ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
今回もよろしくお願いします。
「ごめんなさい」
何に対して謝罪しているんだろう。対象が多すぎる。
置き去りにしてしまったアルにか、アルという英雄を失わせてしまったあちらの世界の人達へか、心情など無視した態度をとってしまったライザ達へか。
なにもかもだ。
私がしくじった。
あんな油断の一つで全てがおかしくなってしまった。歯車が狂ってしまった。
キロ・シャイナスという器を破壊させないため、あの世界を崩壊させるのに十分過ぎる力をナニカに振るわせてしまった。
『オ マ エ ノ セ イ ダ』
『オ マ エ サ エ イ ナ ケ レ バ』
『オ マ エ ガ キ エ レ バ ヨ カ ッ タ』
頭に響く言葉は、全て私の声。
誰も私を……怒りはしても恨んではいないのだろう。皆優しいから。
だから自罰する事にした。そうでもしないと耐えられそうにない。
「貴方なら……どうされますか?
アルの私室。
その壁に掛かっている赤いコートに話しかける。
魂の物体への定着、国ぐるみの妨害の突破、人知を超える存在との死闘。
自身の象徴といえる力を対価とした――唯一だったのだろう正解の道を手繰り寄せた。
残念ながら私は凡人だ。天才でも何でもないから閃きなど待つだけ無駄だ。
ただ、アルをそのままにする選択肢は絶対に取らないと決めた。
誓約の影響もあるのだろう。彼との約束もあるのだろう。
――心底どうでもいい。
それが真実だろうが偽りだろうが、決断した心への疑いはない。
ただ実行しよう。今の私の存在意義はそれだけだから。
ライザには……今晩は島にいるように懇願されてしまった。
仕方がないから明朝まではここにいるとする。中枢に見張りを張られかねないから。
あの子達が不必要に悲しむのは私も望まない。強制的な排除は避けたい。
あの子達には多大な借りがある。その対価は支払わなければならない。
ああ、そうだ。
たかだか2週間の事だけど、随分と複雑で不合理な思考をするようになっていた。
本来私はこうだったはず。もっと合理的に、効率的に……ナニカを宿した時からずっと。
久々に多くの人に出会って気でも高ぶったのだろうか。
まあいいか。これから少しは合理的になるだろう。
もうこの部屋に来る事もない。家主が戻らない限り。
何泊もした。よく眠ったものだ。殺風景ながら居心地のいい場所だった。
次に私が眠るのはいつの事か。あるいはいつ目覚めるのだろう。
――最後にもう一度見ておこうか。お世話になった部屋だ。
実に物の少ない部屋。主の欲求がないために不要な物を切り詰めただけだった。
唯一アルが望んで作ったのがこの赤いコート――エドワードさんの象徴の一つ。
この紋章は「フラメルの十字架」だったか。
実は賢者の石を模して……模して。
……うん?
フラメルの十字架の意味は揮発の固定、相反する性質の同居。転じて永遠の存在――賢者の石。
十字架にかかっているのは、「蛇」。
蛇……竜、円環、永劫、尾を飲む蛇――ウロボロス。
私の中のナニカ。
変質する硫黄は私。永遠たる水銀は……ナニカ?
つまり。
――私は構築式を持っている事にならないか?
「……っつ」
あ~頭
はぁ。まったく……慣れない事を考えるもんじゃないね。アルじゃあるまいし。
私は凡人。天才の代名詞みたいな錬金術師の如き脳みそは持っていないんだから。
でも、単なる思い付きで終わらせるには惜しいかな?
近いうちに使い道がないか考えてみよう。
ガチャン
下から……物音? 音の質は金属音、だけど発生源に覚えがないね。扉の音とは違う。
ライザがゆっくり入ってきたのかな? あるいはこの家に盗みに入る無謀な不届き者?
後者なら消えてもらおう。細胞一つ残らず焼き尽くし、この世に痕跡など残させない。
ライザには……謝っておくとしようか。許してもらえないだろうなあ。
最低でも平手打ちの数発は覚悟しよう。
一階は……誰もいない? 生物の気配がしない。
侵入された様子もない。でもこの耳で聞き間違えるはずがない。
たまたま何かが落ちただけかな?
確認するか……拾うだけ拾っておこう。
ガチャ
――やっぱり聞き間違いじゃないね。作業場の方か?
こちらが……わ。
は?
ドスン
鎧が――オーガヘッドが。
動いた?
さて……?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。