ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師   作:もふもふたぬきねこ

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二つの決戦を終えて、陽が落ちるクーケン島から。

今回もよろしくお願いします。


96. 84日目⑧  最悪の道への誘い

「…………そうか。それでエルリックさんが」

 

「うん……」

 

時刻は19時過ぎ。外はじきに陽が沈むかな。

 

クラウディアのお屋敷で、あたしたちを迎えに来てくれたボオスも合わせて。

今日の結末を整理がてら説明し終わった――正直口にしたくなかった。

 

だって、信じたくないもん。今でも叫び出したい気分。頭がおかしくなりそう。

でも、そんな事したって何の解決にもならない。癇癪は後で一人で起こすとしよう。

 

 

 

遺跡から戻る道すがら、アンペルさんからボトル側のざっくりとした経緯は聞けた。

ホントはもっと細かく話してくれてたんだろうけど……頭が理解を受け付けない。

 

分かんない事が多いけど、影の女王を倒す事は出来たらしい。

けど、直後にボトルの世界が崩壊。三人の脱出のためにアルさんがボトルの世界に最後まで残り。

ボトルが砕けて出入口はなくなって……多分あっちの世界は無に消えた。

 

アルさんがキロさんに「命令」したんでしょうね。キロさんの憔悴具合からわかる。

そんなキロさんを見ていたせいか、あたしは変に冷めたような感じだった。

 

ただ現実を受け止めきれてないだけかもしれない。あたしが壊れてしまわないように。

理解しないよう何かがストッパーをかけてるのかもしんない……ありがたい事だ。

 

「エルリックさんが何処にいるのか……見当は付くのか?」

 

「……いや、不明だ。あそこが錬金術の世界だったとしても、大精霊が作り出した世界だったとしてもな。無理矢理仮説を立てるなら世界の狭間、門の入口と出口の間、といった所だろう」

 

「そんな所に空間があるんですか、先生?」

 

「完全に地続きでない以上は存在する可能性がある、という程度だ。本当に存在していたとして……行く手段も、そこにアル君がいるのかも分からない。勿論手は尽くすがな」

 

あたしたちの世界みたいなものは、実はたくさんあって、広い空間に浮いたようなものらしい。

その世界と世界の間にアルさんがいるかもしれないとの事。

 

いや、それもあり得るのかもだけど。

 

「その空間に流れちゃったとして……大精霊に助け出されたって事はないの?」

 

元々アルさんは、災厄とかいうものの対応のために大精霊が拉致した存在。

そんなアルさんを大精霊が見殺しにするとは思えない。そこまでクズだと思いたくない。

 

「……そうだな。その可能性は高いが……確認のしようがない。あの世界の創造主だった闇の大精霊様か、アルの召喚主である光の大精霊様に直接伺うしかないだろう」

 

「リラさんが大精霊に聞くっつうのはできないんですか?」

 

「残念だが、私では御喚びする手段がないんだ。巫女であるキロなら可能性はあるだろうが……」

 

みんなの視線が一か所に向く。

 

このお屋敷に着いてからずっとソファに横たわっているキロさん。

その傍でずっと介抱をしてくれてるクラウディア。

 

入り江の遺跡を離れる際、キロさんはリラさんに背負われながら帰還した。

ただただ嗚咽を発するだけで未だに一言もしゃべらず、舟に乗る頃には反応すら返ってこなくて。

ここに着いてからはクラウディアが傍に居てくれてる。

 

ケガ自体はしてないらしいから回復魔法の効果があるのかは分かんない。

でも、やってもらった方が楽になってると思いたい。

 

ボトルから脱出した直後にわずかに聞こえたのは、「ごめんなさい」っていう謝罪の声。

 

今は眠っちゃったのか、もう何も聞こえてないのか、息をしている証拠の胸が動いてるだけ。

……今お話をするのは無理だよね。他の事を話そう。話題を変えたくないけど。

 

このままでいると喚き散らしそうになる。なにかをしてないと。

みんな我慢してると思うんだ。あたしだけ壊しちゃいけない。

 

「ちょっと時間を空けよっか……リラさん、戦士の証ってこれでいい?」

 

「……ああ、これで間違いない。よくやってくれた。これほど巨大な物が存在するとは」

 

「賢者の石の調合が理想だが、まずは一度コイツのまま中枢への組み込みを試してみよう。タオ、手伝ってくれるか?」

 

「……分かりました。今からでもいいです」

 

「……俺は哨戒してくる。こっち側の残りのフィルフサがどうなったのかも気になるしな」

 

「そうだな。だが……今日はもう休め、明日からだ。レントには私も同行する」

 

「……ウィッス」「……はい」

 

完全確認は出来てないけど、フィルフサが群れる事はなくなってた。

大侵攻の元になってたらしい蝕みの女王は倒せたって事でいいんだろう。

戦士の証は入手出来たし、島のエネルギー切れまでに賢者の石は意地でも調合してみせる。

 

それよりも、ずっと優先したい事があるけれど。

 

 

 

「……闇の、大精霊様への謁見は……なんとかやってみる」

 

心臓が跳ね上がった気がした。この場で二番目に耳にしたい声が耳に入ったからでしょうね。

 

「キロさん!? ……まだ休まれていた方が」

 

「大丈夫。話自体は聞こえていた。寝たままで失礼するよ」

 

キロさんがこっちを向いて目を開いた……目に光がない。

声のトーンも平坦だ。半分掠れているかのような。

 

「他の大精霊様に会う伝手が一つある。駄目だったとしても、私の契約精霊を使う手がある。最低でも島のエネルギーが切れるまでは、探す。切れる方が早かった場合は……私が一時補給する」

 

また!

 

「人柱にはさせないって言ったじゃない!!」

 

「絶対にさせんぞ!!」

 

「黙りなさい」

 

前回のように、冗談だって終わらせられる雰囲気じゃない。

刃物の様な魔力を纏った叱責の言葉に思わず、あたしとボオスは声が出なくなってしまう。

 

これは誰だ? 今、あたしは誰と話をしている?

 

「綺麗事を言っている場合じゃない。二人とも、どれだけの人の命がかかっているかを考えなさい。何も私の寿命が尽きるまでやるわけじゃない。貴方達が賢者の石を作るか、島民の安定した生活基盤を整えてくれればいい。それまでの繋ぎにすぎない」

 

淡々とキロさんの口から島民を救う案が出される。とても想像しやすく達成しやすい未来図。

 

……魅力的だよ? すごく魅力的なんだけどさあ!

 

時間制限がなくなるのはとてもとってもありがたい。

島の人たちの生活の安定感は跳ね上がる。

 

だけど、それは受け入れられないよ! なんでそんな選択しなくちゃなんないの!?

アルさんがいなくなってしまったばかりなのに、さらに誰かが犠牲になる……もうイヤだ。

 

なんでこれ以上、いなくなろうとするの。

 

「よく考えてみなさい。何を優先すべきか、今の貴方達なら分かるはず」

 

「俺は……俺は絶対に認めんぞ」

 

「認めなくていいけど、貴方達を傷付けるのは彼の望むところじゃない。折れてくれると助かる」

 

「キロ……今のお前の精神で契約精霊の力を顕現してしまったら」

 

「分かっている。でも思い付く手段がそれしかない。最悪の場合は私の()()をお願い」

 

「っ……本気で、私がお前に手を下せと?」

 

「貴女も選びなさい。一人を消すか、世界を歪ませる可能性を放置するか。私はもう選んだ」

 

平坦な声が続いているけど、冷静なようで、全然冷静じゃない。あたしもボオスもキロさんも。

キロさんは死に急いでるよう。

 

――よう、じゃないね。死に急いでるんだ。

 

リラさんのお話の限り、もう一つの手段とやらも……多分キロさんが犠牲になる方法。

どんな手であってもキロさんに未来はほぼない。キロさんが自身を道具と見なしてしまっている。

 

これはキロさんの誓約が関係しているの?

内容はたしか「アルさんへの服従」、「アルさんを守る」、あるいは「それらに近い事の実施」。

 

今は多分「アルさんを守る」事がまだ優先されてる――助けられる可能性が残っているから。

けどアルさんを救えないと断定された場合、多分アルさんがやろうとしていた事に向く。

 

アルさんがしてくれていたのは、「クーケン島と、あたしたちを守る」事。

 

キロさんはこれを達成するべく全力で動いてしまう。周り(世界)がどうなろうと。

誓約の話を聞いた際に浮かんだ――キロさんと本気で戦うっていう最悪の状況が現実味を帯びる。

 

ダメだ。これ以上話してると今晩にでも中枢がキロさんに封鎖されそうだ。

いよいよあたしの頭も爆発しそう。

 

……今は、ちょっと待とう。頭を冷やさないと。落ち着かせないと。

今この瞬間、キロさんに魔力砲(ブラストノヴァ)を放ちそうになっているあたしがいる。

 

 

 

 

 

 

「もう、どうすればいいのかな……」

 

「色々ありすぎちゃっているから……少し休もう? 甘い物を食べるといい考えも浮かぶよ」

 

「うん……ありがとうクラウディア」

 

今はあたしとクラウディアの二人だけ。

真っ暗な空気を変えるべく、アンペルさんから軽い方針だけ伝えられて解散した。

 

アンペルさんとタオは戦士の証の組み込みを試し、リラさんとレントは哨戒。

あたしはタオたちに付いてって手伝いをしつつ賢者の石の調合を考える。

 

この戦士の証にノーリスクで触れられるのはあたしだけだ。

実際にエレメントを吸われるって事がどんなものなのか……試したくもない。

 

クラウディアにはお店がある。こんな時ではあるけど放り出すわけにはいかない。

「他に出来る事がない」って言葉を口にしたクラウディアの声は震えてた。

全然落ち着かない中での営業になっちゃうだろうけど……営業になるかな。

 

ボオスもやる事は継続だ。さらに考える事が増えた――キロさんを止めるっていう。

なんか、夜更けにでもモリッツさんに脅しをかけそうで不安だ。アイツも相当ヤバイはず。

 

 

そして、キロさんは――

 

 

「大精霊に会うって言ってたけど……」

 

「キロさんの事? ……できる限り私がキロさんに付いているよ」

 

「あたしもそうする。なんだか、消えちゃいそうで」

 

キロさんは方針だけ告げて、一人屋敷から出て行った。

大精霊に会えそうな手段が一つある事、契約精霊とやらを使って闇の大精霊を喚ぶ手がある事。

まずは会えそうな方からやるらしい。以前聞いたような聞かなかったような話だ。

 

今日は島に居てもらうよう念入りにお願いをした……反応は薄かった。

あたしがどんどん感情的になって、泣き始めちゃった時点でようやく頷いてくれた。

 

今この瞬間もアルさんを探しに回るって事をしてないと願いたい。

今のキロさんは非常にアブない。目的のために手段を選ばなさそう。

 

最初に会った頃、ただひたすらにフィルフサを屠っていたらしかった時みたいに。

無表情で、平坦な声で、儚い雰囲気。

 

気持ちはすごく分かるんだ。あたしも他の何よりアルさんを探したい。

賢者の石なんて放っといて、今すぐにでも大精霊に殴り込みをかけたい。

 

でもそれじゃあみんなが……アルさんが守ろうとしてくれたものが粉々になってしまう。

 

みんな、為すべき事を為そうとしている。あたしだけぶっ壊すなんて事はしちゃいけない。

今はあたししか出来ない事をやらなきゃいけない。

 

だから――事が終わったら全部を捨ててあたしもアルさんを探す。

 

なんとかしなきゃ。

まずはキロさんに同行して大精霊に会う方がいいか。組み込みの試しを遅らせてもらおう。

とにかく今晩のうちにキロさんを見つけないと。

 

ケーキを一口。結局お昼も食べてなかったお腹に久しぶりに栄養が入る。

 

「……おいしい」

 

「ありがとう、自信作だからね。食べたら少し目を瞑って? それだけでも落ち着くと思うから」

 

「うん」

 

かつてなく頭を回そうとしてるけど、残念な事にあたしは賢くない。

これ以上考えても気が狂いそうだ。素直にクラウディアの提案に甘えよう。

 

落ち着いたら……一度アトリエに寄ろうか。何か思い浮かぶかもしれない。




今まで大きな問題を抱える事無く進んで来れたが為に、想定外が出た時は総崩れに。
なによりライザ達にとって最もあり得ないと思っていた事象は
極めて受け入れがたい物だと思っています。
ただ、原作の性格のままよりは幾分か冷静に居られているのかなと。

キロから出た案を選ぶのか、ライザが何かを思いつくのか、あるいは。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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