷やされても芯までは凍ってないらしい。厄介な。

 

 

ビビビビビビビッ!!

 

 

これは麻痺持ちの雷弾か。カマキリのくせに棘を放つな!

 

「吹き散らす! Venti Impetus !

 

「二度目といこう、灼熱の花冠!

 

インジェクトブレイズ! ちっ、大して手ごたえは変わらないか!」

 

「ふっ! もう少し繰り返しましょう! この後一つ試します!」

 

「何をする気なの?」

 

「分解には違いないんだけど……あんまりやりたくないやつだよ!」

 

イマイチ何をしようとしているのか分からないけど、今はそれを頼りにしよう。

基本回避は皆出来ているから……お次は。

 

Intendo ! 集中力強化だよ」

 

「関節を狙う! 乾坤発気! ……むぅ!!

 

「お前の馬鹿力でも殆ど動かんとはな! なら歪みの追加だ、ディストーション!

 

「銛でもくらえ! フッ!!」

 

 

KESAGIRI

 

 

こいつ……私狙いなの? ふん! こんな見え見えの攻撃が当たるか!

どういう意図なのかな? 小柄な私が一番狙いにくそうな気がするけど。

 

それにしても、最初のフェイタルドライブ以外でダメージの実感がない。

回復しないとも限らないし決め手にもかける。

 

あ。一回アレを使ってみようか。

 

「アル。さんくてぃさんくてぃ」

 

「さんく……? ああ、アレか。了解」

 

これを試していなかった――合体!

 

「また何か変な事を考えていないかい?」

 

「多分気のせいだよ。せーのっ!Sancti virtute. Mitterent !」Lux Pugio Volans !

 

 

ヒィン!

キィンキィンキィンキィン!!!!

 

 

こんな事なら光剣の飛翔以外に光属性魔法をもっと考えとくんだったね……おっ!

 

 

グウォオウ!

 

 

「光属性は効くみたいだね。加護のせいかもだけど!」

 

「なんでもいいさ! おまけに今ので理解が深まった。リラさん、アンペルさん、隙を作れますか!?」

 

「大した威力だ。任せろ――いくぞアンペル!」

 

「合わせてやるから好きに突っ込め!」

 

流石、長年二人で戦ってきただけあってコンビネーションが取れている。

アンペルめ、実は義手がなくても戦えていたんじゃないの?

 

「私の補助はいる?」

 

「成功を祈っていてよ。確かアレのやり方は……」

 

しまった。そう言われると本当に祈る事しか出来なくなる。

成功や必勝の祈りなんて知らないし……うーん。

 

……我らは神の代理人、神罰の地上代行者……

 

「ストップ! なんかそれヤバそうだから! タイミングよく風で飛ばして!」

 

「了解」

 

昔同胞から聞いたやつだったけど発声できたね。一応祈りの一種らしい。

これで行動に移れる。下手に希望を聞いちゃダメだね、私が行動不能になるわけだ。

 

「シルフィードペイン! ……アンペル!」

 

「わかっている! スパイラルワインド! 一瞬でも動きを止める……いけ!!」

 

「キロさん!」

 

「いくよ、Ventus !」

 

リラが懐を広げ、アンペルで拘束した刹那、風の弾丸になったアルが突っ込む。

さぁて。

 

 

パンッ!

 

 

「せーのっ!」

 

 

バチバチバチバチバチッ!!

 

 

ギイイィィィィイイオオォォォゥゥッッ!?

 

 

効いた!? 甲殻に亀裂が入った!

 

 

SORANAKINOYAIBA

 

 

「まともに受けてはやれないよ!」

 

分厚い壁がアルを覆うように錬成され、鎌の一撃を受け止める。

得られた一瞬は離脱の時間には充分だ。

 

「いけましたね!」

 

「外殻が割れたか。一体何をしたのかね?」

 

「賢者の石を分解する錬成の応用です。人間の思念から形作られたものなら可能かと思いまして」

 

「うまく嵌ったわけだ。これで漸く真っ当にダメージを加えられそうだな」

 

「……ああ、魂の分解に近かったからだね。抵抗があったのは」

 

「私事で申し訳ないんだけどね」

 

見た事ないけど、たしかドクター・マルコーの錬金術か。

甲殻全体に亀裂が入った――これならダメージも通るだろうし、もう一回フェイタルドライブを打ち込めれば潰せるかもしれない。

 

もっとも、それはあちらさんも分かっているみたいだけどね。

やっとか、舐められたものだよ。

 

 

MUSHIBAMINOSHINSYOKU

 

 

「本気モードかな? 私のフェイタルドライブを受けてもしなかったくせに」

 

「翅の攻撃はわからないけど……鎌も光っている。要注意だね」

 

「こちらは四属性全てを降ろせた。準備は万端だ」

 

「ここからはライザの発想に活躍してもらうとしよう」

 

ますます禍々しくなった。流石に飛行はしないだろうけど。

速度も上がると考えると防御アップをしておこうか。

 

Protego. 防御上昇だけど過信はしないでね」

 

「勿論だ。回避を優先する事に変わりなく戦闘を進める」

 

「さて、ダメージが通るならコイツも効くだろう」

 

「その黄色い煙は一体?」

 

「切り札さ。見てのお楽しみというやつだ。皆は吸い過ぎないようにな!」

 

威嚇か構えかわかんない女王に向けてアンペルが何かを投げた。

硫黄か塩素系? いや、まさかね。どっちかっていうと霊的なナニカっぽい。

オーラを放出する石、かな?

 

「こちらの世界にも、英雄と呼ばれる者達は居るという事だ」

 

 

ボンッ!

 

 

破裂して、周囲に黄色の煙がまき散らされる。

……これって。

 

「英雄の霊? 遺志が籠っているような……呪詛の類ではなさそうだけど」

 

「どういう事だ?」

 

「アルの世界の賢者の石とはまた違うんだけど、魂の塊のような」

 

「あちらの賢者の石とは違い、こちらは正しく力を借りている。強力な英雄の魂は常世の焔を用いれば物理的に触れる事も可能でな。ガーディアン達に宿った魂が協力を申し出てくれた結果がこのヒロイックガイストだ。調合には実に苦労した」

 

「こちらの錬金術も大概ですね」

 

英雄達の魔法かスキルなのか――女王周辺に広がった魂達はその力を押さえつけ、私達の周りの魂は力を底上げしてくれている。

バフとデバフを同時に……信じられない効果。最初から使えばよかったのでは?

 

「呆けている暇はないぞ。効果時間には限度があるしコアクリスタルの許容値を超えるせいで使い切りだ。少しでも有効活用してくれ、エクステンション!」

 

心の声が駄々洩れだったかな?

彼らの献身は無駄にしない。絶対に潰す。

 

 

 

 

 

 

JIRETSUNOKAMA

 

JIRETSUNOKAMA

 

KOUSHINOMAI

 

 

ええい、うっとうしい!

案の定威力も範囲も強化されている。強力なデバフを受けてこれか。

 

Inspíra ! アル、さっきの分解はまた出来る!?」

 

「すぐには難しそうだね、変異が早い。理解できても分解までに変異してしまっているかな」

 

「なに、先程の分解と英雄達の協力でダメージは通る! 真っ向勝負といこうじゃあないか――アクセスシフト!

 

「わかりやすくていい、その方が得意だ。エレメントリンク!

 

「それも、そう、です、ね!!

 

 

パンッ!

バチッ! バチッ! バチッ!

 

 

やっぱり便利だね、少佐パンチ。

皆脳筋思考だけど、今はそれが最適解かも。

 

乗っかろう!

 

「射線に入らないでね! Flugur Percutiens !

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリッ!!!

 

 

…………ギ ギ ギ ギ ギ

 

 

スペシャルアタック!? 強力な薙ぎ払いと……もう一方は何だ!?

狙いは……!

 

「……アル!」

 

「分かってる!」

 

 

KYOKUTEN ・ KYOMU

 

 

私とアルは相変わらずヘイトを買っているらしい。

残像を残すレベルの速度の鎌。これを虚無と名付けるか。

 

これ一発なら避けられなくもないけど、二発目も構えられてる。

まともにくらった日には――私は確実に死ぬね。肉片が残れば御の字だ。

 

防御結界で無理やり弾k

 

師匠(先生)仕込みのぉ、当て身!!

 

 

スパーーーンッ!!!

 

 

えええ……。

弾いた? いや受け流し?

 

見えなかった。

イズミさん――貴女、なんてものを子供に仕込んだの?

 

図体がデカいから全身を投げられはしないけど、左鎌は打ち上がり、女王がバランスを崩す。

 

「見事だ! 五月雨蹴り!」

 

「タイムボルテックス! 畳みかけるぞ!」

 

「了解です!」

 

アルが作った千載一遇のチャンスだ。無駄にできない。

ここで押しきれ!

 

Glacies vi……

 

そこまで詠唱して気付いた――構えていたのは一発だけじゃなくて二発。

バランスは崩しているけど、右鎌は構えられたまま。

左の鎌は打ち上げられている最中。右の鎌は……振り下ろされる寸前。

 

英雄達の力は、まだ身体には及んでいるけどもう六肢には及んでいない。

つまりはデバフなし。全力のスペシャルアタックのチャージ完了。

 

狙いは――私。

 

 

これはやらかしたなあ。

 

 

KYOKUTEN ・ METSUJIN

 

 

「っキロさん!?」

 

リラとアルは女王の近距離でどっちも左鎌側。アンペルじゃ間に合わない。

まさか私が女王の攻撃範囲にいるとは思わないだろう。土壇場でこんな無能を晒すなんて。

 

総攻撃を受けていた間も力を溜めていたであろう右鎌。

これは……突きだね。防御の貧弱な私じゃ土手っ腹に大穴が開いて千切れ飛びそうだ。

 

「キロ!」「キロ嬢!」

 

コンマ数秒程度の間のはずだけど、皆の声はよく聞こえるしアッチの動きもよく見える。

真っすぐこちらに伸びてくる女王の赤黒い鎌。なんか負のエネルギーとか纏ってそうでイヤ。

 

私への攻撃の隙に三人で畳みかけてくれれば倒し切れるかな?

リラのアインツェルカンプならいけそう。溜める時間があればだけど。

 

なら、少しは踏ん張るべき? 身体が残っていれば努力するけど。

油断だなあ。この数百年戦闘中の油断は無かったのに、確かに今日は随分とはしゃいでいた。

 

 

 

どれだけの期間、どのくらいの数の生命を屠って来たか分からないくらいに罪深いこの身だけど。

アルやライザ達のおかげで、最後らへんはまあ……結構楽しかった人生だったかな?

 

面倒をかけるけど、アルは皆をよろしく。

 

 

 

 

 

……?

まだ、死んでいない? 死ぬ寸前っていうのは意外と頭が回るらしい。

 

これは走馬燈ってやつかな? 随分と古い記憶だ。

多分、覚えている限りで最も古い物。

 

真っ暗な空間で、私の前に灯っている「亀裂の入った二つの大きな赤い丸」。

 

――そうか、これって。

 

 

 

 

 

 

げだうと(失せろ)




さて?

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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